●きつねのこ 一際暑い夏。どこからか集まりできた人だかり、蒸すような夜風、駆ける喧噪。祭の夜の言い知れぬふわりとした高揚感は、誰の胸にも同じだろう。 ひょこっ。 狐の子がひとり、顔を出す。 きょろきょろ。とたたっ。 あどけない顔をした少年は、下駄を鳴らして跳ねる、跳ねる。 なんだかわからないけれど、とっても楽しそうだから! きらきら輝くいろとりどりの光、つやつやとおいしそうなお菓子、それからそれから、あれは何? みんな不思議な装い。あれと同じ格好、ぼくもしたい! 浴衣の狐が、駆ける、駆ける。 金色の耳としっぽを揺らし、祭囃子に背中押されて。 大きな音が、空気を響かせた。 ぱっと夜空に開いた大きな花。見たこともない、大きな花。 あれを、もっと近くで見てみたい! ●祭囃子、ときめく 「そろそろ、お祭りの季節ですね」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、夕焼けの橙が夜の帳に溶けていく様子を窓の内から見遣りながらそう言った。もうじきあちこちで夏祭りが開かれるだろう。気の早い祭は、既に始まりつつある。今回の祭も、そのひとつ。 「お祭りには迷子がつきもの、なんですけれど……」 幸か不幸か、小さな子供が親とはぐれることも少なくない。迷子探しか、と尋ねたリベリスタ達に、和泉はちょっと違うんです、とかぶりを振った。 「狐の……妖狐の、男の子です」 和泉は微笑ましそうにくすりと声を立てる。どこからかやってきたアザーバイドが、祭の喧噪に心惹かれて顔を出したのだろう。背格好は小学生かそれくらい、だろうか。このご時世、耳や尻尾を生やした子供も珍しくない。仮装の類と思われたのか、狐の耳と尻尾を生やした彼の姿を取り立てて気に留める者もいないようだ。 「きっと、遊びたいんでしょうね。お祭りが物珍しいのかも」 彼の元いた世界に祭があるのかどうかは定かではないものの、少年は遊びたがっている素振りだった。なんとも可愛らしい話だが、本来この世界にいるべきではない存在だ。あるべき場所へ、帰さなければならない。 「お祭りは今夜です。花火も上がるんだとか……。この子も、満足すれば帰ってくれると思うんです」 少年はまだ幼く、小難しい話は通じないだろう。最悪の場合実力行使で元の世界に戻ってもらうこともできるが、もっと良い解決策があるだろう。 「せっかくですし。皆さんも、一緒に楽しんで来てはいかがですか?」 いってらっしゃい、と手を振る和泉。落ち始めた夕陽と遠くで聞こえる花火の音が、祭の始まりを告げていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:綺麗 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月20日(金)22:07 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●迷子の迷子の子狐さん 遠く、空が色とりどりに染まる。 (今宵は楽しき宴) 勉強も、戦いも、種族も立場も、なにもかも関係ない! (エリューションも、異世界も、フィクサードも忘れて悦に染まれ) 天狗のお面から顔を覗かせ、空を仰ぐ『ヴァルプルギスの魔女』桐生千歳(BNE000090)はどこか楽しげだった。 (さあさ皆様、お手を拝借!) 口元に笑み。これから始まる時間に、期待をたっぷりふくらませて! 「プログラムをもらってきました。どうぞ」 気のつく『空泳ぐ金魚』水無瀬流(BNE003780)が事前に用意してきたプログラムを手渡し、花火の時間を指差す。 「時間はまだあるようだけど、早く見つけてあげたいな」 終わりまではまだしばらくあるようだ。『花滓の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)がタイムテーブルをなぞる。いずれにせよ、早く出会えればそれだけ長く一緒にいられる。一時の優しい思い出を、少年に。 「コクリくん、悪いコじゃなさそうですしね。折角のお祭りですし、存分に楽しんでもらいたいです!」 それに頷く流に続き、誰もが口々に同意した。早速探して来ます、と千歳と共に飛び立とうとすると、『ガントレット』設楽悠里(BNE001610)が二人を呼び止めた。 「はい、地図。流ちゃん、千歳ちゃん、頼んだよ」 「おっけ、まかせて!」 「頑張って、いい場所を見つけてきますね!」 会場をちょうど二分する地点で二手に分かれる。 「今日は風が心地良い♪」 熱気を離れた空は涼しくて、花火の音がよく響いた。千歳は人気のない方へと向かっていく。きっと、あっち。蝙蝠が数羽、夜空を静かに飛んでいく。そのうちの一羽は流だ。普通の人は行けないような、高いところ。9人皆が一緒に見られるようなところ。 「うん、ここがいい!」 「ここなんて素敵!」 気づけば二人は、同じ場所で再び顔を合わせていた。 お祭りに来るのは、幼少の頃以来になるだろうか。アザーバイドとはいえ、幼い子供が遊びに来ているなら、楽しんでもらえればいい。『全身を診る医師』龍月凍矢(BNE003906)が、戻って来た流をねぎらい冷たい飲み物を手渡した。 「……よし、大丈夫だ。戻ろうか」 流の案内で歩いて行けるところまで道程を確認し、記憶する。瞬間記憶を持つ凍矢がいれば、迷うこともないだろう。 「……おや」 凍矢の視線の隅を、小さな陰が横切った。狐の耳、狐の尻尾、あれがその少年だろうか? 「其処のボク? 祭に興味があるのかい?」 かけられた声に、少年はわかりやすくはっとする。きょろきょろと動いた目は、凍矢の姿を捉える前に鉄砲玉のように駆け出した。 「警戒しているんでしょうか……」 追いかけるわけにもいかず、見失ってしまったことを、残念そうに流が呟く。決して驚かせるつもりではなかったのに。少年は異世界が楽しくも怖いのだろうか。けれどまだ、そんなに遠くへは行っていないはず!二人はそれぞれのグループの面々に、このことを伝えに走る。 「俺の目線ぐらいで、きっとちょうどいいだろうな」 少年を見つけようと張り切るのは、小柄な『red fang』レン・カークランド(BNE002194)。 「あ……」 その視線は花火が盛り上がり始めるにつれ増え出す人の波に揉まれ、迷う。その様を見遣り、くすくすと笑いながら悠里がぽんぽんと頭を撫でた。 「さ、さあ、早く見つけて目一杯遊ぶぞー!」 この世界の楽しさも、思い出も、全部持って帰ってほしい。きっとそれは色あせない素敵なものになると思う。 (俺にも、コクリにも、みんなにも、だ) 「お祭りはお友達と一緒に巡ると、より楽しくなるものです」 「たくさん思い出、作ろうなっ」 涼やかな水色に桔梗の咲いた浴衣に身を包んだ『Manque』スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)の言葉に、『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE00267)もうんうんと首を縦に振る。五月はいつもの着物と同じ紅い浴衣に下駄といった出で立ちで、夏らしさを感じさせた。連れ立って歩く遥紀もまた、上が白、下が黒の二色合わせの甚平を身に纏っていた。同じく一緒に歩いていた凍矢が、ぴたりと足を止めた。 「あの少年が、そうだ」 迷子になってしまったのだろうか。人混みに揉まれ、あっちへふらふら、こっちへふらふら。おろおろと泳ぐ視線、狐耳の少年。先の一件もあり、どう声をかけたものか迷ううちに、少年の好奇心はひとつの屋台へと伸びた。 ●夏と金魚と、林檎飴 「あ……っ!」 一部始終を見ていたスペードが、思わず駆け出していた。今度は近くで様子を見守っていたことが功を奏し、なんとか少年のところへ辿り着く。 「食べ物は勝手に取っちゃダメです、よっ」 すみません、と詫びて、スペードは少年の手を取り、色鮮やかな林檎飴をひとつ握らせた。 「ちゃんとお金を払ってから、ね?」 「ご、ごめんなさい……」 初対面の人に声をかけることに緊張を禁じ得なかったスペードだったが、咄嗟の行動ですっかりその緊張も解けていた。 「あ、さっきの……」 凍矢の姿を認めて少しばつが悪そうな少年に、気にするなと軽く手を振って名乗る。 「凍矢だ、よろしくな。名前は?」 「コクリ……」 「自己紹介が遅れてしまいましたね。こんばんは、私はスペードです」 じっとまっすぐにこちらを見つめてくる大きな瞳。スペードは臆さず柔らかに続ける。 「コクリさんと、お友達になりたくてやってきました。一緒に、お祭りを楽しみましょう?」 「友達……」 目をぱちくりさせるコクリに、五月が笑ってみせる。 「初めまして、オレはメイ。キミはコクリか。よろしくだぞ、新しい友達」 五月の顔を見て、それから視線は下へ。 「はい。ちゃんとコクリさんの分もありますよ」 「それは下駄。こうやって履くんだ!」 「わ。とってもお似合いですよ」 スペードからプレゼントされた下駄を足に、からんころんと軽やかに足音を立てる。褒められればいっそう嬉しくて、からん、ころん。 「それだけじゃ少し物足りないね。おいで?」 遥紀に連れられて、木陰へ。渡された青の浴衣に、少し戸惑う。着付けの手ほどきをすれば、ほら。立派な夏色の少年。 「はい、できた。……可愛い」 撫でられてくすぐったそうに笑う少年を連れて戻る。 「みみ……と、しっぽ」 自分だけだとばかり思っていた耳と尻尾を三人にも見つけて、少年の顔に安堵の色が浮かぶ。 「私もねこみみですよ。お揃いですっ」 「そうそう、コクリくんとお仲間、お仲間」 遥紀には金色の耳と尻尾、五月には自前の艶めいた黒い耳と優美な尻尾。お祭りを気兼ねなく楽しんでもらえるようにとの配慮だった。 「はい、お姫様」 「ありがとう、なのだ!」 約束の林檎飴と綿菓子を遥紀から五月に。満天の笑顔で受け取ったら、みんなでいただきます。 「出店は色々出ているようだな。後半には花火も打ち上るようだ。今の内にしっかり楽しんで来い。お金は俺も出してやれるからな」 年長者らしい落ち着きを醸し出して、凍矢が把握しておいた出店の様子を伝える。 「綿菓子、お面、どれも沢山だ。コクリは何が良い?」 五月はコクリの手を引いてお面屋へ。 (はぐれないように、キミとオレは友達なのだ) これも夏の風物詩と、選んだお面を少年にかぶせる。 (キミが見たことない素敵なモノ、キミの見たい素敵なコト) キミの目指す素敵なモノをたくさんたくさん集めよう。 「金魚すくいがしたいぞ! 赤いのとでめきんをセットだ」 一匹は寂しいから。友達同士みたいに、二匹一緒がいい。 「これ……なあに?」 もう片方の手をスペードと結んでいた少年は小首を傾げる。 「それはね、ポイと言うんだ」 皆が遊ぶのを眺めていた凍矢が後ろから顔を覗かせ、説明する。 「ポイは斜めに、ゆっくりと水に入れると良いですよ」 自分で穫った方がより嬉しいから、と、スペードが手順を教える。自分自身も器用にすいっと掬ってみせるスペード、歓声を上げて一喜一憂する五月、胸を高鳴らせて見守る少年。 「じゃあ、俺も挑戦してみようかな。コクリくんもおいでよ、一緒にやろう!」 次はこうしてごらん、そうそう。うん、上手。笑顔で遥紀が更なる手ほどきをする。 「俺の息子も上手いよ、一緒に出来たら良かったな」 「うん!」 笑って撫でられれば、嬉しそうな顔。一際大きな花火の音に、はっと顔を上げた。 「ねえ、あれは?」 「あの大きなお花は、花火と言うのですよ」 スペードの説明にわくわくを抑えきれない少年を、遥紀がひょいと肩車する。わーっと声を上げて喜んだ次の瞬間、少年のお腹が鳴った。何か買って来るよと凍矢と肩車を代わる。 「ねーねー、今度はあっち!」 「そんなに走ったら危ないぞー!」 言わんこっちゃない。肩車から見える花火に興奮したコクリは辺りを走り回り、転んで膝をすりむいてしまったのだ。 「あの、コクリさんが怪我を……」 コクリを連れて戻って来た女性陣に、凍矢が大丈夫だ、と返す。持参していた救急箱でてきぱきと治療を施し、次から気をつけるんだぞ、と促す。イカ焼きと焼きそばのおいしそうな匂いを連れて、そこへ遥紀が戻って来た。 「警戒してくれていたんだね。ご苦労様。どうだい?」 なかなかの食べっぷりを見せる少年を横目に、遥紀がずっと周辺に気を配っていた凍矢を労う。そろそろ、次のお楽しみの時間だ。 ●祭の夜に咲く花 「こんばんは、異界の少年クン。心躍る夜を一緒に楽しまない?」 次に少年に声をかけたのは、千歳達だった。はっとする少年に、千歳は優しく、と心に決めた言葉を反芻する。 (怖がらないで、脅えないで) (私達は――そう、貴方とお友達になりたいの……!!) 腰を下ろし、少年の目線に合わせる。小さな手をぎゅっと握れば、ちゃんと温かい。お名前は?との問いかけに、少年はコクリ、と答えて笑う。 「ちーちゃん、よろしく!」 浴衣姿の狐少年に続いて駆け寄るのは、レンに悠里。 「こんばんは、コクリ。俺はレンだ。よかったら一緒に遊ばないか?」 「1人で遊ぶよりみんなで遊んだ方が楽しいよ」 代わる代わる二人を見つめ、少年はうん!と元気な声で返す。 「よし、じゃあ今から俺たちは友達だな。いっぱい遊ぼう!」 的屋に向かうレンの後ろを歩きながらも、視線はあちらこちら。 「あんまり離れ過ぎないようにね。ほら、レンもそんなに先へ行かないで」 嗜める悠里の声にも、まるで上の空。もう、いつぱっといなくなるやらで、はらはら。いなくなったってきっと、直感で見つけちゃうけどね!そうは言っても千歳の心は落ち着かない。まるで母親な気分だった。 「ねえ、キミは此方の世界は好き?」 千歳の問いに、大好き!と間髪入れずに答えが返る。どうして此方を覗いたのだろう、と問えば、きらきらして、素敵だったから。と。その輝きは祭の光か、それとも彼女達の輝きか。 「せっかくですし、皆さんで勝負しませんか?」 ふわりと瑠璃の浴衣を揺らして、流がそう提案する。 「おー、ちーちゃん負けないからっ!」 「ふふ、うちだって負けませんよ」 意気揚々とする二人に対して、悠里とレンは少し違った様子だった。 「ユーリ、これは普通に打つだけでいいのか?」 ほとんど経験のないレンに、あまり得意ではない悠里。けれど、せっかく久し振りに一緒に遊ぶのだから、やっぱり頑張ってみよう。少年にも、たくさんの楽しい思い出を。 「なるほど、落ちたら貰えるのか。頑張ろう」 正面のキャラメルに狙いを定めたレンだったが、なかなか上手くいかない。 「よーし、見てろよ!」 隣に進み出た悠里に、レンからのリクエスト。一度狙いを定めたそれは、どうしても自分で取りたくて。 「ユーリはあれを狙ってくれ」 ブタの貯金箱を指差して、軽く笑う。ついに射止めたキャラメルを持って、少年へ。狐の少年の方はと言うと、レンに同じく苦戦していた。 「ここはお姉さんに任せてください」 彼の欲しいものを尋ねると、流がじっと狙いを定めた。 「よーく狙って……とぉっ!」 観衆が歓声を上げる中、景品を笑顔で少年へ。 「はい、どうぞ。大事にしてくださいね!」 「うん!ずーっと大事にするよっ!」 これなら、少年にもできるかもしれない。次は少し簡単な輪投げへ。 楽しい時間は、いつも駆け足。静かで小高い丘の上に、9人が集う。 「すっごくいい場所だなっ! みんな、ありがとう!」 五月が大きく手を広げれば、頭上には満天の星空。そして、一際目立つは大輪の花。 「どう? 綺麗だよねー」 「すごいすごい! きれーい!」 悠里に肩車され、はしゃぐ少年。 「いくよ!」 もっともっとと手を伸ばす少年を抱きかかえて、千歳が少しだけ高いところへ連れて行く。 「しっかりつかまっててくださいね!」 流が手を伸ばし、みんなで少年の華奢な体を支えて。近くで見たい、その願いを叶えたくて。嬉しそうなその顔が、見たいから。一番近くに見える少年の笑顔に、千歳までも嬉しかった。 「綺麗だな」 「うん、キレイだ」 レンが、五月が、誰からともなく言葉が伝播し、感情がリンクしていく。 (キラキラで、思い出を飾ってくれて、目にやきつくそんなもの) 異次元のキミとの、小さな思い出。花火に彩られて、五月の心に刻まれる。打ち上げが終わっても、彼らの夏は終わらない。場所を変え、今度は手持ち花火が始まる。 「さ、鼠花火の犠牲になりなさい」 言うが早いか、とてもいい笑顔で遥紀が鼠花火に火を灯す。ばちばちっと爆ぜて跳ねる花火に、見守っていた凍矢のほかはめいめい声を上げて走り回る。 「あの花火は追いかけて来るから気をつけてくださいね!」 ふわりと飛んで避ける流にずるーい!と少年が抗議すれば、ひょいと抱きかかえて空へ。鼠花火との鬼ごっこが一段落すれば、次はみんなで円になって花火。 「俺も手で持つ花火は初めてだ。すごいな!」 そこ持っちゃ火傷するぞ、とレンがコクリに持ち方を指南する。 「キラキラ光ってて綺麗ですね♪」 間近で見る小さな光達の美しさに、流が目を細める。もっと、もっと何か、見せてあげたい。そうだ、と千歳は夜空にどーん☆と派手な炎を放つ。頬を照らすようなその大きな光に、コクリの瞳もきらきら瞬く。 (ちーちゃん、サービスサービスゥ!) 「コクリ君の素敵な思い出を、華やかに彩ろう!」 続けざまに放たれる魔曲の四重奏もまた、色鮮やかで。目に焼き付くような四筋の輝きは、クライマックスを彩るにふさわしかった。 しん、と一瞬静寂が訪れた。 (そう、か……お別れなんだ) 遥紀の心に訪れる、静けさと寂しさ。それはきっと、誰の胸にも去来していて。 (……いや、繋いだ縁は消えないよね) そう思い直して、コクリをぎゅうと抱きしめる。 「また何時か、それまで元気で。友達の約束、だよ?」 花火の後片付けを終えたスペードが、名残惜しそうにコクリの目を見つめる。 「離れていても、ずっとお友達です。また一緒に、遊びましょうね」 「楽しかったか? 俺は、すごく楽しかった」 「ぼくも! すっごくすっごく、楽しかったの!」 離れていても、ずっと友達だ。レンとコクリが拳を突き合わす。 「コクリが覚えている限り、俺達も忘れない。またな」 「うん、またね!」 この別れがどんなものかを知らないような屈託のなさは、少し眩しくて、悲しい。 「忘れないで、ちーも忘れない。素敵な一日をありがとう」 お友達になれたのに、異界の友達は皆こうして別れてしまう。 (ちょっと寂しいな) コクリに花火を手渡す千歳の顔は、夜の闇に紛れて曇っていて。 「なあ、コクリ、指切りしよう」 指切り?と問う彼の指を取り、五月は自分の指と絡ませる。小指には、桃色の可愛いリボン。 「オレとキミは友達なのだ」 その証に、リボンには皆の名前。 (ちーちゃん、悠里、レン、スペード、遥紀、流、凍矢、五月、コクリ) どれも歪で読みにくいけれど、それでもいい。オレの気持ちなのだ。 「みんな友達だぞ、ずっとだ」 さあ、ゲートへ。 「ばいばい。元気でね!」 悠里が笑顔で手を振る。五月も笑って手を振った。さよなら、また、遊ぼうな。今だけはどうか、涙はこぼれないで。 (その時はオレはもっと強くなって、キミを護るのだ) 「ばいばい、だぞ」 きっと泣いてしまうけど、キミの前では笑おう、楽しかったよ、またね。 「行かないで、ここにいて」 思わず口をついて出た言葉。嘘、と言いかけた千歳の前に、コクリがすとんと降りて来る。ぎゅーっと抱きしめて、ずっと、一緒にいたいよ。と。 「お元気で」 天真爛漫なコクリの心の中の、寂しがりやの気持ちに触れて。千歳はそれだけ絞り出すのがやっとだった。 願わくば、彼が幸せになることを。凍矢は静かにそう祈った。 「彼にとっても、素敵な思い出になりましたかね……♪」 流は知っている。寂しい別れがあるからこそ、今日の思い出は一際煌めくことを。 「設楽さん、こちらを……」 子供達のお祭りの費用を一人で持っていた悠里にとスペードが渡そうとしたものを、いいよ、と返す。 「それは、そうだね。また今度、皆で遊ぶ時にね」 「よーし! 帰るぞー!」 大きく伸びをひとつ。千歳は兄に電話をかける。そういえばお土産は……お土産話で良いかな。だって、お土産のつもりの綿菓子は、かわいい狐の子と一緒に食べちゃったからね! |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|