● 異世界ラ・ル・カーナをリベリスタ達が訪れて早数週間が経過していた。 その間にも橋頭堡の設営は進み、ラ・ル・カーナで起きる様々な事件は解決されていった。 異世界での日々がそろそろ『日常』に変わろうかと言う頃、それは唐突に訪れる。 それはバイデンの「軍団」。 今までに姿を見せたバイデンの「集団」とは訳が違う。明らかに統率のとれた動きをしていた。 バイデンの「軍団」は橋頭堡を睥睨すると、陣地を構える。 そう、これは明らかに戦の構えだ。 「憤怒と渇きの荒野」の彼方より、「完全世界の忌み子」バイデンが戦を挑みにやって来たのだ。 リベリスタ達よ、今こそ武器を手に戦う時だ。 ● ズシィン バイデンの戦士ゲルンは、3つの月が照らす中、6人の仲間達と共に砦の中へと降り立った。 プリンス・バイデンの攻撃が開始されてから数刻。アークは砦への侵入を許してしまった。 バイデンとて決して意思疎通を図ることが不可能な種族ではない。しかし、彼らの気質を考えると、戦いを避けるのは極めて困難だ。ましてや、ここで戦いを止める連中ではないだろう。 そして、巨獣ルフォグルスによる降下作戦を実施したのが、彼ら7人のバイデンだ。 彼らの作戦は空を飛ぶ巨獣の力で異世界人の砦に入り、内側から切り崩すことだ。 『ルフォグルスも便利なもんだな。お陰でこうして異世界人共の集落に入ることが出来た』 そして、周囲を見渡して、異世界人の姿を探す。 聞いた話じゃ、バイデンをちぎって投げ、巨獣達をものともしない。 巨獣の体を持ち、骨よりも硬い装甲を纏う戦士達。 敵の生き血を啜り、自在に空を翔ける、凄まじい相手と言うことだ。 相手にとって不足は無い。 『……で、異世界人は何処にいるんだぁ? って言うか、ここは何処だ?』 ゲルンは骨の髄まで典型的なバイデン気質。あまりにも戦いの興奮が高じたため、つい予定よりも早いタイミングで飛び降りてしまった。兄貴分のイェーグからもしょっちゅう窘められる悪い癖だが、治った試しはない。 周囲に広がるのは掘り起こされたような跡がある広場だ。森と違い規則正しく小さな植物が生えている。 ここはアークのリベリスタ達が作った畑。実験的に作られたものであるが、ようやくちらほらと芽が出てきたところだ。 しかし、狩猟民族でありそもそも肉食のバイデンにしてみれば、ここがどんな意味を持つのかなど理解出来ようはずもない。 しばらく悩んでいたゲルンだったが、何かを思いついたように自分の膝を叩くと、やおら大きな声を上げる。 『おぅい、異世界人! 俺はここだァッ! ファイトしようぜぇッ!』 そう叫ぶとゲルンはどっかりと生えたばかりの草の上に腰を下ろす。 獲物が何処にいるのか分からないなら、呼びつけてやればいい。 要するに、戦うことが出来ればそれで良いのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月28日(土)23:20 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
● 周囲からは派手に鬨の声が上がり、戦いの音が聞こえてくる。 『派手に始まってやがるなぁ。プリンスもグレート・バイデンでやってくるって話だしよぉ。それにしても異世界人は来ねぇな……ハ、まさか!?』 いくらなんでも現れるのが遅い。そこでゲルンは1つの可能性に思い至る。 『異世界人共め、イェーグの兄貴やイザークの所に行っちまったんだ! このままだと取り残されちまう!』 当然、リベリスタ達がゲルンを無視している可能性もあるのだが、そうは考えないのがバイデン流。 生き物は全て戦いを求めており、機会があるなら戦うものだと信じて疑っていないのだ。 そうして、慌てて他の場所へ向かおうとした時だ。 『なんだ……来るのが遅かっただけかよ。びっくりさせやがって』 目を細めて舌なめずりするゲルン。 異世界の戦士からは十二分に闘気を感じる。こうした闘気を察知することに関しては、ゲルンは鋭い勘を持っている。そうでも無ければ、先鋒に選ばれることなどあるまい。 先ほどまでのん気そうにしていたバイデンはいない。戦うべき相手を見定めた戦士だけがここにいる。 『おらぁ! かかってこいやぁ、異世界人!!』 ● 「と、言っていますね。もっとも、見れば分かると思いますが」 アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)は砦の中に現れたバイデンの言葉を仲間達に伝える。この中で『タワー・オブ・バベル』の力を持つのは彼しかいない。戦況に有利になる情報でも話していればと会話を聞いてみたが、分かったのはこのバイデンの名前と、彼が極めて好戦的だということだけだ。 どのみち事前準備の時間は得られたものの、不意打ちまでは不可能だった。ならば、多少様子を伺った方が得策だろうと判断する。 (バイデンは或る意味みんな気持ちの良い連中ね) そして、『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)は、そんなゲルンから発せられる激しく真っ直ぐな闘気を正面から受け止めていた。 (闘いこそ人生の全て、素敵じゃない? 其処まで純粋なら其れは其れで尊いと思うわ) ボトムチャンネルの人間の価値観とは、別の方向に真っ直ぐなバイデンの価値観。 しかし、沙希は心のどこかが捻じ曲がってしまっているが故に、素直に受け入れることが出来た。 「どうやら、此度の相手は、戦うのが好きなようじゃのぅ」 畑を占領するバイデン達を前に、大人であり子供、子供であり大人である永遠の少年『嘘つきピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)はふっと感傷に浸る。 (以前の鬼の襲来の時も同じ様な者達と戦ったのじゃが、どうやらそういう者と縁があるようじゃのぅ?) 思い出すのはほんの数か月前、鬼ノ城で出会った赤髪の鬼。 あの鬼もまた、戦いの中に愉悦を見出していた。 「そちらその気なら。わしらも応えねばのぅ」 「うむ、短時間で橋頭堡内部へ侵入する手際、流石と言わざるをえんか。防衛戦こそ望む所だ」 柔らかく微笑むと、咲夜は戦いの構えを取る。ああいう手合いと語り合うには、これが一番良いと知っている。 それに合わせて『ナイトオブファンタズマ』蓬莱・惟(BNE003468)も黒銀の剣を盾から引き抜く。言葉が分からなくても良い。相手が何者であろうと、この場を守り抜くことが騎士としての自分の使命なのだから。 「皆で頑張って耕したこの地、少しでも守らねば! 実りの兆し、踏み躙らせて堪るものですか!」 万全の準備を整え、『蛇巫の血統』三輪・大和(BNE002273)は畑の中に立つバイデン達に向かって凛然と『止水』の刃を向ける。普段は縁側でお茶と甘いものを楽しむような柔和な少女である彼女も、戦場であれば、ましてやアークの仲間達が築いた畑を護るということ出れば話は別だ。 「畑を荒らす荒くれ者たち……これは許せないよね!」 『息抜きの合間に人生を』文珠四郎・寿々貴(BNE003936)はいつも通りの緩いテンションで、怒っているのか怒っていないのかよく分からない雰囲気ではある。だがしかし、一瞬見せたバイデン相手にバッグブリーガーでも仕掛けそうな様子は、彼女の怒りを如実に示している。 みんなが頑張って作った畑を無茶苦茶にしようと言う輩がいるのを見ると、いつぞや漫画で見たシーンが頭に浮かぶのだ。たしかにこれは怒って然るべき。 「でも、すずきさんは殴り合いは苦手。なので、応援を頑張るよ!」 しかし、そんな怒りもなんのその。 果てしなく清々しい開き直りであった。 そして、そんな彼女の怒りを受け継いで、代弁するものがあった。 『老いて尚盛ん』更科・権太(BNE003201)である。 「農場に降り立つとは不遜な輩め、農耕の大変さを知らぬ奴らに思い知らせてやるわい!」 「今までの遭遇報告を聞く限り、農作物を栽培する農場は、狩猟民族であるバイデンにとっては価値がわからないものでしょうね」 小さな体躯に怒気を漲らせ、権太は叫ぶ。怒髪天を衝くと言わんばかりの勢いだ。アルフォンソの冷静な言葉も彼の怒りを鎮めるには足りなかった。 「なに、狩猟民族だから理解出来ない? 知った事か、大地の恵みは等しく大事にせんかぁ!! 第一、狩る獣が何で育つと思っている! 須らく草木を食べぬと思ったら大間違いと知れ!」 ここまで一息に叫んで息を切らす権太。 バイデン達は何を言っているか理解出来ないまでも目を丸くして驚き、リベリスタ達は権太の背中をさする。 「……ふぅ、色々吹き出してしまったな。つまり……」 「バイデン、許せませんわ!!」 『Knight of Dawn』ブリジット・プレオベール(BNE003434)の叫び声に、今度は権太が驚く番だった。 「砦での防衛戦という、ようやくわたくしの本領を発揮出来るシチュエーションと思ったら……畑!? 貴方達が戦士なら、戦う場所をもっと……こう……それらしい所にできませんでしたの!?」 そもそも相手にとっても本来の予定とは違う場所への降下だったのだ。お互いにとって不幸な結果だったとしか言いようがない。しかし、結局のところ、どんな場所であれ戦いを挑もうとする者がいれば戦いは避けようがない。そして、呆気に取られていたゲルンも、そろそろ闘争本能が再点火される所だった。 『いい加減くっちゃべるのは終わりだ! ファイトしようぜぇ、異世界人!』 「と、言うことだそうです。皆さん、準備はよろしいですね?」 アルフォンソの言葉にリベリスタ達は頷く。 言葉に合わせて『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が神秘の閃光弾を投げつける。 その光が戦いの合図となった ● 「わたくしはブリジット・プレオベール、暁の騎士ですわ! ……一度やってみたかったんですわよね、これ」 「我が名は蓬莱惟。貴様の相手はこれがする。付き合ってもらおうか」 光が戦場を覆い尽くす間にリベリスタ達は散開すると、それぞれにバイデン達の抑えに入る。 この場に集まったリベリスタと比べると、バイデン達の数は少ない。しかし、数が少ないにも関わらず、砦への侵入などという危険極まりない任務を任されたということは、当然それに応じた腕前を持っているということだ。 リベリスタ達は、事前にエンチャントなどの準備を行えたうえであっても、バイデン達の実力を認めざるを得なかった。それでも、ここはアークの砦。後ろにあるのは自分達の世界なのだ。絶対に引き下がるわけにはいかない。 (さすがにやるもの。でも大人しく蹂躙される訳にはいかない。さあ、命をチップに血沸き肉踊るゲームを始めましょ) 目を細めると、沙希は仲間達の元へと癒しの風を送り込む。強敵が相手だというのに、彼女の口元が笑っているように見えるのは気のせいであろうか。 そして、仲間の支援を受け、リベリスタ達は反撃に入る。 「癒えぬ傷痕、その身にしかと刻みなさい!」 大和が刀を振り抜くと、それに追随するように黒いオーラがバイデンを襲う。 『そうこなくっちゃな……バカな、怪我が治らない!?』 多くのバイデンが見せる底無しの耐久度は大和には通用しなかった。破滅のオーラが身を蝕み、バイデンの再生を阻害する。 バイデンが慣れない感覚に戸惑う隙を、アルフォンソは見逃さない。 「この状況、私たちにとっては死活問題に直結。早々に撃退するしかありません」 呼び込んだ真空の刃が大和の目の前にいたバイデンを切り裂く。 血飛沫を上げて、倒れるバイデン。 その姿を見てバイデン達の様子が変わる。 恐れているのではない。猛っているのだ。 自分達が信じる強さとは異なる強さ。それを異世界人が持つことを確信したのだ。より一層の激しさを増して攻撃を開始してくる。 そんな彼らに対して、咲夜はニコッと微笑むと手元に式神の鴉を召喚する。 「やれやれ、女子は大切にするものと、教わらなかったのかのぅ? 行くのじゃ鴉達、思いっきり遊んであげるのじゃ」 老人が諭すように、優しく語りかける咲夜。 彼の姿だけを切り取ると、子供が戯れているだけのように見える。 だが、ここは紛れも無く戦場。 傷つきつつあるバイデン達は、次第にもう1つの刃を見せ始めるのだった。 『ハッハッハ、さすがに一筋縄ではいかねぇな、異世界人!』 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)と切り結んでいたゲルンが快哉の声を上げる。その全身は彼女の脇差に貫かれ、血まみれだ。しかし、バイデンは流れ出る己の血にすら酔う。その頂点まで高まった戦闘本能から放たれる一撃は強力無比なものである。だからこそ、リベリスタも出し惜しみなしで迎え撃つ。 「一意専心、出し惜しみなど!」 「うっわ、痛い痛いきついつらい」 寿々貴は見ているだけで、自分の身体が痛むような錯覚に襲われ、身を震わせる。だが、今はそのようなことをしている場合ではない。 「あ、そうだ。ちゃんと応援しないと。えっと、野菜泥棒を逃がすな? んー、なんか違うな」 首を傾げながらも、癒しの微風を呼び込み、傷ついた仲間を回復させる。たしかに、バイデン達は食料を盗みに来たわけではないのだから、野菜泥棒ではないだろう。もっと、性質の悪いものではあるが。 そして、リベリスタとバイデンの血が舞い散る中、次第に戦いは沈静化していく。 各個撃破を狙う作戦が功を奏し、次第にバイデン達の数が減じていったのだ。本来なら、リベリスタもまた、数を減じていくはずであった。しかし、現実はそうならなかった。 「通しませんわよ! 貴方の相手はわたくしですわ!」 必死にバイデンに食い下がるブリジット。 既に体力の限界を迎えている。 綺麗な金髪も土に塗れてしまった。 場所も誉れある戦場などではなく、砦の中の畑。 普段の彼女ならとっくに逃げ出している所だ。 だが、ここがボトムチャンネルを護る最後のラインであることが、彼女の中に眠る捨て切れない騎士道を支える。どれほどの恐怖が心を充たそうと、どれほど相手が強大だろうと、譲れないものはある。 そして、そんな心に運命の加護は力を与える。 これこそ、バイデンにあってリベリスタにあるもの。 これこそが、リベリスタを支える糸となって、彼らを立ち上がらせるのだった。 「よう耐えたの、ブリジットの嬢ちゃん。さぁ、生まれしは鉄の魔弾、眼前の敵を打ち砕けい!」 権太が朗々と歌い上げるように詠唱を完成させると、魔法陣より現れた弾丸がバイデンを貫き、また1人倒れていく。 『マ……マジかよ……』 ゲルンはいつの間にか自分が1人きりになっていたことに気が付く。 砦の外に目を見やると、何故か増援を乗せてくるはずの巨獣ルフォグルスも遠くへと去っている。増援を頼みにしていた訳ではないが、呪詛により力が奪われていることも考えると、自分の敗北が明らかなのは間違いない。 ならば、バイデンにふさわしい死あるのみだと決めて、斧を構え直す。 その時だった。 『『投降しなさい』』 考えもしなかった言葉がゲルンの耳に飛び込んでくる。 言葉を発しているのは銀髪の優男――アルフォンソ――だ。 『へっ、ここでケツ捲ったとあっちゃ、イェーグの兄貴に笑われらぁ。例え1人でも……!』 叫ぶゲルンにアルフォンソは続ける。 『『貴方の誇りは私、汐崎沙希が受け止めた』』 言葉を話させているのは沙希だ。彼女はバイデンという種を認めたから話しかけ、アルフォンソもそれが有意であると判断したから通訳している。 『『怒りに身を炙りながら雪辱の機会を待ちなさいな。屈辱の後の復讐という美酒の味わいを貴方は知るべきよ』』 考えたことも無い概念にゲルンは、本日3度目の驚きを受ける。 異世界人は自分達の誇りを理解した上で投降を呼びかける。 しかも、その結果として自分達が死ぬことすらも恐れていない。 『勝てねぇな……』 ゲルンは自分達の敗北の理由を悟った。異世界人達は、自分達とはまた別の誇りを抱いて戦っているのだ。そして、その誇りを解さずに、巨獣と戦うような気分で来たから、自分達は敗れようとしている。 『だが、負けちゃいねぇ……!』 ゲルンの目に炎が灯る。 バイデンに敗北は無い。 何よりも、これ程の強敵と真の意味で戦える機会。それを逃したら、最後に残った自身の誇りすら獣に喰わせるようなものだ。 そんなゲルンの前に惟が立ち塞がり、挑発の構えを取る。 惟の剣が3つの月を写しだしたかと思うと、禍々しい黒光を帯びる。 『受けてみやがれ! 俺が放つ、最高の一撃をよぉぉぉぉぉぉぉ!』 大上段から一気に振り下ろされた一撃。 それはまさに破壊そのものといった風情だった。しかし、惟はそれを受け切る。 「これの力は逆境における底力であり、仲間が引き出した力であり、先に仲間が与えた傷に刻む呪いだ。ならば……」 そのまま斧を伝うような滑らかな動きで、死と再生の祈りを秘めた刃がゲルンを襲う。 「負ける道理は無い……」 ● ゲルンの身体は手近なワイヤーで縛り上げられていた。 旺盛な生命力故にかろうじて一命を取り留めたといった所だ。 その姿を見てようやくリベリスタ達は息をつく。どうにかこの場を収めることは出来た。畑は荒らされてしまったが、また耕せばよい。この場を守りきることは出来たのだから。 リベリスタ達は、この長い夜が終わろうとしているのを感じていた。 だが、まだ終わっていない。 仲間全員の無事が確認されるまで、橋頭堡を守りきるまではこの戦いは終わらないのだから。 傷の手当てを終えると、リベリスタ達は再び駆け出していく。 この戦いの終わりを目にするために。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|