●破壊の権化 コンクリートの壁が砕け散る。 それが重機や爆弾の仕業であれば驚きもしないが、人間の仕業であれば驚くほかない。 しかも、解体用ハンマーを一本抱えただけの人間の仕業となれば。 「………………」 ちらり、と男は左右を見回した。 それぞれの壁が砕け散り、柱や床、天井などが次々に破壊される。 男は無言で歩き、適当な壁をぶち壊して外へ出た。 直後、彼の背後で民家が崩れ、完全な瓦礫の山と化したのだった。 周囲からわらわらと人影が出てくる。 「廃墟を破壊するのも飽きたな」 「ああ……もっと壊しがいのあるものがいい」 「次はどうする。人の住む家にするか」 「まあ待て、次はそこの廃墟にしよう」 彼らはノーフェイス。 またの名を、スレッジハンマーズと呼ぶ。 ● 「最近、廃墟が瓦礫と化す事件が起きています。世間では老朽化による自壊とされていますが、これがノーフェイス集団の仕業であることを掴みました」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が淡々と資料を広げていく。 「彼等は破壊そのものにとりつかれた十二名のノーフェイス集団です。個体ごとはさほど強くありませんが、集団となった時の破壊力は凄まじいものがあるでしょう」 しかも、このまま放って置けば廃墟にとどまらず、人の住む民家を壊しにかかるだろうともされている。 「今の内に。彼らがただの『廃墟壊し』であるうちに、倒してしまって下さい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月20日(金)22:25 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●スレッジハンマー ある廃墟でのことである。 屈強なノーフェイス達が好き放題に壁や柱を破壊していると、まだ手を付けていないコンクリート壁にヒビが入った。 そう思った次の瞬間、壁を破ってノーフェイスがひとり転がり込んで来る。 手にスレッジハンマーを握ったまま地面を二転三転し、呻きながらゆっくりと起き上がる。 「何だ……?」 その場にいたノーフェイス達は飛んできた方向へ振り返る。 すると、派手に開いた壁の穴を潜って『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)が現れた。 「どうも、日野宮ななせです。よろしくおねがいしますっ」 一見して少女である。高校生らしい顔つきだが、背丈は低い。 まかり間違っても化物が暴れる廃墟にお邪魔するような人間ではない。 ノーフェイスの一人が咥え煙草をしたまま顔をしかめた。 黙ってハンマーを構える男達。 三方向からじりじりと迫られる。 ななせは右を見て、左を見て、正面を見て。 「ハンマーなら、負けませんよ?」 そして無邪気な笑顔を見せたのだった。 少女の背後から、見たことも無いようなハンマーが姿を現す。彼女の背丈と同じかそれ以上の巨大さであり、どう考えても小柄な女子高生が笑顔で持ってくるものではなく、ましてや細腕二本でぐわりと持ち上げるものではない。 だが目の前でそれは実現した。 「勝負です!」 襲い掛かった男のハンマーを、逆に自分のハンマーで叩き返す。 重金属が激突する激音が響き互いの身体が若干仰け反る。 「なんだこいつ、強いぞ!」 「ガタガタ言ってんな、叩きだせ!」 ななせが体勢を戻しにかかる。残り二人が突っ込むにはいいタイミングだ。 だがそこへ『フォートプリンセス』セルマ・アルメイア(BNE003886)が滑り込み、がっしりと盾を構えて見せた。 「さぁさぁやってまいりましたよセルマちゃんショータァイム! 颯爽登場鉄壁の私! どんなことがあってもォ――!」 両サイドからハンマーをぶち込まれる。 盾が思い切り拉げた。 「耐えきって見せ痛ァー! ちょ、重い! 潰れるゥー! ヘヘヘヘヘループ!」 「ンな装備で突っ込むからだバカ下がってろ!」 悲鳴をあげるセルマの後頭部を鷲掴みにすると豪快に後ろへ放り投げる。 一体誰がと顔を上げると、『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が男達の前へ立ちはだかっていた。 「よぉ、そんな建築物より堅ぁいモン壊して見たくねえか? ただしお前もぶっ壊れるかもしれねえけどな!」 手刀一閃。迸る雷に目を覆う男達。 そんな中一人の男が雷を突っ切ってきた。 やや手前でホップ、ステップ。ジャンプの代わりに下段からの強烈なハンマーアタックが炸裂する。 「ぐお、っとお!」 覆わず宙に浮く身体。 重力が狂ったのではないかと思える程の吹き飛ばされ方だったが、『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)の腕が彼を途中でキャッチしてくれた。 「油断するな」 「サンキュ」 猛を振り下ろしつつ、男へと一足飛びにジャンプ。 「義桜葛葉、推して参る!」 眼前でぐるんと一回転すると強烈なキックで男を蹴っ飛ばした。 地面をバウンドして壁に激突する男。 軽やかに着地すると、葛葉は首を巡らせる。 「ここにいるのは全員ではないか。別室にでも集まっているな? 丁度いい、抑えさせてもらう。ユーフォリア」 「あの~、この人達、普通に解体業していたほうが儲かったんじゃないですかね~?」 壁の穴からひょっこりを顔を出すユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)。 葛葉は無言のまま、そして半眼で振り返った。 「いいからやれ」 「わかってますよ~」 ユーフォリアは気の抜けるような口調で言いながら、ヒールの踵で地面を叩いた。 叩いた時には既に葛葉の頭上、天井へ反転立ちしており、そう気付いた時には既に男の脇に立っていた。 腕輪のように持ったチャクラムを器用に振り込み、高速バックステップ。男から盛大に血が噴き出したが、ユーフォリアには一滴たりとも付着しなかった。気付けば既に葛葉の背後にいる。 「……なぜ後ろに下がる」 「敵を全員確認していませんから~」 相変わらず遅いのか早いのか分からないテンポのおかしい喋り方をするユーフォリア。 猛が、死にかけたセルマを引き摺って前へ出てくる。 「お前なら何人来ても避けられるだろ。ほら行け、セルマを守ってやれ」 「エッ!? ちょっと待ってセルマちゃん守られるとかどういうこと!? 愛され系? 愛され系クロスイージスなの!? それならよし、ちょっと麦茶持ってきてー!」 「お前も戦うんだよ!」 げしっと蹴りだされるセルマ。 「楽しそうですね」 「俺は御免だ」 葛葉とななせは一瞬だけ顔を見合わせてから、その場の男達を抑えるべく飛び込んで行ったのだった。 途中経過を今更ながら語る。 スレッジハンマーズが今回破壊していた家屋は六世帯居住可能な廃アパートだったが、既にいくらか破壊されており、一階部分は文字通りのぶち抜き状態になっていた。 彼等は態々同じ場所に固まっているのがつまらないのか半分は二回フロアへ移動。それを良い事に、一階フロアで解体遊びをしていたノーフェイス数人を襲撃。 その間に別働隊が二階フロアへと突入を果たしていた。 「何が目的なのこのひとたち、ストレス発散!?」 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は頭上をバスタブ(見間違いではない、大人ひとりが普通に入れそうなバスタブだ)が回転しながら吹っ飛んでいくのを、どこか非現実的な目で見送った。 目の前の壁がぶち壊れ、ワイルドなカウンターと化したキッチン台に身をひそめ、頭を出してはボウガンを乱射する。 「こんな人達が普通に民家を壊し始めたら大変だよね!」 「勿論」 吹き飛んでくる棚を真ん中でぶち破り、『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(BNE002556)が敵へ突っ込んで行く。 「なんですかその軟弱なハンマーは! それで私を壊せるんですか!?」 目を剥いたノーフェイスの前髪を片手で掴むと、巨木がそのまま鈍器になったような鎚を思い切り側頭部へ叩き込んだ。 男が壁を突き破ってリビングスペースへ転がって行く。 セルマはそれを追って壁の穴を潜り抜けると、正面からハンマーが飛んできた。強烈な斜め回転をかけて飛来するハンマーに激突。軽くよたつくセルマ。 別の男が追撃とばかりに飛出そうとしたその時、窓ガラスを割って『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)が突入してきた。 ソファの背もたれやテーブルを飛び石のように跳ね、男の側面へ高速接近。 コートの裾を大きく広げると、ポケットから二本のナイフを滑り出した。 「あーあ、この廃墟が今からボロッボロになっちまうんすか、世は無情っすね!」 弧月二閃。 男は眼球を正確に切断され、悲鳴と怒声の中間にある声をあげた。 「まっ、うちんちじゃないからどーでもイイっすけ――ど?」 風圧を感じて振り返る。 すると、フラウの脇腹目がけて解体用ハンマーが高速で叩き込まれる寸前だった。 回避が間に合う速度ではない。 フラウはリビングの壁に叩きつけられ、そのまま壁ごとぶち破って隣の家へ突っ込んだ。 「フラウさん!?」 「あ痛っ……やっべ……」 脳がぶん回されたのか足元をふらつかせながら起き上がるフラウ。 その背後では、ハンマーを頭上高く振り上げた男がいた。 「緊急回避ぃー!」 横合いから猛烈な勢いで突っ込んでくる『Trompe-l'eil』歪 ぐるぐ(BNE000001)。 軽くジャンプすると、スパナと銃を両手に持ったままスピン。男に思い切り連打を叩き込んだ。狙いは適当だったが当たればよかろうの精神である。 ハンマーを振り上げた姿勢のまま転倒する男。 その顔面をげしっと踏みつけ、ぐるぐは回転を停止。 「はろはろー。あ、ぐるぐさんちょっと間違えました。今のは緊急回避じゃなくて強制切断」 「もはや物理排除だと思うけど……」 ダクトだか穴だかを匍匐前進で抜けてきたアーリィがフラウに回復を寄越してくる。 フラウは首をゆるやかに振って意識と平衡感覚を元に戻した。 「いや、それにしても、凄い威力っすね。ちゃんと避けないと文字通りぶっ飛ばされるっすよ」 「だろう。こちとらそれだけしか能がないもんでな」 鋼鉄製のハンマーを肩に担ぎ、初老の男が部屋に入ってくる。 当たり前だがドアは普通に開かない。素で蹴破って来た。 別のフロアから乗り込んできたセルマが鎚を片手に睨みつける。 「リーダーさんですか。こちらの頭数が微妙に少なかったので心配してましたが、丁度良かったですね」 鎚を挙げるセルマ。 「力比べ、してみますか?」 ●破壊、崩壊、大解体! ななせの小柄な体が宙に浮く。 脇腹を強打するハンマー。 きりもみ回転しながら壁を破壊し隣フロアへ突っ込むが、その途端に別のハンマーで打ち返された。 複雑な二重回転をかけながら窓ガラスを割って屋外へ。 二回から飛び降りてきた男がハンマーを振りかざし、ななせの腹へと思い切り振りおろしてきた。 地面に叩きつけられる、という表現でいいのだろうか。 正確に状態を表すならば、地面がぶち壊されていると書くべきだ。 「つっ……!」 ななせは顔を引き攣らせて衝撃を耐えきると、片手を大きく頭上に翳した。 「ななせちゃん忘れ物ぉー!」 セルマが屋内から何かをぶん投げた。ななせのハンマーである。 そうはさせまいと追撃を仕掛けてくる男。 ななせはハンマーをキャッチすると振り向きざまにフルスイング。ハンマーどうしがかち合うが、今回ばかりはななせのパワーが勝った。男は弾かれるように仰け反る。 「さっきのぶん、お返ししますっ!」 遠心力でななせ自らがぶん回されるが、ブレーキをかけずにあえて加速。もう一巡して男にハンマーアタックを叩き込んでやった。 上半身がぶっちぎれ、男は砕けた洋梨のようになる。 一方で猛たちは数人の男達と渡り合っていた。 「面白くなって来たじゃねえか!」 相手の振り上げたハンマーをハイキックでかちあげる猛。 よろめいた所に連続でパンチを叩き込む。 男をノックダウン。そうしたと思った矢先に猛の側頭部を強烈な打撃が襲った。 首から上が無くなるのではないかという衝撃に転倒する猛。別の男がいつの間にやら背後に回っていたのだ。 男は焦った表情でハンマーを短く持ち、転倒した猛の頭蓋骨を砕かんと振り上げる。 が、その手首が何者かに掴まれた。 「お前達の実力は分かっている。後ろを取らせてもらったぞ」 手首を掴み上げたまま、背骨を砕く魔氷拳。 動きが固まった所で猛が身体を跳ね起こした。 「サンキュ、って二度目だな! そろそろ決着つけようじゃねえか!」 猛がしっかり固めた男のボディに好き放題連打を叩き込む猛。 男が力尽きる頃、周辺の壁を破壊して別の男達が飛び込んできた。 「うお、キリがねえな!」 「フッ、こういう時こそ難攻不落のセルマちゃんが」 「死ぬぞお前!?」 地面からひょっこり顔をだしたセルマ(先刻杭のように床下に叩き落とされていたらしい)を、やはり頭を掴んで引っこ抜く猛。 四方から飛び込んでくる男達に、猛と葛葉は背をつけあって応戦の構えをとった。 と、その時。 「そろそろ出番だと思ってましたよ~」 何処からともなく飛来したユーフォリアが猛たちの周りをぐるんと一周した。 ハンマーの軌道を微妙に変えて味方を叩かせるユーフォリア。 男達は周囲にある者を敵味方問わずぶっ叩くことになり、辺りは一瞬にして崩壊した。 二階建て家屋の一階でこんなことをすればどうなるか、大体分かろうと言うものである。 「セルマ生きてるか!」 「あっしはまだ戦える、けどここは場所が悪いっていうかそろそろ崩れるって言うか外に出た方がいいと思う!」 「……同感だ」 屋外へ転げ出る葛葉たち。 ユーフォリアも一拍遅れてふらふら飛び出てくる。 「すみませんね~。あそこでぶっ放しておけば楽かなと思ったんですよ~」 などと言っている内にアパートの一階部分が崩壊。 べしゃんと崩れて一階建て家屋へ変貌した。 こんなことが起こって二階の連中が無事でいるわけがない。 雑魚をあらかた倒し終えたフラウは凄まじい縦揺れ振動にきょろきょろと首を巡らせた。 「オイ馬鹿何やったんすか! このまま生き埋めとか勘弁っすから!」 「ええとどうしよう、テーブルの下に入って丸くなろうか?」 「どころじゃねーっすよー!」 慌てるアーリィを抱えて窓からダイブするフラウ。 フラウたちの背後で家屋が崩壊を初め、ガラスというガラスが外側に向けてはじけ飛んでいた。 「ひいいいっ!? 死ぬ、これは死ぬっす!」 「頭上から仲間が降ってきた!? ここはセルマちゃんの出番でむぎゅう!」 目をキラキラさせたセルマ(小さい方)をげしっと踏みつけ、フラウはなんとか着地。 しかしそんな二人を追いかけて一際大柄なノーフェイスが飛び出してきた。 あれだけの崩壊に遭遇したのに怪我ひとつ負っていない。 「待てやお前ら、ちょっと叩き潰されろ!」 「ハイパーお断りっす!」 フラウはアーリィを頭上に放り投げてから下をくぐるようにダッシュ。 素早く相手に残影剣を叩き込む。 足の健を切られたのかがくっとバランスを崩す男。 そこへ、空中で体勢を整えたアーリィがトラップネストを放った。 「ちょっとトドメにはならないけど、手伝うね!」 男の身体が気糸でびしりと拘束される。 そのタイミングを待っていたかのように、大きい方のセルマとぐるぐが崩壊した家屋から飛び出してきた。 「真の破壊には典雅さがなければなりません。楽しいから壊すなど児戯同然。貴方たちは、半端ものです!」 屋根を撥ね飛ばし、宙に躍り出たセルマ。 鎚を両手で振り上げ、力の限り叩き落とした。 地面ごと破壊。男は手に持っていたハンマーを取り落とし、その場にぐしゃりと倒れた。 これで終わりか。そう思ったのもつかの間、男は気合で立ち上がった。 「まだまだ、まだ中途半端だ。終われねえ!」 ハンマーを拾い上げて振り返る。 すると、同じく飛び出してきたぐるぐが腕をぐるんぐるんと回してパンチの構えを取った。 「ならこれはどうですか。自慢したいぶっ壊し技があるんですよ!」 だん、と地面を踏みつけ、アスファルトに足形をつける。 次に空気をかき分け、小さな拳をフルスイング。 拳は男の腹に叩き込まれ、まず摩擦で服を焼き焦がす。更に肉へめり込み、ついでに骨と内臓を滅茶苦茶に砕き、おまけとばかりに拳をモロに貫通させた。 「これは……」 「豪快絶頂拳」 呟いた直後、ぐるぐは灰のように白くかすんでぶっ倒れた。 ●破壊の後先 ノーフェイス集団スレッジハンマーズの破壊活動はこうして幕を閉じた。 あとに残ったのは瓦礫であり、死体であり、以外の何物でもない。 これは、そういう話なのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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