●Grim Roar 荒涼とした大地を三つの月が静かに照らしあげている。 リベリスタ達は異世界ラ・ル・カーナに橋頭堡を設営し、軍事拠点として運用を始めていた。経過は順調で、日々の警戒も怠ってはいない。 その甲斐あって『完全世界の忌み子』バイデン達といくらかの交戦こそ経験したものの、これまで大きな問題は発生していなかった。 今日、この時までは―― 橋頭堡の監視塔で警戒するリベリスタの瞳に映ったのは、地平線から近づきつつあるバイデン達の集団である。 己が身を隠しもせず、憤怒と渇きの荒野の彼方、地平線より巨獣を引き連れて彼等はやって来た。 その規模は大きくしっかりとした統制が見て取れる。彼等は橋頭堡にほど近い場所で進軍を止めた。 ――総攻撃の準備だ。間違いない。 そう確信したリベリスタは慄然たる思いで監視塔を駆け下り、直ちに仲間達と連絡を取り合う。 重大な危機は、すぐそこまで迫っていた。 ●War Cry 巨大な蛇のような生き物にまたがるバイデンの将が、長大な槍を天に掲げる。 小部隊の将と思しきバイデンは、その生き物を馬のように従え騎乗している。 厳かな立ち振る舞いに、配下達が習う。槍の穂先が月になまめかしく煌いた。 その巨大な蛇は肌か鱗かを半ば透き通らせ、硬質の輝きを放っている。蛇やトカゲのようであるが八本の足を持ち、その内一対の前足を宙にもたげている。 ラ・ル・カーナにバイデンと共に現れたと言われる危険な生き物だろう。こんなものは巨獣と呼ぶ他ない。 巨獣は足付きの蛇だけではない。配下が乗る猪のような生き物はやはり巨大で、額や鼻を戴くべき所が巌のように硬そうだ。 ともあれ未知の儀式なのだろうか。それとも、原始宗教的な行いなのであろうか。真偽の程は定かではないが彼等は円陣を組んだまま、時折咆哮をあげながらじっとしている。 アークの橋頭堡を目の前にして、瞳すら閉じて。 出撃したアークのリベリスタ達が目にしたのは斯様な光景だった。 バイデンの軍勢の中でも、やや外れた位置に陣取る部隊を選定して、強襲をかけて撃退するのが目的だ。 背後には橋頭堡――つまり彼等は出撃している。拠点を離れる危険は大きいが、敵は孤立した部隊であり、何か策を持つ可能性も高い。 恐らく橋頭堡へ攻め入る足がかりを作るつもりなのだろうが、せっかく築いた防壁を巨獣の群れに崩されてはたまったものではない。 じりじりと間合いを詰めつつある一触即発の緊張の中、それでも目を閉じたまま動かないバイデン達を目の前にして、リベリスタ達には小さな疑問が生じた。 バイデンの行いが、あまりに神聖に過ぎるからだ。これは『文化』なのだろうか。思えばバイデン達の中には身体を様々な装飾で飾っている者も多い。 リベリスタ達は、これまでフィクサードやエリューション、アザーバイド等と戦ってきたが、多くは良心や社会を守るため、あるいは直接的に世界を守る為であった。 勿論ラ・ル・カーナ橋頭堡を陥落させられれば、バイデン達が制圧されたリンク・チャンネルからボトム・チャンネルになだれ込んでくる危険がある だがリベリスタ達は、敵とするバイデン達のことを余りに知らない。とにかく凶暴で手のつけられない怪物程度にしか考えていなかったのではないか。 それに対して眼前の光景はどうだろう。当然危険な儀式や、何かの準備なのかもしれない。何しろ敵は未知である。たとえ何もなかったとしても、士気は著しく高揚するだろう。 それでもこれは彼等の『誇り』であり、何らかの『文化』なのではないか。 任務の為、友人の為、世界の為。割り切るならば、今すぐに目の前の部隊を攻めればいいのだろう。上手くいけば奇襲になるかもしれない。 なのに。それはもしかして。 『戦士の誇り』を裏切ることになるのだろうか―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月24日(火)23:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Before the Calm. (戦いに於ける誇りにどれ程の価値があるのかしら) 薄氷の魔女は瞳を細め、心の内に呟く。褐色の大地に翼が広がる。 バイデン達の生き様は単純だ。目の前に『敵』が居るからと、嬉々として挑みかかってくる。 そして彼等は決着を付けるまで決して諦めない。 ――戦って死ぬ事が本望? 生き恥を曝すぐらいなら潔く死を選ぶ? 戦いそのものを信奉したところで何を守れると言うの――? 土煙を上げながら突撃するバイデンの群れを見つめる『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の脳裏に浮かんでいるのは、彼等の事だけではなかった。 重なるのは血の繋がらぬ家族の姿――。戦闘狂という種族は、なぜこんなにも不器用なのか、と。 大地が揺れる。六本の足と水晶の鱗を持つ巨大な蛇を戦闘に、巌の鼻を持つ巨大な猪が見る見る間に迫り来る。 敵も単純なれば経緯も単純だった。状況はラ・ル・カーナ橋頭堡に総攻撃の準備を整えつつあるバイデンの群れを発見したリベリスタ達は、直ちに出撃したというに過ぎない。 こうして互いの目的は眼前の部隊の撃破となった。それだけだ。 だがリベリスタが目にしたのは異様な光景だった。バイデン達はリベリスタを視界に捉えながらもスクラムを組み上げ、瞳さえ閉じて武器を振り上げたのだ。 一触即発の戦場で、たっぷりと――僅か十余秒の――時間をかけて。 異界の言葉を解する『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)が耳にしたのは正に鬨の声であった。 リベリスタ達は奇襲することも出来たはずだが、あえて待つことを選んだ。 清らかに輝く銀の刃を握り締める『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は想う。あの行いが彼らの誇りであるならば尊重したい、と。 だが同時に、亘はここが戦場であることも理解している。舐めてかかれる相手ではない。 だからリベリスタ達もただ見ていただけではなかった。各々己が力を高める術を身に纏い、迎撃の態勢を整え終えている。 亘、ルーメリア、『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)等がエウリスと共にこの完全世界へと足を踏み入れたその日から。異世界の友人達フュリエの笑顔を――幸せを守る為の戦いに全力を尽くす所存だ。 赤銅の巨大な腕に長大な槍を振りかざし、一糸乱れぬ隊列を持って巨獣の背に乗るバイデンが迫る。 バイデン達の力が腕っ節と巨獣なら。 (まお達の力は腕っぷしとちまちま作った施設です) どちらもこちらも全力だ。いいことだ、と『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003202)は思う。闇色の鋼線の根元。小さなヤモリのフィギュアが揺れる。 突如――けたたましい金属音が雷のように轟きわたる。巨大なトラバサミがグラスワームとハンマースースの脚部を捉えた。これを待っていたのだ。 ハンマースースは逞しい脚部から赤い血を迸らせ絶叫をあげるが、巨大な楔は解かれない。騎乗していたバイデンは、勢い余って強かに大地に投げ出された。 だがグラスワームの威勢は衰えない。強固な金属を紙のように引きちぎり、零児へと一気に迫る。 待つことに懸念はあった。リベリスタ達が苦心して作り上げた橋頭堡を破壊させぬため、負けられぬ戦いであることも分かっていた。 そして彼は想う。己はまだまだ未熟なのだと。アークのデュランダルの中ではトップクラスの実力さえ持つ零児ではあるが、これまで何度も潜り抜けた死線があれば、己が力に奢りなど抱きようもないからだ。それが彼の強さの一端でもある以上、本当はバイデン達の儀式など待たずに攻撃したかったとすら思う。 待ったことが正しいのか、それともすぐにでも攻撃を仕掛けたほうが正しかったのか。利はどちらにもあり、たらればなど誰にも分からない。 兎も角、賽は投げられた。敵将グリムロアが持つ長大な槍が深緋のコートを強烈に打ち据える。 明滅する意識を従え、零児は側面へと回りこむ。強烈な打撃だが所詮は初撃である。傷は深くない。 「さて、異世界とやらニキタワケダガ、ヤルコトハカワラネーカ」 同時に『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)がグラスワームを一気に駆け上がる。狙うは死角。手足だ。 「お前らがツイテコレルカ?」 煌く刃の五月雨が巨蛇を覆うと同時に彼女はその胴を蹴りつけた。だが敵の思わぬ身のこなしの前に斬撃は浅い。 「私ハココニイル――光狐のお初お見えダバイデン共」 ここでグラスワームの動きを止めてしまえば、戦況は大きく動くはずだ。天を駆ける亘は吹き抜ける微風のように薄刃を突き立てる。 刹那の一撃に重なる第二の斬撃。放ったのは共に亘であった。誰の視界にも捉えきれぬ速さで幾重にも刻まれるグラスワームは、それでも巨体を震わせ威嚇の声を上げる。 バイデン達を罠にかけたとて、ルーメリアは悪ぶるつもりなどなかった。ここまで含めて自分達の強さだと思うから。 蛇の上でグリムロアが笑っている。強烈な殺意がリベリスタ達の背筋を擽る。砦の攻略を計るバイデン達からあえて退き、待ち構えて見せた不退転の意思が痛快だったのだ。 名も知らぬ異界の相手は強い。天晴れな好敵手である。だから――殺す。 そんなバイデン達の姿がどこかしら鬼と重なって、『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は彼等を好きになれない。だからこそ、バイデン達に暴力以外に信じるものがあるなら知っておきたい。 (彼らが本当に鬼と同じなら私は倒すだけ。違うのなら……) 今後、別の道も可能性はあるのかもしれないからだ。 だが今は全力で敵を倒さなければならない。セラフィーナは燦然と煌く霊刀をグラスワームに走らせる。 驚異的な技量に裏打ちされた神速の刃は、眼前の薄気味悪い生き物さえも魅了していた。 「貴方達にとって、力とは暴力なんでしょうね。けれど……」 果たして―― ●Lightning Anthem. グラスワームはバイデンの将を振り落とし、強烈な連続攻撃がその背に降り注ぐ。 その一撃一撃は鋭く、いかに屈強な肉体を誇るグリムロアと言えど―― 『主を謀るか』 氷璃とルーメリアにだけ理解出来る声でつぶやいた蛇将が巨獣の腕を掴み取る。凄絶な笑み。丸太がひしゃげるような音をたてて、グラスワームの腕が軋む。かのグレイト・バイデンにも迫らんとする巨体の魔獣を従える力を侮っていたつもりはないが―― それでも築き上げた僅か一手は重い。吹き付けられたはずであろう石化の睨みをやらせはしなかった。チャンスであることに変わりはない。冴が大刀を片手に抜き放つ。蜂須賀示現流の構えだ。 バイデン達の至上は彼等独自の『誇り』なのだろう。それが人間が抱くものと同じかどうかは全く分からない。人の社会でさえその風習は多種多少であるからだ。 だが仮にその誇りが理解に値するものだとしても、冴の至上は違う。それは正義を為すこと―― 戦慄する背をいなし『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)は鬼丸を振りかぶる。 「チェストォォォオオオ!!」 狙うは鱗が剥がれ落ちた胴の中心。ここで討ち取る! 唸りを上げる雷撃がグラスワームの巨大な胴に深々と吸い込まれた。全身全霊の一撃だ。 血花舞い散る戦場の只中、バイデン達の猛攻が始まった。七体のバイデンが巨大な猪を駆りリベリスタに迫る。 魔女の微笑み。漆黒の濁流が巨蛇を、将を、バイデン達と巨獣を打ちのめす。 『拠点を攻めているのだから罠ぐらい当たり前でしょう?』 『違いない!』 囁きに返された雄たけびは意外にも肯定の意思を孕んでいた。罠があるなら真正面から踏み越えるまで。かかった奴が悪いと、弱かったとでも言いたいのだろう。だから相手は笑っているのだ。氷璃の頬が再び皮肉気に彩られる。これだから戦闘狂は、と。 「教えて頂戴、バイデン」 ――彼等が戦う本当の理由を。 黙して語らず、内に秘めるだけでは相容れない。だから氷璃は問いたい。その糸口である勝利さえ掴むことが出来るならば。 闇の奔流からの脱出に成功したバイデンは四体。猛る喜悦と憤怒。天すら劈く怒号。その全てが怒涛の如くセラフィーナ一人に槍と槌を振り下ろす。三発をかわしきるも一撃が細い肩を砕く。鮮血が跳ねる。 巨獣から落ち転げ出たバイデンと、巨獣を罠で失ったバイデンは氷璃の元へ駆ける。今この瞬間、彼女の前に立ちふさがれる者が居ない。 「みんなを守る――」 小さな呟きと共に清廉な光が戦場に満ちる。 「シェルン様との約束も、果たさなきゃいけない……っ!」 ルーメリアは癒しの術を展開する。僅かな攻防の間に傷ついたリベリスタ達に生気が蘇る。これで数人が助かった。 だが氷璃は僅かニ撃に薄氷の運命論者は抗う姿を見せることになっていた。それでも彼女等はこれでバイデンの集中突破を崩している。 バイデンが誇る巨腕をも凌駕する巨大な鉄塊が唸りをあげる。生死を分かつ渾身の一撃。零児はグラスワームの胴を一気に斬り下げた。タガの外れた極限の破壊に折れた足さえちぎれ飛ぶ。 ここからは乱戦だ。即座に氷璃の元に駆ける亘の背に槍が突き込まれる。口元に血を彩っても亘は不敵なまでの笑みを崩さない。負ける気などないから。 瞬く間に二度の斬撃を見舞うリュミエールに続き、セラフィーナも光の飛沫を叩き込む。粉々に砕けた鱗の破片が宙に舞い上がる。今度は――しかし浅かった。 絶叫の直後、振り向きざまの視線がリベリスタ達を睨み付ける。石化の視線である。零児の背を冷たいものが這う。読みは当たりだが、彼がその視線を避けえたとしても安堵は出来ない。 セラフィーナは咄嗟に身をかわし、亘は直撃を避けたが、虚空に生じた晶片の嵐が冴、リュミエールを一気に飲み込む。 『苛――ッ!』 続けざまに打ち込まれたグリムロアの長大な槍が、うねるようにリベリスタをなぎ払う。冴、リュミエールは全身に突き刺さる晶片に身動きがとれぬ。これでは避けようもない。 それでも。 「まだ、膝を付く訳にはいきません!」 ここで未だ騎乗をやめぬバイデン達はターゲットを変えた。冴とリュミエールを落としにかかる為である。だがその背から二人を守るのは黒鎖の濁流――氷璃だ。 「お返しよ」 口元だけを薄ら笑ませて呟く。本当に度し難い連中だったから。 この一撃でグラスワームは巨体を地に伏せ、バイデン達は全て地に投げ出された。 ●... at the Rage! とはいえ終わったわけではない。今もルーメリアが放つ暖かな光がなければどうなっているか分からない。 『異界の小人よ。面白い術だ』 『私はアークのルーメリアなの!』 激戦の最中、ルーメリアはいっそこの蛮族共と一緒に戦うことが出来れば面白いとも思う。 アークはこれまで世界を守るための戦いを強いられてきた。それはリベリスタの役割であり、今回とて事態を俯瞰するならば変わらない。だが眼前のこれは戦争でもあった。 だからこそ思うのだ。もっと相手のことを知ることが出来れば、あるいは別の道も見えてくるのではないか、と。 だが問うてみた所で答えはどうせ決まっている。『ならば貴様らを薙ぎ倒した後、ソイツらと戦うとしよう』と来るのだろう。何度も関わったのだから読めてもくる。 だから――分からせる。もしかしたら強がりなのかもしれない。それでも凛と張り詰めた瞳は決意と共にリベリスタ達を癒し続ける。 一進一退ではある。だが膠着等とは呼びようのないぎりぎりの攻防。冷めた狂気を投げかける月達に照らされ、力の天秤は踊る。 そこから二手。僅か刹那の激戦は続いていた。 猛り狂った猪達はリベリスタ達の体力を大きく剥ぎ取りはしたが、ルーメリアの癒しがあればその程度は物の数ではない。この場合に危険なのは稀に受ける一撃の重さ、癒しと癒しの間隙となるタイミングが重なることであった。 巨獣は氷璃がグリムロアを含む主力のバイデン達へと、立て続けに放つ葬送の魔術に巻き込まれ、既に壊滅的な打撃を負っている。 それでも範囲攻撃からあぶれ、あるいは打ち破りながら、縦横無尽に暴れまわる巨獣達の暴走を、ルーメリアや氷璃が受けては持たない。 氷璃は確実に、着実に多数の敵を貼り付けにしている。それも大打撃を与えながら。いかに多彩で強力な技術を会得している氷璃と言えど体の数には限りがある。手一杯だ。 そこでまおは猪の横腹に足を這わせ、また別の猪へと向けて、さながら蜘蛛のように黒線を走らせていた。 戦闘の高揚を伴う極限のストレスの中で、バイデン達の耳にも届くカタコトの挑発は彼等の怒りに火をつける。だがバイデン達は意外にも統率がとれている。猪突猛進だけが本分ではないということなのだろうか。 むしろバイデン達の怒りに呼応して暴れ狂っているのは巨獣達だった。 だが巨獣等、バイデンに駆られていなければ猛獣と変わらないということか。まおに一匹、また一匹と動きを封じられ、あるいは落とされ地に伏し、既に半数以下となっていた。激しい突進を受け傷つくまおだったが、その大半はルーメリアによって癒えている。 立ちふさがっても突破されてしまう。とはいえタフとは言えぬまおが、ルーメリアに張り付くことはおぼつかぬ。それでも回復の要であるルーメリアは守りたい。だからこれがまおの選んだ答え――『今日のお仕事』だった。 それらリベリスタ個々の奮戦は有効に作用し、敵は着実に数を減らしている。戦場に経ち続ける者の数を数えるならば、リベリスタ達は獅子奮迅、破竹の躍進ではあるはずだ。 問題は確実に敵を追い返さねばならぬという事。その障害となるバイデン達の無尽蔵とも思える体力と破壊力――そして士気の高さだった。弱った場所、脅威だと感じた所から集中攻撃を仕掛けてくるのだからなおさらに質が悪い。 ここまでに冴、零児がそれぞれの絶技をもって三体のバイデンを切り伏せている。敵の数はもうすぐ半数を割るはずだ。だが直後、グリムロアの長槍がセラフィーナの胸を貫く。暖かな赤が溢れる。巨体に似合わずセラフィーナの剣技にすら到達する壮絶な一撃だ。 「絶対に、ここは抜かせません――」 眼前の蛇将が本当に狙いたいのは氷璃とルーメリアなのだろう。そんなことをさせるわけにはいかない。 「――皆で作り上げた場所を守るために」 彼女の力は守る力。この程度では絶対に倒れない。 (命を燃やせ) 正念場である。己は倒れてよいとすら想う。引き換えの勝利を願う。掴み取ろうともがく。最も厄介であろう石化攻撃は既に突破出来ている。後は畳み込むだけなのに―― (一人でも多く、不幸になる方を減らせるなら……) 巨獣に跳ね飛ばされ氷璃を守り続けた亘も一度膝をつく。歯を食いしばる。彼は運命の寵愛ではなく己が力で立ち上がる。 (今ある全てを賭ける理由には十分でしょう――ッ!) 続く黒鎖の濁流。氷璃の一撃。相手がフィクサードであればとっくに撤退を考えている頃合だろう。あまりに被害が大きすぎるからだ。なのにバイデンは死すら恐れず突撃を繰り返してくる。誰かの背に怖気が走った。 ここで辛うじて麻痺を逃れた二体のバイデン達はターゲットをルーメリアに絞った。怒涛の勢いで戦場を駆けるバイデン達の長槍がまおを一気に貫く。カタコトの挑発に乗せられたのか、それともうろちょろと邪魔だったのか。 運命を従え立ち上がっても、リベリスタ達には限界も見え始めている。このまま落としきることが出来れば彼等の勝ちなのかもしれない。 だが同時に、最悪の想定も考えなければならなくなっていた―― 死の予感というモノは有るのかも知れない。死ぬことを選ぶ戦場も在るのかも知れない。 だけど――ここはそうじゃない。 激闘の最中であっても、高揚の只中にあっても、誰もが歴戦の強者なれば、怜悧なれば、引き際というものも見えてくる。 蛇将の巨槍が唸りを上げ、零児の胸に突き立つ。視界が赤に染まる。構ったことではない。ここで倒しきることが出来れば彼等の勝ちならば、手段など選ぶつもりはなかった。 そのまま折ればいいだけさ――ッ! 巨大な剣が蛇将の槍を寸断し、肩を抉り胸に突き立つ。血が溢れる。蛇将と共に零児の半身が揺らぐ。 それでも先に膝をついたのは零児だった。ここで彼に為せぬなれば――誰にも為せない。唇をかみ締める。血の味がする。 バイデンの部隊は未だ半数を切った程度ではあるが、巨獣は全滅した。これならば攻城の威力は確実に減衰されたはずだ。だから潮時だった。 己が死すら恐れず闘志衰えぬバイデン達と、満身創痍のまま交戦を続ければ誰かが死ぬだろう。それだけは決して許されない。 リベリスタ達は迫り来るバイデンの猛攻をいなし、走る。 ここからどこかの地点で撤退を決めたとしても、このままリベリスタを追うことが確実ならば。 時は今しかなかった。 三つの月に照らされた異界の荒野に砂塵が舞った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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