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<逆凪>風紀委員会 ~信仰とテロリズム~

●武装宗教団体『弦の民』、討伐運動
 裏路地のゴミ箱を蹴り飛ばして走る集団がいる。
「ハァッ、ハァ、なにアレ! なんなの、あれ!」
 皆少女ではあったが、俗世のそれとは大きく異なっていた。
 顔は真っ白く塗りたくられ、肩からは銃器を下げている。
 だが銃器を抱え持った少女はただ一人だけで、他の少女達は殆ど手ぶらに近かった。
 手ぶらと言うよりは、何も持って行く余裕が無かったと述べた方が正確だろうか。
 裏路地の出口をふさぐように、警備員風のジャケットとヘルメットを被った男が立った。軽機関銃(ベクター)を向けて警告を発する。
「止まれ! お前達は包囲されている。これ以上抵抗しても死ぬだけだぞ!」
「そう言われて止まる奴がいるフツー!?」
 先頭の少女が手にした軽機関銃(ウージー)を走りながら乱射。
 銃弾を受けて仰け反った男に、少女は腰から抜いたグルカナイフを叩きつける。
 血しぶきをあげて倒れる男。
 それを蹴倒すようにして裏路地を出ると、そこにはぐるりと周囲を囲んだ男達が待っていた。一様に警備ジャケットとヘルメット。そしてベクターの軽機関銃である。
 コツン、と少女の背中に銃口が当てられる。
 裏路地の中を追ってきた男が少女に追いついたのだ。
 ちらりと見やれば、他の少女達は既にこと切れている。
 やられた。
 少女は地面に唾を吐き捨てた。
「なにもできないコにいきなり銃殺とか、マジありえないんですけど……」
「それはこっちのセリフよ」
 タン、という靴の音と共に、男達を割って一人の少女が現れた。
 眼鏡をかけた、委員長然とした少女である。
 びっしりと情報が書き込まれた書類を翳して言う。
「新興宗教団体『弦の民』、その幹部メンバーね。あなた達には凶器準備集合並びに一般人を大量虐殺する計画を立てていた疑いがあるわ。それはアークによって未然に防がれたようだけれど、まだあなたたち残党がそこらじゅうに残ってる」
「アンタらが言えたこと?」
「言うのよ。声を大にして」
 書類に火をつけて放ると、少女はゆっくりと手を掲げた。
「あなたたちのような蟲を片っ端から踏み潰すのが、私達の活動目的なの。大人しく、死になさい」
 銃声が鳴り響き、血しぶきが舞った。

●鎮圧
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は必要な資料をデスクに並べると、今回の依頼について説明を始めた。
「現在、逆凪の傘下組織『風紀委員会』が市内で次々に一般人を射殺しています……いえ、しようとしています」
 まだ事件は起きていない。未来予知の段階なのだ。
 今回の任務は、この事件の鎮圧である。

 『一般人を射殺』
 これだけを聞くと、ただの残虐な暴力集団である。
 しかし、風紀委員会によって射殺されているのはかつて千葉市で集団テロを画策していた『弦の民』というフィクサードの宗教団体であることが分かっている。
 射殺者の中には数名のフィクサードも含まれており、彼らなりの正義活動であることは明らかだった。
「組織のリーダー、風紀四条が指揮を執るであろう事件に目星をつけてありますので、ここへ向かい、一般人射殺事件の鎮圧に動いて下さい」
「一般人射殺事件の……か」
「はい」
 必要最低限の返事をする和泉。
 そう。
 この事件の行く末は、あなた自身に託されているのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月17日(火)22:01
八重紅友禅でございます。
補足を少々。

●依頼成功条件
 最低成功条件として、皆さんが向かう先で起こる一般人の射殺を食い止めて下さい。
 そのラインが保たれていれば成功とします。

●事件の現場
 『弦の民』所属のフィクサードが1名。
 他3名程の一般人が、既に風紀委員会に囲まれた状態で存在しています。
 そこへまずは強行介入しましょう。
 敵をある程度片付ける必要はあるので、戦闘は避けられないものと考えておいてください。

●風紀委員会
 とにかく数は大量にいるフィクサードの団体です。
 個体ごとは非常に脆弱ですが、指揮官である風紀四条が強力な味方強化スキルを持っているため非常に恐ろしい集団と化しています。
 当然な話ですが、四条自身のガードは非常に固いでしょう。
 以前アークのリベリスタが戦った際に『味方全体の強化』であることは確認していますが、それがどのような強化であるかまでは確認できていません。

●事件へのアプローチについて
 今回、皆さんが『どのような立場で』この事件に臨むかは、皆さんの判断に任せます。
 風紀委員会に肯定的な立場を示してもよし、『弦の民』を保護する立場を主張してもよし。
 ただし中途半端な立場を主張すると、両方から敵視される可能性が出ますので注意して下さい。(あえてそうすると言うのもアリです)
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
ホーリーメイガス
アンナ・クロストン(BNE001816)
ソードミラージュ
安西 郷(BNE002360)
ホーリーメイガス
救慈 冥真(BNE002380)
ダークナイト
クリスティナ・スタッカート・ワイズマン(BNE003507)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
レイザータクト
恋宮寺 ゐろは(BNE003809)
ダークナイト
御堂・霧也(BNE003822)

●信仰とテロリズム
「千葉の平和は、私が護る!」
 ダンプの荷台の中で、『機械仕掛けの戦乙女』クリスティナ・スタッカート・ワイズマン(BNE003507)がひとり、誰に向けているのか分からないポージングを披露していた。
 あまりに反応が無さ過ぎて寂しいので運転席の方へ視線をやる。
 一方運転席では。
「居場所を信仰に求めて道を外れる奴もいれば、正道を求めるあまり潔癖になる奴もいる」
 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が口の中でキャンディを転がした。口角から突き出た棒がどこか寂しげに上下した。
「信仰も求道もしないオレなんかには、ちっとばかし羨ましいかもな。生きる為に生きるって感覚は……」
「ふうん?」
 ダンプの運転的と言うのは案外広いもので、助手席に福松と四条・理央(BNE000319)が同席していても全く問題にならないスペースがあった。
 膝を揃えて首をかしげる理央。
「報告書を呼んだ限りだと、弦の民も風紀委員会も一緒だと思うんだけど。どうして今回みたいに、どっちかに肩入れしなきゃいけないの?」
「ああ……」
 『愛の宅急便』安西 郷(BNE002360)は運転席でハンドルを握りつつ、横目で理央を見た。
「そういや理央ちゃん、最初からそこんとこだけ目的を見誤ってたんだったか」
「どういう意味かな?」
「俺たちがやろうとしてるのはリスク計算なんだよ。風紀委員会ジャマして、弦の民潰して、あわよくば利益になるもの掻っ攫ってはい逃げましょって作戦も取れなくはない。でもそれ『全部』を達成できる力が俺達にはない。だから、俺達が持って行ける丁度いい所を見極めたんだよ、今回。風紀委員に肩入れする形になったのは、交渉として都合がよかったからに過ぎない……て、分かるかな?」
「……ちょっと分からないかな。どっちの正義も、人殺しの正義だよ」
「まあ今回で見極めたらいいよ」
 ハザードランプを点滅させる郷。所定のポイントに理央を下すと、目つきを若干変えてハンドルを握った。
「トラック野郎の本領発揮だぜ」

●新興宗教団体『弦の民』
 銃を乱射して走るシロヌリの少女。数人の少女を庇うが、満身創痍だった。
 膝をつきそうになって転がる。無様に倒れればハチの巣だ。
 そうやって裏路地を抜け出て、待っていたのは風紀委員会の軍勢だった。
 風紀四条が前へ出る。
「大人しく、死になさい」
 ゆっくりと手が上がる。指を擦りあわせようとした、その時。
 ――ダンプカーが突っ込んできた。

 ダンプカーである。
 しかもハイビームとクラクションを全開に、アクセルをフルに踏み込んでの突撃であった。
 そもそも個体性能の弱い風紀委員たちは我が身を守って蜘蛛の子の如く左右に飛び退く。
 車体にペイントされたものを見て、風紀委員の一人が忌々しげに呻く。
「安西運送……アークか!」
 その最中、更にありえないものを見て風紀委員は瞠目した。
 ダンプの運転席上に片膝立ちする女の姿である。
 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)はアーマーを装着しつつ、付近一帯に神気閃光を乱射した。拡声器越しに叫ぶ。
「こちらはアークだ! 一般人テロリストの捕縛に来た! 怪我したくなかったら道明けろ!」
「チィ、誰がそんな横槍を許すか!」
 ダンプカーの正面に立って集団でサブマシンガンを連射してくる。
 流石にこんなことをされればひとたまりもない。運転席の郷は途端に蜘蛛の巣だらけになったフロントガラスから身を隠し、運転席のドアをけ破って転げ落ちた。
 建物に突っ込んで小爆発を起こすダンプ。
 が、その直前に数人のリベリスタが飛び出して来ていた。
「千葉の平和は私が守る! よし言えた! バルキリーリストスタート、カウントダァウン!」
 額の角をパキンとV字に割り、クリスティナが暗黒をばら撒いた。
 ダンプを射撃していた風紀委員会が思わず顔を覆う。
 以前の戦闘でもそうだったが、彼らはどうやら個体ごとでは非常に弱いのだ。クリスティナ自身もそう強い自覚は無いが、一人で突っ込んで行っても十人近く相手にできる自信があった。
 『神秘弱者の群集』。
 そう表現するに相応しい。
 そんな彼等だからか、互いを護り合う術は心得ていた。それだけ臆病だったとも言うし、それだけ死に近い所に居たとも言う。
 素早く身を反転させて下がる。
 しかしその安全地帯からもリベリスタはやってきた。
「よぉガキ共、夜遊びにはちょっとスリリングじゃねえの。俺も混ぜろよ!」
 バックアタックである。マジックアローとフラッシュバンが炸裂し、数人の風紀委員が薙ぎ倒される。
 駆け足で群衆に飛び込み、そのまま突っ切り始める『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)。
 こちらの戦力を図ろうとしたのだろう。群衆の中に若干の空白ができたのを確認すると、冥真は微発光する掌を翳して周囲に『動くな』の合図を送った。
 丁度背中合わせになるように『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)が傘型の仕込み銃を構えている。意思表示の為に数発空中に撃って見せた。
 同じように杖と盾を翳して群衆を割って進む理央。
 彼等はやがて、弦の民の所までたどり着いた。
 突入のインパクトが大きかったことや、二面作戦が功を奏したことで、非常にスムーズな進行になったと思う。
「新興宗教団体『弦の民』、その信者だね」
「あ、アーク……まさか助けに」
「残念だけど」
 既に体力の限界か、膝をついていたフィクサードの額に杖の石突を突きつけた。
 直後、『断魔剣』御堂・霧也(BNE003822)の剣が一文字に走る。
 フィクサードの首がはじけ飛び、アスファルトを転がった。
「こんな顔の出し方ですまねーが、約束通り、立ち塞がりに来たぜ」
「……御堂霧也」
 前髪を几帳面に撫で付ける風紀四条。
 その一方で福松は手早く『弦の民』の少女達を背後に庇った。
 怯える彼女等へ、肩越しに説明する。
「いいか、一度だけ言うぞ。オレ達の目的は一般人の捕縛だ。フィクサードはさっきみたいになる」
「そ、そうれじゃあ私達は」
「一般人は殺さない」
 前に向き直る福松。
 その首に、ナイフを握った手が伸びた。
「ああ、言い忘れてたな」
 バックスタブをかけようとした少女の額に、背を向けたままの福松が銃口を突きつけた。
 迷わず引金を引く。後頭部から内容物が飛び出し、少女は白目をむいて崩れ落ちた。
 振り向く福松。前髪を指で上げ、隠れていた左目を見せた。
「このオレにイカサマ(ステルス)が通用すると思うなよ?」
「げ、幻想殺し……そんな……」
 完全に打つ手を失くした少女達は、その場にぺたんと座り込んだのだった。

●群衆私刑団『風紀委員会』
 一帯に流れていたのは血と、硝煙の臭いと、重い静寂だった。
 リベリスタとフィクサードが互いに銃を向け合い、先に撃った方が死ぬと言う至極単純なルールによる牽制を掛け合っている。
 もっとも、一度のリタイアで命を落とす風紀委員会の連中と違ってリベリスタはいくらでも起き上がれるフェイトがある。その差は群衆と言う数で補われ、結果的に彼らの戦力はイーブンになっていた。
 ただ一人、風紀四条を覗いては。
「……」
 霧也は黙って剣を下した。
 四条が命じ、味方強化の『条霊執行』を使ってしまえば、今ここにいる群衆は死のミキサーへと変わるのだ。
 今霧也たちが無事にここから切り抜けられるかどうかは、四条の指先次第と言うことになる。
 故に、霧也は慎重に言葉を選んだ。
「確かにこいつらはテロリスト予備軍だ。だからってコレ以上はやらせねーよ」
「アークは、一般人ならば凶悪なテロリストであっても庇い立てする……と?」
 冷えた声がした。
「いや、俺達もただ逃がそうって訳じゃねえ。コトがコトだからな」
「ソーユーコト」
 傘の先を地面につけるようにして、ゐろはが横目で四条を見やる。
「アンタらのやり方にケチつける気はないよ。私刑だろうがフィクサード片付けばこっちは楽だし? でもそこで一般人までぶっ殺すってんならアタシらは全力で邪魔するの。あくまで一般人を守るのがアタシ達で、さっきのアレみたいに付け込まれて利用されようが突き通すし、何でも付き合うよ。それがアタシラの正義ってヤツなんで」
 眉をゆがめて言うゐろは。
「後半、本音?」
「……べつにィ?」
 ゐろはの性格じゃここまでだろう。そう察した郷がゆっくりと両手を上げて言った。
「風紀委員会の言い分も分かるが、俺たちは一般人の殺害を見逃せねえんだ。四条ちゃんの言うとおり法で裁けるんだろ。だったら、一般人は俺たちに引き取らせてもらえねぇか。場合によっては俺達、協力関係になれると思うぜ」
 ポケットから取り出した名刺を投げる。
 四条はそれを片手で取って、ライターで燃やした。
「て、アアァッ!?」
「安西郷。重武装暴力組織ヘビーアームズ団の元幹部とねんごろって噂は本当?」
「……いや、ねんごろまでは」
「アナタ個人はさて置いても、アークと協力なんてまっぴらね。周りを見て御覧なさい」
 周囲を見回す。
 冥真も同じように首を巡らせるが、どこを見ても同じような様子だった。
 互いに『手を出したら殺す』と言い合っている状態なのだ。
 仮に今から協力体制を取ろうとしても、これと同じ状態が維持されるだけだろう。
 勿論、郷が交渉を進めるための方便だとも考えられるが。
 ぱたぱたと手を振るクリスティナ。
「シマ荒らされてメンツ潰されたのは分かるが、パンピー殺しはどうかと……あと今、何度?」
「ちょっとアナタ黙ってて」
「……」
 あからさまにしょんぼりとするクリスティナ。
 軽く銃底で小突いてから、福松が前に出た。
「『弦の民』は倒した。お互いこれ以上戦力を消耗することはないだろう」
「そうね。手荒で悪いんだけど、私達としては一般人を捕まえられればそれでいいんだけど……」
 ちらりと、自分に銃を突きつけている風紀委員会たちに目をやる。
 仲間の仇を討ってやるとばかりに手を震わせ、四条の発砲命令を今か今かと待っている様子だった。
 気持ちは分からないでもない。
 彼らはフィクサードではあるが弱者なのだ。正義を信仰してはいても、力無いが故に踏みにじられてきたのが良く分かる。
 群衆による私刑。群衆の本質である『弱い者イジメ』を逆手にとり、一つの力として互いを依存し合う集団。それが風紀委員会なのだ。
 個の力は弱くとも、連帯感は強かろう。
 そして四条は、彼等を積極的に支配しようとはしていない。
 ゆるく腕を組む四条。
「主張は大体分かったわ」
「委員長!」
 男の一人が反射的に叫ぶ。四条はやんわりと手を上げてそれを制した。
 場の空気が若干緩む。
 それを読んで、理央がつかつかとアンナたちの前へ出た。
 不思議なものである。
 似たような外見特徴を持っている二人だと言うのに、全くの別人であった。根底からして違うのだと、理央は本能的に察する。
「聞いてもいいかな」
「……どうぞ」
 理央は首を少しだけ傾げて言った。
「あなたは、何をもってこの正義を突き進んでるの?」
 バキン。
 どこかで何かが割れる音がした。

●正義信仰者の怒り
 それからたった五秒後。
 当たりは鉛玉が飛び交う地獄と化していた。
 すぐさま翼の加護を発動して離陸する理央。
 素早く後方の一般人を掴み上げると、そのまま郷の予備トラック目がけて飛び出した。
「そう、やっぱり一般人も子剃るのが風紀委員会の正義だったんだね」
「馬鹿っ、理由はそっちじゃねー!」
 理央へ迫る無数の弾丸を己の身で受けながら、霧也が額に血管を浮かべて叫んだ。
「折角言葉選んで交渉してたのに。こういう正義大好き野郎に『お前の正義は何色だ』とか言ったらまんま宣戦布告だろうが! ストレスの糸が切れて連鎖的に暴走してんだよこいつら!」
「でも、一般人狙って撃ってるよ」
「当たり前だ! 潰されたメンツを強引にとりに来てんだよ。つーか意地になってんだよ! いーから早く郷のトラックんとこ行け!」
 霧也の膝や腹に鉛玉が叩き込まれる。貫通すれば良かったものの、不幸なことに体内にごっそりと残りやがった。ずっしりと重い体から、まるで水風船のように血が噴き出る。
「くそっ、もう少し持て……!」
 フェイトを削って無理矢理身体を維持。剣を盾にして、面状に殴りつける弾幕の嵐を耐えることにした。

 風紀委員会の弾幕を面状と述べたが、それは彼らが飛行を可能としていたからに他ならない。
「ったく、聞き入れてくれねぇんじゃ、お互い無事じゃいられねえだろうな!」
 背の高い建物の間をジグザグに飛ぶ郷たちを、風紀委員たちが血眼になって追いすがってくる。
 適当なスペースを見つけてトラックを取り出す。
「早く中に放り込め!」
「うんっ」
 理央が仲間に庇われながらトラックの荷台に一般人の少女達を放り込んで行く。
 郷は素早く運転席に飛び込んでエンジンをかける。
 アクセルを踏み込んで全力で逃げ出そうとする……が、横殴りの弾幕で窓ガラスが一瞬で吹っ飛んだ。
 続いてタイヤが片側だけパンクし、バランスを崩した車体は奇妙なウェーブを描いて近くの家屋に突っ込んだ。
 飛出すエアバックを反射的によける。これに当たると意外と痛いということを、郷は経験から知っていた。
 車を飛び出すと、空陸両方から風紀委員たちが追って来る。
「囲め、一人も生きて帰すな!」
「殺してやる、殺してやるうううううっ!」
 ガンガンと地面を足で叩き、郷は冷や汗を流した。荷台から顔を出したゐろはに声をかける。
「そっちは任せた。俺は暫く時間を稼ぐ!」

 群衆に突撃していく郷をよそに、ゐろはは少女達へと振り返った。
「あんさ、なんで『弦の民』に入ったの?」
 魔眼をかけながらの質問である。
「そこってさ、良い所なの?」
 これが『私の言うことを聞け』であれば、狂信者であるところの少女達は抵抗を示しただろうが、信仰への陶酔を煽るような誘導であったため、彼女達はすぐに術中に落ちた。
「七弦様は私らを救ってくれたの。麻薬やってボロッボロになって、身体売ってもお金足りなくて……。最初は家出しただけなんだよ。保護して貰ったと思ったら裏に流されて、薬に漬けられて、気づいたらもう全部ボロボロで、そうしたら七弦様が来て……『もう大丈夫』って……」
 顔を覆ってすすり泣く少女に、ゐろはは苦々しい顔をした。
 こいつらも『弱者』か。
 聞けば薬はもうやっていないと言う。信仰によるメンタルヘルスが麻薬の依存性に勝ったのだろう。そういうノウハウを、『弦の民』教祖である琴乃琴七弦が持っていたのだろうと思う。
 ムナクソの悪い話だ。

 一方。
 アンナと冥真は群衆に囲まれていた。無論、天地含めてである。
 必死に神気閃光と天使の歌で凌いでいるが、いつまで持つものか分からない。
 確かに風紀委員会は弱いフィクサードの群れだが、交代で集中を重ねた面射撃を撃ってくると言う効率的かつ嫌な戦法でじりじりとこちらを追い詰めていくのだ。
「自分の命も大切にしなさいよ。倒れても代えが効くなんて無茶しちゃ駄目」
「うるさい、貴様に言われる筋合いは無い!」
 暴走する男達。
 その中を、クリスティナと福松は力技で押し返していく。
 剣で薙ぎ倒し、拳で殴り倒す。
 無論福松達の方が圧倒的に強いのだが、やはり燃費の問題でいずれは押し切られるだろう。
 もうこれ以上は無理だ。
 そう思いかけた時、パチンと誰かの指が鳴った。

●群衆のヤドリギ、風紀四条。
 ぴたりと……とまでは言わないが、風紀委員たちの動きが止まった。
 群衆を割って四条が姿を現す。
「例の一般人は遠くまで逃げおおせたみたいね。あなた達の勝ちよ、良かったわね」
 ぱちぱちと手を叩く。
 だが今の様子で分かった。
 風紀委員たちは『条霊執行』を受けていなかったのだ。
 背筋に冷たいものを感じる福松。
 冥真が、非武装を示すために両手を上げて言った。
「俺達アークが一般人大事主義ってのは知ってるんだろ。俺達はあくまでも一般人を一般的に守りたいだけだ。こいつらには常識を叩き込む必要があるからな」
「……」
「馬鹿なガキを躾けるのが俺達。馬鹿なフィクサードを殺すのがお前ら。オーケイ? 革醒もしてない奴を苛め気味に殺すのは感心しねえし、やるってんならイイ感じに痛めつけあうことになる」
「……」
「落とし所って、あるだろ。英断願うぜ」
 冥真の話を最後まで聞いていた四条が、ゆっくりと頷く。
「連中が暴走したのは謝るわ。迷惑かけたわね。でも、風紀委員会の総意としてはこうよ……『アークなんぞクソ喰らえ』。できれば抹殺しておきたいわ」
「……だろうな」
「ただし、『今回は』手を引いてあげる。そっちの勝ちだからね――撤収して」
 指示を飛ばされ、風紀委員会たちは不承不承に撤退を始めた。
 殆どボロボロになった霧也が戻ってくる。
「なあ四条。アンタ、天元って知ってるか。ありゃただの麻薬じゃない」
「知ってるわ。ナメないで」
 踵を返して撤退を始める四条。
「なら、ストーン教のことは?」
 アンナが小声で囁いた言葉に、四条は僅かに足を止めた。
「醍五って男が絡んでる」
「………………そう」
 四条は再び歩きはじめ、やがてその場から居なくなった。

 残ったのは、血の臭いと硝煙と、重い静寂だけだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした
この結果がどのような未来を招くのかは、未来になってみなければ分かりません。