● ああ、降りそうだ、嫌な天気だ。 季節柄仕方ないとはいえ、こうじめじめしていては気分も晴れない。 冷房や扇風機には少し早い、やはり今年こそ除湿機を買おうか。 そう考えながら、家路に着く。 世間的には休日であっても、働いている人間は大量に存在する。 代わりの日にちをきちんと休める分、彼はまだ幸いな方なのだろう。 電車も普段より空いているに違いない。それだけは休日の良い所だ。 ネクタイを緩めた所で、ふと視界の端に揺れる布が映り込んだ。 風も感じられないのに揺れている、どこかの排気ファンの前にでも引っ掛かっているのだろうか。 何気なく振り向いた彼は、瞬いた。 そこにあったのは、手。 青白い手。 まるで誘うように、此方を手招いている。 地面――いや、排水路の下から。 おかしい。 そこには金属の網がある。隙間を抜けている? ありえない。隙間は広くない。 ならなんで、あの手は地上へと出ているんだ。光か何かで作られた、オブジェの一種なのだろうか。それにしては、周囲の風景にそれを思わせるものが一切ない。もしかしてドッキリか。ああそうだ、そうに違いない。だとしたら、どんな仕掛けか覗くくらいはいいんじゃないか。 だって、呼んでいるから。 光に寄って行く虫のように、ふらふらと。 近寄った彼は、両手が伸びて来るのを見た。 彼はそれが光ではありえない強さで彼の背を抱き込むのを感じた。 彼は目前に、銀色が迫るのを、 ごぢゅっ。 ● コンビニやスーパーで見かける、プラスチックの容器に入ったトコロテンを前に『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は眉を寄せていた。 リベリスタが集まってきたのを見て立ち上がる。 「はい、皆さんこんにちは、皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンです。今日はちょっとまあ……夏らしいといえば夏らしい依頼です。多分」 では説明しますね、と告げる声の覇気が薄い。 些か抑揚というか感情の起伏が少ないのは今更だが、何だというのか。 「排水路にある蓋……グレーチングって言うんですけど、金属の網みたいな奴、で分かりますかね。小銭をうっかり落としたり、女性でヒールの人が偶に嵌ったりするアレです」 見た事がない、という人間は恐らく存在しないだろう。 そこにE・フォースが出現するのだと、フォーチュナは言う。 「そこから青白い半透明の手が出てる訳です。で、何だろう、と寄っていくと、引きずり込まれるんです。当然そこにはグレーチングがあります。E・フォース……『青白い手』は難なくすり抜けているそれも、生身の人間には越えられない訳でして」 一度、切る。 視たものを思い返す様に、視線が彷徨って再び開く。 「あー、……すいません、他に良い例えが思い付かないのですが、要するに、まあ、トコロテンと同じ要領で『下』に引きずり込まれる訳です。……尋常ならざる力なので、即死なのがまだ幸いでしょうか。これのせいで、肉と骨と内臓が混ざった様なE・アンデッド『ヒトガタ』も生まれています」 想像したくない光景に、リベリスタの誰かが、顔を歪めた。 本来ならば人の骨も脆くはないし、肉も衝撃を和らげるクッションとなる。 そんな勢いで叩きつけられれば、金属も歪むはずだ。 それが綺麗に骨まで砕けて下に抜けるというならば――それは人為の及ばない何かの仕業。 なんとも言えない負の感情とか、そんなものが流れ流れて集まってしまったんですかね、とギロチンは言う。流れ着いて、排水路の下で凝り固まってしまったのかも知れない、と。 「青白い手、及びヒトガタは、ぼくの三倍程度の長さをした腕以外は人と変わらない形状をしています。テナガって妖怪いましたっけ、あれに似た感じですかね。で、これを呼び寄せる方法ですが、皆さんの誰かにまずこの『青白い手』の誘いに乗って貰うのが良いかと」 近寄ったならば、E・フォースはそれまでと同じ様に手を伸ばしてくる。 しかし、人よりも強い力を得たリベリスタならば、そう簡単に引きずり込まれはしない。 「排水路に引き込む時だけ、このE・フォースは直接こちらからも触れられるようになります。引きずり込もうとする腕を引っつかんで、引っ張り出して下さい」 誰かを引き上げるように、魚を釣り上げるように、路上に出してしまえ、とフォーチュナは言う。 「少しばかり体力を消耗するかも知れませんが……グレーチングを事前に壊してしまうと、どうやらこのE・フォースとアンデッドは出現しない様なんですよね。そうすると討伐自体が不可能になってしまいます」 なので、少々面倒ではあるがこの方法が確実だろう。 「狙いに一貫性はなく、ただの通り魔みたいな存在です。日常を過ごす人々が、仕事帰りや学校帰りにこれに魅入られたが為に引き込まれてしまう――なんて事は嘘にして下さい。ぼくを嘘吐きにして下さいね、お願いします」 何、皆さんなら大丈夫、といつもの薄い笑みを向けたギロチンは、ふと机に視線を移した。 「で、えーと……、……おやつにって先程頂いたんですが、誰か食べませんか、これ。関西風に黒蜜らしいんですけど」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月09日(月)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● じっとりと、まとわりつく様な生温い空気が満ちている。 風が吹いても不快感を煽るだけだ。清涼など望むべくもなく、ただ温い。 汗が伝うほどには暑くなく、ただ不快な熱だけがそこに在った。 雨の気配は蟠ったまま消えない。せめて降れば、少しはこの熱も下がるだろうに。 ● 「夏の怪談にはちょっと早い気もするけど」 兜の奥で笑った、様な気がしなくもない『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)の視線は排水路に掛かったグレーチングに向いている。複数の排水路の交差点となっているそこに掛かった溝蓋は、幼い子供が横になった程度の長さの四辺を持っていた。何気ない風景。日頃通っていたとして、そこにそんなものがあったかと改めて問われれば少し考えるだろう。 「まあ……トコロテンは、なんというか、夏の風物詩だけれど……」 眠るのには不快指数が高すぎた。『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は生温い風に吹かれて首筋に張り付いた髪を払い、重力に負けている目蓋をゆっくり上下に動かす。語るだけ語っておいて余計に煽ったフォーチュナはいつも通り。那雪自身はさして気にしないが、苦手な人間には辛いのだろう。 「公共のものを勝手にヘンな事に使ったらいけないんだぞー」 『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)と共に路地の左右にカラーコーンを設置しながら『紺碧』月野木・晴(BNE003873)が僅か頬を膨らませる。グレーチングは何の為にあるのか。雨水等の排水の為だ。決して人間トコロテンを作る為の道具ではない。というかそんな事を考えたくなかった。これから先、あの涼しげな透明の食品を見る度に思い出すのだろうか。何て事をしてくれたんだ。いや、食べるけど。 奥で怖くない怖くない怖くないと呪文の如く呟いている『三高平高等部の爆弾娘』蓮見 渚(BNE003890)とてそれは同じ。ブリーフィングルームでフォーチュナが押し付けてきたトコロテンもしっかり食べた。美味しかった。怖い話とはまた別だ。というかこの二人は怖がりながら普通に食べていたので割り切りがしっかりしている子達だ。 「大丈夫だ、気を強くな」 「な、何言ってるの、こわ、怖くないよ!」 通行止めの札を置き終わり、肩を軽く叩いたアウラールにびっと背筋を伸ばし宣言。けれど若干逃げ腰なのは否めなかった。 「まあ、エグい殺し方だよな」 想像して『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891) は顔をしかめる。押し出されるのではなく引き込まれて殺された。尋常ではない、人ではできない殺し方。他に言い様がなかったのかは知らないが、半端に想像できてしまうのがまた気持ち悪い。被害者は不運だった。そう、引き込まれた者は、不運だった。 「既に犠牲者は出ているのですね……」 憂うように『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が呟く。『ヒトガタ』と名付けられたあの異形はアンデッド。E・フォースである『青白い手』の特性から考えれば、その原材料が何であるかは想像に難くなかった。未来視が間に合わなかった過去に、彼らが既に届かない領域に、引き込まれた者は存在したのだろう。 「これ以上は、新たな犠牲者を出させる訳にはいかないから」 何を求めて、手は人を招くのだろう。『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は目を細めた。死へと誘うだけの冷厳な手なのか、寂しさから温もりを求めるだけの哀れな手なのか、分からない。けれど、これ以上誘われる人を出させはしない、というのだけは、よく分かった。未来の本当を、嘘の過去へ。さあ、戦場を奏でよう。 ● ぴたりと風が止まった気がする。 ビルの隙間を抜ける風さえ、この空気を厭うというのか。 背筋に汗が滲む気がする。 実際の所は普段より多少湿り気を帯びているだけだとしても、不愉快に変わりはない。 服を摘んで扇いだ所で腕が疲れる以外の効果など何もなかった。 ● リベリスタの瞳が見詰める中、それは突然に現れる。 瞬いて、目を開いて、一瞬にも満たない刹那の間にそれは手を振っていた。 まるで最初からそこにあったかのように。いたかのように。 ひらひらと揺れるその手は、風にしてはあまりにも滑らかにこちらを誘っている。呼んでいた。 ぐっと拳を握ってみせた付喪に頷き、アウラールが進み出る。結界は張った。看板も立ててある。恐らく皆、ここは避けて通るだろう。大丈夫だ、と思っていても心配の消えない那雪とミリィの視線を受けながら、彼は己を手招く手を握り返す。 「……!?」 覚悟はしていたはずだった。それでも、アウラールが反応するよりも早く、手は触れると同時に彼を引きずり込もうとしていた。ガダン、気付いたら膝がグレーチングに触れている。空恐ろしい程にひんやりとした金属の感覚。 金網の向こうに見えるはずの青白い姿は、視線を動かしても見えなかった。自身の影で隠れているのだろうか。分からない。トラックが乗っても全く問題のない筈の銀色が、みしみしと軋む様な気さえする。じりじりと引きずり込まれ、指の間から金属が己を裂いていく感触までも想像し、アウラールは歯を噛み締める。 「悪いが俺はこちらにまだやり残したことがある……お前がこっちに来い!」 膝を立て、片足を中心に力を込めた。筋肉が軋む。 添えられたのは、手甲を嵌めた手。 思わず隣を見れば、目を細める付喪。 「引き摺り出すのは一人だけじゃなけりゃ駄目だ、なんて言われてないだろう?」 悪戯っぽく告げられた言葉とは裏腹に、込められた力は強い。 「ファイト一発だよ、気合入れな!」 「おう!」 足を踏ん張り、薄青いゼリーの様な腕を引き摺り出す。少し進んで、もう少し。 ずるりと抜け出てきた。青白いそれ。異様に手の長い人の形。 「う、うわ、出、」 晴が叫ぶよりも早く。透けたそれが道路に引きずり出されるのとほぼ同時に、グレーチングが跳ね上がった。シャンパンの栓よりも尚軽く、厚紙の様に中心をひしゃげた金属は空中を舞い――その軽やかな動きとは対照的な、重力を得た重い音でアスファルトの一部を抉った。がごぉん。がぎぃん。 跳ね上げたのは、異形の腕。ずるりと這い出る、二体目。 誰かが、顔を歪める。 赤くて肌色で白でクリームでピンクで黒で、人を丸ごとミキサーに入れて形が残ったまま取り出せば、こうなるだろうか。実際、そうなのだろう。血と皮膚と骨と脂肪と内臓と髪と、あらゆるパーツが窺えるその姿。青白い手に続いて現れたヒトガタは、全てが人間と同じもので構成されていながら人とは全く違うものであった。潰れた目玉が、脇腹の付近から半分だけ覗いている。脂肪が地面にどろりと溶けて染みを作った。 「さっさと片付けてやる! ああくそっ、直接蹴りたくねー!」 身体能力を引き上げたヘキサが放った突き込む様な蹴り。しかし、鈍重そうな見かけに反しヒトガタはまるでバネの様に跳ね上がるとその爪先を避けた。 眉を寄せたヘキサだが、それも想定済み。彼は瞬時に思考を切り替え、次は確実に当てるべくその動きに神経を尖らせる。 「大丈夫です。狙えない事はありません」 そんな彼も含め、神秘によって降りるはミリィによる攻撃の最適化シミュレート。行動のロスを最小限に減らしたその動きは、リベリスタの感覚を更に鋭敏にした。 「なるほど……見た目以上に素早い様だが」 私の糸から逃れられるか。いつの間にやら眠気を含んだ表情を吹き飛ばした那雪が指先で離れた地面に線を引く。這いずり寄ろうとしてくるヒトガタにそれは絡み、その場へと縫い止めた。 ユーディスのヘビースピアが神々しいまでの光を得、そんなヒトガタへと繰り出される。降り抜かれたそれは穂先が掠るに留まったが、肉と骨と内臓の一部を抉り取った。びちゃびちゃと、地面に何かが落ちる音がする。 「うあああやだよキモさぱねぇー!」 既に生命活動は停止しているはずなのに、表面が脈動している気がした。内臓が蠢いている気がする。騒ぎながら晴が投げた破滅のカードは肉に埋もれ、それ自体もヒトガタの一部であるかの様に飲み込まれた。 「う、うう、幾ら気持ち悪くても」 握った拳。濁った空気は無視し、吸い込んで意識を集中。巡る魔力が己の力になると信じ、目を開く。 「マッハ全開っ、直球勝負! 正義の前にはお化けすらひれ伏すものなんだよ!」 本体が出てきた事で開き直った渚が、その指先を二体の異形へと向けて言い放った。 異形は何も、答えない。 ● 温い。温い。冷房が必要な程の暑さではないのがまたはっきりしない。 冷えた風が一つ吹けばその瞬間は楽になるだろうに。 ただこの不快感はすぐに戻ってくる。まとわりつく不快感。じめつく温度。 青白い異形の手は、色の割に冷たくはなかった。 常温で置かれていた肉に指を減り込ませたような、生温い水を含んだコケに掌を突っ込んだような、鳥肌の立つ感触が伝わっただけ。 ● 肉塊が飛んだ。手首から先が飛んだ。正確にはそれは、『手の形を模した肉』でしかないのだから、失った所でまた生えるのだろう。ほら生えた。 「うわあああやだー! やだー! 何投げ飛ばしてくるって分かってるんだよもー!」 半泣きの勢いで肉片を浴びた晴が叫ぶ。飛び散った破片は弾丸の様な熱さで体を抉り、穢れで身を侵して行く。全体の量は減ったか。減ったかも知れない、けれど食らい続ければヒトガタが消えるより先にリベリスタの後衛が瓦解する。 「ほんっとにエグいな……!」 意識を動きに集中させたヘキサの足裏が、ヒトガタを踏み付ける感触を伝えてきた。ぐちゃり、みちり。ああ。ハンバーグの種をうっかり踏みつけたならば、こんな感触だろうか。気にせず、振り抜く。肉の付いたままの誰かの骨が、飛んだ。 「肉の焼け焦げる匂いってのは……何とも言いがたいね」 動物の血肉ならば、もしかしたら別の感想も抱きようがあったのかも知れない。だが、これは長閑な食欲を催すバーベキューではない。血に塗れた戦場だ。慣れてしまったのは、リベリスタとして幸か不幸か。感傷は今は不要。 付喪が呼んだ雷が、青白い手と共にヒトガタを撃つ。 と、青い手が、手招いた。 こちらへ来いと。 何の害意もないように。 ゆらゆら揺れるそれは罠。 抗う術を持っていたアウラールはその誘いを冷静に跳ね除けるが、皆が皆振り払えた訳ではない。彼の背を襲ったのは、ユーディスの光。十字に傷を刻んだそれは、彼でなければ怒りに我を忘れ、多大なるダメージを受けていたであろう。耐性を持ち、最も丈夫なアウラールへとその矛先が向かったのは幸運であっただろう。 「ま、負けないんだから……!」 意識を奪われかけた渚が踏み止まる。精神力の途切れるまで、決して休めないと決めた攻撃。 隙を窺い続け、放たれた雷撃は青白い手を強かに打ち据えた。 だが、誰も彼もが無事に立ち続けていられた訳ではない。 素早いヒトガタの動きに加え、二体の攻撃は揃ってリベリスタの強い意志を磨耗させ動きを制限した。 「やべっ……くっ!」 石として囚われたヘキサが最後の抵抗で手を翳そうとするも敵わず、ヒトガタの手に殴られてその意識を失う。前に立ちはだかっていたユーディスも、耐え切れず運命を削る羽目となった。 決して、優勢なだけではない。 それでもリベリスタは手を休めなかった。積極的な回復手段を持たないが故に、誰も彼も全力で。 付喪の雷撃がヒトガタを焼き潰した所で、戦局は大きくリベリスタへと傾く。 刃が、青白い姿を切り裂いた。切り裂いた、のだろう。 「貴方がおいでおいでと……、本当に招きたかったものは……何ですか?」 答えがないのを知りながら、ミリィが青白いその姿に問う。 喋らない。言葉が通じているのかも分からない。顔がない、表情がない。のっぺらぼうや無表情の人間に感じる薄気味悪さ。読み取れないという事は恐怖に繋がる。この顔を見てしまったものはいるのだろうか。銀色の金属に肉を抉られ筋肉を扱かれ骨を折られ内蔵を千切られる刹那に、自分を引き込む存在を見てしまった者は、いたのだろうか。 そこには何もない。 孤独も悲哀も悪意も、何もない。 誘って引きずり込んでそれで、それで? 何もない。ひょっとしたら殺意さえもなかったのかも知れない。時間になれば顔を出す時計の鳩。行為の意味を、当事者は知らない。 「如何なる思念伝承の類から生まれたかは分かりませんが……これ以上の犠牲は出させません」 運命の恩寵を削り立ち上がった事で正しく意識を取り戻したユーディスが、重ねて光を放つ。その十字は青白い姿を一瞬焼き、その姿を更に薄くさせたようにも思えた。 「慣れてない者もいるんでね、ここで倒れる訳にはいかないんだ――穢れよ消えろ!」 アウラールの光が焼く。神聖な光が、不浄を焼き焦がす。 叫ばないはずの異形が、大きく揺らめいた。 「悪趣味もここまでだ」 那雪が言葉と同時に放った糸が、その透けた姿を貫いて――一度大きく震えた青白い手は、そのまま地面に溶ける様に消えて行く。 後に残ったのは、静寂。 それと生温い風。 しばしの後、渚が息を吐いてその場に座り込む。 「はー……。よかった、お化けいなくなったー……」 「……これで、ギロチンさんも、嘘吐きにしてあげられた、かな……」 そんな彼女の横で、先程までと打って変わって口調を緩めた那雪がこくこくと頷いた。 付喪が笑って座り込んだ渚の肩を叩く。 「あの子も嘘ばっかり吐くからねえ、ほら、お化けなんて嘘だっただろ?」 笑うその声に、ミリィが僅かに唇を上げた。 嘘。これからの本当は、リベリスタの行動によって嘘に変わった。 嘘吐きの手伝いをしたのならば、きっと共犯者の嘘吐きだ。でも。 「……悪くはないかもしれません……ね」 呟きを聞きとめたものは、誰もいない。 アウラールに肩を抱えられながら、ヘキサが排水路を覗き込む。そこに、この意味の分からない誘いの原因があるのかと覗き込む。覗き込む。 そこにはただの穴があるだけだった。コンクリートで固められた、ごく普通の排水路。どうしてヒトガタが収まっていられたのかも分からない様な、そんなサイズの。 底には僅かばかり、水が溜まっていて――覗き込んだ彼の顔が、落ちてきた水滴の波紋で歪んだ。 ああ。 ようやく、雨が降ってきたらしい。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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