●エピ・プロローグ ある結果の話をする。 かつてリベリスタがある所から回収してきた『多面水晶の破片』を分析、調査した結果、人間の精神に直接陶酔感を与え一種の麻薬効果を生み出すことが判明した。これを長期間重ねることで人間を浸食的にエリューション化することも可能ではないかとの憶測も建てられている。 また、一部の植物に成分を吸わせて育てれば高純度の麻薬物質が生み出せることも判明。 これが、かつてリベリスタが偶然にも回収した高純度合成麻薬『天元』の成分と、ほぼ一致した。 それにより、ある作戦が実行可能となったのである。 ●天元散布組織壊滅作戦 この作戦は、あるフィクサードの末端施設を襲撃、壊滅させると言うものである。 目的はあくまで壊滅であり、関わっているフィクサードもできるだけ討伐できれば良いが、徹底的に全殺しなければならないという程の事でもない。 更に言えば、組織は末端も末端であり、神秘調査をもってしても今以上の情報は得られそうになく、やはり壊滅そのものが目的である。 ここまで念を押したことで不思議に思うかもしれない。が、理由はあるのだ。 「この施設が近いうちに襲撃されるだろうことを読み、彼等はフィクサードを数多く配置しているからです。無論、警戒中の敵本拠地でのアウェイ戦になるため、撤退や奇襲といったフレキシブルな作戦はとりづらいでしょう。皆さんがどれだけ戦い抜けるかが、ネックになると思われます」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は以上を説明した上で、予測される見取り図をテーブルに広げた。 見取り図と言っても、表と裏、そして屋上からの侵入口(計3つ)が書かれているだけで、内部構造は殆ど分かっていない。侵入に備えて複雑なバリケードが貼られている可能性や、建物構造そのものが複雑化している可能性もある。細い通路でのゲリラ戦や気配を消した敵から奇襲をかけられる危険もあるだろう。 完全なアウェイなのだ。そのくらいの警戒は最低限せねばならないラインだった。 ……では、『何故ここまでしてこの組織を壊滅させねばならないのか』について、少しだけ述べよう。 現在、ある地区では恐山の下部組織縞島組が高純度の麻薬を浸透させており、それもなんと生活水へ徐々に混ぜるという非道な手によるものだった。 これを物理的に排除したとしても、特定不可能な中毒者を禁断症状化させることになり、手出しすることすらできなかった。 だが現在、仲間の活躍により、同様の成分を知らずの内に摂取させ、徐々に抜いていくことで正常な状態に戻すと言う手が打てるようになったのだ。 今こそ鉄槌を打つ時である。 飲料水製造所に偽装したフィクサード小組織を壊滅させ、人質とされた街を救うのだ。 ●フィクサード、蘭下鞭膳。 その飲料水製造所に名前は無い。 スーパーなどで無料配布される清涼飲料水の提供を格安で請け負い、いくつかの地域に流している。そのうちの殆どは正常な飲料水だが、ある地区にだけは麻薬成分を微量に含んだ水を提供していた。無論、政治的法的な穴は抜けており、贈賄や恐喝によって彼らはこの法規社会において存在を許されていたのである。 だが。 「神秘で武装した連中が押し寄せてきたら、そりゃあぶっ壊されるしかねえやな」 男が、顎肘をついて呟いた。 腰にメタリックなベルトを巻き、だと言うのに羽織袴の男である。 目の前には巨大な製造機械。これと、職員である数名のフィクサードを破壊・殺害されればアウトだ。勿論、顔も名前も知らない『上の人』はそうならないように手を打っているようだが……。 「どうにもな、血の臭いがしてきやがる。その手ってヤツ、もう抜かれてんじゃあねえのかい?」 「さてね。私に言われても困る。生活するので精一杯なんだ。世だの善悪だのと言ってる余裕はないよ」 眼鏡をかけた職員(彼もフィクサードである)が、機械を操作しながらぼやいた。 羽織袴の男は、おかしそうに笑った。 「まあいいさ。俺と部下連中を雇ったアンタ等には、しっかり義理立てしてやるからよ。だから今度上の人に会わせてくれよ、給料上げろって言いたいんだよ」 「無理だよ。僕だって会ったこと無いんだ」 「ケッ……まあいいか」 煙草を咥え、100円ライターで火をつける。 彼の名を、蘭下鞭膳という。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月01日(水)22:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『ひとつの施設を潰す』ということ ほんの少しだけ前提を語る。 日本某所に存在するこの施設は、表向きにはアルカリイオン水を日本各所に下す飲料水製造所とされているが、その実はある特定の地域にだけ神秘合成麻薬『天元』を微量に混入させた水を仕込むための施設であった。言ってみればこの施設から送られている大量の飲料水は九割程がダミーの正常品であり、施設内で働く一般職員の多くもその事実を知らない。 故に、だろうか。 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)たちが正面玄関(一応来客対応も兼ねているらしい)から入った時最初にかけられた声が『どちら様ですか?』であった。 一見して一般人である。少し怪訝そうにはしているが、襲い掛かってくる様子は無い。 顎を摩る『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)。 「なんや、ここは一般人まで働いとるんかい。まあ急な話やったししゃーないわな。あーお嬢さん止めても無駄やで、勝手に上がらせてもらう――」 「ストップ」 トンと綺沙羅が椿の背中を押した。つんのめって転びそうになる椿……だがその途端、彼女の後頭部スレスレの所を神秘弾が掠め、壁に弾痕を刻んだ。 「なっ!?」 「あなたここのフィクサード? だまし討ちしてやろうって気持ちが丸見えよ」 綺沙羅は片手でキーボードを翳すとエンターキーを強く叩き押した。 式神・鴉召喚。職員の胸を一羽の鴉が貫いて内容物を壁にまき散らした。 「なんや、びっくりしたわ」 「でしょうね。ステルスしたフィクサードだったみたい。感情探査してなかったらちょっと分からなかったわよ」 「うげ、こっから先そんなんばっかりいるんか」 苦々しい顔をする『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)。 「妾もさっきから集音装置で音集めとるがの、デカい機械の音がゴウンゴウンうるさくてかなわんわ」 「敵の足音とか無いんかい」 「足音がちょいちょい混じっとるくらいじゃ。まあ敵か味方かも分からんのぅ……」 耳を摩るメアリ。 綺沙羅はそんな彼女達をよそに正面受付に置かれたノートPCに電子の妖精でアクセスを始めていた。 「面倒ね、ここのシステムは殆どスタンドアローンみたい。今時ネットにも繋がないなんて。監視カメラがは工場フロアに二つくらいあるけど……ちょっと良く見えないわね」 セキュリティ意識の低い工場なのか。それとも最初から『一般の犯罪』ごときを気にしていないのか。綺沙羅が狙っていた監視カメラや見取り図などの情報は掴めなかった。その代り……。 「イントラネットから『特殊な水』の配布先リストが見つかったわ。今後効率的に浄化活動を図るのに使えそうね」 「ほいほい、何でもいいわい。ここの連中を片っ端から殺害してやったらええんじゃ」 メアリはケラケラと笑い、奥の通路へと向かった。 施設内を暫く進む。 まだ敵には遭遇していない。 しかしそれにしても、異常にぐねぐねと曲がり角の多い施設である。似たような扉が等間隔に並び、うっかりすると同じところをぐるぐる回っているような錯覚に陥る。それでも迷わずに進んでいけたのは、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)達の超直観が働いていたからだと言っていい。 「壁の細かい傷や通路幅の微妙な違いを目印にしておいた。これで帰る時も同じルートを通れると思う」 「頼もしい話だ……と、待て」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は曲がり角で手鏡を覗かせ更にイーグルアイで拡大すると、慎重に壁へ背を付けた。 「敵影4。武装は全て銃。物腰からして弱そうだが……正確に探る手段はない。どうする?」 ちらりと後方へ視線をやると、『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は小さく頷き返した。 「ここまで敵に会わなかったのが不気味なくらいよ。回復手段も豊富にあるし、強行突破して大丈夫」 「分かった。その先には鉄扉があるようだが、鍵がかかっている可能性があるが」 「大丈夫です」 静かに剣を構える『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)。 「いざとなれば私が強行破壊をかけます。少々お時間を頂くと思いますが……」 「ええ、その時間は稼ぎましょう」 『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)がライオットシールドを翳して見せる。 彼等は頷き合い、同時に飛び出しの態勢に入る。 「カウント3で出るぞ。1、2――3!」 ウラジミールは角から飛び出すとわざとナイフを打ち鳴らして敵の注意をひきつけた。 咄嗟に反応した男がハンドガンを警告なしで発砲してくる。 ブレードで弾くウラジミール。 「『未確認の人影を発見し次第射殺』か、アークが突入してくることは既に読まれていたとみて間違いない」 「知るかぁ! 全員捻じり殺してしまいにしたるわ!」 メアリや椿が神気閃光や氷雨をばらまき始める中、守と佳恋が素早くフィクサード達へと突撃。体当たりで軽く押し退けつつ扉へとりつくと、佳恋は早速ハイメガクラッシュで扉の破壊を始めた。タチの悪いことに耐衝撃合金製扉である。 「時間は」 「12秒下さい!」 守は機敏にピボットターン。佳恋の背中を狙った銃弾をシールドで防ぐ。 「邪魔よ!」 フィクサードたちを強力な神気閃光で薙ぎ払い、アンナが駆け寄ってくる。 それと同時に扉を破壊。無理やり押し開いて潜り抜ける……が、その先に待っていたのは新たな曲がり角とムンムンの殺気だった。 「この先を曲がったら撃たれますよと教えてるようなものだ。というか……この先フィクサードと扉破壊のサンドイッチが続くぞ。嫌なことをするな……」 倒れたフィクサードからサイレントメモリーで情報を読み取った雷音が眉間に皺を寄せる。 彼等は決死の覚悟で曲がり角へとダッシュ。地獄の障害物争が始まろうとしていた。 ●蘭下鞭膳 何枚目の扉を破壊しただろうか。途中から急造したと思しき填め込み式の鉄格子扉まで設置されていて、工場エリアへの突入はそれはそれは大変なものだった。 体力に自信のある佳恋と言えど、ここまで続けていてはエネルギー切れを起こす。途中から通常打撃に切り替えはしたが、その分味方の負ったダメージも大きかった。 襲ってくる敵は意外なことに施設職員が多く、皆死に物狂いで襲ってくるのだ。格下の雑魚だったし一回一回の数は少ないのだが、集中を重ねに重ねて弾幕を張られては辛い。 結果的にアンナやメアリの回復を頻繁に使うことになり、メアリはエネルギーの消耗に悩まされた。上手にやりくりしていたアンナは平気な顔だったが、この先で所謂『ボス戦』が待っていると考えると不安だ。 もっと不安なのは。 「こんな調子で、ちゃんど『脱出』までできるか……ってことね」 アンナ達は額に汗を浮かべつつ、本日最後になる一際大きな鉄扉をけ破ったのだった。 これまでのストレスが溜っていたからか、扉は盛大に吹っ飛ばされ、巨大な機械に激突して止まった。 「おいおい何やってんだよ、この機械いくらすると思ってんだ? 知らねぇけど絶対高いぜ? あー、五千円くらいかな?」 襟の所からだらしなく腕を出し、顎の無精髭を撫でる男。 「蘭下鞭膳……それに……」 雷音は首をめぐらせ、表情を曇らせた。 工場エリアに居るフィクサードの数、なんと18人。 そのうち蘭下鞭膳は格上とは言わないまでも、アンナやウラジミールたちと同等くらいの戦闘力がある様子だった。 「しっかし全員正面から来たのか。裏口に配置した俺の部下が暇してたじゃねえかよ馬鹿野郎。陽動対策しながら一部だけ呼び戻すのにどんだけ手間食ったと思ってんだ」 「例の職員たちはそのための足止め要員ってわけね。どんな恐喝されたのか知らないけど、必死だったわよ」 顎を上げる綺沙羅。 「そいつらは?」 「残らず殺害じゃ。そしてお前らも……今すぐ全員ぶち殺す!」 神気閃光を乱射し始めるメアリ。残りのエネルギーが大変なことになって来たが、どうせ走って逃げるだけじゃと景気よくぶっ放す。 「依頼に失敗したら小学生以下の評価がアークじゃ、ぶっこわせえ!」 「いいじゃねえかコッチは失敗イコール死なんだよガキがぁ!」 刀や槍を構えた男達が一斉に飛び掛ってくる。 メアリの前に滑り出て、雷音が陰陽・氷雨を召喚。 「善悪がどうのとは言わない。けれどあなた方が行っていることはボクにとって看過できないことだ。だから邪魔をしにきた」 「お互い様ってわけかい。そりゃ遠慮が無くていいぜ、やっちまえ野郎共!」 周囲を取り囲みにかかる男達。当然ながら正面玄関への通路も塞いでいた。 「いくらなんでも多すぎますね……」 「我々の任務は機械の破壊です。それまでの時間を持たせればいい」 敵の一人をハイメガクラッシュで吹き飛ばす佳恋。四方から槍を突き出されるが、守が機敏な動きで盾を振り回して槍を弾く。防ぎきれなかった分は自分の身で受けた。 「破壊は雷音とメアリに任せるわよ。こっちはこっちで……!」 綺沙羅は閃光手榴弾を両手一杯に握ると、口でピンを一斉に引き抜いて投擲。 倒すよりも足止めに専念する戦い方をし始めた。 「あっちはなんとか持ちそうだな」 「ああ。俺が行かなきゃあ、な」 ウラジミールと鞭膳は1m程の距離で睨み合い、じりじりと互いの間合いを取り合っていた。 厳密な話をすると、相手は全員前衛の構えで来ているのでウラジミールがブロックした所で無視できる。ここは強制的にでも押し留めなくてはならない。 「そうつれなくするな、しばらく相手を願う」 「嫌だと言ったらどうするよ」 鞭膳の頬を奔るナイフ。吹き出る鮮血。 「無理矢理つき合ってもらうまでだ」 「しつこいぜ」 鞭膳はニヤリと笑うと腰からメタリックなベルトを引き抜いた。よく見ればそれは強靭な鞭であることが分かる。 「暫く寝てろ!」 鞭膳はウラジミールをデッドリー・ギャロップで締め上げると、その場に蹴り転がした。 いざ動こうとした彼の背後で、シュボッと煙草に火をつける椿。 「こちとら足止めが仕事や。もう少し大人しくしてもらうで」 背中にカースブリットが叩き込まれたと思った時には既に、足元から呪印封縛が展開。鞭膳をきつく縛り上げた。 「うおっ!?」 ごろんと寝転がる鞭膳。 拘束を解いたウラジミールが起き上がってナイフを構える。 そこへ、アンナが声をかけて来た。 「ねえ、貴方。ひょっとして『浪人行』狙い?」 「あん……あの技のこと知ってんのかいお嬢ちゃん」 眉を上げる鞭膳。 アンナは慎重に近づきつつ話を続けた。 「身をもってね。それならもうちょっといい話があるわ。縞島二浪が直接動いて狙ってた土地とか」 「ほう、詳しく聞こうか」 「貴方たち剣林でしょ? カチコミで話が進むならその方が面白いんじゃない?」 「あーはいはい……俺らが例の初音邸にカチコミかける間アークは邪魔しないでくれる。俺らは二浪を直接誘き出して相手できる、と」 「そうとっても構わないわ。実際邪魔する理由は無いしね。そういうワケで……もしよければ、停戦しない?」 「おう、するする」 カラカラと笑う鞭膳。少しは粘るかと思っただけにアンナも少し拍子抜けした。 「ここに残ってんのは俺らの部下ばっかりだからよ、奴等軽く痛めつけて『突破されちゃいましたテヘペロ』つってトンズラするわ」 「テヘペロて……」 「ちょっと呼びかけるから拘束解いてくれ。この格好で行っても部下ども信じねえよ」 ウラジミールと椿は顔を見合わせ、アンナとアイコンタクトを交わした。 鞭膳の拘束を解いてやる椿。彼はよっこらしょと言いながら立ち上がり、尻の埃を払い、首をこきこき鳴らし、肩をぐるりと回し、腰の鞭に手をかけて、凄まじい瞬発力で跳躍した。 「なんつって嘘だよ!」 距離をとってからのピンポイント・スペシャリティ。 アンナとウラジミール、そして椿は空間ごと引き裂くかのような鞭捌きで全身を切り裂かれた。 「まずい、致命傷……!」 「おらお前らァ! そこの可愛いオデコちゃんから先に潰せ! こいつぁ『エンジェル』だぞ、残しといたら永久に回復しやがる!」 「交渉決裂やな、くそ! そっちはどやメアリ!」 「ヒャッハッハぶっ壊してやったわ! 撤退じゃー!」 時を同じくしてメアリたちが全力ダッシュで正面通路へと向かう。 路を塞ぐ者達が居たが、神気閃光と氷雨の連携で軽く黙らせて押し通ることにした。と言ってもこれが最後の一発だったのだが。 「後はダッシュで逃げるまでじゃ。ほれ急げ!」 「防御はこちらでなんとかします、皆さん早く……!」 守がシールドで追いすがる敵を押しのけ、綺沙羅たちを通路へと走らせた。 佳恋も軽く敵を殴ったりもしたが、このまま続けて居ては永久に『走りながら殴る』を続けなければならない。走ることに全力をかけることにした。 紙を握って横並びになる綺沙羅。 「さっき工場エリアの脇で見取り図を見つけたわ!」 「正面以外の出口は」 「屋上からなら比較的安全に出れるけど、生憎翼の加護は用意してないわね。腹をくくって正面から出るしかないわ」 「そんなら簡単じゃ。邪魔するヤツ全員殺害してやったらいいんじゃ」 「それで済んだら困りませんよ。皆の消耗が激し過ぎます。この分だと撤退させないために正面側にも兵を回りこませてるでしょうし……」 などと言っていると、案の定通路を塞ぐ形でフィクサード達が槍を突き出してきた。 通路の角を曲がった途端での不意打ちである。槍はメアリの腹を貫通。後続の男によって後ろ手を拘束され壁に押し付けられる。 「メアリさん!」 「しくじった、先に行け先に!」 その一方では、アンナが異常なほどの割合でフィクサードをぶつけられ、床へうつ伏せに押し倒されていた。 「お前は火力にしろ回復力にしろ驚異なんでな、即刻潰させてもらうぜ」 背骨を思い切り踏み砕かれ、悲鳴の混じった血を吐くアンナ。 その目の前で、椿の足首にワイヤーが撒きつけられる。 「うお、しもた!」 ひっくり返され頭から転倒する椿。 通路に広がる血の池。 綺沙羅と佳恋、そしてウラジミールと守は出口へとひた走った。 正面玄関が見えてくる。 だがこれで終わりではない。外に出てもフィクサード達は追ってくるだろう。何か足止め用の対策をしていたわけではない。 強いて対策を上げるなら……。 「皆が無事に脱出するまでは保たせる。先に行け!」 ナイフを逆手に構え、ウラジミールが踵を返した。 「一人では無理ですよ。私も……残ります」 「ボクもだ。綺沙羅と佳恋は、なんとか逃げてくれ」 同じく踵を返す守と雷音。 「な……!」 綺沙羅と佳恋は何かを言おうとしたが、ここで迷っていては全滅するだけだ。 佳恋は唇を血が出る程に噛んで駆け出す。 「すみません!」 背後で血の吹き上がる音を聞きながら、綺沙羅と佳恋は、天元散布組織のアジトから脱出を果たしたのだった。 ●九美上興和会所属、篠田組・篠田豪蔵 後日談というわけではない。 天元散布組織のアジトから脱出できなかったアンナ、メアリ、椿、守、ウラジミールの六名は国道沿いにある雑草だらけの空き地に転がされた。 全身を拘束され酷い重傷ではあったが、死亡した者は居ない。 彼らをすぐには見つからないように茂みの奥へと寝ころがしてから、ヤクザ風の男が顔を上げる。 「お頭、本当にいいんですかい? こいつら、うちのシノギを潰したんすよ。仲間もかなり殺されて……」 「じゃぁがましいわボケ!」 途端、男の顔と同じくらい大きな平手打ちが炸裂。男はうめき声をあげてのた打ち回った。 「オメェらがぼさっとしとるからシノギが潰されんのじゃいボケ!」 唾を吐き捨てる男。 上半身は裸の上にシャツを羽織り、でっぷりとした腹を晒している。 いわゆる相撲体質というのか、たるみの割に力強い物腰だった。 彼らの名は篠田豪蔵。例の工場を運営していた組織篠田組の人間である。 彼の機嫌を取ろうとしているのか、別の男がへらへらとしながら腰を低くした。 「で、でも良かったじゃねえすか。縞島組が別のシノギを用意してくれるってえ話でしょう? 組の連中も千葉に流していいって話ですし、覇権をぶんどるチャンスじゃないすか」 「アァ!? 当たり前じゃッボケ!」 再び張り手が炸裂。先刻の男同様に地面をのた打ち回らせる。 「このままアークぶっ潰して、九美上興和会の四代目継いだるわボケ!」 「……あの、話戻すようでアレなんですが、こいつらは殺さないんで?」 おずおずと問いかける男。三人目。 豪蔵はじろりと睨んだあと、手を翳して……止めた。 「アークは平気で他人ぶち殺すくせに仲間ぁ殺されたらジハド並の怒りぶつけてくるからのぉ。まあ、シノギを建モンと職員まるごと潰されたのとこの六人ボコしたのでおあいこっちゅーことや。分かったかボケェ!」 そして三度目の張り手が炸裂し、男が地面に転がった。 「…………」 その会話を、ウラジミールは目を閉じたままじっと聞いていた。 彼らが立ち去る、その時まで。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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