● あたし、知らなかった。 朝の空気を胸一杯吸うのが、目が醒めるように爽やかだって。 自分の足で朝露の芝生を踏みしめ歩くのが、こんなに気持ちいいんだって。 まるで生まれ変わったみたい。 ううん。 生まれ変わったんだよね。 だってほら、体をベッドに引き戻そうとする気怠さも、立とうとすれば体中を駆け巡る忌々しい痛みも――全部、なくなったんだから。 弾む足取りはやがてスキップへ、肉の薄い胸を飾る蝶がはしゃぐ少女を称えるようにふわり、羽を瞬かせる。 その羽は深みのある赤……血のように濁った、赫。 少女が口ずさむのはデタラメなメロディ。 それはこの病院に関わる者の葬送歌。 ――最近この病院では、患者の急変が続き死亡が相次いでいるという。 ● 「どのみち彼女に未来は、ない。殆ど」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がそっと付け足したのは、奇跡のような確率で幸運が巡る可能性が0ではないから。 そう。 とてもとてもとても運良く彼女に適合する臓器提供者が現われて、彼女最優先に移植手術が行われるという、奇跡。 それは0近い確率、だから奇跡。 「彼女は『岡田沢総合医院』の小児科に入院している。名前は品川神無(しながわかんな)、11才」 モニタに浮かび上がったのは、白のネグリジェを着た蒼白肌の少女だ。 胸元にあしらわれているレースと赤い蝶のブローチの洒落心がいっそ憐れさを感じさせる程に、痩けた頬と目の下の隈が不健康……いや、死病に取り憑かれていると有り有り物語る。 「そんな彼女ひょんなコトからアーティファクト『命吸蝶(めいきゅうちょう)』を、手に入れた。以来彼女の体調は見違えるように良くなった。けど……」 小さく俯きイヴは腰のウサギポシェットの耳をちょんとつつく。持ち主と同じ紅と碧のまぁるい瞳を陰らせ頭を垂れるウサギ。 「彼女の周りの命を喰い荒らしてるよ。そう、彼女が元気になったのは、強欲な蝶のお裾分け」 こんな奇跡が起きているというのに調べる間も無いぐらいに、この病院では死ぬはずのない患者が危篤から死へベルトコンベアーにのるが如く流し込まれている。 更には心労で倒れた医者や看護士達が仮眠室で眠るように亡くなっているのも、実は一人や二人では、ない。 そう語るイヴは淡々としているものの、僅かに哀し気だった。 人の命は地球より重いだとか、天秤にかけちゃイケナイだとか、綺麗事はいくらでも転がっているけれど――少女を延命するには既に釣り合わぬほどの命が失われている、その事実がフォーチュナーの胸を締め付ける。 「任務は『命吸蝶』の回収、もしくは破壊」 双眸に二つ石を隠し、イブは殊更フラットに告げた。 「――品川神無の生死は問わない」 神無は気がついている。この蝶が自分に命を注いでくれているのだと。取り上げようとしたら激しく抵抗するだろう。 「無理矢理引きはがそうとしたら……『命吸蝶』は、持ち主に力を付与するよ。手放すのを阻止するために、ね」 例えば騙して取り上げようとしても、命吸蝶は見逃さない。 自分とそっくりの蝶の羽を与え、空を飛ばし逃がそうとするだろう。 追う者が居る場合は、広範囲に毒の鱗粉と身体を麻痺させる鱗粉を放つだろう。 「彼女は死にものぐるい、だって『どのみち彼女に未来はない』から」 黙して座してもどうせ死ぬ、だったら例え禍々しいモノだとしても生きる可能性に賭けたい、誰しもそうだろう。 だがしかし。 命のバランスを壊すこのアーティファクトは、世界に存在してはいけない、絶対に。 「力づくでとりあげるか、説得して神無自ら『手放したい』と思わせるか……彼女のデータだよ。使えるなら使って。そうだね……」 よく読めば、奇跡を起こせるかもしれない。 その台詞は内容とは裏腹に今までで一番暗鬱とした音色。 イヴは紙束をリベリスタに託し背を向ける。 ――不意に画面が切り替わる。 映し出されたのは、イヴとさほど変わらぬ少女が、胸の蝶に指を添え可憐に生き生きと笑う顔だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:一縷野望 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月09日(土)22:26 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 4人■ | |||||
|
|
||||
|
|
●白いお城のお姫様 ふわり。 外をすかすレースのカーテンがなびくように、柔らかな金の髪が舞い踊る。 まるで風のような人、それがこのおねーさんに対するあたしの第一印象だった。 「こんにちは、神無ちゃん」 眼帯に片腕を怖がらせないように『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は柔和に微笑みかけた。 「おねーさん、手の怪我でここに来たの? それともおめめ?」 首を傾ければ顎のラインで切り揃えた髪が、さらり。 普通なら避ける話題を気にせず口にする様がコミュニケーション経験の無さを物語る。 「おねーちゃんは、舞姫。ちょっと変な名前でしょ」 「お姫様だ」 変な名前はふるりと首振り否定、神無は歓迎するように両手を広げ招く。 「探検探検~♪」 「迷子になるわよ」 走り回る来栖 奏音(BNE002598)の後を追う素振りは『未姫先生』未姫・ラートリィ(BNE001993)。 ひょこ。 突然顔を出した女の子、好奇心でくりくり動く瞳はなんだかネコさん。 後ろのおねーさんは綺麗な声――まるでお歌みたい。 名乗りあい、場の空気が緩んだ所で舞姫は黄金色の麦わら帽子を取り出した。 「わ、可愛い!」 白いレースは花嫁のヴェールのようで、神無は瞳を輝かせる。 「ほら」 ぽす。 片手でぎこちなく帽子を被せて破顔一笑。 「とっても似合っているのですよ~」 帽子の角度をそっと直し奏音が誉めれば、くすぐったそうに頬が緩む。 未姫の手鏡に映る自分に手をふりふり、帽子のリボンも一緒にふわふわ。 「砂浜まで遊びに行こうよ」 「賛成なのですよ~」 誘うような奏音の手を取りベッドを降りる。 「お水に足をつけると、気持ちいいもんね!」 舞姫とも指を絡めた、まるで母と父に甘え身を委ねるように。 ――胸の中央で、真っ赤な蝶が銀石のついた羽を閉じたりあけたり。蜜を啜る喜びを現わすように、二度三度。それはそれは、無機物とは思えぬ生々しい、羽ばたき。 ●作戦遂行前 「神楽が死ねば助かるよ。取り替える内臓の損傷が軽い必要があるけどね」 「それって……」 鉛を押し込まれたように黙る『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)に、イヴはいつも通りきっかり告げる。 「命吸蝶で死ねば、丁度いいね」 「お母さんはいないのですか?」 「出産直後に死んでる」 奏音の問いにも無慈悲な答えが突っ返された。 「……でも、希望はあるんだよ、ね?」 泡沫の蝶は生命という禁忌に手をだすパンドラの箱、ならば――願わくば、最後の最期の希望はそこに有るように。 縋るような『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)にイヴは言葉を選ぶようにしばし、黙る。 「何かがあって……」 やがて人形の様な色違いの瞳で斜め下を見据え、歯切れ悪くも口火を切った。 「神無の状態が良くなれば……って言うのはカンタン、可能性が0じゃないってつければどんな未来だってありえるよ」 万華鏡の申し子はそう告げると今度こそ部屋を出て行った。 ●わたしはいい子 いつも疲れてわたしが寝てる間に帰ってくるお父さん、だから顔が思い出せない。 ずっとこうだったから、普通のお家がわからない。 でもきっと。 普通のお家はもっとみんな笑ってるんだ。 「神無ちゃん! 元気になったんだ!」 「神無、奇遇だな」 「!」 双子の妹の名を呼ばれ、学校帰りの神楽は振り返る。 「誰?」 細いツインテールを揺らす少女は『雷音』と名乗り、病院で一緒だったよね? と伺うように覗きこむ。 ああ、と神楽の唇から理解の溜息が漏れた。更に淀みなく自己紹介と双子の妹は未だ入院中と続く。 「最近調子がいいらしくて、お見舞いに行く途中です」 と話を打ち切ろうとするのを気づかぬ振りで雷音はつなげる。 「うんうん、お見舞いって嬉しいんだよね。病院って退屈だから」 「面倒臭くて嫌だなあって思う事もあるけどな」 「お兄ちゃんひどい!」 ぷっと頬を膨らませる妹と涼しげな表情で流す兄、小気味良いやり取りに滲むのは仲の良さ。 鬱屈が浮かびかけるのを抑える様に神楽は無気力な笑みを浮かべる。 誰にも悟られちゃいけない。 明日をも知れぬ命で、辛い闘病を強いられている妹が疎ましいだなんて。 わたしはいい子でいなくちゃならないのだから。 「けどさ、行かないと後悔するって解ってた」 だが、猛の真っ直ぐな言葉が暗い澱みに突き刺さり、仮面の笑顔がいとも容易く砕け散った。 「神楽ちゃん……どうして、そんな顔してるの?」 「別に、わたしは神無が死んで欲しいなんて、思ってない!」 ごくごく普通に思いやれるふたりの存在が、お前は人でなしだと追い詰める。 ●砂上の楼閣 人の手が入らぬ砂浜は、今日は殊更人気もなく響くのははしゃぐ少女の声ばかり。 「なるほど、こうするのデス」 浜辺を囲む木陰に身を隠し、ぐっと握り締めた鉛筆を走らせるのは『ぱりんと割れる程度の代物です』姫宮・心(BNE002595)。先輩達が取った行動を反芻し記録に余念がない。 手早く結界を張り、更にはカップルを言葉巧みに遠ざける『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)の手並みはさすが大人。 「……奇跡は起こらないから奇跡、なのかもしれません」 はしゃぐ神無が水を掬い奏音達にかける微笑ましい光景。でもそれは忌まわしき『命吸蝶』の気まぐれと『深き紫の中で微睡む桜花』二階堂 櫻子(BNE000438)は断じた。 ――口にする事で、偽善者となる覚悟を定めるように。 「そうですね、無辜の人に及ぶ被害を考えると……」 小鳥遊・茉莉(BNE002647)は瞳を陰らせる。 この年になれば死に別れの経験も多いが……このような幼い少女の命を止めるのはそれでも心が重い。 「ままならねぇなぁ、本当によ」 手首の錠をいじり『首輪付きの黒狼』武蔵・吾郎(BNE002461)が鼻を鳴らす。 「何が正解かわからないし、でも」 可能性は0じゃない。 仮初めの幸せにしたくはないと『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)は毅然と前を向く。 助けたい、自分がリベリスタになれた奇跡のように、彼女も……。 「説得成功に賭けたいです」 命吸蝶の吸う命が、例えばフェイトに愛されたリベリスタからだとしたら? 愛銃を胸に押し当て『ネフィリムの祝福を』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)は、祈るように目を閉ざす。 ――え、やだよ、やだやだ。これは大事な蝶なんだから! 胸の蝶を握り締めて、弾かれたように神無が3人から距離を取った。 「行きましょうか」 神楽と接触したとの雷音に『これより説得開始』と返信し、沙由理は重たく告げた。 ●紅の境界 「神無ちゃん、すごく頑張ってきたんだよね。痛かったよね、辛かったよね」 「死んじゃう怖さ、知らないくせ……に」 距離を取りながらも反駁する声が弱まった。 神無の視線が向くのは舞姫の右肘から下、何も無い空間。 この人もまた、痛かった。 腕が、死んでしまったのだから。 「あなたが命吸蝶で命を永らえたとしても、待っているのは孤独だけ」 背中から響く柔らかだが思い声に、神無は瞳を見開き振り返る。優しく笑いかけたのは櫻子、声の主は沙由理。 「その蝶を持つ限り、あなたに笑いかけてくれる人も、みんないなくなるの。そして世界にあなたの居場所は無くなってしまう」 「それが、理をねじ曲げた人の末路です」 その先に幸せなどないのだと、櫻子も短く添える。 連なる言葉に怯み振り返れば、 「本当よ……そのブローチは、不幸しか招かないの」 先程まで笑いあった未姫が辛そうに頷く。 「……きっともっと辛くなる時が来ると思うのですよ」 既に数多の命を吸った彼女には、永らえるたところで贖罪の人生しか残されていないのだろう。 けれど。 更に罪を重ねさせたくはないと奏音は訴える。それは友達としての、言葉。 「みんな、神無ちゃんと同じように生きたいって思ってるの」 「…………うん」 舞姫には、蚊の鳴くような声で頷くのがやっとだった。 生きたい。 生きたい。 生きたい。 よくわかるよ、だって病院に閉じ込められてからの6年間、願わない日なんてなかった! けど。 そんな人達を沢山沢山沢山沢山殺してしまったんだ! なぁんだ。 生きてる価値なんて、ないよ。 「諦めないで……先生、奇跡を信じたいわ」 慮ばかる未姫の声に、神無は僅かに顔をあげる。 「わたしは皆ほど優しくはない。償えなんて言わないわ」 沙由理がそう言うのと同時に、櫻子が予め打ち込んでおいたメールを送信した――交戦、ないしは命吸蝶回収、破壊段階に移ります、と。 胸に溜めた息を吐くように、沙由理は唇を動かす。殊更大きな声なのは、潜む仲間に戦闘開始を知らせる為。 ――ただ選びなさい。生の奇跡を信じるか、孤独な死かを。 ●選べないよ 白いワンピースに麦わら帽子の少女は、意を決したように胸元の蝶に手を伸ばす。だがまだまだ迷い、震える指先。 「あたしは……悪い子」 ダカラ、シナナキャダメ。 ヤダ、シニタクナイ。 未練ごと赤の蝶を握り込み、引きちぎるように引っ張った刹那――少女の背を食い破るように、肩胛骨から禍々しい羽が1対、生えた。 「まずいです」 さくり。 茉莉が砂を蹴るとふわり生えた翼が重力から解き放つ。 「逃がさないのデス!」 状況を見据えていた心の動きは素早かった。神無を横から押え込む。 「離れて下さいデス」 舞い散る鱗粉全てを抑えることは叶わぬが、護りのオーラを纏いし心には如何ほどの傷でもない。 「神無ちゃん!」 踏ん張る心を引き摺りなおも飛び立とうとする少女を、背中から抱きしめたのは舞姫だった。 「フェイトは奇跡を起こすんでしょう?」 命も身体も血も肉も骨も魂も、フェイトも全て投げ出して構わない、だから。 助けてよ……。 ねえ、 「お願いだからッ!」 どうかどうか、ほんの小さなこの子が普通に生きられる奇跡を……。 「な……んで、あたし、悪い子なのに」 「友達だからなのですよ」 体内のマナを引き出しながら奏音は泣き笑いのような顔で答える。 「舞姫だけ、吸わせるかよ! 俺のももってけッ」 砂を蹴り滑り込むように辿り着いた吾郎も、神無の方を掴むと命注ぐように身を委ねた。 「癒しの吐息、どうかお受け取りになって……」 どんな結果であれ、仲間に倒れて欲しくはないから。櫻子は清浄なる息を場に満ちさせる。 「蝶に引き摺られちゃ駄目だよ。生きてって願ってる人だっている、諦めないで!」 愛銃の銃声を物ともせず、国子は声を限りに叫ぶ。 新たな存在に瞠目する神無の胸元、正確に射出された弾丸が蝶の羽に突き刺さった。 強化をすませた沙由理の小剣より展開された『気』が、網でつかまえるように蝶の少女を捉える。 その間にも茉莉が天空から四重の魔を奏でおろし、奏音が未姫が続いた。 飛び交う叫び、引き渡される命。 「一所懸命生きるからこそ、運命は人を愛するんだよ」 叫ぶ国子の愛銃が火を噴き、蝶の片羽を砂浜に落とした。 「どうぞ、その足がかりに」 国子より前に陣取ったのは場合によってはフェイトを差し出す為と、銃の名を持つ男は空中から散弾を撒く――その一つは正確に蝶へ。 「一所懸命……」 こくりと頷く間近の舞姫の指を握り締めた。 「背筋を伸ばして胸を張るのデス。堂々としていれば、奇跡は結構来てくれるものなのデス!」 へにゃり微笑む心には自然と微笑み替えし。 そして。 ぐちゃぐちゃの思考から、神無は懸命にある一つの願いを引き出す。 どうかどうか。 この人達を、殺さないで! リベリスタが願うだけ、まるで鏡のように神無に想いが宿る。願えば願うだけ――少女の背から生えた禍々しい紅が、戸惑うように陽炎めいて、ゆらり。 その隙を逃さぬ一斉攻撃に溜まらず神無は膝を折った。 けれど少女の命の炎を消さぬようにと、運命に愛されし者達は命を注ぐ。 ――シャンッ。 やがて命吸蝶は――国子の幾度目かの弾丸を受けその姿を世界から、消した。 ●支え 胸ポケットの携帯が震えた。 猛の目配せに頷きながらも雷音は泣きじゃくる神楽の背を撫でる手を止めない。 わかったのは――ずっと我慢して生きてきたこの子が、体が健康でも心が病む程に愛情に飢えていたということ。 「わた、わたしだって……お休みの日にお父さんと出かけたり……笑っ……て」 親からの愛に飢えて餓えて、恩師に出逢うまで荒れ果てた猛には痛いぐらい、わかる。 「神楽ちゃん、その正直な気持ち言葉で伝えようよ」 「言えるわけ……ない、じゃない。神無は……病気で苦しんでて、わたし、健康なのに……」 「健康なことは悪いことじゃないよ」 ぎゅ。 神楽の手を握り締めて、雷音はその闇を払うように明瞭に言い切った。 「……居なくなったら伝えられないんだよ」 後悔して欲しくないからと、猛は神無へと繋がる電話を差し出す。 何を言えばいいのだろう? 鼻を啜りながら神楽はとにかく唇を動かす。 「神無ちゃん、最近調子いいんだって聞きましたよ』 自然に声が出たのが不思議だった。 そういえばだからお見舞いに行こうって思ったのだった。それはいい子ぶりたいわたしのあざとい外面、そう思い込んでいた。 でも。 『う……うん」 電話の先、浜辺で命吸蝶をなくした神無は、馴染みある虚脱感に襲われていた。 それでも生きてと願ってくれた人達の前で「もうだめ」とは言いたくないから、頑張って唇の端を持ちあげる。 「大丈夫?」 倒れそうになる体を、国子が支えた。 『神無ちゃん』 頷く神無の耳に母の胎内からずっと一緒だった少女の願いが届く。 『わたしね、お父さんと神無ちゃんと遊園地に行きたいんです、だから――』 もっともっと、元気になって下さいね。 ●品川神無の経過報告 余命数週間と言われていた彼女はリベリスタとして覚醒しました……等と言うことはなく、相変わらず白の病室にて様々な管に繋がれて横たわっている。 だが。 その余命を『年単位』にまで伸ばしていた。 走り回ることは無理でも、見舞い客と朗らかに話せる体力は手に入れていた。 病巣は相変わらずで気力でもっているのでは、というのが医者の見解。 ただ世界の真実を覗き見した者達は思う――アーティファクトとリベリスタの想い、フェイトの力が重なり起きた奇跡ではないか、と。 ただしこれは例外中の例外、同じ状況において再現する可能性は『0に近い』のだろう、なにしろ『奇跡』だから。 ――伸びた余命には意味がある。 もしかしたら医学が飛躍的に進歩し完治するかもしれない。 或いは、神楽から負担にならぬ程度の臓器をもらい永らえることが可能となるかもしれない。 ……自分の罪に苛まれ、生きることを呪う日が来るかもしれないけれど。 けれど今は。 明日まで生きれば、姉が父が……大好きな誰かが逢いに来てくれる。更に明日のその次、そのまた次も。 その想いが少女に生への執着をもたらして、彼女は今日も目を覚ます。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|