● 自分の呼吸で、喉が裂けそうだった。 いっそ息をやめてしまいたい思いで、しかしフュリエの少女は音を成さない喉を痛いほど震わせる。 目は見開いたまま、満足に瞬くこともできぬほど体が強張った。 少女の――イオの瞳は、眼前に広がる真紅を映したまま、それを焼き付ける。 生ぐさく錆の匂いを含んだ赤い水溜りから、重い雫を滴らせて出でた真紅の両翼を焼き付ける。 胴体はない。頭もない。ただオブジェのようにその両翼だけがそこにある。もがれた傷口を痛がるように翼の根元からはおびただしいほどの血が流れ落ちて、それが血溜まりを作っていた。――否、そこから血を吸い上げているようにも見える。 その血溜りは呼吸するように時折ごぽりと音を立てた。気泡がぱちんと割れて、イオの頬にしぶきが飛ぶ。それでようやく視線が動いた。そうしてイオは、血溜まりから助けを求めるように覗いた白い腕を見た。見てしまった。 「――――!!」 ばきんと箍が外れたように、イオは悲鳴をあげた。 同時に血溜まりは意思を持ったように少女を飲み込んだ。 ● 「……め、メガネを落とした……誰か、誰かいるならたすけ――うおおおお!!?」 ラ・ル・カーナにて周辺警戒に当たっていた『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)は派手に滑った。ぺたぺたと落としたはずのメガネを這って探していたのだが、手を付いたところが悪かったらしい。顔面スライディングは免れたものの、両手足がべっしょりと濡れた。 「……何だ? これは」 視界は判然としないが、探った手は濡れて粘る。そして鼻をつく生臭い錆の匂いと色で、すぐに検討はついた。鷲祐は共にメガネ探し、もとい哨戒を行っていた仲間へ声をあげる。 「メガネより血だ!」 ● 「おそらく、血濡れの両翼と呼んでいるものの痕跡だと思います」 リベリスタたちからの報告を聞いて、フュリエの長シェルンはやや硬い声でそう言った。 「少し前から、各所に出現しているのです。それは血溜まりと共に唐突に現れ、その血溜まりに仲間や獣を引き摺り込んで飲み込んでしまう」 血の滴る真紅の翼は巨大だ。片翼で大の大人二人分はあると言う。しかし飛ぶことはできず、血溜まりの上にしかいられない。ただしその翼は石のように硬い。斬るよりは砕く気で行ったほうがまだ効果的かもしれない。 「しかしお気をつけください。あの両翼には目も耳もない。けれど音には酷く敏感で、後ろから近づこうが前から行こうが関係はありません。加えて、翼から放つ羽の刃は強い毒性を持っています」 それから、とシェルンはその表情を少し曇らせた。 「杞憂であればいいのですが、昨日から一人、フュリエの少女の行方がわからなくなっています。名はイオ。外見は随分と小柄で幼めだそうですが、歳は十五。……とあるモノを探しに行って、未だ帰っていません」 「世界樹の森の中にも危険があるのか?」 「いえ、彼女が探しに行くと言ったらしいのは少し珍しいモノでして、群生の場所が限られていたのです。どうも自分の知っている『境界付近の場所』に赴いたらしく……予想以上の速度で侵食が続いている関係で、安全圏の誤解をしたのでしょうね。私が知っていれば止めたのですが……」 そう顔を俯けた後、シェルンは真っ直ぐな視線をリベリスタたちに向けた。 「もし捕まっていたら、助けてやってはくれませんか」 その切実な頼みに、しかしリベリスタたちは頷くのを躊躇った。イオという少女が行方知れずになって既に一日が経つと言う。もう助かる見込みは薄いのではないかと思ったからだ。 「まだ、間に合うかもしれないのです」 躊躇いを汲み取ったように、シェルンは言葉を重ねる。 血溜まりはまるで生きているかのような動きを持ってして、獲物を捕らえるらしい。捕らえれば逃がさぬよう、血でこしらえた卵のようなものにそれを閉じ込めて、卵が固まるのを待ってから喰らうのだそうだ。昨日捕まったのなら、まだ食われてはいない可能性が高い。 「今の私では、次に両翼がどこに現れるか、確かなことは言えませんが……血溜まりがまだ残っているのなら、同じ場所に現れる可能性は高いと思います」 どうかお気をつけて。そして同胞を宜しくお願いします、とシェルンは丁寧な礼でリベリスタたちを見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:野茂野 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月19日(木)23:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「見つかったかい?」 ラ・ル・カーナの荒野を双眼鏡で見渡すのを一旦止めて、『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は前を行く『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)へ問いかけた。 千里眼を駆使していた恵梨香はモノトーンのフレアワンピースを翻して振り返ると、淡々とした表情を動かさずに首を振った。 「いえ、まだ見つかりません」 「この辺りのはずなんじゃがな。――ふむ、今のところどこからも何の音もしておらん」 荒野を踏みしめる足音ばかりを聞きながら『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)は集音装置を駆使して音を確かめる。 彼らは血溜まりから現れては獲物を攫い呑むと言う、血塗れの両翼を探していた。 狂った世界樹が生み出したその『忌み子』は今、フュリエの少女を捕らえていると言う。 「イオさんが、無事だと良いのですが」 『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は呟いて、手にある武器を握り直す。 「そだね。私達にはフェイトがあるけど、イオちゃんにはないから」 ちゃんと守ってあげなくちゃ。 頷いて言った『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の足元には、ひとつ大きな岩があった。そこに濃くある影、それを目に留めて、恵梨香は気付く。 「ありました」 「え?」 「魅零さんの足元の岩影に、血溜まりが。先ばかり見ていたみたい」 「灯台下暗し、かね」 軽く軽く笑って雪白 音羽(BNE000194)が言ったその声に被せるように、音はした。 ――ごぽり。 くぐもった音が、誰の耳にも届いた。それは程近く、彼らの足元のその岩影から、した。 ごぽり、ごぽり、ごぽり。 乾いた荒野にはおよそ不似合いなその粘着質な水音は、不穏さを伴ってリベリスタ達の耳に届く。 「……嫌な音だ」 誰に言うでもなく呟かれた『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)の言葉はその場の全員を代弁していたろう。一斉に距離を取って、蠢き出した血溜まりを睨み付ける。 ごぽり、ごぽり。 地面から、不気味な程に赤い血が溢れ出す。やがてそれは影を作っていた岩をも飲み込んで大きな赤い水溜りを作り出した。そしてひととき、その動きが止まる。 そこから、三拍。 鉅は吸い込んだ煙草の煙を吐き出すと同時に、ダガーを抜いた。そして視線をやるまでもなく、端的な言葉で仲間へと声を張る。 「――構えろ!」 ● やたら巨大なその真紅の両翼は、巨大な割に出てくるまでに瞬きひとつの時間もかからなかった。 赤い水面が大きく波打って、それは構えたリベリスタ達の足元にまで飛沫を飛ばす。 現れた瞬間に半ば反射で投げられた鉅のダガーは石のような羽に阻まれて、血溜まりへ落ちた。だがそれにも構わず、鉅はぐんと両翼までの間合いを詰める。踏み込めば足元の血溜まりが派手に跳ねた。頬にまで飛んだそれを拭えば、まともに血の匂いが鼻をついて、鉅は僅かに眉をひそめる。 「今更汚れを気にするような恰好ではないが、臭いのは勘弁だ」 不意を狙って両翼が硬い羽を飛ばす。だが鉅は冴えた感覚でそれを避けるために跳躍して、常より体が軽いことに気付いた。首を巡らせれば、自分の背に小さな羽がある。 (……翼の加護) 理解すれば、空中で攻撃を避け切って、着地する。すると視界の端に、ずるずると出て来る血溜まりとは違う、赤い大きな丸いそれが映った。 「卵発見じゃー。救助作戦開始じゃぞー!」 メアリの威勢のいい掛け声でそれがやはり卵なのだと確信する。両翼はメアリの声に反応したのか、そちらへ攻撃の手を向けた。それを待ち受けた仲間達が応戦を始める。 「御津代さん」 その隙を狙って、躊躇う事無く血溜まりへ踏み込んできたアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)は鉅を促す。その背にも、メアリが施してくれている翼の加護がある。彼らはあの『卵』から、フュリエの少女を救い出すことを任されていた。こちらへの注意を向けさせないよう、二人は軽く飛んで卵の傍へと降りる。 だが無差別に放たれた羽の刃は容赦なく二人の元まで届いた。まるで流れ弾のごとく襲って来たそれを避けるために二人は卵から一度距離を取ろうとして、止められた。 「離れるな」 大きな背中が、そこに構えた。そして目の前まで迫った羽の刃が次の剣の一薙ぎで軌道を変えられる。叩き落された羽達は派手に飛沫をあげながら血溜まりに消えた。 剣にかかった飛沫を振り払いながら振り返って、零二はアルフォンソと鉅に笑む。 「俺が盾になろう。――イオを早く」 ● ――こわい。 赤い闇から起き上がったイオの意識が、虚ろなままに感じたのはその感情だった。 ――怖い、怖い、怖い。 目に焼きついた赤色も、張り付くような血の匂いも。 だんだんと重い思考が回り出す。ゆるりと回って、どうしようもなく焼きついた記憶を、恐怖を掘り起こす。 ――血の匂いがする。 こわい、こわい、こわい! 「イオ、イオさん」 闇雲に叫び出しそうになったのを抑える様に、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。知らない声だ。 まだぼやける視界は、はっきりと名前を呼んだ誰かの顔を映さない。 「わかりますか? シェルンさんに頼まれて、貴方を助けに来ました」 「……っ」 声が上手く出ない。けれども、助けに来たという言葉と、よく知った人の名前を聞いて、息が詰まった。 「――、――?」 知らない声がまたひとつした。そしてその声が喋る言葉はわからない。そこで、気付く。 (異世界の) 異世界の住人がやって来たという話は、イオも知っていた。実際に見たことも会ったこともなかったけれど、その人達に救われたというフュリエの話もいくつか聞いた。 (たすけに、来てくれた?) 見ず知らずのイオを。自分の不注意で、危険な領域に踏み込んだイオを。 だんだんと、視界がはっきりして来る。ふわりと、甘い香りがした。目の前に、小さな可愛い花があった。見たことがない。それを差し出してくれたのは、わからない言葉で話した違う異世界のひとで、大きな体で、けれども優しい顔でイオの髪にその花を挿してくれた。 そしてその人は、笑みを残して駆け出した。それを無意識に視線で追おうとして、上手く体が動かないことに気付く。けれどもぎこちなく頭を動かせて、銀色の髪の人に抱えて貰っているらしいことはわかった。 そして、見てしまった。 あかいろ。 おおきな。 つばさ、の。 「――――ッ!!」 ● 「こりゃ、まずいかね」 イオの悲鳴を聞いて、音羽は魔方陣を展開させながら軽く舌打ちをする。 それまでは主力をこちらに向けていた両翼が、よく通ったイオの高い悲鳴で、そちらに向き直ってしまった。 「こちらに来なさい!」 恵梨香が声を張って両翼の気を引こうとするが、獲物を取られたことに気付いたらしい両翼はぼたぼたと血を振りまきながら、その血溜まりでイオを狙う。 流れて飛んで来る羽の刃を避けながら、音羽は低空飛行で立ち位置を変えることを選択した。違う方向から攻撃すれば多少は気を引けるかもしれないし、逃走も止めやすい。同時に自分の周りに魔方陣を展開させた。 魔方陣によって増大された魔力が体に巡る。それを指先にまで感じて、音羽は仲間達がいる反対側に降り立った。ばしゃりと足元で血溜まりが跳ねて、獲物を取られたことを知ったのか、意思を持ったようにぞわりと動く。 それを察して、音羽は今一度宙に浮かび上がった。そして仲間と両翼を挟み込むような位置を取って、突き出した掌の上に四つ、立て続けに属性の違う魔術を組み上げる。 「前の獲物ばっか狙ってんじゃねえよ」 にい、と唇の端に笑みを乗せて、四色の魔光を放つ。それは紅の両翼を過たず貫いた。 血に濡れた両翼の羽は衝撃に砕けて、更に血を弾けさせる。狙い通り気は引けた。だがそれだけでは当然済むこともなく、羽の刃は仲間から離れて一人になった音羽を集中的に狙い撃った。 数人に目がけて放たれたそれならまだしも、複数の羽に一斉に狙われては避けきれない。 羽が突き刺さる。含まれた猛毒が、体の動きを鈍らせて、更に別の羽が突き刺さる。 「か、はっ……!」 耐え切れず膝を着けば、血溜まりに体が浸かる。波紋を作るのが自分の血か、それとも血溜まりの跳ね返りかは判然としない。ただ、このままではまずい。 ぞわり、血溜まりが嫌な動き方をする。 そうは思えど、音羽の口角は愉快そうに、この状況を楽しむように上がったままだった。 「くたばって、たまるかよ」 ――再度四色の魔光が放たれて、しかし音羽の姿は次の瞬間、血色の卵へと塗り替えられた。 ● 「ち、なんだこの血溜まりは……」 舌打ちまぎれに、鉅はイオの叫びに呼ばれたように動き出した血溜まりを薙ぐ。固形態になって獲物を取り返そうと動く血溜まりは、払っても払っても血に戻っては再び襲い来る。 一方で、イオを庇いながら血溜まりから逃れようとしていたアルフォンソは、錯乱して叫ぶイオにタワー・オブ・バベルを駆使して声をかけ続けている。 「イオさん、落ち着いてください。イオさん。大丈夫です、これをかけて」 アルフォンソは、イオにサングラスを手渡す。がたがたと震える手に、それを握らせる。 「これで、血の色は見えません。そのまま、目を閉じていてください。その間に私達が全て終わらせます。――大丈夫」 イオが何とかサングラスを認識したのを確認して、そっとその目にサングラスをかける。そして手には、ラベンダーのアロマオイルを染み込ませたハンカチを握らせた。 「いい香りでしょう? これでどうか、心を落ち着けて」 大丈夫です、と繰り返して、アルフォンソは微笑んでみせる。その時、不意に血溜まりの動きが静まった。 「何だ?」 異変を感じた鉅が、イオがとりあえずは落ち着いたことを確認して駆け出す。 それを見て、イオがアルフォンソにしがみついた。行くの、と不安げに震える声で言う。 「いいえ」 一緒にいますよ、と微笑んで小さな手を握り返せば、いくらか安心したようにイオは目を閉じた。 これでイオは大丈夫だろうが、アルフォンソは戦いに加勢できなくなった。唐突にイオを狙わなくなった血溜まりのことも気にかかる。 アルフォンソはせめてもとオフェンサードクトリンを発動させた。 「……ご武運を」 「ちょっとちょっと! イオちゃん落ち着いたと思ったらマズいよー!」 メアリに付与して貰っている翼の加護を存分に楽しみ――活用しつつ、魅零は低空飛行で仲間へと駆け寄る。 「向こう側で音羽さん卵にされちゃってる!」 「……それで血溜まりがイオを狙わなくなったのね」 正直な奴、と淡々と呟きながら一瞬で構築した四つの魔術を、四色の魔光に変えて両翼へ放つ。 「さっき見えた同じ魔光、あれは音羽さんの放ったものね」 今回ここに来ている仲間で、マグメイガスは恵梨香と音羽だけだ。自分も使うからには、その術は見慣れている。 「――私が助けに行きましょう」 どこか優雅さが滲む動作で踏み出したのはユーディスだ。ほう、と輝きを纏って自らの護りを高める。 「では妾達は、こちらで両翼の気を引いてみるとしようかのう」 やーい、といささか子供っぽい掛け声をして見せて、メアリは翼の加護を今一度仲間に与える。 「わーい、また翼だーっ! ……あ、でもようやくイオちゃん安全になって思いっきり殴れると思ったのに、また卵あるなら思いっきりできないねえ」 魅零が賑やかに騒いで、それだけで両翼の羽の刃は正直に飛んで来る。まだ、撤退する様子はない。それを何とか避けながら、魅零はむう、と呟いた。 だが、その意見に柔らかく反論したのは零二だった。 「……いや、多少は大丈夫だと思うな」 「えー?」 「ほら、雪白はリベリスタなわけだしね。――戦場の男と言うのは、そうやわではないよ」 精悍な顔つきで、歳の功たる説得力を持ってして言われた言葉には、少女達が元気に頷いた。 「ふむ、良いことを聞いたのじゃ。思いっきり行くぞー!」 「私もー!」 「……では、私も手加減なしでしっかり気を引きますので。ユーディスさん、宜しくお願いします」 そして彼女達は背に羽がありながらも、わざとらしく血溜まりを駆けて足音を成し、羽の刃は彼女らを撃つ。 その隙に低空飛行したユーディスが両翼の反対側を目指して飛び立った。 「……オレは余計なことを言ったろうか」 剣を振り払って三度距離を詰める零二に、並走した鉅が軽く肩を竦める。 「平気なんじゃないか。――やわじゃないんだからな」 ● 仲間達の攻撃のおかげか、首尾よく背後に回り込めたユーディスは、血溜まりの中に浸かった卵を見つける。 (あれですね) できるだけ静かに降り立ち、卵に触れればそれはぶよぶよと柔らかく、まだ温かい。それに武器を突き立てるのはやや躊躇われたが、迷っている時間などない。 卵はまるで水風船が割れるように破裂した。派手に血飛沫が飛び散って、中からぐったりとした音羽が出て、血溜まりに崩れ落ちる。 「しっかりしてください!」 揺すれば音羽はすぐに目を覚ました。しばし呻いて、ずるりと体を起こす。大分辛そうなふうの息をついて、肩を大きく動かしている。 「動けますか」 「ああ……女の子は」 「もう大丈夫です。――行きましょう、気づかれない内に、あれを倒してしまわなければ」 ユーディスが音羽と共に戦列に戻り、仲間達は一様に安堵の息をついた。だが誰も言葉としてそれを言うことはなく、メアリの天使の歌とブレイクフィアーが連続して音羽を含めたリベリスタ達を癒す。 そして彼らは改めて冴えた視線を真紅の敵へと向けた。 「ブラックジャックで敵の回復手段は絶った。……あとは」 「一気に畳み掛けるだけじゃな」 「行きましょう」 恵梨香がよく通る声で言った言葉を合図に、リベリスタ達の総攻撃が始まった。 ごく近くまで距離を詰めたユーディスの武器が、鮮烈に光り輝く。その輝きが硬い羽を砕いて、奥にまでその光を通す。 羽の動きが目に見えて鈍った。だが鈍くとも放たれた羽の刃は突き刺さればその猛毒で体を侵す。その傷を、メアリのブレイクフィアーと天使の歌が優しく癒した。そして再び、彼らは血溜まりの中を行く。 零二の圧倒的なオーラを背にした連続攻撃は叩き潰すように両翼をえぐり、当たるたびに激しい流血が伴った。だが返り血をものともせず、零二は真紅の翼に風穴を穿つ。 それを振り払うように両翼は動いたが、その動きを止めるように後方からの恵梨香の、音羽の魔光が羽を吹き飛ばして血飛沫をあげ、鉅の放つ黒いオーラも、魅零の放つ暗黒の瘴気も、両翼の動きを鈍らせて、血溜まりはどんどんと両翼から血を絞り取るように、大きく広がっていく。 どの攻撃もアルフォンソのサポートによって攻撃力が格段に上がっている。ほとんど全身を血溜まりの色に染めながら、リベリスタ達は攻撃の手を緩めない。 ばきん、と乾いた音がしたのが、最期の合図だった。 「――大地へ還り大地に抱かれて眠れ、血の翼」 零二が両翼へと送った言葉を最後に、両翼は血溜まりの中へと砕け落ち、血溜まりは一瞬で固まったかと思うと、これもぱきんと音を立てて、霧散してしまった。 ● 「終わりました」 揺るがぬ無表情で、恵梨香はイオの傍に居続けたアルフォンソへとそう言った。お疲れ様です、とアルフォンソは仲間を見渡す。 「……イオさんは?」 「眠った――と言うよりは、気を失ってしまったようです。安心したんでしょうね」 イオを抱え直しながら苦笑したアルフォンソに、そう、と恵梨香は淡々と頷いた。だがどことなく、イオを見詰める瞳には優しい色があるようにも見えた。 「なんじゃ、イオは寝てしもうたか」 残念じゃな、とメアリはイオを覗き込む。 「せっかく着替えを持って来たんじゃが、ご対面はお預けじゃな」 「着替えか……ほんと、見事に血塗れにしてくれやがって」 音羽の疲れた溜息に、鉅も使い物にならなくなった煙草をポケットに突っ込みながら頷いた。 「まったく、妙な敵は見慣れたつもりだったが、さすがは異世界、と言ったところか」 「……ひとまず早く帰ろう。イオをちゃんと休ませてやるべきだ」 零二の提案に否はなく、リベリスタ達は血を拭いながら、荒野を再び歩き出す。 抱えられたイオの髪には、三高平の街でも見かけることのできる、可愛らしい花が一輪、あどけない少女の眠りを守るように、そこにある。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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