●迷子の人形 「これは……困ったことになったのだわ」 人気のない路地を歩きながら、彼女はそう呟いた。 蒸し暑い夜だ。歩くだけで、汗が滲む。にも関わらず、彼女が着ているのは黒と白を基調としたゴシックロリータと呼ばれる、ドレスにも似た服だ。 流れるような銀髪が乱れることはなく、白磁器のように白い肌にも汗など微塵も滲んでいない。季節感、というものを感じさせない少女だった。 それもその筈、彼女は人ではない。彼女は人形だ。よその世界からやってきたアザーバイドと呼ばれる存在である。名を(メリー・ドール)という。 「帰り道が分からないのだわ……」 ガラス玉の瞳に、涙を滲ませメリーはぼやく。独り言でも言っていないと、不安で押しつぶされそうだった。普段から強気に振舞うことの多い彼女だが、その実かなりの小心者である。 「さっきから嫌な気配も感じるし……。こんなことになるのなら、大人しく帰っていればよかったのだわ」 偶然、公園に開いたディメンションホールを潜ってメリーはこの世界にやって来た。恐る恐る、ゲートを抜けた彼女が見たのは公園に並ぶ遊具の数々、それから眩く光る自動販売機だった。 彼女のいた世界には存在しないものだ。彼女は自動販売機に興味を抱き、他にもないかと公園から出て、探しまわった。等間隔に設置された自動販売機を辿っていくうちに、やがて彼女は迷子になったのだ。 メリーは本来、一人きりを嫌うアザ―バイドである。 初めこそ、好奇心が勝って恐怖を感じていなかったものの、時間が経ち冷静になるにつれて一人きりで夜道を彷徨うことに恐怖と不安を感じるようになったのだった。 おまけに、どうやら彼女の気配に惹かれ周辺を数体のE・フォースが徘徊しているようでもある。 自身の周りに、E能力を持たぬ者から視認されなくなる結界を張ってはいるものの、そんなものE・フォースには通用しない。 メリーは、月を見上げて小さく声を漏らす。 「怖いのだわ……」 大きな瞳から、一筋の涙が流れた。 ●人形捜索 「今回の任務は、迷い込んだアザ―バイドを元の世界に返すこと」 と、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げる。モニターに映った人形の少女に視線をやって小さくため息を吐いた。 「アザ―バイドはいつもお騒がせね。今回のメリー・ドールは危険なアザ―バイドではないけれど。強いて言うなら、少しわがままで臆病な所が厄介かしら」 好奇心に駆られると、碌なことにはならない。 良い教訓だと、イヴは画面に映ったメリーを見て、思う。 「歩くのが遅いみたいだから、公園を中心に半径5キロ以内にはいる筈。住宅街で道が入り組んでいるから気を付けてね」 それと、とイヴは指を1本立てた。 「彼女に惹かれて、E・フォース(影)が徘徊しているからついでに退治してきて。E・フォース(影)は、足元に伸びる影から突如現れて首を絞める攻撃を得意とするみたい。それと不可視の衝撃波。全部で6体ほど現れたから」 退治してね。 なんて、イヴはいう。 「影は一般人に興味がないみたい。それから、メリーも結界を張って自分の姿が一般人から見えないようにしている。けど、戦闘に巻き込まないように気を付けてね」 できることなら、大きな音は立てない方がいいだろう。 音をたて、戦闘に時間を費やせばそれだけ人に見られる可能性が増えてくる。 「メリーは割と軽いから十分抱えて走れると思う。最も、素直に抱えられてくれるかどうかは分からないけど」 自動販売機に興味があるみたいだから、ジュースでも買ってあげると良いんじゃない? おまけみたいにそう言って、イヴはパンと手を叩く。 「それじゃあ、人形探しに行ってきてね」 集まったリベリスタ達を見渡しながら、イヴはそう言って小さく手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月15日(日)00:17 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●月夜の街に 綺麗な月夜だ。夏場にしては涼しい風が吹いている。 住宅街の街灯の真下。背の低い、銀髪の少女人形が不安そうな顔で辺りを見まわしていた。 アザ―バイド(メリー・ドール)。それが彼女の名前だった。好奇心に駆られ、この世界にやってきた彼女は、この住宅街を彷徨ううちに迷子になってしまっていた。 「まずいことになったのだわ」 知らない土地で一人ぼっち。メリー・ドールの不安は募る一方だった。 「今回の意世界からのお客人は人形とか」 自動販売機の光を追いながらアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)が頭を掻く。 現在リベリスタ達は2つのチームに別れて、迷子のメリー・ドールの捜索中なのである。彼らはB班だ。 「またこちらに来られたのですか。これはまた紳士であるわたしの出番のようですね」 以前にもメリーに会ったことのある『奇術師』鈴木 楽(BNE003657)が、仮面に覆われた顔を回す。 「迷子ですか……。随分昔に私もそういった事になった事があります……」 心配そうに目を細め『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)がそう呟いた。 千里眼を用いて、辺りを捜索しているのだ。メリーの他にも、今回はE・フォース(影)が彷徨っている。そちらの注意も怠れない。 「敵以外の危険に遭ってないといいけど。車とか」 民家の庭に停車している車に視線をやって『薄明』東雲 未明(BNE000340)がそう言った。物影に注意深く視線を走らせながら、住宅街を進む。 そんな彼らの背後、地面に伸びた影から何かが起きあがる……。 一方その頃、残りの4人はA班としてB班とは反対方向を捜索していた。 「異世界からのお人形さん。迷子になってしまうとは大変だ。お嬢様はお転婆だ」 溜め息を一つ『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は自動販売機に手を押し当てた。サイレントメモリーのスキルを使い、メリーの行方を探っているのだ。 「甘い匂いに誘われて出てきてくれたりしないでしょうか?」 バスケットに入れた焼き菓子に目をやり『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)はそう言った。 『可哀相に……。助けましょう……純粋に。安心して……また、お茶会をしましょう。楽しく』 仲間達の脳裏に『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)の声が木霊する。ハイテレパスによる念話である。発語を嫌う彼女の使う、他人とのコミュニケーションの手段である。 そんな彼女の歩みがふいに止まった。 「どうかしましたか?」 ミリィが首を傾げて訊ねる。二人の歩みが止まったことに気付いて、前を歩いていた他のメンバーも引き返してきた。 つい、と汐崎の腕が伸びる。指差した先にあるのは、マンションの駐車場である。 「む……? 何かいるのだ」 朱鷺島が目を細め駐車場を覗きこむようにしている。街灯に照らされた駐車場の隅に、なにかがいるようだ。 それは、地面の影から湧きあがっているようにも見える。 『E・フォースではありませんか?』 汐崎の声が頭に響く。成程、確かに言われてみればその人影は、事前に聞いていたE・フォースの特徴と一致しているように見える。 「何か、襲っていませんか?」 不安そうな顔でミリィが仲間たちに訊ねる。 次の瞬間、影の間から銀色の髪の少女が飛び出してきた。 「なんなのだわ! 何者なのだわ! 何事なのだわ! しかし、怖くなんかないのだわ!」 紅い瞳に涙を溜めて、少女(メリー・ドール)が駐車場をかける。その後ろから、影がメリーを追いかける 「お人形さん! かわいい! ツンツンしてる! かわいい!」 メリーの姿を確認するや否や『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が、日本刀とブロードソードを両手に構え、奇声をあげながら駆けていった。 ●迷子の人形。 「な、何者なのだわ! 怪しいのだわ! 恐ろしいのだわ!」 後ろから影、前から結城と、二大脅威に挟まれてメリーの動きが止まる。前と後ろに、視線を彷徨わせ、涙を流す。 「泣き顔も可愛いだろうけど、笑顔のがもっと可愛い! だから守るのさ! この俺が! うっひょおぉぉぉぉぉぉぉお! ぺろぺろおぉぉぉぉぉ!」 「あ、いやあぁぁぁぁぁ!!」 裂帛の気合いと共に、結城が地面を蹴って飛び上がった。と、同時にメリーは地面を滑るように、横へと回避する。 先ほどまでメリーが居た場所で、結城のオーラが爆発した。ニ刀が交差し、影に叩きつけられる。 「こんばんは。お嬢さんが1人でお散歩は少々危険なのだ。よろしければ、ご一緒に夜のデートはいかがだろう?」 地面に倒れたメリーに、朱鷺島が手を伸ばす。メリーは不安そうな顔で朱鷺島を見つめるが、やがてそっと腕を伸ばし朱鷺島の手を握った。 「大丈夫。なにがあっても、貴女は私達が守るから。だから、信じて」 駆け寄って、不可視の刃を放つミリィがそう告げた。ミリィの作った隙を逃さず、結城は影を切り伏せる。 『もう大丈夫。怪我はない?』 汐崎の声が脳裏に響く。汐崎の姿を見つけ、メリーが「あっ」と声をあげた。 「あなた、前に会ったことがあるのだわ! お絵かきする人なのだわ」 メリーの言葉に、汐崎が笑顔で返す。 そこへ、影を倒した結城が近寄ってきた。結城の姿を見て、メリーは朱鷺島の背に隠れる。あからさまにショックを受けた顔をする結城を見て、朱鷺島は笑う。 『とりあえず、ここから離れませんか?』 騒ぎを聞きつけたマンションの住人が出てくるのを察して、汐崎が言う。 「そうですね。では、メリーさんの発見をB班に伝えますね」 AFを取り出し、ミリィがB班に連絡を繋げる。しかし……。 「……なんか、向こうは向こうで影に襲われているみたいですよ」 「公園に移動するのだ。大丈夫、君に怪我は絶対にさせないのだ」 メリーを助け起こし、朱鷺島が言う。メリーは頷いて、彼女の手を強く握り返した。 「よッしゃ。殿は俺が務めるから、とっとと移動しようぜ」 結城の言葉を合図に、彼らは移動を開始する。 「参ったわね……」 バスターソードを手に、東雲が荒い息を吐く。先ほどから、数体の影に襲われているのだが、相手がすぐに影に潜んでしまうので中々苦戦しているのだ。 「メリーさんを狙っているのではなかったんですかね?」 現れた影に向かって真空の刃を投げつけながら、アルフォンソが訊ねる。不可視の刃が、伸びてきた影の腕を切り落とす。すぐさま、東雲が影本体にバスターソードを振り下ろすが、影に潜って回避される。 「下手に距離をとり過ぎるのも危険じゃないですか?」 足元に視線を送りながら、鈴木は言う。現れては消え、を繰り返す影はどこから現れるか分からない。そんな鈴木の背後、住宅の塀の影から真っ黒い腕が伸びる。 「うわっ……!?」 咄嗟にワンドで受け止めるが、間に合わない。影の腕が、鈴木の首を締めあげる。 影の腕が巻き付いた部分から、鈴木の体が凍っていく。追い打ちをかけるように、更に2体の影が姿を現し、鈴木に襲い掛かる。 「ここを通すわけにはいかないわねぇ」 残像が生まれるほどの速度で剣を振るいながら、東雲が影と鈴木の間に割って入る。その隙に鈴木に巻き付いた腕を引っぺがし、アルフォンソが彼の体をその場から引き離す。 地面に転がるようにして影から逃げるアルフォンソと鈴木。そんな2人の頭上を、東雲が飛び越えていった。 「メリーさんを探しているのに、こんな所で足止めされているわけにはいかないのです。出来るなら、早く見つけて帰して差し上げたいのですから」 風宮が腕を振るう。途端、影たちの真上から氷の雨が降り注いだ。氷の刺が、地面に突き刺さる。 「今のでどれだけ、ダメージを与えられたか分かりませんけど……。移動した方がよくないですか?」 今現在、住宅街の道路で戦闘している。いつ人が来るか分からない状態だ。 本来の目的はメリー・ドールの捜索である事だし、ここは一旦引かないか、と提案しているのだ。 風宮が鈴木に寄って行って、ブレイクフィアーを使用する。氷が解け、鈴木の体が自由になった。ワンドを握り直し、鈴木が立ち上がる。 「どうやら、まだ影はそこにいるみたいですよ」 鈴木の視線の先には、地面から這い出す影の姿があった。全部で3体。人の形をとった影が、4人に向けて腕を伸ばしている。 その時、東雲のAFに連絡が入る。影から目を離さないまま、東雲はそれをとった。 「A班ですか?」 アルフォンソが訊ねる。 暫し、短い会話を交わして東雲はAFを通信を終了させる。 「メリーさんが見つかったそうよ。だからこいつらはここで倒してしまいましょう」 そう東雲が呟いた瞬間、眼前に並んだ影達が動いた。 「来ます! 構えて!」 風宮が叫ぶ。と、同時に、影が腕を振るう。ゴウ、と辺りの空気がかき混ぜられ、4人を影が放った衝撃波が襲う。咄嗟に鈴木がマジックアローで迎え撃つが、僅かに威力を削ぐことしか出来なかった。 「う、おぉぉお!」 アルフォンソの体が後ろに弾き飛ばされる。それとは反対に、風宮はその場に縫いつけられたかのように動けなくなった。 衝撃派が収まると同時に、東雲は剣を構え駆け出す。気合い一閃、オーラを込めた一撃を、影に向けて叩きつける。 「そっちは頼みますよ」 鈴木は、風宮の状態異常を治すために彼女へ駆け寄っていった。 「メリーさんも保護した事ですし、急いで片づけましょうか」 真空の刃を作りながら、アルフォンソはそう呟いた……。 「あいつらはきっと、わたしの体を乗っ取るつもりなのだわ」 結城から貰った電子ペットを抱え、メリーが言う。 「どういうことなのだ?」 メリーの手を引きながら、朱鷺島が首を傾げる。隣を並走する汐崎も、同様に首を傾げた。 「体を欲しがっているのだわ、きっと。人形のわたしは、やつらからしたら丁度いい入れ物なのだわ」 だから、影たちはメリーを探していたらしい。 「同様に、きっとあなた達も狙われるのだわ。入れ物に丁度いいから」 恐らく、E能力の有無が関係しているのだろう。だから、影はメリーやリベリスタ達を襲って乗っ取ろうとしているのだ。 「B班が狙われたのに、これで合点がいったぜ」 最後尾を走りながら結城が言う。公園はもう目の前だ。ここまで無事に逃げてくることができたのは、B班が影の半数を押さえていてくれるからだろう。 「無事に全部終わったら、お茶会を開きましょう。怖いだけの想いを、持って帰ってもらいたくないですから」 ミリィは、優しくメリーに笑いかけた。 そっと、手を伸ばし、メリーの銀髪を撫でる。メリーはくすぐったそうに身をよじって、笑う。 しかし、次の瞬間……。 「……えっ!?」 ピタリと、ミリィの動きが止まった。まるで、その場に縫いつけられたように、不自然に身体が停止する。戸惑いの表情を浮かべるミリィと、突然の出来事に驚いて動きを止めるリベリスタ達……。 「逃げ……」 喉の奥から声を絞り出して、ミリィはメリーにそう告げた。 「あ? え……!?」 戸惑いの声をあげるメリー。そんな彼女の足元から、不意に真っ黒い腕が伸びて、彼女の体を掴んだ。 「あ……つめた……」 ビク、っとメリーの体が跳ねる。メリーの足元から、E・フォース(影)が立ち上がってくる。それを見て、やっと事態を理解した朱鷺島が、メリーの体を抱えあげる。 しかし……。 「だ、ダメ。力……強いのだ」 グイ、っとメリーを引っ張り上げる朱鷺島だが、しかし影もメリーを引き渡すつもりはないのだろう、掴んだまま離そうとしない。 「くそ……。見つかったか」 結城が刀を振るって、影の腕を断ち切った。腕が消えて、メリーの体が自由になる。その隙に、朱鷺島がメリーの体を抱えて宙に舞い上がった。 それを追って、影から幾本もの腕が伸びてくる。結城がそれを切って捨てるが、数が多い。その内1本が、宙を飛ぶ朱鷺島に迫る。 「き、来たのだわ!」 「大丈夫」 朱鷺島が式符を投げる。一瞬でそれは鴉に変わり、影の腕を貫いた。 『とにかく……。一旦引きましょう』 身動きの取れないミリィを、汐崎が抱えあげる。結城もそれを手伝い駆けだした。 目指す先は、公園だ。 月明かりの下、駆ける4人の背後から影が2つ追って来ていた。 ●真夜中のお茶会 「もう少し、もう少しなのだ……」 メリーを抱えて朱鷺島が飛ぶ。すぐ傍には、ミリィを抱えて走る結城と汐崎の姿もある。 そんな彼らの後ろから、影が追ってくる。 しかし、公園まであと少しというところになって、ついに4人は影に追いつかれてしまった。 「くそ……。参ったな」 前後を影に塞がれて、結城たちの動きが止まる。狭い住宅街の道だ。影の脇を無理やりに突破するのは、賭けに近いだろう。 素早く視線を走らせる結城。 『隣、空き家のようです』 超直感によるものか……。汐崎が仲間達の脳裏に直接語りかける。 「朱鷺島! メリーを連れて、庭に降りろ!」 そう叫ぶや、結城はミリィの体を持ち上げ、塀の向こうへ放り投げた。それを追って朱鷺島とメリーも庭に降りる。影がメリーを追って、庭へと移動するが、汐崎の放った光の矢がそれを阻んだ。 『あの娘、私のこと、怖がらなかったから……。らしくないけど、私が彼女を助けるには十分過ぎる理由なの』 影を睨みつけ、誰にともなく汐崎は言う。 「メリーたんにいい所見せて、高感度UPを狙う! 素直なのが俺のいいところさ!」 ニ刀を構え、結城も影に向き直った……。 戦闘の音が遠ざかる。背後からは、結城の怒号。汐崎も一緒だ。 「お、追ってきます!」 「分かっているのだ。しかし……」 「影に潜っているのだわ!!」 麻痺から回復したミリィと、メリーを抱えた朱鷺島が公園に向かって駆ける。背後からは、1体の影が、半ば地面に潜ったまま追いかけてくる。 汐崎と結城の隙をついて、1体の影が庭に侵入してきたのは数分前のことだ。追いかけようとした2人の前に、立ち塞がったのは残りの1体の影だった。 2人と分断された朱鷺島とミリィは、メリーを抱え庭から逃げ出した。最悪メリーだけでも、公園のディメンションホールから逃がすつもりらしい。 「あっちへ行ってください!」 ミリィが投げた不可視の刃が地面を砕く。しかし、相手が影に潜った状態では、ダメージを与えることは出来ないでいた。 同様に、朱鷺島の放った鴉も、地面から伸びた影の腕に撃墜される。 「こ、怖いのだわ。だんだん迫ってきているのだわ!」 メリーの瞳から涙が溢れる。結城から貰った電子ペットを不安そうに抱きしめた。 次の瞬間、背後に迫っていた影から腕が伸び、朱鷺島の翼を掴み、地面に叩きつける。 「あぁ、っう!!」 短い悲鳴をあげる朱鷺島。咄嗟にメリーの体を放り投げる。それを受け取ったのはミリィだ。朱鷺島の意思を無駄にしないため、そのままメリーを抱えて逃げる。 「メリーを頼むのだ……」 下半身から氷に包まれていくのを感じながら、朱鷺島はそう囁く……。 「わ、わたしのせいで……ライオンが」 「朱鷺島さんなら、大丈夫ですから!」 自分に言い聞かせるようにミリィが叫んだ。 不意に、その脚が止まる。彼女の前に、影が現れた。朱鷺島の動きを止め、追いついて来たのだ。ミリィが不可視の刃を作る。 影が腕を伸ばした。衝撃波を放つ構えだ。咄嗟にメリーを庇うミリィ。衝撃に備え目を瞑る。 しかし、覚悟していた衝撃は襲ってこなかった。 「……?」 背後を振り返ると、そこには光の矢で貫かれた影の姿がある。 「お久しぶりですメリーさん。あなたの楽です」 シルクハットを胸にあて、鈴木が礼をする。光の矢を放ったのは、彼だろう。 「始めまして、メリー・ドールさん。迎えにきましたよ」 鈴木の背後から現れたのは、風宮だった。にこやかな笑顔で、メリーに手を振る。 「ボトムの月夜はなかなか奇麗でしょう? お茶会しましょうよ」 そう言って東雲はバスターソードを冗談に構えた。そのまま、気迫を込めた一撃を、影に向けて叩きつける。真っ二つに分断され、影は姿を消した。既に、今までの戦闘で大きなダメージを受けていたのだろう。消滅した影と入れ替わるように、アルフォンソが前に出る。 メリーの体を抱えあげると、自動販売機へと近づけた。 「これは飲み物を販売する機械ですよ。どうぞ、お好きなものを」 そう言って、アルフォンソはメリーに笑いかけた。 3体の影を討伐し、B班は公園に戻って来ていた。しかし、中々帰ってこないA班とメリーのことを心配し、様子を見に行こうとしていたのだ。そこに来て、ミリィの叫び声が聞こえた。 全速力で現場に急行し、今に至る。 「わたしは、助かったの……? あなたは、誰なのだわ? 見た顔もいるようだけど」 鈴木や東雲に向かって、メリーは小さな手を振った。2人はそれに笑顔で応える。 『メリーちゃん、無事だったんですね? 困ったらいつでも呼んでください。あなたは大切な隣人ですから』 追いついてきた汐崎が、メリーに告げる。彼女の隣には、結城と朱鷺島の姿もある。 メリーは、自分を助けてくれた8人のリベリスタ達の姿をぐるんと見まわした。 朱鷺島が、結城が、汐崎が、東雲が笑う。 風宮が、鈴木が、ミリィが、アルフォンソがメリーを見つめ返す。 「ありがとうなのだわ!」 満面の笑みでお礼を言うと、メリー・ドールは炭酸飲料のボタンを押した。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|