●Inferno 異境の地ラ・ル・カーナ。 フュリエとバイデン、二つの種族の境界域にアークが築いた橋頭堡。この小さな砦を巡る戦いは、いよいよ佳境を迎えていた。 吼え猛る声。 次に地響き。防壁を揺らす衝撃。 憤怒と渇きの荒野を越えてきたバイデン達は、族長らしき魁偉なる戦士の指揮のもと、引き連れてきた巨獣をけしかけ、外壁へと攻撃を繰り返している。 外壁に体当たりを仕掛ける巨獣あり、長い首を伸ばして雲梯の様にバイデンを渡らせる巨獣あり。族長自身は、こちらも超巨大なトリケラトプス――グレイト・バイデンを破城槌代わりに、正面突破を図っているようだ。 リベリスタ達も良く守っているものの、既に外壁を乗り越え侵入してきたバイデンも多い。迎え撃つ銃火が、夜闇の中、そこかしこで火花を散らしていた。 そんな最中のことである。 「……何だ……?」 きっかけは、頭上から聞こえた、ばさり、という音。 激戦地の一つ、橋頭堡の中庭で戦っていたリベリスタが、その音を耳にして夜空を見上げ――戦闘中だというのにも関わらず絶句する。 頭上には、煌々と輝く三つの月。 その月の一つが、欠けていく。 いや――。 「鳥……違う、あれはドラゴンか!」 楕円の月を悠々と横切るのは、くっきりとしたシルエット。 ラ・ル・カーナの空を支配する翼竜と、それらに跨った騎手――バイデンの影が。 ●Isaac Ferno 『見つけたのは、確かベルゼドの手の者だったか。犀乗りの連中の手柄だな』 翼竜の背の上に仁王立ちし、彼は翼の下をねめつける。眼下には、『外』の連中が築いた要塞がその姿を現していた。 『この時を待っていたのだ。奴らと戦い、汚名を雪ぐこの時を』 イザーク・フェルノ。 かつてリベリスタ達と交戦した、バイデンの青年。 ボトムチャンネルの住人達と比べれば、隆々たる肉体と、赤銅の肌、そして不自然なまでに発達した拳が目を引いた。だが、その顔つきには何処か幼さを残している。 『しかし、奴らは強いのだろう。見慣れぬ得物を持ち、底知れぬ術を使い、果ては短い間にこのような要塞を造り上げるとは』 『臆したかゲオルギィ! バイデンは怯まない。バイデンは死を畏れない!』 平行して飛ぶ翼竜、ゲオルギィと呼ばれたやや年嵩の戦士は、瞬時に激高したイザークに苦笑を漏らした。なるほど、怒りと戦いとを両手に携えて生きるバイデンらしい反応ではあるが――それにしても、この若者は少々直情に過ぎる。 『我らバイデンとて、思慮を巡らせてはならんという法はないのだよ。――ああ、そんな顔をするな』 憤怒の余り、歯噛みせんばかりに自分を睨みつける青年に、ゲオルギィは肩を竦める。俺も血が湧き立っているのに違いはないのだ、と続ける彼は、しかしイザークに本懐を遂げさせてやりたいとも思うのだ。 『つまらぬ邪魔をされたくない、というだけだ。イザークよ、お前は戦って勝ち、自らがバイデンの戦士であると証さねばならんのだからな』 『言うまでもない』 言い捨てて、イザークは高度を下げていた翼竜から飛び降りた。ずん、と踏みしめたのは、この要塞で最も大きな建物の屋上。ゲオルギィ達も次々と着地する。足裏から伝わる、堅く、冷たい感触。 『岩を切り出したのか……いや、違うな』 彼らは知る由もなかったが、それは橋頭堡の兵舎の屋上。防衛に出払っているとはいえ、鉄筋コンクリートの階下には、まだ幾人ものリベリスタが残っていた。 戦いを求める彼らには、なるほど最適なリングに違いない。 『まあいい。――戦士達よ、戦だ! 血と肉と、雄叫びと悲鳴に満ち溢れた戦争だ!』 おおお、と吼え猛る。びりびりと夜の空気を振るわせる――それは戦いを求める血が叫ばせた、尽きせぬ闘志の迸り。 その時。 「……! ここにもバイデンか!」 物音を聞きつけて駆け上がり、階段室から飛び出したのは、大剣を担いだ『月下銀狼』夜月 霧也(nBNE000007)だ。その後ろに、何名かのリベリスタが続く。 『来たか、『外』の者どもよ』 言葉が通じているのか、通じていないのか。そんなことには躊躇せず、イザークは巨獣の骨を削り出した槍の穂先を向ける。 『俺はイザーク。バイデンの戦士、イザーク・フェルノ! さあ、構えるがいい!』 雪辱に燃える若武者。その翡翠の瞳が、爛、と輝いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月可染 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月30日(月)00:09 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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