●最強を目指す者たち 「何だ? 偉そうなこと言ってて、もう終いか? ザコばっかだな!」 いかにもバカにしたと言わんばかりの声が公園の広場に響き渡った。 もっとも、それに返事をする者はいない。 先刻までその声の主たちと戦っていたフィクサードたちは、全員が地面に転がっているからである。 息のある者もいるのだろうが、戦う事はもちろん反論する力も彼ら彼女らには残っていなかった。 フィクサードたちを全て倒したのは、その場に立っている一人の男である。 もっとも外見が人間の男に酷似しているだけで、『それ』はこの世界の存在ではなかった。 アザーバイドと呼称される異世界の存在である。 パッと見は筋骨隆々というのが相応しい、長身でがっしりとした体格の裸の男という外見ではあったが……よく見れば、明らかに人間の男性とは異なる外見をその存在は持っていた。 それは2つの頭部を持っていたのである。 頭のひとつは人間と同じで、股間からもう1つの頭が生えていたのだ。 しかも、先程の嘲るような声は……下の頭から発されたものだった。 「全ク……精進ガ足ランナ」 先刻の声と比べれば少々たどたどしい声が、本来の頭部から発される。 「やれやれだぜ、全く! ……で、そっちのお前は少しは出来るんだろうな?」 もう一方の頭部がそう言って、別の方角へと首を向ける。 「へぇ……気付かれてたか」 そう言って姿を現したのは、一人の青年だった。 こちらも充分に鍛え上げられた肉体を持ってはいるが、アザーバイドと比べると発する雰囲気は異なっている。 無駄な筋肉はつけずに鍛えたとでもいうか……例えるなら肉食獣のような、シャープな、しなやかな機敏さを感じさせる体格とでもいうべきか。 「そいつらとは一緒にされたく無いな」 倒れている者たちに一瞥をくれると、青年は不敵な笑みを見せながら口にした。 「なら試してやんよ、死ぬんじゃねえぞっ!」 下の顔が叫ぶのと同時にアザーバイドの近くに複数の魔方陣が描かれ、生み出された魔力の砲撃が青年に襲いかかる。 魔弾が青年の身を抉った……ように見えた瞬間、彼はギリギリで身をかわした。 魔力は青年の上着、襟付きのシャツの端を掠め千切り取りながら消滅する。 「おいおい、ギリギリじゃねえか。大丈夫なのか?」 「……やれやれ、また服を買わなきゃならないな」 挑発を意に介さず青年は呟くと、裂けた上着を自分で剥ぎ取り、投げ捨てた。 そして視線に肉食獣のような鋭さを持たせながら、アザーバイドへと向ける。 「どうやら……お前らには本気を出さなきゃいけないようだ」 そう言って青年は、おもむろにベルトの金具に手を掛けた。 この場に他に人間がいれば……続く彼の行動に何らかのリアクションをした事だろう。 だが、彼を見ているのは人間に外見だけは似た、一応此の世界の言語を理解するアザーバイドだけだった。 一切を纏わぬ身軽な姿となった青年は、無駄のない動きで構えを取る。 「はっ! それで俺たちに勝てるつもりか?」 「……油断スルナ」 「分かってるって、相棒」 上の頭部の言葉に、下の頭部が頷いて見せた。 「服を脱いだ途端、こいつからヤベェにおいがプンプン漂い始めたぜ!」 口調とは裏腹に下の頭部は警戒を強めた視線を、青年に、一人のフィクサードへと向ける。 「それじゃ、第2ラウンド開始と行くか!」 青年はそう言って距離を詰めた。 そして……激しい戦いが、始まった。 ●戦いの公園へ 「放っておくとアザーバイドとフィクサードの戦いは場所を変えながら続いて、一般人にも被害が出る」 『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)はそう言って端末を操作した。 2人の男と公園らしきものの地図が、スクリーンに表示される。 「ちなみに、こっちは人間に似てるけどアザーバイド」 筋骨隆々とした男性の方を差しながらイヴが説明した。 全裸の男性といった外見のアザーバイドは、人間に似た外見をしているものの……一ヶ所だけ、人間とは大きく異なっていた。 股の間から頭部がもう1つ、生えていたのである。 「こっちの頭部も人格みたいなのがあって、考えたり喋ったりできるっぽい」 それだけではなく、マグメイガス的な能力を使用することも可能なようである。 「体の方は、本来の人間の頭部に当たる側が制御してるみたい」 こちらはその外見に相応しいと言うべきか、デュランダルに似た能力を使用して戦闘を行うようである。 耐久力に優れ、異常にも高い耐性を持つようだ。 「上の頭と下の頭で1回ずつ攻撃を行う事が可能みたい」 もちろん体は1つなので出来ない事もある。 反面、出来ることもあるだろうが。 「タワー・オブ・バベルに似た力を持ってるみたいで会話は可能だけど……説得とかは無理だと思う」 自分たちの力を認めさせれば何とかなるかも知れないが、言葉だけでは止まらなそうとイヴは説明した。 「……それはフィクサードの方も同じかも」 そう言って彼女は、もう一方の画像を差し示す。 「剣林のフィクサードで、名前は最・強(もり・つよし) 覇界闘士っぽい」 偏った所のないかなりの実力者と説明した上で……イヴは、もうひとつ……と付け加えた。 「本人の弁によると、この男は修練を重ねた事で、全身で物を見て音を聞ける……触覚と同じ範囲で視覚や聴覚を扱える、と言っている」 感覚が極めて鋭く、攻撃を命中させたり回避したりする能力が極めて高いようである。 「ただ、体の表面を覆われているとその力が発揮できないみたい」 目隠しや耳栓をされているような状態と同じ、というのも本人の弁である。 「つまり本気を出す時、万全の状態で戦いたい時……彼は、何も着ていない状態になる」 努めて冷静に、イヴはそう言い切った。 言い切ってから……少し間を置いて、続けた。 「急げば戦いが始まる直前くらいには到着できると思う。その時、彼は既にその格好になっている」 強敵だから、最初から全力で……という事なのだろう。 「戦場は公園の広場。戦いの邪魔になるような物は、無いと思う」 広場の端にはアザーバイドが出てきたと思われるD・ホールが開いているようである。 今の処は何かが出てくる様子は無く、破壊せずとも数時間ほどで閉じるようだ。 「……色々思うことはあるかも知れないけど、とにかく先ずは両者の撃破か撃退を最優先で」 説明を終えると、イヴは皆を見回してから口を開いた。 「……強敵だけど、がんばって。応援してる」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月04日(木)22:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●未知との遭遇 「……アザーバイドはともかく、フィクサードの方は人間やめてない?」 (肌で見て聞くとか…明らかにおかしいでしょ……) 『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)は極めて常識的な意見を口にした。 (目隠ししてても見えたりするのかな?) まあ、話の種に暇があれば聞いても良いかもしれない。 「お兄ちゃんへの覗きとかに使えそうじゃん」 (やだーおにいちゃんのえっちー、とか言いながら目を隠しつつこう、その手で見るとか……) え、駄目? 「良いじゃん、お兄ちゃんのケチー」 現時点で既にブレイン・イン・ラヴァー全開状態。 最初から最後まで徹底的にクライマックスである。 「裸の野郎二人の格闘戦なんざ、ごく一部以外に需要ねーだろ」 さっさと介入して、さっさと終わらす。 そう口にした緋塚・陽子(BNE003359)の隣で。 (ふむふむ) 「実にいいね! すっごくいいよ! 頑張れボク! 最後まであの有志を見届けるんだ!」 ごく一部に所属しているらしき『ナルシス天使』平等 愛(BNE003951)は……きゅっふっふっふっふっふぅ。と、独特の笑い方をしてみせた。 (カメラ持ってきて正解だったよね) 「皆頑張って!」 そんな、良い笑顔をする愛も視界に収めながら。 「これって、類は友を呼ぶという事なのでしょうか」 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は呟いた。 (どうにも力の抜ける相手ですが、迷惑なのは間違い無い事実) 「速やかに、お引取り願いましょう」 「まぁーったく迷惑なお二人さんだねぇぃ。喧嘩ならよそでやっておくれよぉ」 『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)は同意するように呟いてから、でもまぁ強いってんならいうことはなしだねぇと付け加えた。 (まぁ全裸ってぇのがアレだけどぉ) 「……まぁいい」 どっちにしろ相手に不足はない。 (どちらもぶった斬るまでよ) 待ち受ける強敵との戦いを思えば、自然と顔に笑みが浮かぶ。 8人はそのまま公園へと到着し、遠目にアザーバイドとフィクサードの姿を確認した。 「自分ってのは曝け出すものじゃねえ。秘めるものだ!」 力説する『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)を見ながら、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は何となくという感じで呟いた。 「そういえば裸がユニフォームとか、そんな歌が昔ありましたっけ?」 いえ、本件とは特に全く関係ありませんが。 そんな言葉を交わしつつも、決して油断せず。 リベリスタたちは問題の1人と1体へと距離を詰める。 変態が二人。 (これは負けてられませんぜぇ~) 『√3』一条・玄弥(BNE003422)は相対している両者に向かって、声を掛けた。 「どっちが裸神なのかはっきりせい、まずはそこからや」 ●未知との接触 「……何者ダ?」 「どうやら喧嘩に混じりたい奴らがいたみたいだな?」 「って事はテメェの仲間じゃねえのか? 残念だったな」 「へ、いらねえよ!」 リベリスタたちに視線を向けた全裸(アザーバイドの上)が誰何の声を発し、全裸(人)と全裸(下)が言葉をぶつけ合いながら改めて戦いの構えを取る。 8人も態勢を整えつつ、更に距離を詰めた。 真っ向から喧嘩を仕掛け、三つ巴の乱戦の形に持ち込む。 それが今回の作戦である。 (うわ、ホントに脱いでますね) 後衛に位置を取りながら、レイチェルはあらゆる状況を想定した攻撃プランを演算により構築した。 構築しながら、一応。 答えは出ているような気もするが、念の為に。 「一応聞いてみるんですが、羞恥心とか無いのですか?」 レイチェルはフィクサードに問いかけてみた。 「羞恥心か……確かに昔は俺も、恥ずかしいと思う事はあった」 即否定され、おざなりに返事をしようと考えていた彼女は、おやと意外そうな顔をする。 直後。 「だが俺は、特訓によってその羞恥心を克服したのだ!」 「……OK、聞いた私が間違っていました」 別に向けろよ、その努力。 彼女がそう思ったかどうかは分からない。 ともかく8人は、先ず全裸(仮)の方の撃破を優先に作戦を考えていた。 (厄介な事もありますが、何よりキモいし) 崩界の危険を考えての事である。 キモイはあくまで副次的なものである。 そもそも、どちらもキモイ。 「本当の自分を曝け出す為にくれたえっちな水着を着ていくよ、お兄ちゃん!」 一方で虎美は、ブレイン・イン・ラヴァーを全開にして(つまりはさっきまでは、まだ全開ではなかった訳だが)、戦闘態勢に入るべく状況を観察しながら集中によって動体視力を強化した。 玄弥は漆黒の闇から創りだした無形の武具を纏って戦闘態勢を整え、強力な結界を展開したフツは強と歩を進める。 愛は回復の範囲を確認しつつ、なるべく離れた位置を取って周囲の魔力を取り込み始めた。 「そこの最強ちゃん!」 そして、全裸たちに向かって声を掛けた。 ●交渉決裂、戦闘開始! 「いい勝負の所を急に横入りして正直ごめんなさいだったんだけど、戦闘させないようにって言われてるから大人しくしてくれると嬉しいかな!」 「!? お前、後からきて何勝手な事、言ってんだよ!?」 「だって、そこのアザーバイド倒さないと世界が困っちゃうから!」 「知らねえよ! フィクサードにそんなこと言うな!」 「それと、アザーバイドを倒すまでこっちには絶対攻撃しないのと、アザーバイド倒し終わったら大人しく帰るって言うなら、息吹の範囲に収めてあげるよ! 結構きついんじゃないかな?」 「人の話、聞けよっ!!」 「そして、そこのどっちの口でごはん食べるかよくわからない人! 君は大人しく帰りなさい。下のお口とか笑えない冗談を誰かが言う前に出来る限りそう急に!」 「全然聞いてねえ!?」 「……何か一方的に言われてるぜ?」 「ドウヤラコノ男ハトモカク、コノ世界デハ露出スルコトハ悪ダト言ッテイルヨウダガ」 「……ま、いいさ。どっちにしろ、いいからこっちで来いよ、大将!」 全裸の下の頭の方が、あごでしゃくるような仕草をしてみせる。 「人にものを頼む時には、態度ってものがあるだろ!」 続くように全裸(人)も改めて戦闘態勢を取った。 予想通りというべきか、交渉は決裂。 御龍は全身に闘気を巡らせながらアザーバイドの方と向かい合う。 (狙いを定めての攻撃はしょうに合わねーんだよ!) 「そんなに近づいてっと纏めてなぎ払うぞ」 陽子も全裸(仮)へと狙いを定め接近し、強も同時に狙え味方を巻き込まないと判断したところで、踊るようにステップを踏みデスサイズを振り回した。 狙うのは、両者の股間。 マグメイガスモドキの行動を潰す目的があるが。 (それ以上に今回はここを狙うべきだろ) 精度も守りも、考えない。 「運に任せて攻めるのが俺の戦い方だ」 振るわれた大鎌を全裸たちは機敏に回避した。 「甘イッ」 「服の重みに縛られたお前らに、俺を捉える事なんて出来やしないぜ!」 何か言っている全裸たちに冷めた視線を送りつつ後衛に位置したモニカは、2体を射程に収められる位置を取りながら集中によって動体視力を強化する。 「衣類の重要性というものを、身体に教育してさしあげましょう」 無数の気の糸を紡ぎながら、レイチェルは断言した。 人が衣服を着用するのは、それが必要だから。 問答無用で、全裸の上下の顔を、最氏のむき出しの急所を狙って。 紡がれた糸が圧倒的な精度で襲いかかる。 避ける可能性のある方向、角度にまで先読みで放たれた気糸は、狙いを外すことなく目標を直撃した。 「おいおい、こっちは凄えな」 「っていうかえげつねえな、嬢ちゃん?」 「……女の子に脱げとかセクハラである自覚はありますか変態」 「セクハラや変態が怖くてフィクサードができるかっ!」 そんな全裸たちに向かって虎美が二丁の拳銃で、神秘と物理の両攻撃を試すべく先ずはと光弾を作りだし、玄弥も探るように黒のオーラと暗黒の瘴気を操り攻撃を開始する。 強と対峙したフツは緋色の長槍を振るって攻撃を仕掛け、愛は聖神の息吹を仲間たちへと振りまいた。 「デハ、コチラノ番ダ」 アザーバイドが逞しい腕を振るって強力な打撃を御龍に叩き込み、展開された魔方陣によって放たれた魔力の砲撃が御龍を貫き後衛のモニカにも直撃する。 「ふむ。なかなかどうして楽しいじゃないか! くくく……皆殺しだ!」 (全裸だがなんだか知らないが我の剣の錆にしてくれよう) 圧倒的な破壊の力に怯む様子もなく、笑みすら浮かべて御龍は痛覚を遮断すると、魔力を籠められた斬馬刀を振るった。 その一撃を、アザーバイドは機敏な動きで回避する。 ならば、充分に狙いを定めるべきか。 彼女は油断なく敵の動きを窺っていく。 続く陽子の斬撃は絶妙な動きで全裸の下の頭を切り裂き、モニカは銃弾の嵐で全裸たちを薙ぎ払った。 雰囲気はともかくとして、戦いは確実に激しさを増していく。 ●伏龍とメイドと全裸と黒鎖 「お前は服を重みだと、縛るものだと言ったな。それは違う」 フツは強に向かって、力強く断言した。 服は、伏に通じる。 「伏龍(諸葛亮)が溢れる知略で大陸の歴史を変えたように、覆われたもの、隠されたものには、無限の可能性がある」 だが、と。全裸に向かって彼は言い放った。 「お前の可能性はそれが全てだ!」 「何ィッ!?」 既に見切ったと言わんばかりのフツの言葉に、強は驚きの声を上げる。 「オレ達の可能性は、そう簡単にゃ見通せないぜ」 大地を伝う無数の伏流から生まれる、湧き水のように。 「衣服という物は人類の文化の基礎です」 自然界的に見れば衣服など必要としない他の動物と比較すると、確かに退化と呼べる要素かもしれません。 「しかし衣服を纏う事によって得られる存在意義だってあるんですよ」 フツの後に続くようにモニカが語り始めた。 「貴方を否定はしませんが、だからって我々がdisられる筋合はありません」 フツの言葉にショックを受けた様子の強は、そのままモニカの言葉に聞き入る。 「……何が言いたいのかって?」 一呼吸置いて、モニカは銃口を向けながら宣言した。 「メイドはメイド服を着てこそメイドだって事ですよ」 私はこの服装だからこそ、本気。 「故に貴方とは相容れられそうにありませんね」 「……すごいな、お前たちは」 目から鱗が落ちたような表情で、強は2人を敬意の籠った瞳で見つめた。 「……だが、言葉だけでは認める事は出来ん」 その正義を貫く力を、見せてもらおう。 そう言って、強は改めてフツに向かって構えを取る。 一方で御龍は狙いを定め破壊の斬撃をアザーバイドに叩き込み、陽子も運と主義を最優先に大鎌による高速斬撃を繰り出すことで戦いを続けていた。 (我もタイマンは好きだからな) 「邪魔するのは忍びないがこれも任務」 アザーバイドの動きを封じるように位置を取りながら御龍は、蓄積していく傷を恐れず真・月龍丸振るう。 執拗に急所狙い、と思わせて。 意識が下に向いたところでレイチェルは目潰しを狙って気糸を操る。 「全体掃射は任せろー」 虎美は相手の挙動、攻撃に対する反応等を妹アイで観察しつつ、嵐のような銃撃をメインに攻撃し続けた。 アザーバイドの防御能力そのものは物理の方がやや優れているようだが、彼女自身の攻撃力も考えると、物理の方が効果が大きい。 玄弥も瘴気による攻撃を主として全裸(仮)を狙っていく。 強がフツへと強烈な投げ技を仕掛け、フツは長槍の持つ力を付与すべく直撃を狙う。 そんな状態で。 「おいおい、そっちだけ盛り上がってんじゃねえぞ!」 魔力を溜めていたらしい全裸(下)が血液を触媒に黒い鎖を創りだし、周囲に向かって解き放った。 ●怒涛の如く 濁流は主に前衛たちを狙って放たれた。 御龍、陽子、玄弥、フツら4人が直撃を受け、強は機敏な動きで鎖の群を回避する。 続く強烈な一撃で倒れかけた御龍は、運命の加護で途切れかけた意識を繋ぎ止めた。 限界に、寧ろ笑みが深くなる。 傷を受ければ受けるほど、戦いが楽しく感じられてくる。 狙いを定め、全身の闘気を爆発させ、彼女はアザーバイドへと斬撃を叩きつけた。 フツとモニカの言葉に感動して此方に専念してくる強を牽制するように、レイチェルは気の糸で罠を作り上げる。 二度目の仕掛けを避けきれず、強は動きを封じこまれた。 だが、皆が攻撃を続ける間にも御龍へと狂戦士の如き攻撃が繰り返され、蓄えられた力で二度目の鎖が放たれる。 今度はフツの攻撃を受けていた強も呼び寄せられた不運によって攻撃を受けた。 そして……御龍が耐え切れずに力尽きる。 これによりリベリスタたちは攻撃手であり、アザーバイドのブロッカーであった一人を失う事になった。 フツは強と対峙しつつも、全裸(仮)の動向にも注意を向ける。 強が逃げるのは構わない、 だが、全裸(仮)が公園外に出るのは避けたかった。 とはいえあくまで彼が対峙するのは強である。 注意を他に向け過ぎれば、不覚を取る可能性は高い。 実際、強を抑えられてはいたものの、フツがこれまでに受けた負傷も無視できないものだった。 強だけの攻撃ならば愛の癒しでほぼ回復できたが、時々飛んでくる全裸(下)の魔法的何かが問題だったのである。 だが、全裸の次の標的とされた陽子の受ける事になった攻撃はそれ以上だった。 拡散した雷撃を絶妙の動きで回避した直後、渾身の力を籠めた一撃が守りの隙間を縫うように直撃し、彼女も運命の加護で戦線離脱を防ぐ。 愛が懸命に癒すものの、御龍ですら耐え切れなかった攻撃を堪え続ける事は……不可能だった。 繰り上がるように、玄弥が前衛に立つ。 「金○も大変やなぁ。でっけ○玉やなぁ」 身を低くして上の頭とは目線すら合わせず、下の頭へと話し掛けながら、彼は強欲の鉤爪を振り回した。 可能な限り直撃を受けないように、防御したり、かわしたり。フェイントを混ぜつつ敵の動きに集中し、命を啜る赤色に武器を染めて……執拗に、急所狙い。 それに対して全裸(上下)は、謝っても殴るのをやめないくらいの勢いで執拗に玄弥を攻撃する。 玄弥はゴキブリの如き体術でもってカサカサと蠢くものの……直撃を受け、憤死。直後、 「ゴキブリなめんなよ!」 運命をひん捻り繰り寄せて立ち上がる。 レイチェルは気の糸で攻撃を続け、虎美も同じように銃の狙いを全裸に定めた。 (お兄ちゃんより小さいと狙いにくい) 「え、俺とあんなのを比べるな? ごめんね、お兄ちゃん」 脳内のお兄ちゃんと話しながら虎美はアザーバイドの股間を狙い撃つ。 玄弥へのダメージが大きくなっていくのは勿論だが、この時点でもう1つの問題が発生していた。 幾人かが力の限界に近付いていたのである。 特にレイチェルの消耗が大きかった。 モニカも消耗は激しいが、彼女の場合はエネルギーを生産できる。 虎美と玄弥も消耗していたが、2人は途中まで敵の様子を探るべく複数のスキルを使用していたお陰で多少の節約ができていた。 愛だけは魔力を取り込み、気を練る事で消耗を減らしつつ皆を回復し続ける。 この状態で……全裸(上)の攻撃が玄弥を襲い、全裸(下)の放った雷撃が皆に襲いかかった。 玄弥が倒れた……だけではなかった。 対峙していた強とフツも、この攻撃を受け限界を迎えることになったのである。 フツは強との対峙で運命の加護を受けており、強の方はフツからの直撃を受けていたのが文字通り不運となった。 放り出されたように、一気に3人が戦線を離脱する。 最後の力を振り絞り、玄弥は強の大事な所を葉っぱで隠した。 戦えるのは、虎美、レイチェル、モニカ、愛。4名と、アザーバイドのみである。 「私、まだ頑張れるよ! お兄ちゃん!」 運命の加護で、お兄ちゃんに励ましてもらって、虎美は生命線の愛を庇う。 愛は癒しの力を使い分ける事で消耗を押さえ、モニカも使用能力を対単体攻撃へと変更しアザーバイドの『下の頭』を狙撃し続けた。 だが、それでも……アザーバイドを撃退するには届かない。 ●決心 迷っている時間は、あまり無かった。 戦い続ければ、短い時間で全滅の危険もある……むしろ、高いといえる。 リベリスタたちは撤退を決意した。 レイチェル、虎美、愛の3人が傷付いた者たちへと手を、肩を貸し、モニカが牽制を担当する。 彼女はそのままアザーバイドを狙撃しつつけ、残った者たちは出来るだけ急ぎ距離を取った。 強力な一撃を堪えたモニカも、そのまま一気に距離を取る。 全裸(仮)は攻撃を行ってきたものの、追撃してはこなかった。 リベリスタたちは公園から離れ、ようやく一息つくことができた。 全裸(アザーバイド)を撃破、撃退する事はできなかった。 それでも……全裸(フィクサード)を倒すことはできたのである。 少なくとも、両者が戦う事によって一般人に犠牲が出るという事態は避ける事ができたのだ。 もっとも、悔しくないと言えば嘘になる。 (しかも……戦闘の為とはいえ、思いっきり直視しまくってしまいましたね) ちょっと思い出して、頭を強く振ってから。 レイチェルは、ちいさく呟いた。 「今度会うときは……」 口にしてから彼女は……もう一言、自分の願いを付け加えた。 彼らが服を着たままでも、全力を出せるようになっていますように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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