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燃え盛る歪みの炎

●炎上
「ちょっとすいません、宜しければ見ていってくれませんか?」
「は……?」
 夜の公園で、そう声を掛けられた恋人達は振り返った。
 ボウリングのピンに似た道具を持った青年が、にこにこと笑っている。
 まだ肌寒い季節なのに半袖の姿に恋人たちが怪訝な顔をしたのも束の間、青年がその手を回せばくるりとピン――ジャグリングに使うクラブが踊った。
「練習中なもんで、ちょっと失敗するかも知れないんですけど」
 人懐っこく笑ったその腕で、クラブは器用に回転し、背後を通り反対側の手に。
 折角のいい雰囲気を邪魔された形になった男は表情で些か難色を示したが、腕に絡んだ女の楽しそうな声にそれも緩む。
 自分を見詰める、子供の様な期待に満ちた四つの瞳を受け止め、青年は笑った。
「当たるといけませんからね」
 おどけて肩を竦めて見せながら恋人たちから僅かに距離を取る。
 それでは、と胸元に手を当てて礼をした。

 合計三本持ったクラブは、バトントワリングにも似てくるくる回る。
 移動し足を上げる青年に合わせて、まるで生き物のような動きで周囲を飛び続ける。
 わあ、と声を漏らし小さく拍手した女に対し、男は微かに眉を上げただけ。
 そんな様子を見て取って、若きパフォーマーは宙に浮いていた一本を男に向かって叩き飛ばす。
 目を見開く暇も無く、男の額に吸い込まれたクラブは、次の瞬間爆発、四散した。
 女の悲鳴は聞こえなかった。
 至近距離の爆発音に掻き消されたのか、叫ぶ余裕も無い程に驚愕したのか。
「ああ。その顔だ」
 陶酔した声に、気付けばへたり込んでいた女が我に返って弾けた様に顔を上げる。
 青年は変わらぬ顔で、否、喜びに満ちた顔で、女を見下ろしていた。

 薄暗かった周囲がいやに明るい。 赤い。
 いつの間にか女を取り囲むようにして、炎が燃え盛っている。
 燃えるものなど芝しかない筈なのに、煌々と。
 ――いや、炎は下を焦がして燃えているのではない。
 二つ、三つ。まるで人魂のように、宙に浮かんだまま燃えているのだ。
 それに気付いた女の顔が、更に引きつった。
 青年が笑う。

「もっと驚けよ。俺は凄いだろ?」
 振りかぶられたクラブに、女は今度こそ悲鳴を上げたが、続いた爆発音は断末魔さえ掻き消した。


●鎮火
「この男を自己流のステージから引き摺り下ろしてやれ」
 『駆ける黒猫』将門伸暁(ID:nBNE000006)は集まったリベリスタに肩越しに視線と言葉を投げた。
 慣れた手つきで端末を操作し、モニターに情報を映し出す。
 二十代の半ばから後半だろうか。
 取り立てて特徴はないが、人好きのする笑顔を浮かべた引き締まった体の青年だ。
 一瞥してから伸暁は肩を竦め、リベリスタに向き直る。
「ジャグリングって知ってるか? サーカスでピエロ役がよくやってるの。
 コイツはそれを行う、つまりジャグラーだ。
 ただのジャグラーじゃない点は、フェイトを得た、って事だな」
 ジーンズのポケットから出てきたのは、喉を守る為の飴玉一つ。
 宙に放って、掴み取る。

「武器はそれに使うクラブ。単なる鈍器じゃない、触れると爆発するから気を付けろ。
 ――この男はそれを使って、『皆を驚かせる』という名目で無差別爆破を行っている」

 告げられた言葉にリベリスタが眉を寄せた。
「犯行場所は夜間の公園。『万華鏡』のお陰で次に出る場所は特定出来た。
 事件が続いたお陰……っつうのも何だが、この付近では夜の外出が減ってるから人の心配はねえな」
 もう一度、端末を叩けば青年の周囲に炎が舞った。
「男は炎型のエリューションを従えている。コイツらはそんなに強くないが、クラブ爆弾と一緒で炎が纏わりついてくる可能性があるから注意しろ」
 伸暁はモニターの青年に向けて笑う。
 愚かな相手への、哀れみを込めて。
「技術は並未満。まだ伸びる事だって出来ただろうに、もっと簡単に驚愕と優越感を得られる方法を選んだ根性なしだ。
 客を魅せられないパフォーマーの演技なんて、見ててシラけるにも程があるだろ?
 このつまんねえ、何も心に響かねえステージをぶっ壊してきてくれよ」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年04月17日(日)23:38
●目的
 フィクサードを止める。
 説得等は困難です。殺害しても問題ありません。
 自分の力を信じきっているので逃亡の危険性もありません。

●場所
 夜間の公園です。
 説明通り、公園内に人はいません。
 周囲を森に囲まれているので、戦闘音も然程気にする必要はありません。
 公園内の照明は乏しいです。

●敵
 ジャグラー
 二十歳半ばの人の良さそうな青年。
 エレメントの後ろから攻撃してきます。
 ・クラブ爆弾(遠距離:火炎)

 炎型 E・エレメント×3
 人魂のように浮かんでいますが、回避等に影響はありません。
 普通に殴って下さって結構です。
 ・炎上(範囲:火炎)

●他
 明らかに不審者でなければ、リベリスタにも冒頭の様に話しかけてきます。
 うまく誘導すれば多少有利になるかも知れません。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ホーリーメイガス
ナハト・オルクス(BNE000031)
デュランダル
宮部乃宮 朱子(BNE000136)
ナイトクリーク
鷹司・魁斗(BNE001460)
ナイトクリーク
十七代目・サシミ(BNE001469)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
覇界闘士
龍音寺・陽子(BNE001870)
覇界闘士
風祭 爽太郎(BNE002187)

●オープニング
 人の通りの絶えた道路から、公園に入る少女と思わしき二人組。
『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(ID:BNE000024)と『戦うアイドル』龍音寺・陽子(ID:BNE001870)である。
 二人には柔らかく月光が降り注いでいたが、それは即ち、その場では他の光が乏しいということでもあった。
「待ってるかなあ」
「そうですね、ちょっと時間が掛かりましたか」
 コンビニの袋を片手に、友人との待ち合わせを装った会話をしながらも二人は油断なく周囲に気を配る。
 陽子が語るテレビや映画の話題にアラストールが少々四苦八苦しながらも合わせて親しげな会話を続けていると、公園の中ほど、遊歩道にある街灯の下に一人の男が見えた。
 特徴の薄い、中肉中背の男。
 既に彼に取って価値の薄れたはずの技を練習し続けているのは、無意識にも消えずに残る己の腕を磨くという志によるものか、それとも『獲物』を待つ間の手慰みか。
 鈍色のクラブが、幾つも曲線を描いて宙を舞い、吸い込まれるように男の手に帰った。
二人は一瞬だけ視線を交わし、
「わ、すっごーい!」
「おお……」
 陽子が両手を合わせて感嘆の声を上げると同時、アラストールも声を漏らす。
 そこで初めて気付いたかのように、男が手を止め微笑を向けた。
「ああ、ありがとうございます。――宜しければもっと見ていって欲しいのですが、少しお時間を頂けますか?」
 笑みを浮かべた目が一瞬二人を上から下まで捉え、問題なしと判断したか言葉を紡ぐ。
 二人は顔を見合わせ、姿を現した魚に釣り糸を垂らした。
「うーん、今友達を待たせてるんだ。すぐそこのベンチのとこなんだけど」
「でも、良ければもっと見たいですね」
「あ、そうだ、あっちの方が広いから、一緒に来て貰えないかな、友達にも見せたいし!」
「む、それは良いかも知れません。きっと喜びますよ」
 さも良い事を思い付いた、とでも言うように陽子がはしゃいでみせる。
 アラストールも整った顔に微かに笑みを浮かべ、それに同意した。
 多少の身勝手さも、少女らの外見から推し量れる年齢としては不自然さはなかったらしい。
 目の前にいるのは非力そうな少女らであるからと高をくくった様子で、男は気軽に頷いた。
「ああ、それは構いませんよ。ギャラリーは多い方がこちらも嬉しいですから」
「わあ、じゃあすぐ行こう!」
 魚が餌に食らい付いたのを確信し、はしゃぐ演技を続けながら陽子は携帯電話で今行く旨を伝える。
 電話を受け取った『黒腕』付喪 モノマ(ID:BNE001658)は当たり障りのない返答で通話を終えた。
 こきりと首を回す仕草をしながら、周囲に潜む仲間らに聞こえるように言葉を放つ。
「……さあて、そろそろ来るみてぇだな」
 どこで男が間違ったのか、などは自分には分からない。
 分かるのは、止めねばならないという事だけ。
 己だけではなく、仲間と共に。
 決意を秘めた瞳を一度閉じ、モノマは静かに耳を澄ます。

 ――かくて魚は俎上に乗せられ、刃を持った待ち人らは目を細めた。


●第一演目
「お待たせしました」
「よお、そちらさんが話の、か」
 アラストールの言葉に左手を上げたモノマは、右手の携帯電話をポケットのライターと持ち替えて三人を迎える。
 明かりはベンチを中心とした広場を囲むように点在し、広さは充分。
 中心部近くに男が差し掛かった時、もう一つ、人影が現れた。
「……あちらもお友達ですか?」
 尋ねながら、機械の両腕を持つ『消えない火』鳳 朱子(ID:BNE000136)に男は目を細める。
 その動向を気に留めた様子もなく、眼鏡越しに静かな赤い瞳を向け、少女は口を開いた。
「あなたの名前教えて……くれる?」
「おや、何故?」
 異様さを纏い始めた空気にも怯む事なく笑う男に、朱子が何事もないかの如く告げる。
「初めて殺すかもしれない人の名前……くらい。……知っていてもいいでしょ」
 含まれていた感情が、憎悪か悲哀か、果たしてそれ以外の何ものか、彼女以外は誰も知らない。
 ただそれは、明確な敵意を男に伝えた。
「はは、それはどういう事で」
 目から笑みを消した男が両腕に持ったクラブが、朱子に向けて放たれる前に――。

「つまり、こういう事」
 ざしゅ、と空気を裂く音さえも聞こえるかの様に、陽子の武器が空を凪ぐ。
 不意打ちは咄嗟に飛び退った男の服を浅く裂くだけに留まったが、朱子への攻撃は中断された。
 先程までの親しげな空気を一変させ、少女は男を見る。
「アンタ、別にすごくないよ。その能力は、私たちにとっては当たり前のもの」
「――技自体は確かに凄いかも知れないな。だが、それだけだ」
 陽子の声に応じるように『メタリック覆面レスラー』風祭 爽太郎(ID:BNE002187)がその巨体を現す。
 自らを知っている口調である事に気付いた男が、誘い出された事を悟って小さく舌打ちをした。
 新しく得た技に心を奪われ、自分以外の能力者の存在など、そもそも考えていなかったのだろう。
 しかし男に焦りは見えない。
 奥底に悪意を秘めた瞳で、各人を睨め付ける。
「分野は異なれど、我らが技を見せる先にあるのはお客の笑顔と幸せだ。驚かせるばかりになったお前に、その先はあるか?」
「楽しませるふりして殺すようなやつに、そんな心は残ってんのか?」
「何を偉そうに……!」
 爽太郎とモノマの問いも、男は口の端を歪めて笑い捨てるだけだ。
 男のの周囲に、赤が灯る。
 ごう、と、赤に染める。
 男の内心の怒りを、鬱屈を表すかのように激しく燃えるエレメント。

 が、瞬間、それを越える激しい光が周囲を眩く照らし出した。
「なんでもいいわ、お馬鹿さん。自己満足の下らないお遊びは終わり」
 茂みからゆるりと立ち上がり『素敵な夢を見ましょう』ナハト・オルクス(ID:BNE000031)がその細い長身を炎の色に晒す。
 軽く上げられた手から放たれたのは、彼の瞳の色にも似た、意志を秘めた光。
 自らを構成する悪意よりも強いそれに、炎のひとつがゆらゆらと不安定に揺らめきだした。
「そもそも濁った欲望だけではエンターテイナー失格でござるよなー」
 次いで樹上から聞こえた声に男が顔を上げるよりも早く、暗闇から現れたしなやかな肢体が、その一部を切り取ったような黒いオーラをその一体に叩き付けている。
 勢いを減じたエレメントに目を見開いた男が捉えたのは、再び闇に消える『ニンジャブレイカー』十七代目・サシミ(ID:BNE001469)の姿。
 逆さに見えた少女の表情は窺えず、軽い声ばかりが残った。
 そして別の場所から炎に突き刺さるのは道化のカード。
 魔力で作り出されたそれは、炎に焼き尽くされながらも皮肉げに笑みを描いている。
「今更後悔しても遅いぜ?」
 エレメントと比べると小さなライターの火を片手で風から守りながら、煙草を咥えた『深闇を歩む者』鷹司・魁斗(ID:BNE001460)が、次々現れる影に間断なく視線を動かす男を鼻で笑った。
「下らない芸はさっさと終わりにして貰おうじゃねーか」
「……下らない、だと」
「ああ。下らねーよ。そんな根性なしのチンケな炎でビビると思ってんのがな」
「ならば、数で押すのはどうなんだ?」
 自分を見詰めている十六の目に向けて、男が嗤い返す。
 エリューションを含めても倍の数を相手取りながら、自信は揺らがない。
 日常で緩やかに折れた心を、失った自信を、非日常と化したその時に全て歪んだ思いに変えたからか。
「ギャラリーは多い方が嬉しいのでしょう?」
 剣を手にしたアラストールが凛とした瞳で男を見据える。
 声には皮肉も嘲りもなく、ただ淡々と思いを乗せた。
「残念です。先程の技を習得するだけでも、相当の時間と努力を重ねただろうに」
「――わざわざリスクたっぷりの方を選んでしまうなんてね」
 愚か、とナハトが目を眇め、するりと後ろに抜ける。
「因果応報、悪因悪果。道理を教えてあげるでござるよ、ニンニン」
 どこからともなく告げられた言葉が、本格的な戦闘開幕の合図となった。

●第二演目
「やあ!」
「火傷は勘弁だぜ?」
 ポニーテールをなびかせ少女が氷を纏った拳をエレメントに打ち付ければ、軽口を叩きながら魁斗がブラックコードを振るった。
 黒い線は炎の上に直線を引き、一瞬ではあるがその身を分断する。
 更に燃え猛る炎から、魁斗は身軽に地面を踏んで飛び火を逃れた。
「ぶちぬけぇぇぇぇ!!」
 ライターから黒いガントレットを呼び出したモノマが、魁斗と入れ替わるようにして手近なエレメントに向けて炎を纏った一撃を放つ。
 既に燃えている相手に対しては炎こそ通じはしなかったが、その力強い拳は確かにダメージを与えていた。
 大きく揺らいだ炎に向け、覆面の青年が繰り出すのは鋭いソバットキック。
「この身を削り鍛えた技を魅せるプロレスラーとして、ただの殺人鬼となったお前を、許すわけにはいかない」
 真摯な目をした彼の言葉を裏付けるように、その蹴りの持つ速度は真空刃を作り出し炎を打ち消した。
 大柄な爽太郎にも負けぬ力強さで、朱子も金属の腕を振るう。
「歪んだ火なんかじゃ私は……もう傷つかない」
 彼女を焼き焦がそうとする炎は、その悉くが腕の一振りで掻き消されていた。
 夜風にひらりはらりと揺れる彼女の服を焦がす事さえできず、渾身の力を込めた拳に打ち抜かれ炎は燃え尽きる。
 心に秘めたものは、目の前で燃える炎よりも熱く暗く。
 悪意の炎に確かに体力を削られながらも、赤の少女は怯む事なく前を見詰めていた。 
「――っと、気ぃ付けろよ!」
「おっと……!」
 魁斗の目が飛び来るクラブを捉え、ナハトに注意を飛ばす。
 辛うじて直撃を避けた青年は、眼鏡の奥に些か忌々しげな表情を浮かべお返しとばかりにダガーを投擲しエレメントに突き立てた。
 そんな姿に、男がぎり、と歯軋りをする。
「何だよ。驚けよ」
「飛んでくる玩具に驚けって? 随分レベルの低い驚かし方だこと」
「もっと、もっと……もっと驚けよ……!」
 呪詛のように呟く表情に、先程までの面影はない。

 自分の才能に思い悩んでいた時だったからこそ、新しい力は男にとって天啓であった。
 ジャグリングに触れたばかりの頃にも似た楽しさと昂揚を与えてくれた。
 それは、使い方を変えれば喜ばしい驚きや、幸いを齎すものであったろう。
 だが、男は道を違えた。
 だからこそ、今リベリスタ達の前に立っている。
 馬鹿な人、ともう一度ナハトは呟いた。

「成長を諦めた時点でお主は終わっていたでござるな」
 口調こそ緩いものであるが、そんな男の本質を抉る言葉を放ちながら、サシミがカカッっと素早く駆けて札をエレメントに貼り付ける。
「忍法・乱れ発破の術でござる、ニンニン」
 ポーズを取りながら告げた少女の背後で、炎は爆発四散した。
「人を喜ばせ感動させるのは、技や演出自体であり、同時にその背後にある弛まぬ修練と努力なのでしょう」
 ならばそれを諦めた男に、それらが向けられるはずもない。
 苛烈に攻めながらも、朱子以外は炎に纏わり付かれている者も多い味方に向け、アラストールは守護の光を放ち邪火を鎮めた。

 残るは男、ただ一人。

●クロージング
「テメェみたいな馬鹿野郎はもうパフォーマーなんかやめちまえ」
「これが『あきらめてしまったアンタ』の限界だよ」
「ふざけるな! 俺は、俺は……!」
 魁斗が放ったカードをクラブで叩き落し、陽子の拳を受け流し、男は吼える。
 だが、続く言葉は出てこない。
「狂った舞台には拙者らが幕を下ろしてやるでござるよ、ニンニン」
「がっ……!」
 サシミが背に貼り付けた起爆札が爆発し、男はたたらを踏んだ。
 下がった視線の先にあるのは、暗闇に半ば同化した青年の足。
「先の通り、因果応報ってご存知? 私はお婆様から教わったけど……貴方みたいな人には、実践じゃないと分かりませんかね」
 溜息と共に、暗がりを照らし展開された魔方陣から魔力の矢が放たれる。
 正確に目標を捉えたそれは、地を蹴り逃れようとする男の肩を撃ち抜いた。

「人を傷つける以外の方法もあっただろうによ!」
 モノマの振るう拳から、炎が男の身に移る。
 続いて繰り出されるのは、爽太郎の脳天――もとい、業炎唐竹割り。
「魂の篭った技を知れ!」
 嘗ては同じような道を歩んだ者への怒りを込め、巨躯に見合う力で振り下ろされた手刀に、声も出せず男は蹲った。
「くっ……!」
「……っ」
 呻きながらも放たれたクラブは、至近距離の朱子を直撃する。
 が、すかさず癒しの力を解き放ったアラストールによって、傷はじわじわと塞がれていった。
「滅びに到る門は大きく、その道は広い。安易な道は、滅びの道です」
 剣を目前に掲げた彼の人の言葉が、正しく伝わる事はない。
 男は身を炎に、内側を悪意に焼かれている。
 それでも立ち上がろうとした男の前に、赤の少女が静かに立った。
「………焼き尽くされるのはお前たちの番だ」
 落ち着いて告げられた言葉は、ある意味冷酷にも響く。
 間を置かず放たれた渾身の一撃は、男の身を後ろに傾がせ――完全にその身を地に沈めた。


 動かない事を確認してから、陽子が男の脈を計る。
 そして小さく、息を吐いた。
「……まだ生きてるみたいだよ」
「全く、悪運の強い人ですねえ」
 爪先で男の腕を軽く蹴り、こちらも動かない事を確認してナハトが肩を竦める。
 とは言え、完全に意識は失っていて、然るべき処置を受けなければ遠からず死ぬだろう。
「なんでそんな力の使い方しかできなかったんだよっ。馬鹿野郎っ……!」
 モノマの声も、今の男には聞こえない。

 踏み外した切欠など、きっと本人にも分からない。
 だから、踏み止まる事ができた――或いは、踏み外した道を戻れたリベリスタ達の声が、拳が届くかは、それこそ運命に委ねるしかないのだろう。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■

 今回囮のどちらと出会うかはダイス次第だったのですが、見事に引っ掛かるコースでした。
 女子高生世代の可愛い二人組に話しかけられればそりゃついて行きますよね。
 彼の身柄はアーク預かりとなり、これ以上事件を起こす事はなくなりました。
 お疲れ様でした。