●雨上がり 雨の気配が色濃く残る。それから、濡れたアスファルト。 少子高齢化が進み、住人のほとんどが老人と化した寂れた村だ。 周りを山に囲まれたその村には、使われなくなった田んぼが多数残っていた。 初めに異変に気が付いたのは、雨上がりの夕暮れ空を眺めようと縁側に腰掛け、温い緑茶を喉に流し込んでいた老婆だった。数年前に旦那を亡くし、それ以来田んぼに稲を植えることも無くなっていた。 何度も息子夫婦から一緒に住まないかと誘われていたのだが、一緒にやってきた思い出の田とこの家を捨てることができずに、今もこうしてここに1人住んでいる。 そんな彼女が目にしたのは、雨でぬかるんだ田の泥がボコボコと湧きあがる、不可思議な光景。 「あらら……」 不思議なこともあるもんやねぇ、と老婆はそれを眺めている。 田から湧きあがった泥は、やがて人の形をとって固まっていく。 「ずいぶんとでかいねぇ」 その大きさ、実に3メートル程だろうか。人の形をしていながら、人ではあり得ない巨体に、老婆は感心したように溜め息を吐く。 泥男に続いて、その足元の泥が腕の形を取る。 腕だけ、だ……。 肩から下の部分だけの、泥で出来た腕が田からアスファルトに這い出してくる。 「妖怪かね……。泥田坊っちゅうやつかいね?」 この期に及んで、尚も老婆はマイペースを崩さない……。 ●田舎の田園風景 「老婆は足が悪く、逃げ出したりするつもりはないみたい……」 と、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がモニターに目をやってそう言った。 「フェーズ2のE・エレメント(泥田坊)と、その配下らしいE・エレメント(泥の腕)が6体。幸い、泥の腕は1、2回の攻撃で倒せる程度の強さでしかないけれど、泥田坊が居る限り何度でも何体でも誕生するみたい」 数が多くなるから、油断大敵ね。 そう言って、イヴは緑茶を啜った。 「泥の腕は、接近し掴みかかる、或いは殴りかかる程度の攻撃しかできない」 囲まれない限りは、安全だろう。 最も、今回の戦場は田んぼへと続くあぜ道になるだろうから、油断は出来ないが。 「泥田坊は泥を使って攻撃してくる。特に、田んぼの泥で津波を起こす攻撃が協力。相手の動きは鈍いけど、力は強いし少しのダメージならものともしないタフさを持っている。気を付けて」 真っ先に泥田坊を狙うのが得策だろう。 しかし……。 「泥の壁を作ったり、泥の腕が身を挺して庇ったりするから」 そう簡単には、いかないと言うことだろうか。 「おばあちゃんに危険が及ばないよう、気を付けて。今のところ、泥田坊の目的は不明」 情報は以上。 そう言って、イヴはモニターを消した。 「じゃあ、行ってきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月18日(水)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●田園風景 田園から生まれたソイツは、泥の身体を持った巨人だった。泥田坊、と大昔に呼ばれた妖怪に類似した外見だ。もっとも、ソイツは単なるE・エレメントである。 そんな泥田坊を囲むように、数体の泥の腕が地面を這っている。 暑い風が吹き抜ける。 泥田坊を眺めながら、老婆は呟いた。 「永く生きてると、不思議なこともあるもんだねぇ」 どこまでもマイペースな、浮世離れした老婆であった。 「おばあちゃん、おうちに帰りましょーね。思い出は田んぼだけじゃないでしょ」 縁側に座ったままお茶を啜る老婆に『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)が、声をかける。「止まれ」と書かれた標識を肩に担いで、やれやれといった風に頭を掻く。 そんな日暮れに向かって、老婆は言った。 「あら、お茶でも飲んでくかい?」 やはりマイペースな老婆であった。どういうわけか、泥田坊に対し脅威を感じていないらしい。 「………」 どうしよう、と考えた末、日暮は老婆の隣に腰かけるのだった。 ●あぜ道の激戦 「最近、妖怪風のエリューションに少し縁があるように思います……」 顔を強張らせ『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658)が呟いた。泥田坊や、泥の腕から多少の距離を置いて、戦場の様子を見守っている。 「旦那を亡くし息子夫婦と離れて暮らす老婆か……。気になる人だ。なにが引っかかるか、自分でも分からないが」 あとで話でも聞いてみようか。 二丁の拳銃を泥田坊に向け『DOOD ZOMER』夏郷 睡蓮(BNE003628)が独り言を漏らす。記憶を失った夏郷にとって、家族という単語はなにか引っかかるものがあるのかもしれない。 放たれた銃弾は、真っすぐに泥田坊へと飛んでいく。しかし、泥田坊の前に飛び出た泥の腕が、それを阻む。小さく舌打ちし、夏郷は後ろに下がった。 入れ替わるように『鋼脚のマスケティア』ミュゼ―ヌ・三条寺(BNE000589)と『刹那たる護人』ラシャ・セシリア・アーノルド(BNE000576)が前に出る。 「永閑な場所ね……。まるで日本の原風景って感じ」 ポツリと呟いて、ミュゼ―ヌはマスケット銃を構えた。撃ち出されるのは、無数の弾丸。まるで蜂の襲撃のような勢いで、弾丸の嵐が泥田坊を襲う。 しかし、泥田坊の前に複数の泥の腕が回り込み、弾丸をすべて阻んでしまう。その間にも、泥田坊は田の泥から新たな泥の腕を生み出していく。 「ちっ……。ラシャさん!」 「うむ。とにかくこれ以上進ませないようにしないとな」 ブロードソードを構え、ラシャが前に出る。しかし、彼女の眼前に、新たに生まれた泥の腕が立ち塞がる。気迫を込めた剣での一撃を、腕に対し叩きつけ弾き飛ばした。しかし、別の泥の腕がラシャの剣を絡め取って固定してしまう。 「姉よ。疲れている場合ではないぞ」 「アチィーんだってば。ここに着くまでにわたしゃ疲れた……」 愚痴ってる場合じゃないけどね、と『永久なる咎人』カイン・トバルト・アーノルド(BNE000230)が、腕まくりして泥田坊に駆け寄っていく。 「ちょい待ちだぁ、いっちょ揉んだる!」 地面を蹴って、カインが飛び上がる。全力を込めたブロードソードによる一撃を、泥田坊の頭目がけ振り下ろす。泥の腕は、ミュゼ―ヌとラシャが相手取っているため、庇いに来れないのだ。 泥田坊が、腕を大きく振りあげカインを迎え撃つ。 直後、振りあげた腕に黒い鎖が巻き付いた。ギリ、と締めあげ、泥の腕を切断する。鎖は、血液となって辺りに飛び散った。 「このままではお婆さんが襲われてしまうかもしれませんので、早く倒しませんとね」 宙を舞いながら、苦痛に顔を歪めた小鳥遊・茉莉(BNE002647)がそう呟いた。血液で出来た黒鎖は、彼女の放ったものだ。カインの剣が、泥田坊の頭部に叩きつけられる。 大きく後ろに傾いだ泥田坊の身体が崩れ落ちる。泥が散って、あぜ道を汚す。 「あれ……?」 敵の姿を見失ったカインが辺りを見回す。同様に前衛を張っていた夏郷、ラシャ、ミュゼ―ヌも辺りを見回している。いつの間にか、泥の腕も姿を消している。 「皆さん! 田んぼです!」 そう叫んだのは離宮院 三郎太(BNE003381)だ。咄嗟に気糸を伸ばすが、間に合わない。田から飛び出してきたのは、無数の泥の弾丸だった。 「う、……っく」 ラシャとカインが盾を構えて、仲間を庇う。しかし、間に合わない。ミュゼ―ヌの肩と、夏郷の足を、泥の弾丸が撃ち抜いていった。田んぼの泥が湧きあがり、泥田坊が姿を現す。 同様に、泥の腕も新たに数体、姿を現した。 「今回の敵は長引くと無限に増殖する可能性があるようです。的確に狙い、速やかな対処を行っていきましょう」 気糸で泥田坊の足元を差し貫いた離宮院が、そう言う。その隙に、前衛の4人は一旦後ろに下がった。傷ついたミュゼ―ヌと夏郷の手当てをするために、綿谷が前に出る。 「術式、迷える子羊の博愛!」 魔導書を開き、綿谷が唱える。淡い光が、2人の傷口を癒していく。 「お婆さんは、なんと言うかのんびりしている方ですね」 仲間たちの傍に降り立った小鳥遊が、チラと民家の方に目をやってそう呟く。民家の縁側では、のんびりとお茶を啜る老婆と、そんな老婆の隣に腰かけ、様子を窺っている日暮の姿。 再び、泥田坊があぜ道に乗り上げて来た……。 わらわらと、無数の泥の腕があぜ道を進行してくる。中には、山の傾斜を這い上がっているものもいる。そんな泥の手を指揮するように腕を動かすのは、すっかり身体を再生させて泥田坊だ。 「出来る限り、泥の腕を優先して攻撃します」 小鳥遊が、血液で作った黒い鎖を放つ。複数の泥の腕を巻き込み、殲滅していく。泥の腕が爆ぜ、辺りに飛び散っていく。 「美しい風景を泥まみれになんてさせないわ」 泥の腕に向かって弾丸を乱射するミュゼ―ヌ。飛び散った泥があぜ道を汚す。 「ここは進ませないっ!」 2人の攻撃を抜け、近くに接近してきた泥の腕をラシャが斬り伏せていく。その間も、泥田坊は次々に田んぼの泥から泥の腕を生み出して続ける。 「出来るだけ多数を巻き込むように、どかーん、っとやりましょー!」 無数に生み出した不可視の刃を、泥の腕にぶつけながら日暮が叫ぶ。老婆を護衛しながらも、可能な限り、前衛部隊の援護をするつもりのようだ。そんな日暮の横では、老婆が目を細め、戦場を見つめていた。 「ボクもお手伝いします」 綿谷が光の矢を放つ。宙を駆け、矢は泥田坊の胴に突き刺さった。ダメージがないわけではないのだろうが、しかし泥田坊の身体は泥で出来ている。多少のダメージでは、その動きを止めることができないようだ。 「EP切れは気にする必要はありません、ボクが回復しますっ。思う存分、攻撃を叩き込んでください!」 離宮院が叫ぶ。リベリスタ達の攻撃が、より一層激しくなった。泥で出来た腕を、次々討伐していく。 不意に、泥の腕が一か所に集まり、ひと固まりになる。 「あれは……?」 ごわごわと集まり、巨大化する腕に銃弾を叩きこみながらミュゼ―ヌが呟いた。 泥の腕はあつまり、巨大な腕を形作った。見上げるほどの巨大な腕が、固めた拳を地面に向かって振り下ろす。咄嗟に防御の姿勢をとったミュゼ―ヌとラシャ、小鳥遊を泥の腕が襲う。 「うあぁ!!」 衝撃を受け止めきれず、宙を舞っていた小鳥遊の身体が地面に叩きつけられ、バウンドする。綿谷が駆け寄るが、田から這い上がってきた泥の腕に進路を阻まれる。 「こっちは私たちがなんとかするから、姉よ! 本体を頼む!」 ラシャが叫ぶ。同時に、カインと夏郷の2人が弾かれたように前へと飛び出した。 「頼まれたなら、仕方ないねぇ」 「一気に決めよう」 向かい来る泥の腕を回避しながら、2人は泥田坊に向かって駆ける。殴りかかってくる泥の腕を盾で受け流し、或いは銃弾で撃ち抜いて、前へ前へ。 「しかし、目的はなんなのだろうな」 泥の腕を蹴り飛ばし、夏郷が言う。 「泥遊びがしたいわけでもないだろうし、婆さんに用があったんじゃないのか?」 なんて、悪戯っぽく笑ってカインが山の斜面を駆け上がる。彼女の背後に迫る泥の腕を、ミュゼ―ヌの放った弾丸が撃ちぬく。 「戦ううちに知ることができれば嬉しいが」 輝くオーラを身に纏い、銃弾を連射しながら夏郷が地面を蹴って飛び上がった。泥の腕を飛び越え、向かう先には泥田坊がいる。同時に、泥田坊死角から、カインが飛びかかる。 前と横から、挟みこむような攻撃。2人が、泥田坊に肉薄した。 その時……。 泥田坊の身体から、無数の泥の刺が突き出した。 「うわ……」 「う……ぬ」 咄嗟に武器を前に出して、致命傷を避けたものの2人の攻撃は失敗に終わる。もちろん、いくらかの攻撃を加えることには成功したが、倒すには至らない。 無数の刺し傷を負い、2人が地面に降りたつ。 そんな2人の目の前で、田んぼの泥が津波のように湧きあがっていく……。 ●泥田坊の猛攻。 「人に仇なすようなら、全力で退治させていただきます」 離宮院の放った気糸が宙を舞う。風を切り、巨大化した泥の腕に突き刺さる。正確に弱点を突く、気糸での一撃が、一瞬泥の腕の動きを止めた。 「油断は禁物だったな……」 全身に鈍い痛みを感じつつも、ラシャがブロードソードを振りあげる。ギシ、と肩が軋むような音をたてる。先ほど、巨大化した泥の腕の攻撃を受けた際、痛めたのだ。 雷を纏った剣が、泥の腕に叩きつけられる。雷電が瞬いて、泥の腕が爆ぜた。全員漏れなく、泥まみれだ。無事なのは、最後尾の日暮くらいのものだろう。 「無理なさらず、ダメージが酷いようでしたらこちらに!」 苦痛に顔をしかめたラシャを心配し、綿谷が声をかける。頷いて、ラシャが後ろに下がった。入れ替わるように、小鳥遊が宙を駆け、前へ。 「なんとなくですけど……、弱点、分かった気がします」 一気に泥の腕に接近した小鳥遊の頭上に、魔力で作られた大鎌が浮かび上がる。不吉なオーラを撒き散らしながら、大鎌が泥の腕に突き刺さった。 周囲に泥が飛び散る。雷でも受けたように、泥の腕がその場に硬直する。ここぞとばかりに、ミュゼ―ヌが山の斜面を駆け上がり、泥の腕の真上から踊りかかった。 鋼の脚を、高く振りあげる。落下の勢いに任せ、泥の腕目がけ踵を叩きつけた。 一瞬の静寂の後、泥の腕が弾け飛ぶ。あぜ道に、田に、山の斜面に……泥が飛び散り、へばりつく。先ほどまで巨大化した泥の腕がいた場所には、大量の泥が残るのみであった……。 「あとは、泥田坊だけね」 ミュゼ―ヌが言う。一息吐いて、泥田坊へと視線を向けた。 「……な、ぇ?」 呆けたような声をあげたのは誰だったろうか。綿谷が、恐怖に目を見開く。 「に、逃げろ! 皆!」 慌てたようにカインが叫ぶ。その横を、夏郷が全速力で駆けている。緊張に引きつった顔の2人の背後から、泥の津波が迫って来ていた……。 「あわわわわわ……」 標識を構えてみたものの、泥の津波にどう対応すればいいか分からない日暮が声にならない声で悲鳴をあげる。ほんの十数メートル先まで、泥の津波が迫っていた。 「やれやれ……だねぇ」 不意に、老婆が重い腰をあげた。え? と、目を丸くする日暮を尻目に老婆が縁側から降りて、田んぼの方へと歩いていく。 「おばーちゃん、危ないですよ! そこから先に行っちゃだめです」 慌てて日暮が老婆を追う。しかし、老婆は意味新に笑っただけで、立ち止まりはしない。 「ほら、家に戻るですよ。今は大人しくお家で待っててくださいよ!」 老婆の前に立ち塞がった日暮が、両手を広げ進路を塞ぐ。そんな日暮に近づいていって、老婆は彼女の頭を撫でた。 「大丈夫。大丈夫だけんね」 なにが大丈夫なのか。そう問いたかったが、すでに老婆は日暮を追い越して、津波に向かう。 「ぱぱっとあたしたちがなんとかしますから。ちゃんと安全になってからじゃないと」 そう言いながら、日暮が追いすがる。老婆は嬉しそうに目を細めて、笑う。 「安全よ。あんたがたが守ってくれるんやろ?」 そう思うなら、大人しく後ろに居てくれればいいのに。 そう思ったが、嬉しそうな老婆の瞳を見てはなにも言えなかった。はぁ、とため息を吐いて、日暮は標識を肩に担いだ。これ以上、なにを言っても無駄だと察したのだ。 「おばあちゃんは孫世代の味方なんですから、大事な所では孫が守るですよ」 だから無茶はしないで、と日暮は老婆の隣に立った。 いつの間にか、日暮と老婆を囲むようにリベリスタ達が並んでいた。皆、一様に真剣な顔をして、泥の津波に向き合っている。 自分を守るために戦ってくれた若者たちを、慈愛に満ちた眼で見つめ老婆は微笑む。実は、小鳥遊だけは、かなりの高齢なのだが、見た目で判断できる筈もない。 うん、と頷いて老婆は、一歩前に出た。 「止まりなさい」 静かな声で、老婆は言う。 「今年は、身体の調子が悪くて遅れとるだけよ。稲はちゃんと植えるし、田も捨てんから、大人しくしなさい」 ピタリと、津波が止まった。それを見て、老婆は満足そうに頷く。 「捨てられると思ったんか? そんなわけないやろ? 戻り、田に……」 老婆の言葉に従ったのか、津波が引いていく。あぜ道に散った泥を回収しながら、少しずつ泥は田に戻っていった。 後に残されたのは、じっと身動きをしないまま老婆を見つめる泥田坊だけだった。 夏郷は、一歩前に出ると、泥田坊に銃口を向ける。万が一に備えて、老婆を守れるように、移動する。老婆は、すっと手を伸ばして夏郷の動きを制止する。 「大丈夫」 そう告げて、老婆はリベリスタ達に向き直った。 「誰か、終わりにしてくれんかな?」 そう訊ねる老婆。老婆の背後には、動きを止めた泥田坊の姿。 「じゃあ、私がいくか」 ブロードソードを上段に構えたカインが前へ出た。頼みます、と老婆は言う。 カインが前に出ると、泥田坊が腕を振りあげた。それに応じるように、カインが剣に気迫を込める。カインのオーラが、爆発的に高まっていった。 「なんで?」 と、ミュゼ―ヌが訊ねる。何故、戦闘を止めたはずの泥田坊が、戦闘態勢をとったのか、という疑問。恐らく、と言ったのは離宮院だった。 「やり辛くないように、という感じではないですか?」 あくまで、憶測。しかし、間違っていないような気がした。 カインがニヤリと笑う。 「よっしゃ、真剣勝負と行こうか!」 そう言って、地面を蹴って前へ。泥田坊が、腕を振り下ろす。 泥の腕と、カインの剣がぶつかって、辺りに衝撃が吹き荒れた。 泥の腕が弾け、剣が泥田坊本体に突き刺さった……。 ●後片づけ 泥田坊の残骸、泥の塊を夏郷が洗い流している。カインの剣が、突き刺さった直後、泥田坊の身体は一気に崩れ去った。今は、その後片づけの最中だ。 「家族と離れてくらすのは、寂しくないか?」 夏郷が、老婆にそう訊ねる。縁側に座ってお茶を啜りながら、老婆は首を横に振った。 そうか、と答え夏郷は後片づけに戻る。きっと老婆には、思い出があるから寂しくはないのだろう。なんとなく、そう思った。 思い出もなにもない夏郷にとって、それは少しだけ羨ましい、そんな気がする。 「姉よ。手伝ってはくれないか?」 田んぼ周りの草刈りをしていたラシャが、姉のカインに向かってそう訊ねる。一方のカインは、猫よろしく老婆の膝に頭を乗せてゴロゴロと喉を鳴らし、甘えていた。 「あたしたちは、働かないっす」 そう告げて、日暮は煎餅を齧り、お茶を啜る。 「………」 呆れたような顔で、ラシャはそんな2人を眺めていた。 はぁ、とため息を吐いて作業に戻る。そんなラシャの隣では、綿谷が田んぼの縁に座り込んでいた。 「おばあちゃんはいまでもあなたを大切に思ってますよ」 田に消えた泥田坊に、そう声をかける。返事はない。しかし、思いは伝わった筈だ。 「泥田坊は古来より田んぼを護っているという話もあります」 眼鏡の位置を直しながら、離宮院は言う。田んぼをじっと見つめ、なにか考える。 そんな離宮院を、老婆が優しい笑みを浮かべ眺めていた。 「ところで……」 ふいに老婆が、そう呟いた。 「あんた、羽が生えてなかったか?」 視線の先には、小鳥遊の姿。小鳥遊は引きつった笑みを浮かべ、視線を彷徨わせる。 「て、手品です」 なんとか絞りだした答えは、そんな無茶のあるものだった。 「スイカ切れましたけど」 民家の奥から、カットしたスイカを盆に並べ、ミュゼ―ヌがやって来た。老婆に、なにか手伝うことはありませんか? と、訊いたところ、それならスイカを切ってくれと頼まれたのだ。 うん、と頷いて老婆は田んぼの手伝いをしていたリベリスタ達に声をかける。 「戻っておいで。暑かろう? スイカ、食べよう」 優しい声音だ。 額の汗を拭って、夏郷が顔をあげる。 優しく頬笑む老婆の姿に、どこか懐かしいものを感じていた……。 「にゃァ……」 カインが、眠たそうな声をあげた。 田舎の田園風景に包まれた、穏やかな時間が過ぎていく……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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