●戦鬼襲来 当初、ラ・ル・カーナに設営されたアークの橋頭堡は、橋頭堡とは名ばかりのテント村だった。 だが、そんな状態だった拠点もリベリスタたちの努力によって、防御力を備え生活環境の整った防砦へと変わっていく。 リベリスタたちは警戒を怠ることなく拠点の設営を順調に続け、同時に周囲を警戒し、発生した幾つかの問題へと対処していった。 結果として橋頭堡は、フュリエの保護や周辺の治安維持等に効果をもたらし、拠点周囲は比較的にしても平穏を享受していたのである。 もっとも、その平穏も長くは続かなかった。 多くの者たちが予想していた事態が訪れたのである。 憤怒と渇きの荒野の彼方、地平線より巨獣を引き連れたバイデンの集団が近付いてくるのを発見したのは、リベリスタ達の警戒班の1つだった。 その規模は、これまでの小競り合いの集団とは桁違いだった。 それだけの集団ならば、見通しの良い荒野で発見する事は難しくない。 警戒班は充分な距離をもってその集団を発見し、ただちにその事を橋頭堡へと連絡した。 もっとも『彼等』は最初から、隠れてこそこそ……等という想いは、欠片も持っていなかった事だろう。 統制の取れた動きを見せるバイデン達の集団は、アークの橋頭堡からある程度距離を取った位置で足を止めた。 リベリスタたちの様子を窺うように。 明らかにそれは……総攻撃の準備だった。 ●戦いを前にして リベリスタたちも迎撃態勢を整えていく。 アークは何としても攻撃を凌ぎ切り、バイデンたちを撃退しなければならなかった。 拠点が陥落した場合、制圧されたリンクチャンネルよりバイデン達がボトム・チャンネルに雪崩れ込む危険がある。 幸いリンク・チャンネルを防御する為に設営された『ラ・ル・カーナ橋頭堡』は、この状況を予期し設営されていた。 橋頭堡はリベリスタたちの努力の積み重ねによって、一定の防御力を保持している。 攻め込まれる側ではあるが、荒野で戦うのと比べればリベリスタ達には確実に有利であるといえた。 もちろん、油断はできない。 好戦的とはいえ知性をもち、こちらの拠点を見た上で攻撃を決断した集団である。 ……バイデン達と意志疎通を行う事は、必ずしも不可能という訳では無い。 だが、彼等の気質を考えれば差し迫る戦闘を回避する事は極めて難しいだろう。 ならば……リベリスタたちに出来る事は、ひとつだった。 戦うしか、ないのだ。 ●ELIMINATION 轟音や怒号と共に橋頭堡が揺れる。 激しい戦いが始まった。 リベリスタたちもそれぞれのチームに分かれ、迎撃を開始する。 橋頭堡の外へと打って出て、敵を側面や後方から攻撃する者。 外周部で防壁等を利用して迎撃を行う者。 それらの者たちが戦う中……もたらされる情報を基に、何時でも動ける態勢で待機するリベリスタたちも居た。 リベリスタたちは出来る限りの労力を割いて、周囲を警戒しながら橋頭堡の設営に全力を尽くしてきた。 たやすく破られるような拠点ではないと自負している。 だが、同時に……絶対に破られないとも思っていなかった。 バイデンたち、そして彼らの従える巨獣達の情報は、遭遇した者たちによって伝えられている。 何よりリベリスタたちは今迄の戦いにおいて、不運な状勢、最悪の状況というものも想定して対策を練ってきたのである。 出来得る限りの防備を整えた橋頭堡ではあるが、守りを破られる可能性は充分にある……そう考える者たちは少なくなかったのだ。 もし、侵入された場合……それらを放置しておけば、橋頭堡の守りは外側と内側からの攻撃によって、完全に破られてしまう事になる。 そのような結果をもたらさぬ為にも、内側へと侵入した敵は早期に撃破しなければならない。 待機していたリベリスタたちは敵侵入の報を受けると、直ちに行動を開始した。 侵入者たちを完全に排除しなければならない。 警戒しつつ急行した8人のリベリスタたちは、防壁に近づいた所で不意に『彼ら』と遭遇した。 敵にとっても不意の遭遇だったようである。 一瞬驚きの表情を浮かべたバイデンたちはしかし、すぐにその顔に歓喜を、闘気を滾らせ、武器を振りかぶった。 それに劣らぬ速度でリベリスタたちも即座に、アクセスファンタズムを起動させた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月28日(土)23:17 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●遭遇 「ほう。面白い、一斉に攻め込んで来たのか」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)はヘビースピアを構えながら呼び掛けた。 「ならばここを突破して見るが良い。一体として通しはせんがね?」 さぁ、共に闘争を楽しもう! 言葉は通じていない。だが、何か同じものを感じたのだろう。 バイデン達はその顔にいっそう満足気な笑みを浮かべた。 「防壁を突破して来たか」 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)はバイデンたちに注意を払いつつ、彼らが此処にいる理由を推測した。 橋頭堡を陥落させるわけにはいかない。 「陥落すれば色々と支障が出てしまうからね」 「今回は防衛戦か、流石に手抜きは出来ないな……」 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は警戒しつつ、かつての戦いを思い返した。 「前にぶつかった集団は8人だったか……それに比べれば温いといえるがね」 (今回の相手は6人。まだ楽ではあるが……油断は出来ん) 「さあ手早く終わらせよう、捕虜にでも出来れば集落の位置も割れるかもな」 「それにしても、また随分多くの招かれざるお客様が来ましたね」 武器を、銃口を敵へと向けながら、『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)は呟いた。 (鬼に続いてまた厄介な相手の様ですがすべき事は何時も通りです) 「アークの敵を潰し、アークに利益を」 タフな相手だと聞く以上、持久戦は不利そうである。 (なるべく早めに頭数を減らせれば良いのですが) 「やーん、巨獣の骨とか牙とか、痛そうですよう」 (しかもバイデンって強そうですし……やーん) 一方、『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は涙ぐみながら、すこし戦意喪失気味。 「ファハハハハ!! 良い! 実に良い! 戦じゃ!」 対して『老いて尚盛ん』更科・権太(BNE003201)の方は戦意を激しく高ぶらせていた。 「此処で引いたら男が廃るというもの、受けて立つ!」 「――戦いが美学など、聞いて呆れる」 口調通りの表情で『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)は侵入者たちに視線を向けた。 (バイデン達のしている事は“ただの野蛮行為”でしょう?) 防衛戦できっちりお灸を据えて差し上げます。 「さぁ、早急にお帰り願いましょう」 突然バイデン御一行様とご対面なんて……本当、出会いというモノは突然ね。 『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)は念話、ハイテレパスを何となく使用しつつ呟いた。 言葉は不要のようである。 (彼らの笑みの理由、リーディングを用意する必要もないわ) 戦闘自体が彼らの望み通りである以上、シャクではある。けれど。 勝利の女神は気まぐれよ? (むざむざ蹂躙される趣味とか私無いし) 内心で呟くと、彼女は心で彼らに呼びかけた。 -はじめましょう、血の宴を- ●乱戦 「迎撃する! 行くぞバイデン、変身!」 アクセスファンタズムを起動させ、疾風は戦いの為の武具を身に纏う。 リベリスタたちは前衛と後衛4人ずつに分かれるように陣形を取った。 前衛となるのは、櫻霞、疾風、リーゼロット、シビリズの4人。 後衛は、杏子・沙希・イスタルテ、権太の4人。 櫻霞はバベルによってはバイデンたちの言葉を確認し、有用そうな情報は聞き漏らさないように意識を配る。 リーゼロットの予想通り、戦いは小細工する間も無く始まった。 イスタルテは他の後衛より前、前衛のすぐ後ろ辺り、中衛という感じの位置を取る。 結果として彼女の位置取りは直ちに効果を発揮する事となった。 武器を手に襲いかかってきたバイデンたちのうち、前衛たちと当たれなかった2体が、相手を求めて後衛を狙おうと駆け寄ってきたのである。 流石にいきなり攻撃はされなかったものの、そのまま狙われれば長くは耐えられない。 とはいえ他の前衛たちも決して余裕がある状況とはいえなかった。 4人はそれぞれ1体ずつのバイデンと相対しているのである。 巨獣の骨らしき物で作られた武器が唸りをあげて襲いかかり、リベリスタたちを傷付けた。 そのバイデンたちに向かって、突如炎が吹き荒れる。 「さぁ、炎の舞を踊ってくださいませ……♪」 可能な範囲で複数を巻き込むように、杏子は召喚した魔の炎を炸裂させた。 (慣れん前衛ではあるがやる事は変わらないな) 「さあ始めようか」 櫻霞は集中力を高める事で脳の伝達処理速度を向上させると、目前のバイデンへと呼び掛けた。 「好戦的だな。岡山での鬼を思い出す。」 疾風は呟きながら、流れる水のように構えを取る。 橋頭堡に出来るだけ被害が出ない様にと心の片隅に留めつつ、彼はバイデンの一体と向かい合った。 リーゼロットは集中によって動体視力を極限まで強化し、沙希は周囲の力を取り込む事で自身の魔力を飛躍的に上昇させる。 イスタルテは先ずはと味方に翼の加護を使用した。 そして権太は後方で、荒れ狂う雷を創り出す。 「儂の出来る事と言えば魔術じゃ」 (それもチェインライトニングが好みでの……気合を込めて、放つべし!) 「走れ雷光、我らが敵を疾く貫け!」 放たれた雷は幾重にも拡散し、バイデン達に襲いかかった。 シビリズも守りのオーラで防御を固めると、バイデンの一体と向かい合う。 それら前衛たちと中衛のイスタルテに其々バイデン達が襲い掛かり、残りの1体は敵を求めて更に前進しようとする。 敵の数は少ないものの全員が前衛であるが故の対峙。 戦いはこうして多くの波乱を含みながら、幕を開けた。 ●狂戦士たちとの戦い 後衛へと突っ込んできたバイデンに向かって、杏子は即座に気の糸を放った。 周囲を包むように展開した気糸がバイデンに絡み付き、その動きを封じこむ。 「近寄らないでください、汚らわしい……」 それに続くように櫻霞も気糸を放ち、イスタルテと対峙するバイデンを縛りあげた。 「そこで大人しく固まってろ」 それに続くように皆も動く。 疾風は雷撃を纏わせた拳を、蹴りを高速で繰り出し、近くバイデンを巻き込むようにして攻撃した。 リーゼロットは後方へ向かったバイデンたちを挑発する為に、散弾の嵐を見舞い嘲笑ってみせる。 一方で、沙希は早くも詠唱によって高位存在の力の一部を息吹へと具現化させ、前中衛たちへと癒しの力を注ぐ事になった。 バイデンたちの攻撃は単純だが、極めて強力だった。 とはいえ、まだ二人掛かりで回復に専念する状況ではない。 イスタルテは厳然たる意志を籠めた閃光を掌に集めると、バイデンたちへと解き放った。 光はバイデンたちを傷付け、二体の動きを鈍らせる。 (ちなみにメガネビームじゃないです……バイデンさんはそんな事言ってこないと思いますけどっ) 内心そんな事を呟きつつも、彼女は冷静に敵の状態を観察した。 狙う事のできた5体のうち直撃を受けた者の数は2体……となると、狙いを定めるべきか…… 「皆には触れさせぬ、先に儂が相手じゃ」 後衛へと襲来したバイデンと対峙するように移動しながら、権太は再び雷を創りだした。 「地力が足りん分は気合で補う! 主らに負けはせん!」 (儂の方が多くを行き、多くを知っている、経験こそ何よりの成長) 「まだまだ之から儂は伸びる、主らにも勝てる!」 気迫の籠った声と共に雷を放ち、動きを鈍らせた二体が攻撃を受ける。 続いたシビリズも全身の膂力を爆発させ、ヘビースピアを動きを鈍らせた一体へと叩き込んだ。 なるべく仲間と狙いを合わせ、各個撃破の形を取れるように。 (どの道私は単体攻撃しか無い故な) 一体一体に集中して行く戦術だ。 対してバイデンたちはそれぞれが一人ずつ敵を選び、対峙するという戦法を取っていた。 もっとも、その戦法を取っても充分に戦えるだけの力を彼らは所持しているのも事実である。 気の糸の束縛を振りほどき、あるいはショックから立ち直ると、彼らは大声で叫びながら再び巨獣の骨で出来た武器を振りかぶった。 筋肉が張り詰め血管が浮き上がった腕が、弾かれた様に高速で振るわれ、空気を抉るような音と主に斧が、鎚が、大剣が、リベリスタたちに叩きつけられる。 櫻霞とイスタルテは、彼らの発する言葉を理解できた。 言葉を理解できない者であっても、その表情を見れば……大凡は理解できただろう。 彼らは、歓喜していた。 彼らの叫びは、目の前の『敵』に対する喜びの声だった。 自分たちを傷付け、渾身の力を籠めた一撃を耐え、怯むことなく反撃してくる『強敵』に出会えた事への喜びだった。 狂っているという表現も当て嵌まるのかも知れない。 だが、彼らこそ……紛れもなく、バイデンであった。 ●総力戦から消耗戦へ 皆の負傷を確認しつつ、イスタルテは味方への回復と閃光による敵への攻撃を使い分けながら戦闘を行っていた。 幸い閃光の方は敵の動きに集中すれば、ある程度直撃を期待できる。 とはいえ、攻撃する機会は急速に少なくなっていった。 バイデン達の攻撃が蓄積し始めた故である。 沙希からの念話で意志を疎通させつつ、自分と対峙するバイデンが不満げに叫びながら攻撃を仕掛けてきても、知らんぷりをして……彼女は戦い続けた。 「い、今はまだその時ではないのです」 びくびくしながらも言葉が分からないふりをして、彼女はバイデンと相対する。 「儂、ファイトォー!!」 その後方で、権太が自身に気合を入れるように叫ぶ。 薙ぎ払うような一撃を受け意識が飛びかけた彼は、それを運命の加護によって何とか凌ぎ、幾度目かになる雷を掌へと生みだし攻撃態勢を取った。 もっとも、動きが鈍っていないバイデン相手では……彼の攻撃を命中させるのは難しかった。 迷っていたシビリズは、決断する。 権太を攻撃するバイデンを抑えるべく、彼は攻撃を受けながらも後衛へと移動した。 庇うように位置を取り、もう一体からも攻撃を受けながら彼はそのまま構えを取り……笑みを、浮かべる。 いいぞ、そうだ、ここからだ。 傷が付く度、己に痛みが迸る度に闘争を自覚できる。 目の前の戦鬼に、バイデンに劣らぬ笑みを浮かべて、彼は呟いた。 「素 晴 ら し い !」 言葉は通じていない。だが、表情で伝わったのか……それとも、何か感じるところがあったのか。 対峙したバイデンも、凄惨な笑みを浮かべた。 ぞっとするような何かが、睨み合う狂戦士たちの間に立ちこめる。 敵の動きを確認しながら複数の魔方陣を展開し魔力を高めていた杏子は、属性の異なる四術式を連続で組み上げ、四種の魔光を発現させた。 そのまま光の狙いを定め、傷付いたバイデンの一体へと放つ。 光はバイデンの身を傷付け血を流させ、毒に侵し、痺れによって自由を奪い、不幸を齎した。 「脆いのは其処だな、丸見えなんだよ」 櫻霞も対峙するバイデンの動きを予測し、行動を先読みして移動を阻害しながら精確な攻撃でダメージを与えていく。 周囲を薙ぐ、暴風の如く。 疾風の壱式迅雷を受けたバイデンの一体が、血を吐きながら崩れ落ちた。 それを確認したリーゼロットはシビリズを追おうとしていたバイデンを牽制するように散弾を発射し挑発する。 対峙する相手に逃げられた形となっていたそのバイデンは憤怒の形相を浮かべ、リーゼロットへと視線を向けた。 残りは5体、対してリベリスタたちは攻撃を受けつつも何とか全員が耐え続けている だが、続く沙希は癒しを前衛の一人にしか施せなかった。 力の消耗が限界に近付いていた為である。 マナコントロールによって周囲から集めた力を魔力に変換し蓄積していたものの、聖神の息吹を具現化するには足りなかった。 それでも、回復が少しでも使用できるだけ良かったと言える。 イスタルテの方は……力が完全に尽きる形となってしまっていた。 すべて使い果たしたという訳ではないが、癒しも、閃光も、翼の加護も……使う事はできない。 戦いは此処に至って、壮絶な消耗戦の気配を見せ始めた。 不足しているとはいえ回復は何とか行うことができる。 とはいえ、バイデンたちの攻撃はそれで凌ぐには余りに強力すぎた。 3体を前衛たちが受け持ち、イスタルテとシビリズが中衛と後衛でそれぞれ一体ずつと対峙する。 それでも5人はバイデンたちの攻撃を、回復を受けつつではあっても耐え続けた。 そして消耗していない者たちがその間にバイデンたちに集中攻撃を浴びせていく。 「戦いは美しく優雅に、それがポリシーですの」 「弱っている対象から狙うのは定石だろ?」 杏子生み出した四色の魔光と櫻霞の放った気の糸がバイデンを直撃する。 続いた疾風とリーゼロットの攻撃によって、更に1体のバイデンが倒れた。 限界に近付いたシビリスは……寧ろ危機を力に変え、バイデンと対峙する。 「戦闘好きなのだろう? 宜しい、最後まで付き合ってやる」 だから貴様らも存分に来るが良い。 ヘビースピアに魔を打ち破る力を篭め、大きく振り被り突きを放つ。 肉を抉られながらも怯むことなく、バイデンは骨の斧を叩きつける。 揺らいだ身を、彼は運命を手繰り寄せる事で繋ぎ止めた。 戦闘狂いとの闘いだ。 「簡単に倒れて離脱など私が私を許せん」 イスタルテも攻撃を受け限界を超えた身体を、無理矢理運命の加護で繋ぎ止めて……振り絞り生れた僅かな力を利用して、癒しの福音を響かせる。 癒しの風を使いつつ力を蓄積していた沙希は、聖神の息吹で全員の負傷を軽減させた。 此処で、戦いの趨勢は決した。 窮地を凌ぎ切ったリベリスタたちは、バイデンたちへと攻撃を集中させる。 劣勢になって以降も、バイデンたちの様子に変化はなかった。 彼らはひたすら、全力を振るって……最後の一体が死ぬまで、戦い続けた。 ●夜明け前の、闇の中で 「意味も無くこんな野蛮行為を繰り返している。そんな愚か者の集団とは思いたくありませんけれど……」 魔道書を静かに閉じると、杏子はハンカチで服の汚れを払った。 溜め息をつきながら、ちらりと櫻霞の方を見る。 青年は、煙草に火を付けながら呟いた。 「収穫は無しか、まさに骨折り損だな」 可能ならば情報収集をと考えていたが、仕方ない。 もっとも、全員が死ぬまで怯えもせずに戦ったというのであれば……捕えた処で口を割らす事は不可能に近かっただろう。 倒れたバイデンたちに向かって、沙希は伝わらない念話を送ってみた。語りかけた。 ねぇ貴方……雪辱という名の食物って知ってる? 屈辱後の勝利の味は格別なのよ? 恐らく彼らは、知らないだろう。 生まれ落ち、戦い、その多くは……敗北と同時に死んでいく。 話に聞く限りは、肉食獣のような……そんな一生。 撤退も敗北も考えない彼らのもたらした被害は、無視できないものだった。 疾風は落ち着いたら簡単にでも被害状況を調べ纏めようと考えた。 権太は倒れた者に取りあえず応急処置をと思ったものの、自身の負傷を考え断念する。 可能ならば他の戦場の支援も考えてはいたが、消耗等を考えると難しそうだった。 しっかりとした処置の為には医療施設に向かわねばならない。 兵舎も襲撃を受けたようだが、無事だろうか? 問題は数えれば限がない。それでも、此の場でじっとしている訳にはいかない。 戦いはまだ、終わってはいないのだ。 傷付いた者に手を貸すと、周囲を警戒しながら。 リベリスタたちは歩きだした。 向かうべき先は、まだ見えない。 それでも、進むしかないのだ……辿り着くことを、信じて。 夜明けを、信じて。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|