● 「また来るよ! それでまた遊んでくれよ!」 ――私はただの思念体の塊。病気よ治れと祈りに来た人々の結晶。 だから、遊ぶだなんて……初めてで。楽しくて。 契り交わした小指の感触は、なんて温かいのだろうか。 始まった恋は、破滅の予感。 けれどそれでいい、それでいいんだ。 思い出の中で、最高の幸せである貴方の傍を慈しんで眠るのだ。 ● 社から石畳の真っ直ぐな道が続き、鳥居の手前で石の階段が続く。 けれど、階段は途中から土や植物に塗れて使い物にはならない。いたる所にひびが入っては、足を置いたら壊れそうな程までに脆い。 それは山の中の、忘れられた小さな小さな神社。 「今日も……会えるのかな」 石畳の上で、半透明の少女が一人浮いていた。慕いし人を待ちわびて、待ちわびて――今。 「はぁ……はッ、俺、俺……!!!」 荒い息を吐いて、ボロボロで血まみれの服を着た。そう、彼。 紛れも無く彼で、でも、今までの知っている彼では無くなっていて。抉れた腹部が痛々しく見えた。 「俺、どうしよう……死んじゃったんだよおおおおおッ!!!!」 崩れた少年に、涙を流して抱きとめた少女。 一体のアンデットと、一体のフォース。 嗚呼、この世に神様が居るのなら、体と思念を合わせて一人分の生というものを貰えませんか? けして壊されたくない恋情を心に、此処に誓う。 貴方だけは。君だけは。 「絶対に護ってあげる」 ● 「山の奥に、小さな神社があるのですが……住み着いたエリューションの影響で、周辺もエリューション化してきているのです」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は資料を捲りながら、集まったリベリスタに話していた。やけに静かで、杏里の小さな声でも耳の傍で聞こえるようだ。 「どれくらい影響してるんだ?」 「神社周辺、全てと言っても過言ではありませんね……木、石畳、その下の土までもが影響を受けております。 あ、でもフェーズは全て1ですので、ドーンとやればすぐに片付けられるでしょう」 まるで護っているかのように、周辺のエリューションは彼等を包む。 「フェーズ2が二体。アンデットの少年と、フォースです」 映像で映し出された二人の姿。見た目の説明は割愛しよう。 アンデットの少年は物理に長け、フォースは神秘に長けている。それぞれがそれぞれを補い、庇い、助け合っている。連携は暗黙であれ、行われるのだろう。 そこまで言って、杏里はブリーフィングの椅子に崩れるように座った。 「慕いし合っていて、それでも破滅へと向かう二人。やさしい終焉ってなんでしょうかね? それでは、いってらっしゃいませ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月04日(水)00:11 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●静かでいたかった 人の手が途絶えた、忘れられた社。信仰なんてものはもう無いのだろう。 更には草木が鬱葱と生い茂り、月明かりなんて優しいものは通さないほどまでに広がる闇は、冷たく悲しい。 草木をかき分けその場所へ向かうリベリスタ達の目線の先。 見つけたと、『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)の目が研ぎ澄まされていく。感じた感情は、温かいものだった。しかし同時に重いものを感じた。重すぎて、重すぎて、落としたら粉々になって砕ける程に、脆い。 だからといってそれがなんだ。進軍に迷いは無い。例えそれが何であったとしても。 互いの手に互いの手を重ねながら今を過ごす『二体』に向かって、リベリスタ『八人』は足を揃えた。 「だ、誰ですか……っ!?」 咄嗟に反応した二体。ネリネは脅え気に身を小さくし、それでも攻撃せんと手を前に出す。その手前で庇う様にしてユウスケは立った。 護りたい。 それが実行されているのだろう。 「絶対に護る。か……」 『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)が拳を強く握った。 幾度も誓ったその言葉。時には護れず、手から零れた命もあっただろう。心に突き刺さる悲しみはいざ知れず。 「なにをしても、どんなに頑張っても決して報われる事の無い事もあるのだよ」 『徒花氷刃』プラチナ・ナイトレイ(BNE003885)は静かに呟いた。 光無きそこで栄える銀髪を揺らしながら、見据えた先のそれらは、とても小さく見えた。 「なんだっていうんだよ!!」 その内に吠えるユウスケ。その声は少し、震えていて、音が高い。 恐怖だ、絶えず恐怖が彼等を襲っていた。砕けた未来、終わった人の生。破滅へ向かうって、そういうものなのか。 「よォ、坊やに嬢ちゃん。俺達が来た理由、分かるかい?」 暖簾は前に出て二人へと問う。 その答え、言うまでもないとユウスケの口が笑ったのが見えた 「……そうか。恨んでくれてかまわねェからな」 武器をかかえた少年に少女に男や女。死してなお、身体が動いている世界だ。今更何が起こっても一々ツッコむのでさえ面倒な程に理解した。 「キミ達は想いを護る為に、オレ達は世界を護る為に」 『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は口からハァと大きく息を吐いた。 引けないな、引けないからこそ、お互いに進みあってぶつかってしまった。どちらが正しいとかは無い、あるのは護るべきものだけ。 もはやこれ以上の会話は無駄と化した。 優しい終わりってなんだろうか。その疑問を胸に、リベリスタは飛び出した。 ●共にいきたかった 「どうして……ただ、愛し合っているだけなのに」 酷い世界のその中心。今こそ理不尽がよく似合う目の前の敵二体。 「小さな翼を皆様の背に……」 「お願い、彼を護って!!」 『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)が祈り手にキスを落としながらリベリスタに翼を授けていく。同時にネリネが叫んだかと思えば、周囲のエリューションがそのお願いに応えて動く。 来ないで、近寄らないでと言われているように、草木が鞭となってジースの身体に跡を残していく。 しかしすぐに『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)が動き出していた。 「すぐに、回復を差し上げますんで」 「おう、ありがとな!!」 麻衣の広げたグリモアに応え、優しい光がジースの傷を癒した。その最中。 ガァンと瞬時に響いた、銃声。その音の衝撃に一斉に暗闇の中の鳥達が羽ばたき、逃げていく。『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の放った弾丸が、一つのエリューションを粉々にしたのだ。だがまだ数居る。 「あー、働きたくねーです。もう立っているのさえめんどくせーです」 『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)が止まれの標識を振り回す。だるそうに顔は不機嫌を示していた。 目の前で行われている恋愛劇場。なんだか見ていてとてつもなく苛立ちを覚える。 永遠に休んでいいのに、何起きてるんですか。 そのおかげで仕事に駆り出されてしまったじゃねーですか。とんだ迷惑だ。 怒りを込めながら、小路は刃を複数形成していた。触ると切り裂かれるその刃に、草木は抗うまでも無く傷を作っていく。 やはりフェーズ1はフェーズ1か。零二が高速で切り出すと共に、全ての草木を刈り取っていく。邪魔な草木こそあったものの、切り倒せばほら―― 「おまえ!!」 ユウスケが前に出て、零二の腕へ猛毒の牙を突きたてた。服と少しの肉を削り取り、噛み千切ったユウスケのその後方―― 「ユウスケさんは傷つけさせないですから」 悲痛な想いを叫んだ声が響き渡った。脳の中を刺激するその声は、リベリスタの矛先を彼女へと向けさせる。 怒りを真正面から食らったとはいえ、根本より彼女を狙うのが作戦。 草木が消えたことにより、しばしの集中に入るプラチナを除き、リベリスタは薄い色で透けているネリネへと。 地味に彼女が付与した反射がリベリスタの体力を削るものの、此方の回復は厚い。次が来る前にほぼ完全に近い状態で戦えるのだ。 「さあ穿て、不可視の糸よ」 「きゃ、あっ」 放たれた櫻霞の気糸はネリネの射抜いてはその先へと消えていく。 だが櫻霞は少し首を捻った。ネリネを攻撃すればユウスケが庇うものだと思っていたが、ユウスケは今。 「このおお!!」 威力のあるその長い足で、ネリネに群がるリベリスタ達を蹴り飛ばしていた。 「……護らないのか?」 そう疑問が起こった。護ると誓いあっているのなら、その身を盾にしてもいいのでは、と。 「おそらく……」 その疑問には櫻子が応えた。 「おそらく、信頼しあっているからこそ……庇わないのでしょう」 確かに二体の連携は暗黙でできていた。群がれば、蹴られる。 正直、それが彼等のできる連携の全貌だった。非力だが、それしか無い。だが、リベリスタの行動もほぼ完璧であり。 「なんで、倒れてくれないんだよ!!」 ユウスケが悲痛に叫ぶ。リベリスタはそれを耳で聞きながらも、その手は止めない、止められないのだ。 ●永遠に一緒にいたかった 幾度目かの蹴りがリベリスタ達を退けたとき、再び草木が彼等二人を覆った。 「大丈夫、すぐにまた排除しますから」 「なかなかめんどくせーですね」 プラチナが貯めていた集中を一気に解放するときが来た。瞬時に多くを巻き込める位置を特定。投げ込んだ弾が光り輝くと同時に、草木の行動を縛る。 それが大きなチャンスとなったか、続いた小道が再び刃を作ることによって草木へと攻撃する。二人のタクトによる演奏は完璧といえよう。 「さァ、マリア。張り切ってお掃除といこーかァ」 よく手に馴染む、暖簾のブラックマリア。それは頭上から蒼々とした冷たい雨を降らせていく。 「これらを排除すンのが俺のお仕事だから、邪魔ァすんなよ!!」 その意気は攻撃の威力が応える。フェーズ1だから倒せたという訳では無い。その氷柱の雨はフェーズ2である二体でさえ大きく体力を削ったのだ。 「癒しの歌を響かせましょう」 消耗したリベリスタには櫻子が回復の祈りを捧げた。嗚呼、この癒しの力で目の前の二人も救えるのなら良いのに、と。 此方が回復しているのと同様にあちらもネリネが回復を放っていた。 しかしその傷を完全に修復するにはネリネの消耗が激しかった。つい、ユウスケが駆け寄りネリネの身体を気遣う。 「ネリネ……だいじょうぶか?」 「……はい、まだ、まだ!」 大丈夫なら良かったと言えるものか、明らかに大丈夫では無い彼女。そんな二人を見ていてジースが奥歯を噛み締めた。 「……なぁ、もう良いだろ」 Gazaniaを握っていた拳が震えた。目の前のネリネを護る彼が己に見え、過去の出来事が脳裏を支配していた。 ノーフェイスとなった姉を殺されたくない、その一心でリベリスタはフィクサードへと簡単に堕ちることができる。護るために逃げた日々の回想を感じ、弱い頃の自分を目の前にしているようで。 一瞬だが、己のように姉がフェイトを得た奇跡が起きないか願った。けれど、絶対に運命は微笑まない。第一、彼等はノーフェイスでも無いのだ。 「本当に心から護りたいと願うなら、どうして、俺たちから逃げなかったんだ!!!」 ならば道は一つだろう。己を狩る者達から逃げて逃げて逃げるしか無い。何処を辿っても破滅なら、一秒でも長く一緒にと抗っても良いだろう。 「お互いの傷ついた姿が、そんなに見たかったのかよ?!」 「……ち、ちがう!!」 ジースが声を荒げ、喉をこれ以上に無いまでに震わしながらネリネへと切り込んだ。 ネリネの体力が消費している今だからこど、ユウスケはネリネを己の身体を盾にした。深く刃が入った身体からは血は流れない。 「考えた、考えたさ!! 逃げるとか安全な場所とか、でも何をやっても俺等はもう――ッ!!」 破滅の一途か。 「……護ってみせろ!」 ならば、我等リベリスタを倒して生きてみせろ。生憎、此方も譲れないのだ。 零二がユウスケの懐へ強引に入っては魔力剣を振るう。その切っ先に身体が触れた瞬間に、ジースへ反射したネリネの付与が弾けて消えいくのだ。だが物理に長けているユウスケはまだ倒れる事は無い。 「櫻子さんは回復を、麻衣は攻撃をします」 「はい、お任せを!」 今こそ回復を止めし、攻撃へと徹するとき。麻衣はグリモアを広げて回復することをせず、その手をネリネへと向けた。 「……ごめんなさい」 麻衣の揺らぎ無き一矢がネリネへと向かい、それをユウスケが受け止めた。脆い方の防御を刺激し、ユウスケの顔が若干歪む。 ほぼ同時に櫻子が歌を響かせる。再びリベリスタの体力は振り出しか。 嗚呼、嗚呼、目の前の壁は厚く、なんて重い。 もうきっと捕えられたから逃げれない。 そう悟ったユウスケは、攻撃へ集中する。持てる力をもってして、やられる前にやるしか無い。 ●永遠はきっとある 「キミは死にたかったのか? それともアンデットになって良かったのか? 聞かせてくれないかな?」 もしかしたら、ネリネの近くに居たからこそ革醒したのでは無いかとプラチナはユウスケへと聞く。 攻撃を交えながらの会話だが、その言葉はしっかりとユウスケには届いたらしい。同時にネリネがビクリと震えた。 「俺は……死にたくなかった。けれど、死んで、ゾンビになって、それは良かった」 だって。 「ネリネ、最後に君に会いにいけた」 「ゆう……スケ」 また遊ぼうという約束は護られた。しかし払った犠牲は大きすぎたのは言うまでも無い。 「だがもう、手遅れだ。今更、もう何も護れないのだよ」 プラチナはストレートにユウスケの怒りを誘う。集中して言葉を選んだ彼女の攻撃が当たらない訳が無い。 ユウスケは何もいえなかった。確かにもう護れない。だからこそ、無様に喘ぐしか無い。 ユウスケの攻撃はもちろんプラチナに集中した。涙さえ流れない身体でユウスケはプラチナの身体を噛み千切った。 しかし、プラチナの身体をはったそれがあったからこそ、リベリスタ達はネリネへと攻撃を集中させることができたのだ。 「まあ、不幸な事ばかりではないのだよ」 伸びた爪をその身体に貫通させながら、プラチナはユウスケを見た。 「言い方は悪いが、少女は生きた者とは一線を越える事は無いのでは無いか?」 死して、神秘の存在となったからこそ、彼女の一番近くが許される。それは幸せだろう? 「一応、これでもキミ達の幸せは願っている」 プラチナの削れていく体力は、二人のメイガスが支えた。その回復が響き渡ると、同時に―― 「赦せとは言わない」 仕方の無い、運命の悪戯に抗うことなんて無理であり、そこから起こる理不尽なんて溢れ過ぎていて。 ――オッドアイの瞳が、闇夜で光る。 「恨まれて当然、しかし最早全てが手遅れだ」 櫻霞の気糸がネリネへと向かった。それはネリネの歌声を、完全に止める引導となった。 「あ、ああ」 残った彼は、彼女を見た。 元より思念体であった彼女は、地面に伏すと同時に消えていこうとしていた。 「ネ、ネリネぇええええぇぇえぇええええ!!!!」 契り交わした小指の感触は、なんて冷たいのだろうか。 始まった恋は、破滅を辿った。 けれどそれでいい、それでいいんだ。 思い出の中で、最高の幸せである貴方の傍を慈しんで眠るのだ。 ――永遠に。 「それでいーんじゃねーですか」 愛し合うならごゆっくり。迷惑もかけず、働かなくてもいい場所で。小路は消えた少女の場所を見据えて言う。 残ったのは彼のみ。もはや支えられた歌声は遥か遠くへと旅立った。 「……これ以上は、キミ達ふたりの戦いじゃない。彼女を追って……彼女と共に逝ってくれないか?」 「……」 涙が流れないのがこれほど不便と思ったことは無かっただろう。その意図を汲み取ってか、リベリスタの攻撃の手が止まり、零二の手がユウスケへと触れた。 ――冷たい。 冷たい身体だった。傷つき、抉れた腹部が滑稽だったが、それでも立ち続けていたのは彼女のため。 「……やれよ」 いっそ、一思いに。 一人ではこの世界に居ても意味が無い。 集中を重ねた零二の剣が、彼を断つ。 ――ユウスケ。 「ネリネ?」 ――また、遊んでね。 「……次こそは幸福な運命を掴めるといいですね」 消えていく彼へと、櫻子は悲しみに胸を染めた。 「随分と後味の悪い仕事だな」 櫻霞は見上げた。月明かりさえささないその場所で、星だけは綺麗に見えた。 「次はもう少しマシな人生を願っておけ」 ● 「相変わらず、行きにくい場所だなァ」 静かになったその場所。 未だに戦闘の傷跡や、不可思議に倒れている草木が更に歩行を不便にしていた。 その奥、既に信仰を無くした社には花が置かれた。 「……また来るぜ」 忘れられたなんて悲しいだろう。覚えてくれるリベリスタが少なくとも居る。 暖簾は顔をあげ、天気の良い青空を見た。 リベリスタは覚えている。愛し合った二体のエリューションが居たことを。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|