●切捨て屋、蘭下慙膳 彼を端的に表現するならば、『黒袴の侍』である。 ざんばら髪をぶっきらぼうにちらかして、どこぞと知らぬ亭でとっくりを傾ける男。 人は彼を『切捨て屋』と呼ぶと言う。 それが、剣風組の頭領がひとり、蘭下慙膳である。 「なんだい、牛男のヤツはおっ死んだのかい。情けのねえ男だ。我こそは最強無敵なんぞと嘯く奴はどいつもこいつもコレだからつまらん。酒でも煽っているのがまだ楽しめるってえもんだ」 「うへえ、慙膳様はお厳しくていらっしゃる」 「おい、そのなんたら様ってのはやめろやい。くすぐったくて仕方ない。で……どうなんだ」 男は羽織物を乱暴に着崩すと、顎を撫でながら顔を突きだした。 「どうといいますと」 「馬鹿なツラしてんじゃあねえよ。アークだよアーク。その名も轟く怪人殺しだの達人切りだのがわんさかいるんだろう」 「へえ、まあ」 「まあってのはなんだい。つまんねえ奴だなあ!」 「えへへ、こりゃ面目ありません」 卓の向かいに座った男が、手酌で酒を一口飲んだ。 「うへえ、こりゃ酷い。こんな強いもんをよく平気な顔をして」 「男の甲斐性は酒の甲斐性だよ馬鹿野郎。おっと、話がそれたな……牛男がやられたってえ話かい」 「へえ、なんでも九美上九兵衛が残した九奥義がひとつ『勧善勧悪』の継承者だと嘯いてやしたが、こいつがどうも偽モンでして。調子に乗って道場荒しに回ってたらアークに出くわしちまってはいサヨナラよと」 「そんなトコだろうよ。あいつが偽モンなのはとっくに知れてたがな」 「うへえ、本当ですかい」 「応よ」 ばらり、と巻物を広げる慙膳。 そこには筆で殴るように何かの名前が書き連ねられていた。 「千里観音、浪人行、勧善勧悪、条霊施行、醍味相生、他殺幇助、桃弦郷、土俵合わせ、そいでもって喪われた技こと九十九神。九美上九兵衛が伝承したとされる九奥義。他の頭領どもはこいつを欲しがってるようだが……なぁに、俺はそうは思わん」 「どうされるんで。アッ、誰にも取られないように殺っちまおうてえ魂胆ですね?」 「馬鹿野郎会話の間合いってモンを考えやがれ。まあお前の言うとおりだ。誰の手に渡っても面倒くせえ。ゴタゴタ言う前にやっちまうのが俺ってもんよ」 「よっ、さすが切捨て屋の慙膳様!」 「だからそのうんたら様ってのをやめろってんだい。誘い出す仕掛けは整えた、あとは奴がノコノコ現れんのを待つだけよ」 そう言って、慙膳はポラロイド写真をぺらぺらと振った。 ●『勧善勧悪』の男 「皆さん、集まりましたね。今回は一般人の救出任務に当たって頂きます。詳細は報告書にありますが……」 アーク、ブリーフィングルーム。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は人数分の書類を配り終えてから、丁寧に説明を始めた。 主流七派が一つ剣林。その内部に剣風組という組織がある。 彼等の活動目的は主に九美上九兵衛の遺した奥義に関するものであり、今回もその一環として一般人に手を出したとされている。 主犯格は蘭下慙膳。日本刀を扱うフィクサードで、戦闘力の高いフィクサード達を多く抱えている。 彼は少女を誘拐及び監禁し、ゆかりのある男に『一人で来るように』と言いつけたのである。どうやら、親子や親戚関係ではないようだが、彼は必ず来るだろうと思われる。 男の名は善三。街金融の回収屋をしているフィクサードである。 「蘭下慙膳の真の狙いは彼自身の命です。人質を餌に誘き出し、実力行使で囲み殺すつもりでしょう。善三は強力なフィクサードのようですが、慙膳を含むフィクサード達を一人で相手にできる程ではありません。皆さんが行く頃には戦闘が始まっているでしょうし……彼の死亡は時間の問題でしょう」 だが目的はあくまで少女の救出である。 警備にあたっているフィクサードを倒し、監禁されている部屋に強行突入し、少女を救いだすことができれば一応はよしとされる。 「現場での判断や方針については、皆さんにお任せします。くれぐれも、宜しくお願いしますね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月11日(水)22:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●一人の少女が泣かない為に 「ぬらりひょんはんど~」 常人の耳には殆ど聞えぬ音量でスチール扉の鍵が開く。 『Trompe‐l'oil』歪 ぐるぐ(BNE000001)は頭を左右にふらふら揺らしながら、音がしないようにゆっくりとドアノブを回した。 「ぐるぐさんにとっては扉などあってないような物なのです。中はどうですか?」 「此方に気づいた様子はありません」 雪白 桐(BNE000185)は集音装置で内と外の様子を探って囁いた。 なまじ腕に覚えがある所為か、外周警備のようなものは無かった。入られたら追い払える自信があるのだろうが、こうして忍び込まれたらどうだろう。 「しかし、剣林も意外と搦め手を使うんですね」 「意外というなら善三でしょう」 チェーンソーのエンジンに手をかける『群体筆頭』阿野 弐升(BNE001158)。 「血縁でもない子供を助けに単身特攻とはね、俺みたいなのよりよっぽどセイギノミカタしてますよ……傑作だぜ」 「まるで主人公だな。なら、俺達は裏から人質を助ける役をやってやろう。散るには惜しい男よ、善三」 身構える『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)。 小石の転がる様な音と共に扉が全開に開く。 音に気付いたフィクサードが振り返ったが、その時には既に弐枡が素早く跳躍していた。 空中でエンジン起動。凄まじく唸るチェーンソーを振りかぶり、弐枡は嵐のように暴れた。 慌てたフィクサードが通信機を取り出すが、ピンポイントで弾き飛ばす。 「つまんねぇコトしてんじゃないの。こっちきて殴り合おうぜ」 「リベリスタ……まさかアークか!」 フィクサード達が一斉に刀を抜く。 しかしタイミングが遅い。葛葉の魔氷拳が豪快に叩き込まれた。 「義にして桜、散らせるものなら散らして見せよ!」 腕ごと刀と鞘を固められ、冷や汗を浮かべるフィクサード。 「拉致している少女はどこにいる!」 「やはり狙いは一般人か、そんなもの――」 そこへぐるぐと桐が飛び込んだ。 「義桜さんは先へ。声を感知しました、通路を進んで右の部屋です」 「勿論すんなり通してはくれないですよね。セキュリティクラーック」 フィクサードを挟み込むように滅多切り、タコ殴りにする桐とぐるぐ。 しかしそこは剣林のフィクサード。じっと攻撃を耐えて見せる。 「慙膳殿に伝えろ! 通信機が無いなら非常ベルを鳴らせ!」 「分かった――!」 刀の柄で非常ベルを叩き押そうとするフィクサード。 その時、刀身をぱきんと弾くピンポイント射撃があった。ベルのボタンを外して壁に当たる柄頭。 はっとして振り返ると、『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)がタッチペンをぐるぐるしながらこちらへ向けていた。 「これ以上仲間を呼ばれたら大変ですからね、此処にいる人達だけ相手させてもらいますよ」 「剣風組を舐めるなよ小娘!」 強烈な上段斬撃を叩き込んでくる。チャイカはタブレットの裏面を頭上に翳して受け止めた。 しかし腕力差と言うものがある。チャイカはじりじりと押し込まれていく。 「あうっつ……でも今回ばかりは前に立たないと」 「チャイカさん伏せて!」 ヒュンという風切り音の後、フィクサードの肩から大きな血が噴き出した。 彼の背後には刀を構えた『ワールウィンド』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)。 「あなたはこれで私の剣」 「ぐっ……」 アル・シャンパーニュの魅了に抵抗して額を抑えるフィクサード。 その間にセラフィーナは更に斬り込み、別のフィクサードに斬撃を繰り出した。 鍔迫り合いになり、顔の前で刃を押し合う。 「牛頭親分は嘘つきだったけど、勝負そのものは正々堂々だったよ。人質を取るなんて最低!」 「人質か……フン。そんなものヤツを殺せば用済みよ。縞島組にでもくれてやるわ。どうせ今頃『勧善勧悪』も、慙膳殿と精鋭隊になぶられている」 「そんなの――!」 互いを打ち合って飛び退くセラフィーナ。頭の片隅で『彼女達』のことを想った。 ●不殺の善三 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)と『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)は正面門を潜って道場らしき部屋を目指して駆けていた。 建物の扉は無残に破壊され、途中のフィクサード達は皆気絶していた。顔を血塗れにした者や腕が拉げた者ばかりだったが、誰も死んでいない。 『不殺を使える』とは違う。『絶対に殺さない』が善三なのだろう。だからこそ、彼の通った跡は良く分かる。 特に冴は、これまで沢山の人間を斬り殺してきた。 純粋悪でなくとも悪として、首を跳ねてきた。 だが彼は……。 「部屋はこの先です」 「……そのようですね」 リセリアは剣を強く握って速度を上げた。 両開きの扉が軽く開いている。 二人は同時に扉を蹴り飛ばし、思い切り吹き飛ばした。 「誰だァッ、今取り込み中だ馬鹿野郎!」 怒声を放つ蘭下慙膳。部屋の中心では七人程のフィクサードにぐるりと取り囲まれた善三がいた。既に全身は大量の刀傷に塗れており、息も荒い。 振り返ろうとする善三に冴がすかさずハイテレパスを送る。 『振り向くな。私達はアークの人間です。拉致された少女を救出すべく別働隊が裏か突入しています。時間稼ぎのため、加勢します』 「……」 『救出した少女は渡します。信用できないなら背中を斬って構いません』 善三は何も応えず、襲い掛かって来たフィクサードを強烈なパンチで殴り倒した。 その頭上をリセリアが軽やかに飛び越え、善三の肩を踏み台に更に飛ぶと空中で前転。コンパクトな体勢から慙膳へアル・シャンパーニュを繰り出した。 「チッ!」 素早く刀(驚くことに市販品である)を抜いてリセリアの剣を打ち払う。しかしリセリアは着地前に更に横回転。側面からの斬撃。慙膳は刀を逆手に返して受け止める。しかし一番のラッシュはリセリアの着地後からだった。一瞬だけ剣を引いたかと思うと凄まじい高速連突を繰り出した。 刀を逆手に持ったまま全て打ち払う慙膳。 「知ってるぜテメェ、リセリア・フォルンだな? アークが善三の味方なんかしに来てなんの用だァ!」 「アークはフィクサードの為には動きません。でもこんなこと、黙って見過ごすことはできない!」 「だろうぜ。八兵衛の言うとおりだ、アークは一般人が大好きってなあ!」 逆手の刀を豪快に振り込んでくる。素早く飛び退くリセリアだが彼女の胸がX字に切れて血を吹いて瞠目した。速くて固い。実力派だ。 「貴方の好きにはさせない……この外道!」 「おら来いよ、こちとらヤりたくてヤりたくてうずうずしてんだよ馬鹿野郎ォッ!」 強烈にぶつかり合う刃。 その後ろでは、善三がその場に転がった誰かの鞘でフィクサードを滅多打ちにしていた。倒れた所を靴の踵でぶっ潰すまでの徹底ぶりである。 しかしそれだけに隙も多い。背後から三人のフィクサードが飛び掛ってくる。多角的な斬撃が善三の背中を切り裂こうとしたその時、黒い影が間を奔った。 肩越しに振り返る善三。 上段の攻撃を刀で、右からの攻撃を鞘で、左からの攻撃を自らの腕で受け止めた冴の姿がそこにはあった。 肩越しに振り返る冴。 二人は視線を一瞬だけ交わしてから、身体を大きく捻じった。 倒れたフィクサードの足を掴んで横凪にぶん回す善三。タイミングよく屈んだ冴の頭上でフィクサード達が弾き飛ばされる。一拍遅れて冴は地面スレスレを駆け、フィクサードの一人に刀を深々と突き刺した。 直後、死角から飛来したフィクサードの刀が冴の脇腹を貫通。こみ上げる血を堪えて、振り返り、冴は地面を蹴った。 死闘が、繰り広げられる。 ●少女、美咲 スチール扉が音も無く開き、上段のようにそいつは現れた。 「いそのー、やきゅうやろうぜー」 右手にヘンテコ銃。左手に大スパナ。 ぐるぐはそうとだけ言うと、ぷらぷらとスパナを振って見せた。 「怖かった? 刺激的だった? なんにせよもう大丈夫、すまいるすまーいる」 そうとだけ言って、ぐるぐは扉の前から消える。 少女はその様子をぽかんとした顔で見上げていた。 入れ違いにセラフィーナが入ってくる。 両手の親指をきつく結んだロープを解いてやると、ゆるやかに羽を広げて見せた。 「……てんし」 「大丈夫だよ、私達は味方。助けに来たの」 少女の視線が羽にあるのを見て、セラフィーナは笑った。 「天使は嘘をつかないんだよ。今日は無理だけど、いつか一緒に飛んであげるから、ね?」 携帯番号を書いた名刺を少女のポケットに差し込みつつ、小さな身体を抱え上げる。 そうしていると、刀傷を負った葛葉が部屋に入ってきた。 「荒々しくてすまない。君は善三の知り合いの少女で間違いないな」 そう問いかけられて、少女は目をいっぱいに開いた。 「おじさんのこと……知ってるの?」 同刻、少女が閉じ込められていた部屋のすぐ前にて。 桐とフィクサードが互いの剣を弾き合っていた。高い金属音が通路内を反響する。 「剣林なら斬り合いは望む所でしょう。勝った方が任務達成、シンプルじゃないですか」 「違いない。死んでも文句は言わせんぞ!」 フルスイングで剣を繰り出し合う。両者の腕から大量の血が吹き出し通路を染める。 一方で、チャイカが壁を走るようにして飛行、ペンを連続で振ってピンポイント・スペシャリティを連射した。 「データを尽くした回避術を見せてあげます!」 神秘弾を身体に受けつつ、フィクサードが横一閃。チャイカは背部バーニアを緊急起動。破裂音を鳴らしてチャイカは急カーブをかけた。更に白衣と羽を翻してターン。背後へ回り込み、軌道を描くように神秘弾を発生させると次々にフィクサードへ撃ちこんで行く。 「おのれ――!」 フィクサードは背後に向けて刀を叩き込む。刀の背ではあったがうっかり腹部にくらうチャイカ。短い悲鳴をあげて壁に叩きつけられた。バーニアが激しい音をたてる。 頭部を強打、気を失いかけて首を振った。落ちそうになった帽子をしっかりと被り直し、トドメのピンポイント・スペシャリティを乱射。全弾フィクサードに叩き込んでやった。 そこへ弐枡がチェーンソー片手に突撃。複雑に配置された三枚刃がフィクサードの肉体を四方八方にまき散らしながら上下分割して見せた。 「群体筆頭、舐めるなよ」 返す刀で後方から迫るフィクサードに叩き込む。 刀を無理やり圧し折り、そのまま脇腹から肩にかけて斜めにぶった切った。 その中を、少女の目を覆った葛葉が駆け抜ける。 「弐枡、どうだ!」 「ここに居る連中だけは片付けました。そのうち別の場所から集まってくるだろうが……どうします」 「決まっている。この子を連れて裏口から脱出だ。外に先回りしてる連中がいるかもしれん、一緒について来てくれ」 「『俺たち』には丁度いい役目ですね。ぐるぐさん達は?」 振り向くと、ぐるぐがいかにも楽しげにくるくると回っていた。 「あ、じゃあぐるぐさん達は善三さんの方にいきましょー。途中で死にかけるかもしれませんけどー?」 「まあ、興味はありましたしね」 血糊を払い捨てる桐。 チャイカが手を振って飛行を始めた。 「それじゃ、通信のほうお願いしますね!」 頷く葛葉。 裏口に向かって走りながら、彼は少女に語りかけた。 「善三は君を助けに来て、窮地に陥っている。協力してほしい」 「……おじさんの友達?」 「ちがうが……今は敵でもない。彼からの心象は良くないからな。だから頼みがあるんだが、いいか?」 アクセスファンタズムを取り出し、葛葉は少女を見た。 頷く少女。 葛葉はそっと、彼女の頬に通話機を当てた。 ●さらば リセリアが幾度目になるか分からない残影剣を繰り出した。手ごたえはあまりない。序盤からとばしたからというのもあるが、既にエネルギーも底を突きかけていた。 フィクサード達の戦法は非常にいやらしく戦い辛いものだった。 まるでアリジゴクにでも巻き込まれたかのような感覚を味わい、幾度となく前後不覚を味わった。それでも好き放題にされなかったのは、リセリアと冴の類稀なる感覚力のお陰だったのかもしれない。 だが、それが続くのもここまでだろう。二人とも満身創痍で、フェイトを削ってやっと立っているというレベルだ。善三も同様、なぶり殺されるのも時間の問題だった。 刀を逆手に持った慙膳が笑う。 「楽しかったぜ、善三にアーク。いや、リセリア・フォルンに蜂須賀冴。強さ強さと鍛え過ぎちまうと、どっかでこうして必死になりたくなるんだよ。ギリギリってやつが好きになる。ま、語りはここまででいいよな」 刀を一振りする慙膳、その途端大量に分裂した慙膳の剣閃がリセリアたちを襲った。隙間なく周囲から斬りかかってくるフィクサード達。 生きたままミキサーにかけられるかのような、絶望的な感覚が這い上がってくる。 ここまでか。無念を想った、まさにその瞬間。 「ハロハロー、お会いしたかったですよ善三さーん!」 「こっちは済みました、退きましょう!」 部屋の壁を無理やり破壊し、ぐるぐとチャイカが突入してきた。 空爆のような射撃や打撃を浴びせられ、怯むフィクサード達。 慙膳がぐるぐのノックダウンコンボを初撃で叩き返しながら叫ぶ。 「オォイ何だテメェら、『そっち』にわんさか人数割きやがって! 俺より女が大事ってのか馬鹿野郎!」 「お待たせして悪かったですね。強い相手とは殺りあいたい。剣士の本能じゃないですか?」 後から続いた桐が剣をフルスイング。慙膳を横凪に吹き飛ばす。 冴のAFが振動。冴は通話ボタンを押し、肩越しに善三へ放り投げた。キャッチして耳に当てる善三。 スピーカーから、少女の問いかけるような声が聞えた。 『おじさん……なの……?』 「……」 ややあって弐枡の声に変わる。 『偽装の方法はいくらでもあるって前提で語らせてもらいますが』 そう前置きして、弐枡は電話口で言った。 『裏口から無事に脱出しました。後で渡します』 「どういうつもりだ」 『お互いやりたいことをやったら結果的に色々助かった。それでいいでしょう? アークお得意の「神秘被害者の救済」ってやつですよ』 「……」 『モブの俺に恩義を感じる必要はないですしね』 「それじゃあ義理が立たねぇ……借りは必ず返す」 『じゃ、今度お酒でも』 通話が切れた。 善三と慙膳の間に、刀を水平に構えたセラフィーナが立ち塞がった。 「聞きましたね。早くあの子に会いに行ってください。それが――」 「いや……」 善三は小さく首を振った。 「ヤクザに助けられたんじゃあ、アイツの居所が悪くなる。お前らが送ってやってくれ」 「…………はい」 フィクサード達に牽制を行いながら出口に向かって走り始める。 しかし慙膳たちとて黙ってはいない。 「逃がすと思ってんのかテメェらァッ!」 フィクサード達を(少数ではあるが)ぞろぞろと呼び出し、全力で追いかけてくる。 ほぼ死にかけのリセリアや冴たちを庇って逃げるにはあまりに不利な相手だった。特に慙膳は。 「私達は先に行きます! 善三さんたちも!」 気絶しかかったリセリアに肩を貸し、チャイカと桐が通路を走って行く。 何かちゃんとした脱出手段があったわけではないので、それはもう力押しの命がけである。 増援組のチャイカや桐たちとて満身創痍。行く手を阻もうとするフィクサードたちをすり抜けるので精一杯だった。その間も慙膳は凄まじいスピードで追い縋ってくる。 かくなる上はと刀を構える冴。 彼女に向けて、善三はAFを投げて返した。空中を回転して冴の手元に落ちるAF。しかしそこには、黒く光るリボルバー拳銃もあった。俗に『ボディガード』と呼ばれる銃である。 「預けておく。使うなよ」 「……」 意味を理解して、冴は顔を上げる。声を出そうとした途端、襟首を掴んで出口方向へとぶん投げられた。 反射的に受身を取る冴。振り返ると、善三が通路を塞ぐように立っていた。 「善三、貴方は何故フィクサードを」 振り返らない善三。 「もし続けるなら、次に会った時には斬ります」 「それでいい」 善三はそう言うと、ガスボンベに刀で穴を開けた。 セラフィーナが慌てて冴を抱え、全速力で出口へと飛ぶ。 慙膳が善三へと斬りかかる。 「美咲を頼む」 そう言うと、善三はジッポライターの火をつけた。 ●潰滅 凄まじい爆発音を背に、セラフィーナ達は野を駆けていた。 抱えられた状態で振り返る冴。 屋敷は赤く燃え、黒煙をあげていた。 少女を抱えた葛葉たちが茂みから姿を現す。 「彼は?」 そう問いかけた葛葉に、冴は小さく首を振った。 胸の中で、鉄の重みを感じた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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