● 三つの月が荒野を照らし、ただ静寂の帳を下ろすそんな夜。 日々警戒を怠らず、拠点設営も順調に続けるリベリスタ達の苦労もあり、この『完全世界ラ・ル・カーナ』では大きな問題は発生していなかった。 守るべき長耳の少女たちの保護も、治安の維持も着実にこなしている。 だが、平穏と言うのは破られる為にある。そう、今はその時だ。 遠く、その向こうに見えるのは赤い肌をした蛮族。この見晴らしの良い荒野ではその姿は隠れる事はない――いや、元から隠れる気などないのだろう。遠く、荒野の向こうから巨大な獣を連れリベリスタらの拠点へと近づく集団。 「……あれは、なんだ」 一人のリベリスタは声を漏らす。恐怖のにじみ出たその声は、今までのバイデンらの動きとは比にならない統制のとれたソレ。遠く、此方をじっと見つめる彼らの瞳にリベリスタの体は震えた。 「あれは、此方を狙っているようにしか思えない」 誰かが言う。その声に警戒を行っているリベリスタは頷いた。あれは総攻撃の準備である、と。 意思疎通は不可能ではないだろうが気質故にその戦闘を回避する事など難しい。 「守り切らなければ――ボトム・チャンネルにあいつらが」 嫌な予感がする。もしも拠点が陥落されたら、制圧されたリンクチャンネルからバイデン達がボトムチャンネルに――守り切らねばならぬ場所へと流れ込む。其れは避けなければならない。リベリスタの脳内にちらつくのは仲間達や、愛しい家族。 リンク・チャンネル防御の為に設営されていたラ・ル・カーナ橋頭堡。 この場所を護り、バイデンを撃退しなければいけない。其れは彼らの決意。彼らが守るべき者の為の戦いとなる。 ● じっと前を見据えた赤い蛮族は思う。これは誇りの為の戦いである、と。 ただ、その視線は下位世界から現れた者たちを見据えている。これは、自身らの守るための戦いである。 なれば、遣る事は決まっていた。士気を上げる為には必要な行為であった。其れこそが『我らの戦い』である。無鉄砲な戦いでもいい。だが、攻め込むならば勝機を狙うしかない。 フュリエの味方である以上我らの敵である。忌み子だと、そう『フュリエ』は言うが、我らはこの地に生を受けた一つの種なのだ。 どちらが味方であるかなど、語るには及ばず。貴様らは長耳の種を正義とし、此方を悪としている。 脅かす悪と言うならば。構わない、なれば潰すに限る。 今から行うのは、誇りの為のもの。我らが士気を高めるソレ。暫し待たれよ、下位世界の住民よ。 ● 「バイデンが変な動きをしている?」 物見台から眺めていたリベリスタがぽそりと呟く。迫るバイデンらの中で10人程度の小隊が動かずに何か行おうとしているのだ。その様子は此方に聡い方法で攻撃を喰らわそうとするものでもなく、言うなれば騎士が主へ忠誠を誓うかのような行動。その場から動かず、じっと目を閉じ、時折声を上げるその行為。 それが『誇り高き行為』であるかのような。そんな、その行為。 「……まさか、あいつら脳筋っていうか、戦えれば何でもいいんだろ?」 「あれで士気を高めているとか、そういうのか」 憶測は飛び交う。ただ、分かっている事が彼らがその行為を終えるまではその場から動かないという事だけだった。其れが終わってしまえば彼らの背後に居る巨大な一つ目の百足を伴い総攻撃を行うだろう。 遣らぬわけにはいかない、今、その『儀式』の様なものを行っている彼らの邪魔をし、此方が勝利をおさめなければならない。 何を行っているか、何を想っているか。それは気になる所ではある。しかし、今は戦う場面である、とリベリスタ達はじっと赤き蛮族を見降ろした。橋頭堡を撃破されては、大切な任務が、大切な人が、大切で愛しい世界が壊れてしまう。未知なる、言葉の通じないその戦士達。 そう、彼らが――戦士たちが『誇り』の為に行うその『行為』を踏み躙ることになるかもしれない、その戦いに向けて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月23日(月)23:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 静寂を破る様に喧騒が訪れた。遠くに赤き蛮族の姿を視認した『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は夜に紛れて呟く。 「これが、噂のバイデン、か」 ああ、いいな、と金の瞳を細める。強さも気性もどれを取ったって何だって、楽しめそうだと思う。親近感すらも覚える、そんな相手。 魔力鉄甲を嵌めた拳をぐっと固める。嗚呼、語るべきは言葉ではない、闘争。この拳で、この身一つで。楽しんで暴れよう。我、闘う、故に我はあり。 地図を開き罠の位置を把握する。背後に罠が多く存在しているという事は把握できたが、どれを使うかを決めていなかった事にふと気付く。だが、此処まで来れば何かしらの罠にかかるのではないかと『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)は思案する。 「戦いの儀式……」 誇り高き戦いを望むバイデン達の儀式の様な動き。其れはボトム・チャンネルの中の種族でもそのような儀式はあるという。何にせよ誇りを傷つけるような真似をしたくない。彼らにとって闘争は一種のコミュニケーションみたいなものだろう。言葉で通じ合えないのならば拳で通じ合う――そう思う。取り出したトラックを背にその身を敵の攻撃を無力化する闇を纏う。 禅次郎の隣で『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)はじっとバイデンを見つめる。バイデンという種の尊厳を蔑ろにする訳にはいかない。バイデンにとっての戦いとは何なのか。尊いものなのだろうと、思う。 戦いの中では嘘偽りなく己を出す事が出来る。自己の証明、自己の誇示。言葉は嘘を吐ける。幾らだって偽れる。だが、己の力は嘘を吐かない、吐けない。命懸けなら尚更に嘘を吐く事は出来ない。それは、戦闘狂の美散も同じだ。 「巨獣か。バイデンは扱いやすいものよりも勇猛なものを好むんだろうな」 「それは、何故?」 「全力で闘いあったものだからこそ信をおくに値するという事だ」 きっと、な。美散は呟く。ふうん、そうなの、と興味なさそうに『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は呟いた。 バイデンが引けぬ戦いをするのだろう、此方も引けない――互いに引けないなら、勝利者こそがその引けぬ戦いを制するだけ。そんな当たり前な事。 「まあ、私の役割は撃って、撃って、撃ちまくる事」 にたり、と唇を歪める。紫色の瞳を細めて女は笑う。蜂の巣にしてあげるわ、と。 バイデン、それから過去に闘った鬼。 「鬼さんとバイデンさんって角があるのと無いの位の違いなのかな?」 首を傾げた『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)は幼い頃に絵本などで触れた日本の鬼の姿を思い出す。最近ボトム・チャンネルのテレビで見た鬼とも似てるけれど、だなんて小さく笑う。数ヶ月前に刃を交えた相手と姿が似ているからと言って、その攻撃の手を緩めるなどはしたくない。 「私の弓は全てを射ぬくよ」 ぎゅっと対異能用13㎜神秘強弓を握りしめたシャルロッテ。その弓は和弓と同程度の長さを持ちながらも西洋弓の性質を持っている。異能が蔓延る世界に一筋の矢を飛ばす。負けるわけには、いかないのだ。 味方全員に十字の加護を与える。其れは戦場へ赴く意思。その輝きにツァイン・ウォーレス(BNE001520)は武器を掲げる。負けてはいられない、その誇りにも、その闘い様にも。 「ゆくぞぉぉーーッ!!」 「私達の戦いを、見せつけてやりましょう……!」 ぎゅっと魔力剣を握りしめた『Manque』スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)は何時になく強気に言う。弱気な性質である彼女にしたら気合の入った台詞は慣れないものでしかないけれど、戦いの前に弱気は禁物だと気持ちを入れ替える。 全身から生み出した闇で身を包む。弱虫である、弱気である自分を闇で包みその意思を強固にする。ダークナイト――その身に宿す闇に心と力を乗せる。 「皆さんの頼もしさが、とても心地いい……」 その呟きは風に乗る。その風の向こう、円陣を組み儀式を行うバイデン達を見つめる。儀式の邪魔はしない。きっと其れはバイデン達にとっての踏み入ってはいけない神聖なものだから。それを、大切にしたい、そう思うから。 術者を護る小鬼を隣に置き『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)はじっと前を見据えた。 「戦いに生きる事は悪とは思わない。元より生きる事は戦う事」 儀式を終えたバイデン達がリベリスタ達を、橋頭堡を仰ぎ見る。綺沙羅は口元を歪める。 嗚呼、生き残るという事、その事実が武勲だ、誇りだ。存在と尊厳は似ている。この戦いは生存競争だ。生存と尊厳を――自身らの誇りをかけた戦い。 「生きてることこそがキサの誇り」 さあ、ならば勝ちに行こうか。 ● 「車、使えそうね」 使えるか不安だったけど、と綺沙羅は呟く。地面は荒いがガソリンが入っている以上使える事は使えるのだろう。その場で待機する事になっているシャルロッテは仲間達の背中を見送る。 正々堂々とした戦いを行うであろうバイデン達と比べれば自分は弱い。死にたくないから戦うのだ。手加減は良く分からない、戦いに勝利できるとも思ってはいない。不安が、胸をよぎる。 「んじゃ、ちょっとしたラリーだな」 行こうぜ、と禅次郎はトラックの荷台に仲間達を招く。乗り込んだ仲間達の姿を確認してから笑う。舌を噛むなよ?と。 走り出したトラック。乗り込んだのはシャルロッテと天乃以外の6人のリベリスタだ。あちらが儀式ならば此方も同じく自身を強化してしまえばいい。 「――!!」 「――……ッ! ――!」 バイデンらが巨獣に乗り、近づいてくる。20mの届く地点――丁度仲間達の攻撃が届くであろう場所。止まったトラックの内部から顔を出した綺沙羅は直ぐ様にクジラに美脚が生えたへんてこな生物へと神秘の閃光弾を投擲する。クジラの大きさもあり、その範囲にはあまり他の敵を含む事は出来なかった。渋い顔をした綺沙羅の隣ではツァインが武器を構える。大きな百足に乗り此方に突進してくる巨獣の骨で出来た斧を携えたバイデン――リーダー格であろうダヤマへと放つジャスティスキャノン。 「――!」 カンッ、と剣と盾を打ちならし、来いよとアピールする。だが、退避は間に合わない、20mの地点で目前に迫った百足達を目の前に即座にトラックに乗り込むが、其れも間に合わない。移動を巨獣らに任せていたバイデン達は騎乗したままにその武器を振り下ろす。トラックの荷台がべこり、とへこんだ。 次第に集まってくる百足に騎乗した赤き蛮族の姿。此処から橋頭堡の罠の方に近づく為にはトラックを捨てて走って逃げた方が妥当だろう。 「皆さんのお相手は、この私が」 顔を覗かせたスペードの放つ夜の畏怖は大百足の背後で蠢いていたワーム――と言ってもその体はボトム・チャンネルのものとは比べ物にならない大きさである――に放たれる。 接触を行ってしまったのならば此処で一度戦闘を行うことになるだろう。放たれた畏怖に苛まれながらもバイデン達はリベリスタらの周囲を取り囲んでしまう。此れが『儀式』の結果だと見せつける様に。 「――いこう!」 遠目から其れを確認したシャルロッテは走る。其れに天乃も続く。少し時間がかかってしまうが、仲間達がトラックで行った先へと走る。人生は都合よくいかないとはよく言うけれど、トラックに乗って戻るまでに敵戦力が此方に攻撃を仕掛けない、なんてことはない。此方がトラックに乗って大幅な移動の後に攻撃ができるならバイデン達も其れと同じ。 「さぁ、弾丸の洗礼よ! 受け取れ蛮族!」 感情的に、大げさに、敵意を露わにして笑う。露骨なほどに戦闘意識。放たれた神速の抜き打ち連射は敵の急所を的確に打ち抜いていく。その攻撃で狙うのは彼らの背後に居る鯨の瞳。形容し難い悲鳴をあげた巨獣の上でバイデン達が困ったようにその背を撫でつけている。 「お前達にとって戦いの中で死ぬ事は本望だろう」 じっと見つめた美散の手にした禍月穿つ深紅の槍が鈍く光る。荷台から飛び降り、叩き込んだメガクラッシュで周囲から飛ばしてしまう。自身は護衛役である。仲間たちがこの場から上手く離脱し、罠へと嵌め優位な位置へと行ける様にと彼は懸命に武器を振るう。彼と対峙したバイデンが笑う。戦士としての余裕。戦士の誇りのぶつかり合い。グリーンワームから飛び降りたバイデンとの対峙。 「――この時を、待ち侘びていた!」 戦で死ぬ事を望み、生き恥を曝すのならば潔く死を選ぶ。それでこそ自身の敵としてふさわしい。心行くまでの戦闘行為。拳と槍がぶつかり合う。この場から逃げる事はしない。戦士の誇りとしての戦い。ジェスチャーでの挑発などもはや無かった。バイデンは美散を、美散はバイデンを。互いに敵だと認識している。その動作に合わせ砂が舞い上がる。夜の荒野に撃ち合いの音がギィンと響きあう。 「絶対に勝ってやる」 死にたい?――そんなものよりもっと汚れてぐちゃぐちゃで、人間らしい感情。生きたい。これは生存競争だ。存在と尊厳をかけた戦い。勝たない訳にはいかない。生きる事が誇りなのだから。負けてしまうならば、それは生存の意思を失うと同等だ。 「――」 にやり、とダヤマが笑う。その目が綺沙羅と合う。 「キサは負けないよ。生きる事がキサの誇りだから」 まだ幼い少女の言葉にダヤマは笑う。気に入ったぞ、少女、名前はとバイデンは問う。 「名は問われてから応える方がカッコいい」 ――問われるほどの戦いをしなければ問われないでしょう?と。だが、その信念、その直向きな生への執着。行きつく果ては狂気であれど、戦士としては上等である。口元を嫌に歪めた。望むならば、あえて問おう。 「我はダヤマ、少女、名は」 「綺沙羅、よろしく」 彼女の放つ無数の符は鳥となり、死へと手招く。彼女の目の前に居た巨獣の乗り手へと鳥が啄ばみ葬るかのような追撃が与えられる。少女は、挑発には負けない。強い意志を持っている。 ――キサは、生きる。 ただ、その意思だけを固めて。 「こっちも負けてられん!」 ダヤマに対して挑発を掛け、笑いかける。ブロードソードと巨獣の身体がぶつかり合う。笑み。獰猛な獣の、笑み。繰り出すのはジャスティスキャノン。その怒りによって我を忘れたかのように彼へとぶつかりこむ大百足。 「――!」 「もっともっと! 続けようぜぇ!」 怒りに狂った百足がツァインに襲いかかる。数が多い。『儀式』のおかけだろうか統制のとれた動きを行うバイデン達は皆、彼へと襲いかかった。 彼のその身に攻撃が降り注ぐ、耐えきれなくなって膝がかくりと折れた。運命が燃え上る。一人では抑えきれない大きさの百足、その脚はざり、と音を立てて地面を擦れる。 「ガアアァァァァ!!」 その姿は獣。戦いに飢えたバイデン達と似通ったその行動。 「こっちをご覧になって! 遠慮なく潰してあげる」 笑い声を上げたエーデルワイスは神速の早撃ちで巨獣達を翻弄する。その眸を潰してあげる、だなんて笑い声を上げて。中衛に居る、だが、前衛陣では防ぎきれなかった巨獣が彼女のもとへとなだれ込む。 彼女の頬を百足の尻尾が擦れる。叩きつけられる其れに彼女は負けじとフィンガーバレットを使用して応戦する。 駆けてくる。遠い、手が届かない。肩で息をしながら辿り着いたシャルロッテは巨獣の上に乗っているバイデンへと自らの痛みをおぞましい呪いに変えて刻みつける。 「私の傷が増えるたびに、もっともっとあなたは傷だらけ」 刻みつける、この痛みを。この、想いを。自身に出来る事はないと思う。ただ、一つだけ自分が出来る事がある、敵へダメージを与え続ける。其れだけ、ならば頑張るしかない、その気持ちをもう一度固める。自身の痛みを力に変える。ダークナイトとしてのその想い。 「私の血は流れるたびに敵を傷つける! 強く、強く!」 痛いのは嫌い――けれど、死ぬのはもっと嫌だから。 「遅ればせながら、私なりの戦いをお見せします」 仲間達の攻撃で傷ついたグリーンワームの乗り手へと攻撃を行う。夜の畏怖。暗く、迷子になるかのような、畏怖。髪が風に揺れる。優しげな瞳が静かに揺れる。丁度、このラ・ル・カーナの闇夜に紛れるかのような、そんな夜の畏怖。 バイデンは少女の目の前へと走り出る。彼女は、彼女の誇りが為に前に立つ。ふわりと纏うドレスが揺れた。優しげな水面が揺れる。 「――さあ、始めましょう?」 彼女の抱えた夜への畏怖。弱虫の、夜。ほんのりとしたしあわせ。その暗闇を振り払う様に彼女へとバイデンは襲い来る。誇りの為に。バイデンが戦士としての誇りを護るなら、彼女は仲間を護り抜く。それが彼女なりの、優しく降る雨の様なスペードという少女の誇り。 「―――!」 「私は、大切にしたいから」 その想いも、その気持ちも、すべて、すべて。だから、自身の誇りも胸に抱く。負けないと、其の目は何時になく厳しくなった。覚えている記憶、救えなかった事、思い出、胸に刻んだ分かり合えない違う種の少女。 例えその身を殴りつけられようとも、彼女は願う。分かり合える未来を。 「さあ、踊ろう?」 お相手、願えるかしら、と天乃は躍り出る。哀れな操り人形にしてあげる、踊れ踊れ。その指先で。その攻撃は弱り切った巨獣を捨て、駆けてきた二体のバイデンを相手にしている。勿論巨獣だって、彼女に襲いかかる。 殴りつけられる、その度に身体が痛む。四肢への痛みを堪えながらも彼女は踊る。軽やかなステップはまるで舞う蝶々。切り刻む、踊る。間抜けな鯨はその攻撃にいやいやをするようにその足で彼女を蹴りあげる。 「ッ……! ふ、ふふ……! いい、ね。まだ、やろう?」 もっと、もっと。気が済むまで。さあ、おいで。と彼女は指差して呼びだす。血が溢れる、其の体へと幾度も攻撃が降り注ぐ。その膝をつく。だが、対峙するバイデンへと少女は笑う。 さあ、運命を燃やせ!楽しい、楽しい、闘争。言葉ではない、その身で、その心を震わせて、暴れる。その心も、その強さも、全て含めて自身と比べ上げる。 作戦通りにはいかなかった――それにより戦線の崩壊を見せる。ツァインの体力も其の侭つきかけていた。その補佐に回る綺沙羅はじっとダヤマを見つめる。彼女の放つ鳥の群れは確実に巨獣達を倒していくが、その数はまだ圧倒的に多い。 弱っていくジラジラの上に禅次郎は跨る。だが、乗り物と言っても動物だ。バイデン達はその動物を上手く会鳴らしていたが、巨獣とボトム・チャンネルの動物は違う。上手く乗りこなせず彼はしがみつく事になってしまう。 操縦は出来ないもののハイバランサーからその上に居る事は出来る。だが、操縦は不可能の様で、禅次郎は直ぐに飛び降りる。乗り手を失った巨獣はただ暴れるだけだ。その身体へと呪刻剣を繰り出すが、その攻撃も足りず彼の体力も失われて行ってしまう。 ギィン――バイデンと戦っている美散は笑顔を浮かべている。戦闘狂。一族の刃となれ。血に飢えた野獣の如くぎらぎらとその赤い瞳は輝く。デッドオアアライブ。幾度も幾度も武器と拳が重なり合う。 「力は、嘘を吐かないッ!」 そうだろう、と笑みを浮かべるバイデンの身体がぐらり、と揺れる。 だが、彼の振りかえった先、周囲の仲間達は半数以上が膝をついている。これ以上の戦闘は無理だろう。痛み分け――と言ってしまえばいいのだろうか。 「――――」 「これ以上は、そうだね」 お前達の負けだ、とでも言われたのだろうか、傷だらけになりながらも仲間達を癒し続ける綺沙羅が頷く。 誇りは、護られたとでも言う様にバイデン達が空へと吼えた。 ● 喧騒が続く――それはボトム・チャンネルの、自らの世界を護るべき誇り高き戦士達と自らが新しい種として生まれたラ・ル・カーナから邪魔者を排除しようとする戦士達の戦いの結果。 心行くまで楽しめた、そうとは言えない。敵の戦力は強大であったから、こちらも其れ相応の戦いを見せ抜いた。だが、一手が足りなかったのだろう。 ぐらり、世界が揺れる。この世界とあちらの世界。似ていて、何処か違う。干渉しあうかもしれない、見た事もないものがあるかもしれない。 「――強かったな、また、やりたい」 その意思は強い。赤き蛮族はリベリスタ達をじっとその鋭い瞳で射た。捕えられる可能性があるのでは、とぎっと睨む綺沙羅だが、此方は大敗したと言っても等しい。 まだ、戦う力はある。フュリエを助けたいと願う、けれどバイデンとも仲良くなりたい。震える足で立ち上がり、赤き蛮族を見つめたスペードから顔を逸らす。 「……私たちでは、力不足だということですか」 仲良くなりたい、その一歩としての戦闘。戦闘行為で心が通じ合うのではないか、そう祈っていた。だが、それには力が及ばなかったということだろう。 膝をつく。これは誇りを掛けた戦い。その魂はまるで赤く燃え盛る焔。燃え上る様な輝き。眩しくて眼を細めてしまう、そんなもの。 揺れる三つの月の下、ふわり、と生温かい風が頬を撫でた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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