● 御機嫌よう、と白いゴシックロリータのドレスを身にまとった少女が嗤う。 咽かえる様な血の匂いが鼻孔を擽る路地裏で少女は楽しげに歌を謳っている。 ――♪ 周囲に倒れた男たちには皆、額から上がない。全てがぱっくりと開かれた其れ。 少女は楽しそうに笑う。振りむいた先、路地に座り込み怯えた顔をした男に彼女は笑いかける。 彼女のゴテゴテに飾り立てられた長い爪が男の額に触れ、そのまま喰い込んでいく。 震える男の表情を見ながら彼女は笑う。 「好き、好きよ、嗚呼、嗚呼、愛しているわ、好きなの」 歌う様に彼女は言う。彼女の手に握られたレイピアが――王子様を呼び出す『道具』がキラリと光る。 其の侭―― 額から上に当たる頭頂部は蓋を取ったかのように開かれ、中の臓器を覗かせている。 「これ位しか使えないんでしょ、食べられることしか価値がない脳髄なのでしょう」 「お嬢様、此方、パスタで御座います」 彼女の背後から声をかけた執事服の青年に少女は笑う。そうね。茹でたてのパスタをその中に混ぜ込んで、其の侭食べてしまおうか。無粋な名前をつけるなら脳味噌パスタ――そう表現するに値するだろう。 さあ、何処から頂きましょうか。脳かしら、目玉かしら、心臓も良いわ、其れに内臓も。何処をとっても素敵素敵素敵で素敵で堪らない。きっととっても美味しい筈よ。 嗚呼、どうやって食べようかしら。 黄泉ヶ辻に所属する少女――彼女は人喰い。其れも美食家。齢はまだ中学生程度だろう。そんな彼女は愛を歌う。愛しているからこそ人を食べる。人が愛を囁き合う様に彼女は物理的に愛を食べてしまう。暴食し、胃袋に納めてしまう。 ぐちゅ。 少女の手に持ったスプーンが男の『中身』を掬い上げる。彼女はそのまま其れを口に含んで笑った。 「嗚呼、美味しい。そうだ、次は子供が食べたいわ」 ● 「愛しいから食べちゃいたい、とかよく聞く話わよね?」 集まったリベリスタの顔を見回し『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は言った。 安売りされるホラー映画、シュールなストーリーラインにはよくある人喰いの話し。 「嫌いなものを食べたような味。モロに食中りなのだけど、黄泉ヶ辻を相手にしてもらいたいの」 皿に残った嫌いな食物を無理に喉に押し込める様な子供の様に何処か泣き出しそうな表情で言う。 黄泉ヶ辻。フィクサードの主流七派の中でも特に不気味な集団である。 「好きだから食べちゃいたい。そんな一人の少女がいるの。中学生くらいの子よ。 名前は喰月。茨・喰月よ。好きな臓器は脳髄辺り。嫌いな部位は胃腸辺り。残さず食べるそうだけど」 人間なんて、食べたいだなんて思わない。人間を食べ物だと思った事もない。 其れが孤独だから、其れが一種の慰めだから――其れならば同情を禁じ得ない。確固たる理由があっての行動であれば、中学生と言うまだ幼い年齢である少女の気狂い。そう考える事もできただろう。 「人を食べる事が当たり前だと教わってきたそうよ。教えたのは彼女の執事、名前は菖と言うの」 幼い頃から口にしていたのは人。人を口にして、嗚呼、美味しいとその口元に笑みを浮かべる。 「喰月と菖、二人のフィクサードとそれとコレ」 淡い桃色の瞳を一度伏せ、彼女が提示したのは一枚の写真。其処に映っていたのは一つのレイピアの様なもの。氷で出来たかのような其れはRPG等で出てくるお洒落な武器『アイスレイピア』と酷似している。 「……綺麗」 「うん、とっても。とっても綺麗なの。でもね、コレ、余り喜ばしいものでもないの。 これはアーティファクト。名前は『anthropo』。彼女は『王子様』を呼ぶ道具だと思っているわ。 まあ、つまりは人を喰らうアザーバイドがこんにちは、するみたいなんだけど」 そのアザーバイドがこれまた強力な訳ですよ、と明るく言ってみたものの世恋の表情は暗い。 「ホントは触れたくない所なのだけど、彼女、今、小さな村に居るの」 「その村で、何を?」 リベリスタの問いに翼を背負ったフォーチュナは落ち着き払った様子で答えた。 「さあ? 食べるついでにアザーバイドを呼び出そうって魂胆じゃないかしら」 その言葉にリベリスタらが小さく呻く。どのようなアザーバイドなのかは分からないのだ。 「今直ぐ向かえば到着は昼。今からなら10人程度食べられてる筈…。 喰月がどこで食べてるか。其処までは観測できてないの……。 時間がかかればかかるほど彼女は暴食し、アザーバイドを呼び出す準備をするわ」 食べて、食べて、食べて、愛して、そしてアザーバイドを呼びだすのだろう。 さあ、目を開けて。悪夢を醒まして頂戴――その言葉の後フォーチュナは小さく呻いて座り込んだ。 「そう言えば、愛しいからと骨を喰う習慣があるんですって」 今でも静かに続いているそうだけど。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月10日(火)22:58 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 随分と昔の話、人を喰う風習があったそうな。其れは生きる為には大切な事ではあったけれど、飽食の時代である今では恐ろしい風習でしかない。 「さながら食人鬼、と言ったところか」 リオン・リーベン(BNE003779)は小さな集落の見取り図を指でなぞりながら呟く。 フォーチュナが指定した三つのポイント。村長の家、小中学校、恋落ち池。何処に行くでも最短のルートがあれば、被害を抑える事ができるかもしれない。 「……村人の被害をどの程度まで許容するか」 その許容こそが最大の関門であると思う。許容など出来る筈がない。神秘にも触れぬ人々なのだ。許容など、してしまえるわけがない。 村人の被害。人を食う少女と、『ソレ』を教えた男。悪いのはどちら?――リオンは男が元凶だと考えている。大層な趣味だと思う。ご立派だ。人を食す事こそが常識だと少女に刷り込んだ男。 「悪食の極致ってカンジ」 だが、食する方もどうなのか。其れが美食家というのはどうなのか。『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)は口元を押さえて俯いた。 見てしまうのは避けたかった。見てしまったら、トラウマレベル。夢にまで出てくるだろう。肉片を幸せそうに小さな口で咀嚼する少女の姿が。 誰かが酷い目に会うだけで気分が悪いのに、其れを更に食べるだなんて。 「これはまた、気持ちいい位の狂気だね」 くすくす、嗚呼、僕は嫌いじゃない――なんて、からかう様に笑った『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)は少女との鬼ごっこを考える。 出来うるなら骨の折れる事にならずに直ぐに発見し、アザーバイドの出現を避けたい。仕事をこなす事が最優先事項だからだ。 けれど、その狂いきった狂気に身を任せる可愛いお嬢さんと踊る事も楽しみにしていてもよいだろう。 「……人が人を食べるんですよ」 エクソシストとして育てられた『祓魔の御使い』ロズベール・エルクロワ(BNE003500)の表情は暗い。 彼の言う主は其れを認めない。おぞましい事に体が小さく震えた。止めなければ、と呟く。翼を隠し、住民たちが無事であることを祈る。裁きの代行こそが魂を救う手段。 祈りを捧げる、嗚呼、主よ。罪深きロズをお許しください、と。 じっとその様子を見つめていた『斬弓虚刃』逢坂 黄泉路(BNE003449)は両親から授けられた家宝をぎゅっと握りしめる。愛故に人を喰らうとは、良くある比喩だ。 「食べたい位愛してる、って比喩ならまだしも」 実際に食すとは理解しがたい。生まれながらソレを常識として刷り込まれてるのであれば今後の更生は不可能であろう。だが、もし更生できるならして遣りたいと思う。 悩ましげに視線を動かした彼は小さく頭を掻いた。ショック療法として否定とダメージがあれば、或いはなんとかなるのでは。しかし実際に出会ったことない少女に其れがどこまで聞くのかは、想像し難い部分でもあった。 「墓に入れるモノすらないではありませんか」 墓掘りのおんなはぼんやりと思う。その職業上、人喰いを忌み嫌う『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)はベールで覆った視界で仲間達を見回した。 「二手に分かれて探索しましょう」 彼女の提案に仲間たちは頷く。フォーチュナが語った場所を村長の家と考え、その他を二手で探索する算段だ。 死者への弔い。生き残された者たちへの生きる標。その場所に『在る』ことを示すことこそがロマネの仕事だ。だから尚の事食べてしまうというその行為には同意しかねる――嫌悪を覚える。 「ただの餌と捉えられては」 逸脱した食欲求。餌だと捉えて口にしてしまう事は、彼女の仕事に、信念に差し支える。 では、参りましょうとロマネは黒衣を揺らす。その死者を弔う色は寂しげに揺れた。 ● 人を食べる事が愛であるのか。愛情の概念は人それぞれだと言うけれど。 理解しがたいその愛情に『サイレントフラワー』カトレア・ブルーム(BNE002590)は嘆息する。 「愛は互いの気持ちが通じてこその愛だと思うのです」 恋落ち池、とはロマンチックな名前であると思う。昔、天女と恋に落ちたおとこの伝承があるこの池。古い伝承であるというから、ロマンチックであるし、興味はあるけれど。 「今は村人の無事が最優先ですね」 興味はあれど、今は其方に構ってはやれないのだ。被害を増やしたくないと思うし、何より独り善がりの愛を愛だと認めたくもない。 「ここには居ないみたいだな」 「そうですね、学校班はそろそろ付いた頃でしょうか」 池の際で蛙が跳ね上がる。静かなその場所。彼らは少しばかり違和感を感じて周囲を見回した。人が、居ない。 普段は老人の憩いの場になっているというその場所。機械音交じりの中、通信を繋げたプレインフェザーは小学校側の声を聞く。 大丈夫か、と問い掛ける前に、少女の笑い声が響き渡った。 「……向かうぞ」 「そうね、行きましょう」 この為の最短ルート確認だ、と見取り図を真っ直ぐに見詰めたリオンが仲間達へと声をかける。 彼らは急いで、その道を戻る。向かう先はもう一班の居る小中学校だ。 「……人を、食べる事が愛なのですか?」 きっと独り善がり、その愛は伝わらないままに食す。喰月の愛が『恋愛』であるならば、きっとそれは正解なのだろう。 食む、嗚呼、嗚呼、愛している。 彼女らは走る、カトレアは祈る様に仲間達の事を想った。 「皆さん、どうかご無事で……」 ● 同時刻―― 『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)は仲間達と共に小中学校へと到着していた。 この場所は死守しようと、そう思う。自分たちが間に合わなかった場合の事を考えるとゾッとする。惨劇の後であれば直ぐに他の場所へと向かわなければならない。 板張りの廊下がやけに重く軋んだ。 「音が致しませんね」 周囲を見回したロマネにリィンは頷く。かくれんぼと言うほど隠れてはいないけれど、鬼ごっこと言うほど追いかけっこをしているわけでもない。 ぎしり、静かに床を踏み、彼らはまとまって一つ一つの教室を回っていく。校舎内はやけに静かで人の気配を感じない。違和感のみが胸の内を支配した。もしかしたら此処に居ないのでは、そんな考えも過ぎるが、まだ全ての教室を調べ終わった訳ではない。 階段を見上げた黄泉路は仲間達を振り返り廊下を進んでいく。その鼻孔を慣れたものではない鉄の匂いが擽った。 胸がざわめく。嫌な予感のみがその胸を支配している。 濃厚な死の気配と言うのはこういうのを言うのだろうか、彼らは一度其の侭目の前の扉を開く。 ぐしゃり。 「ああ、ばれちゃった」 赤黒く染まったゴシックロリータのドレスが揺れる。大きな瞳が楽しげに黄泉路を見つめて、笑った。 その場に居るリベリスタは四人、沙希、ロマネ、リィン、黄泉路だ。繋ぎっぱなしにしてあった通信の向こうでプレインフェザーが此方に向かうと告げている。 だが、間に合うだろうか。目の前で怯えて口もきけなくなっている子供達。 「こんにちは、リベリスタ。愛してるわ」 此処まで来るのにね、たくさん殺したのよ、と少女は微笑む。昼までに10人、あなた達が私を捜してる間に3人。此処で6人。 指折り数える。握りしめたアイスレイピアは赤い血で染まっていた。 『ふぅん、ヒト食べちゃうんだ』 ぴくりと少女が――『恋愛美食家』茨・喰月が顔を上げる。ハイテレパスを通じて沙希が彼女に語りかけているのだ。頭部を用いたランチ考えたのよ、と気を引く様に笑う。 沙希は彼らに好感を持っている。興味もある。だが、此処で第一にしたいのは時間稼ぎの方だった。 『唇のマリネ、目玉はお皿の両端に。頬肉のソテー、涙液が隠し味』 歌う様に告げる彼女に喰月は笑顔を浮かべて赤い月を作り出す――バッドムーンフォークロア。血色のその月はリベリスタ達に降り注ぎ、その身に不吉をもたらす。 『脳はペースト状にして厚切りのパンに塗るの、フォアグラ風味♪』 「素敵なレシピね。有難う、参考にするわ」 くすくすと笑った彼女の前で集中領域に達したロマネはじっと見つめる。その隣、遊ぶ準備をすると笑ったリィンはシューターとしての驚異的な集中を纏う。 闇のオーラを纏う黄泉路の視線は子供達へと向けられている。残った子供の数は5人。 敵がいなければ逃がしてやりたいと思った、だが目の前に敵がいるとなればそれも手間になってしまう。 「さあ、華麗に踊りなよ、その血濡れのドレスを翻して」 「まあ、素敵なお方。ご一緒に踊りましょう?」 少女のアイスレイピアは彼らではなくて蹲る子供達へと向けられる。ネイルで彩られた爪は子供達の顔を這い、そのまま―― 「愛故に喰らうんだよな……、あんたの恋は何時も刹那的なんだな」 ぎっと睨みつけた黄泉路へと喰月は笑う。まるでそれは無垢な少女。 「ええ、そうね、刹那の恋愛ね」 「その愛、ただの食欲の誤認だろ」 首をかしげた喰月は、ゆっくりと唇を動かした。だって、それしか知らないのだもの。 黄泉路へと執事服の青年が躍り出る。彼の拳は黄泉路の腹へと入る――が、彼はそれでは倒れない。胃の中身がこみ上げる感覚がする。青年の放った暗闇は背後に居た少女へと向けられていた。 ――彼女の腕の中には子供がいる。まだ、生きて、其の目に恐怖を称えた子供。 暗闇に包み込まれる瞬間にレイピアが子供の胸を突き刺す。目を見開いた子供はそのまま喰月と共に闇へと飲まれた。 『ねえ、私は骨が好きなの。だから私、茨ちゃんの膝蓋骨が欲しいの』 思春期のこどもの膝蓋骨は柔らかさの中に硬性を蓄え始める。手触りはとても素敵。だから、欲しいと思う。貴女、可愛いものね、と脳内に直接囁く声に黄泉ヶ辻のフィクサードが笑う。嗚呼、良い趣味。貴女の方がよっぽど『黄泉ヶ辻』じゃないかしら。この閉鎖的で、ドロドロした気色の悪い私達の仲間なのではないかしら。 黄泉ヶ辻は好き、と沙希は笑う。だけどアークには義理もあるし、特に嫌いではない。真意は時間稼ぎであったけれど、それも意味を為さなかった。 『嫌いじゃないわ……』 「有難う、こちらに来ても、よろしいのよ」 きっとアークが良いって仰るんでしょうけど――そう少女は微笑んだ。彼女の手のレイピアがかたりと揺れる。 4対2であれどその戦力差は大差ない様に思われる。後衛が多いこの布陣では有利な戦闘を行う事が叶わないのだ。 「どうせなら貴女達も王子様の捧げものにしてあげたいのに」 其れは、叶わないのかしら、と彼女は笑う。レイピアを振るい繰り出した攻撃はリベリスタ達の知らぬもの。血に濡れた歪な氷の破片がリベリスタ達を襲う。 『執事さん……良い趣味してる』 喰月の放ったEXスキル『泣き虫ハイマ』の怒り。彼女への怒りに対して集まってくるリベリスタ達を前衛位置に居た執事の青年はカバーする様に受け止め小さく笑った。嗚呼、そう、教えたのは自分だから。 「本当に貴女の意思で人を喰う道を選んだのです?」 ロマネは緩やかにじっと喰月を見つめた。其れに少女は優しげに返す。さあ、どうかしら。それしか知らないわ、と。 少女のアーティファクトを持つ手を狙ったリィンの攻撃によりアーティファクトを落とそうとする、が其れは彼女の抱えていたこどもによって遮られてしまう。 「もう、ここに興味はないの。ねえ、菖」 だって、皆死んでしまったじゃない、と少女は微笑む。だって、もう『王子様』を呼び出す為の代償が居ないじゃない。子供の指先を其の侭口に含む。指先は唾液に塗れ、噛み千切られた状態で口元からとり出された。 「そうですね、お嬢様。子供は美味しゅうございましたか」 「ええ、とても」 廊下を駆ける音がする。もう一つの班の到着だろう。 その音を聞いて彼女は身をひるがえす。多勢に無勢。8人を相手にする事は到底無理だ。危険を察知した少女は其の侭急いで走っていく。 技を模倣したい、と沙希は手を伸ばす。だが、其れには届かない。 ああ、ほらね? 望む技は幾ら手を伸ばしても貰う事は出来ない。彼女の癒しで体制を整えた仲間達だが、その前にフィクサードの少女は開け放たれた窓へと手を掛けてしまっている。 「まて、茨! お前だけは、今ここで!」 飛び込んできたプレインフェザーはSTEEL《STEAL》MOONを構えてピンポイントスペシャリティを放つ。 その攻撃に身体を固くした少女は目を見開いた。痛いではないの、と執事の青年を振り返り。 「素敵ね、とっても。私あの方が食べたいわ」 「お前の体の中にある、罪のない人の血肉ごと全部、ここで終わらせてやる!」 プレインフェザーは其の目に怒りを称え、明るい緑色の瞳を曇らせる。こんなものは共食いではない、と彼女は叫ぶ。 狭い教室内で少女に対して彼女は武器を構えたまま、叫んだ。 「お前なんか人間じゃねえ、このバケモノ!」 少女の笑い声が木霊する。 「嗚呼嗚呼嗚呼、お褒め頂き有難う! 嬉しい、嬉しいわ! 王子様と同じになれるのね!」 「……お前は何故人を愛する手段として食する事を選んだのか」 オフェンサードクトリンを周囲に巻いたリオンがじっと少女を見据える。窓際に立つ娘は髪を風に揺らし笑った。 ――だって、私はそれしか知らないから。 「これでは一方通行だ」 愛は育むものではないのか、と青年はじっとみる。黄泉ヶ辻の、狂った少女の唇は小さく言葉を紡いだ。 その言葉は声になることなく、ただ、唇の動きのみで伝えられた。四文字の少女の本音。 「ロズは貴方を逃がしませんよ! 貴方ですね、彼女の歪みの原因は」 じっと見つめた幼いこどもに青年は笑う。如何にも、喰月は『王子様』を望む。其れを利用しただけだ、と。 ロズベールの記憶の中、歪んだ言葉が人々を支配する教会。其れが当たり前だと思ってしまうその気持ち。誰かを救うために誰かを犠牲にする。其れがどれだけ罪深いか分かっている。 conviction――神の意を借り、少年は罪を狩る。人を愛して肉を食うなら、その罪と魂を自信が背負う、と。 「本当に人を愛してみろよ、喰うなんざ勿体ないって気づけるだろ!」 魔閃光で少女を狙う。攻撃を喰らい続ける少女も耐えず赤く血色の月を彼らに魅せ続けた。 ――だが、勝ち目がない事を悟っている。逃げ道が塞がれていなかった事に感謝し少女は其の侭逃げ出す。多勢に無勢。勝ち目がない危険から逃げてでも成し遂げる目的があるからだ。 彼女は駆ける。彼女につき従う執事を置いて。 「茨ッ!」 プレインフェザーが叫ぶ、が、その背は遠くなっていく。彼女の握りしめる血濡れの氷の様なアーティファクトが鈍く日光に反射する。 「さて、貴方がどのような理由で喰月様に食人嗜好を教育したかは、興味などないですけど」 ちらり、とロマネは菖を見やる。職分を弁えぬ執事など職業意識が足りないんじゃなくて、と彼女は攻撃を繰り出す。 奮闘する、彼は執事。主人である少女はアーティファクトを握りしめて逃げゆく。今の時点で20を越える人をそのアーティファクトを使用し殺し、そして食べてきた。 「『王子様』が――お嬢様が望むものがあれば私は其れで!」 その言葉を遮る様に歌い続けるカトレア。其れを庇うリオンの表情は暗い。 黄泉路の放つ暗闇に呑まれ、執事は血に濡れた床へとその身を倒した。何処か、幸せそうな表情を残して。 「くそっ……!」 青年の居なくなった血まみれの教室で、プレインフェザーは壁を叩く。 残ったのは犠牲者と執事の死体、そして四文字の、少女の本音――おしえて、の言葉。 王子様との出会いを夢見る、愛に溺れた少女の行方はもう知れぬ。その血に汚れた白く華奢な背中は遠く、陽炎の向こうへと消え行った。 黄泉ヶ辻の少女、『恋愛美食家』茨・喰月の目的は好きなものを食べながら王子様を呼び出す事。 今彼らの居るこの場には、もはや『王子様』の為の代償は残っていなかった。 ● 口元が赤く染まっている。少女はくすくすと笑いながら手を広げる。 隣で蠢くのは形容し難い黒き大きな生物。口元でぎらぎら光る歯には赤い血がこびり付いていた。 「ねえ、『王子様』とってもとっても楽しいわ」 幸せそうにその生物に手を這わせる。蠢く其れは彼女の指先に擽ったそうに反応していた。 「ごちそうさま、ねえ、愛しい『王子様』。会いたかった、とってもとっても幸せよ」 血の匂いが周囲に蔓延する。失ってしまったモノはあれど、彼女はそれで幸せであった。 もっと、もっと食べないと。沢山レシピも教えてもらったし。 ねえ。愛しい私の『王子様』? 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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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