● 『西、異常ありません』 『東、同じく異常ありません』 無線機から声が響く。時計を見る。時刻は深夜十二時を回っていた。周囲に異常はなく、倉庫内には自分以外に誰もいない。ここまでは順調だ。 「ご苦労。そのまま警備を続けるように。お前たちを含め、誰も通すなよ」 返事も聞かずに無線から意識を逸らす。本題に向け気を引き締めなければならない。 今私が対峙しようとしているのは残虐非道なアザーバイド。それを手懐けなければならないのだから。 方法を理解しているとしても、殺されはしないかと自然と気が引き締まる。 倉庫内は整然としている。もう使われていないせいだろうか、少し動けば忽ちホコリが舞うほどに汚い。以前使われていた時の名残だろう鉄棚が数多存在していたが、アザーバイド出現箇所、そしてそれがここから脱出するのに邪魔な分は片付けてしまった、だから倉庫の半分以上は空白ができたように何もない。アザーバイドを迎える準備は万端だ。 だが、そのアザーバイドについて事前に得られた理解は実に乏しいものだ。それは初めて会ったものを『親』と認識するほど純粋で、『親』以外の全てを殺し尽くすほどに残忍である。ただ放っておくにはあまりに危険で、かといって無事に帰してしまうにはあまりに惜しい力であった。 その性質故に倉庫周辺には警備網を強いている。ネズミの一匹でも入り込めば、ここで待機している私たちの方が危険に晒される可能性が高いのだから。 私が何度目になるだろうかという位の時間の確認を行ったその時、私から十メートルほど離れた位置で不快に満ちた音が鳴った。 私が視線をそちらに向けると、そこには黒々とした穴が大きく口を開けていた。 私が穴をじっと見ていると、それはのっそりと姿を現した。 四本の足で立つ毛むくじゃらのそれは、猫に似た鋭い目つきで虚空を見つめている。足の指は全て鋭く尖り、尻尾を器用に動かして周囲の邪魔を散らしている。 私は息をのみながらそれに歩み寄った。それは私に気付いてこちらを見、そして一瞬だけ警戒するように喉を鳴らした。しかし私に一切の攻撃性が無いことを悟ると、すぐに止めた。 それはこちらの顔を見つめている。私はそれを見下ろしつつ、言葉をかける。 「言葉は通じる……か? 分からないな」 それはキョトンとした顔でこちらを見ている。だが鋭いその視線は、睨むようでもあり、また部それの轟音にも似た息を吐く音や、黒色をしたその体の悍ましさが、一層の畏怖を私に植え付ける。 ただでさえそれは私の体の二倍もあろうかという巨体をして、私の体と同じ位とも思われる牙を有しているというのに。これ以上恐怖を与えられたら冷静でいられなくなるかもしれぬ。それ程に私は緊張を強めている。 「……まあ、いい。私はお前を『保護』しにきた。一緒に来てもらおう」 ああ、そうだ、と男は思い出したようにある方向へと近付いて行く。そこには、それが出てきたと思われる『穴』が存在していた。私は無言でそれを見つめ、やがて破壊した。 「これでいいだろう」 私はそれの方を見る。それは現状を理解していない純粋な目線をこちらに向けて来る。 そうだ、これでいい。 「さあ、行こう。とりあえず、周囲にいる者でお前の力を見せてくれ」 ● 「アザーバイドが現れることが予知されました」 そこまで言って、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)そのアザーバイドの姿を見せる。色さえまともなら、もう少し見れた姿になったのだろうかという考えが、誰かの脳裏を過る。 「性質は非常に凶暴で残虐、周囲に動くものを見つけたら動かなくなるまで攻撃を続けます。ただ一つの例外を除いて」 「例外?」 「はい。理由は定かではありませんが、アザーバイドはこちらの世界に現れて初めて見た動物を一切攻撃しようとはしません。インプリンティング、のようなものでしょうかね。最初の一人を『親』と認識するような。 そしてこの現場では、逆凪派と思われるフィクサードがアザーバイドの出現を待っています。一人で、というのはあまりに無防備ですし、周囲に罠でも張っているのでしょうか……それは定かではありませんが」 フィクサードはアザーバイドの出現を予知し、自分が『親』になろうとしているのだという。その目的こそ定かではないが、ろくでもないことなのは恐らく間違いない。 「フィクサードはアザーバイドが出現するとすぐ、D・ホールを壊してしまいます。そうなればこの怪物を帰せなくなってしまうので、それは避けなければいけません。この世界においておくには、あまりにも危険すぎます」 強靭な巨体から来る攻撃が、凄まじく強力であることは容易に予想がついた。倒すしかなくなったり、フィクサードの想いのままになるより先に、平穏のまま帰すのが望ましい。 「場所はある倉庫のようです。詳細は資料を確認してください。倉庫には入り口が幾つかありますが、南側、つまりフィクサードから最も近いところにある東西の入り口以外は固く封鎖されてしまっているようです。その東側、西側の入り口は通行は可能にはなっていますが、シャッターが閉められ、鍵がかけられているみたいです。倉庫の東側、西側には警備のフィクサードが配備されているんですが、彼らの中の一人が鍵を所持しているようです。解析の結果、鍵をもつフィクサードは判明しています」 鍵なしにシャッターをぶち破ることも可能であろうが、それ相応の時間はかかってしまうだろう。だがリベリスタに与えられた時間はそれほど多くなく、時間をかければそれだけアザーバイドへの対処は難しくなる。獰猛なアザーバイドとあってフィクサードも慎重だ。確実に『親』になるべく動いている。 「『親』の言うことはある程度聞くでしょうが……本能的な行動までは、きっと抑制できないでしょう。ともかくアザーバイドをフィクサードの好きなようにはさせてはいけません。目的次第では、まずいことになるかもしれませんから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月15日(日)00:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 大きな体、大きな牙を持った猫さん。 きっとそれは純粋に親を慕う心を持っているのだろう。 それを自分の力のために使い、そして彼を慕う配下でさえ利用しようとする。 芦谷鳴矢という男には心がないのかと『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)は思う。 けれどもきっと心優しい彼女が、猫と称したアザーバイドを居るべき場所に帰してくれるはずだ。 あひるはそっと『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)を見る。雷音は時間を気に留めながら、その迷子の猫に会うために必要な『鍵』を持つ者を見定める。 知らない世界に一人で来て、ただ利用されるだけなんて悲しすぎるから。 迷子の猫は自らの世界へ。親となるなら案内役は務めようと雷音は決意する。 リベリスタたちは倉庫の西側へと到達する。そこには七名のフィクサードが、倉庫の入り口を遮るようにズラリと並んでいた。その一番後ろで気難しそうに周囲を見回している男こそ、倉庫に入るための鍵を持っていると、フォーチュナが言った者であった。 「迷子の子猫か」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)はフィクサードに聞こえないように静かに呟いた。 「にゃんにゃん泣いていれば可愛げもあったが、泣かせる方ならお帰り願おうか」 ユーヌは先陣を切り、フィクサードの元へと飛び込んだ。俄にざわつくフィクサード。集中する視線を気にも留めず、彼女はニヤリと笑う。 「生け贄諸君見張りご苦労、死亡フラグを守るのはどんな気分だ? 小銭のことを考えて居たのだろうが、想像力が欠如し過ぎだな」 「敵襲だ! 入り口の防衛を最優先に動け!」 最後尾から大声が響くが、何人かには既にそれは届いていない。鬼の形相でユーヌに向かっていく彼らを見、フィクサードの一人は軽く舌打ちした。そしてリベリスタの進攻を阻もうとする。けれどもユーヌに人口を割かされた今、リベリスタ全ての行動を阻めるほどは数がいない。雷音は素早く駆けて入り口付近まで移動する。苦々しく顔を歪めながら、フィクサードは彼女と相対した。 その最中、七布施・三千(BNE000346 )が眼鏡を外しながら、自信たっぷりに言った。 「誰が鍵を持っているのか調べます。ここにいる誰かが持っているのはわかってるんです。僕の目からは決して逃れられませんからね、ふふふ……」 鍵は誰が持っているかはわかっている。これは脅しであり、確認だ。その結果確かに彼の男が鍵を持っている事は確かなようだった。彼は仲間に十字の加護を与えながら、その時を待つ。 ユーヌは自分に突っ込んで来るフィクサードたちをうまく誘導して、振り向く。フィクサードの数、位置、様子を確認して、彼女は涼しい顔で告げる。 「さて、竜一出番だぞ?」 「おうよ!」 合図と共に、『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が自身の得物を振り回しながら戦場へと飛び込んだ。 それの描いた円が発した強烈な烈風は、周囲のフィクサードを余すところなく飲み込んでいった。容赦なく叩き付けられたそれにフィクサードは怯みを隠せなかったが、それでも一部はなんとか体勢を立て直していた。 「貴方たちなら、私達の持つ万華鏡の精度をよく知っていますよね?」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は視野を広く持ちつつ、彼女の近くに居たフィクサードに声をかける。 「いえ、知っているからこそこうして見張りを立てているのでしょう」 「ごたごたうるせえ!」 男は言葉の勢いに任せて剣を振るう。ミリィは怒りだけのこもったそれを難なくいなす。 「万華鏡が何だって? んなもんあってもお前らはあのアザーバイドの前じゃ無力なんだよ!」 「あなたたちもこの後、芦谷に猫の力試しに使われる……。今すぐ、ここから退いた方がいい」 「……あん?」 あひるの呟きに、男は思わずうめき声のような声で応答した。 「彼は何れにせよ、貴方たちを生かすことを考えていないのです。猫を呼び出したら、貴方たちで力試しをしようとしていたのですから」 静かに言うミリィを、フィクサードは怪訝な表情で見つめた。彼らはリベリスタから倉庫を守らなくてはならない。しかし鳴矢が彼らの敵であると主張する彼らの話に対し、思案を巡らせないわけにはいかなかった。 「アークに猫をぶつけるつもりであっても、さっさと撤退しないと君たちも被害者だ」 雷音が呪力を収めつつフォローを入れる。 「あひるは、あなたたちを攻撃したいわけじゃない……。この後起こる、悲惨な出来事を回避しに来たの。できるなら、あひるはあなたたちも守らせて欲しい」 あひるの言葉に、フィクサードは僅かにぐらついた。 「それでもあなた達は、私達と戦おうというのですか……?」 「……どうしても残るのなら、アークが相手するわ……」 ミリィとあひるがそれぞれ念を押す。フィクサードの心は揺れていた。万華鏡でかなり正確な未来を知る事が出来るリベリスタ。彼らの主張はきっと正しいのだろう。そして彼らの言葉もまた、心に響くものではあった。鳴矢という男は命をかける程の人物であるだろうかという疑念が、フィクサードの中に生まれる程度には。 けれども一つだけ、フィクサードの心に引っかかりがあったとすれば。 それはリベリスタが、敵であるという事。 リベリスタの言葉が彼らの目的を首尾良く進めるための『騙り』であるという疑念を、フィクサードは拭いきる事が出来なかったのだ。 男は素早く地を蹴ると、近接していたミリィ、あひる、雷音を見境なく攻撃した。他のフィクサードも、彼の行動に続いた。 攻撃の意味は交渉決裂。 「それなら、貴方たちを倒し、企みを阻止するだけです」 ミリィは言い、すかさず狙いを定めた。 ● 「刷り込みって事は、生まれたての子って事だよね? そんな子を利用して悪い事なんてさせるわけにはいかないよ」 魔力を溜め込んだ後に放たれるは、『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が自らの血液を実体化させた黒鎖。自在に操られたそれはフィクサードたちを濁流のごとく飲み込んでいった。なだれ込んだ跡には恨めしそうに彼女を睨むフィクサードの姿が見える。 ふと、その中の一人がニヤリと笑った。同時、ウェスティアは自分に何かの影が落ちている事に気付く。その頭上には漆黒の大鎌が禍々しく掲げられていた。 少し外れた場所に居たフィクサードの放ったそれは、思い切り彼女に向けて振り下ろされる。首を狙ったそれは彼女の肩を斬り付けた後地に落ち、消滅した。 大鎌の脇をすり抜けて『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)がウェスティアに大鎌を放った男を強襲する。衝撃のあまりによろけたその体に、ユーヌは冷気を叩き込んだ。凍り付き、動きを止めたその男から目を逸らし、鍵を持っている男を探す。その男は回復役と盾役に守られながら、依然安全な位置を保っていた。 雷音は時間を確認する。戦闘が始まって既に一分が過ぎようとしていた。焦る彼女の側から、あひるが正確に狙いを定めて魔力の矢を放つ。男を貫いたその矢は天の彼方へと消え失せたが、男の戦意はまだ消えない。 「捨て駒どもが、鬱陶しいんだよ!」 血路を開くために竜一は敵の最中に飛び込んで、思い切り烈風を巻き起こした。それは周囲の、既に体力の残り少なかったフィクサードを地に伏せさせることとなった。 「西だ! リベリスタの攻撃が激しい、至急応援頼む!」 自陣営の劣勢を見たフィクサードは、東側の見張りを応援に呼んだ。それが到着するまでには多少時間がかかるだろう。竜一は自分の仕掛けたワイヤートラップが多少なり時間の稼ぎになればと思いつつ、再び剣を構える。 フィクサードは戦場に活路や退路を見いだせずにいた。誰の言葉や信念を信ずるにせよ、ここにいるのは危険だという判断は、彼らの頭の片隅には確かにあった。けれどもリベリスタの盤石な体勢は、その行動を現実にする事を許さない。 どっち付かずなフィクサードを見、ユーヌは嘲笑する。 「ここまで言われても引かないとは、どうやら地頭が悪かったらしいな」 「なんだとてめえ!」 ユーヌの挑発に、守りに徹していたフィクサードが一転、攻勢に入る。飛び交う光線や剣戟に、ユーヌは膝を折るが、その顔には笑みが浮かんでいた。 そのときフィクサードの周囲には氷の雨や激しい烈風、黒鎖の嵐が渦巻いていた。幾重にも重なったそれは、息つく間もなくフィクサードに襲いかかる。フィクサードの一人は我に返りながら嵐の中を飛び出し、その首元にある鍵を掴みながらあたふたと周囲を見回した。 彼の周囲には、不穏な雰囲気を纏った黒色の影が蔓延っていた。彼は青い顔をしながら、ユーヌの方を見る。彼女は男の不運を喜んでいた。 突き刺さる激痛は彼の戦う力を根こそぎ奪っていった。逃げるための力もない。彼はただ力なく鍵を握りながら、無防備になるしかなかった。 ユーヌは一呼吸置いてから、鍵を奪い取ろうと接近する。だが残り一人となったフィクサードが、それを阻もうとその道を遮った。 しかし、『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)が呪いの弾をその身に撃ち込み、続いて数多の攻撃が彼を襲うと、その行動も無意味なものとなった。阻む者のなくなった鍵への道をユーヌは疾走し、鍵をむんずと掴むと力のまま引きちぎった。 「頼む、アラストール」 「任せてください!」 ユーヌが鍵を一番近くにいた『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)に手渡すと、彼女は全速力でシャッターまで駆けて行く。そこには既に雷音と三千が待機していた。 同じ頃、大勢が駆けてくる音が近くなってきていた。 「マズい! 特攻するぞ!」 駆けつけたフィクサードはシャッターの鍵を開けて中に入ろうとしている三人に向けて集中攻撃を仕掛けた。炸裂した圧力が三人をその場から吹き飛ばすが、すかさずミリィが固まったフィクサードに向けて不可視の刃を送り込む。 「退いていてください、邪魔です」 「そう、邪魔だ。今更お前らの出る舞台はない」 体中を切り刻まれ疲弊したフィクサードたちをユーヌが挑発する。駆けつけた半分ほどが、ユーヌへ向けて突進した。ウェスティアは未だ三人を狙うフィクサードに向け黒鎖を放ち、竜一はユーヌに向かってきたフィクサードに飛び込んで烈風をぶつけた。 その様子を後目にアラストールは素早く鍵を外しにかかる。フィクサードの攻撃を物ともせず、彼女はシャッターを開けていった。 その最中、雷音は時間を確認する。 アザーバイドが現れるまで、あと三十秒。 ユーヌとあひるが入り口前に立ち塞がり、フィクサードの行動を阻害する。雷音、アラストール、三千はフィクサードの追撃を振り切り、倉庫の中へと飛び込んだ。 ● 倉庫の中は閑散としていた。さっきまで騒然とした戦場の中にあったせいか、彼女らには一際静かなように思えた。D・ホールの存在はまだ確認できないが、予測される出現場所には男が一人立っている。 「騒がしいと思ったら、やはりリベリスタか」 彼はその場から動く事なく、しかし確実に狙いを定めていた。 アラストールは鳴矢の持つ剣が、黒色のオーラを孕んでいるのに、気付く。 「ちょっとだけ待って欲しいね。きっともうすぐ終わるから」 振るわれた一撃が三人を容赦なく薙いだ。生じた漆黒のオーラが消えた頃、雷音は駆け、三千は低空飛行で鳴矢の方へ突っ込み、アラストールは威風を吹かせながら集中し、鳴矢に狙いを定めた。 鳴矢は冷静に、もう一度剣を奮って黒色のオーラを三人に刻み付けた。雷音はその攻撃を受けつつ、また三千は回復で体力を保ちつつ、D・ホール出現の時を待った。 「其方には其方の理屈があろうが、この世界を護る側として、人の守護者の側に立つと決めた者としてその試みは阻止させて頂きましょう」 アラストールは強い想いを込めて十字の光を鳴矢に放つ。だがそれでも鳴矢の意識は依然、アザーバイドへの興味に向いていた。 その時、不快を呼び起こす音が、倉庫の中に響いた。鳴矢の背後に一つの穴が現れた。それが現れるとすぐに、黒色の何かがヌッと這い出てくるのが見えた。ゆっくりとした動きの最中、三千が穴を破壊せしめんと飛びかかる。だがその行動は鳴矢の執念によって阻まれる。 だが三千の攻撃に気を取られ、鳴矢はアザーバイドの視界から、外れてしまった。 「こんにちは、猫さん!」 徐々にその体の全貌を露にするアザーバイドに、雷音は声をかける。共感を得られるように優しく、決して怖じけず。 鋭い爪、巨大な体、その他何もかもが、彼女には恐怖に思える。 けれども、自分を信用してくれた仲間のためにも、やり遂げなくてはならない。 「しまっ──」 鳴矢が気付いたときには、既にアザーバイドは姿を現して、雷音を視線を合わせていた。 アザーバイドが雷音を見つめる視線はまさしく『親』に向けるそれに他ならなかった。 「くそ!」 悪態を吐きながら、彼は駆け出した。その音につられ、アザーバイドは視線を逸らそうとしたが、雷音はそれを遮り、皆を隠すように頭を抱きしめた。もちろん鳴矢もそれに含まれていただろう。無用な殺戮を、それがフィクサードであったとしても、雷音は望んでいないのだから。 「ボクは朱鷺島雷音だ」 雷音は異界の言葉を用いて自己紹介する。アザーバイドに反応はない。ただ雷音を真っすぐに見つめている。アラストールと三千は静かに、倉庫の外へと出た。 「ここは君が楽しめるせかいではないから、申し訳ないが。帰って欲しいのだ」 鳴矢を含むフィクサードが逃げ帰る音がする。緊張した空気の中、誰も止める者は、なかった。 「君は利用されかけていたのだ。君は、利用されるべきではないのだ」 優しく頭を撫ぜる雷音の言葉に、アザーバイドは静かに従った。 『……もう少し、貴方と一緒に居たかったな』 名残惜しそうに後退しながら、アザーバイドは雷音の顔から視線を逸らさない。 『貴方となら楽しくやれそうな気がしたのに。いらないって言われちゃ、帰るしかないよね』 「……さようなら、猫さん」 やがてアザーバイドの全ては穴の奥へと消える。そして穴は急速に縮み、消失した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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