● 三つの月が荒野を照らす。人工的な灯りのない『完全世界』は平静であり、また荒涼としていた。それはある種の平穏であり、均衡の保たれた状態であった。フュリエとバイデン。その力の差もあって混沌としていた世界は、リベリスタの介入によって再びある程度の調和を得るに至っていた。 しかしそれはつかの間の平和に過ぎなかった。突如荒野に現れ始めたリベリスタの拠点に、バイデンたちが気付くのにそれほどの時間はかからなかった。リベリスタが『完全世界』の治安を維持するために戦った相手には、もちろんバイデンもいる。交戦によって彼らが体感したリベリスタの強さは、瞬く間にバイデンたちに伝達されていった。 リベリスタの登場は、力を正義とし、力を秩序と成すバイデンには、願ってもいない事だった。リベリスタの居場所が判明した今、バイデンの取る行動は、ただ一つであった。 四人のバイデンが荒野をゆっくりと歩いていた。姿を隠すものなど何もない、すっきりとした荒野。もとより隠れる気もないのだろう、彼らは胸を張って闊歩していた。 バイデンの中に、一際目立つ強靭な肉体を持つ者がいた。彼は、彼の何倍かの大きさを持つ、得体の知れない巨獣に跨がっていた。ギョロリとした瞳が顔の真ん中に一つあり、その下で巨大な口が歯ぎしりするように動いていた。両側に垂れた耳は地面に擦れそうなほど長く、時々鞭のようにそれを振るっていた。大きな身体を支える四本の足は丸太のように太く、踏まれた地面に大きな足跡が残っていた。尻尾はドリルのような形をし、先は鋭く尖っていた。 巨獣の両脇には二人のバイデンが付き添っている。あとの二人は巨獣の耳に草木で編んだ紐を結び、それを引いて先導していた。その動きの緩慢さは、自発的なものというより、巨獣のためのものであるようだった。 巨獣に乗ったバイデンが、先導するバイデンに声を駆ける。前を行くバイデンは紐を彼は巨獣に乗ったままで、周囲を見渡した。リベリスタの拠点を囲むように並ぶ仲間の姿を彼は見た。そして彼らがまだ襲撃の様子を見せないのを把握すると、残念そうに表情を曇らせる。けれども彼は視線を正面に向け、ジッと目を凝らしてその先にあるだろうリベリスタの拠点を探す。 夜闇の中、果たして彼にそれは見えただろうか。彼はただ一瞬だけニヤリと笑っただけだった。 彼は巨獣の背中を叩き、再び歩かせる。拠点から背を向け、うろうろとする姿は、イベントの前日に眠れぬ子供を彷彿とさせた。侵攻の時まで、彼はしばし待った。 ● リベリスタの警戒班がバイデンの集団を捕捉した。数の多く、また身体の大きな彼らを見つける事は、夜闇に紛れたとて見晴らしのいい荒野では割合容易な事であった。しかし、彼らを撃退する事は、その比でない位に困難な事である。彼らは今回統制の取れた動きをしているのだから、尚更だ。 彼らは今、アークの拠点から距離を取って待機している。明らかな総攻撃の準備。時が来たとき、堰を切ったように繰り出されるバイデンの攻撃を撃退しなければ。その被害は拠点のみならず、リベリスタの世界、ボトム・チャンネルへの被害までも予想される。『ラ・ル・カーナ橋頭堡』がこのような自体に備えて防衛施設を備えていたとて、苦しい戦いとなることは必然であろう。 警戒班を通じてリベリスタの一部隊に要請が入る。それはあるバイデン部隊の迎撃だった。巨獣を従えたバイデン五名が、憤怒と渇きの荒野をゆっくりと歩き、拠点に迫っているということだった。他のバイデンが猛烈な勢いで拠点に迫っている中、一際その姿は目立っていた。それでも余裕を保っているバイデンの様子から、こちらが来るのを待っているのではないかという予測もなされた。けれども拠点に至らずにバイデンを撃退できる可能性がある以上、迎撃しない手はないだろう。 部隊の一人が警戒班に問う。敵の特徴はどのようかと。 バイデンの一人、最も強力そうなのが巨獣の背に跨がっている。バイデン二人が巨獣の脇を歩き、残り二人が巨獣の耳に繋がった紐を持って前を歩いている。その様子から、恐らく巨獣を拠点に至らせ、暴れさせるつもりではないかと予測されていた。 巨獣は長い耳とただ一つの目を持ち、丸太のような太い足が荒野に足跡を形成するほど重い。これが拠点に突っ込んだ場合、幾ばくかの損害は免れないだろう。リベリスタには巨獣を拠点に至る前に討伐する事が求められた。 とにかく時間がない。警戒班が最低限を伝えると、リベリスタ部隊はすぐさま現場へと向かった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月26日(木)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 周囲が俄にざわつき始める。静寂の終わりは戦いの始まりを示す一つの証であった。血湧き肉踊る、という言葉通りの闘争は、力を以て正義とするバイデンの最も欲する所であった。 徐々に、段々と、沸き上がって来る闘気の渦の中、一際ゆったりと移動する影がある。広大に広がる憤怒と嘆きの荒野においてそれはポツンと孤立しているようにも見えるが、その実影は巨大であった。 リベリスタは岩陰にジッと隠れてそれを見ている。彼らに見つからぬように。気付かれぬように。 「奇襲するまで明りは灯すなよ」 『赤い墓堀』ランディ・益母(BNE001403)は呟く。そしてその時を待ちながら、バイデンの様子を観察する。 まず四人のバイデンが見えた。彼らは何かを囲むように配置を取っている。その中心には彼らの数倍の巨体を持つ巨獣、ガルバがいた。そのゆっくりとした歩調と、その身を抑えきれるようにも見えないバイデンたちに制せられている様子から、性格は非常に温厚なのだと推測できる。だがそれは平時の姿の話であり、激昂時にそれを保つという事ではない。むしろ、その可能性は圧倒的に低い。 ガルバの背中には一人のバイデンが座している。彼はガルバを制御しているようにも見えたし、その場のバイデン部隊のリーダーであるとも思われた。いずれにしても、この部隊の一つの目的は、ガルバを橋頭堡に『送り届ける』ことは確かだ。ガルバに乗るバイデンの視線、ガルバの向かっている方向は、共に橋頭堡の位置に違いなかった。 バイデンなぁ、と『chalybs』神城・涼(BNE001343)は溜め息を吐く。ただでさえ強力なバイデン、その上巨獣まで連れているという状況は、彼に面倒くさいという感情を呼び起こす。とはいえ、それで放っておくわけにはいくまい。橋頭堡を破壊されるわけにも行かないのだから。きっちりとぶっ飛ばして、格好のいい所を見せてやらねば。 一方バイデンはこれからの打ち合わせだろうか、静かに言葉を交わしている。『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)はそっと耳を澄ませて、それを探った。 「敵は確認できるか?」 ガルバに乗るそのバイデンは問う。しかし配下のバイデンは、いや、と否定する。 「だがじきに来るだろう。こんな大きな獣を連れているのを、彼らがいくら強かろうとて放ってはおけないだろうし」 「それもそうだ。奴らはどう来るのだろうなあ。正面か、奇襲か、それとも罠か。だが我々はそのどれだろうと打ち破る自信がある。そうだろう?」 「ああ、違いない」 彼らの口調はとても落ち着いている。その動揺の無さは自身の強さに対する絶対の自信によるものであろう。自信の強さに驕ってなどいないし、またリベリスタの強さを侮ってなどいない。その心意気は時として、大いなる脅威となるものだ。 ルカは、いつかは彼らと手を取りたいと思っている。ただ、この戦闘民族が自分たちの世界になだれ込むのは、勘弁願いたいとも思っている。 ここは、死守しなければならないのだ。 その影がリベリスタの隠密地点、橋頭堡から160メートルの地点に達した時、突如として影に紛れた何かが空気を裂いて飛んでいった。周囲の暗さとは異質な、明るさを持ったそれに、バイデンたちはすぐさま気がつくが、それによりどんなことが起きるのかまでは判別する事が出来なかった。 瞬間の怯みも許す事無く、やがてアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)の放ったそれは破裂した。辺り一帯に眩い閃光が飛散する。暗さに慣れた目には、あまりに強烈すぎる光だった。バイデンたちは思わずその顔を腕で覆い、光を遮った。 閃光が収まり始めるのと同時、何かの足音が聞こえ、バイデンは急いで周囲を見回した。見えるのは自分たちの両側から接近して来る八つの影。怯みを免れたバイデンだけが敵の急襲に身構えた。 「言葉は解らずとも、戦いにて通じる物はあろう! 名乗らせて貰おう。……義桜葛葉、推して参る!」 鞭を引きずるバイデンを、『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)が凍てつく冷気を纏わせた拳で叩く。痛みにも似た冷たさがきっとバイデンに降り掛かっただろう。だが、バイデンはなお、笑んでいる。突き刺さる冷気を振り払う炎のように。 強者に焦がれ、その身も心も炎とするか。葛葉はその心をよく理解している。けれども何も考えずに強者に立ち向かう心、それは彼にとって制すべきものであり、忘れる事なき激情だ。 「さぁ、戦ろうバイデンよ。その力、我が拳に見せてくれ!」 ● ランディが葛葉に続き戦場に飛来する。勢いよく振り回されたグレイヴティガーの起こした激しい烈風は、バイデンたちを容赦なく襲う。 風に舞う砂塵を分け入って、一本の魔力を纏った矢が飛んでいく。 「闘いに誇りを持つ貴方達に敬意を……されど拠点は落とさせません」 『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が冷静に射た矢はしかし、已の所で避けられる。苦い顔をするシエルは次の行動に備えて魔力を溜める。 「バイデンだかランディだか知らないけど、給料分は働かせてもらわなきゃね」 皮肉るようにいいながら『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)が放つは一条の雷撃。戦場を駆けたそれは敵全てを余すところなく貫いた。 その雷と並走して、涼と『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)がバイデンを急襲する。涼の連続攻撃と、吾郎の数多の幻影を伴う攻撃は、バイデンに確実にダメージを与える。 気付けばリベリスタはバイデンの進行方向に対して壁を成していた。決してガルバをその場に止められるものではなかったが、バイデンを迎え撃つに当たり十分な役割を果たすものであった。。 「申し分ない!」 異界の言葉を理解できるルカとアルフォンソだけが、彼らの言葉を理解する事が出来る。彼らの口にするそれから感じ取れる感情は、強敵に相見える事が出来た幸福に、満ちていた。 「赤き武人よ、我が拳を受けてみよ!」 威勢と共に拳を繰り出した葛葉は、確かな手応えを感じる。しかしその中で、沸々と沸き上がる彼らの闘気を、身に染みて感じていた。 「お前らと戦える事は、実に喜ばしい」 力のままに振り下ろされた鞭に、葛葉は痺れるような痛みを覚える。ランディは、バイデンの中に分け入り、烈風を吹かせながらバイデンと呼応するように叫ぶ。 「烈風陣で力の限り薙ぎ払ってやる!」 「さあ、その力を余す所無くぶつけてこい!」 その最中、ガルバはゆったりと、しかし確実に橋頭堡に向け前進していた。その背中に乗る主の指示で、正確な歩調を刻みながらも、その視線はリベリスタの方に注がれている。見た者を凍り付かせるように冷ややかなそれは、リベリスタに呪いを刻む。 ガルバの主たるバイデンは、眼下のリベリスタを真剣な眼差しで見つめている。彼らは強い者には少なからず敬意を表する。リベリスタたちがそれに値する強力さを備えているのは、彼らの目にも間違いのないことであった。そしてそれは、彼らの戦闘欲を沸き上がらせる重大な要素でもあった。 彼はリベリスタがガルバを止める気配がない事を察すると、ガルバにそのまま進むよう指示してから颯爽と飛び降りる。その下には涼の姿があった。バイデンは振り上げたハンマーを、猛烈な勢いで彼に向け振り下ろす。 強かに地を叩き付ける音が響いた。涼ははね飛ばされた体を立て直しながら、怒りの眼差しで今しがた自分を殴りつけたバイデンを見る。 言葉がわからずとも、主義が異なろうとも、バイデンの気持ちが昂っているのがわかる。楽しんでいるのがわかる。 「燃えてきた。やってやんぜ!」 振りかざした剣を一心にバイデンに振るう。突き立てられた刃に、バイデンは咆哮をあげ、応戦した。 ● 「癒しの息吹よ……」 ルカとシエルがほぼ同時に、癒しの微風を生成する。最中、杏は後衛を狙うバイデンに向け、組み上げた魔術を放った。直線を描いたそれは色とりどりの光を散らしながら彼を襲い、その身に異常を宿していく。しかし一体のバイデンが素早く杏へと近付き、振り上げた鞭を彼女へと鋭く放つ。体を縦断する痛みと共に、彼女は縛り付けられ、動きを失くしてしまった。 吾郎が連続攻撃でバイデンに斬り掛かる横を、アルフォンソの真空刃が横切り、バイデンを切り裂いた。しかし庇うように前に出たバイデンが勢いよく吾郎に斬り掛かる。避けきれず生じた傷口から、ボトボトと血が流れ出した。 続いて烈風が舞い踊り、葛葉が拳をバイデンに突き出した。バイデンもそれに対抗して、攻撃の激烈さを増していく。戦闘が混戦の模様を呈していく中、シエルが呟く。 「やはり一騎当千のバイデン様……強敵……です」 ジリジリと下がっていくリベリスタと、反対に橋頭堡に近付いていくバイデンとガルバ。 数の多さから優勢はリベリスタにある。けれどもバイデンの繰り出す激しい攻撃と自己再生能力、加えてガルバとバイデンのもたらす異常が、致命傷を与える事を許さない。極めて拮抗に近しい状況であった。 戦闘が長引く程に、拠点にはどんどんと危険が迫る。分かっていないリベリスタなどいない。バイデンは欲望の赴くままに闘争を続けるのみだ。 それ故にシエルの漏らした声は、彼女の纏う雰囲気は、バイデンに油断をもたらす事は無い。 彼らの求めるは勝利だけではない。果てなき闘いもその一つである。彼らは強者との闘いにおいて常に高揚している。言うならば、目の前の闘い以外には少なからぬ油断があると言えるのだ。 鞭の一撃がシエルへと放たれた。それは彼女を呪縛するが、彼女の前に吾郎と葛葉が飛び出し、同時にバイデンへ攻撃を放つ。バイデンはふらりと体をよろめかせたが、なお立っている。別のバイデンが現れ、涼に剣を振り下ろした。ガルバが暴れ、息つく間も無く傷が増えていく。 よろめいたバイデンに向け、ランディが得物を振るう。鋭く放った真空刃が、満身創痍でなお戦う事を止めない戦士を切り裂いた。体中から血を流しながら、そのバイデンは地に伏せた。 状況が展開する。しかし橋頭堡への距離は、確実に縮まっていた。 ● 歩速は決して速くはなく、リベリスタの攻撃の与える異常に時折足を止める事はあったが、ガルバは着実に橋頭堡に迫っていた。周囲を取り囲む剣戟や攻撃の嵐の中、ガルバは悠々と移動していた。 アルフォンソは真空刃を放ちながら、橋頭堡まで残りどれくらいかを目算する。もしも発射台を用いるのであれば、地上戦を続けるのは限界であるような距離であった。罠の存在もあるが、手は早めに打っておくにこした事は無い。 一方で、罠への誘導はそれほどうまくいっていなかった。ガルバはリベリスタの誘導に対して、些細な軌道の変化しか起こさなかった。しかし少しずつ、罠の方へは寄っていってはいた。このまま行けば、バイデンもろとも罠にかける事は出来るだろう。 「そろそろよ、行きなさい」 杏がアルフォンソに向け囁く。アルフォンソは杏に向けて一度だけ頷き、踵を返して橋頭堡へと駆けていった。バイデンは気付いているのか否か、全く気にせず戦闘を続けている。 「ほらよ!」 ランディが敵の懐に飛び込み、得物を鋭く抜き放つ。生じた真空刃は、バイデンの体をかすめて飛んでいった。バイデンは避けながらランディとの距離を広げたが、ランディは横からハンマーによる打撃を受けた。鋭く放たれた鈍重な攻撃は、ランディを思わずよろけさせる。 ハンマーの軌道の脇から涼が現れ、連続攻撃を仕掛ける。吾郎もそれに続き、バイデンを責め立てた。鞭を持ったバイデンに向け、葛葉が駆け出し、拳を突き出す。ルカは癒しの微風を呼び起こしていた。 「そろそろ着いた?」 杏がアクセスファンタズムに小声で呼びかける。その声からは幾らかの焦りを感じ取れる。 『もう少しです』 「早くしなさいよ……で、何を撃つつもり?」 『適当に。当たれば、何でもいいでしょう?』 「そ、よろしくね」 杏が通信を切る。同時、葛葉の冷気を纏った拳が、バイデンに立つ気力を失くさせる。膝を折るバイデン。その近くで、ガルバが奇声のような叫びをあげた。 ガルバの動きが止まる。ガルバは見事に罠にはまり、動けなくなっていた。奇声を上げながら何度も、何度も助けを求めるように叫び、暴れている。近くにいたものは見境無く傷つけられた。 バイデンのうち二体もその罠に捕らわれ、その場で動けなくなる。リベリスタは罠地帯をスルスルと抜けながら、その矛先を転換する。 「今だ!」 動けないガルバを見、リベリスタは集中攻撃を仕掛ける。攻撃のベクトルは全てガルバへと向けられた。彼らはバイデンを通さぬよう壁を成していた。 「動けないうちなら、潰せると期待するぜ!」 吾郎は集中攻撃の一部を担いながら、その剣をガルバの目へと向けた。 急激に減少した自らへの攻撃に一瞬戸惑ったバイデンだったが、すぐさま攻撃へ転じ、リベリスタを襲う。 「おっと、面倒くさいのはなしだぜ!」 涼はバイデンを足止めるように立ち塞がり、剣で斬った。バイデンは一言何かを涼に告げてから、思いきりハンマーを振るった。涼の意識が、一瞬の暗転を起こす。 ガルバは徐々に罠を抜け出し始めていた。それまで攻撃をそれほど受けておらず、焦り無く歩んでいたガルバに、少しだけ疲弊が見られるようになっていた。 その時、一瞬だけどこかの空が明るく光った。昂る戦場の雰囲気、沸き起こる闘いの音、それらからすれば、その光は決してそこにふさわしくないものではなかっただろう。 ただその光はリベリスタにとって、大きな意味を持っている。 「──お願い」 杏がアクセスファンタズムに向け呟いた。瞬間、何かを弾くような音が、そこにいた全てのものの耳に届いた。発射台から放たれて緩やかな弧を描き、遥か彼方から飛来する何か。それは急速に戦場へと、ガルバへと接近していく。やがて猛烈な勢いのまま、ガルバの背中へと着弾した。 轟音にも似た叫びをあげるガルバ。暴れ、体を鞭のように振るい、その目は怒るように鋭く光った。同時にガルバは完全に罠から抜け出した。そしてそのまま橋頭堡へと再び足を向ける。 リベリスタの成した壁はすぐさま超えられる。覚束ない足取りで、今にも倒れそうな脆弱さであった。吾郎によって傷つけられた目は赤く滲み、見えているかどうかさえ怪しい。それでもなお、向かっている。 やがてガルバは架け橋へと至る。鈍重なその体を橋へ預けようとする。その口は、何かを求めるように大きく開いていた。 「させるかあ!」 吾郎はすかさずガルバの前に出て、その口へと飛び込んだ。気持ちの悪い温さと前進をくまなく伝う痛みを感じながら、吾郎は剣をその口へと突き立てる。のどの奥から気分の悪くなる叫び声が鳴った。構わず、口の中を切り裂いていく。 「中から切り裂かれる感触はどうだ、ああ!?」 ガルバと自分の血液の区別のなくなった口の中を、吾郎はずるりと抜け出した。ガルバの声はもうしなくなっていたが、足下にあるべきものも、無かった。 架け橋は半壊していた。ガルバの暴れた衝撃と重量に、耐えきれなかったのだ。 ガルバは堀の底へ沈んでいく。自らの破壊した、橋の欠片と共に。 ● 自らの連れてきた巨獣の命が潰え、仲間の幾らかは倒れている。それでもバイデンはなお闘いを続けた。 ガルバの脅威は既にない。それでいて、リベリスタとバイデン、共に満身創痍であった。 力と力がぶつかり合った上で生まれた、当然の結果。 そしてそのバイデンは、威勢良くハンマーを担ぎながら誰よりもバイデンの劣勢を理解していた。 「我はクシャナ。クシャナ・カナンテ」 ハンマーを持ったバイデンが口にした言葉を、ルカは静かに理解する。 「貴様らと再び相見える事を期待する」 葛葉はどこかで咆哮するバイデンの声を聞いた。 それは荒野にむなしく響いている。 だがその声から誇りは消えていないように、葛葉には聞こえた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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