●入港、そして その日、一台の車両が船舶より日本に降り立った。 それは大型のトレーラー。軍用の特殊車両……戦車や装甲車といったモノを運送する為に使われる、輸送車両であった。 追走するのは一台のジープ。それらが何かを積載し、港を後にした。 通常であれば軍用車両が積載されているはずのトレーラー。だが、現在そこに積載されているものはそういったモノではなかった。 そもそも搭乗者が違う。国内を走る軍用車としては、特異な人物達がそれらの車両には乗っていた。 浅黒い肌に鋭い目つき。自衛隊のものとは違う迷彩服に身を包んだ一団。明らかに異質なその集団は迷い無く車を走らせて行く。 「日本も久しぶりですな、少佐」 トレーラーを運転する男が隣の座席に座る人物へと声を掛ける。その人物は腕を組み、真っ直ぐ進路を睨みつけている。その視線に迷いはなく、ある種の使命感をもった目をしていた。 「予定より動きが遅くなってしまったがな。やはり軍人でない者を信用するのは難しいものだ」 少佐と呼ばれた男――ファッターフ・フサーム・ハッターブ。中東のとある国、今は亡き小国の英雄と呼ばれた男である。 多数の敵を殺し、多数の戦功を挙げ、恐れられた男。今は地下に潜りテロリストとして大国と戦い続ける男が日本に来たのは始めてではない。 歪夜の一人、生ける伝説ジャック・ザ・リッパー。彼が引き起こした三ツ池公園の戦いにおいて、この男もフィクサードとして現れアークと交戦に至り、そして討たれる事無く撤退した。その男が再び日本へ来たのには、当然理由がある。 「目的地への到着までもう少しの猶予がありますぜ。無事に辿り着ければいいんですが」 「アークはそこまで甘くはないだろう。じきに追撃が来るに違いない」 運転をする部下、ムバラック曹長と共にかつて交戦した相手。甘くも見なければ油断するつもりもない。そもそも作戦が遅れたのも……アークの手によって事前の準備が妨害されたからなのだ。 「いいじゃないですか。あのブローカーもきっちり代わりを用意してくれましたし、少々サービスもしてくれました。結果的に得をしていれば上々ですぜ」 「その考えは大儀を見失いかねない危険な物だ、気をつけろ。だが……こうして作戦を実行出来るだけよしとしよう」 日本に赴いた理由。彼らが動く理由などひとつしかない。そのお題目は、『体制死すべし』。 「決して遅い時期ではありませんよ。奴らに神秘の恐ろしさ、とくと叩きつけてやりましょう」 「ああ、そうだな。それに……アナス軍曹の弔いには丁度いいだろう」 三ツ池公園の戦いにおいて命を落とした彼の忠実な部下。理想と思想に生きた同志であった彼への弔い合戦としての意味合いも今回の作戦にはあるのだろう。 「十二分に熟成されたこの積荷だ。しっかりと奴らに受け取って貰わねばな」 視線をトレーラーの後部へ送るファッターフ。シートを被せられ、部下によって警護されたソレは…… ――シートに包まれ、拘束され。唸りを上げていた。 ●ブリーフィングルーム 「皆さん、ファッターフ少佐という人物を覚えていますか?」 アークのブリーフィングルームにて。『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)はリベリスタ達を前にそう切り出した。 その人物の名はかつて一度、日本で出ている。『砂漠の狼』と謳われた国際テロリスト。大国への報復と制裁にその執念の全てを向ける人物である。アークとの関わりはバロックナイトの時。リベリスタの敵として彼は立ち塞がったのだ。 「その人物が船舶にて極秘に入国、行動を開始するとの予知がありましてね。国際テロに関しては本来我々の管轄ではないのですが……」 そういう四郎は困ったように肩をすくめた。 「彼ら、ファッターフ少佐の組織には多数のフィクサードが存在しており。今回のテロも神秘を利用したテロなんですよ。だから万華鏡が捕捉してくれたわけで」 四郎がいうには、国外において念入りに準備した後に少佐一行は国内に侵入してきたという。入国から行動までの速さはかなりのもので、国だけではなくアークも警戒しているとみていいだろう。 「彼らが行動したのには理由があります。最近の国際情勢の不安定化。それを懸念して大国と日本が行おうという演習があるんですよ」 合同演習。密接な同盟関係である大国と日本は、しばしばこういった協力を行うことがある。つまり国際テロリストの狙いはその演習への武力行使なのだが…… 「彼らの目論みは演習へのエリューションの投下。万華鏡の予測したそのフェーズは……3です」 エリューションにはある特性がある。そのエリューションの持つ変化の深度が3を越えると、とある特性を手に入れる事があるのだ。 その特性とは『界位障壁』。エリューションの力を持たぬものによる、近代兵器による攻撃を無効化する上位存在の力。その特性の前にはただの軍事力は無力化を起こすのだ。 その特性を得たエリューションを、テロリストは演習地へと解き放とうとしているのだ。 「もしこれが成功してしまえば、国際情勢の微妙な悪化、自衛隊や在日軍の被害等の影響が発生してしまいますね。そして対抗出来るのは、国内においてアークに他なりません」 四郎は手にした資料の束をリベリスタ達に配りながら、告げた。 「相手は強大、エリューションもまた強大。ですが、対抗するアークのリベリスタもなかなかに精強なはずですからね。皆さんの頑張りに期待していますから」 へらりへらりと笑ってはいるが、その言葉は真剣そのもので。 それ故に事の重大さを現していた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月22日(日)23:32 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●月に向かいて 山間に一本の道が通っている。 それはれっきとした国道ではあるが、あまり人通りのある道ではない。ましてや夜更けも過ぎて朝へと向かわんとするこのような時間であればなおのことである。 そもそもこの道は一般的な車両があまり通らない場所へと向かっている。自衛隊が保有する演習地。軍事的訓練を行うその土地へ繋がるその経路、その為のルートだ。 その二車線で作られた道を二台の車両が走る。四輪駆動の車両に一台のトラック。それらが急ぐように走り抜けていく。 進路に浮かぶは月。沈まんと傾き続ける月へと向かい、二台の車両は走り続けていく。喰らいつく為に。惨事を防ぐ為に。 「軍用ではない物の操作には余り慣れてはいないが」 四駆のハンドルを握る『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)はそう呟きながらも可能な限りアクセルを踏み、ハンドルを切る。対向車が少ないことを利用し、最大限にペースを上げる。 「早く早く。絶対にここで止めるよ」 急かすのは『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)。決して仲間の運転を信頼していないわけではないが、逸る気持ちは仕方なし。追撃する相手を逃がせば、決して小さくはない被害が発生するだろう。それ故に、気持ちは逸る。 「最近乗り物に多く乗ってる気がするなー……」 そう呟いたのは『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)。依頼において車両を扱うことは余り多くないが、彼女は個人的に最近それが多いのだろう。だが、必要あってそれを扱うのだから仕方あるまい。 四駆より先行する大型のトラック。そちらのハンドルを握るのは『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)。彼女も彼女なりに最速のペースでハンドルを取り、追撃を行う。 「まだ見つからない。早く追いつかないと」 「相手もそんなスピード出せないって。確実に近づいてるはずだよ?」 焦れる真琴に助手席の『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)がにやつきながら相槌を打つ。葬識の言葉は誤ってはいない。 月光に照らされつつ速度を上げ、リベリスタ達は道を走る。いくつものカーブを曲がり、ハンドルを切り、再度アクセルを踏む。やがてリベリスタの視界に映る物は。 「見つけた、あれよ」 真琴が言い、全員が視界にソレを捉えた。紅い四つのテールランプ。軍用の車両、軍用のトレーラー。それらがリベリスタと同様にスピードを上げつつ道を疾走するのが、捉えられた。 「さて、一矢報いる時がきたようだな」 かつて三ツ池公園において眼前のエネミーと交戦した『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が呟く。眼前のエネミーは彼にとって討ち果たさねばならない相手だった。 中東の小国における歴戦の兵。多くの敵を殺し、多くの戦功をあげた男、ファッターフ少佐率いるテロリストの一団である。 「お兄ちゃんを負かした相手……」 『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)がギリ、と奥歯を噛み締める。 「許さないよ」 最愛の兄に敗北を与えた相手。決して許すわけにはいかない、妹としては。妹以上としても。兄の雪辱は自らの雪辱である。彼女はそう、自らに言い聞かせる。 「俺は別に因縁とかはないけどさ」 『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)は頭を無造作に掻きながらも、その視線は視界に捉えた標的から離さない。 「仲間の為ならエンヤコラ、ってね」 彼の矜持に思想も政治もありはしない。ただ、その力は仲間の為に振るわれる。死地に共に飛び込み、癒しの力を振るう。それによって一人でも無事に帰れる仲間を増やす。それこそが彼の望む戦いなのだ。 「――任務を開始する」 一言呟き、ウラジミールが思い切りアクセルを踏み込んだ。同様に真琴もまた、アクセルを踏み込み加速する。 急速に詰まっていく前方のエネミーとの距離。カーチェイスを含む激戦がここに開幕する。 ●追撃せよ 「……少佐、後方から車両が接近していますぜ。スピードから見るに、多分追っ手かと」 前方の車両。トレーラーの内部に座し、操縦を行っているムバラック曹長が助手席に座る男……『砂漠の狼』と謳われるファッターフ少佐へと声をかける。 「やはりきたか」 表情を動かすことなくファッターフは呟き、手元にある通信機のスイッチを押し、連絡を送る。 「こちらファッターフ。後方より襲撃者が接近中。奴らを通すな」 『了解。こちらでも視認しております』 通信機の向こうより、護衛車両の指揮を執るナズィール軍曹の声が響く。 襲撃者たるアーク。以前の戦いにおいても相応の実力を発揮してきた相手である。ファッターフは決して彼らの実力を軽視はしない。例え退けることになろうとも、常にギリギリの戦いになるであろう。そういった確信を彼は持った上で今回の作戦に臨んでいるのだ。 「やってみるがいい、アーク。大義があるというならな」 口角をニィと釣り上げ、ファッターフは哂う。軍事的に素人である彼らが果たしてどれほど食い下がるか。油断ならぬ作戦行動の最中であろうとも、その程度の期待をしても構うまい。 大義が第一。だが、その最中にも愉しみはあっても構わない。実力者との交戦は血沸き肉踊るものなのだ。男として生まれた者の性と言えるのかもしれないが。 「ちょっとこの構えは見た目戦車っぽい気がするよ……」 追走するトラック上において手にした高射砲……かのドイツのアハトアハトを構え、『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)はぼそりと呟いた。 お互いに最大限の速度を振り絞ってはいるが、先行するテロリスト達はトレーラーのサイズ、及び積載された積荷の重量によって万全な速度を出すことは出来ない。 じわじわと詰まる距離。やがて進路にはっきりと前方の車両をリベリスタ達は捉える。 「彼の大義は正しいわ。そして方法も肯定よ」 ファッターフのやり方を肯定するのは『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)。彼の持つ考え、思想。そして手段。その全てを彼女は理解する。 「だからこそ力を使うのならば他の力に潰されることも覚悟しなさいね」 そう呟き、不敵に笑う。目には目を、歯には歯を。報復には報復を。至極シンプルにして、当然の原理。彼女はそう判断し、牙を剥く。 「射程まであと少し。全員準備して」 ハンドルを握る真琴がそう皆に告げ、自らも覚悟を決める。腹をくくると同時に自らの力を高め、相手の迎撃に備える。 他の皆もそれぞれに覚悟を決め、闇を纏い、十字を切り。それぞれ一様の構えを行い来るべきその距離を待つ。 徐々にテールランプが迫る。十メートル、二十メートルと距離が詰まり、やがて射程に捉えようとした時に。 ――射程に優れる敵が、一足先に動いた。 「来るぞ」 油断なく相手の様子を伺っていたウラジミールがその優れた視力によって相手の挙動を捉え、警告する。それと同時に相手の銃撃が開始された。 ジープの後部、フレーム部にアサルトライフルを載せて銃座の如く構え。銃身が唸り、テロリスト達の銃より多量の銃弾が吐き出された。 より長い射程より撒き散らされた銃弾はそれぞれの車両の運転手を正確に狙う。銃弾が破砕音と共にフロントガラスを撒き散らし、それぞれの運転手へと叩き込まれた銃弾が、車内に鮮血を撒き散らす。 だがウラジミール、真琴の両名は歯を食いしばりさらにアクセルを踏む。加速する車両がさらにじわじわと対象へと追いすがっていく。 「もう少し……」 虎美もまた、眼前の車両を睨み付けつつ機を狙う。彼女もまた、この間合いにて戦うのは無理ではない。だが、彼女の狙うターゲットはより前方を走るトレーラー。積極的にジープの相手をするのは彼女の勤めではない。 今はただ、耐える。そのしかるべき時がくるまで。 次々と叩きつけられる銃弾を耐えながら、じわじわと距離を詰め……。 「うーん、いい頃合じゃない?」 「オッケー!」 葬識の言葉に、陽菜がトリガーを引き、砲弾を吐き出した。 アハトアハトが唸りをあげ、砲弾が放物線を描いて敵の最中へと飛ぶ。事前に道路の構図をチェックしていた葬識の判断は的確で、より砲撃しやすいポイントでその砲弾は放たれて、路面にて爆炎を上げた。 トレーラーとジープを分断するかのように放たれたその一撃ではあるが、ジープのドライバーは見事なハンドル捌きによって着弾点を回避し、走る。 その車両の動きは洗練されており、確実にこの戦場における動きの支配権を奪うには十分な立ち回りであり。 また、その走りは常に車線の中央を抑えている。多少大型である軍用車両が中央に鎮座することで、脇を抜けることも困難である。二車線の道は突破を行うには不利であり、相手は運転に関しては優れているのだ。 「だからといって、諦めるわけにはいかない!」 ウェスティアが術を練り上げ、黒鎖がテロリスト達へ襲い掛かる。後部座席に立つテロリストが縛り上げられ、蝕む。 「取っておけ!」 その隙にオーウェンが光球を生み出し、ジープへと投擲した。轟音と閃光が進路を塞ぎ、衝撃がジープへと叩きつけられる。だが、ドライバーの操縦は淀むことはなく車線を封じ続けていく。 自在に操られる車両。だが、車両として成立しなくなればその移動は淀むはず。リベリスタはそう判断し、行われた行動は…… 「足がなければどうにもならないよねえ?」 「文字通りの足止めってやつだよね!」 葬識が手にした鋏の如き刃を構える。闇が得物を包み、振り抜くと同時に目標を蝕まんと漆黒の牙を剥く。 同様に陽菜もまた、その砲撃目標を進路ではなく一点へと向けた。そのターゲットはジープのタイヤ。車両が動くに当たって何よりも重要な支持足となる、その地点を狙っていく。 それらの狙いは的確であった。砲撃に闇を纏った斬撃はタイヤを切り裂き、激しくバーストさせる。 だが、タイヤを失った車両ですらドライバーは操ってみせる。長距離の自走は最早不可能。だが、停止を自分の望むようにすることは容易だったのだ。 蛇行しそうになる車体を強引に操り、ドライバーはジープを停車させる。――車両をスライドさせ、車道を塞ぐバリケードとなるように。 「いけない……っ!」 衝突しては惨事となる。急ブレーキ、そしてハンドル裁き。障害物と化した敵車両を前に緊急停止を強いられるリベリスタ。 テロリスト達は車両を盾に各々の得物を構え、銃撃を開始する。遮蔽を取り、一歩たりとも先にいかせないように。 「我らの計画の邪魔はさせん!」 シミターを片手にナズィール軍曹が弾幕の中を駆け抜け切り込んでくる。振り回される刃がリベリスタを刻み、傷つけていく。鮮やかな太刀筋はナズィールの高い技量を示し、リベリスタの命数を削らんと振るわれる。 だが、リベリスタ達は彼らの相手をするつもりは一切なかった。目的はあくまでトレーラーの積荷。それ故に眼前の障害を排除するのだ。 「お前さん達の相手をしている暇はない!」 オーウェンが叫び、思念を増幅し、炸裂させる。衝撃が叩きつけられ、路上に配置されるジープが揺れる。巻き込まれたテロリスト達が同様にのけぞり、距離を離される。 さらにもう一撃。増幅された思念の衝撃がジープへ叩きつけられると横転し、壁となっていたジープが路面の端へと押しやられた。その隙をつき、トレーラーを追走する為の四駆が間を駆け抜けていく。 「小賢しい真似……っ!?」 ナズィールの怒声が響き、リベリスタへと向けられる。が、その言葉は途中で遮られた。障害物が途絶えた瞬間に、真琴がアクセルを思い切り踏み込んだのだ。 「どきなさいっ!」 という叫びもナズィールの耳に響くことはなく。衝撃が軍曹を襲い、その身体を宙に跳ね上げた。 他のテロリストも咄嗟に回避行動を取り、直撃は避ける。だが、その脇をリベリスタ達の車両が駆け抜けていった。 「やっちゃいけない事やった感があるけど、緊急事態ということで!」 「じゃあね、急いでるから~」 陽菜が自分に言い聞かせ、葬識がひらひらとテロリスト達へと手を振る。 テロリスト達は走り去る車両に対し銃弾を撒き散らすが、高速で走り去る車両へ弾痕を刻むのみでその足を止めることは叶わず。一方足を失ったテロリスト達は走り去る車両をただ見送るのみ。 跳ね上げられ、叩きつけられたナズィールが何事もなかったかのようにゆらりと立ち上がり、通信機を手に取った。 「少佐、申し訳ありません。連中の通過を許してしまいました」 『十分な時間稼ぎだ、軍曹。撤退の準備をしておけ』 「了解」 通信機の先のファッターフの指示の元、置き去りにされた兵達は山へと入り込んでいく。 後の撤退の準備を行う為に。 ●信念ありて 先ほどの交戦、足止めにおいてリベリスタ達の足は大きく止められることとなった。 わずかの交戦ではあったが、封鎖からの交戦は十分にリベリスタ達にとって大きな時間のロスである。月はさらに傾き、夜明けが迫る。目標とするトレーラーのテールランプを再び追い、二台の車両は走り続ける。 やがて車重と加速の差が出始めた。じわりじわりと距離が詰まり、再び視界にトレーラーが捉えられる。 同様に、テロリスト側からもリベリスタの車両の姿は捉えられた。 「少佐、後ろ来てますぜ」 「報告通りだ。やはり一筋縄ではいかんな」 トレーラーの車内よりムバラックとファッターフの両名が会話する。元より時間稼ぎの護衛だったのだ。彼らは十二分に役目を果たしてくれた。後は積荷を無事に現地へと送り届けるのみ。 「それにしても、相変わらずしつこい。この国での任務はどうにも面倒ですな……っ、と!」 サイドミラーにより後方を伺ったムバラックが慌てて身を引く。それと同時に今覗き込んだサイドミラーが同時に弾けとんだ。後続より追うリベリスタ、虎美がその手にした拳銃で撃ち抜いたのだ。それはすなわち、テロリスト達をリベリスタが射程に捉えたことに他ならない。 「おお怖い怖い。さて、ひとふんばりしますかね」 飄々と言うムバラック。一方ファッターフはその様子を一瞥すると、一言告げた。 「任せたぞ。粛々と目的を達成せよ」 「了解」 簡素なやり取り。直後、ファッターフは扉を開き後部キャリアー部分へと飛び移った。 「さあ来い、極東の戦士達。我らの大義を止めるならばその牙を突き立ててみるがいい」 キャリアー上で腰に下げたシミターを抜刀し、追撃する者を睨みつけるファッターフ。その刃は緻密な細工が施された代物で、無骨な彼のイメージとは若干遠い存在感を示す。 部族の誇りたるその刃。彼の原点にして信念である。 「大義かもしれないけれど……狙われてる人にも帰りを待ってる人がいるんだから」 シャルロッテがファッターフを睨みつける。テロが起きれば命が奪われる。その彼らにも等しく家族が、友人が待っているのだ。ならば行使させるわけにはいかない。 「お兄ちゃん……力を貸して!」 虎美が叫び、両手の銃より銃弾を放つ。研ぎ澄まされた射撃が狙うは、運転席。その車両を操るドライバーを止めることで車両そのものを止めようという一手。 何発かの弾が車体に弾かれ、残る何発かが運転手たるムバラックの肉へと食い込む。 「ちっ、腕がいい射手ってのは面倒臭いねえ」 その痛みを感じないかのようにその運転には淀みがない。ムバラックもまた優れた射手ではあるのだが、今回の彼はドライバーだ。何よりも彼の技術を優先してまわされるべきは積荷を運ぶ、その一点なのだ。 そしてこの距離は、射手達の世界である。トレーラー上に待機する他のテロリスト兵。アサルトライフルを構えた彼らが銃弾をばら撒き、後続のリベリスタへと浴びせかける。 長距離より放たれる銃弾は被弾したリベリスタ達を蝕む。銃弾より湧き出す呪詛がリベリスタ達の身体へと染みこみ、抵抗力を奪い取っていく。 「……テロには屈しない」 だがウラジミールがハンドルから手を離し、即座に手にした刃を振るう。生み出された光がリベリスタ達を包み、蝕む呪詛を振り払っていく。 コントロールを失いかける四駆を咄嗟に虎美がフォローし、ステアリングを安定させる。お互いがお互いの行動を補い合い、隙を削っていく。 「邪魔をするな、ロシヤーネ! あの国が弱体化して貴様の祖国が損をする事などあるまい!」 ファッターフが叫ぶ。冷戦は終了したが、ウラジミールの祖国はかつてファッターフの怨敵たる大国と争っており、現在であっても力関係において天敵であることは変わらない。 「現在自分が行う活動はアークとしての活動だ。祖国の事は当面関係がない」 ウラジミールは答える。彼の現在の活動はリベリスタとしての活動なのだ。『閣下』からの命令が無い限りは、全力で阻止するのみ。それこそが彼のスタンスである。 「そうだそうだ! 大体だな、今更テロとか流行んねーんだっての!」 「流行廃りで大局を語るな、蒙昧の徒めが!」 「関係ねえよ! 戦争なら他所でやりやがれ!」 追従するように叫ぶ俊介の言葉にファッターフが激昂する。大義を語り、理想に生きるファッターフ。友の為に戦い、今を生きる俊介。その言葉は決定的に隔たりがあり、相互の理解は困難である。そもそも、求めるものが違うのだ。 「人の痛みを知るといいんだよ」 シャルロッテが自らの腕へと刃を振るい、鮮血を撒き散らす。自らの痛みは相手の痛み。闇の力を借りし技を行使せんと、彼女は自らを傷つけ待ち構える。 言葉をぶつけ合う距離は縮まり、車両の距離も縮まる。優れた射手のエリアが狭まり、あらゆる射手が支配する射程へとなり…… 「ターゲットフルロック……ファイア!」 リベリスタ側の火力が、一斉に火を吹いた。 砲火の号令を上げたエーデルワイスが、手に装着した火器より銃撃をばら撒く。銃弾はトレーラーへと叩きつけられ、連結部や車体において金属音を響かせる。陽菜の砲撃が積荷目掛けて放たれ、爆音をあげる。シャルロッテの異能を打ち抜く弓が苦痛を纏いて放たれる。様々な射撃が飛び、トレーラーの各所をそれぞれの狙いの元にまばらに打ち付けた。 「応戦せよ!」 ファッターフが叫び、テロリストが一斉に反撃に移る。アサルトライフルが唸り、リベリスタ達を弾幕が襲う。車両と車両の間を射撃が交差し、互いに血を流し合う。 砂漠の狼と謳われるファッターフ。その真価は軍を我が物として扱う卓越した指揮能力にもある。フ彼の指揮の元動くテロリストの士気は高く、攻撃もまた的確にリベリスタを抉った。 リベリスタ、車両、共に受けた傷は並ではない。だがあと少し。もう少し近づけば状況は変わるのだ。 「冗談じゃねえ、馬鹿げてる。誰も殺させねえからな」 俊介が鬼の騎士より受け取った、花染の刃を振るいつつ言う。その刃は神秘を増幅し、仲間達の傷を癒す。傷つける為ではなく、守る為に。誰一人として戻らぬ者の無きように。 「作戦地まであと僅か。これ以上貴様達と遊んでやる義理はない」 傷つけど、傷つけども食い下がる。しつこく追走するリベリスタ達を睨み付け、ファッターフが手にしたシミターを構える。 ――瞬間、空気が変質した。夏に入りかけた湿気に満ちた日本の気候。それがいきなり変化したかのような違和感。場に流れるは乾いた空気。それはファッターフの故国、砂漠に満ちる乾いた風。 「……ッ、まずい、何か仕掛けてくるよ!」 トラックにて構える陽菜の独自の嗅覚――死の匂いを嗅ぎ付ける感覚が、鋭敏にそれを受け取った。乾いた風の中に濃厚に漂う死の気配。全身を怖気が走り、その感覚を即座に言葉に出し、叫んだ。仲間が死に捕らわれぬ様に。 警告に皆が身構えた時、ファッターフの刃が一閃された。大気を切り裂く刃が、猛烈に周囲の空気を砂漠の色に塗り替えていく。乾燥した空気が四駆上に満ち……砂が舞う。 「ッ、させるかよ!」 咄嗟に俊介が運転を行うウラジミールを庇う。同時に車上へ猛烈な砂嵐が吹き荒れた。 叩きつけられる砂交じりの風が皮膚を抉り、グラインダーの如く削り取る。撒き散らされた血を砂が吸い、重さを増す。重さを増した砂はターゲットへと纏わりつき硬化し、砂像を車上に作り上げる。 ――車両が風を抜けた時、車上に立つは硬化した砂により身動きをとれぬ、多数のリベリスタ。俊介が庇わなかったならば、車両のコントロールも失っていたことだろう。 「――掃射!」 即座にファッターフの号令が飛び、テロリストの銃が再び火を吹いた。制圧射撃が身動き取れぬリベリスタを打ち付け、やがて耐え切れぬ者が倒れこみ……車両より転落する。自らを傷つけ、威力を高めていたシャルロッテ。強かに地面へと打ち付けられ、跳ねる。 「いけない!」 追走していたトラックを操る真琴がブレーキを踏み、同時に浄化の為の光を放つ。放たれた光は四駆上の仲間達に纏わりつく砂を払い落とし、自由を取り戻させた。 そのまま停車したトラック。転落したシャルロッテを助ける為の停車であり、無事彼女は回収出来た。だが、再び少しの距離が空き、合流までの僅かなタイムラグを生み出すこととなる。 一方先行する四駆は距離を詰める。すでに車両はボロボロ、追走するにも限界はある。僚機たるトラックは仲間の回収に僅かながらの足止めを貰い、じわじわと状況は悪化していく。 ならば、取る手は単純。自分より大型のヴィークルに対する、伝統的な対処法。 「揺れるぞ、掴まりたまえ」 端的なウラジミールの言葉と共に、アクセルが大きく踏み込まれる。激しい加速が四駆を包み、急激に距離が縮み…… ――車両が激突する、激しい音が国道に響いた。 ●ランディング 「ここまで食い下がるか。貴様等の何がそこまで突き動かす」 トレーラー上において、リベリスタとテロリストが対峙する。壊れかけた四駆をぶつけたが、神秘的に補強された上に優れたドライバーによって操られるトレーラーはさしたる被害はない。 だが、作戦の本命はこちら。強襲揚陸による白兵戦である。 「お兄ちゃんの屈辱は妹が返すんだから」 オートマチックとリボルバー、二丁の拳銃を構えた虎美がテロリストへと突きつける。彼女の矜持は常に一つ、最愛の兄の為。だが、それは決してリベリスタの総意であるわけがなく。 「この国で好き勝手はさせないよ」 ウェスティアの言葉。自らの国は自らの手で守る。国防の要はあくまで自衛隊、だが神秘の相手より国を護るのは? そう、リベリスタである。神秘の悪意が自らの所属する、護るべき人々に向けられる。それを排除するのはごく自然の事である。 「そうか……そうだな」 大仰に相槌を打つファッターフ。彼もまた、祖国の為に戦う者である。すでに失われた国の為、国を消した彼の国へと食らいつき、復讐の牙を突き立てる。その為の戦いである。 「ならば、立ち去れ。より好き勝手を行う彼の国への復讐の邪魔をするな!」 日本の同盟国である、あの大国。同盟の名の下に様々な条約を突きつけることもある、その国ではあるが。だからといって復讐を許容する訳にはいかないのだ。何故ならばここは日本の地なのだから。 「貴方の大義は正しいわ。でもここは私達の国だわ。――さあ、懺悔の時間よ、跪け!」 「やってみるがいい、リベリスタ!」 エーデルワイスが見得を切り、ファッターフが応じ。車上の戦いの狼煙があがると同時に、エーデルワイスの腕に装着された火器が神速の抜き打ちで発射される。 放たれた銃弾がテロリストと共に足元の積荷へも叩きつけられる。覆いが破れ、中の積荷が露出する――灰色の巨大な石像のその姿の一部を見せ付けるように。 太い鎖に拘束された、その姿。古きローマの巨像、それは威風を漂わせて鎮座していた。 くびきから解き放たれようと身じろぎしては、全身に巻きつけられた鎖をぎちりと鳴らす。偉大にして雄大なる巨像――センチュリオンは、解き放たれんとその力を今も発揮し続けている。拘束が途切れれば、それが振るわれるのは確実だろう。 「これが動き出したら……」 ウェスティアがごくり、と唾を飲み込む。緊張感が身体を支配する。それほどに強大な気配を、積荷の巨像は放っていた。 「だからこそ、行かせるわけにはいかないよ!」 緊張を覚悟へ変え、魔力を集中する。手にした魔道書を媒体とし、魔力は闇へと変化し……多数の黒鎖を生み出していく。 それらが一斉に解き放たれ、車上の敵へと襲い掛かる。少佐を、兵を、そして巨像を。それらを強く縛り上げ、蝕むと共に自由を奪わんとする。 「そう簡単に……止められはせん!」 だがファッターフはその拘束すらも引き千切り、立ち塞がる。片手に担いだ機銃を投げ捨て、一本のシミター……部族の誇りであるその刃に自らの信念の全てを載せ、リベリスタを排除せんと襲い掛かる。 「貴殿の相手は自分だ」 「邪魔をするな、露助!」 立ち塞がるウラジミール、排除せんと迫るファッターフ。二人のシルエットが交錯し……刃と刃がぶつかり合う、火花が散った。 奇怪な形状をしたコンバットナイフと、華美な装飾の施されたシミター。二つの刃が振るわれ、ぶつかりあう。剣閃が煌き、受け流す。刃の狭間に拳が飛び、お互いのテリトリーを奪い合うかのような身体術と剣術が披露される。 それは軍事物のアクション映画で見られる光景のようであった。軍服の男と迷彩服の男。それが自らの持つ技を駆使し、相手の命を奪わんと披露される。一種独特の無骨ながらも美しい、殺人技の極みであった。 「少佐、今援護を!」 拘束を振りほどいたテロリストがフォローに入ろうと銃を構える……が、そこへ銃弾が打ち込まれた。咄嗟に銃身を用いて弾いたが、致命傷を避けるだけで手一杯の対処。 「自分がフリーだと思ったら間違いだよ?」 銃を構え、テロリスト兵を牽制するのは虎美。数においてはリベリスタのほうが勝っているのだ。一人たりともテロリスト側に余裕などはない。 ――当然ドライバーとてただ操縦するだけではない。 「おお、面倒だねえ……っと!」 車両を操るムバラックが思い切りハンドルを切る。瞬間、激しい慣性が車両へともたらされ、トレーラー上の戦士達のバランスを崩す。 「って、うわぁ!?」 咄嗟に僅かに舞い上がり、バランスを維持するウェスティア。彼女のように宙へ舞うことで慣性に煽られぬ者や、尋常ではないバランスを持つ者達。彼らはそのような状況でも動じはしないが、対処を持たぬ者は大きくその体制を崩すこととなる。 ファッターフの刃がバランスを崩したウラジミールを抉る。テロリストの銃弾がリベリスタを薙ぎ払う。地の利は大きくテロリスト側にある。俊介の癒しの力がギリギリの生命線であると言えた。 ……その時、後方よりエンジン音が近づいてきた。 タイヤを鳴らし、アクセルを吹かし。距離が離れたトラックが間合いを詰めて戻ってきたのだ。 「間に合ったか……対処を開始する」 オーウェンが呟き、トレーラーへと飛び移ると同時に猛ダッシュを行う。目標は以前に自らに土をつけ、借りを与えた存在……ファッターフ。 「一矢報いさせて貰おう!」 バランスを崩した所を狙われ、辛うじて凌いでいたウラジミール。その援護に入る形でオーウェンが割り込み、足技を放つ。補助ブースターによってアシストされた一撃が脚技に加速をもたらし、猛烈な連続攻撃を行うことを可能とさせていた。 「来たか、奇術師!」 ファッターフがニヤリと笑い、その連撃へと対処する。かわし、受け流し、致命傷とならぬ位置で受け止める。だがその全てを裁くことは出来ず、ファッターフは大きく距離を離して構える。 「やはり厄介だな、貴様等は。この土地での作戦において、常に障害となる」 「ならば邪魔されることをしなければよかろう?」 砂漠の狼と、奇術師。二度目の邂逅となる二人は不敵な言葉を交わし、相対する。一拍の間をあけ……両者が動く。 ファッターフの動きに対し、オーウェンは以前に見た立ち回りから推測を立てる。相手の動きへ先回りするように一撃を放ち、出鼻を挫く。そこから再度足技が繰り出される。 変幻自在のその技、相手の行動パターン。それらを合わせて推測し、知識として蓄え……再現しようと行使はするが、それは形を結ばない。 臨機応変に変化するのが戦場の技である。知識以上に信念こそがその技を繰り出す際の、思い切りのよさと変幻さを生み出しているのだ。 「大義を持たぬ者に我らが技術の真似事は出来ん!」 不敵なるファッターフの言葉。だが彼とて攻めきることは難しい。二人を相手にしている以上、どちらかに全力を回せば片方から手痛い一撃を貰う可能性も否定は出来ないのだ。 そこに再び、強い衝撃が訪れる。 「いい加減止まってもいいんじゃないの~?」 暢気な言葉とは裏腹に、葬識が行った行動は大胆にもほどがあった。運転する真琴の横から手を伸ばし、思い切りハンドルをトレーラー側へと切ったのだ。 凄まじい衝撃が両車を襲う。いざとなれば体当たりをしてでも止める。その覚悟で行われたこの行為である。 トレーラーがガリガリと火花と散らして削れる。一方のトラックはメキメキと音を立て、車体が変形していく。神秘的に補強されているという事実、それ以上に大きいのが構造上の問題と車体重量である。 トレーラーはまがりなりにも軍用である。並を上回る耐久性を持っている上に、自重も積載物も共にヘビー級。それが大型とはいえ一般用のトラックと衝突すると……どちらが先に破壊されるか、という問題であった。 だが、その程度は覚悟の上。最終的にトレーラーさえ止まればいいのだ。だが…… 「無茶をするねえ。だが……腕が、よくねえよ!」 トレーラーを操縦するムバラックが不敵に笑い、ハンドルを切った。一瞬車体が振られると、激しい衝突音が再度響く。 ドライバーの腕。これだけはどうあがいても埋める事は出来ない。カウンターを当てられたリベリスタ達のトラックは大きくバランスを崩し、弾き飛ばされる。 「うわわっ! ――でも、引かないよ!」 陽菜が砲身をトレーラーへと突きつけ、砲撃を行う。砲弾は積載されたセンチュリオンへと直撃し、爆炎を上げる。 センチュリオンさえ破壊すれば、相手の作戦は実行することはできない。リベリスタ達の攻撃は激しさを増し、同様にテロリストの応戦も激しくなる。 エーデルワイスの銃撃が敵を打ち付け、センチュリオンを削る。被弾したテロリストが限界を迎え、車両より転落する。だが、まだ残る者は食い下がる。 葬識の鋏のような刃から放たれる暗黒の魔力がセンチュリオンを削り、虎美が阻止せんとするテロリストを撃ち抜き。狭い空間における乱戦は続く。 ――だが、この戦いには終わりがある。制限時間が明確に存在しているのだ。 眼前に見える月がほぼ沈み、背後から陽光が差し始めた頃。眼前にひとつの光景が見えた。 それは演習地のゲート。検問であるそのポイントから先は、自衛隊と大国の軍が合同演習を行う治外法権のエリアである。 「……ここまでだね~」 葬識が残念そうに呟く。両者の被害は甚大であり、このまま続ければ莫大な被害と共にセンチュリオンの破壊は叶うだろう。だが時間があれば、である。 「ここから先は……」 ウェスティアが口惜しげに言う。事前にアークから連絡を入れた時に伝えられた、一つの事実。それは…… この先への侵入は認められない、という事である。 自衛隊だけならば、それも叶ったかもしれない。だが、大国の軍が駐留している以上、あくまで民間であるアークが武装した状態で内部に入り込む許可を得ることは叶わなかったのだ。現段階では。 「残念ですが……」 半壊したトラックを運転する真琴がブレーキを踏んだ。道中において多くの時間を足止めによってロスする事となった。それがあと一歩へ至る為の時間だったのだ。 トレーラーからもリベリスタ達は次々と離脱する。口惜しくはある。だが、約束は約束。この先へリベリスタが今入ることは許されていない。 「惜しかったが、ここまでだ。大義は止められん」 ファッターフの言葉が遠ざかる。やがて正面のゲートを破り、トレーラーが演習地へと入り込んでいくのをリベリスタ達は見送る形となった。 「……せめて、この先の対処をしないと」 ウェスティアがオーウェンより携帯電話を預かり、通話ボタンを押した。連絡先はアーク。食い止められなかったことを伝え、今後の対処を考えてもらわないといけない。 ――大義は止まらず、敵は去る。されどこのまま終わるわけにもいかず。 皮肉なぐらい爽やかな朝日が、打ちひしがれるリベリスタ達を照らし続けた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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