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【寓話】心、そこにありて

●夢の終焉を求め
 その男を例えるなら、ピーターパンなのだろうか。
 子供の心を抱えたまま人の領域を超えて、子供だけの理想を追い求め、大人になれぬ人ならぬ子らを求める者。
 否、或いはハーメルの笛吹き男か。あれの模造品は随分と世に出まわってしまったけれど。
 彼もその一人というならば、成る程、あらゆる子供に幻想を見せて現実から連れ去る彼は正しくそうなのだろう。
 尤も。彼のそれは笛ではなく本。理想を写し理想を与え幻想を抱かせる、それだ。

「非日常を信じることを渋った大人達は、何時だって子供を失い、遠からず来る破滅に蹂躙されるのさ。
 さあ、始めよう。誰でもない、僕は衆愚の牽引者にだってなってみせるさ」
「……おにいちゃん」
「ああ。『連れておいで』」

 襤褸を来た青年は、姿見に似合わぬ快活な声で告げる。
 袖を引いた少年は、一瞬の後に人を捨てる。

 最低最後の悪意の祝祭(カルナバル)。
 笛吹き男の片手には、分厚く白い本、一冊。

●『編纂者』
「『同一視』。これといって類似性の高い寓話はありませんが――現代に於いて、寓話以上に雄弁な言葉ならあります。『わしが』――」
「待て、それ以上口にするな」
 愉快なのかそうでないのか、感情の視えない目元でリベリスタを見据えた『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の言葉を、しかしリベリスタの一人が遮った。理由は推して知るべし。
「まあ、その心理状態は皆様知っての通り。『自分以外の存在、こと自分と関わりのある存在の功績を己のもののように扱う心理状態』を指します。『編纂者』、と名乗る彼が持つアーティファクトは、それに準じた能力を持ちます。
 と言っても。実のところ、彼のアーティファクト、識別名『救済の原書』にはこれといって強力な能力があるわけではありません。
 あるとすれば、『自己防衛の写本』の量産とその履歴のレコード能力程度。持っているだけでまあ、多少は能力の底上げはあるでしょうがね」

『自己防衛の写本』とは、絵本型のアーティファクトである。
 自らが持つ心の傷を防衛機制として投影し、童話として現実性を持たせ、所有者を革醒させる、単体でも厄介且つ破滅的な破界器。
 これにより、多くの少年少女をアークはノーフェイスとして切り捨て、命を奪うことになった。
『編纂者』とは、それらを配布して回ったとみられるフィクサードの仮名。或いは、そうと疑われていた者の名だ。

「彼が生み出した者達の記憶を本が持ち、記憶から肉体にフィードバックして強化される。まあ、『同一視』とは上手く言ったものです。彼の能力では使いこなせるものではないでしょうが」
「で、あの子供は」
「あ、はい。どうやら彼と行動を共にしていたエリューションのようです。フェーズ2、決して弱くはありませんが、かと言って尋常ではないというわけでもありません。
 ただ、この少年。両手を独立させて稼働させる荒業が可能らしく。行動不能にしたつもりでも腕だけは動けるとか、そういうケースも有り得るそうです」
 それで、と夜倉は続ける。表示されたのはとある児童養護施設のマップ。
 正門の前は車一台通るのが手一杯の裏道、施設前庭は遊ぶ場所というより通り道に近いか。
 黒と青のマーキングが施されたそれは、それぞれが『編纂者』と『少年』のものだろう。
 方や入り口に、方や前庭に。

「……これは」
「このまま放っておけばものの数十秒で養護施設は蹂躙され、あとは、分かりますね?」
 絶句、というよりは歯ぎしりめいたものすら聞こえる威圧感。
 それが、答えか。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月10日(火)22:46
【寓話】最終話、といっても埒外なチートシナリオではありません。
 今までの努力を強いた相手が如何に馬鹿馬鹿しいか、
 今まで追い求めた真実が如何に苦々しいか、
 今まで戦ってきた意義が如何に、どうしようもない結末へ向かっていたのかを知るシナリオです。

※【寓話】関連シナリオを読んだほうが色々楽しめますが、単体でもお楽しみ頂けます。

●成功条件
・『少年』の児童養護施設入り口への到達阻止、撃破
・『救済の原書』奪取または破壊。(『編纂者』所持のまま撤退の場合失敗)

●『救済の原書』
 アーティファクト。『自己防衛の写本』を生成する能力を持つ。
 本体の特性は『同一視』生み出した『写本』の影響をレコードし、所有者の能力に補正を加える。

●エネミーデータ
『編纂者』:ジーニアス×ダークナイト。Rank2程度までは使用可、一部活性化。襤褸を着ている為弱々しく見えますが、一線級のアークのリベリスタにはゆうに比肩するレベルです。
 アーティファクト効果で全体性能微増。戦闘スキルは槍熟練Lv2、非戦は闇の世界、熱感知。

『少年』:フェーズ2、ノーフェイス。『自己防衛の写本』非所持。純粋革醒のノーフェイスと思われる。
 不可思議な自律(P):右手のみが脳と切り離されて自律行動することが可能。「本体」と「右手」とを別の対象として扱う。
 殴打(物近単・隙、連)
 蹂躙(神近範・重圧、ブレイク)
 魔眼・恐(神遠単・魅了)

●戦場
 児童養護施設入り口周辺~前庭。
 入口前の路上は入り口と相対すればある程度並べますが、幅自体は2~3人が精一杯でしょう。
 前庭内は広くはなく、遠2程度まで離れることはできません。
 常にどちらか一人の射程内にあるものと考えてもらっていいでしょう。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
ホーリーメイガス
ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)

●夢路の交叉点
「貴方はやたら子供に拘るのですね……ネバーランドでも作りたいのですか?」
「子供は純粋だからね。楽しめるだろう、それに僕は素直だよ? 『救いたいんだ』」
「戯言を……!」
 薄汚れた外見の男――『編纂者』と名乗るそれと対峙した源 カイ(BNE000446)は、彼の言葉に苛立ちしか感じなかった。
 もとより、この男と交叉する過去も意思もなかった。それでも、仲間が受け止めた悪意は、子供たちが受けてきた報いは、純粋に人を思う青年にとって度し難く許し難く。
「お前が編纂者か? アークの神の目から逃れられると思ってないよな」
「おや、その『神の目』とやらで駆けつけて私の傑作に退けられた無様な愚衆を『アーク』というのですか。覚えておきましょう。直ぐに忘れることでしょうが」
 カイと対するように布陣し、一撃を放とうとした『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)に、しかし彼は心底小馬鹿にするように応じ、その身を闇に沈める。夜闇より暗く光すら通さず、その心の写し鏡のような闇へ。
 だが、そんなものではアウラールの狙いを削ぐことはできない。明確に映った熱の輪郭が視線の先にある限り、当てることは難しくはない。
「ついに見つけたわよ、編纂者」
 ――そして、闇の中で尚その敵意と意思を瞳に宿した『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)の声は、冷静でありながら強い殺意を顕にする。
 彼の行いとより多く対峙した彼女に対して、最早細かい言葉ややり取りは必要あるまい。あるとすれば、ただその命を削りあうこと、それのみか。
「誰よりも救われたがっていた子供たちの心に付け入り利用し、あまつさえその力を我が物にしようだなんて、絶対に許せないわ……!」
「君の許容の可否は私にはどうだっていいさ。私にとっては今この瞬間、成し遂げることこそが真実であり現実なんだ」
 夜気に混じって漂う魔力を自らの神経に循環させ、その身に取り込む『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)の声に宿る怒気は激しい。
 一際に多くの少年少女の死を見た。苦悩を見た。苦痛を見た。言葉一つであっさりと片付けるこの男だけは、彼女のプライドが許さないし、倫理観が許せはしない。

 編纂者の眼前に立ち塞がったりベリスタは三名。
 彼一人との戦闘を考えるのであれば、それでも足りないと言うものが居ただろうが――残りのメンバーは、彼らにそれを託してこその任がある。

「ここから先は、一歩たりとも進ませない!」
「……!?」
 一瞬の出来事だった。
 少年が一歩踏み込むのと、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が仮初の翼と脇差、黒と白との光を曳いてその眼前へ降り立ったのとはほぼ同時。
 余りに想定外のその速度を前にして、少年は微動だに許されない。その驚きが如何程のものであったかなど、語るに難くない。
 次いで養護施設の前庭に布陣し、結界を張り巡らせたのは『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)だ。
 擁護施設内の人間にとっては戦況が激化すれば話は違うだろうが、少なくとも広く周囲に知られる状況は防いだといえる。
「少年、君と編纂者の関係は分からないが……これ以上先に進ませる訳にはいきませんぞ」
『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)の表情は傍目からは今ひとつ分からない。だが、声のトーンが決して常ほど明るいものではないのは確かだ。彼とて常よりも多く少年少女の不幸を見てきたのだ。そして新たに不幸を見出そうとしている。……決して楽な気持ちではないことは誰の目にも明らかだ。
(絶対にここですべて終わらせる。もう、あの子たちのような犠牲は懲り懲りだ)
(今はただ、これ以上の犠牲を出さぬよう殺す事しか出来ない)
『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)と『蒼き祈りの弾丸』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の二人がこの場に揃ったのは、ある種のめぐり合わせだったのだろうか。
 神の名を借りる立場にある射手、というその立場は、その無力さを知ったればこその苦悩と救いを求めているに違いない。
 無力であることを罪と言うまい。悩むその身を弱いと言うまい。それを来るべき救いに変えるべきと願う意思こそが何より尊いのだと、リベリスタ達はわかっている。
「おにいちゃんは、おにいちゃんだよ。じゃましないで」
 応じる少年の目は鋭い。目の前に現れた者が誰であれなんであれ、自分の『ともだちづくり』を邪魔する存在であることを認識した彼にとって、リベリスタは明確な敵でしか無い。
 敵意が渦を巻いて叩きつけられる。物理でも神秘でもない、攻撃ではなく只の意思の奔流。それですら、質量を持っているような錯覚を覚えてしまう。
「御国の――来たらん事を!」
 リリの叫びと銃弾が、少年の腕と交差する。

●悪意の三叉路
「これ以上お前の好きには――」
「君たちの手垢のついた正義感にいいようには――」
 させない、と。アウラールと編纂者の一撃が交叉する。
 方や、正義を名乗る閃光。
 方や、魂を削る黒き魔力の一撃。
 正面から激突すると思われたそれはすんでのところですれ違い、互いの身を僅かに削って後方へ抜けた。
「こんな本で誰も救われない事など、分かっているはずでしょうに!」
「救われない結末を止められなかった君たちが『神の目』を名乗ることが不遜だと思わないことが、如何な罪かわからないわけではあるまいよ!」
 続けざまに、カイへと腕を伸ばそうとした編纂者のそれは、彼の放った気糸によって縛り付けられ、微動だにしなくなる。
 ぎりぎりと締めあげられたそれに、振り下ろされる鉄球の勢いは決して軽いものではない。
「あの子達は、あんな本が無くても生きていけた。むしろ、あれのせいで短い生涯を閉じなくてはならなくなったのよ」
「騙れ……っ! 今にも死にそうだった彼らが踏み外すところは、僕が手を下すもっとずっと手前だったろうに! 君達は何も出来なかったのに、それで許されると思っているのか!?」
「それが、余計だっていうのよ」
 鎖を引く音を耳元で聞きながら、ティアリアの視線は厳しいものだった。
 この男の戯言をこれ以上聞く気には、なれない。
 きっと、あんなものが無くても生きていけたのだ。多感だからこそあんなものに呑まれたのだ。
 あんなものさえなければ。こんな奴さえ現れなければ。きっと。

「見てみなさい、あなたの『おにいさん』は何も成し遂げられはしない。無様なものですよ」
「やめろ……! 何も知らないくせに!」
 舞姫の明確な挑発は、果たして少年に対して確実な憎悪を植え付けることに成功した、と言えた。
 だが、狙いを絞らせるということはそれだけ、その危険性を高めるということでもある。その魔眼を避けるように踏み込んだ舞姫を迎え撃つように、豪腕が振り上げられる。
「これ以上、絶対に犠牲は出さない。出させない」
「せめて、迷わず逝ってください」
 その掌を、杭のようなクォレルが貫く。腕全体を、断続的に散弾が覆う。
 叫び声に混じり、胸元を掠めた爪をものともせず舞姫は更に踏み込み――その胴を、大きく薙ぎ払った。
「ただ、今は」
 冷静な表情の裏に何があるかは、その表情からは窺い知れない。ただ、その決意の強さだけは、瞳が雄弁に語っている。
 凛子の指先から弾かれた魔力の矢が、少年の肩口に突き刺さる。
 リリの放った銃弾が、連続して突き刺さる。
 圧倒的に、リベリスタの攻撃が少年を蹂躙する。完全包囲のその状況から、彼が逃れうる可能性は、現状では余りに薄い確率だ。
 だが同時に、リベリスタ達は彼を倒しきるにはまだ決定的ではないことを知っている。掌を貫いたクォレルはじわじわと抜け落ち、弾丸は吐き出される。
 痛覚が無いわけではない。少年の咆哮が再びに響くのに、さして時間はかからないだろう。

 闇より尚暗い世界から、闇を吸ったようなオーラがカイへと叩きつけられる。
『当てる』より『当たれ』を信条とする暗黒騎士の業の極致を、編纂者は一縷の確率論から強引な力技へと変容させた。
 十分にタイミングを読んだ筈の回避を、回避不可能な決定打に押し上げる『偶然性』の発露。
 それを受け、カイは尚追い縋る。アウラールの一撃が、編纂者を打ち伏せる。
「お前にも何かあったのだろう、しかしそれは何の免罪符にもならない」
「知ったふうな口を利くな!」
「知ったふうな顔をしてあの子達を追い込んだのはあなたの方でしょう、編纂者」
 癒しの波長をカイへ向けながら、ティアリアがその指先に思い出すのは温もりだ。
 三度に亘って殺しあった少女の最後の温もりを、その指先に思い出す。
「あの子は誰よりも世界を愛していた。それを歪めたのは貴方」
 赤い瞳に、殺意が宿る。把手を握る指先が白くなるのを意識しつつ、両者は再び、構えた。

●願いの末路
 驟雨の如く、雲霞の如く、舞姫へと少年の殴打が、魔眼が、蹂躙攻撃が降り注ぐ。
 だが、彼女にとってそんなものが如何な脅威であろうか。
 攻撃の脅威性や性能など、決意の前では物の数ではない。仲間のために最前線に立ち、その全てを受け流し、断ち切る舞姫の目に宿る光は決して生半可な決意からくるものではない。
「いままでも、こうやって『連れてきた』のですか?」
「僕の言葉は誰にも届かないよ。『おにいちゃん』が届けてきたのを、僕は見てきただけなんだ」
「名前はなんて言うか、教えれくれないか」
 舞姫の一閃が、右腕を切り落とす。放り出された腕を地面に縫い止めた杏樹が、少年に静かに問いかける。
 少年の表情に宿るのは、ただ戸惑い。今まさに争っている相手の名を問うなど。
 だが、少年は素直だ。革醒してから現在まで、純粋な心のままその生命を賭けてきた彼にとって、名前を忘れて久しい彼にとって、その言葉はとても純粋で美しいものに感じられたのだろう。

 零れ落ちた名前を拾い上げた杏樹の声に重なるように、リリの祈りが響く。
「御国の――来たらん事を!」
 膝を衝いて倒れた少年を抱え上げた凛子が、編纂者へと視線を向ける。
 少年の終わりはきっと、すぐそこまで来ていたのだ。
 

「お前にも思惑があるだろう、いいぜ? やってみろよ、やれるものなら」
「……思う瀬があればこそ」
 ざり、と編纂者が僅かに後ずさる。原書の一ページを破り捨て、後方へとステップを踏み、逃走を図ろうとする……が、その進行方向を遮ったのはカイの気糸だ。
 網に捕らわれるように縛られた彼の手元を、九十九のショットガンが原書ごと撃ち貫く。確実に、銃弾は彼を捉えた。
 闇の中にあってその姿を補足するのは容易では無い。彼の世界を、その存在を、耳で捉え勘で貫いた、その実力は特筆すべきものがあるだろう。

「やっと会えましたな、元凶。子供達を怪物にした報い、今こそ受ける時ですぞ」
「その悪意、ここで打ち砕く」
 指先から零れ落ちた原書を、杏樹の一撃が中心からまっすぐに貫く。中心に大きく風穴を開けられたそれが、アーティファクトとして機能するとは思えまい。
 苛立ちを隠さない編纂者の背後から迫るのは、舞姫。回避する余裕も振りほどく力も与えず捕縛できたのは、彼女の実力と――彼自信の、身に余る不幸のせいか。

「貴様は『編纂者』なんかじゃない。ただの傍観者だ」
 舞姫の声は、冷たい。少年と対峙ていた時の情熱ではない。何も成し遂げず、自らの主張を行う者への純粋な敵意が宿ったそれだと、仲間にすら容易に理解させるだろう。
 少年を抱きかかえた体勢で、最大射程からマジックアローを放つ凛子の声も、また厳しい。

「その本を使い現れる姿が理想の姿というのなら、そんな押しつけの理想などいりません。
 理想像とは自身が追い求めた先の先、現実にもがき、苦しみ、その先に辿り着くものだから!」
「それを――」
「興味も聞く気もないですけどその願いに殉じたんだろうと言う事だけは、覚えておきますよ」
 抗弁しようとした編纂者に、しかし銃声と共に遮ったのは九十九だった。
 純粋な思いがあった。歪めるだけの経緯があった。それを頭ごなしに否定するほど、彼は冷徹にはなれないのだろう。
 だが、それを免罪符にしてはいけないのは事実だ。だからこその、言葉であり。

「さようなら。せめて地獄に落ちなさい」
「利用され、未来を塗りつぶされた子供達の痛みを思い知るがいい!」
 アウラールの放った光によろめいた編纂者を、ティアリアの鉄球が強かに打ち据え、地面へ叩きつける。
 それが、難人もの少年を死地に貶めた男の、呆気なさすぎる最後だった。

「編纂者の言う『救い』によって、一時でも子供達の心が安らかになったのならそれもある意味救いと言えるのでしょうか」
 リリの言葉が、小さく響く。
 応じる声はない。
 余りに厳しい現実を耐えるに値する心が少年少女にあったのか否か、それを救うために用いられた手段が正しかったのか否か。
 少なくとも、手段を是とするのはリベリスタではないだろう。
 ノーフェイスを救う手段は存在しないし、不幸の渦中にある少年少女を救うのは彼らの任ではない。
「人として生まれた者は、人としてのルールに従うしかない」
 ただ、静かに。
 アウラールが断じた言葉が、今の彼らが導き出せる答えの全てだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 後味が悪いリプレイを目指しましたが、思いの外綺麗に纏まってしまいましたという予感。
 戦闘自体は闇の世界対策と人員割りが適切だったこともあって、割合問題なく進んだ印象です。
 もうちょっと少年が厄介でもよかったんじゃね……?

 ともあれ、寓話はこれにて全て終了です。
 ええ、全て。
 また、機会があれば。