● 憧れのヒーローじゃなくてもいい。 悪は悪なりに、何かできることだってはずだ、と。 そう信じて、大切なモノはなんとしても護りたかったんだ。 せめて、自分の中にある僅かな理性が、闇に飲み込まれてしまうまで。 「俺だけで、充分なはずだ。姉さんは……彼女は関係ないだろう!」 暗く、深い、闇の黒に覆われた袋小路の中。 目の前に立ちはだかる追っ手の二人へ、フードを被った少年は叫んだ。 それと同時に、彼の傍らで身構えていた狼のうち一匹が、追っ手の一人へ牙を剥き襲い掛かる。 少年の後方には、壊れた携帯を握り締めたままピクリとも動かず横たわる女性が一人。そして、 「……リョウ、くん……?」 肩から血を流しながら恐怖に怯える女性が一人――少年である、弟のリョウを虚ろに見つめていた。 彼女を護る為にリョウが奮っているこの力は、ヒーローのように誇れるものでは無かい。 むしろ自分は世界に認められない、ノーフェイスという存在。 害悪でしかない自分の運命に、彼女を巻き込みたくなかった。 だから数週間前、姉の元を去った――――それなのに。 「そういう訳にはいきませんわ。彼女達は否定しましたもの。世界を護り、危機から救う唯一の『主役』であるリベリスタを」 追っ手の一人。お姫様を思わせる豪奢なドレスを纏った少女が、柔らかな声でリョウの言い分を否定する。 少女の隣には、西洋甲冑を身につける少年が、攻撃してきた狼を剣で斬りつけていた。 「世界唯一のヒーローを邪魔する者はすべて悪であり、『脇役』さ。誰であろうと罪に値する。だから物語の主旨を理解できない者には、ご退場頂かなくてはね!」 剣を構えて明るく高らかに、少年は言い放つ。その言葉のとおり、ヒーローらしく胸を張って。 彼らの身につける装備が舞台衣装にも見えるからか、どこか演技かかった、わざとらしい台詞のようだとリョウは感じた。 子供らしい無邪気さを感じさせる笑顔を浮かべていても、血に塗れた衣装や武器が、印象を完全にぶち壊している。 何が主役だ、ヒーローだ。二人の言い分に対し、さらに憤りを覚えるリョウ。 フェイトを得ていない者は世界に受け入れられない。それは理解している、けれど。 ――正義のリベリスタ様ってのは、全員こんな独裁的だっていうのか? こんなヤツらに姉が殺されてしまってたまるかと。ただただ、我を忘れ、理性を潰して。 「黙れ……黙れ、黙れ! 姉さんには、手を出すな!」 感情を爆発させ、リョウは吼えた。 湧き上がる怒りが、目の前の存在をこの手で殺したいという憎しみが、心を満たしてゆく。 獣のように変化させた大きな片腕を振り上げ、二人の子供を容赦無く斬り裂いた。 飛び散る鮮血、吹き飛ばされ、地面に落ちる二つの身体。 そして、ゆっくりと起き上がりながら、少年と少女は台詞を交わす。 「――ラッキィ嬢、彼らは自分達の配役を未だ理解できていないようだ」 「ふふっ。そうですわね、シャイン様。けどこの世界は、主演が既に定まっている大きなステージ。応援してくださる観客が居ないのが残念だけれど……さあ、物語を完成させましょう?」 傷ついてもなお、不気味に笑う主人公達。 その顔に震え上がる姉を護るように立つ脇役は、配下の狼達とともに二人の子供を改めて強く睨まえた。 ● 「複雑な任務になるけれど、お願い」 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は、集まったリベリスタ達全員の顔をじっと見つめて話を切り出した。 「今回の目的はノーフェイスの少年と、その配下のE・ビースト二匹の討伐。それと、そのノーフェイスの姉である一般人の女性とその友人も、できたら助けて欲しい。今からならきっと、間に合うはず」 けれど、少し特殊だと、イヴは付け足す。ノーフェイスもE・ビーストも、姉の命は狙わず――むしろ、彼女を護っているのだという。 然し、時間が経過すれば、辛うじて残っている理性もいつ消えるか分からない。 「あと、エリューションと対峙している二人組のフィクサード。詳しい身元は不明。ドレス姿の少女がラッキィ、鎧姿の少年がシャインというみたい。彼らを説得するかどうかは、皆に任せる、けれど……」 結界を展開せずに、エリューションと戦闘。 それにより遭遇してしまったリョウの姉に傷を負わせ、彼女と共にいて警察に連絡をしようとした友人は重傷。 それらを全て、彼らフィクサードは笑顔のままで行なっている。 リベリスタ――正義のヒーローや、主役を自称しながら、なんとも理解し難い行動だった。 「――きっと目立ちたがりの一種。自分に都合の悪い存在を、ただ排除しているだけ」 ノーフェイス達もフィクサードの二人組も、自分の邪魔をする者であれば容赦無く攻撃を仕掛けてくるであろう。 どうか、気をつけてね。と、静かにそう締めくくり、イヴはリベリスタ達に未来を託した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:明合ナオタロウ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月15日(日)00:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 獣の咆吼。そして、無邪気な子供の笑い声。 微かに吹き抜ける夜風の中。真正面から対置するのは、獣に化けた片腕を持つ少年リョウと、二人組の子供達。 リョウの傍らには、路地裏というこの場に不釣合いな二匹の狼が低く唸りを上げていた。日常から隔離されていなくとも、この緊迫した静けさはまさしく、戦場そのもの。 「さあ、悪役はご退場いただこう!」 漂う空気を切り裂くかのように、二人組の一人、騎士を演じる少年シャインが剣を大きく振り上げた。そして、そのままリョウへと襲い掛かる。 攻撃は確実に命中し、その後ヒーロー達の大活躍によって悪役は地に伏するはずだった。 ――――あくまで、二人組が信じる『台本』通りの展開になれば……の話だが。 想像もしなかっただろう。開いた絵本の途中、ページの上から無理やり描かれた『ラクガキ』のように。 都合よく進むはずであった物語に、突然の『乱入者』が現れることを。 ――ガキィン! 鳴り響いたのは、金属音。シャインの剣を阻んだのは、同じく剣であった。その得物に孕まれた強大な神秘の力が、つばぜり合いを通して緊と伝わる。 交わった刃同士が押し離れた後、この場で対峙し合っていた三人はやっと気がついた。 現実を超越した疾さで、自分と少年の間に割り込んだ乱入者……『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)の存在を。 「どうも、こんばんは……ヒーローさん」 悪役追加です……どうしますか? と、リンシードは呟くように二人組を挑発する。小さな声であったが、その言葉は歴然とした宣戦布告。 然し、乱入者は彼女だけでない。 「なんなのあなた方は……ッ!?」 シャインの後方。ドレスでその身を着飾った少女ラッキィは、己の体に痛みを感じた。 極めて正確な気糸による攻撃。それを命中させたのは『他力本願』御厨 麻奈(BNE003642)。 「ご機嫌な所悪いけど、悪役はどいてんか」 そのままラッキィ達を強く睨みつける。凛とした赤の瞳に、怒りを宿らせて。 『リベリスタ』として行動できていれば、リョウの姉も、その友人も傷つかなかったはず――後悔より、さらに苛立ちが込み上げる。 「おや、さっそく戦闘が。ふむ、無関係な者を巻き込み、無用の被害……ヒーローや主役以前に間違っていますぞ」 すぐさま戦闘態勢に入る少女達の中、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)はいつもの老人口調で二人組に声を掛ける。 彼の姿を見てやや吃驚しながらも、ヒーロー気取りは辛うじて崩さずに言葉を返した。 「間違いなんてないさ! 僕はヒーロー、正しいに決まっているじゃないか」 「名乗るのであれば、もっと誇れる行動をしたらどうですかのう」 ――今の行動は。見ていて格好悪いです。 さらにそう話そうと考えていたが……だんだん彼らの顔が曇ってきているのを九十九は感じ取った。この状況だと、戦いはやむを得ない。 歪んでしまった彼らの目を醒めさせる事が出来ればとショットガンを構え、集中を極限に高めるのだった。 「いったい何だって言うんだ。正義である主役を侮辱す……」 「囀るな。一般人を自分勝手な理由で害する貴様らの、何が正義だ」 言い返しの台詞を最後まで吐かせる事無く、『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)は雷輝を帯びた一刀をシャインの舞台衣装じみた鎧へ撃ち込んだ。 力に酔い外道に堕ちた者が正義を騙る――況してや一般人を巻き込む等、話にもならない。 「蜂須賀示現流、蜂須賀 冴。参ります」 「あなたの姉を、助けに来たわ」 一方、二人組の前に立ちはだかり、後ろにいるリョウへ振り向いて『鉄鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)は判然と告げた。一般人を護る為、まずは弟である彼へ誤解をされぬように。 「姉さん、を……?」 「はい。私達は、アーク所属のリベリスタです」 「あっちの相手は私達に任せて、お前と狼は姉とその友人を護っているといい」 リョウへ、そして二人組へ、『不屈』神谷 要(BNE002861)は名乗りを上げ、続けて『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)がリョウに向けてそう指示を送る。 ――残酷な程に、運命はどうでもいい者ばかりに与えられる。 世では『女神』とも比喩されるが、その微笑みはとても気まぐれで、不平等だ。 声にも顔にも出さず、ただ平静を保ちながら碧衣は胸の内に思いを秘める――因果なものだ、と。 そして、要は決意を既に固めていた。リョウの覚悟を、思いを護る為に。 彼等を『脇役』だと蔑み、力を振りかざすこの二人組を許す訳にはいかない。 理性が飲み込まれそうである中、考えた末にリョウはゆっくりと頷いた。 ――もしかしたら彼等は、独善的なアイツ等とは違うのだろうか? 自分と同じく二人組と対峙する八人のリベリスタに対して、希望と、僅かながらの羨望が少年の心に生まれた。 ● 「こんばんわ、世界を救いし……略して脳内お花畑さんで良いかしら?」 「ふふっ、お上手ですこと。よくそんな毒舌が回りますのね」 「そうね――私の口回しは『死毒』に値するわ。10秒経過する毎に、貴女の体力の9分の1は削れそう」 「あら恐ろしい。お姉様の独特なその台詞、教えて頂きたいものですわ」 「『試読』してみる? 桜の下で。風情があって素敵でしょう?」 「ええ、ぜひ――」 瞬間、吹き荒れるは『桜』の花弁。 散り舞う弾は雷を纏い、姫になりきる少女を撃ち抜く。 子供には刺激が強すぎたかしらね――反動によってやや乱れた髪を手で払い、『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)はそう独白した。 夜桜に耽けて痺れるラッキィを見下ろし、こじりは思い返すのは『万華鏡(カレイド・システム)』による映像で、この娘がリョウへ向けて言った言葉。 ――彼女は『否定』した……なら、少なくとも『今』は『そう』なんでしょう。 後方にて姉を護り抜くリョウを横目に見やり、フードの奥に隠れた顔は、まだ姉思いな少年のものなのだと改めて確認する。 体を震わせてもなお、くすくすと笑みを浮かべながら紡ぐのは神秘の歌。ラッキィは清き存在に救いを求め、二人組は一気に癒しを得る。 「そうだ、君達は確か最初にアーク……『アク』だと名乗ったね? 清々しいよ。自らを『悪』だと称するなんて!」 勘違いか、それとも自らの正義を信じたいが為に意図した戯言か。 ウキウキとした様子で、シャインは円を描くように剣を振り回す。超直感によりなにが起こるかをすぐに察知した冴であったが、先に動くのは騎士の少年。 生み出された荒々しき烈風は、前衛の三人を巻き込んだ。 「――奴等はリベリスタではありません。私利私欲の為に力を振るう歴とした悪、フィクサードです」 リョウに対しての言葉でありながらも、冴は真っ直ぐに、斬る対象であるシャインを見据えたまま愛刀を構える。 「フィクサード……? リベリスタじゃないってのか?」 「あんなんリベリスタ失格やね。守るべき一般人に手ぇ出してる時点でな」 続いて麻奈が説明する。大を救う為に小を切り捨てる事もある、世界を護るリベリスタの真実。 彼女には、リベリスタである兄がいる。ただ、強いだけでない。全てを救いきれぬ現実がある中で、血反吐を吐いてでもなお『小』を守り抜こうとする信念を、麻奈は知っているのだ。 それに比べ――目の前の二人組が兄と同様のリベリスタを称するなど、腹が立って仕方が無い。 「誰一人怪我しなくて済んだはずやのに……この状況見て、同じリベリスタや言えんのか!」 「ふふっ、知りません。わたくしはわたくし、ですもの。主役に刃を向けるあなた方こそ、フィクサードなのでは?」 ――嗚呼、この馬鹿二人を土下座だけで済ます訳にはいかへんな。 救いようの無いふざけた答えを出したラッキィへと、麻奈はピンポイントを構い無く発射したのだった。 ● 同時、配下である狼がシャインを襲う。その隙をつき、刹那の魔弾で射抜いたのはティセラであった。射撃の弾みで、痩身の体に繋がれた鎖状のエネルギーコードがじゃらりと重く揺れる。 「別に正義や主役を名乗ろうと勝手だけれど……私の前でリベリスタを名乗ることは許さない」 彼等はリベリスタを装うフィクサード。そんな存在にフィクサード呼ばわりされる筋合いなど、毛頭無い。 既に研ぎ澄まされた感覚に意識を傾け、ティセラは感情を潜めた。 ノーフェイスであるリョウを殺すこと。それに関してはリベリスタとして正しいが、目の前の彼女等は行き過ぎてしまっている。 (なまじ力を持ってしまった事が、性根を歪めてしまったようですのう) 独善的な思考というものは、色々な壁にぶつかる事で修正されていく。それはあくまで、通常ではの話だが。悲しいことだ、と仮面の裏で九十九は想う。 「私達が壁となって、性根を叩き直す事に致しましょう」 言葉と共に放たれた銃弾は、騎士を名乗る少年の鎧を撃ち貫く。決して安物――という訳では無いのであろうが、砕かれた痕はさらに増え、傷や口から噴き出る鮮血の量は少ないものではなかった。 それでもなお、シャインは立ち上がり台詞を述べる――もっとも、笑顔を作る余裕など有りはしないが。 「くっくく……どれだけ君達は主役を愚弄すれば気が済むんだい?」 「まだ馬鹿な事を抜かせるか。ガキのママゴトには付き合ってられんな」 さっさと終わらせてしまおう――碧衣のその冷徹な煽り文句は、まるで呪文のように。 簡単には逃れられぬ神聖の輝きが、路地裏を強く照らした。 次第に収まってゆく閃きの中から、黒のコートを翻して攻め込んでゆくのは要。 「この場から退場する脇役は、リョウさんの覚悟を貶める貴方がたです……!」 状況を生かし、彼女も二人組と同じく芝居のような台詞をぶつける。勿論、言葉に嘘偽りなど無い。クロスイージス――要もリョウと同じく、護り抜く者だからこそ。 不屈の思いを反映するかのように、破邪の光輝を解放した剣はシャインの体を斬り裂いた。 「主人公なのに、私みたいな小娘一人も仕留められないんですか……?」 リンシードが次いで瞬時に疾る。間髪など入れる隙すら与えぬ連撃は、確実なまでに相手を追い詰めてゆくのだった。 ――――八対二。というより、十一対二が正しいであろうか。 圧倒的に二人組側が不利となっているこの場で、彼等が数分も耐え抜けているのは、残念な奇跡かもしれない。 戦いを見守りながらも、襲い来るノーフェイスの本能に抗うリョウは、いつしか黙り込んでしまっていた。 あんなに独りよがりな二人組に対して動じず、ましてや凄まじい程に追い込む八人の彼等が、眩しく見えるのだ。これが、本当のリベリスタなのか。 ――それに比べて、俺はなんだ……。 世界に拒まれる、この忌々しい力。姉や彼女の友人を巻き込んでしまったのは、自分にも要因が有るのだとリョウは自覚していた。……きっと、二人は自分を恨んでいるだろう。 無駄なヒーロー気取りかもしれない、本当に配役を間違えているのかもしれない。 「リョウくん、貴方が護っているその子達は否定したのよ、貴方が悪ではないと」 そんな時、彼を見かねたこじりが口を開いた。 ――それを裏切るの? 男の子なら、頑張りなさい。 はっと我に返る。倒れたままである姉の友人のすぐ傍で無残に破壊された携帯電話を見つめて。 そうだった。姉さんは――姉さんの友人は、俺がアイツらに襲われているんだと思って、それで一緒に警察を……。 自分のことを、彼女達は信じてくれていた。ラッキィがあの時に言っていた『否定』とは、そういう意味なのだ。 「何をお喋りしているんだい? 脇役のクセに台詞が多いじゃないか!」 仮にもヒーローを名乗るお綺麗だった面影は何処へ消えたか。 肉体の限界を破壊し微々たる体力を犠牲にしながら、シャインは莫大な攻撃力を手に入れた。 その様子を尻目に、こじりは銃口を向ける。 「この場で配役を間違えてるのは――『貴方達』よ、Heroic syndromers」 花弁のヒトヒラが、愚かな『脇役』の脳天を貫いた。 ● 「さあーて、残っとるんは……」 集中される視線に、体を震わせるラッキィ。 魔道書を閉じて両腕で抱き、踵を返して逃げ出そうとする彼女の足を、麻奈は的確に射抜いた。 「いやぁぁあああ!! やめて! もう戦わないから、何もしないから……!」 負傷した足を引きずり、両目いっぱいに涙を溜めて懇願するその姿は――普通の少女にそう変わりはないが。 ただの見苦しい、命乞い。 つい先ほどまでの飄々とした雰囲気からの豹変ぶりに一部のリベリスタ達は訝しながらも、どう対処すべきかを悩む。二人組を撃退する……とは考えていたが。 生かすか殺すか、全体の意思統一はなされていなかったのだ。 シャインは頭を撃ち抜かれてはいるが、仮にも少年は運命を手に入れている。 簡単に死ぬ事はないとは思うが、こうなってはもう、どちらも始末すべきか――と、武器をラッキィへ向けたその時、 「そいつらをやる前に……姉さん達をなんとかしてくれねーか」 そう頼んだのは、弟であるリョウ。叫びや激しい戦いの音――それらに耐え切れず、いつの間にか姉も気を失ってしまっていたのだ。 「救急車は既に手配しておいたよ。だが、それが到着する前に……」 「分かってる。それと害悪である以上、俺を殺さなきゃならねーんだろ?」 この時点でリョウに『運命』は無い事は、彼の一言に対して答えた碧衣も悟っていた。 アークとしての任務は、彼とE・ビーストの討伐。邪魔ものがもう存在せず、本人も望んでいる今こそ、流れとしてもフィクサードより討伐を優先するべきか――。 「別に、私は逃げても追いません。ですが……また同じ事をしたら……次は覚悟してください」 「うん……! もうしない、絶対しない!」 刃先を向ける前には、もうラッキィはシャインを引きずり路地裏を後にしていた。 ――リンシードはふと想う。こんな風になる前に、誰か止められる大人はいなかったのだろうか、と。 正す事ができていれば、幸いではあるが……あまりにもあの変貌が大げさであった事が、少し気がかりだった。 「そうですね。リョウ君達と対峙せんといけませんなあ」 九十九の一言によってリベリスタ達は結論し、彼の両隣に居座る狼二匹を相手取った。 「対峙って程でもねえさ……手短にやってもらって良い」 リョウが言い終える前にはもう銃声、斬撃が鳴り響く。 瞬く間に一匹、もう一匹も。か細い鳴き声を遺言として葬られてゆく。 獣化した片腕が、もう片腕をギリギリと握りつぶしている。今は、この手を抑えるだけで精一杯なのだとリョウは打ち明けた。 「少しでも気を緩めると、お前達を傷つける……姉さんを救ってくれた恩を、アダで返すような真似はしねえよ」 この場にいる八人のリベリスタを不審になど思わない。 姉の無事を約束しながらも、あんな独善的な二人組がリベリスタである事を完膚なきまでに否定した彼等を、むしろ感謝しているくらいだった。 「……悪なんかじゃないわ。誰かを護る為に、戦った貴方は」 世界を害するものだったとしても、彼の行動は間違っていない。 リョウの目を見て、ティセラはそう伝える。誰かを傷つける前に死にゆく、ノーフェイスへと。 「間違いじゃないなら……それで、安心だ。ありがとう」 「お姉さん達には、貴方がどうなったかも伏せておきます」 「……それが良い」 冴の言葉に頷き、目を閉じた。重い一撃が叩き込まれる。耐久力が高いのか、これだけでは逝けない。 続いて銃弾、灼撃。遠のく意識の中、最期に振り絞って想いを表した。 ――――世界を頼んだぞ、リベリスタ……なんてな。 ヒーロー達に届いたのだろうか、この言葉は。 「まさしく最後まで、ヒーローだったわ」 「え……貴方は立派でした」 闇と共に消える前、そんな少女達の声が聞こえたような気がした。 ● 世界の主役は、たった一人だけ。 例え、誰が主役を名乗ろうとも、少女としてはその人間すらも『脇役』、『駒』にしか思えなかった。 きっと――少女の足元に転がる『Shineであった子供』も同様に。自分と同じ考えを持つ人間など、Luckyの周りにはアルファベットの数ほど存在しているのだ。 トドメの魔の矢を生み出した魔道書をパタンと閉じ、『演技』を拭って汚れたハンカチをドブへ捨てた。 「衣装も……あとで洗ってもらわないと」 血塗れたドレスの少女は、亡骸が残された路地裏を静かに去ってゆく。 『アク』の組織の存在……一応、『団員』にも伝える為に。 ――素敵なお姉様方や怪人様の他には、どんな『アク』がいらっしゃるのかしら、と。心を震わせて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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