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<黄泉ヶ辻>ギャル戦争 ~新興宗教団体『弦の民』~

●弾かれ者に救いあれ。影ある者に光あれ。
 千葉モノレール県庁前駅とJR総武線本千葉駅がこの日だけは込み合っていた。
 だが駅員たちはあまり良い顔はしていない。
 何故なら、列車の中には顔を真白く塗りたくった少女達がずらりと並んでいたからである。
「次降りる駅じゃない?」
「マジだぁ……」
 その異様さたるや、ここが千葉県であることを、もしくは日本であることを、様によってはこの世界であることをすら忘れさせるパワーがあった。
 そんな中でもっとも異様なのは、彼女達が一様に同じ駅で降り、ある建物のなかへぞろぞろと入って行く様……。
「親父がコレ抜けろとかいうの」
「マジきもい、死ね」
「ねー、やっちゃう?」
「いーね、お泊り会して、血祭りすんの!」
「うける!」
 げらげらと笑いながら行儀悪く歩く『シロヌリ』の少女達。
 彼女達が入って行く建物には、大きく豪奢な看板が掲げられていた。
 看板にはこうある。
 ――『弦の民』と。

 広い劇場型ホールであった。
 百人程を収容できるだけの椅子が並び、その半数ほどをシロヌリ少女たちが埋めている。
 全体的に薄暗いホールではあったが、前方のステージだけは別だ。
 煌々とスポットライトに照らされ、豪奢な飾りが並び、そこにいる人間の特別性を強調しているかのようである。
 そんなステージの周りには、サブマシンガンを肩から下げたシロヌリ少女達がだらだらとした調子で並んでいる。
 携帯電話を見る者。ガムを噛むもの。良く通る小声で会話するもの。
 全く持って落ち着きのない様子だったが、それが続いていたのは『あの人』が姿を現すまでだった。
 ――トン、とステージ上の床を踏む音がする。沓の音だ。
 歩くたびに小さく鈴が鳴り、煌びやかな和装がひらりひらりと揺れた。
 顔を白く塗っていたが、その美しさは傾城のものがあった。
 まるで大きな蝶が飛ぶかのように、『あの人』はステージの中央で立ち止まる。
 堂々と置かれた、大机の前に。
 斜め下のマイクに、やや緊張した面持ちのシロヌリ少女が述べ上げる。
「琴乃琴・七弦(きんのごと・ななげん)様のお言葉です」
 しん、とホールが静まり返る。
 あれだけ行儀の悪かったシロヌリ達が、誰も、一言も声をあげようとしない。
 まるで、氷柱から溶け落ちる水滴を舐めようと必死に口を開けるように、待ち遠しいような沈黙が続く。
 そんな沈黙を一身に受け、琴乃琴・七弦はしばらくじらすように口を僅かに開いたあと、ふう、と息を吐いた。
「皆さん、今日も自由と幸せを謳歌していますか?」
 世にも美しい声である。
「この世界は間違っています。醜いものが淘汰され、弱きものが踏みにじられ、若きものが取り下げられる。皆さんはこの世に生を受け、自由を約束されて産まれてきた……そのはずなのに、心無い人々は皆さんを蔑み、嘲笑い、見下しています。それがなんと愚かしい事かも知らずにです」
 深く目を瞑る者、嗚咽を漏らす者、強く手を握って震える者。
 皆一様に、七弦の言葉を一心に聞いていた。
「やがて皆さんの時代が訪れます。世界に選ばれ、新たな人類として……その証拠に今日もまた、選ばれた方がいらっしゃいました」
「……っ!」
 ホールの一部にスポットライトの光が落ちる。はっとして口を覆うシロヌリの少女。
「あなたはつい八日前、選ばれましたね?」
「……は、い」
 ふらふらと立ち上がる。
 周囲からは羨望の眼差しが送られていた。
「こちらへいらっしゃい。あなたにも、わたくしの弦を差し上げましょう」
「あ、ありが、とう……ございます」
 声が震え、涙が溢れていた。
 淘汰され続けた全ての過去が、今日からは変わるのだ。
 恐る恐るステージに昇って来た少女に、独特のエンブレムの入ったペンダントをかける。
 ステージの袖から出てきたシロヌリが、彼女に銃やナイフを手渡した。
「皆さん、もう暫くの辛抱です。わたくし達が『第二の太陽』を手に入れた時……世界はわたくし達を選ぶでしょう。『弦の民』を、新たな人類とするでしょう。さあ」
 手を差し伸べられて、少女はわなわなと手を上げる。
 そうした途端、少女は七弦にやんわりと抱きしめられた。
「これまで、お辛かったでしょう。もう大丈夫、大丈夫……あなたは、自分の力で世界と戦えるのですよ」
「わた、しが……は、ははは……」
 泣き顔のまま、どこか歪んだ笑みが浮かんだ。
 救われたのだ。
 そんな、顔をしていた。

 同刻。
 新興宗教団体『弦の民』の本部集会場前に、白いスクーターが停まった。ベスパである。
 乗っていたのは少女だった。
 ルーズソックス、ミニスカート、セーラー服に、ピアス。日焼け顔に、ソバージュにした髪。俗にいう『ヤマンバ』ファッションである。
 白いルージュを塗り直し、ひっかけておいたモーゼルM88とミニミを引っ張り出して型からさげた。
 上着やベルトには大量にマガジンをくっつけ、スクーターから降りる。
 胸ポケットに入っていたPHSを開いて耳に当てた。
『ノエル、現場にはついたかい?』
「うん、目の前。ちょー集まってる。やっぱり地域制圧のが今日だって噂、ホントだったみたい」
『そうですか。事前に抑えられなかったのは私達のミスです。ここで抑えますよ。いいですね?』
「分かってる。戦えないおばあちゃんの分まで、やるから」
 PHSの通話を切って、ポケットに戻す。
 銃口を空に向け、ハッカパイプを口に咥え、深くため息をついた。
「……ちょべりば」

●『弦の民』制圧作戦
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の語った内容は、おおむねそんな所だった。
 新興宗教団体『弦の民』は多数のフィクサードを抱える黄泉ヶ辻傘下組織である。
 教祖である琴乃琴七弦はいくつもの神秘による奇跡や、豊かな宗教学から弾きだした人心を掴む『お言葉』によって大量の少女達から信仰の対象となっている。
 その大半は一般人の少女であり、フィクサードはさほど多くはない。近年独自に抵抗を続けるフィクサード『初富ノエル』によって目覚めた傍から抹殺されていったからだ。
 そんな『弦の民』だが、ついに本拠地である本千葉エリアから北上、東千葉の武力制圧を始めようとしていた。
 彼女達が街に飛び出してしまったら、被害は最悪のものになる。
 叩くなら、ホールにフィクサード連中が集まっている今しかない。
「本部へ突入……そして、この組織に壊滅的打撃を与えて。それが、皆の任務よ」

 ホールには百人前後のシロヌリ少女がいるが、その殆どは信者の一般人である。
 倒すべきフィクサードのシロヌリは十名程度しか居ない。
 彼女等はステージ周辺で七弦を護っているものとみられ、そこを目指して突入すれば良いと思われる。
 教祖の七弦は非戦スキルと戦闘素質に優れ、簡単に倒せる相手ではない。
 壊滅的打撃を与え制圧作戦を阻止するのが目的である以上、彼女を必ず倒さなくてはならないと言うわけではない。
 主力の兵隊であるシロヌリ達さえ倒せればよいのだ。
「皆が突入する頃には、『初富ノエル』も突入すると思う。敵でも味方でもない相手だから、そう無理に相手をする必要はないわ。とても強いし、今回のついでで手を出すのはかなり難しいと思う……実際にどうするかは、皆に任せるわ」
 なんとか手に入ったというホール内の手書き見取り図を渡して、イヴは目礼をした。
「難しい事態だけど、お願いね……」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月04日(水)22:15
八重紅友禅でございます
少々補足を。

●シロヌリの少女達
軽機関銃(ウージー)やグルカナイフで武装したフィクサードです。
ここには十名程度が集まっているようです。
大抵は狩られましたが、それなりに戦闘力の高い連中が残っている筈なので厄介です。
彼女等を半数以上倒すことが今回の成功条件になります。

●琴乃琴・七弦
教祖にしてフィクサード。
優れた非戦スキルと戦闘素質を兼ね備えています。
非常にカリスマが高く、信仰の対象になっているようです。
今回倒す必要はありません。

●初富ノエル
ヤマンバファッションの少女です。
この集会を潰すために一人で乗り込むようです。
非常に(色々な意味で)強いフィクサードです。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
ホーリーメイガス
救慈 冥真(BNE002380)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
クロスイージス
犬吠埼 守(BNE003268)
ダークナイト
クリスティナ・スタッカート・ワイズマン(BNE003507)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
レイザータクト
恋宮寺 ゐろは(BNE003809)

●underground
 着信音。
 闇の中で点滅するAFを、誰かの親指が押した。
『配置完了』
『おつかれさま、こっちも。それにしても……異様だよね。自分を認めてくれるものに、依存しちゃうものなのいかな』
『分からないけど、厄介だね』
『まあね。何を信じようが構わないけど、迷惑をかける甘ったれさん達には目を覚まして貰わないとね』
『……』
『どうしたの』
『厄介だけど……楽しめそう、だね』
 プツン、と通話が切れた。

 正面門扉の前で、顔を真っ白に塗った少女が数人気絶している。
 彼女等を横たえ、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は扉の前に立った。
「『第二の太陽』『初富』『ひまわり子供会』『九美上興和会』……いくつかの事件に同じ単語が見え隠れしてる。何が起きてやがる。いや、何かが『起きようと』してんのか……」
「かもな」
 『足らずの』晦 烏(BNE002858)は煙草に火をつけ、ライターをポケットに戻しかけ、福松の方へ向けた。
 首を振ってペロキャンを咥える福松。烏は肩をすくめて扉を調べた。
 正面扉に当たり前のように鍵がかかっている。物騒なことだ。
「過去の報告書を洗ってみたが、主流七派の内六つも絡んでやがる。もう一派も紛れててもおかしくない勢いだ。ま、それはそれとして」
 福松はこん、と扉に拳をあてた。
 そして大きく腕を引き絞ると。
「突入」
 拳で豪快に扉をぶち破った。
 ホールへ続く通路に控えていたのか、フィクサードのシロヌリ数人がこちらに銃を向ける。
「ハァッ!? 何アンタ、ここ何処だと思って……バカじゃないの!」
「かもな!」
 バリケード用のバイクや車両を無理矢理室内に出現させる中、両腕を交差させて通路に突っ込む烏。
 身体数か所を銃弾が貫通する中で神気閃光をぶっ放す。
「――ツッ!」
「バルキリーシフト、スタート」
 『機械仕掛けの戦乙女』クリスティナ・スタッカート・ワイズマン(BNE003507)が銃弾をかわして素早くバリケードの裏に滑り込む。
 額の角がパキンと二つに割れ、剣に光が灯った。
「某国製の軽機関銃か。個人的には最新鋭の方がすきだけどな!」
 バリケードごしに魔閃光を発射。
 シロヌリが肩に受けてよろめく。
 その隙により近い柱の裏へ転がり込んだ。
「宗教は麻薬に似てる。溺れれば破滅だ。エゴの塊みたいなもんだしな。そうだろう」
 柱に背中をぴったりとつけるクリスティナ。
 それを追う形で、通路を挟んで反対側の柱に『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)が滑り込んだ。まるで足跡を刻むように、床を銃弾が跳ねる。
「知ってっか宗教狂い。神は己を助けるものを助くつってな、そこの神様は自分の糧にならないクズは選ばないぜ」
「ウザッ……ちょーキモイんですけど!」
 顔をちらりと出してマジックアローを発射。
 仕返しに鉛玉が大量に叩き込まれ、冥真は首をひっこめた。柱の角が高速で削れていく。
「ちょっと押され気味かな……?」
「死ぬ気で反抗してるだけだろ。それに、そろそろ彼女らが通る頃だ」
 ほら、と親指で通路の向こう側をさし示す冥真。
 クリスティナや福松たちが覗きこんでみると――。

 天井から、水滴が零れるように、ぴちゃんと人影が落ちた。
 気配もなく、影も無く、強いて言うなら僅かな音だけを発し、『彼女』は出現したのだった。
 蹲る様な姿勢。
 はっとして何人かのシロヌリが振り返ったが、気にも留めずに立ち上がり、長い長い髪を両手で払った。
 ふわりと舞い上がる髪。
 と同時に、『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)のバッドムーンフォークロアが通路一体に迸った。
「なっ……!」
 殆ど反応できずに薙ぎ倒されるシロヌリ達。
 辛うじて存在に気づき、ギリギリで防御したシロヌリが銃の引き金に指をかける。
 が、その時には既にシロヌリの首に気糸がぴったりと巻き付いていた。
「いつの……間に……」
 掠れる声で呟くシロヌリ。その肩越しに、『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)はおぼろげに顔を覗かせた。
「教えない……爆ぜろ」
 ぼん、と炎と煙の上がる音が鳴り、シロヌリが首から下だけを残して横たわる。
 通路上のシロヌリ達に致命的な打撃を与えたことを確認し、アンジェリカは小さく首を振った。
「後は任せたよ。ボクらは先に行ってるから」
 フッと壁を透過して消えるアンジェリカ。
 そして天乃もまた、その場から消えたように居なくなっていた。

 かろうじて生き残っているシロヌリ達を丁寧にクリアしつつ、ホールへと素早く進撃していく。
 その中には、フラッシュバンを連続で投げる『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)の姿もあった。
 フリルのついた傘を杖のように地面に突きながら振り返る。
「あともうちょいで片付きそう」
「そうですか。七弦が逃げ出す前にはホールに突入できそうですね」
 眼鏡を上下で掴み、どこか不器用そうに直す『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)。
 穏やかそうな彼の目が、ほんの僅かに鋭さを見せる。
 背後から急接近するエンジン音。
 誰かが正面玄関から突っ込んできたのだ。
 『誰か』はバイクから走行状態のまま飛び降り、両足でブレーキをかけながら銃を抜き、叩きつけるような勢いで守るの頭部に拳銃を突きつけた。
 同時に、守のすぐ横を白いベスパが猛スピードで通過。シロヌリの一人に激突して転がる。
 しかし守の視線はすぐ背後に迫った『誰か』に向けられていた。
 銃口も、である。
「あ。あんときのオマワリ……」
 互いに、何も言わずに銃の射線を外して足元に向ける。
「久しぶり」
 ひらひらと手を振るゐろは。
 彼女は――初富ノエルは、銃をミニミに持ち替えて言った。
「久しぶり。ていうかあんたら、シロヌリに何か恨みでもあるワケ?」

 通路上のシロヌリ達を倒し、ホールへと急ぐ。
 ここにフィクサードを配置していたと言うことは、ホール内のフィクサードはあまり多くない筈だ。代わりに一般人がぎゅうぎゅうに詰まっているわけだが。
「別に邪魔しに来たわけじゃないから。あー、一般人あんまぶっ殺したら怒られるからそこんとこヨロシクって」
「ハァ? またアークの『一般人大事主義』? うっざ……殺しとけば良くない?」
「まぁそうなりますわなあ」
 はっはっはと穏やかに笑う守。
「まあそれも良し。その分俺たちが勝手に頑張りますとも」
 言いながら、彼らはホールへの扉をけ破った。
 この先に待つのが、地獄だろうと知りながら。

●人民の信仰。自由と権利。
「穏やかではありませんね。ホールの外で何かありましたか?」
 りん、と鈴の音が転がった。
 琴乃琴七弦の声に、つい先刻ペンダントを受け取ったシロヌリがびくりと震えた。
 シロヌリの一人が七弦に近づき、そっと耳打ちをする。
 七弦は頷いて、マイクの前に立った。
「皆さん。この場所を嗅ぎつけたアークと言う組織の方々が、我々を殺しに来ました。遅かれ早かれこの時が来ると分かっていました。それが今だったと言うだけのことです」
 じっと言葉を聞き入る少女達。
 七弦は平和そうに笑い、両腕を広げた。
「さあ皆さん、自由と権利を行使しましょう。あなたの好きにして良いのです」
「好きに……」
 ごくん、と少女の一人がつばを飲み込む。
 同時にホールの扉が蹴破られた。
 まばゆい光と共に、リベリスタ達が駆け込んでくる。
「自由と、権利」
 少女達は一斉に『リベリスタ達へと』襲い掛かった。

 金切声をあげ、バタフライナイフを振りかざす少女の姿がある。
 それがフィクサードであったなら、今すぐ脳天をぶち抜いてやるところだ。
 しかしそれが一般人である以上、烏にはどうともできなかった。
「自由ッ、自由うう、自由うううううううううううううっ!」
 逆手に振り下ろされたナイフのエッジを素手で掴み、軽く腰を蹴って退ける。
 烏は僅かに開いた人波の間から、七弦の頭を正確に狙ってアーリースナイプを放った。
「チッ、ちゃんと当たれよ……!」
 空間を螺旋状に割いて飛ぶ弾丸。
 七弦に届こうとしたその時、別のシロヌリが間に割り込んだ。額にばすんと穴をあけ、白目をむいて倒れる。
「ああ……」
 即死したであろうシロヌリに屈みこみ、頬に手を当てる七弦。
「またやってしまった。ごめんなさい……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
 大粒の涙を流し、暫くシロヌリの手を握る七弦。
 信者の少女達が発狂してリベリスタ達に襲い掛かっている間だと言うのにだ。
 クリスティナはその異様さに眉をしかめた。
 椅子の後ろにスライディングで隠れ、時折頭を出しては魔閃光で射撃する。
「思ったより不味そうだ。どうする」
「どうするってなあ……」
 福松も同じように滑り込むが、回り込んできた一般人の少女達に囲まれた。
 二人は意を決して椅子の背もたれに飛び乗ると、まるで川の飛び石を渡るかのように少女達の中を駆け抜けた。
 通路エリアに立ったシロヌリがウージーを連射してくる。
 相手は二名。
 剣に暗黒を纏わせるクリスティナ。
 拳をぎゅっと引き絞る福松。
 二人は思い切り相手に飛び掛ると、全身に弾丸を浴びながら、しかし断固とした打撃を相手の顔面に叩き込んだ。
 椅子の背もたれに逆側からもたれかかるように倒れるシロヌリ達。
「一つだけ言っておく。虐げられたからってなんだ、自分は自分を辞められないんだ。自力で切り開いて見せろ!」
「そんなのできたら、もうやってるよォ!」
 クリスティナの額に銃が突きつけられる。
 それを福松が銃で払い、額をバウンティショットで撃ち抜く。
 カエルを潰したような声と共に脳漿をまき散らすシロヌリ。しかしもう一方のシロヌリが福松の口にウージーの銃口を突っ込んだ。
 トリガーを目一杯に引く。
「知った口聞くんじゃねえよ! こっちのことなんも知らない癖にさァ!」
 たまらず意識がブラックアウトしかける。
 が、冥真が寸での所で発動させた天使の歌が彼等を繋ぎ止めてくれた。
「お前らは弱いよ。愚かで、幼いよ――だから何だ?」
 一般人の少女達を両手で薙ぎ払いながら、通路を降りてくる冥真。
「選ばれなかったら死ぬか。与えられず消えるか。馬鹿かよお前ら」
 バチン、と掌に光が集まる。
「口開けて待ってる雛鳥どもが、すこし運命の味知ったくらいで電気信号覚えたイヌみたいに騒ぎやがって。選ばれないなら選んでみろ、虐げられるなら強くあれ。甘えた瞬間お前らはクズ以下だ。それを扇動したお前らを……まず殺す」
 弾けるような音をたて、シロヌリの腹にマジックアローが突き刺さった。
「あ……」
「修正してやる。ガキども」

 守は、七弦の所まで近づいていた。
 七弦を庇うシロヌリたちにジャスティスキャノンを撃ちこんで引き剥がし、仮面のような顔で銃をリロードする。
「いやしかしご立派ですねえ。選ばれなかったものを救済すると謳いながら、選ばれなければすべて下郎。貴女方はそれでも喜んで盾になるのかもしれませんが、その教えに追いやった、世の心無い人達と同じことをしているのではありませんか? どうです?」
「うぜぇんだよ、オッサン!」
 グルカナイフを抜いて飛び掛ってくるシロヌリ。
 守のライオットシールドにぶち当たって止まる。だが横から飛び込んできたシロヌリのナイフまでは止められず、守の腕に深々と食い込んだ。
「自分の力で戦う? 本当にそれが自分の力ですか? 狂信で力無き者を踏みにじる。本当にそんなことがしたかったのですか?」
「…………ッ!!」
 顔をゆがませて声にならない声を上げるシロヌリ。
 一方七弦は、息絶えたシロヌリにいつまでも寄り添ってめそめそと泣いていた。
 目を細める守。
 七弦の考え方が、分からない。

 一方、ゐろはは椅子や簡易バリケードを渡り歩く形でなんとかステージ前までたどり着いていた。
 身を隠して傘を抱き、けだるげにため息をつく。
「ハァ……だるい」
「行かないの。オマワリやられてるけど」
 ノエルが空いたスペースにするっと入り込んできた。
 マガジンを交換しつつ銃を両腕に構える。
「んー、やる。どうなるか知んないけど、前に土地の一件でアタシらナメられたし」
「…………」
「示し、ってやつ」
 そう言うと、ゐろはは豪快に椅子を飛び越えた。
 彼女の存在に気づいたシロヌリが銃口を向けてくる。
 避ける暇も技術も無い。ゐろはは傘をまっすぐ突き出してシロヌリの胸に押し当てる。
 軽機関銃のひと繋ぎな銃声が響いてゐろはの胸を赤く染めた。
 唇をゆがませ、傘の柄を操作。ゼロ距離で傘の『銃口』が火を吹いた。
 背中から中身をぶちまけてのけぞるシロヌリ。
「ちょっと借りんね」
 とん、とゐろはの肩にノエルが足をかけた。
 シロヌリたちの頭上を飛び越えながら上下反転。手にした銃を目一杯に乱射する。
 その場にいた守もろとも巻き込んだぶっ放しだったが、守はそれを察してシールドを頭上に翳してガード。シロヌリ達が死のダンスを踊る中、ゐろはは傘を反転させて柄をシロヌリの首に引っ掻ける。
「死ィ――ね!」
 力任せに振りおろし、足でがつんと頭部を踏み砕く。
 シロヌリ達が力尽き、その場にばたばたと倒れる。
 着地するノエル。
 ライフルの銃口が七弦に向いていた。
 すくっと立ち上がる七弦。
「まあ、まあ。初富さんのお孫さんですね。覚えていますか、私、あなたのおしめを替えたことがあるんですよ?」
 銃口を向けられて言うセリフではない。
 そして花の咲いたような笑顔もまた、銃口をむけられてするものではない。
 途端、一般人の少女達がそこへなだれ込んできた。数十人の群れである。
 咄嗟に対応しようとする守だが……ピン、と耳元で何かが抜ける音がした。
 ふと見ると、肩に手榴弾が引っ掻けられている。
「……!」
 瞠目して振り向くと、ステルスをしたシロヌリが親指を下に向けて笑っていた。
 爆発。
 守もろともゐろはとノエルが吹き飛ばされる。
 意識を失ってはいけないと顔を上げるが、気づけばシロヌリの銃口が額にぴったり当てられていた。
「終わりだよ。七弦様には手出しさせない! この人はアタシらの……!」
「アタシらの何? 何でも、いいけどさ」
 銃を構えるシロヌリの……そのまた背後。
 『ステルス』と『一人ぼっち』をかけ、完全にシロヌリ達から隠れていた天乃が、無表情に手を翳した。
 爆発。
「死にたくないなら、邪魔、しないでね」
 振り向く天乃。
 それと同時に、背後の壁を透過してアンジェラが飛出してきた。
 たっぷり溜めたブラックジャックを七弦に叩き込む。
 和服の肩を盛大に切り裂き、血を噴き上げさせる。
「七弦様!」
「お姉さんたち」
 アンジェリカに指を突きつけられ、少女達は足を止めた。
「毎日ゴミみたいなもの喰わされたことある? 抵抗もできずに中年男の玩具にされたことは? 他人に面倒見て貰ってる身でさ……甘えないでよ」
「……何が」
 死にかけのシロヌリが、血まみれの顔でアンジェリカを睨んだ。
「甘えて、何が悪いのよ。甘やかされて、何が……」
 そうして、シロヌリはすぐに、こと切れた。

●九美上と初富
 琴乃琴七弦はいつの間にか消えていた。
 注意はしていたが、僅かな隙を巧妙に見つけて逃げたのだろうと思う。
 七弦が消えたことを知った信者たちは、蜘蛛の子を散らすようにホールから逃げ、最後には無数の死体と空薬莢だけがその場に残った。
 血の海と化したホールを行き、正面玄関からバイクを引いて出ていくノエル。
 その後ろ姿を、福松はじっと見つめていた。
「……何?」
「いや」
 振り向かれ、視線を外す。
 同じ名前のフルメタルフレーム01号・初富との共通点が無いか見ていたのだが……。
「二人ともこうまでフルメイクじゃな。見分けるもんも見分けられん」
 小声で呟く福松。
 彼の代わりに、烏が前へ出た。咥え煙草を指でつまむ。
「初音ばあちゃんトコのひまわり子供会が、今回のキモかい?」
「…………ちょべりば」
 福松を無視してバイクのエンジンをかけていたノエルは、ぴくりと手を止めた。
 ややあって、頭をがりがりとかく。
「……あー、おばあちゃんの地上げ、割り込んでたのってアークだったんだっけ」
「松戸機械研究所や特別超人格覚醒者開発室の目的は人為的なフィクサードの発生だったな。そこにひまわり子供会が絡んでる、と」
「おばあちゃんが何も言わないなら……アタシが何か言える義理じゃないし、言わないけど」
 代わりに、と言ってPHSを取り出した。
「番号教えてよ、オマワリとゐろはもさ。ってか居るの全員」
 その場で携帯番号を交換したあと、ノエルはさっとバイクに跨った。ハーフヘルメットを片手で被り、振り返らずに言う。
「独り言いうね。初富初音と九美上九兵衛は、夫婦だったの。過去形ね」
 そうとだけ。
 ノエルはバイクを走らせ、千葉の街へ消えて行った。

 ――その翌日。初富初音との連絡がつかなくなり、同じく初富ノエルの消息も途絶えた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
このことが未来にどんな影響を及ぼすのか。
それは未だ分からぬことです。

MVPは天乃さんに差し上げます。
この場において、ほぼ最強のステルス性を発揮しておりました。