●惨殺者 「ったく何でこんなに少ねえんだ」 男は悪態をつきながら刃物を振るった。 やや小ぶりだが鋭い刃が犠牲者の喉元を抉り、人間だった者は一瞬で肉と骨の塊に変わる。 血をまき散らしながらデパートの床へと転がったそれには目もくれず、男は言葉を続けた。 「不況の煽りってヤツかねぇ……メンドくせえっ!!」 逃げまどう人々を一瞥した後、刃を自分に突き立てる。 懐のアーティファクトを発動させれば、周囲にいた一般人達が次々に悲鳴をあげ血を流しながら倒れていく。 返り血を浴びながら男が不愉快そうに一帯を見回した時、離れた場所から爆発音のようなものが響いてきた。 辺りの空気も微かに揺れる。 「野郎、派手にヤッてやがる」 男は吐き捨てるように呟くと獲物を求め歩き出した。 これは勝負なのだ。 どちらがより多くの人間を殺せるか? 単純だが、だからこそ分かり易く、誤魔化しの効かない勝負。 逃げまどう人々の背に向かって。 「おら、サッサと死ねよ。ギャーギャーうるせえんだよ」 男は無慈悲に、作業の様に。 冷酷な刃を振り下ろした。 ●裏野部の殺助 「裏野部のフィクサードがデパートで無差別殺人を始める」 急いで現場に向かって欲しい。 『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)はそう言って、地図とフィクサードのデータをスクリーンに表示させた。 「フィクサードはデパートの1階から無差別に殺し始める」 そのまま殺しながら順に上りながら殺していくつもりらしい。 「急いでも殺し始めるのには……間に合わない。けど、一階で逃げ遅れた人達が皆殺しにされる前には到着できる」 既に周辺は混乱状態になっている。 それでもアークの方で手を回しておくので、新たに一般人がデパートに入るような事はないとイヴは説明した。 もっとも、逃げ遅れた人を助けるだけの余裕はない。 「皆にフィクサードを何とかしてもらえなければ、被害は更に拡大する」 何としても止めて欲しい。 イヴはそう言って、フィクサードの説明をし始めた。 「相手は裏野部所属で、殺助と名乗ってる男。1人だけだけどアーティファクトを2個持ってるし、卑怯で狡猾な性格らしいから油断は禁物」 ふざけたりバカっぽい事を言い、感情的に見える態度を取ったりもするが、中身は用心深いらしい。 ただ、実際に感情で動いている時もあるのだろう。裏野部に所属して上手くいっているという時点で。 「でも、無差別殺人しようとしてるのに能力そのものは守りを確り固めたものになってる」 麻痺無効化だとか、回避能力や速度等、明らかに攻撃を受けることも想定した能力を持っていると少女は話した。 その辺り、感情と理性の均衡が取れているということか。 本人そのものは特別に優れた部分というのは無いが、様々な能力を高水準で維持しているバランス型らしい。 襲撃等を行う場合は相手の弱点を付くような戦い方をするようだ。 今回に関しては、リベリスタとの遭遇等を警戒して守りを固めているのかも知れない。 こういった事をすればアークが出てくるというのは簡単に推測できるだろう。 その為か、今回は攻撃はアーティファクトに頼るのみらしい。 「殺助が持っているアーティファクトは2つ。どっちも攻撃に使用する」 1つ目はナイフか短ドスのような小型の刃物の形状をしており、武器として使用する。 「殺助は『腹ペコ』って呼んでる」 本名なのか本人がそう呼んでるだけなのかは分からない。 「誰かを傷付ける事で、使う者の傷や消耗を回復させる力がある」 手に持って接近戦用の武器として使用する為に近距離の対象しか狙えないが、物理神秘共に同程度の威力を持つようだ。 「もう一方は『挽肉ミンチ』」 こちらも本名かは不明。 20m内の敵全員に、自分が直前に受けたものと同じ負傷を与えるという効果を持つらしい。 「自分が実際に受けた傷のみだけど、受けていれば異常だとか全ての効果も与えられる」 使用にはE能力が必要だが、余分に消耗することでその前、更に前に受けた傷も合わせて与える事ができるらしい。 「消耗が軽い訳ではないから多用はしてこないと思うけど」 充分に注意してと言ってイヴは説明を終えると……リベリスタたちを見回した。 「今回の任務の最優先は、フィクサードたちの撃破。最低でも撃退して」 一般人の被害については一階だけに留められれば、それ以上広げなければ。 イヴはそう説明した。 戦場はデパートの1階になることだろう。 そこには……逃げ遅れた一般人が複数いる筈である。 殺しを目的としているなら既に複数の犠牲者が出ていることだろう。 様々なものが散乱しているだろうから、視界や足場等も悪くなっているかもしてない。 敵がリベリスタたちの到着に先に気付けば、奇襲される可能性すらある。 そんな状況で無理に気を配れば…… 「……もちろん被害は少ないに越した事ない。けど、例えば人質にされた一般人に気を取られるような事になれば、撃退すら不可能になる可能性もある」 そうなれば……更に多くの命が失われる。 「こんな事をこれ以上……許す訳にはいかない」 白さを通り越して手が青白くなるほどに握り締めて、イヴは言った。 「必ず、倒して」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月07日(日)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●裏野部の 感情的に見えて、中身は狡猾。 「中々、良い性格をしてるみたいですね」 (私の好みのタイプかもしれません) 自称「那由他・エカテリーナ」、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は呟いた。 「真っ赤な血の花を咲かせたい相手としてですけどね」 言葉の後に、そう付け加える。 (黄泉ヶ辻の次は、裏野部が元気になってきたか……) 「ぶっころ殺助ね……名前通り、ぶっころしてあげなきゃだね」 悪には、報いを。 『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)が、誓うように口にする。 「まったくもって迷惑なやつだぁ! なんでこう七派ってぇのはめんどくさい奴が多いのかねぇ!」 でも、まあ……と、『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)は続けた。 (そういうおイタさんにゃぁ、きっちりときっついお仕置きが必要よねぇ) 「……くくく、我が逆にブッ殺してくれようぞ!」 「一般人をひゃっはーしてるフィクサードですかぁ」 (あっしもひゃっはーたまにはしたいですなぁ) 「うらやましいことでさぁ」 そう言ってから、一呼吸置いて。 「……ぶっころそう」 『√3』一条・玄弥(BNE003422)は、短く。口にした。 「奴に人を殺す理由なんて聞いても、きっとふざけた答えしか返って来ないんだろうなー」 そう言ってから、『リベリスタとしての覚悟』滝沢 美虎(BNE003973)は笑みを浮かべてみせる。 「相手が外道なら、容赦しないで拳を振るえるってもんだ、えへへ」 直後。 「ぶっころころすけ出てくるのだ! でないとフェイトをほじくるのだ」 うむ。言いたかっただけだ。 『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)は何かすっきりした様子でそう言うと、表情を引き締めた。 それぞれの想いを抱きつつ、一行は急ぎデパートへと到着する。 大きな騒ぎがある場所に向かいながら、陸駆はついでに非常ベルを鳴らす。 「一般人を見捨てるなら、僕の戦略演算では任務成功率は89%だ」 見捨てないのであれば-20% 「ふん、それがどうした」 少年は不敵に呟いた。 「確率が低くても成功させるのが天才だ」 ●探り合い 結界を使用したのち、8人はフィクサードの姿を探した。 既にデパートからは多くの人たちが退避していたが、泣き声や悲鳴のようなものも聞こえてくる。 一階は食品売り場だったのだろうか? 陳列用のケースが壊れ、棚が倒れ、カゴや商品が床へと散乱していた。 美虎は奇襲を受けぬようにと周囲を警戒し、珍粘はデパート内の備品を遮蔽物として利用し、狙われ難いように注意しながら移動していく。 ロアンは警戒しつつもざっとデパート内を見渡した。 声が所々から聞こえてくる。 うずくまって泣いている子供もいれば、足を怪我した様子で倒れている大人もいた。 もし、狙ってそうしたのだとしたら……柔和さを含んだ青年の表情が微かに厳しさを増す。 自身の超反射を活かし、御龍も敵の奇襲に警戒する。 そんな中……集音装置を活用していた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は、仲間達以外の立てる音を確認した。 誰何の声を発すれば、離れた場所……攻撃の届かないだけの距離を置いて、一人の男が姿を現す。 「よう、アークのリベリスタさんたちでイイんだよな?」 邂逅は、予想よりはずっと落ち着いたものだった。 「ルール変更だ。此方と彼方、どちらが早く仕留められかの競技にな」 競い合ってるんだろうと無表情にユーヌが言えば、男はやれやれと言わんばかりの仕草をして見せた。 「アークの優等生さん方は、相変わらず予習バッチリってトコか?」 「報告は三途の川の向こうでゆっくりさせてやろう」 淡々と告げる少女に対し、ニヤニヤと冗談めかした笑みを向ける男に視線を向けながら。 (何とかしろってー言われたら、何とかするのがうち等の仕事っすからね) 『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は呟いた。 「アイツは此処で潰す。ただソレだけっすよ」 一足では届かない。 だが、近付かなければ話にならない。 会話に紛れるようにして、フラウは一気にギアを切り換え加速した。 間にある障害を避けるように跳躍し、面接着とバランサーを活かし、柱や壁を、陳列棚すら利用して駆け、フィクサードへと距離を詰める。 「あっは、私参上です」 珍粘も面接着を利用して移動しながら、アクセスファンタズムへと小さく呟いた。 殺助は身軽に後退し、他の者たちも距離を詰めるように前進し、或いは様子を窺う。 「こんにちわ! 予想してたろうけど、アークのリベリスタがぶっ殺しに来たぞっ!」 美虎も一般人なんかどうでもいい、という態度でフィクサードへと特攻する。 距離を詰める刹那の間、フラウはフォーチュナの少女が見たという光景を思った。 (その言葉、そっくり返すっすよ) 「サッサと死ねよ。ギャーギャーうるせえクソ野郎」 少しでも自分に注意が向けば十分だ。 刃を構え、斬り合いの距離へと入る。 「一般人を殺すより、私達を倒した方がポイント高いと思いません?」 珍粘もギアを切り換え、両腕のブロードソードを構えながら挑発した。 「勿論、逃げても良いんですよ」 8対1だと厳しいですよね? 「その時は指差して笑いますけど」 「確かに、8人を一度に相手にするんじゃ厳しいよなぁ」 言いながら殺助は障害物を物ともせず接近してきた2人に観察するような視線を向ける。 「ひゃっはー」 一般人など無視してという態度で玄弥も生命力を瘴気へと変換して放ち、美虎と御龍も白兵戦へと踏み込むべく前進した。 ロアンも前進しつつ、殺助の態度を慎重に観察する。 (全力で殺助をぶっころす……と見せかけて、僕の役目は一般人の救助だ) 最優先は殺助の撃破とはいえ、出来るだけ助けたい。 (その為にも、殺助の意識を僕等との戦闘に向けさせたい) 「本気でぶっ殺す心算でかからないと」 聞こえぬくらい小さな声で、自分に言い聞かせるように呟く。 焦って失敗したら元も子もない。 (ここは多遠回りしても安全に) 殺助の攻撃と意識を、少しでも一般人から引き離さねばならない。 「お山の大将気取りか、裏野部の!」 様子を窺っていた陸駆も、気を引くべく殺助を挑発した。 「随分自信満々だねえ? 誰だいボウヤ?」 「貴様を倒しにきた天才だ」 挑発で返した殺助に悪びれもせず、少年は胸を張ってそう応える。 間合いへと踏み込んだ者たちの間で刃が交えられ、遅れて踏み込んだ御龍が真・月龍丸を振りかぶった。 もし万が一人質を取られても……人質ごとぶった切る。 救いたいとは思うものの一般人が殺されることには、抵抗はない。 殺されてしまっても、怯んだりはしない。 「……咎は受け入れるさ」 「っ! 怖え姉ちゃんだぜ」 唸りをあげた斬撃を、殺助は機敏に回避した。 だが、続いたユーヌの物干し竿の一撃は避け切れずに吹き飛ばされる。 もっとも、それすら利用して彼は複数との接敵を回避しようとした。 戦いは序盤から駆け引きの応酬となった。 刃を交えながら、距離を取って能力を使用しながら……両者は周囲の状況を利用すべく、注意深く窺い続ける。 ●騙し合い、化かし合い 出来るだけ一般人を巻き込まないように気を配りながら。 陸駆は作りだした神秘の閃光弾を投擲したながら距離を詰めた。 一般人が範囲に入ってしまった事に内心歯がみしつつ、表情には出さず……寧ろ苛立つような表情をして、口にする。 「邪魔だどけ!」 救出しようとしていると察されれば、最悪の事態を迎える可能性は高い。 気付かれる訳にはいかないのだ。 (何処にも行けない、何処にも行かせない) 「終焉の地は今此処に。うふ、そー簡単には通しませんよー?」 進路を塞ぐように移動しながら、珍粘は幻惑するように動きながら鋭い斬撃を、刺突を放った。 「たーくさん、味わって下さいねー」 守りの薄いところを付くように、弱点を狙って。 彼女はフィクサードの意識を戦いへと傾けさせる。 瘴気を放った玄弥は生み出した闇を無形の武具へと変化させて身に纏った。 美虎は敵が他へと気を払い難いようにと大声を出しながら炎を纏った拳を振るう。 「だらららーっ!」 打撃だけではなく、捌き、時に掴み、踏みつけ体勢を崩させるように。 「んー、一般人を助ける事は依頼に入ってないしな!」 敵が一般人に対して何をしようとも揺るがぬ決意で、ただ攻撃に意識を集中させる。 「さて踊ろうか?」 そう言いながら距離を詰めたユーヌはAFから放水車を取り出し、一般人への視界を塞ぐように配置した。 「さあ、懺悔の時間だよ。言い残す事はあるかな?」 ロアンもAFから四輪駆動車を取り出し、殺助の視界を封じるように配置する。 御龍も合わせるようにAFから愛車の真・龍虎丸を取り出し、敵の視界を塞ぎ、出来るだけ2階へ通じる階段へと向かい難いようにと配置する。 陸駆も壊れた4WDを取り出し、目隠し兼バリケードとして配置した。 (うち等の目的は殺助をブッコロ出来ればソレで良いって、殺助に思わせれば上出来ってー感じなんすけどね) 一般人に攻撃が及ぼうが気にしないという態度でフラウも魔力の籠められたナイフを振るう。 反撃とばかりに振るわれた腹ペコがフラウの身を抉り、フィクサードの消耗と負傷を僅かずつ癒していく。 (車両で作った特設リング。足止めに丁度良いですね) フラウの動きを確認しつつ、珍粘は伏せて視界から外れ、側面から足元へと攻撃を仕掛けた。 対して殺助は配置された車両や他の障害物を利用して多数との対峙を避けようとする。 それを妨害するように、玄弥が暗黒の瘴気で殺助の付近の邪魔な物体を蹴散らした。 「汚物は消毒やぁ!」 叫びながら彼は敵の様子を観察する。 美虎も大声を出しながら絶え間ない連撃を繰り出し、御龍は牽制の真空波を放った後に距離を詰めるべく前進した。 陸駆も状況を確認し行動を遅らせ、再び作りだした閃光弾を投擲する。 ユーヌと連携しながら何とか敵のアーティファクト、通称ミンチを使いづらくさせるのが目的だ。 「なんだ、畑の草刈りでも競った方が勝負になったんじゃないか?」 その程度では耄碌老人も刈れまいよ。 ユーヌも敵の心を乱し判断力を鈍らせようと挑発の言葉を殺助へと投げかける。 自分の位置も調整し、相手が接近してきた場合は一般人から離れるか狙い難くなるようにと心掛ける。 「おっと失敬、老人の方が動きが良いか」 「イラつかせてくれるな、嬢ちゃん」 フラウからの直撃を避けるように動いた殺助は大きく力を消耗させながら、寧ろ陸駆の攻撃を利用して、リベリスタたちの体を痺れさせ自己付与能力を解除する。 精神もすり減らす戦いはしかし、殺助の注意を確実に戦闘に向けさせつつあった。 それを確認したロアンは慎重に……もうひとつの戦いを開始した。 ●奪い合い 複数を攻撃するような派手な能力使用に隠れるようにして、ロアンは一般人の救助を開始する。 それにあたって最も有効だったのは、結果としてスタンガンだった。 何とか気付かれないようにと静かに、身振り等で合図をしようとしても、一般人たちは叫んだり大声を出したりしようとしてしまうのである。 日常から突然この状態に放り込まれれば当然なのかもしれないが、多くの者は叫ぼうとした所で沈黙させられる事になった。 もっとも、命を落とす事に比べれば些細な事である。 「静かにね……大丈夫だから」 事情を把握できていない小さな子供等の方が誘導し易い場合もあった。 元々大声で泣いたりしている子は、不自然にならないようにそのままに手を引いて。 ロアンは救助活動を続けていく。 その間も戦いは続いていた。 充分に狙いを定めた御龍は、渾身の力を籠めた圧倒的な破壊の一撃を放つ。 かわしきれずに直撃を受けた殺助は、ミンチの力を使ってその攻撃をリベリスタたちにも叩き込んだ。 殺助からの攻撃で傷付いていたフラウは運命の加護で耐え凌ぎつつ……味方への影響を懸念して攻撃手段を選別する。 一方で魔閃光と暗黒で攻撃を行いつつ様子を窺っていた玄弥は、自分の推測よりは回復していると考え、鉤爪を赤く染め殺助へと接近戦を挑んだ。 「てめぇだけに美味しい思いはさせへんでぇ」 力を奪うことは勿論だが、主な狙いは腹ペコによる回復を阻止する傷を与える事である。 一方でユーヌは不幸をもたらす占いで殺助を不吉の影で覆い尽くそうとした。 彼女の前に動いた陸駆の閃光弾は、今回は確実に殺助を捕えている。 彼を覆い尽くした不幸はしかし、フィクサードが身に備えた力によって本来の効果を発揮しなかった。 だが、彼の身を侵す異常を糧として呪殺の効果が、術本来の神秘の力が、フィクサードを傷付ける。 効果は及ぼさずとも身に施された異常によって呪は力を発揮し、殺助の体を蝕んでいく。 もちろん殺助の方も、それで済ます気はない。 ミンチの力を利用して受けた傷をリベリスタたちへと跳ね返す。 それでも、動きを封じられた者が複数いればユーヌが浄化の光を生みだし仲間たちを治療した。 フィクサードは確実に傷付き消耗していく。 もっとも、リベリスタたちの負傷と消耗も大きかった。 序盤から直接刃を交え続けたフラウが倒れ、美虎も負傷が蓄積していく。 ギアを落とされても充分な回避能力を持つ珍粘や、高い耐久力と防御力を持つ御龍に関しても負傷は蓄積していた。 そもそもアーティファクトの影響で、救助活動を行っているロアン以外はかなりのダメージを受けていたのである。 だが、その甲斐あってロアンはひとまずの避難を終えた。 殺助は途中で気付きはしたものの、リベリスタたちの猛攻は彼が別の行動に移ることを許さなかったのだ。 そして戦いは、終局へと移行する。 ●殺し合い 「散々やったんだ……命乞いなんてしないよな?」 美虎は攻撃が命中した際に破壊の気を送りこむようにしながら逃走を阻止するように位置取りを続けていた。 「……しても殺すけど」 直撃を避けられ威力は落ちても、気は確実に殺助を内側から傷付ける。 再び御龍の狙いを定めた強烈な一撃がフィクサードを捉え、殺助がそれをリベリスタたちへと叩き込んだ。 彼女の斬撃は危険だが、リベリスタたちにとっても脅威だと判断しての狙い撃ちだろう。 必殺の念が籠められたそれを、ユーヌと美虎は運命の加護を得て耐え凌ぐ。 「全……然! 効かないぞ!」 歯を食い縛って美虎は構えを取り直した。 腹ペコを気の糸で狙っていた陸駆は、相手が逃走の際にミンチを使う事を想定し皆に注意を呼びかけながら、ユーヌの近くに位置を取る。 「こういう時、普段の行いの報いが出るんですねー」 私も気をつかなくっちゃ。こわーい。 運命の加護が必要な程の傷を受けながら、変わらぬ口調で。 絶え間ない幻惑の剣舞で、珍粘はフィクサードを攻撃し続けた。 「逃がすかいなぁ。どっちか死ぬまで殺りあおうやぁ、なぁ」 玄弥も油断なく、興奮しているような口調で表情を変えながらも、足元や周囲に注意しながら殺助を攻撃し続ける。 (フィクサードに手心は加えない、いずれ皆殺しにするよ) ロアンは戦況を窺いながら、逃走を阻止するように位置を取る。 絶対に逃がしはしない。 「自分が殺される気持はどうだ?」 再び充分に狙いを定めた御龍が破壊の力を武器へと収束させ、叩き込む。 流石に表情を歪ませながらも、待機していた殺助はミンチの力を発動させた。 ロアンは運命の加護を用いて堪えたが、耐え切れず珍粘と美虎が膝をつき、倒れる。 「残念ながら、貴様を逃すつもりはない、この『あくま』は甘くないぞ」 ユーヌを庇った陸駆が運命の加護で堪えながら、断言してみせた。 「あくまでは無いんだが、この程度は普通だ」 幾つかの異常に対しての耐性を持っている事は既に確認済みである。 「つれないな?」 ユーヌは不吉をもたらす占いで、フィクサードの足を狙った。 攻撃を受けた殺助は、僅かな自身の力で限界を堪える。 「……やってくれるぜ、アークのリベリスタさん方」 手繰り寄せた力で無理矢理に体を動かし、本来の速さで、残った全ての力を注ぎこんで挽肉ミンチを発動させる。 陸駆とロアンがそれで限界を迎え、玄弥も運命を振り絞らざるを得なかった。 攻撃を叩き込まれたリベリスタたちと距離を取りながら、傷付き消耗し切ったフィクサードは呟いた。 「覚えてろ、とは言わねえぜ」 続く言葉を呑み込み、追撃しようとした者たちを牽制するように……手に持っていた腹ペコを、動ける者へと思い切り投げつける。 玄弥と御龍が素早く確保し、ユーヌは阻止すべく攻撃を加えようとしたものの、殺助はされるままに身を翻した。 そのまま未練など欠片も残さず、フィクサードは逃走する。 追撃しようとはしたものの、半数以上が倒れた状態では危険過ぎた。 相手に正確に察されれば、寧ろ攻勢に賭けられかねない程の消耗である。 被害をある程度まで喰い止め、フィクサードの持っていたアーティファクトの1つを奪う事ができたのだ。 それで、充分とするべきだろう。 念の為に警戒した後、手を貸し、或いは傷付いた者達で肩を貸し合って。 リベリスタたちはデパートを後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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