● …? おや、こんな所で会うなんて珍しいですか? そうですね……だいたいはブリーフィングルームで顔を合わせる事が多いですしね。 ………今日は依頼はありませんよ。花火大会じゃないですか。 あれ……? ご存知無かったのですか? 今日の夜に花火大会があるのですよ。 おかしいな……三高平の市内にもビラが貼ってあったのですが……。 ああでも……皆さんはお忙しいですもんね。 湖があるじゃないですか。三高平湖です。そこから花火打ち上げるって。二千発くらい? えと……。 良ければ、花火を見に行きませんか? 杏里も見に行く予定ですよっ! 出店とかもあるそうですし、楽しいと思うのです! 休息というのは必要ですし……ね? ねっ? お友達、家族、コーポの仲間、はたまた恋人を誘って……。 一応何処からでも花火は見えるそうですよ。 湖周辺では出店もあるそうですので、お暇であれば是非。 ああ……ふふっ、何処からでもって、自宅からでも見えてしまいますね? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月27日(金)22:44 |
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●始まりは、偽りの後 「マリアちゃーん。デートしよー」 「あら、なぁに? 楽しいことをしているわね」 ぐるぐが大量のロケット花火の中心で、導火線を一本に繋いでいた。 たまたま通りかかったマリアを見つければ、ぐるぐはマリアへ手を振り、地面を蹴れば、上空のマリアと同じ位置に達した。 怒られても逃げれば良し。 未だ始まっていない花火の前座。着火すれば、二人のすぐ背後から火の玉が上がっていく。 夜空を照らせ! ロケット花火流星群! 始まる前に始まった花火大会。それは小さな悪戯の代物。というわけで始まりです。 「さてと、花火はきっと下から見るほうが綺麗ですよ」 「それは驚きスポットね、一緒に見ようというお誘いなのかしら?」 「ほらほら花火始まっちゃいますよていうか始まってますよ! 早くいい場所とらないとー!」 ぐるぐの悪戯から、もう花火が始まったと思わせられているヘルマン。 走る姿は無邪気な四歳児そのもの。ヘルマンが花火を見ようと駆けて行くが。 「あっ、あそこなんていいんじゃないですうわーーーー!!!!!」 と盛大に転ぶのはお約束。その後ろからヘルガが追いかけて来る。 「ちょっと待ってて、手を……キャッ」 着ていた服に、足がもつれたか。ヘルマンの上に重なるようにしてヘルガも転ぶ。 何も無い所で転ぶ二人はどこか似ていた。お互いに怪我の無いことを確認、さあ、今度は歩いて行こう。 ドォン! と、思いきや花火が始まってしまった。 二人は寝転んだまま花火を見つめた。スゲー…と言葉が漏れるヘルマンに、ヘルガはくすりと笑いながら、しばらくそのままで居た。 綺麗なものは見ておかないと、ね? しばらくして、立ち上がれば。 「あっ、そういえば……」 カキ氷を買っていたのだった。転んだ拍子にぶちまけてしまったのだろう。 見るからに落ち込むヘルマンに、ヘルガはその手を握る。 「き、気を落とさないで……そうね、また買いに行きましょう? 今度は最後まで食べられるわっ」 「お口に合うと良いのですが……」 シエルが光介と、湖畔の岩盤に座って休憩。 あちらで出店があったと、光介から渡されたたこ焼きを食べながらシエルは光介を見ていた。 シエルが握ったおむすびは、海苔の巻き方によって味が違うらしい。 すると、そこで一つ目の花火が上がった。 「あ! 花火……始まりましたね……」 「あ、これシャケかな? はいっ! 花火綺麗ですね!」 照らす光は、七色に変る。それを見上げながら、お腹も満たされて幸せな気分にしてくれるのだ。 「そうだ! 足だけ湖に浸してみませんか?」 しばらくして光介がシエルの服を引っ張って提案した。夏といえど、いや、夏だからこそ。冷たい水面はとても心地よいはず。 「はぅ! 冷たいですね……ふふっ」 「暑いですし、丁度いいくらいでしょうか」 今日は彼、光介が居てくれたら童心にかえることができた。 そっとシエルは光介へと寄り添う。水面に足を浸けながら、落ち着く空間は作り出される。 花火が大気を振るわせてくれて助かった。というのも。 (私の動悸…光介様にきかれずに済みますもの) 小さな感謝を胸に、特別な貴方と同じものを見る幸せがそこにはあった。 今年の夏は、大幅にいつもと違う。こんなに心躍る夏が今までにあっただろうか? (何せ最愛の女性が浴衣装備と言う超眼福を授けて下さったのだからなぁ!!) 行き場の無い楽しさを胸いっぱいに収め、喜平は落ち着こうと躍起になった。 「綺麗です、素敵です、こんな人が恋人だとは……」 「その、あ ありがと。あたしも気に入ってる。綺麗だし……」 雪模様の浴衣に身を包んだプレインフェザーは、顔の横の髪を耳にかけるしぐさをしながら、照れていた。 「あっ、迷子になんじゃねえぞ! それと、私が倒れないようにしっかり掴んでろ!」 少し強引な彼女に手を握られ、指をからめ。幸せな時間は流れる。 花火のためにとっておいた、イチオシの場所。そこで大きな花火が打ち上げるのを二人で見上げた。 「矢張り爆音と華々しさが花火だろ」 花火を見るに、最高の場所を用意できた喜平。その隣でカキ氷を片手に、プレインフェザーは大満足ではしゃぐ。 「うんうん! これこれ、これ見たかったんだよね! 夏だけじゃなく、いつでもやりゃーいいのに」 混雑する出店地区を掻き分け、ここまで来たかいがあったというものだ。 「なんか寒くなったし、もっと傍にいってもいいか?」 寄り添う二人、絡んだ指。今日も明日も明後日も離さない様に離れない様に、固く固く優しくぎゅっと握り締める。 お祭りの喧騒、月下に咲き始めた花火。 少し離れた場所で、悠月は時間を潰していた。予定は少し後から。 ふと、知っている顔がふらふら飛んでいる。つい、テレパスを向けて。 (――マリア?) (ちょっと、いきなりびっくりしたわよ。というか今あんた何処なのぉ!) (こんなところに一人で居るなんて、驚きです……) (聞こえてるわよ。そっちは人がいなくて良さそうね) 「如何ですか、お祭りは」 「全部石にしたいくらいに人が沢山! 酸欠で死んじゃうわよぉ」 と、鼻を押えて苦しそうなポーズをしながらマリアは言った。 来歴からして恐らくお祭りなんて初めてなのだろう。一昨年まで似たような感じだった己と重なる。 「お祭りも一種の遊びですよ?」 「遊びなのぉ? ふ、ふーん……マリア、遊びに釣られるほど子供じゃないのよ?」 それでも体は挙動不審。すぐに飛んで行きたいと全身で表れている。 「一人で遊ぶものでも無いですが……誰か、仲の良い人と一緒してみては如何でしょう」 「あら、目の前に居るじゃない」 ぱっと、マリアの小さな手が目の前の悠月を指差した。 浴衣を着て髪はアップ、ちょっと気合を入れたおしゃれ。 綺麗に着飾った彼女はいつも以上に綺麗だと、モノマは素直に綺麗だと呟いた。 そんな彼の姿は甚平。かっこよすぎて倒れそうだと壱也の頬は緩んでいく。 「夏と言えばー、海と、花火と、お祭ですねっ」 「そうだな。夏は色々楽しい事があるな」 これから始まる夏は、とても心が躍る。一緒にい歩きながら出店で食べ物を買った。 「先輩っ! このからあげおいしいのです! 食べますか? あ、あーんしてくださいっ」 「ん? あーん」 壱也はモノマの口にからあげを一つ。お返しと言わんばかりに、モノマからはたこ焼きを一つ、運ばれた。 そこで花火は始まった。目でも音でも感じるそれに、わあと思わず壱也は声がもれた。 「あ、花火始まりましたねっ! たまやーとかいうんでしたっけ?」 「うむ、たまやー!と言うらしい。なんか昔の有名な花火屋だかなんだっけかな」 そわそわし始めた壱也が、モノマの寄り添ってその腕に抱きつく。 モノマがそっと頭を撫でて、絡んだ指をぎゅっと握った。静かに、静かに時間は過ぎていく。 今日は姉が花火だと騒いでいたから、知った。そんな妹、双葉は一人でお祭りへ来てみた。 浴衣に身を包んで、あっちへこっちへぶらぶら。 お祭りの出店で買うものって、どうしてこんなに美味しく感じるのだろうか。ついつい買いすぎて、その量を見てみれば。 (う……太る) と、頬から汗が垂れ、流れる。 けれどそんなの気にしない方向で! たぶん、お仕事が忙しいからカロリーなんてすぐに飛んでいくはず。 それに、一人で来ている顔見知りを捕まえて、半分こすれば良い話! と、そこで双葉は姉を見つけた。 瞬時にこそこそ物陰に隠れてしまった。邪魔しては悪いし、ね。 あとでからかいに行くからねと、心の中で話しかけて、双葉は再び出店へと歩いていく。 「オマエ……戦闘中あんな格好なのか?」 「ええ、いいですよあの服。動きやすいです」 火車と黎子。あの子にそっくりな顔で、露出の高い服をされると、どうも落ち着かない火車である。 「勘弁してくれ……コレ使え使ってくれ」 差し出されたパーカー。仕方無いと幻影の中で着替えれば。 「だぁ、そういうのやめろ! いややめるな!!」 もっと回りの眼を気にして欲しいと、心の中で願う火車。 しばらくしてパーカーを着た彼女が幻影を止める。 「似合います?」 さっきの格好よりはいいと、頷いた火車だった。そして話しは変る。 「生き別れの家族見つけたなら、すぐアーク来んじゃねぇの? でもねぇのに今更何しに来た…」 今更、言い訳にしかならないだろうが黎子は素直に話しを始める。 あの子が怖かった。 家族が奪われたあの日、幻影の力で逃げたものの、取り残してしまったのは紛れも無く彼女。 次に彼女を見たときは、機械の身体で戦っていた。あの子はきっと私を……そこで話しは途切れた。 「会う決断ができずにいたのです。今私がここにいるのは、ただの自己満足の罪滅ぼしです」 「決め付けで……逃げた挙句に自己満足?罪滅ぼし? ……なんだそりゃ」 はあと溜息を吐いた火車。そして取り出したのは、ほんのり温かい彼女の火。 「解るか? ……死んで逃げるようなマネだけは 許さねぇからな」 「それは朱子の?」 凛と燃えるそれを目に、黎子は静かにわらった。大丈夫、私は死なないと。 同じ顔に二度も先に逝かれるのはごめんだ、火車は複雑な心境で目の前に居る朱子の面影がちらつく彼女を見ていた。 「逃げねぇなら……たまには逢わせてやるよ」 そういえば、花火が上がっていた。彼女は夏が好きだったなぁ。 ……思い出、ねぇんだよなぁ。 待ち合わせは二十分前行動が絶対。猛は湖の横で一人、彼女を待つのだ。 そこへさくら柄の浴衣を着たリセリアがやってきた。着慣れていないのか、何処か歩き方はぎこちない。 「お待たせしました……」 「おお、浴衣か……! 良いな、良く似合ってるよ。眼福って奴だなぁ」 「眼福って、その、変で無いなら良いんですけど」 まずは素直に感想を述べる猛。見られていることに、リセリアは恥ずかしそうに笑った。 それからは出店やお祭りの雰囲気に酔う。猛がリセリアの手を引きながら、人の波を掻き分けて進んでいくのだ。 人気の無い場所を見つけ、出店で買ったものをそれぞれ食べながら夜空を見上げる。 音と共に、夜空を彩る花々を目にしながら、隣にいる彼、彼女のぬくもりを感じた。 「……そういやさ、俺の事は今度から猛って呼んでくれよ、この間そう呼んでくれたの、聞こえてたからさ」 「聞こえてたんですか、あれ」 二人で顔を見合わせて苦笑い。それじゃあ、遠慮なくと。リセリアは一度だけ、大きく息を吸った。 「猛さん」 言い慣れない、聞きなれない言葉に、今度は二人顔を見合わせて笑った。 「ほう、これが日本の祭りですか」 湖のほとりで一人、アルフォンソが空を見上げていた。 アルフォンソは書物や、聞いた情報で祭りというものを知っていたが、いざ目の前にしてみれば。 「百聞は一見に如かずという言葉も納得ですね」 文字よりも、言葉よりも、光景だ。視界からの情報は、何よりの情報と成り得よう。 それに、ヨーロッパで見た花火と、日本のものではまた違う。 その差を感じながら、日本の風流を全身で感じるアルフォンソ。 「ただ綺麗なものは純粋に心よりそう感じますね」 「うおっ!」 いつまで経っても、雷だけは怖いベルカだが。実は花火も、少々苦手の様子。 だがしかし、よく見てみろ。漆黒の空を彩るそれらはやはりキレイだと思える。けど、けど。 ドンッ。 「ウオッ!」 もういっそ、これは訓練にしてしまえ。 買いあさったイカ焼を口に運びながら、花火に驚かない訓練の開始だ。 美味しいものを食べていて、気分も紛れれば花火にも驚かなくなってきた! ここぞで一つ、楽しくなってきたから、言いたい。大きく息を吸い。 (よーし、いくぞー) 「たまやー!!」 ドンッ 「うおっ!!」 飲食系の出店を全て制覇したシェリーは、おもむろに花火を打ち上げている湖へと来た。 そこに居る、花火師達に話しを聞くためだ。いた、いた、明らかに打ち上げそうなおじちゃんだ。 「花火にも、名前があるのか?」 「勿論、あるさ! 形や大きさ、それに色によっても変る変るだ」 「ふむ、色の違いはどうやって出しているのだ?」 「ただの炎色反応の違いって奴さ。お嬢ちゃんはまだ学校では習っていないか」 シェリーは教えてもらった知識を頭に入れながら、飛んでいく花火を間近で見た。 きっと、これを最初に考えた人は、世離れした夢追い人だったに違いない。 「ところで、食べ物状の花火を作れるのか?」 「来年、やってみよう」 「はなびといえばでみせなの~♪」 ミミルノは今日、お小遣いを握り締めて、出店の完全制覇をしに来た。 <しばらくおまちください> わたあめ、かきごおり、ちょこばなな、りんごあめ、みかんあめ、 おこのみやき、やきそば、ぎゅうくし、ちきんすてーき、からあげ、 たこやき、べびーかすてら、じゃがばたー、ふらいどぽてと ひやしきゅうり、やきとり、やきとうもろこし、いかやき、けばぶ みるくせんべい、あんずあめ、みそおでん、たまこん… <しばらくおまちください> 「ふぅ~……だいぶたべたの~」 「食べすぎよ」 げふっと、膨らんだお腹を擦りながら、ミミルノは丁度通りかかったマリアを見た。 「まりあちゃんにも、すこしだけわけてあげるの~」 「……む、ありがとう」 手渡されたのはりんご飴。一緒に同じ林檎飴を食べながら夜空を見上げる。 \たーやまー!かーぎやー!/ 浴衣を着て、内輪を持ち、手荷物は巾着へ。糾華の周りには、蝶が舞い踊りながら、お供をする。 その隣には、青色の浴衣に身を包み、落ち着いた雰囲気のリンシード。 「斬風もリンシードも浴衣似合ってて可愛いな!」 なずなも今日は浴衣姿。勿論自分も可愛らしいけれど、二人も可愛いと頭を撫でた。 そのとき、背後で光と、響き渡る音が弾ける。 「え、何……敵襲……? 上……?」 「違うわ、花火よ」 戦闘態勢に入ったリンシードを、糾華がすぐに止めた。 「おぉ……とても、綺麗、ですね……ほぅ」 見えた光に、来てよかったと顔が緩んだリンシードを見て、なずなも糾華も優しく笑った。 さて、これから花火をしよう。 「二人とも早く早くー!!」 なずなは二人をおいでおいでと身体全身を使って催促した。大きな花火が頭上を彩る中で、下で花火を楽しむのはなんとも乙なものだろう。 とはいえ、やはり少々地味では無いか。疑問に思ったなずなに、リンシードが提案する。 「ちょっとぐらい、スキルを打ち上げても、いいんじゃないでしょうか……?」 「それだぁ!」 「あんまり、危なくならないようにね」 三人は顔を見合わせ、こくりと頷いた。 糾華が走り出す。跳躍し、電柱を蹴り、枝へと足をかけ、バネの力で高く舞い上がる。 指に挟んだ、いくつもの武器を夜空へと、高く、高く上げて、花火の光に反射しては煌いた。 そこになずなが炎を打ち上げ、その常世蝶を更に明るく照らし上げるのだ。それらは漆黒を照らして儚く消えていく。まるで花火。 「ふふ、ド派手ですね……。これはこれで」 「光が粒になってキラキラと余韻が漂うの……凄いわ」 下で見ていた三人は、作り上げた花火に満足しては、楽しんだ。 「また、来年もいこーね!!」 なずなはそんな二人の手を握って、少し早い、来年の約束を交わしたのだった。 龍治は、木蓮と共に屋台を回った後、花火を見る。の、はずでしたがー!! 「木蓮、何処行った……!?」 人ごみの激しい此処で、そんなこともあるかもしれないと思っていたが、まさかこんなにあっさりいなくなられるとは思っていなかった。 さっきまで横で、「おー、すげぇ! 今のハート型だよな!?」とかはしゃいでいた当本人が、セルフ気配遮断しているなんて。 その木蓮。 (こんなところで、方向音痴が発揮されるとか……) 辺りを見ても、龍治は見えない。どうしようかと落ち込んだところで、どんっと誰かに当たってはそのまま先ほど射的でとった人形が湖にぼちゃり。 「あっ、待ってくれ!!」 追いかけた木蓮。だが、慣れない浴衣に、何も無い所で盛大に転んでしまった。弾みで、眼鏡さえ湖のぼちゃり。 もはや八方塞というやつか。眼も見えなければ、お気に入りの人形さえ無い。ハァと息を吐いたところで、後方から声が聞こえた。 「……空を飛ぶ眼鏡なんて初めて見た」 睡蓮だ。だが二人は初対面。 「手を貸そう、立てるか?」 「う……それがちょっと駄目らしいんだぜ」 どうやら転んだ時に足を挫いてしまったらしい。手を貸すというか、背中を貸すことになってしまった。 引き渡す先が早く見つかれば良い。けれど、それは断片的すぎて。 「狼耳と尻尾が生えてて、眼帯をしてるんだ。居るかな?」 「そういう人はここには沢山居るんじゃないか? まあいいか、虱潰しに探そう」 探したものの、全く気配さえ無い。ついでに電話にも出ない。これじゃあ電話がある意味が無いじゃないかと心の中で怒りつつ。撃ちあがった花火を見ながら、ぶらぶら歩き始めた。 しばらく歩いていれば、見知らぬ男に背負われた木蓮が、元気よくこちらに手を振っているのが見える。 怒るか、いや、色々言いたいことはあるが全て飲み込み、龍治は木蓮の頭を撫でた。 「わーん、たつはるー!」 「……良かった」 安堵の表情を作りながら、背中から下ろされた木蓮を龍治は支えた。それから睡蓮へ向き、軽く頭を下げる。 「木蓮を見つけてくれて、感謝する……」 「……? もしかしてアークの八咫烏か、簡単な情報だけだが伝え聞いている」 そんな会話は一瞬。不思議な縁で繋がっているものの、気づかない。そのまま睡蓮は人ごみの中へと消えていってしまった。 「眼鏡は明日探すか……あ、あいつの名前聞きそびれた!!」 「それもまた、今度でいいだろう。タクシーで帰るか、木蓮。穴埋めは帰ってからしてもらうからな?」 「たーまやー! ……そう言えば、今でも残っているのは玉屋さんじゃなく鍵屋さんなんですよね」 「ウム! 玉屋とか鍵屋って花火師のことだったんだなぁ! てっきり玉や鍵を売ってるんだと思ってたぜ!」 チャイカとフツは、それぞれ浴衣に着込みながら夜空を見上げていた。 そんな二人の実況解説をお楽しみください。 「こんなに綺麗な花火を作れるのは日本だけなんですよ。 今や日本の花火職人さんは世界中で打ち上げられる花火を作っているのです」 「なるほどなぁ、なんか日本人なのに知らないことだらけだぜ!」 「花火というのはロシアでも大きな意味を持っていて、人類初の宇宙ステーションも花火、サリュートって名前なんですよ」 「なかなか夢のある話しじゃねぇか! オレ達が生きている間に、宇宙に行ってみたいもんだぜ ん? 初の宇宙ステーションが花火って重ねたんだろうなぁ……いや、託したんだな、願いを」 「ですです! 素敵なお話ですよね。挨拶としても割とメジャーな言葉なのです。さりゅーと!」 「さりゅーと!」 チャイカはどこまで行っても知識を蓄えているのだ。 「……む、花火が打ち上がったか」 義心館の中庭。 七色に変わっては暗くなるを繰り返すその場で一人。拓真は小さな子猫を膝に乗せて撫でていた。 今この時間、皆、思い思いの時間を過ごしているのだろうと、夜空を見上げた。きっと月だけは全て見ているのだろう。 ところで……不肖の弟子は上手くやっているだろうか。 「この場所も、随分と賑やかになったものだ。 ほんの数年前までは、人の住む光はあっても活気は無かったのだが……」 弟子が増え、恋人が増え、仲間も増え。きっとそれは良いことなのだろう。 「……いかんな、どうにも難しく事を考え過ぎる。お前達を見習うべきなのかもな」 撫でていた猫が、小さく鳴いた。 静かに、ゆっくり流れる一人の時間。小さなぬくもりを膝に感じながら、何も考えずに過ごそう。 偶には悪くはあるまい。 ● 今日も竜一は元気でフリーダムである。 「はい!! 見つけた!!!」 「!?」 飛んでいたマリアを、下から跳躍アンド捕獲して、地上へとリターン。 「今日こそ!!!!!お兄ちゃんと呼んでもらう!!!!!」 どれだけ跳躍力あるんだとかこまけえこたぁいいんだ。そう、今日こそ妹を愛でて、兄と―― 「ギャー!!」 と、堕天落としが零距離から貫いた。 「で、何よ。また変な事したら今度は燃やすわよ」 「うむ、オテンバなところも可愛い。そんなマリアには花火を全力で楽しんでもらおうと思って!」 なんと、ピンクの浴衣を用意しました! 「巾着にはお小遣いも入ってるから、楽しんできなさい」 「え、ええ……?」 今日は多少はめを外しても良い日だろう。無駄使いも許容の範囲だ。 未だに解けない石化に身体を引きずりながら、竜一はマリアの浴衣姿にうんうんと頷く。 見送られ、再び飛ぼうとしたマリアだが。 「な、何よ、明日は雪なのかしら。今日はいつもと違うじゃないのぉ……」 やけに後ろが気になる。いつもなら飛びついて堕天を撃つのだが……いつも来るのが来ないと寂しい。そんな気がした。 違う所では俊介と羽音が一緒に歩いていた。 恋人の浴衣、甚平を見て、いつもと違う格好は新鮮だと思った。 (俊介、甚平似合ってるなぁ……) (羽音を襲いたい襲いたい脱がしたい脱がしたい脱がしたい) 差はあれど。 さておき、羽音は持っていたレモンシロップのかき氷を掬って、俊介の口元へ運ぶ。 「はい、あーん……♪」 「羽音は花より団子か……」 冷たいもの、甘いものは嫌いだが、恋人から渡されてしまっては仕方無い。 口に広がるレモンを堪能しながら、羽音を見れば、花も団子もだよと首を横に振っていた。 俊介はその後、金魚掬いをしてみるが、一発で穴が開いた器具を不機嫌に見つめた。 その横で、羽音は。 「……金魚、美味しそう」 「羽音、金魚は食べちゃ駄目だ」 手を恋人繋ぎに、花火を見上げていた。 同じ音、同じ景色を見れて俊介は満足。羽音も、いつもと違ってより綺麗に見える花火に満足する。 「来年も、花火を見ようね……♪」 向き合った羽音が俊介の口へと背伸びして、感謝と愛情を込めた。 (来年まで、どれくらい死ぬかな) 触れ合った唇に誓う、君だけは絶対に護ってみせると。 瞳のハイライトが薄くなる俊介は、己の光でもある恋人を抱き寄せた。 「何食いたい? 暑いしやっぱカキ氷かねー」 「かき氷、よいな。カルラは何味がいい?」 出店の手間、雷音とカルラが一緒に居た。 いちごにれもん、ブルーハワイ。色とりどりなシロップは目でも楽しい。 そんな出店が並ぶ場所は人も多く、油断すれば離れてしまいそう。 「朱鷺島はしっかりものだけどさ。二人で気をつけりゃ、遊ぶ方に多くを割けるだろ?」 そんな言葉にぽかーんとした雷音。だが次にはくすくす笑ってみせた。 「そんなところも兄に似ているのだな。あいつもそうなのだ、いちいち怪我をするな。 気をつけろ、危険なことはするなと任務のたびにうるさい。あいつも同じなのにな……カルラも無茶はしちゃだめだぞ」 といっても無茶はきっと、するのだろう。二人は顔を見合わせて、笑った。 そういえば二人で出かけるのは、元はといえば七夕を一緒にという約束だった。時期はずれではあるが、夜空を見上げて星に祈りを込めた。 「どんな願いを、と聞くのはヤボかな?」 「来年の花火大会は、大勢のダチを誘えますように、ってな」 また二人でというのも悪くは無いけれど、と小さな声で呟く。それは雷音に聞こえたか聞こえないかは彼女だけが知っている。 「うむ、きっと、叶うのだ。アークの人たちは本当に良い人が多い」 ピロローっと、機械音が鳴る携帯を片手に。マリアは空中で顔を斜めに悩んでいた。 「めーる。返事しないと。っていうかどうやるのよこれ意味わかんな「――返信は不要よ。此処に居るから」 突然背後から、氷璃がぎゅっと抱きしめてきた。 いつも何処からどう位置を特定しているのかは不明。そこらへんはこまけーこたぁいいんだよという奴である。 「ちょっと、お姉様。気配殺して死角から近づくのは止めてよね!?」 今日のマリアは、途中で大幅なチートでマリアを捕獲した竜一が渡したピンクの浴衣。 けれどいつも通りに、どうせ飛ぶからと靴だけは履いていない。けれど、久しぶりに会ったマリアは元気そうだ。 「可愛い妹が元気ならそれで構わないわ、マリア」 二度と孤独が味わえないことを覚悟なさい。と、氷璃はマリアの手を引いた。 「マリアをいじめたいのか愛でたいのか、いまいちよく分からないのよ!」 「どっちもよ」 しばらくして屋台巡りをしていた。快を見かければ、カキ氷を奢って頂戴と。半ば強制的にカキ氷を掻っ攫っては消えていく。 「ちょ、氷璃さん、お代……まぁ、仕方ないか」 そんなこんなで今日はよくカキ氷が売れる。 なんでこんなにカキ氷は人気なんだろうと悩む快は、雪花にお願いして的屋セットを一式借りては店を出していた。 ところがどっこい。突然呼び出されたと思えば、今や人気の無い場所。 空中から、氷璃の「あら、痴情の縺れかしら?DTの分際で」という声が聞こえたような気がしなくもない。 目の前にはティアリアが居た。 「ごめんなさいね、急に……単刀直入に聞くわ。答えは決まってるの?」 いつも以上に静かな空気が流れた。花火の音が、遠くで聞こえる。 「……答えはもう、決まってる。後は、ちゃんと伝えるだけだから」 そう、と。そこで話しが途切れてしまう。 気兼ねなく話せる彼、彼女と言えど、今は重い空気があった。けれどそれではいけないと快は言葉を続ける。 「ティアリアさんの気持ちに全く気づかなかった、て言うと嘘になるかな。もしかして、くらいには思ってた」 「まあ、もういいんだけど。本当は伝えずに終わろうかとも思ったんだけど、快が余りにもはっきりしないから」 「気持ちはすごく嬉しい。けど、俺は一人しか選べないし、彼女の事が好きだから――ごめん」 頭を下げようとした快を、ティアリアは止めた。謝って欲しいわけでは無い。そう、幸せに――。 「幸せになりなさい、快」 そうして飽きたら呼んでも良いと、悪戯に笑う彼女に胸が痛くなった快。 けれど、選択したものは絶対に曲げない。けれど目を背くこともしない。 「さ、戻りましょ。良かったらカキ氷、一杯もらえる?」 「勿論。奢るよ」 今日はよく、売れる日である。 手当たり次第の露店で、買い物をして。戦利品を抱える夏栖斗。たまや、かぎやと機嫌良く歩く姿は無邪気そのものであるが。 「去年も買い込んで、お腹壊したでしょう」 学習しない子ね、と吐息を吐いたこじりは、夏栖斗の荷物を半分持った。 「去年、一緒に夏祭りいったの思い出すね。あのときのわんこアザーバイド元気かなあ?」 「そう。もう一年経つのね」 過去を思い返せば、早い一年であった。隣に居る彼女は、変らず綺麗で。 その彼女はそういえばと何か思い出して。 「去年ねぇ……」 ――あれ……なんで僕こんな女好きだったりするわけ? アングルを変えて。 ――あれ……なんで僕こんな女好きだったりするわけ? 最後にもう一回。 ――あれ……なんで僕こんな女好きだったりするわけ? って奴? これは違う? それは、弓のゴーレムさんですね。 ああ、そう。 「こじりさん、今凄く忘れて欲しい一文が三回も見えた気がしたけど」 「気のせいでしょうね」 気を取り直して。 「こじり、好きだよ」 今は息するくらいに簡単に言える言葉。けれどあの時は、それを言うのも一苦労だった。 「そう。私も結構、好きよ」 どれくらいかというと、満ち足りない位が丁度良いほどに。言っても言っても、言い足りない程に。 響く花火の音、見えた花火の形は愛の象徴。そこで夏栖斗はこじりの唇に己を重ねた。 祝福を受けているような、そんな気分に満たされるから。 そんな行動、こじりは嫌いよ、大嫌いよと言いながら、つい笑みが零れてしまう。 「お返し、どうぞ」 明るすぎる花火が消えれば、残るのは一層深い暗闇。 そこで、今度はこじりから。その唇に届くように、こじりはつま先を立たせた。 「せんせ、一口どーぞだぞ!」 「くれるの!? ありがとー><」 赤色のシロップのかかったカキ氷を、まるで恋人のように口へ運ぶ五月。運ばれた終はとても嬉しそうに笑う。 「じゃ、おれのも」 「おお、あーん! ふへへ、美味しいのだ」 お返しに、と。終も白桃のカキ氷を五月の口に送るのだ。初めて食べる白桃の感触に、五月は幸せそうに笑った。 聞いた話では、花火とは夜空に大きな花が咲くとか。実際に見てみれば、とても綺麗で、素敵で。 「あのちいさな赤い花火がオレで隣の青い大きいのがせんせいなのだ」 五月は弾けた花火を指差しながら、終の腕を引いた。 「そっか、夜空の上でもオレ達仲良しだね☆」 その指を差したのは一瞬で消えてしまったものの、好きな人と見れたものは思い出として一生残るのだろう。 身を寄せ、無邪気に笑い。これから始まる夏と、沢山集まる思い出への期待に、二人は胸を膨らます。 「せんせい、いつもありがとうだぞ! だいすきだ!」 「こちらこそ、いつもありがとー☆ いつもメイちゃんの笑顔に元気貰ってるよ☆ オレもメイちゃんの事大好き☆」 今日は初めてのデート。 リリと腕鍛は身体を近くに寄り添って歩く。 というのも、リリは慣れない浴衣を着ていたため、よく足を引っ掛けては転びそうになっているのだ。 「貴方にはいつも、支えていただいてばかりです」 「大丈夫でござる。こちらも好きで支えいてるでござるよ」 そんな優しい貴方が大好きだ。頭上で光る花火を見ながら、リリは腕鍛の手をぎゅっと握り締めた。 「どうしたでござるか?」 「花火は……すぐに咲いて、すぐに散ってしまいます」 まるで、今の幸せがすぐに消えてなくなってしまうのでは無いかと、リリの心は不安定になっていた。 そんな彼女の心に気づいたか、腕鍛はその彼女の手をぎゅっと握り返した。 「拙者は不安より、こうやってリリ殿と居られる事が嬉しいでござる。楽しいでござるよ」 「え……」 腕鍛は笑って見せた。不安が無いわけでは無いと弱さを晒しつつも、それよりも今この時が大切だと。 「それでも不安なら、もっと強く握っても良いでござるよ。拙者はそう簡単に壊れないでござるから。それとも」 腕鍛はリリの華奢な身体をぎゅっと抱きしめた。 「これくらい近ければ、不安も消えるでござるか?」 包んでくれたぬくもりはとても温かい。好きになって良かったと、リリは腕鍛の背中に両腕を回す。 「花火だ花火ィ!!」 浴衣姿の御龍は、出店を回っては荒らす。一種のゲーセン荒しか。 輪投げに、的あて、射的に、金魚すくい。あ、金魚持ち帰りは遠慮しておこう。育てられるか自身が無い。 持ち帰った商品をドサドサと横に置きながら、ついに始まった花火を見ながら片手にビール。おっさんか。 焼きそばと綿飴を大量にお供にしつつ、花火観賞は幸せだ。 「御龍さん。こんばんは」 「おんやぁ、杏里ちゃんじゃぁないかいぃ。どうぅ? 楽しんでるかいぃ? あ、そだこのリンゴ飴あげるよぉ!」 「貰っちゃっていいのですか? 杏里は何も持ち合わせていなかったのですが……すみません」 通りかかった杏里を見つけ、御龍はりんご飴を差し出す。受け取りながら、杏里は小さく笑った。 「杏里も楽しんでいますよ、御龍さんも楽しんでいて嬉しいです」 そっと、杏里は御龍の横に腰かけた。 今日は浴衣姿でお祭りに。 しかし、一人というのはやはり寂しい。だが、幸運(?)か、知っている顔がふらっと頭上を飛んでいった。 辺りを見回して誰も見ていないのを確認。翼を広げて彼女の下へ。 「こんばんは、マリアさん。ハッピーしてます?」 「亘。今日も一人なのぉ?」 一緒に空中散歩でもと、マリアを誘うと。好きにしなさいよと、つんとしている彼女はいつものことだ。 「最近どうですか? マリアさんって普段何してらっしゃるんですか」 「最近? 異世界の赤いのとかさっさと血祭りしちゃえばいいのよ。マリアは普段、イイコしてるよ。燃やしてないし、殺してないもの」 「は、はぁ……」 世間話を試みたが、何処か剣林臭が漂っていた。 花火が上がっているのを二人で夜空で眺めながら、こういった時間も悪くないだろう。 「こういうときは、たーまやーって言うんですよ」 そういった亘は、たまやーっと夜空に叫んで見せた。 「たまや?」 「ほら、マリアさんも一緒に」 釣られて今度は、二人で叫ぶ。おかしく思ってマリアと亘は顔を見合わせて笑った。 「杏里、大丈夫か?」 「は、はいっ、問題ありませんよ。気にせず……っ」 祭囃子の中、ジースと杏里は人を掻き分けて歩く。離れないようにと、杏里が伸ばした手は、ジースの手を強く握った。 ジースの鼓動が、高鳴る。どうか、それが花火の音で消されますように、と。 しばらく歩き続けた。その先に、人気の無い場所でを見つけては足を休ませる。 「そういえばこの前、新城さんと何を話してたんだ?」 「えっと……ジースさんのお話を……」 先日そういえば言い忘れてしまった。そんな話しをしなければいけないことを。 「俺は、クリムが憎い。君に傷を負わせたアイツが」 杏里の体がびくりと跳ねた。僅かなジースの殺気も敏感に反応できる。 クリムを杏里のために殺したい。けれどそれは杏里が望んでいることとは限らない。 「俺は、間違っていたか?」 「杏里は、復讐なんて、望んでいないです。 でも、いつか、あの方は、ううん、もうすぐ……来るって思うのです。 危ないことは、止めて下さいっ。でも、でもっ私には止める義務は無いので、全てジースさん次第…といいますか」 何が言いたいのか訳が解らなくなった杏里は俯いた。その頬に、ジースは片手をそえる。 「…ごめんな。そんな顔させるつもりじゃなかった」 「解って……います」 だが、そんな空気もブレイカー! 「いっけぇー、ジースさん! 押し倒せぇー!」 キャッキャと物陰から大きな声。ルーメリアが元気にジースと杏里の空気を壊してくれた。 「あ、あはは……飴、食べる? 綿菓子も、あるよ?」 見つかったことに、隠れている意味は無くなった。潔く姿を現したルーメリアは後頭部を掻き、視線を逸らしながらあははと笑った。 「あのなぁ、ルーメリア……」 「そ、そろそろ、花火始まるね……ごめん、ごゆっくりぃ!!」 びゅんと消えた彼女の背後。ジースは、はあっと大きく溜息を吐きながら、背後の杏里に。 「何か、買いに行くか?」 「はい……お供します」 パシャリ。 そこでかなり人工的なフラッシュが暗闇を照らした。 「エリスさん、こんばんは」 「こんばんは……綺麗に、撮れた」 おそらくまた、エリスは撮影係を担っているようだ。もう、少女が行き成り現れて写真を撮って消えるなんてどんなだ!とジースを思いながら、少しだけ微笑みだした杏里を見て胸を撫で下ろした。 「凛子さんすごく綺麗で可愛いッスよ」 男装の多い凛子が女性のものを着ているのは、それはとても新鮮で。 「和服ならこういう格好も……ですかね」 はにかんだ彼女の姿に、リルも思わず胸をときめかせてしまう。 「こちらの林檎飴も美味しそうですね」 見つけたのはまんまるの林檎の、林檎飴。それをひとつ、いや。 「一緒に食べた方が美味しそうッスよ?」 二つ購入した凛子。最近リルに甘えすぎていて、複雑だと考えながらも止められない。 二人で花火の下、手を繋ぎながらもゆっくり歩を進める。ふと、凛子がこういった。 「今年はリルさんとご一緒出来てよかったです」 前まではそんなこともできなかったと、何処か遠い目をして語る彼女に、リルの小さな胸はチクリと痛む。 「一緒で楽しかったッスし……来年も、凛子さんと一緒に花火見たいッス」 再来年も、そのまた次も。ずっとずっと、貴女と一緒に。 「スケキヨさんっ!」 と、飛びついた小さな彼女のぬくもりを感じるスケキヨ。 「変じゃないかな? 着慣れないから恥ずかしいの」 「いや、ルアくん似合っているよ! この夏、一番綺麗なものを見せてもらった」 ペルソナで平静を装いながらも、スケキヨはそんなルアの姿に大満足。優しく髪を撫で、撫でられた彼女も幸せを感じていた。 「付き合い始めて、一年。ボクと一緒にいてくれてありがとう」 「そうだね。もう1年なの……いろんな事があったね」 あれからもう、既にそんなに経っていた。確かに、波乱の多い一年だった。 楽しいことだけではない。時にはつらいこともあった。 いつも傍に居る彼女は笑顔ばかりを見せてくれる。けれど、もっと違う感情をさらけ出しても良いとさえ思った。 「ボクはウソつきで、頼りないかもしれないけど。君を好きな気持ちは何より本当だ。これからも傍に居て良いかい?」 「私も一緒に居たいよ。スケキヨさんとずっと一緒に居たい」 背後で咲く、大きな花を見ながら。 ルアの唇にそっと、静かに自分の唇を重ねるのであった。 「お? よーっす! まっきのーん! いい場所あるぜー」 「わぁ、本当ですか!?」 ツァインは、通りかかった杏里を呼びとめて手招きした。 浴衣姿、感無量です……。 「花火、綺麗ですね! 絶景ですか?」 「なに、伊達に十二年も住んでませんぜ。絶景ポイントはバッチリでさぁ。あ、たこ焼き食う?」 たこ焼を膝に置き、二人で花火を見上げた。どんな花火が好きだと問われ、杏里は大きな花火が好きだと返す。 花火にも種類はある。 「最近はアレだな、号砲とか雷鳴っていうんだけど、えーと……あ、丁度くるな。見ててみ? いや、このスターマインじゃなくて…一番最後にね」 そんなツァインを身ながら、杏里はくすくす笑った。 「ツァインさんは、花火が本当に好きなのですね」 その時だった、閃光の後に、特大の衝撃と轟音が響いた。 「キャッ、え、えと……今の?」 「ウッハッハッ! これこれ、この腹に響く感じが、夏だ! 花火だー! って感じがして好きなんだよねー…って平気か?」 「ふふ、ちょっとびっくりしただけですっ」 身体で花火の衝撃を感じながら、沙希は賑わう祭りの中をスケッチしていた。 けれどふと違う方向を見てみれば、泣いている男の子がすぐに目に入った。 どうやら母親と逸れたか。でも泣いている姿がかわいらしいので、放っておこう。 …。 ……。 泣き続かれて、ついに折れる。 (面倒、不本意、理不尽、不幸、まったく……なんで私が) 「どうし、たの? お母さんと、はぐれ、たの? お姉さんが探してあげる、わ」 発語って嫌いだ!!と心の中で叫びながら、少年の頭を撫でた。 ついでに脱水症状になりかけていた少年に、竹筒を渡し。 「飲んで、みて。今のきみに必要、だから」 中身は蜂蜜の溶けている水。ありがとうと笑った少年の笑顔はとても可愛らしかった。 そしてその小さな手を握って、沙希は直感頼りに母親を探す。 「したら、火をつけなさい」 「はいはい。ちょっと待ってね」 ルカルカ式花火はおもむろに火をつけて……その肝心な火が無い。 ので、たまたま出会った設楽の手を借りよう。 ぱっと火が着いた花火をルカルカの手に渡った瞬間に。 「熱いっ!? 何するの!? 人に花火を向けて遊んじゃダメだよ!」 七色の火で、悠里を炙る。ルカルカ式花火。 「よくいうじゃない、リア充爆発しろって。だから焼いたの。きりやの嫉妬の炎で」 どこかで滅べと聞こえそうな。 「やめなさい! っていうか霧也くんは関係ないでしょ!?」 ちりちりと消えた花火をじっと見ながら、ルカルカはしょんぼりした顔で。花火は人に向けてはいけない事を知る。 けど考えてみろ。 「悲しいことね、ルカたちはもうエリューションだわ」 だから向けて良い。やばい、ルカルカ天才。 「屁理屈じゃない!?」 的確な突っ込みを投げながらも、悠里は自分も花火に火をつけては咲かせる。 「それでルカを焼くのね。設楽は悪魔よ、火を人にむけるなんて。魔女狩りだわ。何世紀まえよ。文明人になりなさい」 「焼かないよ!? 何の言いがかり!?花火で焼く魔女狩りとか悠長すぎるよ……って熱い熱い!!」 再び着いた花火。 一方は安全に正しく使用され、もう一方は射程内に悠里を捕え続けていた。 「やあ、マリア。今日も一人なのかい?」 「馬鹿にしないでよ。色々代わる代わるで人と一緒に居たわよぉ、ちょっと休憩なの」 そうかいと付喪はマリアの頭を撫でた。 マリアを囲む人が増えたのはとても喜ばしかった。そうやって両手に掴み切れないほどの大切な物が増えれば、幸せってことの意味も、きっと分かってくるだろうさ。 だが、大切なもののために必死だった姿を知っていると、酷なことを言っているのは否めない。平穏な、戦いの無い世界を知ってほしいというのが本音ではあるが。 「付喪。マリアは、大丈夫よ。でもそれがまた脅かされるなら、マリアはまた石を作る」 「ははは、マリアはリーディングでも持っていたかな?」 しかし花火。 派手な音に、煌びやかな色。それは付喪の好みに合っていた。 昔はすぐに消えると、その儚さを感じていたが、今は一瞬の花がとても綺麗に見える。 「私も若いもんの為に、もう一花咲かせるとするかねぇ」 「還暦過ぎたおばーちゃんなんだから、無理すんじゃないわよぅ」 日本の夏の風物詩である花火を、家族で見に来た京一。 子供達があれかってこれかってとせがむ。今日くらいは、望むものを買ってやるのも悪くは無いだろう。 打ち上げ花火を見上げ、大きな花火が上がったと共に、祭りの終わりをしみじみと感じる。 今年もきっと、楽しい夏になるだろう。そして。 ――また来年も妻と子供たちと私で来れることを願うのみです。 「お祭り……なんて、本当に久しぶりです」 人が沢山居る。こんな所に出てこれるなんて少しの成長か。ユーディスは夜空を見上げていた。 「……綺麗な花火だ、そして同じ様にこれを眺める人達が大勢居る」 顔も知らない、誰とも知れない。けれど目の前にある幸せを守るのが役目なのでは無いかと気づく葛葉。 ふと、隣あわせに居た葛葉とユーディス。お互いに目線があえば、ぎこちない一礼をした。 沈黙の重い空気が流れた。しばらくしてからだった、葛葉がユーディスへ話しかけたのは。 「俺は、義桜葛葉……まぁ、一人で寂しく花火を眺めていたのだが。良ければご一緒にどうか、折角の機会だ」 突然話しかけられて驚いたユーディス。少し間があいてから、可憐な笑顔を見せた。 「人混みに疲れて逃げてきたようなものです、構いませんよ。ユーディス・エーレンフェルトと申します」 それからだった。一緒に見上げた花火は、何故かさっきよりも輝いてみえるのだ。 「何時の世も、世界を覆う闇はあれどそれを照らす輝きは必ずある。……それらを、守りたい物だ」 「そうですね。他の誰も為さない、故に『リベリスタ』……私達が居る」 リベリスタの宿命を改めて胸に刻み、二人は同じ花火と、守るべき景色を見つめた。 自店舗の屋上で一人、存人は夜空を眺めていた。 湖からは少し離れてしまうが、どこからでも見えるということで、丁度いい大きさの花火がここからは見える。 瞬く間も惜しいとはよく言ったものだ。花火のように、散る瞬間は華々しくあればいいとさえ思ったが、そんな辛気臭いのは今似合わないだろうと、苦笑いした。 そんな自分と向き合える時間があった。 ゆっくり、ゆっくり、時間は、過ぎていく。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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