● それは、言うなれば、リベリスタ達の知る『鯨』に似ていた。 しかしその大きな口に並ぶ歯はトガリ尖って牙の様。その大口は身体の半分すら占める巨大な顎。 鰭は二対四枚、身の丈程もある。 そもそもその身の丈が問題であった。 見上げる程に大きい。尾鰭で殴られればそれだけで骨が折れそうな体躯をしている。 それが荒れ果てた荒野を泳いでくる。 ざざ、ざざざざ。 小さな個体を引き連れて、牙をもつ顎は獲物の気配に、まるでにたりと笑っているようだった――― ● 「……おや、土煙が。竜巻ですかね?」 『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)が何気なく呟いた言葉を聞いて、フュリエの族長シェルンが、数人のリベリスタ達を呼び寄せた。 「今回はその事についてお話があります」 シェルンは静かな口調で続けた。 交渉に訪れたリベリスタ達が遭遇した巨大なミミズのようなバケモノの事。 この世界はそう言った『巨獣』が今や荒野を闊歩し、暴れまわっている事。 「そういった巨獣達はただただ暴れまわり荒野を広げ、時に私達フュリエの命すら奪っていきます。この巨獣もその例にもれずとても獰猛で、生きとし生けるもの、全てを食べようとする―――貴方がたが見た土煙は、この巨獣が砂の中から、息をする為に吐きだした噴気でしょう」 しかし識別名称が無ければ話が進みにくい。様相を聞いたリベリスタの一人が提案すれば、シェルンもそれに倣って、ソレを『砂鯨』と呼ぶ事にした。 「そして迫ってきているのは砂鯨、単体だけではありません」 聞けば子供の様な小さな個体と、そのお零れに与ろうとしてか別種の個体もつき従って来ているらしい。そちらは、カジキマグロをもっとスリムにして鰭を大きくしたようなイメージだった。とりあえずそちらは『砂カジキ』とでも呼ぶ事にしたリベリスタ達。 そうしてシェルンは橋頭堡の更に北を指し示した。 砂鯨達は北の荒野からこの橋頭堡を目指して来ているらしい。 拠点を守るべく、この世界で暴れまわる巨獣の暴挙を阻止するべく武器を手に取ったリベリスタ達にシェルンは静かに告げた。 貴方達の力を信じています、と。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:シマダ。 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月31日(火)23:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●暴食の砂鯨 『歩くような速さで』櫻木・珠姫(BNE003776)の目の前に、普段慣れ親しんでいるものとは違った景色が広がっている。 「ファンタジックな異世界ラ・ル・カーナでの初仕事。不謹慎だけどちょっとワクワクするね」 ボトム・チャンネルとは別の階層に座す世界、ラ・ル・カーナ。 今日の彼女達の仕事は、そこに住まうフュリエ達を悩ませる巨獣の討伐であった。 「異世界での初の戦闘です。まずはこの世界の法則を実戦で検証しなければなりません」 星の位置や、風水も大きく違うだろう。……鬼門も、北東ではなく西のような気がする。 かの赤い暴れ者達の集落があるであろう方向をちらりと見やりながら、『下策士』門真 螢衣(BNE001036)は冷静さを崩さないながらも胸の内で興味の炎を燃やす。 「こちらの世界の常識が通じない部分も、もしかしたらあるかもしれませんね。何が起こってもうろたえないようにしましょう」 さすがに今日の相手である砂鯨達が、空を飛んでいって逃げたりはしないだろうが。……しない、はずだ。 不安を抱えつつ、『24時間機動戦士』逆瀬川・慎也(BNE001618)も歩みを進めていく。 「橋頭堡に近づけるわけにはいきませんし、ここで食い止めます」 「シェルンさまのご期待に応えたいわ。異世界の人たちとの間に信用を築く、貴重な機会だと思うの」 『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)の頼もしい言葉に、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)も頷く。 「砂漠を泳ぐ鯨とカジキとは興味深い生態系ですね。海のないラ・ル・カーナでは、砂漠が海の代わりなのでしょうか」 次は釣竿を持ってくるのも良いかもしれない。そう思う『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)の視線の先には、見渡す限りの広大な砂の海が続いていた。 飛行し索敵をしていた彼は、その砂細工の海原の僅かな異変も見逃さない。 青い瞳が捉えたのは、砂の下をうごめく何者かの気配。 未だ姿は見せぬが、その正体には察しがつく。今日の獲物である四体の巨獣。全てを食らう暴食達だ。 その証拠とばかりに、ヴィンセントが橋頭堡にて見張り中に見た土煙と同じものが、砂原から勢い良く上がった。 リベリスタ達の気配を察した巨獣達は、『ご馳走』に歓喜するかのごとく泳ぐ速度を上げていき、ついにその姿を現す。 「何というかアレだな。言って良いのか悪いのか」 まさに巨獣と呼ぶに相応しい巨大な体躯に、『足らずの』晦 烏(BNE002858)は呟く。 「今回の仕事(ヤマ)はノリとしちゃぁ、一狩り行こうぜってアレだよな」 「やっぱ獲物ってーなると、デカイほうが狩り甲斐があるってーモンですね、うむ」 烏の言葉に続いた『獣の唄』双海 唯々(BNE002186)は、二本のナイフを構えた。 「んでもって、ドッチが狩人で獲物か……確り連中に教えてやるですよ」 それに倣うように、唯々の足元から伸びた影も戦闘の体勢を取る。 ――さぁ、狩りを始めよう。 ●敵は砂中にあり 影の援護を背に、唯々は走る。その速さに、砂鯨達は追いつけない。 彼女には、ある一つの狙いがあった。驚異的なバランス感と、足が面接していさえすれば壁だろうが天井だろうが歩く事が出来る彼女だからこそ出来る事。 「何でも足場にして移動回避に使うのがイーちゃんですし?」 今日の相手は、悠々と泳ぐ鯨とカジキ達。巨大な体躯に見合い、その背中もまた広大だ。 「つまり何が言いたいかというと、その背に乗って波乗りしてーです」 ……但し進むのは砂の海ですがね! 砂カジキに死の爆弾を投げつけながら、唯々は『その』チャンスを伺い始める。 「異世界でもやることは同じだよ。いつも通りに頑張ろう」 珠姫が効率の良い攻め、そして守りの動作を仲間達に共有させた。 異世界にワクワクしているのは事実。けれど、ラ・ル・カーナと自分達の世界の二つの世界の命運がかかっている事を、彼女はしっかりと理解している。 「だから仕事はきっちりこなす。言うまでもないことかもだけどね」 敵を見据える珠姫の瞳には、強い意志が宿っている。今の彼女はただの少女ではない。正義のために戦うリベリスタなのだ。 そのリベリスタ達の今日の相手は、まさに巨獣と呼ぶに相応しい、大きな鯨達。 近くで見ると、その巨大さは更に際立っていた。ただそこにあるだけで、威圧してくるかのような存在感。 (こ、怖くなんてない。おいしそうと思えば怖くない……) 己に言い聞かせながら、ニニギアは周囲の魔力を自身へと取り込む。 抵抗する素振りを見せる獲物達に、巨獣達も黙ってはいない。 小さいほうの砂鯨が、早速だとばかりに奇襲を狙うため砂へと潜った。一体のカジキもそれに続く。 もう一体の砂カジキが狙いを定めたのは、最も手近にいた唯々だ。剣のように鋭い顎が、彼女に向かい振るわれる。 持ち前の速さにより直撃は免れたものの、僅かにその体を顎の剣がかすめた。しかし、この程度の事では冷静な唯々を動じさせる事は叶わない。 ただでさえ素早い彼女の背に、温かな羽が携えられる。イスタルテが、皆に小さな翼を授けたのだ。 そして、今回のメインディッシュ。巨大な砂鯨が、その猛威を振るう。 近場にいたリベリスタ達を吹き飛ばさんとばかりに、その巨体が己の体を武器にし突っ込んできた。 それは決して軽い威力ではなかったのだが、リベリスタ達は倒れずに踏みとどまる。 星のような光が空から降ってきたのは、その直後だ。 飛行していた烏が放った光弾が、砂カジキ達を射抜いた。攻撃を与えながらも、烏は砂の盛り上がりや音に注意している。 ヴィンセントの視力の優れた瞳もまた、砂の微妙な流れを読んでいた。小さな鯨達が潜った時からすでに、彼はその行き先を探り続けている。 不意打ちに警戒しながらも、ヴィンセントは地上の砂鯨達へと連続射撃を仕掛ける。飛び交う蜂のごとく、弾丸は砂鯨達を射抜いた。 螢衣の研究に対する興味は尽きない。巨獣を目の前にし、新たに様々な疑問が浮かんでくる。 「けれど、今は砂鯨に集中しましょう」 倒した後の死体からでも、調べられる事は多いだろう。今回の戦闘記録も、無論研究用に持ち帰る予定だ。 展開されるは刀儀陣。螢衣の周りに、道力を纏った剣が舞い上がる。 使い魔である鴉を空に放ち、共有された視力で戦場を注意深く見渡し、奇襲に備える事も忘れない。 唯々が再び、カジキに死の爆弾を植え付け炸裂させる。リベリスタ達の猛攻は、確実に巨獣達の体を蝕んでいっている。 攻撃だけではなく、回復も抜かりがない。上空にいたニニギアが歌を紡ぎ、リベリスタ達の傷を癒した。 仲間達と声を掛け合いながら、イスタルテが地上にいる砂カジキ達を聖なる光で焼き払う。 後衛の盾となるように、そして鯨達の注意を少しでも自分に向かせるように、イスタルテは意図的に足音をたて移動している。 それに誘われるように、潜っていた小鯨が顔を出す。大きな鯨に比べると小さいとはいえ、小鯨の牙も相当な鋭さと巨大さを持っている。その歯の刃が、イスタルテに襲いかかった。 警戒していたとはいえ、奇襲を狙ったその攻撃の威力は相当なものだ。けれど、イスタルテは持ち前の素早い身のこなしにより直撃を避ける事に成功する。 潜っていなかったほうの砂カジキが、その鋭い上顎で慎也の事を貫く。 続け様に、大鯨が前衛にいる者達に順に咬み付いていく。鋭い牙が、リベリスタ達の体を血の色で彩る。慎也の体を致命的な傷が蝕み、彼はその場にくず折れてしまう。 残りの一体のカジキは、まだ砂に潜ったまま出てこない。その姿を、千里を見渡す珠姫の眼は捉えた。 「そこ!」 閃光。珠姫の放ったフラッシュバンが、砂の海原のとある位置を指し示す。それが、敵の位置をリベリスタ達が把握するための目印。 衝撃に砂中の巨獣は慌ててその場から泳いで離れようとするが、リベリスタ達はそれを許さない。 「釣り出します。こっちが食べられないように注意してくださいね」 ヴィンセントの愛用のAngel Bulletと、烏の二四式・改がほぼ同時に構えられた。 二挺の銃から放たれた複数の光弾が、珠姫が示した場所に降り注ぐ。 受けた衝撃に耐え切れず砂カジキは地上へとその身を踊らせる。 ――今こそ、好機。 螢衣の放った鴉が、その無防備な体を射抜く。 他のリベリスタ達の猛攻も続き、抵抗する事すらも出来ず砂カジキは動かなくなる。 倒すべき暴食の数は、あと三つ。 ●砂の中の鯨、荒野しか知らず 巨獣にとって、この荒野は海だ。潜り、泳ぎ、自由に行き来出来る彼らの海。 比べて、リベリスタ達はまだこの世界へとやってきたばかり。知っている事よりも、知らない事のほうが多い。 けれども、不利とも言えるその状況にも関わらず、彼らは屈強に立ち向かう。地形ではあちらが有利だろうが、その分をリベリスタ達は仲間と協力し合う事で埋めていく。 砂の中に逃げようが、珠姫には全てお見通しだ。声を掛け合い奇襲に備え、唯々とヴィンセントが果敢に攻め、烏は獲物を逃さない。 出来た傷はニニギアとイスタルテ、そして螢衣が癒す。回復の要であるニニギアが奇襲を受けぬよう、ヴィンセントは彼女をかばうような位置取りを常に心がけている。 もう一体の砂カジキも、難なく討伐する事に成功した。隙のないリベリスタ達は、砂鯨達を確実に追い込んでいる。 あれから再び砂へと潜ってしまった小鯨を、珠姫の視線は逃さずに追う。 「ココですか、ココを狙えばイイんですか? うりうり。爆弾ドッカーン!」 彼女の目印の閃光を追うように、唯々の爆弾が炸裂した。惜しくも威力が足りなかったのか小砂鯨は顔を見せなかったが、衝撃に動揺したのか砂の動きが僅かに変わる。 傷ついた仲間の傷を、ニニギアの癒しの息吹が包み込んだ。どこか温かなそれがリベリスタ達の体を癒し、ニニギアの励ましの声が心を癒す。 「そっちに行ったよ!」 潜っていた小砂鯨が烏に狙いを定めている事に気付いた珠姫が、声を張り上げる。 勢いよく飛び出してきた小砂鯨が、烏の体に鋭い牙で噛り付く。それは確かに、大きな一撃となった。 しかれども、烏はそれをチャンスへと変える。 小砂鯨の間近で響く、銃を構える音。それに小砂鯨が気付いた時には、もう遅かった。 至近距離から放たれた烏の一撃は、巨体の命すらも射抜く。 ついに残すは、巨大な大将だけだ。イスタルテが癒しの歌声を奏で、烏の傷が塞がれる。 大砂鯨は、逃げ道を探ろうと砂中へと潜ろうとする。しかし、それをみすみす許すリベリスタ達ではない。 ヴィンセントの速撃と螢衣の式が、その後を追う。 砂の動きを注視し、珠姫の合図も頼りに、リベリスタ達は砂中の敵を狙い撃つ。 見事砂中の敵を捉えたのか、大鯨を地上へと引きずり出す事に成功した。この上ないほどの、チャンス。 「大鯨をイーちゃん号呼ぶことに決めたです。何って決まってるじゃねーですか。イーちゃん号はイーちゃん号ですし?」 そしてこれは、唯々にとってまた別のチャンスでもあった。 「今こそアタックチャンス……もとい組み付きチャンスってトコですかね、うむ」 銀の髪の少女が、大砂鯨の背中へと飛び乗る。 一度張り付いてしまえば、こちらのもの。そう簡単に振り落とされる気など、唯々にはない。 「進めーイーちゃん号っ! って、こら。そんな暴れんじゃねーです。危ねーじゃねーですかっ! そりゃーまぁ、無抵抗で死にてー思うわけねーと思うですが、うむ」 大砂鯨が暴れるが、しっかりとその背に張り付いている唯々を落とす事は出来ない。 波乗りを楽しみながらも、器用にバランスを取りつつ唯々は攻撃を撃ち込んでいく。 「きっとあとちょっとで倒せると思うから」 ここで逃がすわけにはいかない。もし逃げられそうになった時は、しがみついてでも止める。 覚悟を胸に、ニニギアは魔力の矢を撃ちこむ。 珠姫も、無防備なその体を真空刃で容赦なく切り裂いていった。 「行かせるわけにはいきません」 目にも留まらぬ速さで、イスタルテの放った弾丸が大砂鯨の噴気孔を狙い撃つ。 ヴィンセントの精密な射撃と、烏の速い一撃が鰭という急所を撃ち抜いた。鰭には傷が出来、大砂鯨の逃走を阻害する足枷となる。 それを追うかのように、空を飛ぶ影。その動きは正確であり、確実。螢衣の放った式である鴉が、真っ直ぐと大砂鯨を射抜いた。 軽快に大鯨の背の上を移動していた唯々が、鯨から飛び降りる。 その瞬間、辺りに響く爆発音。彼女が対象に植えつけた爆弾が炸裂する音。 それが、リベリスタ達の勝利を知らせる鐘の代わりとなった。 自身も僅かに爆発の衝撃を受けながら、唯々の目はイーちゃん号の最期を捉える。 巨獣は最後に一度だけその背から砂を吹き出し、それきりぴくりとも動かなくなった。 ●優しい暴食 静かになった荒野に、巨体は横たわっている。 先程までの騒々しさから一転、砂の海にはリベリスタ達の話し声だけが響いていた。 「……で、今丁度お昼時ですが、こいつ等って食えるですかね?」 もう動かなくなってしまったイーちゃん号から興味は失せてしまったのか、どうでもよさそうな声音でそんな事を呟く唯々。 そんな疑問を突きつけられて、食いしんぼ…………食文化を大切にする好奇心旺盛なリベリスタ達が、黙っていられるはずもない。 「異世界で知らないものを食べないようにって日頃から念押しされてるのだけど……」 自身を気にかけてくれる恋人や友人の姿を脳裏に浮かべながら、ニニギアは戸惑いがちに呟く。 けれど、彼女は閃いた。閃いてしまったのだ。 「その場じゃなくて、持って帰ってから食べればいいんじゃないかな!」 ……だめ?としゅんとしながら、ニニギアは名残惜しそうにカジキ達の方を見つめる。 あわよくば、ちょっとだけでも、カジキステーキを食べてみたい。 『大食淑女』のその純粋な思いを、誰が大罪だと責める事が出来ようか。 「私も、研究材料として橋頭堡に持ち帰りたいです」 同じく、鯨達の亡骸を興味を捨てきれぬ面持ちで見つめていたのは螢衣だ。 収納するために、すでにアクセス・ファンタズムを取り出している。準備は万端のようだ。 「食欲方面の話題になるのは仕方がないですね。フロンティアを切り開く原動力は常に人の欲望ですから。でも、大丈夫でしょうか。毒とか気をつけてくださいね」 その前に調査をしておいたほうが良いかもしれないと勧めるヴィンセントも、どうやら彼女達を止める気はないらしい。 死体に口なし、元々目もなし。文句を言う者一人もなし。 イーちゃん号達の命運が、決まってしまった瞬間であった。 新しい煙草に火をつけながら、烏は肩をすくめる。 「やれやれ、暴食ってのは最終的にどっちの事を指し示す事になったやらだ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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