●ある日の激震 ラ・ル・カーナ。 拠点設営も順調に続き、治安の意地やフュリエの保護も着々と進み一見平和な状態が続いたかに見えた。 だがそれは、シンプルな破壊によって破られることとなった。 高台から見えるバイデンの群衆。荒野より来た彼らが今、統制された軍隊となってラ・ル・カーナ橋頭堡へと襲い掛かって来たのである。 もはや交渉の余地はない。 彼等に拠点を制圧されてしまえばこちらの世界にバイデン達がなだれ込む危険につながる。 彼らの猛攻をしのぎ切り、拠点を防衛せねばならないのだ。 ●倉庫前。敵部隊軽減作戦。 バイデン侵入。 その時あなたが居たのは橋頭堡東側、倉庫前であった。 ここで敵部隊を『倒せる分だけ』倉庫内に誘導することができれば、兵舎や地下牢に流れる部隊を軽減できるだろう。場合によっては倉庫に閉じ込める形で食い止めることだってできる。 重要なのは、あなたがどれだけ戦っていられるかだ。 バイデン達が門や塀を乗り越えてくるのが見える。 戦いはもう、始まっている。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月28日(土)23:22 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●war and self ~戦いこそが我が存在~ 暗い倉庫内、『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)は懐から二丁の銃を抜いた。 「What a Friend we have in Jesus, All our sins and griefs to bear――」 ゆっくりと顔の前まで挙げ、銃口を上へを向ける。 「What a previlege to carry Everything to God in Prayer――」 くちづけをするように、ゆっくりと薬莢排出口に息を吹きかけると、安全装置をとても緩慢な動きで外していく。 「O what peace we often forfeit, O what needless pain we bear――」 それまで閉じていた目を薄く開け、リリはまっすぐに倉庫の扉を見つめた。 「All because we do not carry, Everything to God in Prayer――」 入り込む光を、網膜に焼き付ける。 「amen」 彼女の後ろで、背を向けていた『神牙』司馬 鷲祐(BNE000288)が振り返る。 中指で眼鏡のブリッジを押し上げ、こきりこきりと指を握り鳴らした。 多少のノイズ音に混じって、ブルートゥース式イヤホンマイクより声が入ってくる。 『そっちの様子はどうだ』 「静かなものだ。音楽が欲しいな」 『そのうち鳴るさ。待っていろ』 通信が一時的に切れる。 鷲祐は目をつぶり、リリの囀りをじっと聞いていた。 拠点東側通路を入ってすぐの場所に頑丈な倉庫がある。 一部を煉瓦で積み上げた手作り感あふれるものだったが、巨獣の突撃に堪えられる程の強度は保っていない。ここまで侵入してくる敵がバイデンだけだったことは、不幸中の幸いと言えるのかもしれなかった。 『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)は表情を覆い隠す程に伸びた前髪を几帳面に撫でながら、どこか虚空に視線を走らせていた。 「バイデン。自己回復能力と優れた戦闘能力を持つ種族。独特の言語を話、好戦的。破壊力と持続力に長けているため、持久戦ではこちらが不利になる……と」 ぱちぱちと瞬きをして、麻衣はひっそりと背後に立つ『見習い兵』ゼクス・ユーリ(BNE003856)へと視線を移した。 「数と空間を限定して戦えば、こちらもマトモに渡り合える筈です。数は……そうですね、10~12と言った所でしょうか」 「承知した。俺はバックアップに回らせてもらう。下手に首を突っ込んでも戦況を悪くするだけだからな」 「そんなことは……」 口を開きかけた麻衣に、ユーリは緩やかに首を振った。 「問題ない。そもそも隠密行動は得意分野だ。戦力になれないのは悔しいが」 「いや、そんなことはありませんよ。『できることをやる』……大事なことです」 『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)が肩をぐるぐると回し、身体をほぐしつつ微弱飛行を始めた。 「さ、準備です。この世界で猛威を振るった彼らの力を、真っ向から叩き潰す存在がいるってことを教えてあげようじゃないですか」 外壁の崩れる音が聞こえる。 戦いは、もうすぐそこまで来ているようだ。 倉庫前には数人のリベリスタが待機していた。 敵にとっては良い的だが、そもそも注目してもらうために居るのだ。丁度いい。 「それにしても、万華鏡(チート)無しで戦うのって大変だねー」 「アウェイな感じがひしひしと伝わってきますね」 鎧の留め金を下す『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)と、ハルバートをつっかえ棒にして寄りかかる『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)。 突入してくるバイデンのデータははっきりとしていない。 殆どがこれまでの報告結果や推測から成り立つデータであって、そもそも何人のバイデンが流れ込んでくるかすら分かっていないのだ。 「ともあれ、敵の進行を許して勢いを付けさせるわけにはいきません」 「同感ですねっ、折角日射病にならずにひと夏過ごせる場所ができたのに、香夏子困ります。ふんす!」 「……」 常人とは若干価値観のずれる『第28話:あつはなつい』宮部・香夏子(BNE003035)である。 「異世界のお仕事とかちょっぴりドキワクです、カレー美味しいんでしょーか、ラ・ル・カーナ……」 うっとりする香夏子を無視して、五月と岬は戦闘態勢に移行。 外壁部分を防衛していた部隊は一部撤退を初め、彼等を乗り越えきた、もしくはすり抜けてきたバイデン達が門を破って突入してくる。 「うう……っ」 『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)は肩を震わせてその光景を見た。 正直に言うと逃げたいが。 「皆が頑張ってるのに、逃げれないです……逃げたら、変われないです」 ぎゅっと拳を握り、壱和はバイデンの軍勢を睨んだ。 ハルバートを振り上げる岬。 「さってと、思い知らせてやるとすっかー、アンタレス!」 ●dead or dead ~君よ、死に場所を求めよ~ 拠点東門を破ったバイデン部隊は目的地も定めぬまま思い思いに散開を開始。その多くは兵舎へと突入しようとしていたが……。 大地を抉りながら横切る強烈な鎌鼬に、バイデンの一部隊が足を止めた。 「しゃっちょさーん、よってかなーい?」 振り向いて見ると、ハルバートを両手で掲げた岬がにやにやしながら立っていた。 『ほう、見たことの無い技だ。俺はこいつをやる!』 『抜け駆けはするなよ、早い者勝ちだ!』 まるでバーゲンセールの如く、目を光らせて飛び掛ってくるバイデン達。 脳内で想像する。岬を手斧で叩き切る様、剣で首を跳ねる様。もしくは鎚で潰す様でも良い。 しかし、間に五月が割り込んだことで彼等の予想は大きくズレた。 「全く、どこで覚えたんですかそんな誘い文句」 顔の前で肘を立てるような恰好でガード。バイデンの撃ちこんだ腕がかえって手甲の棘に突き刺さる。 『なんて固さだ、こっちの腕がやられちまう!』 『どけ、貴様の腕じゃあそんなものだ』 我先にと岬や五月へ群がろうとするバイデン達。 五月はちらりと壱和へと視線をやった。 「壱和様、いまです」 「は、はいっ!」 壱和は胸を張ってアッパーユアハートを発動。 「そんな所で遊んでないでこっちに来なさい! まとめて相手してあげます!」 『これは……!』 バイデン達の目つきが変わった。闘争本能に火がついたのか、壱和へと一直線に駆け込んでくる。 その数、実に25人。 「わっ、わ、わぁっ!? こんなに呼んでないですよ!」 慌てて倉庫内に退却する壱和。こっそり様子を伺ていたゼクスがインカムに通信を入れてきた。 『随分連れて来たな。俺達だけで対処しきれる数じゃないぞ』 「ボクは確かに10人だけロックしたんですけど……っ」 『だとしたら、他の連中はつられてきたか、単純にそこの三人に目を付けたかのどちらかだな』 「そんなあ!」 『どの道人数が多すぎる。なんとか遮って締め出すぞ。リリ、鷲祐、亘、準備は』 『いつでも――』 「――どうぞ」 リリは倉庫の真ん中で片膝をついていた。 ガチンという軽い音と共に工事作業用マグライトが点灯し、中心の彼女を四方から映し出した。 『奴は……!?』 「貫け、Dies irae」 二丁拳銃を握り、腕を左右に交差フルオートで引金を引きつつ、薙ぎ払うようにクロスした。 倉庫内外に鉛弾が跳ね飛び、後続のバイデンを一瞬だけ怯ませる。 「閉鎖ッッ!!」 物陰に隠れていた麻衣が飛び出し、外側のチームと協力して倉庫扉を強制閉鎖。バイデンの舞台を途中で分断する形で閉じ込めることに成功した。 『しまった、ここは袋小路だ!』 焦りを見せるバイデン。 その隙をまるで見逃さず、頭上から二つの影が高速落下してきた。 「閉鎖完了。さて、今宵のクラブミュージックを奏でようか」 「自分はこういう時クラシック派なんですが、お付き合いしましょう?」 亘と鷲祐のナイフがバイデン一人の首を両サイドから切り裂き、血しぶきを噴き上げさせる。 しかし一滴の血液が付着することも無く二人はクイックターン。 空中で軽く反転すると、バイデンの投げてきた骨ナイフを弾き落とした。 『翼の戦士と獣の戦士……噂に聞いた通りだ!』 双剣のバイデンが凄まじい跳躍力で突撃。 亘と鷲祐は互いの靴底を蹴り合って左右に飛び退くが、間を高速で突っ切ったバイデンの剣閃がびしりと二人の肩や頬に走っていた。 「意外とやる……ゼクス、バイデンの人数は!」 『15だ。少し多いが、さっきよりは全然マシだ。いざという時の逃げ道は確保しておく、後は頼むぞ』 「任せて下さい、っと!」 亘がバイデンの足を掴んで固定。その上で鷲祐が全力で蹴り飛ばした。倉庫の棚を薙ぎ倒して転がるバイデン。 倒れる棚からわたわたと逃げ走り、香夏子はマジックシンボルを掲げた。 「そろそろ香夏子も働かないとです。こういう時までニートしてたら人の目が痛いですからね! 香夏子世間を知る女ですから!」 香夏子から黒いオーラが巻き上がり、倉庫内へと次々に飛び出していく。 『面白い、面白いぞ未開の戦士たちよ! もっと俺を楽しませろ!』 歓喜に震え、ぶつかってくるバイデンたち。 「15体。前衛で抑えられるキャパシティを大幅に超えている……戦闘が長引けば戦力差で圧し潰されるのは確実……」 死闘が幕を開けたのだと、その時麻衣は強く感じていた。 「生きなきゃ」 ●world end less ~果て無き世界の片隅で~ 「うーっりゃー!」 岬はハルバートの柄を長く持つと、小柄な体を捻ってフルスイングを仕掛けた。 このスイングから放たれる鎌鼬は並大抵のエリューションを血煙と変えるとされている。 だがしかし。 『うおおおおおおっ!』 巨斧を握ったバイデンのフルスイングが真正面からぶち当たり、凄まじい火花を上げた。 余った風圧が衝撃波のように両者の背中を抜け、髪を滅茶苦茶になびかせる。 「ここまではエスコートしてやったけど、こっから先はZoCだぜーっ」 反動でぐらつく岬だが、そのまま独楽回しのように反回転。垂直に構えた斧の柄によってギリギリ阻まれる。 「固っ!」 『まだだ、まだ満足できん!』 巨斧のバイデンは岬に肩から体当たりを食らわせると、ぐらんとよろめいた隙をフルに生かして巨斧を叩きつけてきた。 思わず吹き飛び、倉庫の壁に後頭部をぶつける岬。 すぐそばにいたリリが鋭い声を上げる。 「岬様!」 「ダイジョブダイジョブー!」 麻衣に回復を受けながら再び巨斧のバイデンに挑みかかる岬。 その姿を横目に――リリは宙返りをしていた。 上下反転したままバイデンの頭上をとると、二丁の銃をフルオート乱射。 バイデンの一人を脳天ごとぶち抜くことで仕留めるが、もう一人は盾と大剣が一体化したような武器(こちらの世界ではこういう武器をデュエリングシールドと言う)で受け止めていた。 リリは着地と同時に素早く後方へ転がり追撃を回避。 僅かに開いた射線を狙い、バイデンの胸に銃弾を叩き込む。 弾をくらったバイデンは勿論仰け反るのだが、それっきりで表情一つ変えもしない。 『面白い武器だ。だが衝撃が足りない。殺され足りん!』 空間ごと切り裂くかのごとくデュエリングシールドを一閃するバイデン。 リリの胸から腹にかけてがバッサリと切れ、赤い血が漏れ出した。 麻衣が回復を飛ばしてくる。 「リリさん、後退を!」 「下がる場所があればいいのですが……」 「……っ」 麻衣は口に手を当てる。 何と言っても相手にするバイデンの数が多く、陣形がぐちゃぐちゃにかき乱されているのだ。前後衛の概念はとうの昔に消えている。俯瞰すればリベリスタがバイデンの群集に飲まれているように見えるだろう。 なんとか麻衣たちに被害が及ばないように壱和がアッパーユアハートで敵を引きつけているが、それもいつまで持つか分からない。 「これでも、戦闘官僚が末席なのです……!」 バイデンの剣を木刀で弾き上げ、半歩後退する壱和。 その後頭部にハンマーが叩き込まれ、目の前に星が散る。 「ここで引いたら、番長なんて、名乗れ……な……」 必死で平衡感覚を戻そうと首を振る。背中から槍が突き刺され、腹からきっっ先が突き出た。 「うああっ……!」 目をつぶってうめき声を上げる壱和。 しかし、槍の先端を素手で握りしめ相手を固定。逆手に持った木刀を突き込んでバイデンを退ける。 「番長は、いつだって……守るために、拳を……」 頭から流れてきた血が目に入る。片目を瞑って周囲を見回した。 バイデンが四人。 胸に骨ナイフが突き刺さり、ずぶりと内部に埋まっていく。 肉や内臓を抉りださんばかりに引っ張り出され、壱和の意識は完全に途切れ……かけた。 「拳を――」 目から光が消える。 踵や爪先の感覚が無くなり、視界がぐるんと天井へ向く。 そして、視界の中心に、鷲祐の姿を捉えた。 「壱和ッ!」 急降下。 鷲祐のナイフがバイデンの肩に突き刺さり、スプリンクラーのように血を噴き上げる。 更に間に割り込んできた亘がバイデンの腕を高速切断。ついでに回し蹴りを叩き込んで押しのけた。 「しっかりして下さい壱和さん! 安全な場所は、ないですね。こうなったら……」 鷲祐と背中を合わせ、亘はナイフを逆手に構えた。所謂防御の構えである。 三方向から同時に剣と槍が突きだされる。 二人はナイフで剣二本を弾き、槍を同時に回避。互いの肘を押し当てて槍を固定すると、振り回すように転回。僅かに開いた隙から壱和を投げ飛ばすと、追いかけようとするバイデンの背中に深々とナイフを突き立ててやった。 「まあ待て。話は通じないだろうが……お前らとは相応しい形で対話をしてやる」 『…………』 背中から血を流して振り返るバイデン。 「切り刻む」 ナイフを鋭く構えなおす鷲祐。とは言うものの、これ以上相手をしていては数の暴力に負ける。 「さてどうします、白旗振ります?」 「『もっとぶって下さい』の印だったりしてな」 「ある意味一緒でしょう」 背中越しに囁き合う二人。 と、その時。 『鷲祐、亘、伏せろ!』 「「……!?」」 ゼクスからの通信で二人は地面にぺったりつく形で身を伏せた。 その頭上をリリのスターライトシュートと香夏子のバッドムーンフォークロアが飛び交って行く。 忽ち薙ぎ払われるバイデン達。 「……おお」 「無事ですか! リリさんと壱和さんは香夏子が護ります、ご近所さんですからね!」 「そこは『後衛だから』とかそういうことをですね」 「っておい、後ろだ後ろ!」 香夏子の背後で斧を振りかぶるバイデン。 今にも細首を叩き斬りそうな勢いであったが、香夏子はかくんと腰を折って回避。 「うおっ!」 頭を上げて反転。更に連続で繰り出される手斧を、バックステップと仰け反りを駆使して紙一重でかわしていった。 「ゼクスさん、もう一回チャージお願いします!」 『任せろ』 香夏子はエネルギーを充填。バイデンの顔の前に手を翳すと、バッドムーンフォークロアを思い切りぶっ放した。 目の前のバイデンはもとより、他の仲間と戦っていたバイデン達も次々と体勢を崩し始め、討ち取られていく。 中でも最もこのチャンスを活かしたのは五月だった。 「タイミングが……丁度良かったみたいですね」 両サイドからバイデン棍棒を叩き込まれていた五月は、とげとげしい装甲をぎしぎしと鳴らしつつ、両腕に焔を纏わせた。 軽く膝を曲げ、腰を捻り、まるで自らを独楽のように高速回転させ両サイドのバイデンを殴り倒したのである。 棘と炎をモロに喰らい、その場に転がって動かなくなるバイデン。 五月は踵でブレーキをかけつつ、がくりと膝をついた。 ゼクスが通信を入れてくる。 『随分酷くやられたな――』 「――後は仲間に任せた方が良い」 高い棚からストンと降りてくるゼクス。 厳密な話をすれば気配遮断で隠れていられるレベルの行動ではなかったが、派手に立ちまわっていた五月達のお陰で注目されなかったようだ。 「まずは怪我人の治療だ。急ごう」 こうして、倉庫内でのバイデン迎撃作戦は一人の死者も出すことなく終了した。 ここ以外の拠点防衛がどう転がって行くかは、この時点の彼等にはまだ分からぬことであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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