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この灰色の世界に彩りを!

●無数の
『彼』は溢れる情報に驚愕していた。
 どこを向いても洪水のように溢れるそれ。
 下手すると自らも飲まれてしまいそうであったが、悪くない事だと思った。
 見上げた先に遮るものはなく、ただ生き物らしい何かが横切る。

 ああ、その小さな生き物でさえ、自分よりも溢れる無数の情報を持っていた!
 
『彼』は感動し、自らが踏み締める大地を見下ろす。
 そこから伸びるものは、生命力そのもののような情報を持っていた。
 恐る恐る手を伸ばしてみる、千切ってみる。
 柔らかい。
 少しだけ迷って、『彼』はそれを飲み込んでみた。
 毒ならばそれでも構わない、そんな心で。
 味は苦い。が、決して悪い物ではなかった。

 おまけに『彼』は、自分の足先が先程飲み込んだものと同じ色に、ゆっくりと変わっているのに気付いた。
 幻か、と凝視するが紛れもなくそれは自分の足。
 何の面白みもないはずのそれが、確かに生命力に溢れた情報を宿していた。
 奇跡、と呼ぶのだろう。
 もしこの情報を、そして他の多くをも、この身に取り込むことが出来たなら。

 ああ、なんて素晴らしい事だろう!

『彼』は新たな感動に打ち震え、そして――また、草を千切った。

●貴方の色に染まります
「アザーバイドを追い返して。可能なら穏便に」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタにそう告げた。
「形は……デフォルメした人間の絵みたい。サッカーボールに短い丸太をつけて、ロールケーキの手足をつけた感じ、で分かる? 背丈はそんなに高くない。80cmくらい」
 モニターに映ったのは、イヴが『視た』映像。
 確かにふっくらした棒人間のようなものがぴょいこらぴょいこら跳ねている。
「彼の住む世界は、一言でいえばモノクロ世界。無彩色しかない。彼自身も薄い灰色。
 だからこっちの世界で様々な色を見てすごく喜んでる」
 イヴの説明の最中、モニターの彼は唐突に屈みこみ、草を千切って食べた。

 いや、多分食べたのだろう。
 目も鼻も口もないが、彼が……そういえば指もないのに器用に千切っていたので、その辺りは気にしないのが吉なのかも知れない。
 ともかく、彼が手に持った草を顔に押し付けるようにした所、草が消えたので多分食べたのだ。
 そして、どうやら慄くような仕草をした後――彼はまた草を千切って食べた。
 何とも言えない顔をするリベリスタに、フォーチュナの少女は彼の行動を補足する。
「構造は全く分からないけれど、彼は植物を食べる事によって『色』を自分の体に蓄えるみたい。
 初めて見た『色』を取り込む事ができて、彼はすごくすごく喜んでる。
 多分、放っておいても周辺の草とかを食べ尽くして満足して帰ると思う」
 なら、行う事は彼が帰還した後にホールを閉じる事ではなかろうか。
 そう言いたげなリベリスタに、今度はイヴが何とも微妙な顔をした。

「ただ、そこ。稀少植物が群生してる場所なの」

 ああ。
 それはまずいですね。自然保護の観点から。
 世界や人命に即座に関わる事ではなくとも、ないに越した事はない、という被害である。
「この『彼』自身は友好的。攻撃手段も持たない、こちらで言う一般人のようなもの。
 ただ、言葉は通じないし、生活様式も違うだろうからジェスチャーも通じるか微妙」
 胸の前でバツ、と腕をクロスさせたイヴは首を振る。
「殺すのは凄く簡単。戦闘能力はほぼないに等しい。これは未来の映像だから、あなた達が着く頃は、丁度彼がホールから出て来る所だと思う。……だから、実力で排除するのも簡単」
 けれど、害も少ないのだから、あの場所の植物以外で満足して帰って貰うのもいいんじゃないか、と少女は言った。
 交通手段はアークが手配、ちょっとした旅行気分で構わない、とも。

「あ、でも、さすがに沢山で来られたら困る。帰る前にホールは閉じておいて」
 という付け加えは忘れずに。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月01日(水)00:21
 異世界コミュニケーション。黒歌鳥です。

●目標
 アザーバイドの返還、もしくは討伐。
 穏便にとは言いましたが、最終的に存在をこの世界から消せば問題ありません。

●状況
 そこそこに整備された湿原公園。
 若干山奥にあるのと、開花時期が少し前だったのとで観光客の姿はまばらです。
『彼』がいる場所は、観覧ルートから外れ、茂みを抜けた先にあるちょっとした広場です。
 あまり派手なことをしなければ、一般人に気付かれる心配はないと思って構いません。
 細かい事はあまり気にしなくて結構です。

●敵?
 ・アザーバイド
 ふっくらした棒人間のような形状です。
 少々臆病ですが好奇心は旺盛。攻撃手段は持ちません。
 知能はありますが言葉は通じません。
 ジェスチャーは大袈裟にやれば簡単なものは通じるかも知れませんが、複雑なものは無理です。

 色の付いたものを食べる事で自分の内部にその色を蓄える事が出来ます。
『彼』に何か与える場合、持ち込む物品はプレイングで指定して下されば大丈夫です。
 全身カラフルにするのが目標の様子です。
 目標を達成した場合、仲間に見せる為に大喜びで帰ります。速攻で。
 目安としては小さめのリュックサック1つ分くらい何かあれば充分です。
 良ければ好きな様に染めてあげて下さい。
 でも穏便に行きたい場合、食べられない物とか毒物は止めてあげて下さい。
 倒す場合は皆さんが全力で殴ったらすぐ死にます。呆気ないです。
 その時はホールを閉じて和やかに公園内を楽しんで下さい。

●備考
 稀少植物の開花時期は終わってしまいましたが、当日は晴れていて涼しい風の吹く良い天気です。
 遠足的にお弁当とか飲食物の持ち込みは可なのでのんびりして下さい。
 ゴミは持ち帰りましょう。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
覇界闘士
宮藤・玲(BNE001008)
スターサジタリー
八文字・スケキヨ(BNE001515)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
マグメイガス
イーゼリット・イシュター(BNE001996)
クロスイージス
キャプテン・ガガーリン(BNE002315)
覇界闘士
後鳥羽 咲逢子(BNE002453)
■サポート参加者 4人■
覇界闘士
アナスタシア・カシミィル(BNE000102)
デュランダル
桜小路・静(BNE000915)
ナイトクリーク
アルカナ・ネーティア(BNE001393)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)

●今日は楽しい遠足です
 暖かな日差し、爽やかな風、溢れる緑に土の香。
「ふん、どんなアザーバイドだって私の接待でご機嫌で帰ってもらうさ!」
『ぷしゅうううううううううううう』後鳥羽 咲逢子(BNE002453) が自信満々で拳を握った。持ち物は、おにぎりハンカチはなかみクレヨンスケッチブック、忘れちゃいけないお菓子は300円まで。遠足のしおりまで人数分自作してしまう程に気合が入っている。
「何、問題ない。現役の頃はよく未知の存在との対話の訓練はしたものだ」
 これだけ聞けば冗談かと思う『地球・ビューティフル』キャプテン・ガガーリン(BNE002315)の言葉だが、多分彼は常時本気だ。少なくとも地球への溢れる愛は本物だ。今日も未知の存在に地球の素晴らしさと美しさを理解して貰う、という目的達成への意欲に満ちている。

 咲逢子やキャプテンだけではない、ここに集った総計十二名のリベリスタ達は、異界の存在であるアザーバイドに友好的接触を試みるのを第一目標に掲げていた。

 上位の存在であるアザーバイドは強力であり、また根本的な差異から敵対する場合が多いが、今回は力は微弱であり、性格も穏健。とすれば、力技ではない解決法も取れるはず。何より上手くいけば夢がある。
「あれがそうかな?」
 そんな思いを秘めて、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が先を示した。リベリスタ達が当たりを付けた広場の端の風景が、不自然な形に歪み、硝子に描かれた絵の如く割れた。
同時に。

 ぽてり。

 擬音を付けるならそんな感じで、何かが落ちてくる。
「わ、本当に灰色だね……!」
 普段より声量を小さくして『天翔る幼き蒼狼』宮藤・玲(BNE001008) が感嘆の声を上げた。青の目は素直な好奇心に満ちていたが、『彼』を驚かせないよう、という気遣いから今はじっと様子を見守るに留まっている。
 単純に言うなら『orz』の状態で『彼』は突如として変わった風景に驚いているかのように周囲を見回した。多分見回した。目はないけど。
 そろりと起き上がり、一歩踏み出した『彼』が立てた物音に雀数羽が飛び立った。見上げた空に、視線を縫いとめられたかのように彼は止まる。しばしの間の後、屈みこんだ彼はぷちりと草を千切って食べて戦いた。イヴの視た通り。ちなみに今『彼』が食べたのは、この時期わさわさ生い茂るシロツメクサの葉だから大丈夫だ。あまり美味しくないぞあの葉っぱ。それはともかく。

 ――頃合だろう。
 次の草に手を伸ばそうとした彼の前に、リベリスタ達は姿を現した。

●分かり合う為に1
 まず『彼』の前に歩み出たのは、『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129) と『ストレンジ』八文字・スケキヨ(BNE001515)の身長差コンビ。揃って両手を広げ、武器や敵意のない事をアピールすべくゆっくりと距離を縮める。
 現れた存在に驚いたのか『彼』は慌てて近くの木の陰へと身を潜めた。完璧にバレバレなのだが、その辺りは気付いていないのかこちらを窺う仕草をしている。
「大丈夫だよ、出てきて欲しいな」
 理解して貰えないのは知っていても、その様子に思わずスケキヨは声をかける。壁の上に座っている猫においでおいでと声を掛けてしまうあの感覚。猫なら環境によっては何となく理解して貰えるかも知れないが、今回の『彼』は住む世界が違うのだ。ちょっとした切なさともどかしさ。
「……テレパスでも使った方が楽かも知れぬ」
 なかなか動かない状況に早々に痺れを切らした瑠琵の言葉に、待ってましたとばかりに『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)が微笑んで手を挙げる。二人の間を抜け、そそっと近付くと『彼』を見て、笑顔と共に思念を送る。

 ――はじめまして。
 
 挨拶に対する返答は、言葉としてではなく意思として伝わって来た。
 彼の発する意味は読み取れるのだが、言語として形を成さない。『柔らかい』のは分かるのだが、それが『ふわふわ』なのか『ふかふか』なのか、はたまた『ぐにゃり』や『とろり』なのか言い表せないような。やはり一種のもどかしさも覚える感覚ではあったが、少なくとも沙希は彼の返答を受け取った。
 それは怯えが大半を占める警戒。
 見知らぬ場所で自分よりも巨大な生き物が現れたのだから、当然とも言えよう。
 だから沙希は伝える。自分達に敵意はなく、共に時間を過ごしたいだけだという事を。
 隣でスケキヨがクーラーボックスからぶどうを出し、瑠琵も黄色のパプリカを両手に掲げた。
 やはり刺激しないように合流した疾風も真っ赤なトマトを示してみる。
 ――ご一緒に、いかがです?

 沙希の目配せに、それぞれが手に持ったものを齧った。毒ではない、と教える為に。
 次いで差し出されたそれらに、『彼』がそっと木の陰から身を表す。
 近付いてきた『彼』に三つの手がそれぞれ食べ物を乗せ――そして彼は、色を三色増やした。
「ファーストコンタクト成功、じゃな」
 頷く瑠琵の視線の先、『彼』の警戒が薄れたのを感じ、沙希は微笑んだ。
 ――何か伝えたいことがあったら、私に言って下さいね。
 不自由ながらも始まったコミュニケーションの架け橋となる為に。

●分かり合う為に2
 合流した『彼』は、物陰で様子を窺いつつ準備を整えていたリベリスタ達に迎えられた。
「あ、皆、こっちだよ!」
「よー、いらっしゃい」
 敷物の上に玲と『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)が座り、『彼』を手招く。紅茶を準備する玲の傍ら、『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)もお弁当を広げた。
『彼』に合わせた果物や野菜中心の色鮮やかなお弁当。世界にはこれだけの色が溢れているのだ、と改めて理解できる。
『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)が製作したのはモルのキャラ弁にオムライス。『彼』でなくとも心が弾むお弁当。炭水化物多い? 他のメンバーが野菜中心なので全体のバランスとしては丁度良い位です。お米大事。
「ん? 気になるかなぁ?」
 自身の髪を揺らしてみると、興味深げに共に上下する『彼』の頭。そも頭髪自体が『彼』にはないので、色彩と相俟って不思議なのだろう。しかし目の前の生き物の一部というのは分かっているようで、スケキヨの髪も含めて齧りついたりはしなかった。
 ただ、サングラスは『彼』が目という器官を有していなかったせいで危うく食べ物と誤認される所であった。
「それは駄目だよぅ!」
「おいしくないわよ。食べられないの」
 しかしそれも、全力で首を振り、目の前でバツを描いたイーゼリットとアナスタシアによって留められる。『彼』も端を齧ってこれは駄目だ、と判断したらしく、食べられない事実と目の前の生き物の動きはどうやら繋がった様子だった。

『駄目』を理解した事で、少なくともコミュニケーションは飛躍的に楽になったと言えよう。
「これも食べるといいのじゃ」
『彼』を自らの色に染めようと画策する瑠琵は、切ったばかりのきゅうりを差し出す。彼女が準備した野菜の領収書の宛先は時村室長こと沙織ちゃん。瑠琵自身も由緒有る家の当主なのだがそれはそれ、これはこれ。経費で落ちるものなら落とす。家を預かるものとして時には強かさも必要である。
「おいしいじゃろぅ?」
 自身はマヨネーズを付けてきゅうりを齧りながら瑠琵は首を傾げる。食器も食べてしまうのでは、という彼女の心配は『駄目』が通じるようになった結果的に杞憂となったが、充分良い案であっただろう。ゴミも減る。見事なエコ。

「こうすると……ほら。真っ赤だろう?」
『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406) が持ち込んだスイカも、『彼』の興味を強く惹いた様子だった。うっかり皮まで『彼』は齧ってしまったが、漬物にする地域もあるのだから食べても問題はない。アウラール自身もスイカをしゃくしゃくと食べながら笑う。
 顔にスマイルを描こうかと思っていたアウラールだが、どうやら『彼』は顔全体が感覚器官に近いらしく、インクからは少し逃げるような仕草を見せたので止めておいた。とはいえ、少し興奮しているような調子でぱたぱた動く『彼』を見ていれば自然と笑顔が浮かんでくる。

 実に平和な午後の始まりだった。

●分かり合うために3
 自然な色彩とは対極に位置する色合いもまた、地球の色であった。
「ほら、綺麗だよね?」
 スケキヨが見せた粉サイダーが弾ける音と共に表したのは鮮やかな緑。体に悪そうだという考えなどすっ飛ばして子供を魅了して止まない駄菓子の数々は、『彼』にも魅力的だったらしく、反応は上々。スケキヨの手から心なしか嬉しそうに受け取って、己の色に加えていった。

 駄菓子とは別の方向性で準備をしたのは、キャプテン。
「思う存分食べる喜びと色彩を手に入れたまえ」
 ちなみに彼が想定していた着色料大量の生野菜は税関を通らなかったので、代案としてベジタブルケーキになった。ほうれん草のケーキは正に青々。緑を青と表現するのは、『青信号』や『青菜』などの例で理解して頂けると思うが、そういう慣用表現ではなくマジ青。
 鮮やかなスカイブルー。イーゼリットが記憶の中の空で留めて貰おうとした色が今ここに。
 少々毒々し、もとい鮮やか過ぎるように思えるそれもユナイテッドステイツ基準なら何も問題はない。キャプテンいい笑顔だし。『彼』も嬉しそうだし。いいのだ。うん。

「この色は不味いのかの? 美味いのかの?」
 ゼリービーンズを渡して見詰める『有翼の暗殺者』アルカナ・ネーティア(BNE001393)だが、まとめて食べられてしまってはよく分からない。ならば。
「ほれ、あーんなのじゃ」
 赤いビーンズを人間で言う口の辺りに差し出して、食べるのを待つ。自分に差し出されたものだというのを理解したのか『彼』はそれに顔を近付けた。アルカナの手には柔らかい粘土に押し込んだような感触が伝わって来る。次は黄色のビーンズをあーん。
「どちらが美味いかの?」
 片手にそれぞれの色を持って再び問う。『彼』は少し迷う様子を見せて、両方食べた。それだと分からぬのう、とアルカナは目を細めて笑う。

「ほら、格好いいだろう!」
 咲逢子の絵は、描かれたのが自分だと教えられて何となく理解したらしい。捲る度に動くそれを『彼』は隣で食い付く様に眺めている。端っこをちょっと齧るのは一頁目で通過した道なので二度はやっていない。スケッチブックより渡されたチョコレートの方が美味しいのは共通だった。
 咲逢子の絵を見て『彼』が示そうとしたものをハイテレパスで受け取り、沙希が持っていたスケッチブックに描く。だがそれは、何と言うか。頑張って言語化するならば、ぎゅりっとしてしゃーっとしてひゅん、みたいな。
 沙希の絵が下手だと言うわけではなく、『彼』の示したいものがそれなのだ。何か表したかったらしいが、詳細は不明だ。異文化難しい。
 けれど、少なくとも悪いものではない、と『彼』の思念から受け取った沙希は、お返し代わりに持ってきたフルーツポンチをスプーンに載せて『彼』に運ぶ。もしかしたら、あれは『彼』にとっての感謝の表現であったのかも知れない、と思いながら。

 沢山の色彩を口にしていき、『彼』の容量も一杯になってきたらしい。
 今の『彼』は、色とりどりの砂を順々に頭から足先まで何層も重ねたような状態になっている。
 色合いは本当に様々であったが、逆に多い事で調和しているとも言えた。
 ぴょいこらぴょいこら跳ねる『彼』は全身で喜びを表現しているようにも見える。ホールのほうを振り返った『彼』に、そろそろか、とリベリスタは理解する。

「はい、どうぞ!」
「あ、こっちの外側は食べちゃ駄目だからな」
 すかさず玲が自宅の薔薇を抱えて彼の前に差し出し、静は同じく準備していたランドセルとその中の果物を示して『彼』に背負わせた。
 ランドセルの後ろには、アウラールが『彼』の顔に描こうとしていたスマイルが輝いている。
『彼』が速攻で帰ってしまったなら静は自分で背負って帰る気だったが、これなら大丈夫だろう。ランドセルを背負う十七歳も少し見たかったとかは言わない。
「さよなら、ね」
 イーゼリットが差し出した絵葉書は、咲逢子の絵と同じく『食べてはいけないもの』であると認識したらしい。この場所の風景である事まで理解できたかは分からないが、少なくともこの世界である事が分かれば良いのだ。この世界を思い出すことは、即ちこの時間を思い出す事に繋がるから。
 色々なものを抱え、どうしたら良いのか分からないかのようにホールとリベリスタを交互に見る『彼』に、幾人かが頷いて見せる。先程までの間に、その仕草は『良い』を示すのだと知った『彼』は歩き出した。
 ホールに入る前、スケキヨが手を振るのを見た『彼』は、同じ仕草を返して――元の世界へと、帰っていった。綺麗な虹色で。

●帰るまでが遠足です
 帰還は見届けたが、まだ日は高い。
 気候と食べ物に加え達成感を友としたリベリスタは思い思いに寛いでいた。
「良い景色だねえ」
「そうね、たまには休日もいいんじゃない?」
 一仕事終えた後のビールを片手に疾風が笑えば、サンドイッチを食むイーゼリットが頷く。血腥い悲劇に出会う事が多いリベリスタではあるが、こういった休養も時には必要であろう。ブレイクゲートで閉じたばかりのホールを眺めながら疾風は首を傾げる。
「あのアザーバイドも楽しんだのかな?」
「多分ね。良い思い出にはなったと思う」
 お互いに気持ちを伝えたいと努力しあった。不完全であったとしても、それはきっと何よりの体験。彼の世界であの色彩は輝くだろうか。元の世界で仲間と分け合えただろうか。確かめられないそれに思いを馳せて、イーゼリットと疾風は青い空を見上げた。

「静さん、紅茶のおかわりは?」
「あ、うん、ありがとう玲。ええと……このスコーンもうまいよ」
「ありがとう。さっき渡したのと同じ薔薇のジャムが入ってるんだ」
 はにかみながら告げる静に玲が寄り添う。お互いに頑張ったね、と囁く恋人達に注ぐ五月の日差しは柔らかい。それを見ながら、今日は一緒ではない恋人を想いアナスタシアも微笑んだ。

「ふふん、私は他のヤツらと違って遊び気分ではないぞ!」
 胸を張った咲逢子は、公園内のコースに従いさくさくと軽快に歩いている。立ててある花や木々についての説明プレートを読むのも忘れない。だって訓練された遠足だもの。すれ違ったおばあちゃんに姿勢がいいねえと黒飴も貰った。完璧だ。

 そして一人、せっせとゴミを拾う姿。
「来た時よりも美しく。それは美しすぎるこの地球を未来に残すことに繋がるのだよ」
 額の汗を拭い、少し美しくなったように感じる公園を見渡しキャプテンは笑う。

 異界の存在を一瞬だけ受け入れた公園は、変わらず美しく――無数の色に満ちていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 普段よりもフリーダムな感じでお送りしました。
 想定以上に色々気遣って頂いて入りきらなかった分もありますが、その分の気持ちも全部頂いて『彼』は帰りました。
 多分元の世界で凄い人気者になると思います。
『彼』だけでなく皆様にも楽しんで頂けたならば幸いです。
 お疲れ様でした。