●恐怖の市街地蠅だらけ作戦! 市原市役所上空100mを、フィクサードの集団が飛んでいた。 頭と脚はハエ。背中に昆虫的な羽を生やし、器用な機動で飛行するビーストハーフである。 常識的に考えて、これがまともな人間に見える筈はない。控えめに見ても怪人。 そう……『怪人』なのだ。 「目的地はまだか」 「はい……もう暫くかかるかと」 先頭を飛ぶ、一際大柄なハエ怪人。彼がリーダーなのだろう、奇妙なカプセルを持った怪人がやんわりと頭を下げた。 「待ち遠しいものだな。我がストーン教で開発した毒蠅の卵が、あろうことか住宅街で次々とかえる様を見られるのか……」 「市街地は混乱の渦に陥ること間違いありません。クッククク」 含み笑いを漏らしながら、怪人はカプセルを揺する。 「分かっていると思うがカプセルは大事に扱うのだぞ。万が一空気中で破壊されたら中の卵がかえることなく全滅してしまう」 「承知しております。誰にも邪魔はさせますまい。もし邪魔が入ったとしても、ベーゼル様のお力があれば……」 「然様。吾輩の力があれば、並の者どもなど敵ではない」 くっふふふう、と笑みを浮かべ、彼らは一路市街地上空へと向かって飛んだのだった。 ●誰かの思い出がある場所 アイワ・ナビ子(nBNE000228)はうかない顔で天井を見ていた。 「昔さあ、子供のころ、よく駄菓子屋さんに通ってたのね。看板とか薄汚れてて全然読めなかったんだけど、近所の子供はみんな通ってたの。当たり前みたいに」 ストーン教というフィクサード組織が存在する。 バスジャックや店強盗などを働くケチな組織だったが、最近になって活動を活発化させ、通常ではありえないような奇妙なビーストハーフまで現れていると言う。 何らかのアーティファクトによるものと思われるが、記憶の改ざんや凶暴性の上昇など非常に問題が多く、彼らはこの特殊なビーストハーフを『怪人』と呼んでいる。 「何かかうとさ、必ず五円チョコ入れてくれんの。オマケって言って。でもアレまずくてさ、嫌いだったんだ」 彼等は市街地に有毒物質を仕込み、民を混乱させることを狙いとしている。 どこかに上陸されたらアウトだ。 上空を移動している今襲撃し、彼等の企みを阻止して欲しい。 「でもあの店……中学生くらいだったかなー、無くなっちゃって。五円チョコ食べるとさ、今あのおばちゃんどうしてるのかなって、思い出したりすんの」 ハエ怪人の数は10名。 個体ごとにブレはあるが、リーダーともども大体同じ程度の戦闘力を有している。 彼らは怪人化の一環として飛行スキルを取得しているようだ。 おそらく、激しい空中戦になるだろう。 「そういう思い出ってさ、誰にでもあると思うんだよねえ。今壊されるっていう街にもさ、そういう場所、あると思うんだ」 だが注意してほしい。 リーダーのハエ怪人『ベーゼル』には隠された特殊な強化能力が備わっている。戦いの終盤はこれによってかなり熾烈なものになるだろう。 だが信じている。 君達なら、勝てると。 「知らない人の知らない街かもしんないけどさ、守ってあげて、くんないかな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月09日(月)23:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●知らない人の、知らない街。 光の翼を広げ、『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)は悠々と空を舞っていた。 「迫るぅーフィクサード、神秘の軍団ー、世界を狙う黒い影ー、神秘の秩序を守るためー、ゴーゥゴーゥ、リベリィスター、敵ーはつーよーいー」 「ねえ、後半の辺り、別のものになってない?」 「え、そっすか? おっかしいなあ、刷り込みかなあ」 「まあ何でも良いけど」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は広い額に手を当てた。 キッと眼鏡を光らせる計都。眼鏡に、アンナの赤い金属製流線ボディが映った。 「オデコ委員長アンナは機甲姫竜である。彼女にコアを託した軍団は異界の合衆国軍である。マジェスティックエンジェルは今日も世界の平和の為にストーン教と戦うのだ」 「やめて!」 高速で飛んできた本が、計都の額に命中した。 落っこちていく本を途中でキャッチして、『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)は静かに上昇を続ける。 眼下に広がる街を見た。 「知らない人の知らない街、ですか。大いに結構。親父なら『上等だ』と言うでしょうね。なら俺も言いましょう、『望む所だ』と」 視線を外して空を見る。 この街に毒蠅の卵を撒こうとしている正真正銘悪の軍団『ストーン教団』。その先兵ともいえるハエ怪人はまだ訪れていない。先回りできたとみていいだろう。 「しかし教団とは一体……名前からして特別な石でも祀っているんでしょうかねえ」 「なんて名前だったかしら、素っ頓狂?」 「ははは、いいですねえストーン教だけに。ぷぷっ」 口を押えて笑う守をよそに、『テンシサマ』夜乃神 璃杏(BNE003413)が大鎌を野球のバットよろしく素振りし始めた。 「それで、でこちゃんは関係者じゃないの? クロストンだし石持ってるし」 「誰がでこちゃんよ。関係ないわ。無いと思うんだけど……んー」 「なんだ煮え切らないな。似たような事件でも体験したか」 メイスを首の後ろに引っ掻けるようにかつぐ『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)。 「それより今回だ。ハエのビーストハーフってのは珍しいが、どうもそれ以上の何かになってしまったらしいな」 「でもハエはハエでしょ、ハエ叩き。私昔ね、ハエ叩きの上手って褒められたものよ、マリペイだけど」 「なんでもええがな」 煙草を噛み潰し、『√3』一条・玄弥(BNE003422)は眉間にしわを寄せた。 「文字通り五月蠅いもんが怪人だなんて勘弁してくだせぇや、ぷちっと潰してしまいにしやしょ」 ぱたぱたと手を振る玄弥。『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が無駄に螺旋飛行しながら両手を広げた。 「そうかな、怪人と戦うなんてヒーロー的には心躍るシチュエーションだろ」 「ふむ、魔法少女的にも心躍るぞ。怪人と空中戦」 『暗黒魔法少女ブラック☆レイン』神埼・礼子(BNE003458)がビームサイズの柄に腰掛けるようにしてふわふわ飛んでいる。 額に手を翳してみると、やや遠くから飛来するハエ怪人の集団が見えた。 「まあ、そろそろ来るようじゃし……モードチェンジと、行こうかの」 ●阻止せよ、毒蠅地獄作戦! 「まじかる☆ブラックチェーンジ!」 光の翼を大きく広げ、礼子は目の横で傾きピースするポーズを取っていた。 流れる動きでびしりと指をつきつけられ、ハエ怪人たちは面食らった。 途中に敵(リベリスタ)が居ただけでも充分警戒心が煽られたと言うのにだ。 「待ちなさいハエ怪人。君達の好きにはさせない! 暗黒魔法少女ブラック☆レインが相手だよ! 街の平和はぁ――ボク達が守る!」 「誰このひと」 振り返って彼女を指差す夏栖斗。璃杏とアンナが小さく首を振った。 あ、空気を読む場面だここ。 そう思った夏栖斗はがちがちとトンファーを鳴らして身構える。 「そーゆーこと、正義の味方とーちゃくってね。ご機嫌麗しゅうハエ怪人」 「むうぅ……」 ハエ怪人のリーダー、ベーゼルはハエ特有のわしゃわしゃとした口を小刻みに動かした。 「『産まれたままの闘士』に『エンジェル』……アークに間違いないな。我々の計画に気づいて邪魔をしに来たと言った所か」 「だとしたら?」 顔の前でトンファーを水平に構える夏栖斗。 ほぼ同時に、周囲のハエ怪人たちが一斉に襲い掛かって来た。 「薙ぎ払うのみ。ストーンの力を得た教団の力、いまこそ示すのだ!」 「「イエスボス!!」」 「そうでなくっちゃっ」 突っ込んできたハエ怪人たちの中を高速で螺旋貫通する夏栖斗。 トンファーに弾かれ、ハエ怪人たちの態勢がブレる。 「はい、狙いやすい体勢をありがとう」 体勢を立て直そうとじたばたするハエ怪人たちに、璃杏が魔閃光を叩き込む。 「って、ああ! デスサイズの素振り無駄になってるじゃないの!」 「し、知るか! 貴様の事情など」 「これでトドメだよ! ブラック☆スター!」 礼子が独特のポーズから暗黒を発射。 先頭のハエ怪人がひゅるひゅると墜落を初め、他のハエ怪人たちも思わず目を覆った。 腕をぶんぶんと振り回すベーゼル。 「ええい何をしている! 貴様等の実力はその程度ではない筈だ、訓練を思い出せ!」 「「イ、イエスボス!」」 きりりと体勢を整えたハエ怪人たちが、璃杏たちへとそれぞれ組みつきにかかる。 両手に小太刀を握ったハエ怪人の攻撃を、正面からデスサイズで受ける璃杏。 「あっと、気を使ってもらってどうも!」 「クク、礼は貴様の命でどうかな?」 「冗談!」 蹴飛ばそうとするも膝でガードされ、ぐいぐいと押し込まれる。 「まずい、フォローしますよ!」 守が銃を連射しながら突撃。 「牙無き人の明日の為、装着!」 全身を覆う黒い装甲。どこからか現れたライオットシールドとハエ怪人の槍が激突。 「ムッ、貴様は犬吠埼! アカマダラ様の仇!」 「心当たりのない名前ですね……あ、あの蜘蛛の人ですか?」 「不敬だぞ、おのれぇ!」 守たちとすり抜けるようにして、ハエ怪人が突撃していく。 アンナは胸部中央のレンズから青白いビーム射撃を続けるが、一向に当たる気配がない。 「くっ、ちょこまかと……意外とマトモに指揮がとられてる!」 「このベーゼル様にこの程度の練度で挑みかかったのが運の尽きよ。一気にトドメをさしてしまえ!」 「「イエスボスッ!」」 数人のハエ怪人が軽機関銃を取り出し、アンナたちに向けた。 M1。トムソン銃やシカゴタイプライターと呼ばれるアメリカ製の古い銃で、呼びやすさからトミーガンとも呼ばれる。 四十年以上前の骨董品だが、神秘武器に年代など関係ない。 驚くような精度でスターライトシュートを連発してきた。 「つっ……!」 顔を庇って歯を食いしばるアンナ。 「『エンジェル』からはどうも嫌な臭いがする。さっさと落としてしまえ!」 「イエスボス!」 防御を固めようとするアンナに、槍を構えたハエ怪人が襲い掛かる。 そこへ、玄弥が遮るように割り込んだ。 「誘蛾灯に群がるハエどもがぁ」 振りかぶるように暗黒を発射。 手元を狂わせて槍を取り落しそうになるハエ怪人。 その時、義弘がハッと瞠目した。 普通に見ていただけでは気づかないだろう。 しかし義弘の目には、ハエ怪人の懐に他とは違う微妙な『ふくらみ』があるのを発見していた。 「見つけたぞ。カプセル持ちは……お前さんだな!」 翼で高く上昇。そこから一気に飛行を停止し、自由落下と共にメイスを叩き込む義弘。 あまりの衝撃に、ハエ怪人は防御が遅れた。ただでさえ槍を取り落しそうになった直後なのだ。無理もない。 ハエ怪人は脳天に強烈な打撃を食らい、ふらふらと落下を始めた。 「まずい、待ちに落ちる!」 「任せるッス!」 直滑降でハエ怪人に追いついた計都が、相手の身体をぱたぱたまさぐってカプセルを抜き出し、空中でぐしゃりと握り潰した。 「カプセル破壊、完了ッス!」 「な、なにいいいいいいいい!!」 ●エリューションビーストハーフ・ベーゼル! 「き、貴様よくも……!」 握っていた小柄をがたがたと震わせ、ベーゼルは怒りに震えた。 「『この程度の連中なら気づかないだろう』とでも思ったか? お前さんの知ってるような『アークのリベリスタ』が、本当にこんなもんだと?」 「ぐ、ぐぬ、ううううううっ……!」 ベーゼルの手の中で、武器がばきりと砕け散った。 武器が脆かったのではない。 ベーゼルの握力が急激に強まったのだ。 「頃合いだな!」 すかさずジャスティスキャノンを叩き込む義弘。 そのまま周囲を回るようにジャスティスキャノンを連射しつつ引き付けにかかる。 「そろそろ手加減抜きでいいぞ、夏栖斗」 「あんがと、手加減っつーのはストレスたまるもんだぜ!」 それまでトンファーで律儀にハエ怪人と殴り合っていた夏栖斗が、急に虚空を連発し始めた。 瞬く間にハエ怪人が血祭りにあげられる。 「貴様等、わざと手を抜いていたのか!」 「そういうことです。すみませんね、良い子はマネしないで下さいよ」 守が銃を高速連射しながら大回転。 周囲三百六十×三百六十度のハエ怪人たちが悉く悲鳴をあげた。 「ベ、ベーゼル様! すみません、我等は先に……!」 次々と墜落して行くハエ怪人たち。 ベーゼルは怒りに震えた。 「お前達! おのれアーク、一度ならず二度までも我等を邪魔し、ヴィッカース様の志をも折ったアーク……許せん、許せん許せん許せん! もはやこの命尽きるとも、貴様等を地獄に葬ってくれるわ!」 両腕を広げるベーゼル。 その時、ベーゼルから青白い光が迸った。 光の衝撃で弾き飛ばされる義弘。 「なんだ、自己強化が来るのか!」 光が収まり、目を覆っていた手をどける。 そこにあったのはなんと、大きな外殻に身を包み、見違えるような姿にメタモルフォーゼしていたベーゼルであった。 赤と白のカラーリングがされたそのボディは、どこか『巨大な蠅』を彷彿とさせる。 「死ぬがいい、アークよ! 我が怒りを受けて!」 巨大な腕を振りかぶるベーゼル。 アンナは手で覆うように眼鏡を直した。 「ようやく全力出したわね。出番よマジェスティックコア! 貴方の輝きを見せてやりなさい!」 途端、彼女の胸部装甲が竜の瞳の如く開かれ、内側から青白く輝く十二面体が浮かび上がった。 「それは喪われしコア……いや、もはや別物か。貴様等ごと叩き潰してくれる!」 襲い掛かるベーゼルに、アンナは神気閃光を発射。 凄まじい光が浴びせられるが、ベーゼルはそれを突き破ってアンナにパンチを繰り出した。 「砕け散れい!」 「させるかあ!」 ギリギリのところで間に飛び込む義弘。 腹にパンチを食らい、派手に血を吐いた。 「祭さん!」 両サイドから守と夏栖斗が殴りかかる。 体当たりにも似た強烈な土砕掌とヘビースマッシュ。だが、ベーゼルの外殻に若干のヒビを入れただけに過ぎない。 「ストーン教だかなんだか知らねぇけど、いったい何のつもりだ!」 「うるさい邪魔だァ!」 無数の補助腕を振り回し、夏栖斗たちを薙ぎ払う。 そこへ、頭頂部から璃杏が急降下。デスサイズを叩き込み、バキリと殻にヒビを入れる。 「小娘、貴様もか……弱いふりなど、このベーゼル様をナメてくれたな!」 「えーと、ほらあれよ。正義の心があんたを倒せとアレするから、私が本気出したみたいな?」 「戯言を!」 振り込まれた腕を奇跡的な跳躍で回避。璃杏は翼と腕を大きく広げ、再びベーゼルに大鎌を叩きつけた。 「まあ茶番は終わりってことで。全力で狩らせてもらうわね!」 「そうそう、ボクも本気出しちゃうよ! ブラック・モードチェンジ!」 礼子が無数の闇武装を展開。ベーゼルの補助腕とそれぞれの武装ががちがちと組合い、まるでレスラー同士が両手を掴み合うような姿勢になった。 パワー勝負は分が悪い。だが相手の隙は作れた。 「必殺、マジカルブラック☆カリバー!」 「ぐおっ!」 ソウルバーン発射。ベーゼルの顔面に命中し、彼の全身をよろめかせる。 そこへ、玄弥が素早く背後から組み付き、クローを思い切り叩き込んだ。外殻のヒビを突き破る。 「爺には荷が重いかと思いやしたが……とんだザコやなぁ」 突っ込んだうでをえげつなく捻じる玄弥。 解放された闇がベーゼルの内側から吹き出しおもむろに破裂。小さく身体を丸めたベーゼルだけが放り出された。 「そんな、この力が、通用しないなんて……だ、醍五様ああああああ!」 飛行する力すら失って真っ逆さまに落下していくベーゼル。 もはや彼の命もここまでと悟って、玄弥は再び煙草を咥えた。 「奢れるものは久しからず……蠅の命も短いもんでさぁな」 ●悪しき軍団、ストーン教団の影! 戦闘を終えたリベリスタ達。 夏栖斗と璃杏は青葉の森公園という広大な敷地の一角に着陸した。水鳥観察台と呼ばれる、昨今あまり使われなくなった建物である。 「お仕事完了っと」 「敵の全滅も確認っと」 ストン、と両足を地に付ける二人。 「うわっ、なんだか海水浴の後みたいなフラフラ感が残ってる!」 「本当ね。飛ぶのって海水浴に似てるんだぁ」 「え、リアンって普段飛ばないの? フライエンジェなのに?」 「鳥みたいに腕ばたばたさせるのって、すごい疲れそうって思わない?」 「……あ、ちょっと納得」 今回、思ったよりも無事に終わって夏栖斗も若干気が抜けていた。 既に着陸を終え、一服に入っていた玄弥が煙草の煙を上げながらぺちぺちと膝や頬を叩いていた。 「最近は蚊が多くなって、蠅だの蚊だの面倒なこって……殺虫剤でも空からばらまきやしょうかねえ」 「また物騒なことを……」 何の様式美か、ビームサイズに腰掛けたままゆるやかに着陸する礼子。 「ねえあのさ、あのキャラって素でやってるの?」 「素どころか本気じゃが?」 「そ、そうなんだ……」 目に殺意みたいなものが宿っていたので、夏栖斗は口笛を吹いて空を見上げた。 「おいおいどうした、戦闘のムードが抜けきらないのか」 後からアンナたちと一緒に降りてきた義弘が、メイス片手に近づいてきた。 「それにしても、随分すっぱりと終わったもんだな。ん、どうしたアンナ」 「……いや、その」 武装を解除していつもの制服姿に戻ったアンナは、顔を覆ってぷるぷるしていた。 ぽむんと肩を叩く守。 「大丈夫ですよ、あのコスプレは似合ってましたから」 「せいっ」 分厚い本で頭を殴るアンナ。もんどりうって倒れる守。 「(それもあるけど)そうじゃなくてっ。あれだけ思わせぶりな情報がチラチラしてたのに決定的なことが何もわかってないっていうのがあああああもおおおおおおっ!」 何を思ってか意味不明な独り言を喚きながらわしゃわしゃと髪をかきまわすアンナ。 守はゆっくりと顎を撫でた。 「知らない名前も幾つか出てきましたし、アンナさんのコアにも反応を見せていましたが……どうも推測の域を出ませんからねえ。決定的な情報でもあればいいんですが」 「……フッ」 と、そこへ。 計都がここ滅多に見せないようなキリッとした顔で(強いて言うなら美化した顔で)スライドインしてきた。 「戦闘パートになってからこっち、あたしの出番がめっきり無かったのは何故だと思うんスか」 「え、影の薄さじゃ……なさそうですね」 いきなり圧倒的な存在感を放ち始めた計都に、守はからかい言葉をひっこめた。 「実は戦闘中、倒される寸前のハエ怪人たちにハイリーディングを仕掛けていたんスよ。無論……あのベーゼルにも!」 「……おおっ!?」 決定的な何かが欲しかった守やアンナは、瞠目して彼女を見た。 まあまあそう焦らずにとか言いながら、やっと訪れた出番を堪能する計都。 無駄にゆっくり歩きながら語り始める。 「ちらちら色んな所に反応してたから出やすかったんスね。感覚や感情じゃなくしっかり映像で見れるハイリーディングだからこそ、色んなことが分かったッス。と言っても、死ぬまでの僅かな時間だったスから、これだけなんスけど」 指を三本立てる計都。 「ひとつ。奴らのアジトらしき大広間の光景。玉座みたいな場所に、小さな十二面体の石があったッス。ひび割れてカラッカラでしたけど」 「死んだコアね……昔チャイカさんが回収してたのと一緒の筈よ」 呟くアンナに、計都は頷く。 「そして二つ目。赤い軍服を着たオッサンが立ってたッス。ボスっぽい鎧を着た奴の脇にね」 「……ふうん」 ぴく、と夏栖斗たちが眉を動かす。 「で、三つ目は?」 問いかけられて、計都は目を鋭くした。 気持ちの悪いものを見た、とでもいうように。 絞るように言う。 「あのベーゼル……死んだコアを、腹ン中に埋め込まれてたんスよ」 ぶわり、と初夏の風が舞い上がる。 草木の香りに混じって、どこか不穏な空気が混じっているのを、リベリスタの彼らは感じ取っていた。 戦いの気配が、する。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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