●取り敢えずぐわーって鳴く 夜の森は怖い。 山歩きの名目で親族に連れてこられた少年は、その親族が姿を消し、次いで森が夜闇に落ちてから、やっと自らの境遇を理解した。 どうやら自分は捨てられるために連れてこられたらしいというのは分かる。 夜の森は危険だ。何が出てくるか分からない。 そんな少年の意思を反映するように現れたのは、数匹の―― 「ぐわー」 「…………」 「ぐ、ぐわー! ぐわーってばぐわー!」 モモンガっぽいアレ。何か涙目で威嚇してる気がするけど。旋回してるけど。 ●[要出典] 「リス科モモンガ亜種、ムササビもこの類型に入りますが、実際のところサイズは遥かに小さいです。平安時代までは単に『モミ』と……」 「ああモモンガな、わかるわ」 極力遠回しに説明しようとした『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)だったが、リベリスタはそんな気遣いどうでもよかった。 「……まあ、そうとも言います。アイヌの方では子守の神とも言われているそうですが。今回はE・ビースト『ももんが』の討伐をお願いします。 と言っても、山中に放り出された不幸な少年を前にちょっと脅かそうとしてる程度でしかなく、害意は低い……のでしょうけど、増殖性革醒現象は怖いですしね。 子供相手だから手を抜いているだけであって、それなりに戦えるかもしれません」 「『かも』ってなんだ『かも』って」 「……未知数ってことで」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月13日(金)23:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ぐわー 「ああ、うん……ももんがさん子供好きだよね、俺知ってる」 森の奥に潜むエリューションと少年。考えようによっては不幸であることこの上ないのだが、遭遇したエリューションが可愛らしいももんがのE・ビーストであることを鑑みれば喜劇に見えることもあろう。 こと、『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)の言葉はしみじみとした趣深いものがあった。 まあな、南瓜の鉄道とか、ヅラとか、時代劇とか、子供大好きよな。 「アウラールくん、少年お願いねっ」 そう言って上空のももんがに剣……ではなく、網を向けたのは『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)。普通をくらっしゅするどころかエリューション戦の常識からくらっしゅしに来たぞこの子。 「こう、網とかブンブン振り回したら勝手に入っててくれたりしないのかな!?」 「……ぐわー」 あ、小馬鹿にしてる。声が。 「男の子って事だよね! 任せろ! 超絶宇宙的可愛さのボクに任せろ!」 『ナルシス天使』平等 愛(BNE003951)は一切ブレなかった。おい、こいつ初任務だろどうなってんだ。修道一直線とか野郎のライバル役でないからやめてくれよ。禿げ上がったライバルとか修道だったらご馳走じゃねえか。 「あとモモンガ!」 何かいきなり名指しされ、「ぐ、ぐわー!?」とか戸惑ってるぞ。少年もぽかーんとしてるぞ。ほぼ同い年みたいな相手が難しい言葉使っててちょっと悔しそうだぞ。 「ぐわー!」 「ぐ、ぐわわー!」 これはひどい。のっけから酷い。 「ぐわーぐわー……ぐわぁ、飽きた……」 「ぐわ!?」 自らのライフスタイル(鳴く)が『白い方』霧里 びゃくや(BNE003667)にばっさり飽きた宣言されてももんが達は戸惑い始める。無理もない。っていうかちょっと鳴いたぐらいじゃねえか。 遊びに来たのにこの体たらく。「え、やるの?」みたいな表情はやめてください。 「情報のままであればそう脅威でもない? けど、いつまでもそうじゃない」 安全なままなら、楽しいままならそれでいい。だが、結果として怠慢となり少年一人助けられなかったのなら、倒すべきが誰でも無く自分自身になりかねない。 『逆襲者』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は状況に冷静であり、救済に際し情熱的でもあったということだ。決して、悪いことではない。 「ももんが・……いい声で鳴いてくれるかな? ぐわーって。ぐわーってなかせてみた」 「「ぐわー! ぐわーぐわーぐわー!」」 嗜虐心全開でももんがに対峙した『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)は、しかしのっけからやっちゃるぜ感全開であんまり周囲に目もくれず突っ込んだものだから大変だ。 慌ててアウラールが少年を抱えて飛び退り、連携のれの字も感じさせないももんが達の連続攻撃が降り注ぐ。 鎌を手にする前に大きく吹っ飛んだ。攻撃自体は決して強いはずじゃないのに、攻撃の積み重ねから一気に大きく体力を削る。そのまま突っ込んでもよかったろうが、どうせ待つのは同じ事の繰り返しからくる敗北だ。 ここは、一歩退かねばならないだろう。本来なら好き放題戦っているところだが……もとより、回復薬が主体であることも否めない。 「捨てられちゃったのね少年君♪ きっと親族にとって君の生存は不要なのようふふふふ♪」 「…………ぐわぁ」 アウラールが耳を塞いでいたからよかったものの、ももんが達をして『なんかこいつひくわー』と言わしめる『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)。愛とかびゃくやが可愛く見える。すっげぇふしぎ。 あと、登場直後から勢いに任せてトリガーハッピーしているもんだから周囲の自然とか景観が崩れる崩れる。 火を扱わせたら間違いなく山一つ焼き払う系リベリスタである。こいつぁひでぇや。 「不幸だな、子供の頃は自分で人生を決めるのすら難しい」 そんな色々とアレなリベリスタを見て不安に駆られた少年に声をかけたのは、『徒花氷刃』プラチナ・ナイトレイ(BNE003885)。冷静というよりは冷徹な表情をした彼女に僅かに覚えた怯えを隠さない少年だったが、続く言葉に彼女が敵でないことを認識する。 「自分で行動してこそ未来は開かれる。キミの未来はキミが決めるのだよ」 ももんが達へ向け、明確な挑発行動を始めたその背中と自信満面の表情の前に、不安はない。ただ、義務感だけが強くあった。 そして、ぶっちゃけプラチナの挑発行動にあっさり引っかかるももんが達ちょれー。 ●ぐわわー 「ぐわー!! たおすーーうおおお!!!」 いろんな意味できあい()十分な壱也のメガクラッシュがももんがの一体を弾き飛ばす。連携を取るために密集陣形をとっていた彼らの一体が大きく外れたことで、連携もクソもない乱戦状態に踏み込んだのは彼女の勢いのなせる業か。 「飛行対象への攻撃も、嫌でも慣れなきゃならん、てな……」 陣形が乱れ、動きにためらいの生まれた彼らの真下に踏み込んだのは、槍の回転機構を全開にして闇をまとうカルラ。真上に突き出すようにして放った闇は、そのまま纏まった三体を一気に飲み込んだ。 「ぐわーぁ!?」 必然、その一撃の威力をまともに受けた彼らの消耗はただ事ではないが、それでも未だ戦意は衰えていない様子。『なにすんだてめー』みたいな声のトーンが感じられる。 「そこで見てるがいい少年よ、このびゃくやお姉さまのカッコイイ姿をな」 びし、というかそこはかとないだらけ具合が垣間見えるびゃくやだが、その実力が他に劣るものではないことは明らかだ。壱也が弾き飛ばした一体に肉薄し、木の根に足をかけ、振り上げるように一撃を叩きこむ。 錐揉み状態で大きく弾かれたももんがにさらなる追撃を向けたのは、アウラールが放ったジャスティスキャノン。少年の盾になっている彼が放つものとしては決してほめられた選択肢ではなかったろうが、止めの一撃としてはタイミング的にも悪くはないものだ。 目がバツになった状態でふらふらと落ちていくももんがには憐憫を感じなくもないが、これがエリューションの運命といえば、まあそれまでか。 だが、一体倒された程度はまだ彼らの勢いを止めるには至らない。むしろ、それが呑気だったももんが達の戦意を押し上げたことには間違いないだろう。 「ぐわー! ぐわわー!」 「なんだ可愛さアピールか! 負けるか! 翼アピール!」 少年に対してアピールをしたい愛にとって、ももんがの翼膜アピールは決して感化できない大問題だった。超絶宇宙的可愛さを賭けた一大決戦()をおっぱじめた彼に隙はない。無いってば。 「ああっははっはっはhhhhhh!!」 ちなみに、ももんがから撫で斬り連打を受けながらもエーデルワイスは 何故か堕ちて久しいももんがの死体撃ちに勤しんでいた。 やめて! 子供に見せるもんじゃないわよ! 「ちょろちょろ動き回られると追い詰めづらいじゃないか」 いっときボコボコにされても、都斗は懲りずに前線に……戻ろうとはしたが、余りに(一部の)ダメージが酷いことを考えるに、回復に回らざるをえない現状でもある。 更に言うなら、このグッダグダな戦況に於いて攻めに出るのは、些か無謀であると言えなくもない。 少なくとも一体のももんがを倒している以上、逆上した彼らの反撃が思わぬ結果を招くことは……あるだろう、そりゃぁまあ。 「ごめんな、あれ良くない害獣だから、やっつけないといけないんだ」 「えー、かわいいのに……」 「でも、分かるだろ? 結構凶暴なんだ……ところで腹減ってないか? 後で何か食べさせてやるからな」 「う、うん」 柔らかく頭を撫でるアウラールは、少年の目からすれば至極普通の――多少得物が常識を逸脱しているが――心優しい青年に見えた。 だが、周囲の戦闘の様子はそうはいかない。愛に至ってはももんがと張り合うため「だけ」に翼をばっさばっささせている。気合が入っているというか、愛に生きているというか。愛、だけに。 三体の集団が、そこにきて初めて、散開する。 が、カルラはその状況すらもはじめから想定して動いている。空中に居る相手が、距離を取る可能性……冷静に考えれば、革醒間もない相手でもそんなことはざらにあろう。 ナイトランスが、暴力的なまでに回転する。 彼から一番遠い位置に居るももんがに、その先端を向ける。轟音と共に射出されたそれが、迷いなくその身に届き貫き、その血すら回転で弾き飛ばしながらその手に舞い戻る。 「躊躇う事ができるほど、俺は強くない。そんな傲慢は持ち得ない」 ランスを振るい、残心を取るその言葉には躊躇すら感じられない。それが、当然であるとばかりに。 「私のほうが速い、強い、オマケに可愛い」 「ぐわわっ!?」 びゃくやが、両腕を大きく広げてももんがに肉薄する。確かに、着物の袖がそれっぽく、ももんがからすれば無茶こそあれ張り合われている感じが強い。なんだこの人間。 そして、戦況が長引けば一番問題になるのは……プラチナのネタ切れだ。挑発というのはなかなかに難しい。 相手の気分を盛り上げ、且つ挑発する文言を絶えずばらまかなければならないというのは、かなりの消耗を伴うだろう。 (ば、ばかな、そんなキャラ崩壊をボクが出来るわけ無い……だが……) 「ぐ、ぐわー」 「ぐわわぐわ、ぐわー!」 任務には勝てなかったよ……。 あ、ところで。 トリガーハッピーしてテンション全開だったエーデルワイスですが、どうやら周囲への目配せを僅かに忘れていたようで。 ……ええ。自分で倒した木の下敷きになっていました。 まあ、巻き込まれた御仁もいますが、それはそれとして。 「ごめんねももんがちゃん!」 言葉の割に楽しんでいるようにしか見えないが、壱也の攻め手は真剣そのものだ。 ばちこーん、と弾き飛ばされたももんがも、べちゃりと地面に落ちてしまい。これにて、全てのももんがは土に還る道理となった。 「ももんがさん達が、変に構ったお陰で、この子を発見出来たよ。ありがとう、後は任せろ」 感謝の気持を忘れないアウラール、マジ紳士。 ●ぐぐわわー 「もう大丈夫だよ、怪我ない?」 「う、うん……」 壱也に頭をくしゃくしゃとなでられた少年は、くすぐったそうな顔をして複雑な表情だ。 目の前で起きたことも、そうなるまでの経緯も、年端もいかない少年に背負わせるにはやや重い。 だが、そんな少年の意思を和らげたのは愛の渡した饅頭だ。 腹が減っては、というが、冷静な判断力などは満腹感に比例する。その判断は、正しいと言えた。 「宇宙的可愛さのボクに任せなさい」 「……」 一瞬、少年が道ならぬ恋に身をやつしそうになったのはちょっと。ちょっと。 下山の途、アウラールに手を引かれ、カルラやプラチナの真摯な問いかけに、少年はぽつぽつと話を進めはする。 自分を連れてきたのはやや遠縁の人間であったこと、少年の両親は数カ月前に鬼籍に入っていること、少年の存在は、親類縁者にとって決してプラスにはならない存在であるということ、など。 彼自身もある程度の知識と学習力はあるらしく、子供なりに知恵をつけた立ち回りをしていたようだが、限界があったこと、など。 特筆すべきは、そんな話をしている途中であっても涙一つ嗚咽ひとつ漏らさないことか。それを堅牢な精神力と取るか、摩耗した末の自己防衛と取るかはまた違った話になろうが。 「キミは今不幸か?」 プラチナの問いに、分からない、と少年は応じる。でも、保護されることに否定はしないし、それが許されるならそうする、とも応じた。 「自分で決めた未来に幸も不幸も無いのだよ。あるとすれば成功か失敗か」 「優しい人たちばかりだから、大丈夫だよ」 戦闘中であれば過激ともとれた少女の、柔和な笑顔と優しい声色は少年にとっては救いだったに違いない。母性を欠いた少年時代など決して幸せであるわけがない。 それより何より、少年は彼らの目が、言葉が、「ここ」へ連れてきた人間のそれとは全く違うものだということも知っている。 何より相手にその意識を割く在り方が、どれだけ温かいものかということをしっている。 だからこそ、縋るように掴む手に力が入る。 「ボクと一緒に未来の事を考えよう」 こくり、と頷く目には、明らかに戦闘時とは違う力の篭った瞳があり。 「次はムササビでも持ってくるんだなっ」 背後に黒々と広がる森へそう告げたびゃくやの耳に、遠く吠え声が聞こえた気がした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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