●予兆 今宵も空には三ツ月が浮かぶ。『完全世界』ラ・ル・カーナに拠点を築いたリベリスタ達の活動は、順調に成果を上げていた。 拠点設備の充実、フュリエの保護、バイデンや巨獣の撃退等々……彼らの働きには目を見張るものがある。しかし考えたくはないが、事が上手く運ぶのは災悪の前触れだとも言う。 夕食時、仲間との団欒で上がったそんな話を一笑に付そうとしたリベリスタ達の耳に飛び込んできたのは、憤怒と渇きの荒野に住まう者達の襲来を知らせる声だった。 ●異変 フュリエ達の住まう森とは異なり、バイデン達が住まう荒野には身を隠すような場所などない。 しかし暴力を是とし、激戦に歓喜するバイデンにとって身を隠すという選択肢は存在しないのだろう。加えて、今回襲来した集団の規模は、これまでの小競り合いなどとは比べものにならぬほど大きい。 警戒班のリベリスタ達が、巨獣を引き連れたその集団を発見するのにさほど労力を要しなかったのは想像に難くない。統制の取れた動きを見せる彼等はアークの拠点より暫くの位置で足を止め、此方の様子を伺っている。 ●集結 「あそこにも巨獣が……早く準備を済ませなければ」 仲間達と共にバイデンの迎撃準備を進めていた『ディーンドライブ』白銀・玲香(nBNE000008)の視界に写ったのは、四つ足で地に立つ巨大なゴリラのような巨獣。 口から飛び出した牙や真っ赤な体表のせいでそれは巨大なバイデンにも見える。しかし黄色く濁った巨大な双眼からは、微弱な意思しか感じられない。 そして、巨獣の足下ではバイデン達が何やら大声を発しているのが聞こえた。無論、特定のスキルを持たぬ者に言葉の意味はわからないのだが。 「士気を上げているのでしょうか……?」 だが玲香の疑問は人手を求める仲間達の声によって、頭の隅に追いやられる。何しろ、敵はあれだけではない。彼女は手近にあった器材を持つと、再び迎撃準備へと戻るのだった。 玲香が見たバイデン陣営。そこではバイデン達が乱れることなく等間隔に整列し、直立不動の姿勢で並び立っていた。 「ドク! ドクはいるか!」 口元に立派な髭を蓄えたバイデン、バルドシュテットが整列したバイデン達の前で轟くような声を張り上げる。 「ハッ! ここにおります指揮官殿ッ!」 バルドシュテットの前に一歩歩み出たバイデン――ドクが負けず劣らずの大声で応えた。 白衣のような衣服を纏ったドクの眼前にバルドシュテットが歩み寄り、二人は直立不動の姿勢で向かい合う。 「ドク、状況を報告せよッ!」 「ハッ! 侵攻は順調に進んでおりますッ。敵は浮き足立っているものの、迎撃の準備も着々と進んでいる様子でありますッ!」 唾を飛ばす勢いで、至近距離にたつ指揮官にこれでもかという大声で報告を行う。だが指揮官に怯んだ様子は全く見られない。寧ろ二人の応対は加速度的に白熱してゆく。 「しかしッ! どんな策を練ってこようと叩き潰せばよいッ! 故に解決ッ! 我等の勝利は必然である!」 「ハッ! 仰る通りです指揮官殿!」 指揮官の短絡的な戦術にドクは嫌な顔一つしない。むしろ感銘を受けているように見える。 「ドク、巨獣の準備はどうかッ!」 続けざまにバルドシュテットが問う。 「ハッ! 捕獲したライジングブラスターバイデーン・エクストリームカスタムにはすでに十分な調教を施しており、我らの手足となり敵を粉微塵に蹂躙する事は違えようのない事実でありますッ!」 「なれば問おうッ! 敵歩兵は如何に削る!?」 「ハッ! 衝撃のバイデーンハンマーが肉片も残さず粉砕致しますッ!」 「敵拠点の防壁は如何にして砕く!?」 「ハッ! 撃滅のバイデーンラリアットが一度の瞬きの間に防壁を消し去ってご覧にいれますッ!」 「遠方からの攻撃は如何にする!?」 「ハッ! 吶喊し、抹殺のバイデーンボンバーで敵兵もろとも巨体の下敷きに――」 「素晴らしいッッッ!」 ドクの言葉に被せるようにバルドシュテットの雄叫びにも似た声が発せられた。しかも顔をクシャクシャにして涙と鼻水が止めどなくあふれだしている。どうやらあまりの戦力の充実っぷりに感激したらしい。 「ドク!貴官という部下も持った私は幸福者だッ……巨獣の名に“アルティメット”を冠する事を許すッ!」 「指揮官殿ッ……指揮官殿ッ!!」 バルドシュテットの言葉を受け、ドクも顔をクシャクシャにして感激の涙と鼻水を流す。そして二人はそのまま熱い抱擁を交わした。 彼らの様子を見ていたバイデン歩兵達もいつの間にかもらい泣きをしていたりする。周囲の気温が4、5度は上がったかもしれない。 「もはや我等に敗北無し! いざ行かんッ! アルティメットライジングブラスターバイデーン・エクストリームカスタムに続けッ!」 バルドシュテットの雄叫びに応え、この、やけに暑苦しいバイデン部隊は鬨の声を上げて雄々しく出陣したのだった。 ●激突 この状況は明らかに、バイデン側の総攻撃を意味している。バイデンとの意思疎通は必ずしも不可能ではないが、彼らの気性を考えるに戦闘の回避は極めて困難だろう。 もし仮に拠点を陥落された場合、制圧されたリンクチャンネルよりバイデン達がボトムチャンネルに雪崩れ込む危険がある。しかし、リンクチャンネルを防衛する為に設営された『ラ・ル・カーナ橋頭堡』はこの状況を予期していた為、一定の防御力を保持している。 つまり、リベリスタ達はバイデンの猛烈な攻撃を凌ぎ切り、これを撃退するに他は無いのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:力水 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月29日(日)23:42 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●真っ向 「気づいたようです」 やや蒼みがかった銀髪をなびかせ、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)が魔力剣セインディールの柄にそっと手をかける。 バルドシュテット率いる部隊に相対した11人のリベリスタ達は、作戦により人手を分けていた。ここ、敵の真っ向に立つ5人は正面部隊と呼称されている。 「野蛮故、力には敏感なのかしら」 暴力的な男性を嫌う『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)にとって、バイデンは天敵と言ってもいい存在だろう。威嚇するように逆立つネコの尾が、彼女の心中を如実に表している。 「それになんでしたっけ、巨獣の名前。ええと」 「アルティメットライジングブラスターバイデーン・エクストリームカスタム、ですね」 「よく覚えられましたね……」 櫻子の疑問に指をピンと立て、愛嬌のある笑顔で一息に即答した『Fuchsschwanz』ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)に、『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)の驚きと感嘆混じりの声が発せられる。 対巨獣戦に備えて発射台に陣取るつもりだった紫月だったが、巨獣が射程内に収まっていないため、正面部隊に合流していた。 「長い名前で、覚えるのが大変でした!」 「そうだと思います……他にも気になる所は幾つかありますが、彼らの実際の戦力は侮れません」 「ええ。ですが、皆さんに負けないよう、そして皆さんの力になれるように持てる力の限りを出して全力で戦います!」 「数では劣るけれど、怯みはしません。皆で力を合わせ、迎え撃ち、撃退しましょう」 戦闘前の緊張を吹き飛ばすような気迫を見せるドーラ、そして英気を高めるリセリアの言葉に、『ディーンドライブ』白銀 玲香(nBNE000008)を含めた6人が力強く頷く。 「――征こう」 言葉少なに、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が一歩前に歩み出た。 しかしそれで十分。各々が、各々の想いを胸に、襲来する敵へと歩みを進める。 一歩先を行くアラストールが、鋼の擦れる音と共に剣を引き抜いた。 そして、 「――――――ッ!!」 小さな少女の身体からは想像も付かない、轟雷を思わせる雄叫びが響く。 戦線が、開幕する。 『ほう、少しは骨のあるヤツらのようだな!』 巨獣に搭乗したバルドシュテットの号令一下、バイデン歩兵達が野性をそのままに叫びを上げて突撃を敢行する。 その様子に、当然の様に櫻子が眉をしかめた。 「戦いが美学……? 野蛮な者の戯言ですわね」 全く理解が出来ませんわ、と言うと女神の名を冠する長杖をくるりと振るい、仲間達に翼を授けていく。 翼の加護でふわりと浮き上がったリセリアが、ソードエアリアルで激流のような敵陣を攪乱しつつ、バイデン歩兵に初撃を与えた。 『構うな、進め!』 「怯みもしませんか……」 高度の跳躍で敵陣から離脱するリセリアが、剣を強く握りしめる。しかしこれも作戦の内。切れ長の目を細めると仲間達の元へと降り立つ。 正面部隊がバイデン達の注意を引き、側面部隊がその名の通り側面から強襲、そして巨獣を無力化する、というこの作戦。 小手先の技を好まないバルドシュテット部隊に対しては十分に効力を発揮するはずなのだが――。 「……バイデン達の動きが変ですね」 イーグルアイで様子を確認したドーラが訝しげな表情を見せる。 「もう側面部隊が戦っている……?」 「え――」 同じく千里眼にてその様子を捉えた紫月が思わず声を上げた。 (少し……早い?) 不安が、胸中に突き刺さる。 ●相違 「この攻撃、見切れる?」 『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)の多重残幻剣が、幾重もの自身の幻影をもってバイデン歩兵3人を翻弄する。 その剣撃によって1人は限界に達し地に伏したが、赤黒い肌に無数の傷を作りながらも耐え抜く者もいる。 「やっぱりタフだね。でも……!」 耐えたとしても、その後には幻影の見せる虚像が彼らを混乱へと誘う。 動きの定まらぬバイデン達に追い打ちをかけるように、『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)の気糸が的確に急所を穿つ。 縫うように突き刺さる気糸に、バイデン達が藻掻き苦しむ。 「よおしビンゴ! 良い当たりです! ……とはいえ、少し厄介ですねー」 むむむ、と幼い少女の顔が可愛らしくも思案の表情に変化する。 側面部隊の行おうとした強襲が、行動の未統一によって挫かれてしまったのだ。 その結果、正面部隊とバイデン部隊が衝突する前に側面部隊の存在が敵に知られてしまい、両部隊に対して、二手に分かれた敵部隊がそれぞれ相対する形となってしまった。 正面部隊へは巨獣と半数の歩兵が向かい、側面部隊を残りの歩兵15名が迎え撃つ。 「く、巨獣が……!」 メガクラッシュで進路を妨げるバイデンを弾き飛ばして巨獣を追おうとした雪白 桐(BNE000185)だったが、こうも敵が多いとノックバックが上手く働かない。 飛ばされたものの仲間に受け止められたバイデンが再び桐に追いすがる。その顔に浮かぶのは、狂笑。 まさに戦闘狂。受けた傷を力に変え、与えた傷を誇りとする。 その気迫に押されたのか、一瞬の隙ができた桐の細い身体に歩兵の渾身の棍棒が激突した。 「……!!」 声を出すことも許されず、土煙を上げて荒野を転がる。追撃に走る戦鬼。 次の瞬間、蒼白く輝くポールウエポンが土煙を切り裂いた。 「よくも! イーリスクラッシュ!」 金色の髪を乱して駆ける『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)が竜巻のように槍斧を振り回し、桐を吹き飛ばしたバイデンにそれを叩き付けた。骨の軋む音がミシリと響く。 砲丸の様に再び吹き飛んだバイデンとその周囲を巻き込んで、『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の神気閃光が全てを焼き払う。 「何でそんなに好戦的なのよーぅ!?」 戦う、というはっきりとした生きる目的を持つバイデンに少しの羨望を抱きつつも、彼女は平和を乱す者に容赦なく鉄槌を下す。 不殺の効果で限界まで体力を削り取られ、倒れたくとも倒れられない。敵をその苦しみから解放したのは、今まさに巨大な剣を振り下ろさんとする一人の少年。 「……先程の分、返します」 残り幾ばくもないその命を、桐が一刀の下に斬り捨てた。 生まれついての性故か、周囲のバイデン達に大きな動揺は見られない。 だが、それを推察する時間はない。歩兵を下し、一時も早く巨獣を追わなければ――! ●巨獣 “――あのおっきいのに追いつくのはもう少し時間がかかるんだよ。そっちはお願いっ!” アリステアの声が紫月のアクセスファンタズムから響く。 その子供らしい声とは裏腹に、時折聞こえるのは力と力のぶつかり合う音……そして、咆哮。 「わかりました、どうかお気を付けて」 持参した4WDを橋頭堡の発射台へと飛ばしながら、苛烈な戦場に届くようにはっきりとした声色で紫月が応じた。 さらにアクセスファンタズムやハイテレパスを通して、事態は仲間達全員に伝えられる。 「さて……では急がなければなりませんね」 運転に集中し、激戦繰り広げられる数々の戦場を縫うように橋頭堡へと走る。 異世界にあるまじき轍が、荒野に荒々しく刻みつけられていく。 『うおおおっ!? 地面が砕けた!?』 『こ、この……杭が、腕に……ッ!』 一方、正面部隊。 橋頭堡の近くで戦っていた彼女らは、バイデン達を橋頭堡周囲に仕掛けられた数々の罠に仕掛けることに成功していた。 「無駄な争いは避けたいというのに……嘆かわしい限りです」 落とし穴に次々とかかる敵を目で追いつつ、警戒は怠らないままに櫻子が溜め息と共に独りごちる。 だが、罠程度で力尽きる者達ではない。身体を自らの血で濡らし、地獄から舞い戻ったような風貌のバイデン達が次々と穴から這い出てくる。 「ここから先には行かせません!」 機関砲を構えたドーラがトリッガーを引くと同時に、面による制圧射撃が罠で弱ったバイデン達の身体を、命を削る。 その死の雨粒に撃たれながらもなお、戦鬼は立ち上がる。 『グ、オオオオオ!!』 赤を紅に染め、獣のように地を駆ける。 「往生際の悪い!」 「通さん……!」 しかし、リセリアの強襲が敵の足下を崩すと、アラストールが上段の構えからその崩れた身体にブロードソードを叩き付けた。 重い音と共に巨体が地面へとめり込み、動かなくなる。 「言ったはずです」 「通さん、とな」 完全に沈黙した敵兵を横目に、巨獣戦に備えて彼女たちが少し後方に飛んだその瞬間。 「気をつけて下さいっ、来――」 櫻子の危険を告げる声は、月光を遮る影と共に轟音に掻き消された。落下する巨柱の如き巨腕が、彼女らのいた場所を打ち砕く。 地面はたわみ、大気が震える。直撃こそなかったものの、前に出ていたリベリスタ達にも衝撃が伝播した。 『グルオオオオオオオ!!!』 そこには、巨獣の姿がある。ゆっくりと引き上がる獣の拳から、ズルリと何かが剥がれ落ちた。 『ちょこまかと動きおって!』 バルドシュテット操る巨獣が、四つ足を器用に動かし再びリベリスタ達に襲いかかる。 「っ、もう追いつきましたのね」 少し後退しながらも櫻子の清らかな歌が、前衛の傷を癒す。 さらにドーラの射撃が巨獣へと放たれるが、それはまるで巨石に砂利を投げつけるが如く。 『そんなものがコイツに効くものか!』 『飛翔せよ!』 ドクの手が触覚を深く倒すと同時に、巨獣の足が地を蹴り、巨体が宙を舞う。 「櫻子さん、ドーラさん!」 バイデン兵をナイフで捌いていた玲香の危険を告げる声が戦場を飛ぶ。 「いけませ――」 高度こそ低いものの、その威力は易々と想像できる。 まるでスローモーションのように。後退が少し遅れた櫻子とドーラの身体を、落下した巨体が紙くずのように弾き飛ばした。 「――っ!!」 悲鳴が掻き消される。荒野にクレーターを生み出すその威力は、凶悪さに満ちていた。 「か、はッ……」 機関砲を抱いたまま荒野を跳ね転がったドーラが、黒の猫耳を土煙で白く汚した櫻子が、息も絶え絶えに顔を上げる。 すぐそばにある獣の巨体。だがバイデン達はもはや彼女らを見てはいない。蹴散らした小石にどうして再び目を向けることがあるだろうか。 『我等が大地に猛々しく侵略した者共から彼の地を取り戻すのだ!』 踏み抜いた罠で巨獣の足が赤く染まる。だがそれだけである。荒野に赤い足跡を残し、巨獣は水路へと足を踏み入れた。 水路が泥と血に濁る。巨獣の腕が外壁を押し崩そうとするものの、壁は厚く堅牢で、そう簡単に崩れる気配はない。さらに、 『動かん……どういうことだっ!?』 水路から上がることが出来ず、巨獣が足をばたつかせる。水飛沫が跳ね、水面が荒れる。 時間制限はあるかもしれないが、巨獣は確実に足止めを受けていた。 『ならば……このまま叩き潰すッ!!』 唯々力押しの戦法。故に、即効性がある。 水平に伸ばされる巨獣の腕がプロペラのように回転を始める。ぶつかるたびに外壁が削り取られていく。 「やらせん――ッ!」 剣を構えるアラストールだが、巨獣が水路内に下りているために、巨獣の腕はリベリスタ達をかすめる程の高さまで下りてきている。 「このままじゃ近づけないよ! 遠距離攻撃!」 アリステアの神気閃光に続いて、遠距離攻撃が乱れ飛ぶ。 動けない上に巨体のため、攻撃は吸い込まれるように巨獣を撃ち貫いていく。だが敵も大人しく的ではいてくれない。 外壁破壊を中断するとリベリスタ達へと向き直り、振り上げた両腕で彼らを狙う。 『フハハハ、っぬおあっ!?』 バルドシュテットの背後に鈍い衝撃が走る。巨獣の背中には大きな鏃が食い込んでいた。 射線を辿った先。橋頭堡の発射台、バリスタの後ろに紫月の姿がある。 「……視界は十分、一気に行きます!」 鏃を撃ち込まれた痛みに巨獣の意識が表に出たのか、バルドシュテットの操縦を無視して巨獣が悲鳴をあげる。 『ええい静まれ! 兵達よ何をしている、敵を粉砕するのだ!』 巨獣とリベリスタの攻防に気を取られていた歩兵達が、再びリベリスタ達に襲いかかる。数こそ減ったものの、まだ安心はできない。 迫る歩兵に、巨獣へと意識を向けつつもリベリスタ達が身構える。 ●合流する力 その時、聞こえてきたのは戦場には少々不釣り合いな陽気な声だった。 「うるとらの名を冠するゆーしゃ参上! 行くですよ、はいぱー馬です号!」 声に応じるように聞こえた嘶きに思わず振り向いたバイデン兵の一人が、現れた馬に背後から蹴り飛ばされる。 「遅くなりました、全員合流です!」 馬を駆るイーリスに続いて、桐、少し遅れて霧香、チャイカ、アリステアが現れた。 側面部隊が無事歩兵15名を撃破し、巨獣へと追いついたのだ。 「来たか――!」 アラストールの凛とした表情が少し緩んだ様に見える。 だが側面部隊も、アリステアの回復があったとはいえ、かなりの傷を負っている。 「此処を壊されて、堪るかっ!」 口元に滲む血を拭った霧香が速度を獲物に乗せ、水路に架かる橋から巨獣の足へと飛ぶ。 (……ごめんね) 利用されているだけの巨獣に対する攻撃に心を痛めながらも、彼女の連撃が水路に囚われた足に叩き込まれる。 『オオ――、ッ!!』 足を庇おうと動く巨獣。しかし未だ水路から脱せないために、橋頭堡の外壁に寄りかかるように体勢を崩してしまう。 『ぐ、ぬ……ッ! やってくれる、やってくれるな!!』 吼えるバルドシュテットが巨獣の触角を無理矢理に押し込んだ。 『ガアアアアアッ!!』 自身の意志とは異なる力。抗うかのように巨獣が鳴くものの、その腕はすでに空高く振り上げられている。 「酷い……」 奥歯を噛みしめて怒りに震える霧香に、操られた暴拳が振り落とされた。 「オオオオオッ!」 黒衣を纏った小柄な身体が走る。霧香を押しのけるように割り込んだアラストールが、祈りの込められた鞘を巨獣の拳へと押しつけるように突き出した。 「ぐ、ぅ……!」 「アラストール!」 激突と同時に周囲に衝撃が走る。巨体から繰り出される拳は、体勢を崩した身から放たれたとしても到底耐えきれるものではない。 だが、全身の力を防御に特化させたアラストールは拳をなんとか押さえ込んでいる。 足が地に沈む。防御を抜けたダメージが身体を駆け抜ける。 「この、程度で――!」 力の激突が、終息へと向かう。このままではこの攻撃は耐えきれても、次の拳がアラストールに再び襲いかかるだろう。 だがこの守る力はただ守るだけではない。楔を打つように、反撃の力が巨獣の拳に穿たれる。 それは微々たる力だが、僅かに、引き戻す拳の動きを鈍らせた。 「今だ、征けッ!!」 響く声と同時に、桐とイーリスの身体が巨獣の腕に飛び乗った。 『あやつら、登っているのか!?』 絶妙なバランスと翼の加護でもって巨獣の身体を駆け上がる二人を落とそうと、壁のような掌が襲いかかる。 「邪魔はさせません!」 「撃ち抜きます!」 だがリセリアのソードエアリアルが掌を勢いよく弾き、腕を紫月の操るバリスタが貫く。 「後はお願いしますね」 「がってんしょうち!」 (終わらせましょう!) 「もちろんです!」 地上に下りるリセリアと発射台に立つ紫月の言葉と想いが、勝利への道を駆け上がる二人にかけられる。地上でも他のリベリスタ達が残存しているバイデン兵の各個撃破に動いている。戦いの終末は、すぐそこまで近づいていた。 仲間の作ってくれた隙によって、二人は意外と簡単に頭部空洞に侵入していた。 『おのれ……神聖なるこの場所に踏み込むとは!』 「相変わらず何を言っているかはわかりませんけど、とりあえず表に出て貰いましょうか」 憤怒の色に顔を染めるバルドシュテットに、桐がくい、と親指で外を指す。 「かんねんするのです!」 槍斧をぶんぶんと振り回すイーリス。だが彼女の前に立つドクは不敵な笑みを浮かべていた。 『ククク……貴様等は知らぬだろうが、我等が外に出れば巨獣は大爆発を起こす! それでも我等を連れ出すというのか?』 『何ッ、それは本当かドク!』 初耳だ、という表情でドクを見るバルドシュテット。 『合わせて下さい指揮官殿! こやつらが怯んだ隙に反撃を!』 ひそひそとドクが耳打ちする。 『なるほど……わかったか貴様等! さあやれるものならやってみるが――』 「「ぶっとべーっ!!!」」 ふんぞり返っていた二人の腰に、桐とイーリスのメガクラッシュが炸裂した。 ●一旦の終結 橋頭堡の水路に足を漬けたまま、外壁に巨獣が寄りかかっている。目を閉じた巨体が小さく動いているところを見るに、疲れて眠っているのだろう。 それに、彼を無理矢理服従させる者達はもういない。 桐とイーリスによって頭部空洞から叩き出されたバルドシュテットとドクは、落下のダメージとリベリスタ達の攻撃によりあっさりと倒れてしまった。 残存していた数名の敵歩兵も、11人揃ったリベリスタ達の前に為す術もなく。 リベリスタ達の受けた損害も決して小さくはなかったが、目的は達成することが出来たのだ。 次なる<運命の岐路>に向けて、彼らの戦いは続く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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