● 「……」 その光景を目の当たりにした銀髪の少女は、声も出せずにただ、立ち尽くすのみだった。 血を流して倒れ、ピクリとも動かない両親と、7人の男達。 「いやぁ、龍玉を頂きたかっただけなのですが……残念な事になってしまいましたねぇ」 そして一際目立つのは、ややオーバーアクション気味にそう言い放った男だろう。 他の6人が武器を手にしている中、この男だけは武器らしいものを持っている気配がない。 「長岡さん、妙なガキが来ましたが……どうします?」 「あぁ、ではこの子に聞いてみましょうか」 この会話を聞く限り、この長岡と呼ばれた非武装の男がリーダー格という事か。 「お嬢さん、この家に龍玉があると聞いてやってきたのですが……どこにありますか? まぁ答えてもらわずとも、皆殺しにした後でゆっくり探しても良いんですがね」 「え、あ……」 静かではあるものの、殺気のこもったその言葉に、呆然としていた少女の意識がはっと我に返る。 「う……わぁぁぁぁっ!」 と同時に沸き起こる衝動が、フレアバーストの一撃となって長岡へと襲い掛かっていった。 少女の名は、ルーナ。 少し前に姉のサニアと共にエリューションに襲われ、アークに救出された事がある駆け出しリベリスタの少女だ。 マグメイガスとして覚醒していた彼女が放った、激しく燃え盛る炎が、長岡の身を焼き尽くしていく。 しかしルーナは必死だったせいか、彼の部下達が薄ら笑いを浮かべてまったく動じていない様子に気付いてはいない。 「はぁ、はぁ……やった……?」 炎が消え、焦げ痕だけが残る床。 もしかして倒せたのだろうかと安堵の息をついたのも束の間、彼女は残る6人を見渡し――、 「いいや、無駄だな。あの人は死なないんだよ」 そして相対する6人の中の1人が発した言葉に、怪訝そうな顔を浮かべた。 「……は?」 リーダー格の長岡は、その姿が消え去るほどに焼き尽くしたはずだ。 こんな男がリーダー格なのだから、この6人もなんとか倒せる。そんな気持ちすら浮かんでくる。 しかし部下は、彼は死なないと言う。 よくよく考えれば、両親もそれなりの実力を持ったリベリスタだった。 その両親を6人がほぼ無傷で倒しているのだ。ならばそれを束ねる長岡も、本当は自身が勝てるはずもない実力者なのだろうか。 (どういうことだろう……?) ピリリッ、ピリリッ……。 不死という言葉と、部下を束ねるのに不相応なリーダーの実力。その2つに対しての疑問が湧き上がるのと、乾いた携帯の着信音が鳴り響いたのは、ほぼ同時だった。 「あぁ、はいはい。了解。長岡さんがお前にだってよ」 おもむろに、手渡される携帯電話。 『いやぁ、お見事な攻撃でした。まぁ無駄でしたが……どうでしょう、取引といきませんか?』 電話の向こうから、先程焼き尽くしたはずの長岡の声が聞こえてくる。 『あなたは意外と冷静そうですからね。あのまま他の6人に攻撃を仕掛けず、状況把握に努めようとしたところから良くわかります』 「……それで?」 『あなたが龍玉を持って、私の部下になるのならば……口封じもしないで済みそうなんですがね。家にはまだ人がいるでしょう』 その問いかけを聞き、ルーナの視線が部屋に残る男達へと向けられていく。 龍玉。 一部のアーティファクトのデメリットを緩和するアーティファクト。ルーナが知る限り、龍玉はそんな効果を持っていた。 両親はこの龍玉を渡す事を拒んだ結果、彼等に殺害されたという事か。 家の中にはまだサニアがいるが、この条件を聞き入れれば、ひとまずサニアの命だけは助かるのだろう。 (――是非もないかな) 彼女が答を打ち出すまでに、ほとんど時間はかからなかった。 「わかったよ。言われた通りにする」 『理解が早くて助かります。では電話を戻してもらえますか?』 言われるがまま、男達へと返される携帯電話。 『では彼女は澪に預けるので、白神をそちらにやります。後は速やかに、痕跡を残さず撤退を』 「へへ……、了解。この前、まともに仕事をこなせなかった女にもまだ仕事を与えるとは、寛容なもんですな!」 速やかに撤退する。 (……サニアが無事で済むだけでも、今は救いだよ。父様、母様。仇はきっと、ボクが討つから……) 長岡が言い放ったその言葉の真意を、この時ルーナは別の意味で捉えてしまっていた――。 ● 「先日の一件で澪さんを逃がした収穫が、あったというものでしょうか」 以前アークが出会った、フィクサード狩りを行うフィクサードの高原が以前探していた写真の男。 それとは似ても似つかない容貌ではあるが、それでも『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が垣間見たビジョンを考えれば、この男がその男だと考えるのが妥当だろう。 人を絶望に叩き込む事に愉悦を見出し、『あの人』と呼ばれ、アークもその部下と何度か刃を交え、足跡を追ってきた。 先日、その配下の更科・澪という女を逃がした事が功を奏したのだろう。 探している相手だと判明し、かつ姿を見せたというのならば、今回の目的は長岡を何とかすることだろうか。 「ですが……今回は、彼を追うことよりも、大事な任務があります」 否、和泉はそれは二の次、三の次だと言う。 『後は速やかに、痕跡を残さず撤退を』 電話口で長岡が部下に指示したこの言葉は、素直に聞けばさっさと撤退しろと聞こえるかもしれない。 「この指示の真意は、屋敷に火を放ち、誰も生かしておくなという意味が込められていたようです」 遺恨を残すならばルーナだけで良い……ということか。 両親だけでなく姉までも殺してしまえば、ルーナに与える絶望はより深いものとなるだろう。 「人を絶望に叩き込む事に愉悦を感じる、この男ならではの手法と言えるかもしれませんね」 しかして、ここまでわかっている以上は、思い通りにさせるわけにもいかない。 「残念ながら、今すぐ向かってもルーナさんが連れ去られた後ではありますが……」 和泉がいうには、リベリスタ達が到着するのはルーナが家を離れ、火を放たれた直後だと言う。 6人のフィクサードは火を放った後、2人ずつ3組に別れて家の内外から生存者を殺害しにかかる算段で動くようだ。 「家の1階と2階、それと外をそれぞれが担当し、動いています。サニアさんは2階の自室にいて、火事に気付いて飛び起きたようですね」 救出対象がサニア1人というのが、せめてもの救いとは言える。 「家には油が撒かれているため、火が強くなるまでにそう時間がかかりません。なんとか安全に動ける時間は、3分が限界といったところでしょう」 フィクサードはそう強い連中ではないため、上手くいけば戦闘にてこずる事はない。 が、サニアはルーナや両親を探そうするため、2階を徘徊するフィクサード達とはすぐに鉢合わせてしまうだろう。 後は時間との勝負だと言ったところで、和泉は集まったリベリスタ達の顔を見渡していく。 「しばらくの間は、ルーナさんも安全だと思われます。ですから今は、どうかサニアさんの安全を確保してください」 サニアを救出できれば、長岡の目論見に僅かでもほころびは生じるはずだ。 本命が表舞台に姿を現した今、全ては決着に向けて動き始めている――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月12日(木)22:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●燃え上がる炎 「さぁて……フィクサードも随分とアレな真似してくれるじゃねえか」 目的地を目の前にし、『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が苦々しい表情を浮かべる。 丁度、フィクサード達が火を放ったところなのだろう。 ルーナが連れ去られ、サニアが眠る家のあちこちからモワモワと煙が上がり始めているのが見て取れた。 「敢えて希望を持たせた上で絶望へ落とそうとは……」 「解ってはいたことだが、長岡とやらはとんだ外道だな」 猛の後ろを走る『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)と『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が、そんな言葉を発するのも無理はない。 『龍玉を持って部下になれば、口封じもしないで済みそうだ』 そんな言葉を受けて、ルーナは抵抗を止め、連れ去られていった。 しかしフィクサードを束ねる長岡に、そんな約束を守るつもりなど無かったのである。 「鬼狩に龍玉で最高の武器になるか。やつが自信満々で出てきたら難儀な事じゃな」 その長岡の思惑は、『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)が言うように、龍玉を持って鬼狩のデメリットを緩和しようとしているのだろう。 ならば――、 「サニアさん、ルーナさんとは同じお弁当をつついた仲っ! 放っておくことなんてできません!」 「相手はフィクサードですし、容赦せずにいかないと!」 まずは目の前の敵を挫く事。『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)の言葉は、端的にそれを表していた。 「そろそろ、外のフィクサードとぶつかるぞ。気を引き締めろよ」 いつの間にか最前列へと飛び出ていた『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)の注意に、リベリスタ達は頷き、走りながらも戦闘態勢を整えていく。 そうしてリベリスタ達が駆けて行く間にも、家を焼く火の手は勢いを増し続けている。 「火が回りきる前に撤収する必要がありますし、敵が逃げるようなら深追いはしないようにしますか」 突入し、安全に撤退するための猶予は3分。救出を主眼に置くのならば、『双刀華』月宮 葬(BNE002293)がそう判断するのも当然だと言えよう。 ルーナを奪い返すチャンスは、この後にきっと来る。 今、成すべき事はサニアを確実に救出する。ただ、それだけだ。 一方。 「ルーナ、私のお菓子食べるなぁ……! ……zzz」 家が燃えているとも、ルーナが連れ去られたとも、両親が殺害されたとも露知らず。 サニアはまだ、夢を見続けていた――。 ●包み込む炎 近づけば近づくほどに炎は勢いを増し、天に昇る煙の量もどんどんと増えていく。 「結界は展開しました。後はフィクサードを倒してサニアさんを救出するだけですが――」 念のために人払いをと、結界を展開する葬。 しかしいかに『倒し、救う』の行動だけで済むとは言え、肝心のフィクサードの発見に手間取れば、時間をロスしてしまうことは否めない。 「もしかして、あれでしょうかっ!?」 そんな折、燃え盛る炎の先で僅かに動いた影を指差し、ななせが言う。 「こっちもだ。あそこからなら、登りやすそうだが……」 同時に翔太は火の手の少ない場所に視線を移し、そこからの侵入を図っているようだった。 当然、その判断に確かな根拠はない。だが2人の超直感は告げている。目指す場所は、そこだと――。 「では手筈どおりにいくとするかのぅ。今はさっさとサニアを救いにかかるのじゃ、みなのもの!」 ならば事前に決めた作戦の通りに動こう。メアリの言葉にリベリスタ達は頷き、それぞれの道へと進む。 「やっぱり、フィクサードでしたね」 まず家の外に展開したななせと影時は、相手の死角からその様子を伺いにかかっていた。 「後ろを取るのは……難しいか、時間もかかるし」 可能ならば地に潜り後ろを取りたいと考える影時ではあったが、その間ななせが1人で戦う事を考えれば、各個撃破に繋がる可能性も高い。 もしも外を担当するメンバーが3人だったら……などと考えてしまうものの、既に作戦は始まっている。 「いきますねっ!」 ななせの言葉に互いに頷き合うと、2人は死角から飛び出し、一気に近くに居る側のスターサジタリーへと迫り詰めていく。 「こんにちは、フィクサード。僕等のお話、嫌と言うほど聞いてもらうよ!」 奇襲に面食らう2人のスターサジタリーに対し、そう言い放つ影時。 「始まったようだな」 「お二人とも、救出完了までくれぐれも無茶はされぬよう……」 戦いの始まりを告げるその声が、火の勢いの弱い部分を探し、家の外壁を登っている最中の翔太と幸成の耳に届く。 呟くような幸成の言葉は、もちろんななせや影時には聞こえないだろう。 それでも、彼は2人が耐え切る、もしくは勝利するだろうと信じ、前に進む。 「サニアを早く救出して、援護しに行こうぜ」 「そうで御座るな」 自らの役目を早くこなせば、彼女達が苦戦していても援護が出来るはずだ。翔太の言葉に頷いた幸成は、進む先にある窓だけを見据えて登っていく。 「それにしても煙たいのぅ」 一方、煙に思わずハンカチで口を塞いだメアリを始めとした残るリベリスタ達は、玄関から侵入し、家の焼け具合に思わず顔をしかめていた。 先程戦闘を始めた外のフィクサード達によって、油が撒かれているせいだろう。 「これでは、長くはもたないな……」 すさまじい火の勢いに、猛は残された時間が少ない事を改めて認識したようである。 「もたもたしている時間はありません、急ぎましょう」 そして葬がそう促した時、 『ついでに金目のものも探すか?』 『バカ、その前に家が焼け落ちるだろ! 俺等は言われた通りに後始末をすりゃ良いんだよ!』 「あっちだ!」 奥の方から聞こえてくる2つの声を、集音装置を有する優希は聞き逃しはしなかった。 優希を先頭に、声の方へと走るリベリスタ達。 「ったく、どうせ生きてるのは外でぶっ殺せば良いだろうに」 「だな、煙もすげぇし。とっとと部屋を調べて外に出ようぜ……あ?」 当のフィクサード達も、押し寄せる4人のリベリスタに気付いたらしい。 「生きてるのがいるじゃないか、1、2、3、4に……うごっ!?」 「家を焼き家族を殺す……お前等の血は何色だー!!」 まずは数を把握してからどうしようかと考えるソードミラージュではあったが、把握しきる前にメアリの放った神気閃光がその出鼻を挫く。 「かふっ……、こいつ等、まさか!」 同様に神気閃光の光に焼かれたマグメイガスに浮かぶのは、何かに気付いたような表情。 「そうさ、俺達はアークのリベリスタだ。合わせろ、焔!」 「ハッ、葛木こそ遅れを取るなよ!」 しかしその表情はすぐに眼前に迫る猛と優希によって焦りに変わり――、 「「──武技・焔雷舞!」」 2人が同時に叩き込んだ壱式迅雷によって、一瞬で打ち倒されていった。 「……足を引っ張らないように、頑張らないといけませんね。上に早く、上がるためにも」 残るソードミラージュに対して天井を蹴り強襲を仕掛けた葬は、直後に自分が蹴った天井に少しだけ視線を移す。 彼等は上手くサニアと合流出来ているだろうか? ――否。 「……わわわ、火事っ!? ルーナ、火事だよ火事……ふぎゃっ!?」 合流どころか、サニアは今になってやっと目覚めたようだった。 部屋中に充満した煙で、視界はとても悪い。そのせいでベッドから落ちてしまったが、それでも手探りでルーナを起こそうと彼女のベッドに触れ――、 「あれ、ルーナ? トイレにでも行ったのかな。逃げてると良いんだけどっ」 ここでようやく、妹が居ない事に気付くサニア。 気付いた事は、それだけではない。 キン! ……キィン! 家が焼ける音に混じり、かすかに聞こえる金属のぶつかる音。 「ちぃ、この野郎ォ!」 「この先には行かせないで御座る!」 そして聞こえてくる声。 (誰かが、戦ってるの?) この2つの音を判断材料にするならば、外で戦闘が起こっている事など、容易にわかる。 「ルーナや、パパとママは無事なのかな……。とにかく、気を引き締めていかないと」 剣を手に取ったサニアはそう呟くと、ドアに勢いよく蹴りを入れ――。 バァン! 「けほっ、けほっ……人の家で、何してんのよ!」 「サニア無事か? 覚えてるか、アークの上沢だ」 煙を吸い軽く咳き込みながら剣を構え飛び出してきたサニアに、インヤンマスターを丁度斬り倒した翔太の声がかかる。 だが、彼等の戦いはまだ終わってはいない。 「サニア殿はしばし下がっているで御座るよ! 家が焼け落ちるまで、僅かの猶予しか御座らん!」 自身が傷を負うことも厭わず、残ったクリミナルスタアに爆弾を仕掛ける幸成の姿を見れば、火の状況を考えても確かに猶予はないのだろう。 「なら私も手伝うわよ! でないとルーナやパパ、ママを探せないじゃない!」 「無茶はするな、説明はここを切り抜けたらする」 思わず飛び出しそうになるサニアを冷静に諭し、翔太もクリミナルスタアとの戦闘に身を投じていく。 (何が起こってるのよ……) 突如舞い込んできた、ありえない現実。どんどん膨らむ不安にサニアの体には震えが走り、戦うどころの状態ではなくなってしまっていた。 その時、勝てないと踏んだクリミナルスタアは彼等を混乱に陥れようとでも考えたのだろうか。 「ヒャハハ! 既にお嬢ちゃんのパパもママもあの世に行ったぜ、龍玉をくれりゃ殺す必要もなかったんだが……もらうモンはもらったしな。後は邪魔さえなきゃ、お嬢ちゃんも一緒に逝けたのに……ぐはっ!」 サニアにとって受け入れにくい現実を突きつけ、そのまま階段の方へ走り逃げる態勢をとったのである。 それが無駄な事だとわかったのは、階段で出会い頭に優希に殴り倒された時だった。 「コイツで2階は終わりか? ならば逃げるぞ!」 もはや家が焼け落ちるまでの猶予は少ない。 「ちょっと待ってよ、ルーナを探さないと! それに、パパ、ママが死んだって、どういうことよ!?」 「細かい説明は後で御座る、今は兎に角一刻も早く脱出を!」 クリミナルスタアによって突き付けられた両親の死、そしてルーナが居なくなっている事実に半狂乱になっているサニアを抱きかかえ、脱出を促す幸成。 少女の悲痛な叫びが響く中、彼等は一路、外を目指す――。 「サニアさんは無事でしょうか……っ」 「きっと大丈夫だよ……」 その頃、家の外ではフィクサードを捕縛したななせと影時が、玄関から仲間達が飛び出してくるのをじっと待っていた。 「まったく、てこずらせてくれたね」 もう少し早く勝利する事が出来ていれば、中に突入して援護に回る事も出来ていただろう。 それでも数の利のない2対2の戦いを途中まで繰り広げていたのだから、今の時点で勝利を得られただけでも成果は十分にある。 「今から突入しても危ないしのぅ。ここは信じて待つのじゃ」 その勝利をもたらしたのは、1階での戦いを終えて単身加勢に来たメアリだ。 「そ、そうですねー……」 彼女の言葉に頷いたななせは、ならば今出来る事をしようと、持ってきた荷物をがさがさと漁り始める。 (少しでも、サニアさんを安心させられるでしょうかっ……) 恐らく煙に巻かれて煤まみれであろうサニアの顔を拭うためのタオルと、ほっとさせるための温かい紅茶。 両親を殺され、ルーナを攫われた少女が、少しでも落ち着いてくれますように。 そんな想いを胸に、ななせはサニアの無事をひたすら祈る。 「さて……君たちのボスってどんなお人?」 その近くでは、捕らえたフィクサードに影時がそう言葉を投げかけていた。 今わかっているのは、どういうわけか死なない事。ただそれだけである。 「言うかよ、テメェ等なんぞに」 捕らえられたフィクサードにとって、そんな質問に答える義理など当然ありはしない。 「まぁ、良いんじゃないか。あの人は死なねぇし、顔も声も自由自在に変えられるし、俺等が知ってる事を言ったって、こいつ等にどうにかできるとは思えん」 が、予想に反してもう片方のフィクサードは別に良いだろうと口を開き始めたのだ。 「……なるほどね」 話を聞き終えた影時は軽く頷き、得た情報を反芻する。 長岡は姿を変える事に長けている事。 そして殺しても死なず、死体が消えたと思ったら別のところに現れる事。 (これは翔太さんや優希さんも言ってた事か……) 既に長岡の部下と幾度か剣を交えた翔太や優希から、この話は聞いていた。 殺しても死なない事は、この作戦の前に聞き及んでいる。 「最初は一般人かと思うくらい、弱いんだよね?」 「あぁそうさ。俺等が最初ぶっ殺した時は、普通の人間かと思うほど弱かったんだがな。次に現れた時は、すげぇ強かったんだよ」 一度目は弱く、二度目は強く。 「舐めてかかったら、思い切りぶっ飛ばされたからな……あれで、俺等も部下になったんだっけな」 「そこに何か、謎がありそうですね」 口を揃えて『二度目は強い』というフィクサードの言葉に、ななせも長岡攻略の鍵はそこにあると判断したようだ。 「……お、どうやら無事なようじゃぞ」 そんな折、サニアを伴い脱出してきた仲間達の姿がメアリの目に映る。 と同時にさらに燃え盛る炎は勢いを増し、もう誰も寄り付くなと言わんばかりに家全体を焼き尽くし始めるのだった――。 ●少女が進む道 焼け落ちる家から、少し離れた場所。 臭いと煙はここにも漂ってきては来ているが、それでも家の近くよりはマシなはずだ。 「消防への連絡は、済ませておきました」 「ありがとう。これでひとまず、終わったで御座るな……」 最後に成すべき事として消防署へと連絡を入れた葬の言葉を受け、ほっと息をつく幸成。 とにもかくにも、サニアを救出する事は出来た。今はそれだけで十分だとは言える。 「囚われのお姫様。お怪我は無い……?」 「大丈夫、もう大丈夫だよっ」 当のサニアには影時とななせが寄り添い、少しでも落ち着かせようとしているらしい。 「これからが大変だが、な」 しかし翔太は、その一方で少しだけ頭を抱えていた。 多少なり落ち着いたとは言え、今からそのサニアに事情説明をしなければならないのである。 「ここに来るまでも相当暴れておったからのぅ……龍玉の事を聞くのは難しいかもしれんか」 その説明による結果を考えれば、メアリがそう判断したことは決して間違いではない。 幸いしたのは、捕らえたフィクサードを伴った猛が、彼等とは離れた位置で尋問を行っている事だろう。 「あっちはあっちで何か聞けると良いんだがな」 もし近くで尋問をしていたら、暴走したサニアがどう動くかくらいの予想はつく。 それを回避した事に胸をなでおろす翔太が視線を向けた先で、猛は少しでも情報を得る事が出来ているだろうか。 「お前らには聞きたい事があるんでな、吐いて貰うぜ」 「大体はさっき、あの3人の女に話しただろうがよ」 否、抜ける情報は大半がななせや影時によって得られており、猛の問いにもフィクサード達は同じような返答を繰り返すばかりだった。 長岡や澪がどこにいるか、そんな情報は彼等も持ちえてはいなかったのである。 「ちっ……。だが、このままじゃ終われねぇ、それは俺だけじゃねぇ筈だしな」 軽く舌打ちして空を見上げた後、仲間達やサニアのいる方へと目を向ける猛。 彼等リベリスタも、このまま長岡を逃すつもりはない。 それはサニアだって、同じはずだ。 「ルーナは、生きてるの?」 「ああ、まだ大丈夫なはずだ」 ななせに抱きしめられ、影時に手を握られたまま、翔太から事情を聞いたサニアの表情が最後に少しだけ明るくなる。 それは、絶望の中に差し込んだ一筋の希望。 「ルーナは俺達が助ける。それに――」 「それにもし自分で探す気があるなら、妾達も協力を惜しまぬのじゃ」 力強くそう告げる優希に続き、メアリがさらに言葉を紡ぐ。 その言葉を受けたサニアが視線を移せば、ななせも、影時も、そして翔太達も彼女に頷いて返す。 僅かな、沈黙。 だが、サニアの答はもう、決まっていた。 「もちろん、私だって探すよ。大切な、家族だし……それに……」 固唾を呑み、少女の次の言葉をじっと待つリベリスタ達。 「そんな悪い人を放っておくなんて、リベリスタはしちゃいけないんだよっ。天国のパパやママのためにも……!」 両親の死を悲しみ、泣く事はルーナを助けた後で良い。 頭ではそう理解していても、溢れ出る涙は止まりはしない。 それでも必死に涙を堪えようとしながら決意を固めたサニアの表情は、誰が見ても一人前のリベリスタの顔だった――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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