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Knockin' on heaven's door

●救われるモノ
「ぐっ……がかっ……あっ、ぎっ……」
 血の色を失った女の唇から、濁った呻きと涎が流れ出る。自らの下に横たわる女の細い首に手を掛けたまま、『咎食み』はその醜い顔に微笑みを滲ませた。
「苦しいかい……?」
 囁く様な声に、女は口角をぎこちない動きで釣り上げた。
「い……ぃいえ、ぐっ、苦しくなんで無いわ……っ、ぁ、貴方にこうしで愛されてるんだがら……あッ」
 漏れる嬌声に笑みを歪ませながら、『咎食み』は女の耳元へと口を寄せた。耳朶に舌を這わせ、囁く。
「――愛しているよ」
「ぁあだじもっ、あたじも愛じてる、愛じでるわっ……!」
 背に回された女の指が皮膚に食い込む。血が滲むのにも構わず、『咎食み』は涙と鼻水と涎に塗れた女の顔を笑みのまま見下ろした。
「そうだ、そのまま――」
 そして、手に更なる力を込める。
「愛に包まれたまま、逝きなさい」
 掌の下から、ぼきりと鈍い音がした。声にならない悲鳴を上げながら蠢いた女は、やがてその動きを止めた。両腕がだらりと落ちる。その息が完全に止まった事を確認すると、『咎食み』はベッドから降りた。
「さて、と」
 部屋の隅に立て掛けられていた大きな鋸を手に、ベッドへと戻る。
「次は、肉体を救ってやらねば」
 一層深い笑みを浮かべると、彼は鋸を女の亡骸に振り下ろした。

●救うモノ
 白いワンボックスカーが、夜闇に染まった山道をライトで照らしながら駆け下りていく。それを見届けた篠田は、無言で踵を返した。
 やがて持ち場へと辿り着いた彼を目に留めると、阿部は煙草を地面へと捻じ込んだ。
「今回は何人だった?」
「四人でした。香川が小屋に連れて行っています」
 篠田の返答に、阿部の眉が寄る。
「多いな。前のもまだ処理しきれて無ぇってのに。――ったく、短期間に食い散らかしすぎだ、あいつら」
 良い思いしやがって。新たな煙草に火を灯しながらぼやく阿部に、篠田は唇を結んだ。そして背を向ける。
「おい、何処に行くんだ」
「見回りです」
 歩み出した足を止める事無く返す篠田に、阿部は肩を竦めてみせた。
「いい加減慣れてくれねーかな。テメーがここに居んのはヘマこいた代償なんだからよ」
 その言葉に返答は無かった。遠ざかる背から目を逸らし、紫煙を大きく吐き出す。
「……これだから若造は」
 紫煙越しに月を見ながら、阿部は頭を掻いた。
(香川も何考えてるかよく分からん無口ヤローだしよぉ……ま、イザという時に仕事してくれりゃ問題無ぇんだがな)
 そんな事をぼんやりと考えていた時、血に染まった襤褸を纏った男が彼の傍に現れた。
「よう、『咎食み』。仕事は終わったのか?」
 阿部の声に、『咎食み』と呼ばれた男は柔らかな笑みを返した。
「ああ、今日も無事穢れた魂と肉体を天国の扉へと導く事が出来たよ」
「そりゃ結構」
 言葉と共に漂う血腥い息に、阿部が微かに眉を顰める。それに気を留める事無く、『咎食み』は笑みに満悦を滲ませた。
「まだ、救うべき者達は居るのかな?」
「お蔭様で大盛況でね。順番待ちの列が出来てるんだ。宜しく頼むぜ」
 その言葉に笑みを深めると、『咎食み』はくるりと背を向けた。来た道を戻っていく。その姿を、阿部は色の無い瞳で見送った。

●救われざるモノ
「今回依頼したい仕事は、このグールの始末だ」
 そう告げながら、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はモニターから目を逸らした。
「奴はあるフィクサードの組織に飼われているノーフェイスだ。組織内で弄ばれた揚句用無しになった女を喰らって生きている。奴の言う名目は『穢れた魂と肉体を天国の扉へと導く為』だそうだが……ただの快楽殺人者であり、グールでしかない」
 険しい顔で首を振る彼に、リベリスタ達も眉を寄せた。
「場所は山中にある建設会社の資材置き場か。広さ的に戦闘に支障は無さそうだが……」
「問題は、そいつと一緒に居るフィクサード共だな」
 彼等の言葉に頷くと、伸暁は事前に配られた資料を手にした。
「フィクサード達の仕事は、万一の際にグールの離脱をサポートする事だ。基本的に阿部というリーダー格の男がグールをカバーし、残りの香川と篠田がエネミーを足止めする形で動く。恐らくは今回もそれを最優先にするだろうよ」
 リベリスタ達もまた資料に目を落とす。そこに書かれたフィクサード達の能力に、彼等は唸った。
 攻撃手段自体は、リベリスタ達とそう大差ない。問題は、彼等の持つ索敵能力であった。何の対策も無いまま近付けば、グールはその姿を見る前に逃走を完了してしまうだろう――と伸暁は語った。
「強引にアタックする方法もあるだろうが……まあ、その辺は皆のアイディアに任せるぜ。ただひとつだけ――グールを見失った時点でアウトって事だけは覚えておいてくれ。あと、奴等のバックにある組織に関しては今回は考えなくていい。とにかく、目の前のトラブルに集中する様に」
 言葉を切ると、彼はにっと笑ってみせた。
「危険はあるが、やりがいは保障するぜ。――どうだ、乗らないか?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:高峰ユズハ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月07日(火)22:06
NOBIリッシュヒーローアクション第一弾。
以下に詳細を記します。

■現場
とある山中にある建設会社の資材置き場――を装ったフィクサード組織のアジトのひとつ。傍を山道が通る他は、木々に囲まれています。境界には簡単な囲いがあるのみで、簡単に越えられます。
中央が広場の様になっていて、端に資材の山と四つのプレハブ小屋があります。その内のひとつが『咎食み』の作業小屋となっていて、もうひとつに犠牲となる女性達が押し込まれています。外見からは判別がつきません。
昼夜を問わず人通りはほぼありません。

■敵
▽『咎食み』
フェーズ2のノーフェイス。血の染み付いた襤褸を纏った男。組織より送られてくる女性達を『テンプテーション』に似た能力で洗脳状態にし、『魂と肉体の救済』の名の下に殺し貪り喰らう快楽殺人者です。
【神の加護】自分のみ/神秘。女性の形をした光を一体召喚します。『咎食み』に向けられた攻撃のうち、クリーンヒット(100%)未満のものはこの光が身代わりとして受けます。HPが設定されており、ダメージがそれを越えた場合は消滅し、また効果も無くなります。なお、この光に直接ダメージを与える事は出来ません。
【神の裁き】遠距離全体/神秘/ダメージ。刃の形をした光を複数召喚し、対象を切り刻みます。
【死の刻印】近距離単体/物理/ダメージ+『流血』。掌に光を宿し、触れる事で対象に刻印を刻み込みます。刻印からは夥しい量の血が流れ出します。

▽フィクサード
三人。それぞれジョブに対応したスキルを持つ他、共通して以下のスキルを持っています。
【仕事はスマートに】パッシブ/自分のみ。命中と回避にプラス修正。
阿部:ジーニアス/クロスイージス。3人の中でリーダー格であり、実力も一番高い。性格は軽め。『熱感知』『集音装置』持ち。得物は大太刀。
香川:ジーニアス/プロアデプト。無口。『暗視』『強結界』持ち。得物はショットガン。
篠田:ジーニアス/ホーリーメイガス。若い。『超直感』『猟犬』持ち。得物はブラックコード。

戦闘分多めです。相談期間が短くなっておりますので、お気を付け下さい。
宜しくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
プロアデプト
ラキ・レヴィナス(BNE000216)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
マグメイガス
柩木 アヤ(BNE001225)
デュランダル
千早 那美(BNE002169)
スターサジタリー
望月 嵐子(BNE002377)
覇界闘士
後鳥羽 咲逢子(BNE002453)
■サポート参加者 2人■
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)

●忍び寄る暗雲
 夕日に闇が滲み始める日没前。扉の前で香川と共に佇んでいた阿部は、慌てた様に駆けてきた篠田の表情に肩を竦めた。
「やれやれ……当たるなら良い予感にして欲しいぜ、なぁ?」
「では、やはり」
 無言で頷くと、阿部はアジトの横を走る山道へと視線を向けた。
「しかし、スピーカーか何かから車の音流しながらって、どういう状況だろうな?」
 意図を掴めぬ様子の篠田に、彼は頭を掻いた。
「あー、つまりだ。普通の奴にゃ聞こえん位置でやってる所から考えても、俺のこの『耳』に聞かせる為の小芝居の可能性が高いって訳よ」
「――まさか、奴等は我々の能力を」
「かもな。何処の誰だか知らねぇがワケありな奴等なんだろ。それも、俺等にとっちゃ悪い意味でな」
 苦笑すると、阿部は大太刀を肩に担いだ。
「さーて、今の内にずらかるとするか。――んじゃ、スマートに頼むぜ?」
「言われなくとも」
 即答する篠田と頷く香川の肩を叩くと、彼は『咎食み』の下へと向かった。

 車の音の再生を終えると、『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は携帯電話を閉じた。アジトへと向かう彼を、『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)と『威風凛然』千早 那美(BNE002169)は追った。
 あの音を阿部が耳にすれば、足止めの為に二人をこちらへと差し向けるだろう。その読みの下、三人は足を進める。
 後方を行きながら、天乃は目を伏せた。
(人質の人達、を助ける為に、も……プレハブ小屋、の情報、あれば良かったんだ、けど)
 当初は、別働隊として動く『うにゃああああああああああ』後鳥羽 咲逢子(BNE002453)が望遠と透視の力を持つ瞳でアジト内を把握、それを『天眼の魔女』柩木 アヤ(BNE001225)がテレパシーで伝達する事になっていたのだが――
 木々が茂る中では見通しが利かず、また単体の物しか見透かす事の出来ない透視の力も上手く通じない。その為、得られた情報は少なかったのだ。
(想定外、か)
 天乃の横を行く那美も、軽く唇を噛んだ。
(『咎食み』の動向が知れないのは厳しいけれど、きっと皆が上手くやってくれるはず。私達は私達の出来る事をするのみね)
 顔を上げた彼女の目前には、アジトの入口となる簡素な門があった。
「フィクサード共は現れず、か。それでは、次の段階に移行しよう。準備は良いかね?」
 頷く天乃と那美を背にオーウェンが門を潜る。事態は、こうして静かに動きだした。

●すれ違う思惑
 一方その頃。アジトより風下に当たる場所にて、リベリスタ達はじっと待機していた。
 篠田と香川を三人が抑えている間に小屋へと突入し、『咎食み』を討伐する。その作戦を上手く運ぶ為には、実行までその存在を気付かれてはならない。息使いすら潜めながら、彼等はその時を待った。
(誘導班達はそろそろ篠田と香川と接触している頃だろうか)
 時間を勘定しながら、咲逢子は首をアジトへと視線を向けた。
 その時、アジトの方向から閃光が迸った。微かに響いた悲鳴に、『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)が目を剥く。
(これは……三人のもの!)
 彼女の横で、ラキ・レヴィナス(BNE000216)は立ち上がった。
「やたらと物騒な狼煙だが……おっぱじめるとするか!」
 声を潜めて告げる彼に全員が頷く。ラキを先頭に、彼等は移動を開始した。
 人質救助が目的である事を装う為に、その旨の会話を交わしながらアジトへと向かう。その輪の中で、『薄明』東雲 未明(BNE000340)の胸に不安が差した。
(大丈夫かしら、オーウェン)
 今はただ、彼等を信じて動くしかない。頭を振ると、彼女は仲間を追った。

 光の奔流に倒れた三人の下に、資材の陰から篠田と香川が姿を現した。事態を悟って、那美は僅かに顔を顰めた。
(待ち伏せされていたなんて、迂闊だったわ)
 衝撃の残滓が残る身体で立ち上がる。集中を重ねた上に放たれたらしい聖なる光と精密射撃は、彼女の身体に小さくは無いダメージを与えていた。
 彼女達へと、篠田は悠然と歩み寄った。
「成程、確かに只者ではない様ですね」
「貴方達が、篠田、と、香川?」
 天乃の問いには答えず、篠田は得物を手にした。
「さて――去るか戦るか、今すぐ選んで下さい」
「後者だ。そちらと同じく、こちらもそれが仕事である故な」
 オーウェンが不敵に笑う。しかしその内心では、焦燥がちりつき始めていた。透視で小屋を確認したものの、『咎食み』の姿はそのいずれにも無かったのだ。
(『咎食み』は既に逃亡済みか……)
 護衛対象に危害が及ぶ可能性が無いならば、自ら出向かうよりも自分の庭に相手を引き込んだ方がやりやすい――奇襲の意味を悟って、彼は歯噛みした。
 彼へと笑みを返すと、篠田と香川は構えを取った。
「さあ、始めましょうか。それぞれの仕事を、ね」

●縮まる距離
 複数の足音を察知して、阿部は足を止めた。
「やっぱ風下に別働隊が居たか、やれやれ」
「読みが当たった様だね」
 微笑する『咎食み』に、阿部は無言で頭を掻いた。
 己の『耳』を知るなら、篠田の『鼻』も知れている可能性は高い。ならばそこも突いてくるだろう――と彼は予測していた。だが、相手がすぐにアジトを離れた事は、僅かにその範囲外だった。
(となると、このペースじゃちょいと拙いな)
 派手に駆ければあちらに勘付かれかねない。その為、彼等は慎重に足を進めざるを得なかったのだ。
「追いつかれるかな?」
「さあな」
 素っ気なく返すと、阿部は再び駆けだした。

 空気を裂き、木々の合間を縫いながら飛行する。アヤと『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は、地上を行く仲間達より先行する形で周囲の探索を行っていた。
 アジトへと向かったリベリスタ達は、既に『咎食み』の姿が無い事をすぐに悟った。
 二人の追跡へと移った彼等であったが、手掛かりは少なかった。足跡は柵を境に途切れ、木々の間に音は無い。逡巡の後、彼等は風上へと動き出した。風下方向には気配は無かった事からの判断であった。
(半ば賭けね――それでも、諦める訳にはいかないわ)
 後方を飛行しながら、ニニギアが思いを噛み締める。方角が間違っているんじゃないか、もう手遅れなんじゃないか。懸念が心に浮かんでは消えた。それでも、彼女達は挫ける事無く探索を続けた。
 そんな彼女達に、天は味方した。
 遠くに動く二つの影を見て、カルナは翼を翻して止まった。それに気付いた二人を尻目に、彼女はその影へと進路を変えた。
 距離が近付くにつれ、二つの影の姿が鮮明化する。彼女は後方のアヤへと振り返った。
「見つけました! アヤさん、皆さんに連絡してください!」
「分かったわ!」
 再び前を向くと、彼女は更に速度を上げた。

●削られる魂
 木々の向こうで騒音が響く。音の方向に瞳を向けた篠田に、輝くオーラを纏った那美が躍りかかった。
「何を気にしているのかしらね? 今は自分の心配をした方が身の為じゃないかしら」
「確かに、そうですね」
 連撃に揺れる身体を、篠田は何とか留めた。
 オーウェンが別働隊の下へと先行した後、彼等は一進一退の攻防を続けていた。篠田を集中的に狙うリベリスタ達に対し、香川は精密射撃がもたらす『怒り』によりその狙いを分散させようと動く。それはそれなりの効果を見せ、都度篠田に回復の隙を与えたのだが――
「静かに、してて」
「……っ、また……!」
 天乃の身体から伸びた糸は、篠田を逃さず捉えた。
『怒り』の隙を縫って放たれる糸は、篠田を度々拘束した。毎度とまでは行かなかったが、彼の手を封じるにはそこそこの役割を果たしていた。
 舌打ちして、香川が天乃に照準を合わせる。足元を穿たれて、天乃は顔を顰めた。
 奇襲で傷を負ったのもあり、彼女と那美は疲労を蓄積させていた。気を抜けば流れはあちらへと傾く。そう悟りながらも、那美の顔には不敵な笑みが滲んでいた。
「この感じ、嫌いじゃないわ」
 その笑みに息を呑む篠田へと、彼女は再び地を蹴った。

 新たに現れたリベリスタ達の姿に、阿部は大太刀を振るう手を止めた。
「よう、いらっしゃい。歓迎してやりたいところだが――今は手が離せなくてな」
「お構いなく。こっちも遠慮なしで行かせて貰うぜ」
 そう返したラキに阿部が笑う。傍に立つ『咎食み』は、興味深げにリベリスタ達を見回した。
「君達も、彼女達の様に私の手で救われる為に来たのかね?」
 咲逢子は嫌悪感に顔を顰めた。
「救うとか救わないとかどうでも良い。私達はただお前を倒しに来ただけだ」
「それは困るな。人々を救済出来なくなる」
 平然と返すその姿を、カルナは冷えた瞳で見据えた。
「穢れた身でありながら神であるかのような振舞い……あまりに不敬です」
 そして、得物を胸元で翳す。
「――救われるべき者を救い、救われる余地なき者に裁きを」
 その言葉が、戦闘開始の合図となった。
 ラキの解析通り、『咎食み』が攻撃の主体になり、阿部はそれを援護する様に動いた。その動きは厄介なものであったが、リベリスタ達の多くは『咎食み』へと攻撃を集中させた。
 オーウェンが飛ばした呪印に囚われ、『咎食み』は動きを止めた。
「今だ、そのまま打ち抜いてやりたまえ!」
 それに反応して、未明が木々を足場にして多角的に攻撃を放った。
「面倒な事をしてくれるねぇ」
 阿部が、狼狽する『咎食み』へと邪気を払う光を放つ。正気と動きを取り戻した『咎食み』は、刃の形をした光を召喚した。
「仕方あるまい。――さあ、神の裁きを受けたまえ」
 飛翔した光の乱舞が、リベリスタ達を切り裂いた。
『咎食み』を攻め立てるリベリスタ達であったが、その効果は今ひとつであった。
(やっぱ、あの光がネックだな)
『咎食み』に寄り添う女性型の光。それがある限り、中途半端な攻撃は通らない。ならばとラキはその解除を試みた。『咎食み』へと精度の高い予測の下一撃を放つ。それは強烈な一打となったが、光は消えなかった。
 苦笑する彼の身体を、光を宿した『咎食み』の掌が触れる。傷口から迸る血と激痛に呻くラキへと、カルナは癒しの微風を、ニニギアが邪気を払う光を呼んだ。
 ラキの傷が塞がるのを見つめるカルナの胸に、不安がよぎった。
(一撃が重い……今はまだ回復が潤沢にありますが、場合によっては、魔力回復の加護が間に合わなくなるかも知れません)
『咎食み』に対して落下する硬貨すら打ち抜く精密な射撃を繰り返す嵐子も、似た思いを抱いていた。
(……動きを封じられれば楽なんだろうけど、ね)
 阿部を睨む様に見る。その先で、阿部は不敵に笑ってみせた。

●分かたれる運命
 濁った呻きと共に、篠田の身体が傾く。地に倒れた彼は、そのまま動きを止めた。
「これで貴方の命綱は切れた――天乃、後は任せたわ」
 強張った表情で篠田を見た香川が顔を上げる。しかしそこに那美の姿は無かった。
 次の瞬間、香川の背で那美が放った雷気が弾けた。炸裂した電撃に、香川の身は跳ねる様にして転がった。
「置き土産よ。それじゃ、精々頑張りなさいな」
 満足気に笑うと、那美は『咎食み』の居る方角へと駆けた。
 残された天乃と香川は、文字通り削り合いの戦いを展開した。
 足場を利用して放たれた強烈な一撃にぐらつく香川へと、天乃が更に気糸を放つ。それを掻い潜った香川は、天乃へと思考の奔流を物理的な圧力として爆発させた。
 歩み寄る香川を見据えながら、天乃は軋む身体を何とか立ち上がらせた。
「ふ、ふふ……楽しくなって、きた」
 凄絶な笑みに、香川も口元に笑みを滲ませた。
 戦いはやがて究極の境地に入った。身体が限界を迎える際に一度だけ使える『奇跡』を使い果たしながら、尚も天乃は香川へと立ち向かった。まさに死闘と呼ぶに相応しい、力と力の乱舞。その果てにあったものは――

(……香川も倒れたか)
 未だ激戦が続く中、阿部はそれを音で悟った。
(潮時だな)
 大太刀を振るう手を止めて、彼はリベリスタ達に向き直った。
「さて――こちらの手駒が無くなっちまった事だし、俺はそろそろお暇させて貰うぜ」
 突然の申し出に、リベリスタ達と『咎食み』は呆気にとられた。
「あんた達の狙いはコイツだろ? 悪い話じゃないと思うが」
 リベリスタ達が言葉を詰まらせる。確かに、阿部が引けば援護が無くなり、『咎食み』の討伐は幾分か楽になるだろう。しかし彼等は釈然としないものを感じた。
「任務を放棄すると言うのかね」
「ま、そういう事だ。お上さんとしても、処理に便利だから生かしておきたいって程度だし――何より俺にここでくたばるつもりは無いんでね」
 オーウェンの問いにもあっさりと返す。それに、『咎食み』は当然の如く憤った。
「わ、私を見捨てるのか」
「それじゃ、宜しく頼んだぜ」
 それだけを言うと、阿部は踵を返した。その背を追おうとした『咎食み』に、ラキが精密射撃を放った。『怒り』に『咎食み』の瞳が彼へと向く。
「……とっとと行けよ。だが、次は無いぜ」
 彼の声に、阿部は手を振るのみだった。
「出来ればあの男も潰しておきたかったけれど――」
 落胆の滲む声で言いながら、アヤが魔炎を召喚する。集中状態から放たれたそれは、『咎食み』の足元を確実に捉えた。燃え盛る炎に焼かれながら、『咎食み』は顔を歪ませた。
「お前達も、あの男も、皆、皆――神の裁きに穿たれると良い!」
 吠える声が、木々の間に響き渡った。
 しかし、阿部が消えた今状況はリベリスタへと傾いていた。そしてそれは、阿部から施された体力回復の加護が失われた後に顕著となった。
 勿論、光の加護はまだあり、また攻撃の苛烈さも変わらない。体力回復が追い付かなかった幾人かが体力の限度を超え、『奇跡』により復活する者もあれば倒れる者も出た。
 死力を尽くした戦いは、やがてその結末へと彼等を導いた。
 麻痺に動きを封じられたまま身動きが取れないところに、幾度目かの一斉攻撃が降り注ぐ。血塗れになりながらも起き上がろうとする『咎食み』に向けて、咲逢子は鋭く蹴りを放った。その軌道はかまいたちとなり、『咎食み』を切り裂いた。
 最早声にならぬ声を漏らしながら、『咎食み』は尚も蠢く。しかし、その動きは徐々に小さくなり、そして完全に動かなくなった。
「今まで女性達を食い物にしてきた報いだ。――地獄でそのツケを存分に支払うと良い」
 その言葉に、答えは無かった。

 小屋より解放されて、女性達が歓喜の声を上げる。それをよそに、アヤは夜闇に覆われた空を仰ぎ見た。
(任務は完了……でも、根本的な問題は残ったままね。――組織の正体、気になるわ)
 再び彼等と運命が交わる日は来るだろうか――それは未だ、神しか分からない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
まずは、皆様お疲れ様でした。そしてご参加頂き誠に有難うございました。

今回は悩みました。その結果はリプレイに詰め込みましたので、ご確認下さい。
対『咎食み』戦闘に関しては、サポートの方を含め回復に専念される方がいらっしゃった事が大きく、思いの外被害の少ない結果になりました。

逃亡を果たした阿部に関しては、再び闇に蠢く事になります。また皆様の前に現れるかは予定は未定です。

ともあれ、無事依頼は成功となりました。お見事でした。

またご縁がありましたら、その際は宜しくお願いします。
高峰でした。