● ああ、焦がれている、焦がれている。ただただ戦いに、目の前の敵を屠るその瞬間に。 彼らはきっと我らを満足させるに足る力を持っている。今までの戦歴から其れはもはや事実というほかない。 なればこそ、それを打ち倒してこそ我ら! 屠ってこそ我ら! 食らいつくしてこそ我らバイデンなり! さぁさぁ我らは攻め入るぞ臆さず逃げず抗って見せよ、下位なる世界の子らよ! ● 日々拠点の設営、及び周辺の警戒を続けるリベリスタ達。 彼らの働きはめざましく『完全世界ラ・ル・カーナ』において今まで小規模な驚異もあれど、それらは的確に退けられ大きな問題は今まで発生してこなかった。 日常的なフェリエ達を保護し治安を維持するといった仕事の面でも彼らはその力を発揮していた。おかげである 確かに大きな問題は発生してこなかった。 ――そう、今日この時までは。 「あ、あれは…バイデン!?」 驚きとともに警戒班が発見したのは彼方より来たるバイデンの群れ。 身を隠すといった小細工抜きに憤怒と渇きの荒野の彼方より来るバイデン達。巨獣を引き連れ、統率の捕れた軍勢のように進む彼らが今までの小規模な集団とは訳が違うのは一目瞭然であった。 本来凶暴にして本能に任せた行動を旨とするバイデン達らしからぬ統制が取れた動き。拠点近くからアークの出方を伺うその姿に誰もが不可避の激突を悟った。 彼らに言葉は通じない。否、通じたとしても言葉一つで彼らが戦うという意志を退けることは不可避であろう。其れが分かるからこそリベリスタ達は迎え撃つ覚悟を決める。 この拠点を堕とされる事があればリベリスタ達の世界、ボトム・チャンネルに異形の狂戦士達が雪崩れ込む危険すらある。故にこれは引くことも、負けることも出来ない戦い。 幸い『ラ・ル・カーナ橋頭堡』はこういったときのために備えてきた。使わずにすむなら何よりだったろうが、今は備えてきた幸運に感謝し、全力をとして防衛戦に臨むのみ。 夜空に浮かぶ三つの月が、ただ戦いの時を見つめていた。 ● リベリスタ達とバイデンは熾烈な争いを続けていた。そんな中『ラ・ル・カーナ橋頭堡』内に侵入を許したとあるバイデンの小集団がいた。彼らの狙いは『ラ・ル・カーナ橋頭堡』でも頭一つ高く目立つ施設である監視塔。 「戦いでは戦場を俯瞰できる者が有利、と来ればみすみす相手の其れを放っておく手はないな」 「然り、そしてそれを重要視していれば物見櫓が手薄と言うこともあるまい」 「そう、だからこそ攻め入る意味がある!」 「楽しみだ、いかなる強者が迎え撃ってくれるのかがな!」 そういって各々武器を手に雄叫びを上げるバイデン達。 求めるは闘争のための闘争。ああ、狂戦士達の宴は終わらない。戦って戦って命果てるその時まで。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:今宵楪 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月29日(日)23:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 三つの月が見下ろす夜の橋頭堡。そこに居るのは襲い来るバイデン達とリベリスタ。数多の戦の中の一つの戦い。ああ、その結末はいかなるものか。 混乱する戦況の中リベリスタ達は内部での迎撃戦を強いられていた。此処にいる彼らもそのために動いた一団である。 「この戦いにはフュリエのみならず、私たちの世界を守るために必要なこと。負けるわけには参りませんね」 『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)の呟きは此処にいる全員、いやこの襲撃を受け戦っている誰もが思うところであろう。この戦いで橋頭堡を抑えられるようなことになれば『完全世界ラ・ル・カーナ』、そしてリベリスタ達本来の世界すら脅かされるのだから。 「むむむ…あかくてやばんなのがせめてくるの~」 そんな戦場の中で集中力を保つために持参したおやつを食べながら危機感を高めていたのは『おかしけいさぽーとじょし!』テテロ ミーノ(BNE000011)。あかくてやばんなの、もといバイデンのボスも来ているのだから当然と言えば当然である。もっとも危機感を抱いているのは全力防御で守っているお菓子の襲撃者の方かもしれないが。 「ミーノのお菓子は没収ですぅよこすですぅ」 そんな襲撃者、ミーノのお菓子を巻き上げようとしている『ぴゅあで可憐』 マリル・フロート(BNE001309)とのやりとりは戦場の中で浮くほど見た目微笑ましい。だがそんなやり取りもそこまでで、リベリスタ達は橋頭堡へ進入してきたバイデンらを発見する。彼らの狙いは進む方向から橋頭堡内でもひときわ目立つ監視塔だと一目瞭然。 「っし!ようやっとあいつらぶん殴れんのね!」 「猪突猛進。……お前らはイノシシか」 バイデン達流のコミュニケーションである戦いに熱意を燃やす『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)は喜々としていた。フェリエを守るという目的もあるが、コミュニケーションを取ってみたいという願望があけすけである。そんな雅とは対照的に進み来るバイデンを前にしてむしろ呆れたように『伝説の灰色狼』アーネスト・エヴァンス・シートン(BNE000935)は溜息をつく。怒濤のように進み来るバイデン達は野生のイノシシじみた単細胞にすら感じられたのだろう。しかしどちらにしても倒して何とかしなくてはならないのは間違いない、自分もやるしかないとアーネストも腹をくくって敵達を見据える。 「――――――!」 そんなところで遅まきながらリベリスタ達に気付いたバイデン達が雄叫びを上げる。リベリスタ達には分からぬ言語で紡がれたのは歓喜の声か、鼓舞の言葉か。どちらにせよ浮かぶのは喜悦の表情。強敵と出会えたその昂ぶりがありありと出ていた。 うなりを上げて突進するバイデンと決意を込めて迎え撃つリベリスタ――ここに戦いが始まる。 ● 「うーハイパーわんだふるかいふくサポーター、ミーノさんじょうっ!」 きりっとした表情のミーノが味方全体に小さな翼を授け機動力の底上げを図る。何より彼女の存在は味方全体の動きに素早さと正確さを備えさせる優秀な指揮者のソレである。今回のリベリスタ達の中で唯一回復の使い手とあり彼女は後に下がり、皆を援護していた。 「単純な奴らですぅ、ハチの巣にしてやるですぅ」 続けてマリルの銃から射程に突っ込んできたバイデン達に向けて怒濤の銃撃が飛び出す。第一陣でも食い止めに回った彼女だが疲労を見せることなくここでも敵に立ち向かう。折角みんなが造った施設を壊させないために、全力でまもってやるのだと。 「返り討ちにされたいやつからかかってきな!」 「バイデン! ここから先はいかせないからね!」 雅の威風を纏う挑発とともに『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の命を変換した暗黒の瘴気がバイデン達を襲う。されどバイデン達には少々の攻撃に怯むといった様子もなく真っ直ぐにリベリスタ立ち突き進む、その動きには狂戦士達の本能をかっこいいと思っていた魅零も一瞬身をすくませる。だがこちらも負けられないのだから、相手が悪かったと思わせる、そう決意し持ち直す。 そしてその勢いのまま突進してくるバイデン達の攻撃がリベリスタ達を襲う。狙うのは目の前にいる前衛。攻撃方法は単純なまでの物理攻撃。手に持つ武器を叩き付ける、ただそれだけのシンプル過ぎるほどシンプルな一撃。だがその一撃一撃が厳しく、重い。そこには受け止めるリベリスタ達を押しのけ押し込み打ち倒さんとする強烈な殺意と気迫がこもっていた。 (俺の体力は持つのか?) 初手にて引き上げた速さにより二刀で攻撃の威力を有る程度は受け流すアーネストにも流石に不安がよぎる。もとよりリベリスタ達は体力面での不利が大きいからだ。だがそんな不安を振り切るよう幻影すら生み出す剣技をもってバイデンに斬りかかる。扱いの難しい二刀流ながら的確に弱点を突く戦い方で、着実にバイデンの体を傷つけていく戦い方、一撃必殺ではなく、当てていく、当てに行く戦い方である。 「私の全力を持って皆様の支援を」 その言葉とともにジョンの放つ光が少なからぬ数のバイデンに衝撃を与える。威力だけではなく閃光で与える衝撃が産み出す隙が味方の助けとなるように、次の一撃を有利とするその光は続く銃弾の雨でその効果を知らしめる。 「来いよバイデン! アンタらの求める強者は此処にいるぜ!」 言葉が通じぬ相手にも身をもって理解させるような『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)の一撃がバイデン達を襲う。強敵、その言葉に違わぬ破壊力で敵にも味方にも知らしめる。回復があったって、その回復が追いつかないほどの一撃を食らわせればいいのだと。それは回復を持つ相手に対する実にシンプルな対抗策。短期決戦を挑むリベリスタ達にとっては攻撃が最大の防御なのだから。 (戦いが目的っちゅうんはなかなか相手にするのが面倒なんよな) 追い払ってもまた来るわ、死を怖れんわで……そう厄介な相手でも無駄には殺したくないと思う『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)は心優しいのだろう。されど降りかかる火の粉を払わず死ぬわけにはいかない。その覚悟を持って禍々しい巨大な銃をもって仁太もまた銃撃をバイデン達にたたき込んでいく。 敵も味方も手ぬるい攻撃などは行わない殺意の漂う戦場。戦いの行方はまだまだ、どちらに傾くでもなく。ただただ夜空の月だけが戦いを見ていた ● 「さあ、派手に行くぜぇ!」 そんな言葉とともに放つ雅の殺意のこもった一撃が彼女と退治するバイデンにたたき込まれる。敵の攻撃を受け続けても、身を削りながらも放つそれはバイデン達にも十分な痛手を与え動きすら阻害する。そしてついには一体のバイデンを血に沈めていたが、前衛として戦い続ける雅自身の肉体も限界に近かった。いや、限界なのは雅だけではない、バイデン達の数が多いこともあり、防ぎきれないバイデン達は後ろに回ったリベリスタ達をも襲っていたからだ。 「はぅぁっ、すぐかいふくするの~…てんしのうたっ!!」 だがそれでも倒れないのはミーノの援護。彼女の作り上げた結界と癒しの力によってリベリスタ達はギリギリのところで狂戦士達の猛攻に押し切られるのを防いでいた。倒れる者が居ても、運命に愛された戦士達はフェイトの力で立ち上がる。なにより自分達が負けるわけにはいかないと知っているから。その気迫は赤き狂戦士達を喜ばすに足るもので、例え味方が倒れても彼らはむしろ強き相手との戦いに喜びを見いだしてより苛烈な攻撃を振るう。 「力任せの攻撃なら、俺もよく識ってるぜ」 雅と同じように前衛を張り続ける影継は、宙を舞い、ナイフで攻撃を逸らしながら被害を最小限に食い止めていく。そして無骨な刃をかいくぐり返す刀で後衛を狙うバイデンに対して攻撃を見舞う。闘気を込められた神秘を秘めたナイフが、銃が連続でたたき込まれい、再びバイデンを打ち倒す。 「痛いからって倒れてられへんよな」 「此処で、倒れるわけにはいきませんね。流石に」 しかしそれでも後衛を狙う相手を阻止しきれるわけではなく、仁太がそしてアーネストに雅が吹き飛ばされ、相次いでフェイトの力を借りて立ち上がる。戦況はリベリスタ達にとってまさにギリギリで、何時押し切られてもおかしくないものであった。バイデン達の突き進む攻撃はそれだけの力があったのだ。 「皆さん、此処は一旦引きましょう」 翼の加護により高度を維持し、戦場を俯瞰していたジョンが冷静な判断を下す。リベリスタ達の地の利を生かす戦略、近接重視の相手の攻撃を制限するため監視塔に敢えて逃げ込む決断を。 「あたしたちはそう簡単にはやられないって教えてやるですぅ!」 引き始めるリベリスタ達に腰抜けとでも罵っているのか、武器を振り上げ突撃しようとするバイデン達をマリルの銃弾がなぎ払う。ジョンと同様に空中でバイデン達の攻撃を避けながらも、高い命中を生かして動き続ける彼女らしい援護だった。 「あぁ、もう、辛いなあ、痛いなぁ 正直、痛いのは嫌い、辛いのも嫌い。――だけど、目の前に気に入らないものがいるなら、それを斬る!」 最初に監視塔にたどり着き敵を睨め付けたのは魅零だった。リベリスタ達の生命線であるミーノを庇い、攻撃を受け続けたが故に誰より早くフェイトの力を借りて立ち上がった魅零。ぼろぼろになりながらも皆で造った拠点に土足でふみいる不作法な客には最大限のお仕置きを。その渾身の力が込められたバイデン達を蝕んでいく。 「安心せぇ! ひゃっぱつひゃくちゅうじゃけぇ!」 そしてリベリスタ達の攻撃はそれだけでは終わらない。仁太の銃弾が彼の視界に写る全ての敵に襲い掛かる。連続での攻撃の素質の高さを生かした一斉射撃は数度もたたき込まれ、バイデン達に深手を与え、その身を穿つ。 「――――――っ!」 既に体もぼろぼろのバイデン達であるがその闘志は衰えず、監視塔の入り口に殺到していく。一度に接近してくるバイデンの数を減らす戦略は確かに有効で、前衛のうける攻撃の数は減った、しかし0ではなくアーネストは限界を超えて膝を突く。 「まさに、イノシシですね……」 イノシシのがむしゃらな突撃には十分な破壊力、単純明快な事実である。侮ったわけではないが、ほんの少し立ち続けるには立ち上がった直後の彼には力が足りなかった。 「思いっきり戦えて楽しいかバイデン!あたしは楽しいね!でも、それももう終わりだ!」 仲間を倒し、興奮して声を上げるバイデンめがけて雅の痛みを力に変える断罪の魔弾が打ち込まれる。バイデンの勝利の声は痛みの叫びに代わり、そしてそのまま静かと成る。打ち込んだ雅も反動でぼろぼろながらその眼は光を失わない。まだ戦いは終わっていない、そしてまだ立ち上がる力があるのだから。 「みんなファイトなのっ! あとすこしだよ!」 そう、立ち上がる限りミーノが癒し続けるから、ジョンや影継の攻撃によって傷を癒すことを阻害されているバイデン達には叶わぬ戦い方。それゆえ監視塔の入り口にたてなかったバイデン達は傷を癒すことも出来ず、監視塔その物を殴りつけるしかできなかった。確かに自由に殴り続けられれば間違いなく被害は出る、しかし数度殴っただけでどうこうなるほど脆いわけでもない。そして外には高度を維持したまま攻撃を行えるマリルとジョンが控え、傷ついたバイデンらを狙い撃つ。この布陣が成ったことでギリギリからの決着は、決した。 「さあ、次はどいつだ!」 目の前のバイデンを踏みとどまらせる事すら許さぬ力を込めた一撃で打ち倒す影継がバイデン達を挑発する。強者としての実力を備えた狩人は追い詰められた者にとっては本来怯えるべき相手だろう。だがバイデン達にとっては最高の獲物であり、好敵手であり、障害だった。故に攻撃できるバイデンは影継を狙う。此の期に及んでもなお戦いを求めるが故に、戦うことの喜びを見に刻むために。ソレが自分達の生きる本能故に、ただ、戦って、戦って、敵を喰らう、味方を踏み越えてでも敵を喰らう。業深きその性故に、かれらは狂戦士としてしか生きてはいけないのだ。 ● 例え不利になろうともバイデン達は止まらず、結局は全滅するまでリベリスタ達と戦い抜いた。かける言葉も通じぬが故に説得も出来なかった、いやそもそも通じたかすら不明瞭ではある。しかし殺すこと自体を目的としてはいないリベリスタ達にとっては戦いに勝ったといっても気分が良いとは言い難かった。 「潔く死なせてやりもしたくなかったんだけどなー」 終始殴り合った雅もその一人、殺したいわけではなかった、また向かってくると言うならそれでも良かった。だけど、身振りを交えて伝えようとした言葉も届かなくて、結局は命を奪うことになったのは、やるせなかった。 「でも、火の粉が降りかかるなら払わんかったらこっちが死ぬぜよ」 戦いの時も同じ事を考えていた仁太がそれに応えるようにつぶやく。そう、それで死ぬのはただのお人好しで、負けることの出来ない戦いにおいてでやるべきことではない。この戦いは自分達だけではない、もっと多くの人が関わり、そして世界に、多くの人が危険にさらされる危険性を孕んだ戦いなのだから。 「あたしの顔を見てこいつ、やばい、かなり強いと思ってびびるかと思ったけどたいしてそんなこともなかったですぅ」 そんな真面目な話の横でマリル的にはその辺り若干不満だった、というか不思議で成らなかった。ビーストハーフ(ねずみ)で一番最強(自称)のはずなのに。腹いせにミーナからお菓子を巻き上げた、ミーナ泣いちゃう。今回の功労賞なのに泣いちゃう。魅零からお菓子貰ってなかったら泣いてるところだった。 「周りで戦いが起きている。大丈夫だろうか?」 一転してシリアスなアーネストのその呟きに誰もが辺りを見渡す。そこかしこで戦いの音が聞こえる。自分達は勝利したが戦いは終わっていない。だから、リベリスタ達は監視塔を離れて、いく。戦える者は戦うために。拠点を守る戦いは終わってないのだから。 戦い疲れて空を見ても、ただただ月はそこにあった。この戦いに決着が付いても、終わらぬ戦いの全てを見つめていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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