●襲撃する者 屋上へと辿り着いた青年は、自分の後を確認した。 4体のE・アンデッドがそれぞれのやり方で続いてきたのを目に留め、小さく息を吐く。 「役に立つというのは分かるけど……気分のいいもんじゃないよね」 まあ、仕事だし仕方ないか。 呟きながら慎重に、周囲を警戒する。 遥かに下、ビルの1階の方では既に騒ぎが起こっていた。 他のE・アンデッドたちが襲撃を開始したのだろう。 「目的の品を手に入れて、さっさと退散と行きたいね」 青年は呟くと、屋上の施錠された扉の鍵を破壊してビルの中へと侵入する。 それに続くように、4体のE・アンデッドもビルへと侵入した。 ●守る者 「……ああ、そうか。迂闊だった」 すぐに思いつくべきなのに。 「どうしたんですか?」 「いや、何でもない。それより状況は」 「何とか持ち堪えてはいますけど……数は減らせていません」 「まあ、それはしかたないだろ」 申し訳なさそうにする青年に、男は苦笑してそう答えた。 実戦を経験していない者もいるのだ。 している者も、事前に情報を確認して準備を整えての任務が全ての筈である。 突然の出来事に、本来以上に消耗している事だろう。 かくいう自分も、支部が直接襲撃される等というのは初体験ではあるが。 (アンデッドの数は多数にも関わらず、外で騒ぎになっていない。しかも外部への連絡が取れないとなれば……) 何らかの目的があって計画された襲撃なのだろう。 (そこまで思いつけば、目的はアーティファクトと自然に出てくるだろ。普通) 男は内心で溜め息をついた。 何らかの見せしめならさっさと殺してから死体を痛めつけて放置するか、捕えてからいたぶった方が手軽である。 自分たちを足止めして、その間に……という所だろう。 「まあ、さっさと殺さないのは手駒が弱いせいもあるんだろうけど」 「はい?」 「いや、何でもない。とにかく交代だ」 「でも、さっきから牟田口さんは自分たちの倍以上……」 「事務の子たちは歳が近い方が安心できるだろ? 少しでも休ませてやってくれ」 そう言って男は部屋の隅で小さくなっている2人に視線を向けた。 神秘に対しての知識があるとはいえ、一般人である彼女たちの消耗は恐らく自分たちの比ではない。 「……連絡が取れないままなら、何とか引き付けて窓から逃げるか?」 あるいは……目的の品を手に入れれば、さっさと引いてくれるのか? (それもムシが良過ぎるか……) 「どちらにしても、あれを守るなんて状態じゃないな」 男はそう言って、もう一度溜め息をついた。 ●アーク 「あるリベリスタ組織が、エリューションの襲撃を受けます」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう言ってスクリーンに画像とデータを表示させた。 リベリスタ組織の名前は、日本イージス。 名前の通りほぼ全員がクロスイージスで構成されており、アークとも友好的な関係を築いている組織だ。 もちろん所属リベリスタの人数や実力等はアークに遠く及ばないが、数ヶ所に支部を持つくらいの規模はあるらしい。 「その組織の支部の1つに少し古めのビルがあるんですが、そちらにE・アンデッドたちが襲撃を仕掛けます」 それを皆さんに迎撃して欲しいんですとフォーチュナの少女は説明した。 ただの襲撃ではなく、そのアンデッドたちはフィクサードに率いられているようである。 「六道のフィクサードみたいですが、詳細は分かりません」 ただ、襲撃の目的はハッキリしているとマルガレーテは口にした。 「日本イージスが所持しているアーティファクトみたいなんです」 世界の守りと命名されているその品は、アザーバイドからの攻撃を弱める効果を持っているらしい。 「襲撃は支部にいるリベリスタたちが少ないタイミングを計って、通信等を妨害しながら行われるみたいです」 ビルの方は4階建てで、昇降手段は4階までの非常階段と屋上までの階段が1つずつ。 1階部分から多数のE・アンデッドが襲撃をしかけ、少し間を置いてフィクサード率いる少数のE・アンデッドたちが屋上から侵入するというのが敵の作戦のようだ。 「1階を襲撃するE・アンデッドは20体ほどいますが、全てフェーズ1ですので個々の戦闘力は大きくはありません」 逆に屋上から侵入するE・アンデッドたちはフェーズ2である事に加え、改造らしきものが施され戦闘力が高められているらしい。 襲撃が行われた時点で、ビル内にいる日本イージスのリベリスタの数は5人。 多くが実戦経験の少ない者ばかりなのだそうだ 事務等で働いている一般人もいるらしい。 「イージスの方たちはバリケード等を築いて堪えようとしますが、完全には抑え切れずに徐々に後退していきます」 皆が到着する頃には2階の1室に立て籠り、部屋入り口か廊下のバリケードで防戦をしているくらい。 「階段とかはアンデッドがうろついていて、フィクサードたちも屋上に到着した頃、くらいだと思います」 フィクサードたちは屋上の扉を破壊してビル内に入り、そのまま4階にある保管庫へと直行する。 放っておけば、アーティファクトは奪取されてしまうだろう。 「それを何とか阻止して頂きたいんです」 そう言ってマルガレーテは、スクリーンにフィクサード達のデータを表示させた。 屋上から侵入する戦力は、フィクサード1名と、E・アンデッド4体。 「フィクサードはナイトクリークらしいという事と、非戦スキルで面接着を使用しているという事以外は……分かりません」 ただ、E・アンデッド達よりは戦闘能力は高いと推測されるとフォーチュナの少女は説明した。 無論4体のE・アンデッドの方も、油断できない戦闘能力を持っている。 「……4体とも人型見たいです……基本」 1体目は、胴体に牙の生えた巨大な口がついている。 両腕で相手を押さえ、胴体の口で喰らいつくという攻撃を行ってくるようだ。 鋭い牙は対象を傷付け、多くの出血を強要する。 「2体目は皮膚の表面が硬化していて、防御力か高くなっています」 また、攻撃を受けるとダメージの一部を反射する能力も持っているようだ。 「3体目は、両腕の手首から先が……触手、みたいな感じになってます」 それらを振り回して攻撃したり、絡み付かせて動きを封じたりしてくるようである。 そして最後の4体目は、体が一回りほど小さいが動きがとても機敏らしい。 「両腕に鋭い鉤爪を生やしていて、それで戦闘を行います」 マルガレーテは説明を終えると、リベリスタたちを見回した。 「奪取の阻止が第一ですが、エリューションの撃破と日本イージスの皆さんの救出も……可能な限り、お願いします」 何かに使用する為の強奪となれば、防げなければ更なる被害の出る可能性がある。 だからといって、現れたエリューションや他のリベリスタ、一般人たちも放ってはおけない。 「色々と大変だとは思いますが、どうか宜しくお願いします」 マルガレーテはそう言って、リベリスタたちを見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月15日(月)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●作戦、開始 「何かを守りたい、そういうの嫌いじゃないです」 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)は呟いた。 肯定するように、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)も頷いてみせる。 心意気に相通じるものを感じたし、名前も悪くない。 (なら、所属は違っても彼らは仲間だ) 仲間の為に、自分にできる事を。 (アークとは違う組織といえど、同じリベリスタが危地にあるというのなら) 「微力ながらその助けに行きたいと思います」 静かに口にしたのち、『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)は今回の事件について考え込んだ。 「アーティファクトの奪取のためとは言え、かなり大規模ですね」 「けどドロボーなんて、やることが小せーなぁ」 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)はそう言ってから、首を傾げた。 「そもそも対アザーバイド専用のアーティファクトなんて一体何に使うってんだ?」 確かにと七海も頷いてみせる。 彼も疑問に感じたのだ。 (六道ってことは件のアーティファクトは別の使い道もあるのかな?) どちらにしても彼らの手に渡る事になれば、その先に待つ未来は決して良いものとは思えない。 「まぁ思い通りに盗らせるつもりはねーけどな、リベリスタ舐めんな!」 力強く、ヘキサは断言する。 既に襲撃は開始されているのだろうが、日本イージスのリベリスタたちはそれを懸命に防いでいる筈だ。 「失礼ながら組織の事は今まで存じ上げませんでしたが」 素晴らしい練度ですね、と。 明神 暖之介(BNE003353)は素直な感想を口にした。 (実戦経験の無い方もいらっしゃる中、この様な状況でもパニックになっていないとは……) (それを無駄にする事など出来ません) 「さあ、急いで参りましょう」 微笑めば、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)も急ぎつつ頷いてみせる。 「フィクサードの目論見は防いでみせる」 アーティファクト奪取を防ぎ、日本イージス所属者を救出する。 10人は急ぎ、日本イージスが借りているビルの近くへと到着した。 「最近、ゾンビを斬る機会が多いですね。夏場だからでしょうか?」 自称、那由他・エカテリーナ。 『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は、ビルを見上げながら何となく、思った事を呟いた。 (きって、ばらして、ばらまきたい所ですけど、今回はアーティファクトの確保と日本イージスの皆さんを助ける事が優先ですね) ここでリベリスタたちは3手に分かれる。 2階へ救援に向かう七海と疾風。 4階へ、アーティファクト防衛の為には……ビルの外側からは珍粘が、内側からは快、ウラジミール、京一、暖之介、ヘキサらが向かう。 『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)と『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)も、内側から4階を目指す。 作戦が開始され、10人は其々の意志の基、行動を開始した。 珍粘は面接着を使用して、ビルの壁面を駆け4階を目指す。 「ちわーっす、日本イージスの者でーす――今日だけ、臨時でな!」 一方、快も仲間たちと共にビルの1階へと侵入した。 2階からは戦いのものらしき音が、それに加えて声のようなものも聞こえてくる。 (アーティファクトのために狙われる組織か……これも力を持つもの宿命と言える) 「だが、そのような宿命に屈する事はない」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は静かに、口にした。 「任務を開始する」 ●4階の対峙 屋上の扉は既に壊されていた。 珍粘はそこからビル内へと侵入する。 そのまま階段を下り4階へ、保管庫へと向かおうとした所で、彼女は敵に気付いた。 「……ああ、嫌な予感はしてたんだけど」 ほぼ同時にフィクサードも彼女を発見し、残念そうに呟く。 機敏な動きでE・アンデッドの1体が彼女に迫った。 こうなると戦いは避けられない。 「今は貴方達の相手をしてる暇はないのですよ」 ギアを切り換えながら珍粘は何とか保管庫へと向かおうとするが、E・アンデッドは彼女と対峙するように位置を取り、それを許さない。 それでも少しずつ、守りを固めながら彼女は保管庫へと向かおうとする。 敵の妨害はしなければならない。 少なくともアーティファクトを奪われ逃げられるのだけは避けなければならないのだ。 一方でビル内から4階を目指した7人は、2階の階段付近でうろついているアンデッドと遭遇していた。 翼の加護を使用して可能な限り戦いを回避しようとしたものの、天井の高さから完全にアンデッドたちを避けることは難しい。 暖之介は道を切り開くためにと即座に攻撃を開始した。 「皆は急ぎ四階へいけ、自分も後から追いつく」 エリューションたちの動きを遮るように、ウラジミールが位置を取った。 追いかけて来ようとする1体に気の糸を放ち、暖之介がE・アンデッドの動きを封じこめる。 幸い階段付近をうろついているアンデッドのたちの数は少なく、囲まれる事態は避けられた。 最優先にすべきは4階への到達である。 ヘキサは翼の加護を利用してこじ開けられた道へと突っ込み、アンデッドを無視して上階を目指す。 快や京一、麻衣や星龍らもそのまま4階へと急行した。 その彼ら彼女らの耳に、途中から2階からのものではない戦いの音が響き始める。 京一は到着直後に詠唱によって福音を響かせ、味方、特に珍粘の負傷を回復させようとした。 快は移動しつつ周囲を見渡し、敵味方の状況を確認する。 ヘキサはフィクサードたちの先行を予想しつつ保管室へと急いだ。 そしてリベリスタたちは、保管室前の廊下でフィクサードと、E・アンデッドたちの姿を発見する。 珍粘との遭遇が、彼らの動きを僅かばかり遅くしたのだろう。 ヘキサが高速で距離を詰め、快も保管室の入口を押さえるべく前進する。 京一は再び翼の加護をその場の全員に施し、麻衣と星龍もスキルを使用して戦闘態勢を整えた。 少し離れた屋上への階段近くで戦っていた珍粘も、仲間たちの到着を察知する。 「来てくれましたね。待ちくたびれちゃいましたよ」 ずっと我慢してたんですから。 そう言って彼女は、笑みを浮かべながら付け加えた。 「やっと、このゾンビ達を斬れます」 ●救援へ 「状況は芳しく無いな」 千里眼を使用して2階の状況を確認してみた疾風は、短く呟いた。 そのまま2階窓からの突入を決意する。 いきなりインドラぶっぱだとフィクサード逃げるかもしれない。 (んー自分は突入どうするかな?) とりあえず、突入前に能力を使用して動体視力を強化して。 七海は疾風と共に、リベリスタたちの立て篭もる部屋へと突入した。 「アークだ。助けに来たぞ!」 2人の出現に、リベリスタたちも一般人の2人も驚きはしたものの、すぐに安堵を、喜びを、顔に浮かべる。 疾風はそのまま入口を守っている牟田口と代わるべく、部屋から廊下のバリケードへと向かった。 突然の登場にクロスイージスの中年は一瞬警戒するような表情を浮かべはしたものの、すぐに思い直し素直に感謝の言葉を述べる。 「蹴散らす! 変身!」 前衛へと立った疾風はアクセスファンタズムを起動させ、戦闘態勢を整えた。 青年はそのまま部屋の入口を背に、攻防自在の流水の如き構えを取る。 一方、戦闘態勢を整えていた七海はすぐさま正鵠鳴弦に矢を番えた。 そのまま部屋の入り口で敵を巻き込むか、翼の加護で飛び越えバリケードの向こうから狙っていくか? 疾風や日本イージスの人達に負担を掛けてしまいそうだが、そんなに頑丈じゃないという自覚もある。 (どっちが被弾少ないかな?) 考えかけて、七海はその思考を中断させた。 自分の仕事はまず2階の安全確保だ。 「多少の傷は覚悟してささっと片付けないと」 自身への適性を突き詰めた白黒の剛弓から、風切り音を響かせ矢が放たれる。 疾風も雷を拳と龍牙に纏わせ、取り囲もうとするアンデッドたちへと高速の連続攻撃を繰り出した。 2人がアンデッドたちへと猛攻を加える間に、日本イージスのリベリスタたちは牟田口の治療を終え、癒しの力で疾風と七海を援護し始める。 徐々に負傷が蓄積していた七海も、それで充分に持ち直した。 攻撃に関しては問題はない。 精確な狙いによって攻撃に本来以上の破壊力を持たせ、七海は確実にアンデッドたちを仕留めていく。 疾風も援護によって敵を抑え、復帰した牟田口と共にバリケードを完全に維持しながら、エリューションたちを次々と撃破していった。 力の供与も考えていた七海だったが、その必要は無さそうだった。 数が多かった為に多少時間は掛かったものの、2階のアンデッドたちの殲滅が完了する。 もっとも、これで終わりではない。 2人は短い説明を終えると、休む間もなく4階を目指して駆け出した。 ●戦局、徐々に 暖之介の後を追いかけるようにしてウラジミールも4階へと急ぐ。 E・アンデッドに攻撃を加え隙を見て蹴落とすと、彼はそのまま4階へと駆けこんだ。 「待たせたな」 淡々と口にしながら状況を確認する。 戦いはまだ始まったばかりという様子だった。 鋼鉄グラスホッパーの装備されたヘキサの足がアンデットの体を直撃し、不気味な音を立てさせる。 「蹴ッッッ飛ばすッ!!」 更にそこから、連続で回し蹴り。 一体に向かって確実に。激しさの中に、冷静さも宿して。 冷静さの内から、激しさを噴き出させて。 「強盗なんざ今更流行らねーんだよッ!」 思いっきり、蹴ッ飛ばす! その彼に匹敵する機敏さで、小柄なアンデッドは変わらず珍粘と対峙していた。 敵はギアを切り換え防御を重視した彼女であっても危険な状態に陥らせる程の戦闘能力を持っている。 とはいえ京一と麻衣の癒しによって状況は大きく変わっていた。 味方の到着をもって攻勢に転じた珍粘は、両手のブロードソードを幻惑するような軌道で振るい、そこから相手のウィークポントを狙うようにして鋭い斬撃を繰り出し続ける。 戦いつつ徐々に味方へと近付き、現在は完全に味方の回復圏内へと入ってはいるものの複数の敵を攻撃できる場所は取れていない。 「ここから先は通行止めです、お帰りはあちらですよ?」 そんな言葉を口にしながら、彼女は慎重に位置取りを行っていく。 総戦力であれば現状フィクサードの側に分があったが、2人の癒しによって戦況は膠着状態に陥りつつあった。 それが分かっているフィクサードの青年は何とか保管室へ向かおうとするものの、試みは暖之介によって阻まれる。 青年の放つ気の糸によって暖之介は動きを封じられはしても、麻衣や京一らによって拘束から逃れ男の動きを牽制し続けた。 快はフィクサードのフォローをしようとするE・アンデッドの一体、硬質な皮膚を持つ個体も引き付け、胴体に口を持つE・アンデッドと合わせて2体の攻撃を引き受ける。 挑発が効いているのかどうかは分からないが、とにかく耐える事が第一だ。 快は全身のエネルギーを防御に特化させ、完全なる防御態勢を整える。 「自分が相手をしよう」 全身を防御のオーラで覆ったウラジミールは、ヘキサの動きを封じようとする触手を持ったアンデッドと対峙した。 壮年は守る一方ではなくコンバットナイフに輝きを宿し切りつける事で、その動きを鈍らせる。 暖之介は高めた五感を活用してフィクサードの行動を常に観察しながら、黒のオーラを振るいつつ動きを封じる為に積極的に組み付きを試みていく。 刀儀陣を展開した京一は、麻衣と協力しながら回復に専念する形となっていた。 出来るだけ回復は任せ自分は間に合わない場合のみと考えていたものの、敵の攻撃の一部はかなり強力なようである。 加えて到着した時点で珍粘が痛手を負っていたのも大きかった。 もっとも、ウラジミールが到着し触手持ちと対峙した事で回復状況は大きく改善された。 ヘキサがE・アンデッドによって動きを封じられる可能性が無くなった為である。 聖神の息吹で浄化できない力に対し邪気を退ける神の光を生みだしていた京一が、麻衣と共に癒しの力をほぼ常に使えるようになった事は大きかった。 星龍の注いだ力によって業火を帯びた弾丸がワン・オブ・サウザンドから放たれ、確実にアンデッドたちの力を削いでいく。 もっとも、アンデッドたちはダメージが蓄積しようと気にする様子もなく攻撃を続けていた。 一体が快に組み付き、その胴の巨大な口を開いて牙を突き立てる。 一体は腕の触手を振るってウラジミールの動きを封じようとする。 硬質の皮膚を持つ一体も、快へと拳を固め殴りつけた。 ウラジミールは絶対者としての力で呪縛を退けるが、快は鋭い牙によって負傷する。 もっとも、受ける一方では済まさない。 その攻撃の一部を青年は全身を覆うエネルギーを利用して反射し、エリューションへと叩きつける。 クロスイージスたちが耐える間に、ヘキサは消耗を厭わず連続攻撃を放ち続けた。 「ぜってー逃がさねー!」 渾身の力を籠めた回し蹴りがE・アンデッドの胴体を抉る。 それが、止めとなった。 胴体を砕かれたアンデッドは触手を脈打たせながらビルの床に倒れ、動きを弱めていく。 「……やっぱりムリか」 舌打ちするようにフィクサードが呟いたのは、それだけが原因ではなかった。 階段から駆けあがってくる2つの足音も確認したのである。 呆気ないくらいに……といっても、戦況を考えれば妥当な判断と言えるかも知れない。 強引に突破するような動きを一瞬だけ見せて、フィクサードは一気に後退した。 E・アンデッドたちは足止めとしてそのまま戦わせ、自身は脱出を試みる。 それを追いかけるようにして暖之介が距離を詰めた。 それでも、放たれた気の糸の直撃を回避して、フィクサードはそのまま廊下のガラスを破って外へと飛び出す。 そして他の者たちがそちらに気を向けるのを妨害するように、アンデッドたちは珍粘や快に攻撃し、ウラジミールやヘキサらにも距離を詰めた。 到着した七海が弓を構え窓の外を確認するが、フィクサードの姿は射程の外に達してしまっている。 「相手を迎撃できるまで油断するな」 ウラジミールが皆に呼びかけ、リベリスタたちは残ったE・アンデッドたちに意識を集中した。 疾風と七海が加わり快も攻撃に参加した事で、攻撃力は大きく向上している。 然程間をおかずリベリスタたちは、エリューションの殲滅を完了した。 ●任務、完了 「お疲れ様でした」 相手ができるだけ落ち着けるようにと配慮する。 暖之介は穏やかな態度で、日本イージスの者たちへと話しかけた。 イーグルアイを使用してビル内以外にも外壁を含めた周囲を調べたウラジミールは念の為に許可を得て保管庫内部も確認し、問題がない事を確認する。 「任務完了だ」 敵が撤退したと判断すると確認するように彼は口にした。 牟田口は感謝を述べた後、一人一人に丁寧に礼を述べた。 他の者たちも安堵した様子で、ありがとうございましたと頭を下げる。 安心から涙ぐむ者もいた。 「これからもアークと仲良くして下さいっね。あはー」 珍粘はフレンドリーに挨拶したものの、実践が初めての少女などはそういった余裕のある態度に敬意のような視線を向ける。 疾風は疲れた様子の一般人たちの体調を心配したが、2人は幸いというべきか緊急は要さない状態らしかった。 通信機能等も復帰したようで、牟田口がすぐに連絡をし、電話口で再びリベリスタたちに感謝の言葉が始まる。 もっとも、状況も考慮し後日改めてと話はすぐに終了した。 「後は多分アークが何とかしてくれますよね?」 (結構2階派手に壊れるだろうし……まあ内装はどうしもないだろうけど後片付けして帰らないと) 七海はそんな心配をしたものの、助けてもらった上にそこまでしてもらってはと申し訳なさそうに言われたので、後片付けを諦めた。 (ネットスーパーとかしてるのかな? 贔屓にしないと) 帰ったら調べてみようかと頭の片隅に留めておく。 牟田口に状況等の報告をした快は、心当たり等を尋ねてみた。 (まさかこいつも『セリエバ』関連じゃないだろうな……) 珍粘も敵の正体や目的の見当がつけばと聞いてみるが、牟田口は見当もつかないと申し訳なさそうに口にする。 快はフィクサードの姿を思い返したものの、見覚えは無いような…… そこでふと、彼は気付いた。 かつて、自分がある依頼で目撃した研究者の近くにいたフィクサードに似ていなかっただろうか? 「だとしたら……」 口から零れそうになった不安を、快は呑み込んだ。 大丈夫だ。 アークならば、この仲間たちとならば……きっと。 誓うように、ちいさく呟いて。 青年は拳を握り締めた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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