●色情 「ねえ、最近あいつからの連絡無くない?」 桃の言葉に、郁はハッと思い出したように言う。 「プッツリ消えたよね。ついこの間まであんなに急かしてたのに」 「男を取っ替え引っ替えして罰でも当たったんじゃないの?」 ユズがケタケタと笑うと、それに合わせて桃は汚い笑みを見せた。 「いい気味じゃん。こんなうさんくさいこと思いつくなんてろくな奴じゃないもん」 「ってことはさー……あのイケメンたち、私たちのものってこと?」 「マジで!? 棚ぼたじゃん!」 「や、やめようよ」 はしゃぐ郁とユズの間に、木葉が割って入る。 「あの人たちに酷い事するのやめようって、ずっと言ってるじゃない。もうやる必要も、後ろ盾も無いんだから、やめた方が良いよ」 「そんなこと言って、木葉もまんざらじゃなかったじゃん」 桃の言葉に、木葉は思わず両手で口を隠す。 「だって、男の人からあんな言葉、かけてもらった事無いし……でも……」 「あーあー純情だねえ。なんでこの子ここにいるんだろ」 「不思議だよねえ。私たち奇跡を見てるよ」 「顔も悪くないんだし、一人ぐらい言い寄る男もいなかったのかね……って男性恐怖症克服したのここ来てからか」 「つかそれ治すのが木葉連れてきた目的じゃん」 「そういやそうだったね」 郁の指摘に、ユズはうっすらと思い出した。桃はぼんやりと扉の向こうを見透かすように見ている。 「……流石に車じゃ無理だよな」 「うん? 何のこと?」 桃の呟きに、ユズが疑問を投げかける。 「いや、何でも。それよりあれ生きてるよな?」 「崩れたらすぐ分かるでしょ、すぐ下なんだから。スイッチもほら、持ってるし」 ユズは机の中に入っていた小さなリモコンを出して、指で弄ぶ。その内、あーと気の抜けた声を出し、遠慮がちに言った。 「もしかしたらこっち側が埋まってるかも……大丈夫、かな?」 「ま、すぐにどけられるでしょ。多分」 そう言うと、桃は支配している男たちを寂しそうに見ている木葉に目をやる。 「全く、手がかかるなあもう」 そう言って立ち上がり、木葉に顔を近づけて言った。 「あーわかったわかった、じゃあこうしよう」 「え?」 「アークが来たらやめよう。幸い私らは安全にこっから逃げる方法を知ってる。てか作った。それにこの四人ならどこでも行けるだろ? 逃げさえすればどうとでもなるさ。な、そうしよう」 「そんなこと言って」 桃の提案に、郁はニヤニヤとして口を挟んだ。 「単に後始末が面倒なだけでしょ?」 「……それを言うなよ」 ● 「……アーティファクトの破壊と一般人の救助が今回の目的ですが、後始末要員とか思われているのも癪ですから、彼女たちを捕まえてきていただけると私としては嬉しいのですが」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の声には妙に力がこもっている。時折言葉の端々に発現する言葉の強調が、彼女の怒りを如実に表している。 「『仮初めサクバス』。男性に対してのみ影響のあるアーティファクトです。所持者の女性のとったどんな行動、発言、態度も、男性側は非常に好意的なものとして受け取ってしまうというものです。以前あった『仮初めインクバス』の姉妹品と言ったところでしょうか。兄妹と言うべきかもしれませんが。 これはフェイトを得ているものにも効果があるので、支配を受けないように注意してください」 件のフィクサードは『仮初めサクバス』を用いて男性を誘惑し、支配し、抗えなくしたところで別の研究施設に送る役割を担っていたらしい。 けれども。 「最近その要請が来なくなったようです。となれば男性たちを解放してあげて欲しいですし、フィクサードにその意志も多少あるようですが……どうやら彼女らはアークが介入するまでそうするつもりはないみたいです。逃げられると思っているのでしょうね。彼女たちが何を隠しているのか分かっていないので、それを阻止するのが簡単かどうかは断言できません。とりあえずは男性たちの解放、すなわちアーティファクトの破壊に努めてください。 ああ、彼女たちが捕まえられなくても別にとがめません。フォーチュナとしては」 その笑顔はちょっとだけ怖かった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月01日(日)23:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● その笑顔が怖かったとか、別にそんなことはなくて。 いや、でも。と血の気の失せるような感情になりながら、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は首をブンブンと音がなるほどの勢いで振り、それを払う。 ──兎に角、革醒者とはいえ一般人に対する斯様な行いを見過ごすわけにはいかない。 そして、アークを後始末の便利や扱いされるのも、いい気持ちはしない。 捕らえ、お灸を据えなくては。 掃除屋扱いも今更な気もするけど、と考えながらも『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は天原和泉の想いをよく理解している。 「──同感です。相応に痛い目を見ていただき、その上で捕らえましょう」 逃がしはしない。決して。 『歩くような速さで』櫻木・珠姫(BNE003776)はじっと目を凝らし、フィクサードのいる建物を見通す。フォーチュナの言った通り、彼らは一階で軟禁した革醒者と共にいるようだった。 リベリスタはその建物の構造全てを理解しているわけではない。フィクサードには逃げ道があるという。それはどこにあり、どういったものであろうかと珠姫は探す。怪しいスイッチ、不自然な扉、隠されし通路、エトセトラ。どんなものでも見つけ出してやるという気概を持っていた。 まずは一階と、恐らくあるだろう地下。出入り口は三つ。正面入り口と駐車スペースのシャッター、そして元はそこに入っていた会社の社員用通路であったのだろう扉。これが基本。そして地下には、なるほど、一人が余裕で通れるほどのスペースがビルの外に向けて伸びている。これは書斎に繋がっているようだった。彼らが言っていた逃走経路とはこれのことだろう。 彼らとて一枚岩とは限らない。だが一階に基本となる逃走経路を用意しているのに、わざわざ上の階まで上がることもないだろう。珠姫は千里眼を止め、皆に建物について知らせようとする。 その時、躑躅森木葉がチラと珠姫の方を見、両者の視線が合わさった。珠姫は何事もなかったように視線を逸らす。もう一度視線を戻した時、木葉はこちらを見てはいなかった。けれども多少警戒心のようなものはうかがえた。これは早めに赴いた方が無難だろうと、珠姫は皆を急かした。 ● 「でさ、でさ、その子ベッドがあるとすぐ寝ちゃうんだけどね──木葉、どしたの?」 数刻前から挙動の不審な木葉に、日宮ユズは問うた。 「えっと、なんて言うか……嫌な予感?」 「あー、木葉のそれ当たりやすいからねー。桃に言っとけば? なんかあってからじゃ遅いし」 「うん、そうだね」 そう言って、木葉は五草桃に近寄って、耳元に話しかける。桃は面倒くさそうな顔をしながら、木葉の肩をつかんで、書斎の方へ歩き出した。 桃が書斎の扉の取っ手に手をかける、直前。 ビルの扉がバンと開いて、涼しい顔をした『そまるゆびさき』土御門 佐助(BNE003732)が登場した。 「御機嫌よう。お望み通り、アークのリベリスタが来ましたよ」 柊郁とユズの顔が目に見えて強ばった。直後、佐助の後ろから珠姫が現れて、フィクサードを挑発した。 「アーク参上!大人しくお縄についてよね!」 「やなこったい!」 ユズが叫ぶが、郁は隣で少し怒ったような顔をしていた。ユズが焦りながら、叫ぶ。 「木葉、桃、早く準備!」 「いや、まずはこいつをぶちのめさねえと気が済まない!」 桃は怒りに顔が笑みに満ちていた。 「じゃあ、私はこっちに!」 「ほら!」 ユズの放ったリモコンを、木葉は両手でしっかりキャッチする。そして木葉は仲間の様子に慌てつつ、書斎へと向かった。桃と郁は鬼の形相で、支配している革醒者と共にリベリスタに近付いていく。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 ミリィはその中心に向けて先行弾を投擲する。眩い光が彼らをまとめて怯ませる。それと同時に彼女は書斎の方へと向かった。 『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)はそれを受け、電流をちらつかせながら接近する。 「……よぉ、ご希望通り来てやったぜ。悪ぃが、捕まえさせて貰う……ってのはさておいて。お前ら、アークに来ねぇか? 窓口くらいにはなってやるぜ」 「五月蝿いな、出てけよ!」 怒りのままに振るわれた郁の剣を半端に受けながら、猛は雷を纏う攻撃を次々と展開していく。 最中、リセリアは郁に接近し、挑発する。 「──後始末の便利屋がそんなに甘い物では無いという事、教えて差し上げます」 「くそっ! おい!」 「わかりました」 リセリアが跳躍する直前、郁が叫ぶと横から男が飛び出して彼女を庇った。もろに切り裂かれ、傷もそれほど浅くはなかったが、男は平然と、むしろにこやかに笑んでいた。 「そろそろ目を覚ましませんか」 「私は正気です。そして、郁を守れるなら本望」 「よく言った!」 横から桃が現れ、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)を攻撃する。振りの大きいその攻撃を、クルトは流水のごとき動きでかわし、攻撃に転じた。その目には、先ほど郁を庇ったのとは別の男が、桃を庇うのが見える。 「フェイトはまだ残ってるんだろ、少し荒療治と行くよ」 拳に集まった雷がその攻撃の威力を大きく高める。クルトは一思いにその拳を振るい、男もろとも桃を打撃した。 その横から現れた『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)もそれに続いた。 「息つく暇もやらねぇ、効果が出る前にぶっ潰す!」 反応速度を高めた身体を目一杯に動かし、連続攻撃を仕掛ける。 「こんな物があっていい訳ねぇ。何事も正々堂々、だぜ!」 だが桃を狙った攻撃は、庇った男に全て当たる。 その時リベリスタ男性陣を不思議な違和感が襲う。 「男はみんな、私らの虜になるんだ」 ニヤリとする桃が、反撃に転じる。 ● 木葉は書斎のドアを勢いよく開け、中に入っていった。珠姫はそれを追おうとしたが、横から割って入った男に遮られる。彼は木葉の開けっ放しにした扉を閉じて、扉の前に陣取った。 「どきなさい。危なくなったら逃げればOKとか。世の中そう甘くないから」 「俺は木葉と、そのお仲間が逃げるのをサポートするだけさ。逃げやしない」 「あなたは、目を覚まして」 閃光弾を浴びせるが男は一瞬だけ怯んですぐに立ち直った。男は攻撃せず、ただ扉の前に立ちはだかった。 「通さないよ。木葉のために」 「絶対に、通らせてもらう」 『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)は周りの男性の異常を何となく感じていた。『仮初めサクバス』は革醒者を含む男性に有効。フィクサードたちを庇い、庇われている間にフィクサードは逃走完了。予想される展開。ああ厄介だ。 麻衣は車では逃げられぬよう駐車スペースの通路の前に陣取っているが、彼女らがこちらに来る気配は一切ない。となればやはり彼女らが隠している通路から逃げようとしているのだろう。現に今、木葉がその通路の開放に向かっているのだから。 ともかくはまずは目の前のフィクサードだ。彼女らに取り付ければ、アーティファクトの奪取はより容易となるだろう。麻衣は福音を響かせつつ、周りの様子を見る。 「ハッ、そんなチャチな道具がオレに効くかよ!」 ヘキサが威勢良く言う。 ドクン。 感情が揺れる。視界が揺らぐ。緊張を解せば途端心がどこかに傾くような錯覚を覚える。嗚呼なぜだろう、先ほどまで傷つけようと思っていた憎い姿が彼には天使のように思えてならなかった。量の拳がプルプルと震えだした。 「ほら、楽になっちゃいなよ」 ユズの言葉に、彼の頬が赤らんだ。しかし恥ずかしさを発散するように叫びを上げ、突進する。 「ま、まだまだ余裕だぜ、舐めてんじゃねー!」 拳を振り上げてクルトは猛を横切った。一方の神妙な面持ちでフィクサードたちを見ている。攻撃の意志は若干薄れていた。 だが、そう易々と支配されてなるものか。 間違えるな、あれは敵だ。 目が絶大な美貌を誇るマドモアゼルを捕らえたとしても。耳がそれだけで世界の全てを魅了できるほどの美声を聞いたとしても。自分がそれをどれだけ素晴らしいと感じようと。 あれは敵だ。敵なのだ。 道を歩いて理想と出会えるならそれは理想ではなく単なる現実だ。そんなものがこんな場所に転がっていて、いいはずがないだろう。 クルトは思い切り自分の顔を両手で殴りつけた。 「そんな玩具に頼ってるうちは、君たちには魅力を感じないね。本当にいい女ってのは、そんなものがなくても魅力を感じるもんだよ」 猛は恋人と理想の間で揺れていた。目の前の女性はどういうことか、彼の恋人のそれよりも魅力的にさえ思えた。 「悪ぃが、惚れた女の前で無様晒すのだけは御免蒙る。男にとっちゃただの意地だがよ……簡単にゃ操れさせやしねーよ」 「じゃあ、惚れさせてあげる」 郁が猛に接近し、顔を近づける。 「今の女なんて忘れる位深く、私は愛してあげるもの」 「下手な口を聞かないで!」 リセリアが横から現れ、郁を強襲する。郁は身体を仰け反らせてそれを避けようとするが、その軌道から逃れることは出来なかった。僅かに流れた血をなぞりながら、郁は恨めしそうにリセリアを見る。 「皆、しっかり! 『自分の想い』を抱え直して、前を見直しなさい!」 リセリアが男性陣に呼びかける。 その時、佐助が自分の足を切り裂いた。 無論、義足であるが故に彼の足に痛みはない。彼の頭は愛情という名の狂気に、薄らと染まっていく。 彼はその手で一番愛する人に、触れたいと思っている。彼女がどれだけ魅力的に見えても、その性質には一欠片もそれを感じ得なかった。 だから、誘惑されるわけにはいかない。 「それに私は、ヤキモチ焼きなんだ」 しんみりとした口調で、彼は周囲のフィクサードに呼びかけるように独り言ちる。それは書斎にいる木葉に聞こえるほど大きな声だった。 「好きな人がたくさんの男に囲われているなんて知ったら、嫉妬に狂った私はきみたちの首を絞めてしまうかもしれない。 ──ね、木葉?」 ● 木葉の背筋が一瞬だけ凍り付くように緊張する。彼女はパッと後ろを見る。名前も知らぬ誰かの呼びかけ。その病んだような言葉は、彼女の首を絞めるには十分なほど、冷たかった。 「──ああ怖がらないで。冗談さ。多分ね。あはは」 木葉の恐怖を汲んだかのように、外から乾いた笑いが響いた。彼女の顔は一層青さを増す。 木葉はその場から逃げ出したくなる。安全に逃げるための行動など止めて、正面から一目散に。けれども、彼女は決して、それをよしとせず、散らかった部屋からその通路の入り口を開ける作業に戻る。 私は行かなくちゃいけないと、頑に思いながら。 閃光弾が破裂し、男の身体が痺れに侵された。珠姫は彼の行動のほとんどが制限されたのを確認すると、彼を押しのけてドアに近付く。だが男の手はしっかりとノブに掛かっていた。珠姫は力ずくで彼をどかそうとする。 「どけよ、あんた邪魔だ!」 その時、後ろから叫びと共にユズが襲来し、魔力弾を放った。ギリギリで気付いた珠姫は咄嗟に横に避ける。弾は珠姫には当たらず、ドアに直撃した。 「あ、ヤッベ」 焦った彼女は珠姫を追撃する。 その頬を、式神がかすめた。ユズが珠姫から視線を逸らす。佐助が少し動きづらそうにユズを見つつ、明らかにユズを狙っていた。 「さて。次のお相手は、どなたでしょう?」 「う、あぅ…///」 いよいよ動くこともままならなくなってきたヘキサだったが、フィクサードの意志に従うことには断固として抗っていた。しかし感情の決壊も時間の問題ではあった。 その様子を見たミリィが、彼の目をしっかりと見て、一言。 「えっと、えっと…か、簡単に誘惑される人は後でお説教ですよ! あ、あれ。これって何か違いますね?」 なぜだろうか。アーティファクトの影響を受け天使のような姿が見えていたせいか、それとも頭が既にお花畑だったせいか。 たったそれだけの一言が、悪魔の言葉にさえ思えるほどの重さで頭に響いた。 「う……う……っるせぇええッ!! 照れてねーっつってんだろォオ!!」 呆れるほどの勢いと力を全身から引っ張りだして、丁度近くにいた桃に連続的に叩き付けた。 いきなりの強烈な攻撃にたじろいだ桃は、苦しそうな顔でヘキサから距離を置いた。だが背後に目を配っていなかった彼女は麻衣の魔力の矢による攻撃を、諸に受けた。 桃の身体から力が抜ける。ああヤバい、そう思ってこらえても、彼女の中にもう戦う力は残されていなかった。 ミリィが素早く近付いて、彼女の指からリングを抜き取った。 「ま、待って!」 桃の言葉に聞く耳持たず、ミリィは一瞬でそれを粉々に砕いてしまった。 それからミリィは桃の様子などきに求めず、木葉のいる書斎のドアを見る。 「早く、彼女を止めないといけませんね……」 「お前が好きだ、リセリアァァァァァッ!」 「!?」 猛が心に浮かぶ全ての雑念を吹っ飛ばすかのごとく爆裂に叫ぶと、とうのリセリアだけでなく周囲の全員が彼の方を向いた。 リセリアより魅力的に見えても。 リセリアより好ましく思えても。 それは偶像だ。猛が想いを寄せる彼女とは、比べ物にならぬものだった。 猛は吐き出した全てを雷として得物にのせ、郁に突進する。リセリアは郁に接近しながら、一人呟いた。 「──負けないで、猛さん!」 強烈な攻撃が郁を遅い、リングもろとも郁を吹き飛ばした。リングはその衝撃のあまり亀裂が入り、地面に落ちると同時に砕けた。 猛の叫びが他の者にも活力を与え、その攻撃の全てがユズを飲み込む。 「ああ、キツい、キツい、無理だから、諦めるから──ちょっと通して!」 ユズは強引に包囲網を破ると得物を思い切り書斎の扉に叩き込んだ。それは珠姫の攻撃とほぼ同時になされ、扉はその衝撃で破壊された。 ユズは一瞬だけ木葉を見たがすぐに引き戻され、リングを取り上げられた。そしてアーティファクトは砕かれ、ユズ自身は組み伏された。 ● ほんの少し前に逃走の準備は完了していた。穴が口を開けた直後、部屋のドアは開き、そこから自分の仲間の劣勢をうかがうことが出来た。 やっぱり、悪いことはするもんじゃないよね。彼女はその様子を見て思った。 「そのリングは…もう必要ないでしょう、貴方には」 部屋に入ってきたリセリアが、木葉に呼びかける。 「命までは取りません。……彼らを助けてあげてくれませんか、貴方の意思で」 「……うん、いらないね」 木葉は少し考えた後、自分の指からリングを抜き取り、リセリアに投げた。 しかし彼女の足は、リセリアとは逆の方向に向いていた。 「でも、私悪い子だから、あなたたちと一緒には行けないよ」 そう言って彼女は駆け出し、逃走経路の穴に飛び込む。 「待ってください!」 ミリィは叫び、アクセス・ファンタズムから4WDを取り出して、穴に被せようとする。だがそれが完了するより先に、木葉はその中に姿を消し、4WDはただ五月蝿いだけの着地音を周りに響かせた。 やがて静かになると、木葉が駆けていく音だけが、鳴っていた。 「おらおらっ、さっさと吐きやがれー! ……あれ? なんか楽しくなってきたぞ」 ヘキサは桃の口をぐりぐりとつねっている。逃走用の穴がどこへ繋がっているか訊こうとしているのだが、もはや目的は別のところにいっているような気がしてならない。 「ひふぁふぁいっふぇひっふぇふふぁふぉー!」 辛うじて理解できる言葉で桃は告げる。 思いっきり引っ張ってパチンと離した。少しだけいたそうだなとミリィは思う。 「大変でしたね。折角ならアークに来ません?」 麻衣はその横で、アーティファクトの支配を受けた男性たちを癒していた。彼らは大分元気も取り戻していたし、勧誘にも乗り気だった。 「木葉が行くって決めたんだ。私らがそれを邪魔するわけには行けないだろ?」 「それにあんたらの目的は達成されたんだ。木葉にこだわる理由もないじゃん」 「……いいでしょう。深追いをする必要もないでしょうし」 佐助が溜め息を吐く。郁は悪態を言うように呟いた。 「もう、逃げられると思ったのに……」 「……ま、悪さから足を洗いたいんなら丁度いいタイミングだと思うがね」 猛が言い、リベリスタはフィクサードらを連れて帰路に着いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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