● それは一人の男によって描かれた一冊の本。 綴られた羊皮紙に描かれたのは数十の悪魔や災害や魔神の姿。 男はその一枚一枚に己の血を原料とした絵の具を使った。それはただ単に紅い絵の具が足りなかったせいなのか、それとも自らが描く絵に相応しきは己の血だと考えたのか、何があったのかはわからないがそれは今となっては些細な謎だ。 そうして男の狂気を存分に塗りこまれた本は革醒し、本物の魔術書へと昇華された。 長い年月が経た御蔭で綴っていた紐は千切れ、頁は一枚一枚バラバラになってしまったが、それでもその魔術書から神秘の力が抜け落ちることはなかった。 アーティファクトとなった其れは闇の世界において術の媒介として術者の中では垂涎の一品となっている。 それは世界へと災厄をまき散らす男からの不幸の手紙。 本の名前は、「紅い闇夜」。血塗られた夜を実現させる一冊のグリモワール。 ● 「来い!」 俺のスペルに反応して手にしているアーティファクトが輝く。 その光が強くなるのに比例してその場の温度がグングンと下降していき、最後に空間を灼く程の光が溢れた後に、一人の美女が空間に佇んでいた。 彼女がその場に居るだけで熱帯夜にも関わらず吐く息が白くなるほど空気が冷えている。 「ハハ、ハハ、コイツァすげぇや!」 たまたま手に入れたアーティファクトの効果を実感して興奮する。 これさえあれば負ける気はしない。デッカイことが出来る筈だ。 ● 「今回の任務は、アーティファクトの回収」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が取り出したのはA4サイズのコピー用紙。印刷されているのは氷を操る美しい女性の悪魔の姿が描かれた羊皮紙の写真だ。 「これがアーティファクト、正確にはその一部。効果は描かれた絵の現実化」 それすなわち、この氷を操る悪魔がフィクサードの手下になっているということに他ならない。 「対処法は?」 一人のリベリスタの問いにイヴは答える。 「召喚されている悪魔を倒して、アーティファクトを回収すること」 一度倒してしまえば、再び召喚が行われるまではただの絵が描かれた羊皮紙ということらしい。 「もし、羊皮紙に戻ってもまた召喚されたらノーダメージ状態で復活するから、気をつけてね」 術者さえ無事であれば何度でも戦えるということか。 「是によって呼び出される悪魔はとても強力。だけど、このまま放っておくと持ち主のフィクサードは近いうちに街中でこの悪魔を召喚する」 それによって起こるのはこのアーティファクトの大本の本、その題名に恥じぬ惨劇の一夜。 「そんな事件は絶対に防がないといけないから、お願いね。皆なら勝てるって信じてるから」 そう言って、イヴはリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:吉都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月22日(日)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 明けない梅雨、夏の入り。 不快指数の高さはピカイチで立っているだけで汗ばむような天候の中『第14代目』涼羽・ライコウ(BNE002867)を初めとした8人のリベリスタはまるで今が冬であるかのような格好をしている。 無論、これは酔狂な我慢大会などではない、これから戦うフィクサード。もっと言ってしまえばそのフィクサードが所有するアーティファクトの能力への対抗策だ。 アーティファクト名、『氷の女王』。予報によると真夏の街中にあって冬を顕現させるほどのアーティファクトである。 「厄介ですよね……1枚で大きな力を発揮し、しかも再利用が可能なんですから」 『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)のその言葉に反応したのは『』リリィ・アルトリューゼ・シェフィールド(BNE003631)だ。 物語の魔法使いもかくやというような格好をしている(もちろん防寒をした上で)彼女は魔法的な力を宿すアーティファクトに大きな興味を抱いているようで。 「良いアーティファクトよね……物凄く欲しいわ。 何とか頂けないものかしら……アークで回収するのよね」 その口調はどことなく危険な香りが漂っていたがそれは些細なことだろう。 「私はその出自の方が気になりますね。ちょっと知らべてみたいところです」 『空中楼閣』緋桐 芙蓉(BNE003782)もリリィと方向性の違いこそあれど今回の対象であるアーティファクトには興味をそそられる様だ。 「まぁ、そのあたりは回収してから考えましょう」 『』雪白 桐(BNE000185)が扉に手を掛けながらいう。 恐らくこの扉を開ければそこには戦いが待っていることを知りながら、彼女は何の躊躇いもなくその扉を押し開いた。 ● ――涼しい。 それがリベリスタ達の感想だった。 周囲がコンクリートの壁に囲まれていなければ雪山の真っただ中。そう言われても信じられるような空気の質だ。 そして次に見つけたのは広間の中央に立つ一人の男。 「よくきたな」 リベリスタ達と視線を合わせるのと同時に男はその口元を皮肉げに歪めながら言葉をなげる。 その様子には自分を討つためにアジトに侵入者があったことなど微塵も気にしていないように見える。 それは彼が自分の実力の高さを確信しているからなのか、それとも――。 「随分御大層で役に立つモノを拾ったようで」 モノを拾うということに何やら一家言ある『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)が上からともとれるような発言をする。 確かに彼が今回の予知に引っかかったのはこのフィクサードの男が強力なアーティファクトを手に入れたからだ。彼自身の実力はそれなりのようだが特に危険視されたということはなかった。 「あ? んだお前」 言外に自分を眼中に無いと言われて皮肉めいた悪役を演じていられるほど男は大人ではなかったようだ。苛立ちを含んだ返答が返ってくる。 だが小路はめんどくさそうに自分のお眼鏡に適ったガラクタであるところの交通標識を担ぎながらため息をつく。 「貴方がそのアーティファクトを変に使おうとするから私が面倒事に巻き込まれるんです。ああ、めんどくさい」 気負いなく、というよりも本当に心の底から面倒そうなそのセリフは今から戦いが始まる前の物とは思えない。 「さっさとその御自慢のアーティファクトを使っちゃってくださいよ」 だらりとしたその構えは脱力。そこからは気負いなど欠片も感じられない。表情は面倒くさそうだが彼女は確実に戦闘へのスイッチを入れていた。 「へっ、てめぇこそ大した自信じゃねぇか。 だが、これを見て公開するなよ。―――行くぜっ」 男が手にしたのは外見上はただの一枚の紙。だがそれは周囲の空間をギチギチと歪め始める。その歪みが世界に傷を作りながら光を放つ。 「来いっ」 氷が割れるような澄んだ音が響き、広間のリベリスタとフィクサードの中間の位置に一人の女性が降りたった。 絵であるからこそ出来る完成され過ぎて現実味を帯びぬ美を持った一人の、否、一体の悪魔。 だがそれに対する『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)の評価は辛辣だ。 「氷の女王は紛い物にしてはよく出来ていますね」 万が一そんなことがあってはいけないがもし街中を歩けば10人が10人振り返るような美貌を持つ女王へのともすれば彼女が放つ冷気以上に冷たく、素っ気なくモニカが言い放つ。 モニカが思い出すのはかつて戦ったまさに『本物』の氷の女王。 大自然の脅威を凝縮したようであった本物に比べれば今自分の目の前にいる女王が幾分かスケールが小さく見えてしまうのも致し方ないだろう。 そのモニカの言葉が通じたかどうかはわからないが、氷の女王が滑るように動き始めた。 ● 「―――っ!」 「私の速さについてこれるかしら?」 この場で一番早く動き始めたのは女王だ。しかし、この場で最も速く動いたのはリリィだった。 ステップのような軽やかな動きなのに彼女の体は素早く移動し、前に立つ仲間を斜線から外す。 「責め苦の四重奏、とくとその身に受けなさい!」 そこからのスキルの発動ですらリリィは素早かった。 同じマグメイガスである男よりも圧倒的な早さで彼女は術式を展開する。放たれた4本の鎖は男の体を覆う。 「グ……あ……」 男に巻き付いた鎖はそれぞれ個別の腕のように動き、それぞれ個別の苦しさを味あわせている筈だ。 膝をつく男を視界に収めながら動いたのは『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)だ。彼女は女王に向って片手を出して。 「さぁ、僕と踊って貰おうか」 指先から数十本の糸が飛び出る。 それは動き始めた女王を強制的に掌の上で踊るマリオネットにする操り糸だ。 此処でこの女王を止めることができれば他の仲間がより楽になる。そう考えての影時のブロックだ。 だがそう理想通りに行ってくれるほど、この悪魔は甘くはない。 「――――!」 即座に女王は両手に鋭い刃物状の氷を生み出し、それを振るう。 「予想はしていたけど、簡単には踊ってくれないみたいだね」 影時は少しだけ歯噛みする。自分の手に返ってきたのは数本を残して糸が全て切られた感覚だ。何本かの糸は多少なりともダメージを与えているが全ての糸を使って拘束はできなかった。 だが、固まっている後衛に近付こうと動いていた女王はブロックされ、そこでストップすることを強制されていた。それによって女王は単純に遠距離攻撃を選んだ。 「―――」 女王の手の動きに合わせて虚空に氷塊が出現する。瞬く間に大きくなったそれは女王が指差した芙蓉へ向かって飛翔する。 「きゃぁっ」 芙蓉は持ち前の優れた反射神経を生かし弾丸の通り道から体をそらそうとしたが間に合わず氷塊が体に突き刺さる。 肺の中にある空気が思いきり押し出される。衝撃に一瞬感覚が捕らわれる。それだけで一撃としては十分な一撃だが、的確に芙蓉の体を捕らえた氷弾は芙蓉の服を、躰を、当った場所を中心にして凍らせ始める。 あっという間に芙蓉の躰を覆ったそれはまるで氷の鎧のようだったが間接も何もないそれは中にいる人間の行動を一切許さない。 「芙蓉さんが凍りました! 万が一の時はあたしが防御まで援護します。だから今は早くフィクサードを!」 小路には凍ってしまった芙蓉を助ける能力は残念ながらない。 だが、彼女同じジョブである小路はバッドステータスで一時的に脱落した芙蓉の穴を埋めることが出来た。 仲間の間に広がりかけた動揺を的確な指示で抑え、同時に指揮棒のように標識を動かして攻撃の指揮を執った。 「描かれた方は絵心もある方だったんですね」 桐が横をすり抜けながらちらりと女王を見る。 その美しさはまるで絵画から抜けてきたような、という表現がしっくり来た。実際そうであるのだから当然と言えば当然だ。 だがそれに見蕩れるようなことはなくあっさりと通り過ぎてフィクサードへ接近する。 今だ鎖に繋がり動けずにいる男へ独特の形をした大剣を振り上げ、降ろす。 下の階まで響く衝撃音と共に攻撃をまともに受けたフィクサードが痛みに呻く。 「強い配下を手に入れても守りがおざなりではどうしようもないですよ?」 奮戦している女王を再びちらりと見てから桐はフィクサードを見下ろす。そこへ飛んでくるのは一体の式神。 まるでダーツのようにフィクサードの胸めがけて飛ぶ鴉は狙い違わずフィクサードへと命中し。 「ぐあああっ」 鎖の上からさらなる責め苦を追加されたフィクサードは苦悶の声を上げる。 広間の隅から隅まで広がる絶叫を眉一つ動かさず聞き流しながらモニカは最初の弾丸を装填。 ガションッとモニカの容姿には似合わぬ音を立てながら構えられた銃から一瞬で数百の弾丸がばら撒かれる。 凄まじいであろう反動を抑えながら彼女は弾丸の壁を女王とフィクサードへと叩き付ける。 装填された分の弾丸を撃ち終えた後の光景は壮絶だ。 火薬の臭いが漂い薬莢が転がる。広間の床や壁には弾丸が食い込んでいる。そしてそれ以上にエラいことになっているのは弾幕を直接受けたフィクサードだろう。 魔曲・四重奏の鎖のある場所ない場所、躰中至る所に大口径の弾丸が撃ち込まれたのだ。 いくら運命の加護を得ている能力者であっても当然その頑丈さには限界がある。 もともとの体力が少なかったフィクサードは重なったバッドステータスと高威力の攻撃の前にあっさりと意識を失った。 ● フィクサードが倒れたとて一番の脅威は残っている。 幾度か放たれた氷弾によって氷の柱閉じ込められた仲間を光でもって氷を溶かすことで助け出しながら麻衣は焦りを隠せない。 冷気に耐性のある麻衣自身や影時は女王の攻撃で受けるのはダメージ、もしくは多少速度が落ちる位で済んでいるがそれ以外の仲間は女王が指差すたびに氷に封印されていった。 それをブレイクフィアーと天使の息、歌を使い分け戦線を維持した麻衣は十分その役目を果たしていたというべきだ。 だが、女王とてそのままむざむざと削り殺される訳ではない。 「―――――!」 ダメージとバッドステータスを同時に放つ氷の世界……視界を真白に染める吹雪がリベリスタ達を覆う。 吹雪が過ぎ去った先に残るのは氷の棺に閉じ込められた3人のリベリスタ。 「これは……効くね」 さらに冷気無効を生かして女王の前に立ち続けた影時は吹雪のダメージで倒れ、躰中に降りた霜を振り払いながらかろうじてフェイトを消費して立ち上がっているという状態だ。 「やらせはしませんっ!」 自分以外に回復が出来るライコウも凍っている以上現状を打破出来るのは自分のみ。そんなプレッシャーの中麻衣が選択したのは聞くだけ躰の傷を無くす歌声。 こうすることで戦闘不能になる仲間を減らす。というのは事前に考えていたプランの通りだ。 だが、まだ自分の魔力は尽きていない。歌声は最後の一音を歌い終えたが麻衣の動きはまだ止まらない。 掌の中から光が溢れる。先ほどの女王の吹雪のように一瞬その場にいた全員の視界を真白に染める。しかしどこか温かい光が仲間たちを包む。 パシャッと水が零れるような音とともに仲間を閉じ込めていた氷の棺が全て溶け落ちる。 一体だけになった敵、少なくなった仲間。その状況が麻衣の集中力を極限まで高め2連続での回復行動を可能にした。 「貴女は他にも名前があったりしませんか?」 これまでの言葉を発さない様子から半分は無駄と思いつつも芙蓉は問いかける。同時に飛んだ刃はダメージという結果を返すが、問いに対する返答はやはりなかった。 「録でもないのに召喚された貴女も運がないのかもしれませんね。だけど、倒させてもらいます」 言葉を出せない女王は何も先程までと同じく何も返さない。そのまま自らの主を打った大剣強かに打ち据えられる。 「―――!」 ところどころ罅のはいった躰を顧みずに両手を掲げる女王。 普通であれば其れが何をもたらすのかは解らない。だが改造した瞳に熱感知機能を搭載していたモニカだけが女王が何をしようとしているのかを見抜いた。 「彼女の手のひらを中心に急速な温度低下……EXスキルが来ますね」 悪魔たる女王の鬼札、先程リベリスタ達をピンチに陥れた一撃の先。発動されてしまえば何人かが倒れ、そのまま押し返されることすらあり得る極みの一撃。 そんな状況になってもやはりモニカの表情は揺るがない。自動砲を腰溜めで構え、一射。 先ほどの弾幕と違い、精度を高めた一撃は寸分の狂いもなく先程視た冷気の中心と女王の頭を打ち抜いた。 「撃てれば勝ちなスキルなら、撃たせなければいいのです」 単純にして明解な答えと共に戦闘は終わりを迎えた。 ● 窓の向こうから蝉の声が聞こえる。 戦闘が終わり、冷気の発生源がなくなった今となっては閉め切った建物の中で防寒服など狂気の沙汰だと言わんばかりに身軽になったリベリスタ達は意識を失ったフィクサードをたたき落とし、今回のアーティファクトの入手元等を突き止めようとした。 「これは……自分の想像上の悪魔ですかねぇ……」 芙蓉はフィクサードの手から取った羊皮紙を繁々と眺めるがどうやらこの絵は既存の神話等をモチーフにしたものではないようだった。 「この本の断片はどこから手に入れたの?」 影時がナイフを突き付けながらフィクサードへ問う。 「それは……」 男が答えようとした時だ。不意に男の両目が極限まで見開かれる。 「う……あ……」 そのままかすれたうめき声を上げるフィクサード。 明らかに異常なその様子にリベリスタ達が駆け寄るが既に現象は始まっていた。 先程まで青年という風体だったフィクサードが乾いていくのだ。そのまま数秒とせぬうちにまるで木乃伊の様になってしまった。 勿論この間回復スキル等を試したのだが全く効果はなかった。 「是が代償かしら……流石に危険すぎるわね」 安全なものであったらもらおうと思っていたのに、とリリィはどこか残念そうな声を上げる。 「アーティファクトは再利用可能だけど術者は絞れるだけ絞って使い捨てですか、趣味が悪いですね」 桐が先ほどと同じように――死んでいるかいないかの違いはあるが、男を見下ろしながら呟く。 (これで1ページなのだ……もしかすると残りの頁があるかもしれないな) アーティファクトの羊皮紙に開いた恐らくは紐を通していたであろう穴を見てライコウは思ったが今は任務を達成したことをアークへ報告することが大事だと切り替えた。 カサリと音を立てるアーティファクトを仕舞いながらリベリスタ達はアークへの帰路へ着いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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