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<恐山>執念の終着点

●最悪のシナリオ
「……何者だ」
 リベリスタ達から逃げ去り、放浪を続ける冴崎 司郎。
 否、そうあった者というべきか? 現在はその体をアーティファクトが動かしている。
 SN1、Single Number 1と名付けられたアーティファクトの意思は本来多少のものだった。
 しかし残った全てを賭けた願いにより、SN1は冴崎 司郎の全てを取り込み、主たる意思を担っている。
 そんな彼だった者の前に現れたのは、怜悧な風貌をした青年だった。
「冴崎 司郎、彼に貴方の移送を依頼した者ですよ。Single Number 1さん」
 彼と自分を引き離す存在とも言えよう答えに、彼は自身を抜刀すると共に臨戦態勢をとる。
「事を構える気はありません、お話がしたいだけです。貴方にとても悪い話ではないと思いますし、気に入らなければ切り捨てて頂いて構いません」
 両手を挙げ、己の意思を示す青年だが、構えを説く様子は無い。
「続けろ」
「所謂ギブ&テイクです。私達は貴方がほしい、使用者は問いませんし、状態も気にしません。こちらの話を理解してくれる方ならば、誰でも結構です。代わりに私達は貴方に安全に休める場所を提供しましょう」
 力を貸してくれれば追われる事もない、追われたとて組織同士の戦いとなれば一人でいるよりは安全だろう。
「……しかし、何故俺にこだわる?」
 武器としては欠陥品、碌な制御も難しく、おまけに失敗すれば大怪我する様な危ない代物だ。
 その問いに答える様に、青年は手甲状の装備を取り出すと、印字された部分を指差す。
 DN10、その文字に司郎は訝しげな表情を見せた。
「私が欲しいのは最初で最後の者、貴方達はきっとその道を示してくれる筈ですから」
 
●全身全霊の決戦
「せんきょーよほー、するよっ!」
 『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)は平常運行、元気いっぱいにキメ台詞を口にする。
 兄の紳護も相変わらずの落ち着いた様子で妹を見守っていた。
「いちばんを捕まえてほしいの、つかまえないと、わるい人と一緒にどこかいっちゃうんだよ?」
 広げられたスケッチブックには、棒のようなものを持った人影と、眼鏡をした人影が子供の下手な絵で描かれている。
 前者には『いちばん』の文字、眼鏡をした方には『おそれやま』とグネグネの平仮名で振られていた。
 いちばん、それを指し示すものが直ぐには浮かばないだろう。
 それを察すると紳護が口を挟む。
「SN1といわれるアーティファクトだ、今はフィクサードの冴崎 司郎の体を使い、行動している。以前回収任務を行ったのだが……残念ながら失敗に終わった」
 簡単な説明を入れると、直ぐにノエルが言葉を続ける。
「ノエルが見た夢ね、いちばんとわるい人が会うのは、もうちょっと先なの。だから、会う前に捕まえちゃえば大丈夫!」
 予知を予知通りにさせないのが今回の作戦だ。
「ノエルが予知した場所なんだが、上手くいけば地の利を得られそうだ」
 紳護はコンソールを軽やかに叩き、現場の地図を投射する。
 司郎が次に現れると予測されているのは、建設途中で廃棄されたビルだ。
「中は廃材やそのまま放置されたキャビネットやパーテーション等が乱立し、不意打ちに持って来いだ。場合によっては障害物ごと奴を攻撃してしまえばいい、それに……攻撃は当てるだけでいい」
 以前の話を知らないリベリスタ達は首を傾げるのも分かる、紳護は言葉を続けた。
「奴は自分が攻撃を受けたと認識すれば……SN1から解き放たれる、ノエルの予言を読み解くならそういう事になる」
 絶対の自信を誇る回避力、プライドともいえようそれに傷を付ける事が勝敗に繋がる。
「直接的に被害を与えるには難しいと思うが、即興ながら使えそうな物を準備した。上手く使ってくれ、間違っても自滅する結果にならないようにな?」
 所謂トラップだが、待ち伏せて設置する程余裕はないだろう。
 隙を見て仕掛け、上手く追い込めれば勝利にも繋げられる筈だ。
「とにかく徹底して、直撃させるプランで戦ってもらいたい。尚、奴の攻撃パターンも変化してきているので、それは資料を参照してくれ」
 一通り説明が終わると、今度はノエルが口を開く。
「それとね、いちばん を、ただのお道具って思っちゃダメなの。いちばん は、いちばんで、お道具だけじゃないの」
 たとえ司郎から離れても、ある程度の自我は残る事になる。
 下手にただの武器と手にしようものならば……酷い目に合うだろう。
「あとね、いちばんは『おれにおまえのぜったいのすべてをしめせ、すべてでおれをのみこめ』って言ってたの。できる人は、いちばんとおともだちになれるかも?」
 こてんと首を傾げるノエル、あれから夢の中でみたSN1の情報は変わらなかったのかもしれない。
「冴崎の戦闘データは以前のものから進化している、より手強くなっているが逃げられるわけには行かない。心して掛かってくれ」
 紳護の言葉に頷くリベリスタ達、ちょこちょことノエルが数歩前に出ると彼らを見つめる。
「いちばん は、すっごく何かを大切にするの、それを傷つけると……すっごく怒るからきをつけてね? あと、ノエルは……ちゃんと皆が帰ってきてくれる方がうれしいの、だから……ちゃんとかえってきてね?」
 以前の失敗が不安となって少女の心を曇らせる、ならば晴らすのみと彼らの決心もより強くなったことだろう。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:常陸岐路  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月12日(木)22:47
【ご挨拶】
 始めましての方はお初にお目にかかります、再びの方にはご愛好有難う御座います。
 ストーリーテラーの常陸岐路(ひたちキロ)で御座います。
 冴崎 司郎こと、SN1との再戦なシナリオです。
 回避特化の為、カチッと決めた動きで戦った方が有効かなと思います。
 司郎を追い詰める為の小道具等も上手く活用していく事がカギかもと。
 あと、お手数ですが私のPRにある【ハード以上の注意点】もご参照の上、プレイング作りをお勧めします。
 
 
【作戦目標】
・SN1に取り付かれた冴崎 司郎に攻撃を当て、SN1から引き離す。
・SN1の回収
 
 
【戦場情報】
建設途中で廃棄されたビル:正確にいうならば、テナントが適当に入りかかったら潰れたっぽいビルです。皆さんが到着する頃には、司郎は中央の比較的開けた場所で座って休んでいます、因みに二階です。中央の以外は、パーテーションやキャビネット、テーブルや柱等など、20㎡の正方形な室内に乱立しています。南に螺旋階段と、司郎のいる部屋に繋がる大きな扉が一つ、部屋の側面はガラス窓になっています。若干3階の床が老朽化しているので、リベリスタの攻撃一発で崩れますが、攻撃したら粉々なので障害物追加には使えないでしょう。北東と北西の外壁には排水管が下に続いていたり、グルッと回る様に窓の外で落下防止の手すりがついていたりします。
 
  
【敵情報】
冴崎 司郎(SN1装備)×1
・共通情報:1ターンの行動回数は3回です。命中率は高めで、回避力はクレイジーな具合です。『いかに回避力を発揮させない様追い込むか? その上でどう攻撃を当てにいくのか?』が決まってないと難しいでしょう。特に回避力を下げる方法というのは決めていませんが、有効そうなものでないと効果を発揮しないのも然り。お前に回避なんてさせてやんねぇよ! という具合に追い込むが吉です。
 
〔攻撃手段〕
・疾風斬:物近単:最大20m移動すると同時に、対象1体へ近接攻撃を仕掛けます。
 
・旋風斬:物近範:半径5m以内にいる対象を一閃の薙ぎ払いで斬り払います。この時、対象を一体選び、それ以外へノックバックを発生させます。
 
・嵐斬撃:物近単:高速で刀を振るい、対象を滅多切りにし、大ダメージを与えます。
 
・突風撃:物近単:強烈な刺突で吹き飛ばします。この時、吹き飛ばした先にいるリベリスタにもダメージを与え、BS隙を両方に与えます。
 
・断撃:攻撃を無効化します、これは行動回数にカウントされません。何度でも行えますが、連続して使用できるのは3回までです。(例:一度目をこれで無効化した後、次の攻撃を自力で回避した場合、カウントはリセットされます。)
 
 
【小道具について】
共通:あくまで回避力を下げるファクターなので注意。
 
・跳ね上げ式地雷:至近距離に入ると、耳にした事がある様な金属音と共に宙に浮かび、強烈な光を放って炸裂する特殊地雷です。全部で3つ準備してあります。 
 
 
【SN1について】
Single Number 1 の略称。
とある法則に則って作られた武器らしい。
決まった形状は無く、所有者に合わせた武器に変化する力を持つ。
多少の自我があり、とても気難しい性格をしており、情報を見る限り気に食わない奴を重症に追い込んだ事があります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
依代 椿(BNE000728)
プロアデプト
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
デュランダル
兎登 都斗(BNE001673)
スターサジタリー
★MVP
雑賀 木蓮(BNE002229)
ホーリーメイガス
レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
プロアデプト
山田 茅根(BNE002977)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)

●開戦
「……」
 廃ビルの中、刀を抱えるようにして座り、休む男の姿があった。
 冴崎 司郎と呼ばれた男は、今はなく、SN1というアーティファクトの一部に近い状態だ。
 普通の人間では気付かぬだろう、静寂に溶け込んだ気配を感じ取ると静かに顔を上げる。
 視線が向いたのは南側にある扉だ、ゆっくりと立ち上がれば刀の柄に手を掛け、じぃっと見据えていく。
 開かれる扉、司郎の方へと飛び出してきたのは『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)と、山田 茅根(BNE002977)の二人である。
(「次は楽しませてくれるのだろうな……?」)
 二人が司郎へと取り付くと、扉に近い右の角へ『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)と、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の二人が向かっていた。
 『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)と『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)の二人は左の角へ展開していく。
(「貴方とまた逢える日を夢見ていました。敵意でも殺意でもない、この想いを……必ず貴方に届かせる」)
 扉の影に身を潜め、様子を伺うのは『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)だ。
 以前の戦いでは苦汁を舐めさせられたが、今度こそはと秘める想いは強い。
 全ての動きを備に捉え、瞳に焼き付けていく。
 リズムや呼吸の流れすらも、当てるためには全てを読み取らんと全神経を集中していく。
「いちばんさんどぉも! 前ん時は話せるなんて思ってへんかったから会話も無くてごめんなぁ」
 司郎はフレンドリーに声を掛ける椿を一瞥し、再び正面に立つ木蓮と茅根へ視線を戻す。
「今、司郎さんの意識はどうなっとるん?」
「在るともないとも言えん」
 曖昧な答えに椿は飲み込めず、苦笑いを浮かべた。
 SN1としても有無は断定しづらいのだろう、司郎とSN1は一つであり一つでない曖昧なラインで存在しているのだから。
「前に戦ったときの、うちが使った技はどうやった?」
「武器を人体と同じく扱ったのは面白かったな、兄弟を思い出す」
 無駄話をしながらも正面の二人の様子を伺う司郎だが、攻撃をする素振りがない。
 再びウロウロとこちらの様子を伺うだけのつもりか? それとも何かの策か、この無駄話にすら何か意味があるのだろうか?
 考えても無駄かと直ぐに切り捨てると、目の前に広がる世界に意識を集中する。
「SN1とかいちばんとか、名前っぽくないし『いっちゃん』って呼んでえぇか?」
「断る」
 即答。
 困ったように笑う椿を尻目に、司郎が動き出した。
 相手の陣形を崩すには取り付くしかない。
 風を纏う様な横一線の一撃が振りぬかれ、木蓮と茅根へ迫る。
「ぐっ!?」
 茅根はどうにか身を逸らして刃を避けるも、木蓮は直撃を避けるのが精一杯だ。
「まだ私がいますよ!」
 吹き飛ばされた木蓮は地面を転がり、残された茅根がアピールを掛け、攻撃を誘う。
 無論、彼を退かさねば易々と後衛にはたどり着けない。
 誘いに乗る様に、嵐を思わせる連続攻撃を放ち、切り刻まんと刃が迫る。
 右に左に、時に障害物を盾にけたたましく室内が荒れていく最中、彼も負けじと刃の脚払いを放つ。
 飛び跳ねてかわした瞬間、全力の刺突が突風の如く走った。
「っ!」
 吹き抜けた風音は、茅根を浚う事はない。
 喉を狙った迷いのない攻撃を、寸前で首を傾けて回避したのだ。
(「今のは危なかったですね……」)
 後ろにあったパーテーションには、ライフルで撃ち抜いたかのように綺麗な穴が開いている。
 命を賭ける心積もりでいようとも、死の感触は彼に恐怖を味わわせただろう。
 
●策略
「全てを賭し、絶対の技巧を求める。素晴らしい、その渇望お見事です……が」
 意味深な事を呟くイスカリオテ、レンズの向こうの瞳は静かに彼を見つめる。
「さて、絶対の回避を詠う貴方が武を振るう。矛盾していますねえ?」
 言葉遊びは彼の得意部門、まるで確かめる様に紡がれるセリフは、彼の行動指針を揺るがそうとするのだ。
「敢えて問いましょう……何故避けるのみに専念しないのですか?」
 避けるという行動に固執するのであれば、それとは別の行動たる攻撃は無粋なものではないか? という事だろう。
 だが、答えは意外にも早く紡がれた。
「攻撃は最大の防御、そういう言葉があるだろう? 攻撃を受けねば避ける必要ない、それは最大の回避だ。避ける必要もない回避だな」
 避けるそれ以上の答えすらも求める。
 手段が目的となった彼の存在が、再びその点を逆転させる答えを導く結果に、イスカリオテは目を丸くした。
「なるほど……やはり極地に達した者の答えは難しいものですね」
 考えるだけでは分からない、それ以上の未知を示す司郎。
 イスカリオテの笑みは涼やかながら好奇心に溢れる。
 
「木蓮、大丈夫!?」
「あぁ、でも捨て身のつもりで喰らいつくって決めちゃいたが、痛いもんは痛いな……っ」
 スノウフィールドの問いかけに、木蓮は顔を顰めながらも頷く。そして太股からは、だくだくと血が溢れていた。
 攻撃の手を捕まえるが為に己の攻撃も捨てている分、一方的に殴られるようなものだ。
「今、治療するね!」
 唱える呪文が光を束ね、木蓮へと降り注ぐ。
 それは徐々に体に張り付くように収束すれば、魔力の鎧として定着し、傷を塞いでいく。
「ありがとな!」
 体の違和感が消えた木蓮は、再び司郎へと張り付きに向かう。
(「しっかりフォローしていかなくちゃ」)
 傷つく木蓮と茅根を只管に癒し、前線へと送り込む。
 彼女の回復が二人の士気を維持し、勢いを失わせない。
(「準備が終わるまで……耐え切らないと!」)
 何度回復しただろうか?
 光を降り注がせ、癒しのそよ風を生み、命の息吹を起こす。
 EPが瞬く間に着きそうな勢いで、彼女の援護は続く。
 
 一方、戦いながらも敵数を把握した司郎は妙な事に気付いた。
(「妙だな、以前より頭数が足りない」)
 8人掛りで襲われた前の戦いよりも二人も足りないのだ、一方的な結果となったというのに数を減らして挑むのは明らかにおかしい。
(「何を考えている……?」)
 茅根の放つオーラの糸を短いステップで避けつつ、リベリスタ達の動向を窺う。
 
(「割と責任重大だよなぁ、これって」)
 のらりくらりと浮遊しながら静かに移動するのは『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)だ。
 彼がいるのは戦場の真上、3階である。
 今回の布陣において、そして決戦の瞬間において、全ての要となる担っていた。
 戦闘前に確認した味方の布陣にあわせ、回復担当のスノウフィールドと支援担当のミリィの頭上へと進む。
 敵のセンサーに引っ掛からぬよう、気配を殺し、影に溶け込みながらの慎重に慎重を重ねた移動だ。
 下で鳴り響く轟音が振動となって3階まで伝わり、頭上からは張り付いた埃が舞い散る。
(「後は音を立てない様に……」)
 地雷を丁寧に床に下ろすと、金属音を立てぬようにセッティングを開始。
 特に何も気にせず設置するのであれば数十秒で終わる作業だろう、だが少しでも妙な音は立てたくない。
 甲高い音は指向性が強く、位置を特定しやすい。人ならぬ司郎が勘付かないとは言いがたいだろう。
 高い集中力と緊張が体力を奪い、額から玉の様な汗が零れていた。
 
●急転
(「これで私の準備は完了です」)
 ミリィは攻防の効率動作を仲間とリンクさせていた。
 これにより、基礎能力は大きく底上げされた事となる。
 特に前衛で壁を続けている木蓮と茅根にとって、防御動作の効率化は大きい。
(「作戦を編み、敗因を減らし、流れを読み、そして彼を倒す、一手を打つ……」)
 今回の戦いを、ミリィは詰め将棋と例えていた。
 理由は彼女自身が紡いだとおり、完璧な作戦の上で決着を付ける点だろう。
(「さぁ、戦場を奏でましょう」
 吹き飛ばされた前衛が戻る最中、ミリィは真空の刃を放つ。
 高い誘導性を持つ刃は、障害物の隙間を縫う様に走り、一気に司郎へと詰め寄っていく。
 しかし、刃は当たらない。一度右へ踏み出し、直ぐに反対へと切り返すと共に前へと跳ね、掻い潜る様に攻撃を逸らす。
(「持久戦か……? 残りの二人は隙を突く算段といったところか」)
 前衛を絞り、高い回復効果の術で突破を防ぎ、更に仲間のステータスを上げていく。
 特にどちらを潰そうにも面倒なのだ、少々回避力が高い茅根と体力が高い木蓮。
 当てやすさで木蓮を狙ってはいるが、こうしている今もスノウフィールドの回復がダメージを消してしまう。
 既に何度もきりつけているが、彼女の回復もあって木蓮は不死と言わんばかりに立ちふさがっている。
(「反射のダメージが、どれだけ効果があるのかな……?」)
 木蓮と茅根に纏わせた光の鎧はダメージを軽減すると共に、少量のダメージを司郎へと与えていた。
 これで当たったと思わせることは難しいが、ダメージが入れば何かしら回避能力低下の要素にはなるだろう。
(「あの鎧のダメージも鬱陶しいところだ」)
 少しずつ体を蝕む痛みに舌打ちをしつつ、視野の隅に映るのは椿とイスカリオテ。
 喋りかけてきた二人もこちらの様子を見てばかりだ、数ではなく質で攻めるつもりなのだろうと司郎は判断した。
「……ならばっ」
 相手の作戦に付き合うつもりはない、司郎は刀で前衛を薙ぎ払う。
「ぐぁっ!?」
「うっ!?」
 二人同時に当てる事を念頭に置いた、狙い済ました一閃が木蓮と茅根を切り裂く。
 茅根の体が吹き飛んで転がり、残された木蓮に渾身の突きが迫る。
「ぐ……はっ……」
 肩の肉を抉り飛ばさんとする破壊力はすさまじく、残っていた体力を一気に奪い去る。
「きゃぁっ!?」
 意識が白黒しながら吹き飛ばされる体はスノウフィールドを巻き込こむ。
 ダメージにふらふらする二人へ、司郎は全力疾走で二人へと向かう。
(「まずはあの前衛を始末する! その後は後衛だ!」)
 勢いの乗った全力の袈裟斬りが木蓮へと迫る。
(「ヤバいっ!」)
 防御も回避も間に合わぬ一瞬で刃が木蓮を捉える。
 ザリザリと自身の体が裂けていく感触、それと共に意識すら切り離されそうだ。
『設置終わったよぉ』
 刹那に聞こえたのは、都斗の合図だ。
 敵は地雷の真下、作戦道理のポイントにタイミングよく引き込めたらしい。
(「全身全霊をかけてこの役目を全うしてやる!」)
 ブラックアウトする景色に抗わんと、木蓮のフェイトが砕け散った。
 食い込んだ刃を抱えるように抑え込むと、逃がさんとSN1を封じ込める。
『皆さん、仕掛けます!』
 ガーネットの指令がAF越しに総員に伝わり、同時に天井が粉砕されるのであった。
 
●全て
『了解、後は任せるよ~』
 手に握ったデスサイズを振り下ろし、都斗の一撃が床を砕く。
 皹は一瞬で前面に広がり、砂と化したコンクリートが粉塵の如く降り注ぐ。
 都斗は滑空するように司郎から離れたポイントに着地し、同時に司郎の足元へカランと地雷が落下した。
 キン! その音と共に跳ね上がった地雷からは強烈な閃光が放たれる。
 合図と共にサングラスを装着したリベリスタ達に効果は及ぼさないが、司郎にとっては別だ。
「しまったっ……!?」
 白く焼き潰される視野、司郎に緊張が走る。
 更に追い討ちをかけようとスノウフィールドは地雷を投げ込もうとするが、何処に投げれば良いか判断がつかない。
 自分はともかく近くに居る仲間を巻き込みかねない。
『投げたら直ぐに屈んでください!』
『うん!』
 周囲の状況を見続けたミリィがとっさに指示を飛ばす。
 指示道理投げ込んだスノウフィールドの地雷は直ぐにセンサーに引っ掛かり、跳ね上がた。
 近くにいたメンバーは軽く屈み、自爆のリスクを下げる。
「くそっ!」
 これ以上視野を潰されてはたまらないと、全力で木蓮を振り払うと攻撃を断ち切る刃が地雷を不発に追いやる。
 これで使える防御は2回だ。
「まだです!」
「っ!」
 その隙を突いて茅根が脚へと飛びつく、脚を一瞬だけ抑え込むがそう長くは抑えられない。
 蹴り転がされるが、その一瞬は大きなチャンスになるのだ。
 沢山の連携の上に出来たチャンス、狙いを定め続けた3人が同時に攻撃を放つ。
「これで終わらせたる!」
「……受け取ってください」
「貴方の絶対と私の絶対、どちらが勝るか比べるとしましょうか。さあ、神秘探求を始めよう」
 定点射撃のガーネットと椿の飛び道具、移動しながら死角を狙うイスカリオテのピンポイント攻撃。
 迫る危機に司郎は笑っていた。
「来いっ!!」
 
 ……。
 勝負がつくまでは一瞬だ。
 だが、それがとてもとても長い時間に感じることもあるだろう。
 砂煙が晴れると共に、司郎の姿が露になる。
「……見事だ」
 当たったのはイスカリオテの攻撃だった。
 脇腹にしっかりと残った傷跡は決着を意味する。
 同時に司郎から力が消えていくのを、リベリスタ達は感じ取れるだろう。
「いい戦いだった、負けはしたが奴の誇りは守られた」
(「お前との契約はこれで終了だ、だが誇るがいい。お前の信念は、これだけの名勝負を作り出せたのだからな」)
 心の中呟く言葉と共にカクンと体が揺れた。
「待ってください。まだ時間があるのなら……私と、もう1戦してくださいませんか? だってこれで1勝1敗、決着はまだでしょう?」
 扉の影からガーネットが彼へと歩み寄る、まだ勝負を求める彼女の言葉に司郎は今までにない柔らかな笑みを浮かべた。
「……少ししかないが、いいぜ? 来いよ」
 同時にガーネットは弓を投げ捨て、彼へと駆け出した。
 左手に拳、右手に矢。どちらかとフェイントをかけながら近づくと同時に、ガーネットは正面から殺意の視線で攻撃を放ったのだ。
 しかし、司郎は寸でのところで視線を逸らし、攻撃をかわす。
「遠くを見るんだ、すると全体が見えて見落とすことがない。一瞬だけ注視して避けるのがコツだ」
 司郎は膝から崩れ落ち、ガーネットを見上げる。
 その瞳は今までと違う輝きを見せ、彼女にもその理由が分かることだろう。
「勝ち逃げみたいで悪ぃな……でも、次は勝てる気……しねぇ」
「……ありがとう、ございました」
 彼女が最後に戦ったのは、冴崎 司郎。
 SN1の中に少しだけ残った彼の残骸であった。
 
「ところで……先程の返事はどうでしょうか?」
「それなんだが」
 イスカリオテとSN1が喋りはじめたところへ、椿が入り込む。
「今回は作戦上控えたけど……うちはBSの技がアイデンティティなんよ、前のあれで足りんかったら今見せよか?」
 早速とアプローチを駆ける椿に、SN1から苦笑いの声が零れる。
「君もでしたか、これは困りましたね」
「えっ、イスカリオテさんもか?」
 アプローチがブッキングしたらしい、顔を揃える二人は再びSN1へと向き直る。
「すまんがどちらにも応えられん、純な力を高めることしか出来ない我輩では無理だ」
 司郎は回避性という純粋な力を求めた結果、契約が出来たが、二人が求める力はまた違うものだろう。
 例え手にしたとて、その力を遺憾なく発揮するには難しい。
「だが器は認めよう。そこの男はSN5と、そこの女はSN7と会うといい……だが、出会いは運命だ。必ずではない」
 彼は始まりの存在、彼だけではない様だ。
「せっかく作られたんだものね。あなたも運命の人に巡り合えればいいね?」 
「遠からず現れるだろうな」
 スノウフィールドにとっては、ガーネットと椿のリベンジが果たせれば良かった。
 けれど、こうして言葉を交わせる相手と出会い、目的以外にも思うところがあるのだろう。
 こうして運命を告げる数字の物語が一つ、終わりを告げた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 如何でしたでしょうか?
 若干ヒヤヒヤする部分がありましたが、結果として成功です。
 今回MVPを獲得された木蓮さん、彼女がいなければ綺麗に作戦道理とはいけなかったかと思います。
 茅根さんの方が回避力が高い事で、木蓮さんがターゲットにされる率が上がったのもいいアシストになってます。
 さて、SN1が言ったとおり、SN達はまだ存在します。
 皆曲者ぞろいです、子供っぽいのもいれば変態っぽいのもいるかもと。
 SN1所有にトライされたイスカリオテさんと椿さんが、SN1に危害を受けなかった件についてですが、『SNの所有者たる資格はあるが、タイプが噛み合わない』という結果だった為です。
 勿論器がなかったら酷い目にあってたでしょう、えぇ。
 ではではご参加頂き、ありがとう御座いました!