●指令 「W37、W55。仕事だ。指定した地域を徘徊し、やってくるリベリスタを倒しなさい」 「戦況により『補充』を許可するよ」 「指定時間は百二十時間。それだけの薬を渡しておくよ」 「薬がなくなればどうなるか……わかっているよね? 十二時間後に自己融解し、人間の原型を留めなくなる。ドロドロのグチャグチャだ」 「さぁ。暴れてくるんだ。なぁに、君達は並大抵のリベリスタでは太刀打ちできない『身体』だ。油断しなければ帰ってこれる。二人とも、がんばってくるんだよ」 ●二人 「ミナお姉さま、私、私もういやです……こんなの、こんなの……」 泣きじゃくる声が路地裏に響く。血臭が濃く、死体が腐臭する匂いと混じる路地裏。 涙を流すのは一人の少女。その傷跡は、激しい戦闘のあとを思わせる。深い切り傷からは血が止まらず、今なお地面を濡らしている。 「ダメよ。まだ六十三時間しか経っていない。あと半分。泣いてなんかいられない……!」 ミナお姉さま、と呼ばれた少女は、泣き叫ぶ少女よりも若干年上に見えるが、ほぼ同年代の少女だった。全身の刺し傷が痛々しい。彼女達を傷つけた者たちは返り討ちにあい、命を失い地面に倒れている。 ミナは命なきソレを掴み、千切り、そして口に運んで―― 「いやだよぉ! もう、もう食べたくない……! その人たちだって……リベリスタさんだって、死にたくないって命乞いしてたよぉ。おなじ人間なんだよぉ!」 「でも、こうしないと私たちが生きていけない。『欠けた』分は『補充』しないと、次の戦いで私たちが殺される! ココ、アナタも食べるのよ。『血』と『消化器』を『補充』するのよ」 「ダメ……私はもうダメ……ミナお姉さまだけでも生きて……。 ココは、お姉さまの足手まといになるくらいなら死にま――」 いつの間にか近づいていたミナの顔に、ココははっとなる。泣きじゃくるココの唇に重なるやわらかいもの。温かく、やわらかく、優しく包む込むように癒してくれる感触。 そしてそこから流し込まれる何か。さっきまでミナが口にしていたモノ。 「ああ、ああああ」 「生きて、ココ。私にとって、あなたが生きていることが希望なの。 足手まといなんかじゃない。アナタは私の大切な人よ」 「お姉さま……お姉さま、おねえさまぁぁぁぁ! うん、生きる……お姉さまのために、ココは生きる……!」 死の臭いが充満する中で、二人の少女が抱き合っていた。 それは確かに狂っていたが、それは確かに愛だった。 ●アーク 「相手は黄泉ヶ辻のフィクサード二人。改造型のアーティファクトにより強化されている」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。いつも色白で無表情の少女の顔。だが見慣れた人にはわかる。少し陰鬱な表情だ。 フォーチュナである以上、陰惨な未来を見ることも少なくない。『万華鏡』の予知が正確であればあるほど、見える未来の映像もまた強烈なのだ。 モニターに写し出されるのは、少女二人と五人のリベリスタチーム。その交戦の様子と、そしてその後。 「フィクサードの一人は、自分の体液を放出して攻撃する。血液を弾丸にしたり、足場を悪くしたり。消化液で肌を焼いたりする。 もう一人は傷口から骨を突出させてそれを武器にする。自分の皮膚を食い破って突き出される骨は、隠されている分攻撃が避けづらい」 イヴの説明を聞きながら、リベリスタは戦いの様子を見ていた。彼女達は破界器を持たない。だが、それを凌駕するだけの『武装』が彼女たちに備わっていた。自らの身体。自信を傷つけながら、彼女達は五人のリベリスタを返り討ちにして―― 「そして彼女達は、戦闘が終われば失った肉体を『補充』するために――」 「わかった! それ以上言うな!」 イヴの精神を慮ってか、リベリスタの一人が静止を出す。内容は、モニターを見れば全て知れる。 「……改造型アーティファクト、って言ったよな。それで改造されたのか?」 「彼女たちの肉体はアーティファクトで改造されたもの。定期的に薬を補充しないと死んでしまう代わりに、強力な肉体を得た」 とても彼女達が今の状況を望んだとは思えないのだが、それは二の次だ。 「治せるのか、これ」 一番重要な質問を、口にする。 「…………」 無情にもイヴは首を振る。沈黙がブリーフィングルームを支配した。 「繰り返すけど、相手はフィクサード二人の討伐。放置すればかなりの被害が出る。 リベリスタ五人を返り討ちにするほどの相手だから、油断しないで」 ●黄泉ヶ辻 「Wシリーズ?」 「ええ。よく働いてくれますよ。今は37と55が出撃中です」 「ご苦労様だな。ところでWってのは何の意味があるんだ?」 「Woman(女性)、Waltz(二人一組)。そして――」 Waste(廃棄物)です。黄泉ヶ辻の事務所で、そんな会話がされた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月16日(月)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「お姉さま――」 W55の緊張した声。その視線の先には八人の革醒者がいた。 「同情の余地はあれど手加減の余地はないね」 『極黒の翼』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は無銘のの大太刀を抜き、その二つ名に違わぬ翼を広げる。目標の二人はリベリスタを殺害している。その経緯には同情するが、加減をする理由はない。 「終わらせましょう、この悪夢を」 もはや元の肉体に戻れぬ二人のフィクサード。目を背けたくなる程の残酷さだ。『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)は『万華鏡』で見たW37とW55の悲劇を知り、そして決意する。この二人を終わらせようと。 「相も変わらず、黄泉ヶ辻のやることはっ……!」 人の心を弄ぶ者。人の身体を弄ぶ者。その不気味さからは嫌悪感と同時に怒りを感じる『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)だが、彼女たちにできることと言えば、弄ばれた者達を殺すこと。遣る瀬無いことだが、目をそらし避けるつもりはない。真っ直ぐに前を見る。 「お前等が悪ぃ訳でもねぇ。受け入れがたい状況にまで追い込ませたお前等自身の境遇でも呪え」 『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は『鬼』と『爆』とかかれたガントレッドを装着しながら、拳に炎を宿す。喪失の恐怖。離れたくない思い。実のところ、わからなくもない。だが、それとこれとは話が別だ。 「……アーク」 W37と呼ばれるフィクサードはやってきたリベリスタの招待を看破する。好きのない動きから、かなりの手練である事も。 「ごめんなさいお姉さま。私がきちんと『補充』していれば完全な状態でしたのに……。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」 血を流し泣きじゃくるW55を抱き寄せるW37。決意の瞳でリベリスタを見る。 「違うわ、ココ。『補充』源が8つ増えたのよ」 気丈にも胸を張り、八人のリベリスタを指差す。この数の相手は初めてだが、大丈夫。私たちは強い。こんな肉体に改造されたのだ。何とかなる。心にそう言い聞かせ、戦闘隊形に入る。 死の臭い。血の臭い。二つの臭いがリベリスタを刺激し、戦いの幕が下りた。 ● 「二人には同情の余地は十分にあります」 空気中に漂うマナを手のひらに集める『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)。集まったマナはリベリスタの背中で羽根となる。重力の束縛から離れ、相手の攻撃を避けやすくする為の加護。 このままでは慈悲もない。納得して死ねることもない。だがしかし、彼女達にしてやれることは死を与えることのみ。力尽きるまでつき合うというのが関の山。 「それでも死を看取るのもまた仕事ならば役割を全うします」 それが医者の本分なら。そして世界を守るリベリスタなら。例え残酷な結果でも凛子は最後まで付き合うと心に決める。 「この人たち、もう生きてはいないみたいだけど……」 『蜂蜜色の満月』日野原 M 祥子(BNE003389)はWシリーズの二人ではなく、彼女達が自分の身体を『補充』するためにおいてあったリベリスタの遺体に向かう。それを戦場から離すように引っ張っていく。 「返してください! それは私たちの――!」 「可哀相。そんな事をしないといけない体に改造されて」 祥子の言葉にW55ははっとなる。その遺体に対して行なっていた行為を思い出し、そしてそうせざるをえない自分の肉体に嫌悪する。同時に向けられた同情に感情を揺さぶられた。 「薬を飲まなきゃ人の形を維持するの難しいんでしょ?」 「あ……うぁ……」 「もとに戻す方法もないみたいだし、もう終わらせたいっていうあなたの願いをかなえてあげる」 努めて平静に言葉をつむぐ祥子。それはそうしなければ何かにつぶされてしまいそうな精神を押さえつけているだけだった。自分とさほど年齢の変わらない子供がひどい目に会うなど、祥子にとっては耐え難い。 しかし、任務は任務だ。勾玉の形をした二つの盾を構え、二人に近づいていく。 「どのような事情があろうとも同情するつもりもありません」 白銀の騎士槍を腰に構え、突撃する『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)。その穂先は彼女の信念の如く真っ直ぐにW55に突き刺さり、 「きゃあああ!」 「ココ!」 W55を吹き飛ばし、二人のフィクサードを二分する。 「それがフィクサードなれば常のようにそれを穿つまで。この槍に誓ってあなたたちを討ち取ります」 ノエルも二人の悲劇は理解している。それを踏まえたうえで彼女達を許さないと心に決めていた。全ては世界の為。革醒者の悪事は、この槍で裁く。それが彼女の騎士としての誓い。 「『W37』『W55』かぁ。なんとも無粋な名前」 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)はW37とW55の間に立つように移動し、巨大な鋏を構える。その瞳に写るのは殺人衝動。殺したい。殺したい。いとおしいから殺したい。鋏を動かしながら、W37の瞳を見る。 「番号を読み替えて名前にして呼び合うなんてなんとも……滑稽」 「滑稽と笑いたければ笑いなさい。無様と罵りたかったら罵りなさい。 そんな嘲笑など聞き飽きたわ」 「いいや、笑わない。ミナちゃん、ココちゃん、君たちの流儀の名前で呼んであげよう。 君たちを哀れな実験動物ではなく人間として殺してあげよう」 一瞬あっけに取られたW37だが、可笑しそうに笑みを浮かべると葬識に聞き返した。 「嗚呼、結局殺すのね」 「当然。君たちはもう人間じゃあない。血肉をすすらないと生きていけない。悪鬼、羅刹、そうまでして生きたい?」 「生きたいわ。二人でいつまでも、生きたい」 真っ直ぐに殺人鬼の顔を見てW37は告げる。 「でも殺す。俺様ちゃんはそんな哀れな二人を殺すんだ」 同じ人間、同じ命として二人を殺す。葬識はそう告げた。存在するだけで嘲笑と侮蔑を浴びせられた二人にとって、その言葉がどう響いたか。 生きるため。殺すため。互いの武器が交差する。 ● 骨を武器にするW37に火車が迫る。残りのリベリスタはこれを合図にW55に向かい、火力を集中させた。Wシリーズを分割し、片方を集中砲火。これがリベリスタの作戦だ。 「どんな形にせよ、立ち会えるってのは悪かねぇと思うぜ」 火車はW37をブロックしながら、炎の拳を振りかぶる。真っ直ぐ間合いに入り、繰り出されるワンツーパンチ。相手の動きに集中しながら、W合流シリーズを合流させぬぬようにして炎を当てていく。 火車を倒さなければW55との合流は成らない。W37は密着するように間合いを詰めると、そのわき腹から突き出た肋骨で火車を突き刺した。自らを傷つけながら、それ以上のダメージを与える。 「っ! そうさ。状況に抵抗が出来るんだからな……」 傷つきながら火車は攻めることをやめない。その抵抗を良しとし、彼女達の絆も理解し、その上で相手を燃やしていく。 「お姉さま!」 「ココ、アナタは自分の周りを! すぐにそっちに行くから!」 蒼い顔で頷くW55。彼女は自らの血液を圧縮し、一部を棘のように鋭く小さくする。それを自分の周りのリベリスタ達に向かって差し出し――爆発させた。爆発の衝撃と、血でできた棘がW55の周りに集まっていたリベリスタたちを傷つける。 自らの血を武器として、W55も貧血のような眩暈に襲われる。彼女達の戦い方は、常にハイリスクハイリターン。死の病に苛まれ、がけっぷちの彼女達が生き残るにはそれしかないと言う理由で。 「――生きる為とは言え……惨い様です……」 その様を見ていた櫻子が悲しげな表情で呟く。自らの肉体を武器とし、もはや元の身体に戻れないWシリーズたち。その戦い方は我欲に狂うフィクサードとは違う。死から逃れる為に逃げまとう悲しさがあった。しかし、手を抜くわけにはいかない。 「……癒しを届けましょう」 回復が滞れば、Wシリーズたちの生存を許すことになり多くの犠牲者がでる。歌に魔力を。詩に優しさを。二重の癒しを乗せて櫻子は癒しの神秘を奏でる。それはリベリスタの傷を塞ぎ、彼らの士気をあげていく。 「これは何時か誰かがやらねばならぬこと……」 大和は胸の近くで手のひらを握り、決意を高める。握った手に生まれた糸をW55に向かって飛ばす。地面を這うように進んだ糸は、足元から絡みつくようにW55の動きを拘束した。その動き、まさに蛇の如く。得物に食らいつき、死ぬまで離さないと締め上げる。 黄泉ヶ辻の生み出したフィクサード。Wシリーズ。彼女達の犯罪もいってしまえば黄泉ヶ辻に改造されて命を盾にされているからであって、彼女達に罪があると言うわけではない。 「ならば、私は避けません」 しかし、Wシリーズを救う術はない。奇跡も神秘も届かない。ならば、殺すしかない。そこから逃げないと意思を込めて大和はW55を拘束する糸を強くひっぱった。 「二人の境遇には同情する」 拘束されたW55に向かってフランシスカが大太刀を振るう。戦闘マニアの猪突猛進。単純バカと称されるフランシスカだが、別に情がないわけではない。単純ということは純粋であると言うこと。好き嫌いがはっきり分かれる彼女にとって、この下劣な改造行為にははっきりと怒りを感じていた。 「ならばこそ早く倒して開放してあげたい」 太刀がW55の身体を裂き、血飛沫を上げる。元々血だらけのW55の服がさらに赤く染まる。止まらない血。消えない傷跡。悲壮と苦痛に苛まれながら、それでもWシリーズは動きを止めない。その生命力もまた改造の結果。 大和の拘束を振りほどいたW55が腕をだらりと垂らす。流れる血が粘性の高い池になり、リベリスタの動きを鈍らせる。 「いや、いやいや、いやいやいやいやいや……! こないでこないでこないでぇ!」 「ココ、落ち着いて! 私がついてるから!」 ダメージに錯乱するW55。W37の火傷と自分の骨で傷つけた傷跡を押さえながら、必死になってW55を落ち着かせようとする。それは自分を落ち着かせるためでもあった。 リベリスタは確実にWシリーズを追い込んでいく。 それは同時に、彼女たちを死に物狂いにさせていくことでもあった。 ● 破界器と改造された肉体同士が唾競合い、文字通り命を削った戦いは続く。 骨の槍に体中を突かれ、火車が体力を失って倒れる。ここで倒れるのは早すぎると、劇的に足を踏ん張って、膝を叩いて耐える。 「まぁ、お前等のこと……結構気持ちは解んだけどよぉ……」 「解る? 何が解るって言うのよ。こんな肉体に改造された私たちの気持ちが!」 「解る訳ねーってか? そりゃそうだ。オレの気持ちも解んねーだろうしな。 それでも引けねぇもんが……事が、ある!」 「満身創痍ね。気力だけで保つかしら!」 「保たせてやらアァァ!」 死を意識して初めてかかるエンジン。火車の中のそれがようやく火を吹く。シャープになった感覚がW37の動きを捉えて、的確に骨の攻撃を避け、そして当てて行く。 「こ、こないでください!」 怯えながら消化液を噴出するW55。強烈な化学反応がノエルの肌を焼き、侵食していく。 「愛は希望でもありますが、枷にも成り得る」 ノエルは肌を焼く感覚に堪えながら、貫くものと称された槍に力を込めて、渾身の突きでW55を穿つ。わき腹をそぎ、赤い液体がアスファルトをさらに染めていく。 「……或いは愛がなければまた別の結末があったのかもしれません」 それは二人が別行動を行い『万華鏡』の予知にかからなかった未来かもしれない。あるいは孤独に死んで、誰にも迷惑をかけなかった未来かもしれない。だがそれは詮無きことだ。二人は愛し合い、枷と理解しながらその手を離さなかった。ノエルは思考を戦闘に向ける。 フィクサードは、討つ。ただそれのみに。 「その傷、癒します」 櫻子は不浄を退ける光を放ってこまめにWシリーズが与える毒を取り払っていた。その蓄積が致命的になりかねない。 「これで!」 祥子は『霜月ノ盾』を前面に構え、W55に突撃する。全身を使ってのシールドアタック。強烈な一撃をW55に打ち付けられる。 「俺様ちゃんはね、殺す鬼だ。殺すことが生き様だ」 葬識が刃物を二つ組み合わせた鋏を、貧血と衝撃で揺れるように立つW55に当てる。片側を肩に、もう片側を腰に。逆袈裟に当てた鋏を微笑みながら一気に閉じた。 「あ……ああ……助けてお姉さ――!」 「嫌がりながら殺すなんて、殺す命に失礼。さようならココちゃん」 バチン。鋏が閉じる音。びくん、と痙攣してW55はその活動を停止する。思ったより血が流れなかったのは、W55が血を武器としてかなり噴出していたからか。 「ココ!」 「すぐにあなたも終わらせてあげる。この悪夢から」 フランシスカが闇のオーラを凝縮し、鋭く研ぎ澄ます。オーラで自らを傷つけながらW37を見据えた。終わらせることが彼女達の為と信じ、闇の刃を解き放つ。 「ココ……ココ! ぁあああああああ!」 W37は自らの骨を爆発させて、リベリスタを制圧しようとする。戦場全てに飛ぶ骨の欠片。それはリベリスタ達を深く傷つけていく。 「弾丸に爆弾の嵐も経験しています」 戦場を渡り歩く医者だった凛子はその惨劇に耐えながら、癒しの神秘を放つ。威力に怖れて癒しを止めるつもりはない。彼女達に死を与えることができると言うのなら、それが医者の役目。そのために回復を止めない。 「不吉の月よ!」 回復を途切れさせない為に後方で櫻子や凛子にエネルギーを与えていた大和が、今が好機とばかりに偽の月光を路地裏に召還する。不吉を告げる満月がW37を照らし、神秘の光が歪んだ命を浄化していく。 「……ココ」 骨は砕け、削れ、失い、もはや真っ直ぐに立つことすら難しいW37。それでも愛するものの名を呼ぶことだけはやめなかった。 「安心しろ。最後は一緒にしてやる……!」 始めからW37と相対していた火車が炎の拳を振るう。硬く握った拳と燃える炎がW37の妙部につきたてられる。 その一撃が、彼女の心臓の鼓動を止める。それはしぶとく改造されたWシリーズの動力源。壊れた人形が支えを失い崩れるように、W37は地面に転がった。 ● 「もし生まれ変わりなんてものがあるのなら」 祥子は二極の盾を幻想纏いにしまいながら、もはや動かないWシリーズたちに向けて言う。 「次は普通の女の子に生まれて友達とか姉妹として、一緒に居られるようにカミサマに祈ってみたら?」 エリューション事件で大切なものを失った祥子は、別れの辛さを知っている。せめて来世では一緒になれますように。そんな幸せを願った。 「はい。解析をお願いしたいのです」 大和は倒れているWシリーズの遺体を回収し、アークに解析してもらおうと提案したのだが……。 「彼女達は一定期間で薬を投与しないと、身体が融解してしまうみたいなのですが」 凛子の言葉に、はっとなる大和。薬をいつ飲んで、それが何時間効果があるかを知っているのは、いまは骸の彼女達のみ。アークまで運ぶ間に、死体が崩れ去っている可能性もあるのだ。 「辛かっただろうね、今までずっと。でももう、終わりだから。せめて、安らかに」 フランシスカは太刀を納め、Wシリーズの瞳を閉じてやる。苦悶に満ちた表情が、幾分か和らいだ。 「――繰り返させない事、それが今後出来る事でしょうか……」 櫻子は夜空を見上げ、自分の胸元を掴む。身体を削り、苦しみながら生きようとするWシリーズたち。こんな悲しい事を繰り返させるわけにはいかない。 「最後の最後で離れてたら、そりゃしんどいわなぁ……」 火車はW37とW55の遺体を並べてやる。別離の辛さは理解している。二人はいつも一緒だったのだ。最後まで一緒にいさせてやろう。 「おまえ達は悪かねぇよ。強いて言えば黄泉ヶ辻のクソ共が悪ぃんだろう。 ……クソフィクサード共が!」 「……黄泉ヶ辻、か。覚えておくよ、お前たちの所業を」 火車とフランシスカが黄泉ヶ辻のフィクサードに怒りの言葉を吐く。他のものも言葉にはしないが、その気持ちは同じだった。 路地裏に死の臭いと血の臭い。色濃い二つの臭いは、Wシリーズの滅びと共に薄れていく。 「慣れることはないものですね」 凛子はもはや動かぬ二人を思い、涙を流す。丁重に弔おう。二人がいつも一緒でいられるように。 「W37とW55の定時連絡が途絶えた?」 「該当地区へのアークの出撃を確認しました。交戦後、討たれた模様です」 「あ、そう」 Wシリーズの作製者は、創造主の感情を乗せて言葉を返した。短く、無関心に。 「じゃあ次は死なないように、もっと厳しく改造しないとね」 改造型アーティファクトをもって黄泉ヶ辻のフィクサードは扉に手をかける。その奥には怯える女性たち。絶望と、懇願と、そして諦念と。 「全く、リベリスタさんが強いから仕方ないね。ああ、彼女達が可哀相だ」 可哀相可哀相。そう呟きながらゆっくりと扉を閉める。逃げ道と言う希望の光が、ゆっくりと細くなっていく。 バタン。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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