●バイデンらしい戦い方 蹂躙。 それは圧倒的質量・武力を用いて対象を打ち倒し、踏みにじる術。 紅い筋肉質の体にツノを備えたバイデンは咆哮を上げ、目的地へとひたすら進軍する。 ある者は獣の骨でこしらえた大型武器を構え、またある者は巨獣にまたがり前方の障害物を踏みつぶす。 情けも容赦もない、向かう先にある強者が眼前に迫っているのだから。 ――!!!!! 待ちわびたバイデンの雄々しき猛りが、ラ・ル・カーナの地に響く。 夜の闇を照らす三つの月が、微かに震えあがった気がした。 ●リベリスタらしい戦い方 バイデンの軍勢がこちらに進軍中。 警戒班を通し、この報が橋頭堡に届いたのは発見からしばらく後のことだった。 リベリスタ達の頑張りが実を結び、この『完全世界』においては大きな問題なく任務を全うしてはいる。 だが、この一報はそんな努力を一蹴する出来事であることは、現場にいるリベリスタの誰もが知る事実だ。 バイデンと戦ったことがある者ならわかるだろう。彼らの気性、そして理念を。 この見晴らしのいい荒野に兵を伏せる場などなければ、伏せることさえしない。 本能の荒ぶるまま戦うことを理念とする狂戦士達が、今日に限っては戦列乱れることなくこちらへと進軍。 現在はアークの拠点より距離を取って様子を伺っている。 ――バイデンによる総攻撃の前触れだと、誰もが感づいた。 地平線の向こうより現れる戦力は未知数。意思疎通の難しさに加え、好戦的な彼らが『戦いをやめよう』という説得に耳を貸すとは考えられず、差し迫る戦闘の回避は極めて厳しい。 このままでは拠点は蹂躙され、陥落すれば最悪。そのままボトム・チャンネルへと雪崩込む危険すらある。 最後の要『ラ・ル・カーナ橋頭堡』は今こそ持ちうる防御施設を駆使し、バイデンの猛撃を凌がねばならない。 その為には、何よりもリベリスタの力が不可欠だ。 バイデンは徒歩隊が7体。それに加え、巨獣1匹と操者である2体のバイデンを入れて合計10体。 特に禍々しくねじれたツノを持つバッファローに似た巨獣『バッファ』は奴らに負けず劣らず侮りがたい。 進軍するバイデン達は大剣・ハンマーと様々な武器を持っているものの、遠距離武器を持ちあわせてはいない。 このような連中が拠点を落とそうと待ち構えている。我々の役目はこのバイデン達を撹乱・撃退し拠点への被害を最小限に防ぐ――いわば遊撃隊だ。 この隊に限っては拠点の正面門へと進軍しつつある。比較的対処はしやすいが、突破された場合の被害は対処しがたいものになるだろう。 バイデンは屈強だ、なかなか倒れることを知らぬ狂戦士だ。 それでもあらゆる手を講じ、武力と戦略を以て脅威を退ける事はできる。 単純明快、しかし侮れないこの任務を無事にこなす事ができるだろうか? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カッツェ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月30日(月)00:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●序章 遠く、近く。咆哮が聞こえる。 次第に激しく撃ちあう音と混じり合い、外周は瞬く間に戦場と化した。 特に橋頭堡正面口へ向かって攻めこむバイデンは多い。我々が当たる場所もまた、突破されてしまえばそのまま正門を打ち砕かれてしまうだろう。 バイデンが迫るまでの一時は、休息ではなく準備の時間。それぞれが迎えうつ準備を行う。 「遂に来たか。バイデンの性質からして武を示さなければ何も通じないのだろうな」 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)の千里眼が、遥か先に見えるバイデンの姿を捉える。隊列は徐々に砕け、瞬く間に橋頭堡に対する包囲網が出来上がる。全てに取り付かれれば陥落は必定だ。 「バイデンがこちら側に雪崩込んで来るようなことになれば、世界は乱れ崩界が進む一方だ」 『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)の懸念はこのままだと現実のものとなる。一般人は危険に晒され、街は秩序を乱し、狂った世界のバランスは崩界を早めるだろう。 「皆のためにも、全力で戦わなくちゃな!」 『鉄腕ガキ大将』鯨塚 モヨタ(BNE000872)が声を上げ、己のリミットを1つ外す。 この世界とボトム・チャンネル。両方守ってこそのリベリスタだ。 バイデンとの戦いに慣れた者がいれば、逆に慣れない者も居る。 「バイデンと戦うのは初めてだよ」 椎名 真(BNE003832)が不安げに語る。ライフルが獲物の真にとって、こちらに向かってくるバイデンは戦いやすい相手だ。しかし、かなり強いと聞けば自然と心は震え上がる。 「私も初めてでしてね。果たして、どれ程の強さなのか。楽しみなような、心配なような」 バイデンに何かしらを被せつつ、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は考えに耽る。 その風貌たるや非常に怪しげで、表情は汲み取れない。それでも向かう敵はただ、撃ち倒すのみ。 「壊れない壁にどう立ち向かうか、楽しみです」 『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)が前に出る。壁とは勿論、ヘクス自身のことだ。 「今は押し返すことに集中しましょう」 諭すかのような雪待 辜月(BNE003382)の一声がリベリスタに光の翼を授ける。 戦場に攻撃を凌げる遮蔽はなく、唯一信頼に足りえる遮蔽といえば、前へ出るリベリスタぐらいか。 守るため、解りあう為に、今は戦う。これはその為の戦い。 「ここで食い止める、行くぞバイデン! 変身!」 接近に呼応し、疾風がアクセスファンタズムを起動し、武装を展開する。 バイデン9の巨獣1。 うち、騎乗中のバイデンが2体。 対するこちらは8人。 数の不利は、技量で補う。 大激突。 それを物語るこの戦いは、巨獣の突撃から始まる。 ●激突 騎乗バイデンの垂らしたロープに2体のハンマーバイデンが捕まる。 「ブモォ!」 巨獣は息を荒げ、操られるままにリベリスタに向かって突撃する。 あまりにも危険かつ強引な輸送方法は前衛を突破し、後衛を打ちのめすに最適な彼らなりの作戦だろう。 「こいつがバイデンの戦い方か、面白ぇじゃねーか」 緋塚・陽子(BNE003359)は揚々と声を上げ、緋色の羽根を散らして宙へと逃げる。 バッファが突撃するのはシェリーの方角。遊撃を切り抜け、橋頭堡に向かうバイデンを考慮して罠を使わない以上、このままでは激突は必至だ。 「罠は使わない。だが、これならどうだ」 この状況に、シェリーは慌てず懐から何かを取り出し、装填する。 取り出したのは発射装置。打ち出すものは照明弾。本来ならば連絡用に使うアイテムだが……。 「ぬしら、目を閉じておけ」 シェリーは構え、照明弾を正面へと打ち込む! 「ブモォ!?」 至近距離で強烈な光量を受け、目を灼かれたバッファ。到着地点を遥かにオーバーした巨獣に、騎乗バイデンは横転しないよう必死に制御する。 だが、シェリーもまた、バッファの直撃を受ける。 「多少の傷など!」 それでもこの傷なら回復は間に合う。加護によって得た翼を広げて体制を立て直し、バッファ達と距離を取る。 「!!」 ロープにしがみついていたハンマーを持つバイデンは、バッファの急制動に振り回され、そのまま宙に投げ出される。 だが、ただでは転ばない。そのまま1体は降下地点に居る辜月に向かって獲物を振り下ろす! 「え、後ろから!?」 「させないよ」 真の愛銃『試作型アサルトライフル SH-120524』が火を吹き、攻撃を加えるバイデンの腕を的確に貫く。 攻撃力こそ他のリベリスタと比べて乏しい。だが、仲間をフォローするのは力が足りなくても可能だ。 銃弾を叩きこまれたことで地面に投げ打つ格好となったバイデンは、狙いを真に絞る。 「なるほど、いいフォローです」 その様子に、別所にいた九十九もバイデンに向かってショットガンを構える。 「白兵戦好きなバイデンの皆さんに、銃の素晴らしさを教えて上げましょう」 シードによって威力が高められた散弾銃が、輝く鉛玉を適度に広がるバイデン共に対し満遍なく叩きこまれる。 「頑丈そうな身体をされてますけど、戦いそのものは原始的ですね」 さらにもう一撃。容赦無い遠距離攻撃に対し、咆哮が飛んでくるが九十九は涼しい表情。仮面を外しても恐らく、この表現は崩れまい。 「もう少し距離を開けたほうが良さそうですね」 流水の構えを取り、冷静に情報を共有する疾風。 本来なら巨獣と輸送されたハンマーバイデンが後衛をかき乱し、ガルバルガがリベリスタ達を蹂躙する二段作戦だった。 しかし、現実は千里眼によって巨獣輸送を把握していた彼らは即座に情報を共有。突撃と同時に、前衛と後衛が間を広く開けて挟撃できるようにしたのだ。 結果、巨獣に率いられたバイデンを逆に包囲。こちらの優勢を決定づけることになった。 一方で騎乗バイデンと相手する2人も白熱していた。 モヨタの攻撃に対して投げられるロープ。絡み付く度に解くも、このままでは巨獣によって引きずり回されてしまう。 その様子を、陽子は上空20m上から観察していた。 (難しいね。こいつら結構手馴れてるみたいだ) 決して高みの見物ではない。瞬間記憶や超直感。あらゆる感覚を研ぎ澄まして陽子は騎乗バイデンの力量を測っていた。 見る限り、リベリスタの機転で操縦できるかは難しいが、どちらにしても叩き落とさねば。 「そいつで叩き落とせるんだろ?」 AFでモヨタに呼びかける陽子。 「出来るかどうかはわからないが、任せとけ!」 モヨタもそれに対し、返答する。 「わかった、なら先に!」 問い返しに陽子が一声上げ、頭上から急降下! 瞬く間にバイデンと接敵するまでに高度を下げた陽子はデスサイズを構え、猛禽類のごとくバイデンを襲う。 「背中、取ったぜ」 上空からの二撃。加えてバッファの背に乗ってからの追撃は、バイデンとはいえかなりの痛手を負わせる。 「バイデンもそうだけど、力任せ……ってとこじゃなんかオイラと似てるかもな!」 バッファの側面を蹴り、背を踏みしめ、モヨタが『機煌剣・プロミネンサーブレード』を握り締める。 集中したエネルギーが球となり、重厚な剣を覆う。 「この一撃で……どうだ!」 振り下ろされた一撃が、弱った騎乗バイデンに炸裂! 「グアッ!?」 手綱を掴む余裕もなかったのだろう。騎乗バイデンが巨獣の上から落下する。 「おっと、そのまま捕まってくれ」 すかさず陽子がバイデンをキャッチし、地上に下ろす。 騎乗バイデンは捕縛され、巨獣に踏み潰されぬよう放置される。 戦況としてはこちらの有利。たが巨獣の制御はまだ続き、依然として予断を許さない。 ●死守 「――!!!!」 一方、ガルバルガ率いる徒歩隊5名は咆哮と共に更に前進。 その行軍に立ちはだかるのはヘクス1人。 巨獣を倒すまで彼らの足を止めるのが彼女の役目、独断場だ。 「…………」 『退け』と言わんばかりの殺気が突き刺さるも、ヘクスは前進する。 そして、ガルバルガに向けて胸を叩き、手を差し出す。 「――これで色々理解できましたか?」 ただそれだけの動作。 されど、ガルバルガはニィと笑いを浮かべ、足を止める。 バイデンもまた、足を止め、武器を掲げる。 ヘクスの取ったアクションは『心臓を渡せ』に近い意味を持つ。 バイデン達も、それを本能的に察したのだろう。 「砕いて、ねじ伏せて見せて下さい。この絶対鉄壁を!」 扉というに相応しい盾を構え、ヘクスは全身のエネルギーを防御に集中させる。 指定の時間まであと3分強。 「ヘクスには酷な頼みをしたものだが……」 彼女を信じ、シェリーは爆炎を巨獣に向けて打ち込み続ける。 彼女の防御力を以てすれば進撃を防ぐことは容易いが、長時間危険に晒すことは良としない。 故に、早くこちらを片付けてヘクスと合流しなければ。 焦りが伝わる、切迫した状況が場を走る。 「咆哮は怖い、けど……」 飛び交う罵声にも似た咆哮をしっかりと見据え、天使の歌が死と飢えの荒野に響く。 回復の要は自分。その役割を果たすかのように、辜月は巨獣とバイデンの攻撃で傷ついた彼らを癒すことに専念する。 「「グオォォ!」」 何秒、何分経ったか。まだ攻撃は収まらない。 2体のバイデンによる側面から攻撃を、適当に受け流して突き返す。 攻撃はしないし、できない。 ガルバルガへの牽制は通らなかったが、反撃で少しずつ痛めつけている。 (あと何分持てば――) 「!!」 バイデンが再び側面攻撃を仕掛ける。 それを盾で受けると、更にバイデンが2体突っ込む。 これを一歩引き、両腕でハンマーを受け止める。 だが次の瞬間、ヘクスの背後から何者かが腕を掴む! 「!?」 振り返ると、ガルバルガの姿。この鬩ぎ合いの中、振りほどくのは至難だ。 「こんな事してて、いいのですか?」 言っても通じないが、挑発は止めない。しかし、ガルバルガはただヘクスを見据えるだけ。 (まさか、気づかれている!?) 考えたくはなかった。が、バイデンを指揮している強者である以上、臨機応変な行動を取ってくる事も十分考えられた筈だ。 「……まずいですね」 ヘクスを掴む腕は更に増え、ガルバルガの咆哮と共にバイデン達はヘクスを持ち上げて後退する。 あと1人いれば気を引き、救出できただろう。だが、今も仲間達は巨獣と戦っている。 戦力の分断は戦力も減るし、指揮系統も機能しなくなる。 だが、一人で抱え込むには力が足りず、時間も長すぎた。 ヘクスを護送する最中、バイデンとガルバルガの間で咆哮の応酬が繰り広げられるが、ガルバルガの一喝に一同は静まる。 「仲間割れ……ではありませんね」 抱えられながらもやり取りを観察するヘクス。 そして、バイデン達が向けた視点と同じ方向を見た時、彼女は状況を悟った。 赤き蛮族達が次々と橋頭堡へと突撃していく。 規模は遊撃隊が戦っているものと同規模か、それ以上。 先陣を切るのは、バッファが子牛に思えるほどの超弩級の質量。 その体躯は20mはあろう、三本角の巨獣。 その巨獣を駆るのは――。 『プリンス様がいる限り、我らに敗北はない。脆弱なフュリエ諸共、潰してくれる』 ●巨獣の猛り 「払え、壱式迅雷!」 雷撃を纏った四肢が跳び『可変式モーニングスター[響]』の流れるような一撃がバイデンと巨獣を等しく叩きのめす。 「ぁ、疾風さん、危ないです」 辜月が視点を上に向けると、騎乗バイデンが気絶している。バッファを操る者は今、この場に居ない。 「ブオォォォ!!!」 操者を失った巨獣が敵味方問わず蹴散らし始める。疾風も巻き込まれるが、これをギリギリで耐え切る。 「騎乗バイデンまで倒れましたか。これはかえって好都合ですよ」 「最後まで絶対に癒しきります。だから頑張ってください」 疾風を覆う光のオーラが鎧と化し、身体を癒しながらも強固な力を得る。 巨獣との戦いもそろそろ佳境だ。 「こりゃ無理だね! ロデオでもこうは行かないよ」 その一方、モヨタと陽子の巨獣制御は難航を極めた。 操り方は把握していたが、やはり操るには抑えこむ力とバッファに振り落とされない為の慣れが不足している。 「このままじゃ振り落とされちまうぜ!」 「わかってる、手綱を放す!」 2人が手綱を放し、バッファから離れる。制御を失った巨獣はリベリスタだけでなく、近隣のバイデンまでも跳ね飛ばす。 「見ているだけでハラハラしますよ」 消えかけの翼の加護をかけ直し、辜月は離れて様子を見る。 多くの仲間が傷を負っては天使の歌を奏で、集中攻撃を受ける者には浄化の鎧を授ける。 マジックアローによる攻撃も考えたが、回復に専念することにした。 「……逃げませんよ」 バイデンの咆哮にもしっかりと真正面から見返す、一歩も譲る気などない。 状況は圧倒的に有利だ。リベリスタの機転によって形成された逆包囲網は逃げ場を遮断し、陣を作ることすら許さない。 強いて言えば、巨獣の蹂躙が前衛を跳ね飛ばす様がかなりの痛手ではあった。 「くっくっく、回避には自信がありましてね」 だが、それも狙いすましたものではない。暴れ巨獣となったバッファの一撃は威力こそ増しているが、当たることも少ない。 「ほんと怖いなー、前に出たら吹き散らかされそうだよ」 残り2体、うち巨獣1匹。そこにハニーコムガトリングを叩きこむ。 「……!!」 バイデンの咆哮にも似たけたたましい騒音と共に大量の銃弾が炸裂。1体が奇妙なダンスを踊った後に地に倒れる。 「これで決めるとしよう」 シェリーの放った雷光が残ったバイデンと巨獣を飲み込む。 様々な攻撃を受け、暴れ狂っていた巨獣の動きが鈍り……止まった。 「Time to make the sacrifice」 確信を以てその言葉を告げると、巨獣の身体がゆっくりと横倒しになる。 「巻き込まれるぞ、全員退避!」 「!!!」 疾風の言葉に巨獣周辺に居たリベリスタが退避する。 巨獣を失い、バイデンも退散しようとするが、間に合わない。 逃げ遅れた残りのバイデンは、そのまま巨獣の下敷きとなった。 「戦いばかりの人生の終止符がコレとは、なんとも無情ですぞ」 巨獣と、その下で眠る事となったバイデンに向かって軽く祈りを捧げる九十九。 「祈りはそこまでだ。ヘクスと合流しよう」 ヘクスの接敵から3分弱。シェリーの言葉と共に、一行はヘクスの戦う場所へと向かう。 彼らには彼女の身に何が起きているのか、まだ解らない。 ●消えた一行 「確かここのはず、ですよね?」 真が周囲を見渡すも、そこには誰もいない。 周囲で他の遊撃隊が激戦を繰り広げているだけで、当のヘクスとガルバルガ達の姿は見えない。 追手も来ない。不気味なほどに攻勢が来ない。 バイデンから向かい撃つことが無い事など、無いはずなのに……。 「ガルバルガの姿が見えないわね」 「逃げたとかじゃね?」 「バイデンが逃げるというのは考えにくいと思いますけど……」 いずれにせよ、どこを探してもガルバルガの姿はヘクスと共に消えた。 一抹の不安がよぎる中、その懸念は現実のものとなる。 「……なんてことだ」 疾風が青冷めた顔で皆に伝える、彼の千里眼がヘクスを捉えることに成功したのだろう。 彼女はバイデン4体とガルバルガによって拉致されていたのだ。 だが、彼らに追い打ちをかけるのはそれだけではない。 「な、なんですか。あれ……」 一行とすれ違うように通り過ぎていくのは、超巨大獣『グレイト・バイデン』の姿。 圧倒的質量、圧倒的威圧の前に辜月がおもわず目を背ける。 奴らの向かう先はただ一つ、橋頭堡外壁だ。 「こんなのまで居るのかよ。こうしちゃいられねぇ、ヘクスを助けに!」 「待ちなさい」 モヨタが助けに向かおうとするも、九十九に止められる。 「何でだよ! このままじゃ連れ去られちまう」 彼の憤りに対し、表情が見えぬまま無言である方向を指さす九十九。 指さした先に見えるのは、バイデンの群れ。 進撃中、撤退中、捕虜輸送中のバイデンなど様々。詳しく把握できないが、一塊となっているのではその数や、20から30は下らない。 こちらに向かっている血気盛んなバイデンと鉢合わせになる可能性も十分あるだろう。 「私達も巨獣との戦いで疲弊している。ミイラ取りがミイラになっては大事ですよ」 「九十九の言うとおりだ。捕虜も居る、一旦退いてそれからだ」 疾風の言葉にモヨタは歯噛みし、うつむく。 「…………」 だが、この中でもっともショックを受けているのはシェリーだ。酷な頼みと頼んだ彼女がこんな事になろうとは……。 「もう会えないわけじゃない。だから、今度は助けだそう」 言葉に表し難いショックに打ち震える彼女を、真が慰める。 遊撃は成功した、捕虜も1体囚えた。 しかし、その為に負った代償は遥かに重い。 今は橋頭堡に帰り、助けだす手段を模索しなければなるまい。 ●健在、されど―― 打ち壊せない壁は確かにあった。 バイデンはヘクスの守りを砕くことは叶わなかった。 故にガルバルガは捕縛を命じたのだろう。これは蹂躙を望むバイデンにとってどれほどの屈辱を与えたことか。 「ふふ、ふふふふふっ」 バイデンの数は徐々に増えていく。戦力を出し惜しまぬそれは、リベリスタの健闘が実を結んでいる確かな証拠だ。 「こんなバイデンの姿が見れただけでも、ひとまず満足ですよ」 今のヘクスは、事態が好転する事を期待するしかなかった。 その期待が彼女の耳に届く日も、おそらく遠くはないだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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