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『六月』の花嫁~怨念獣~


 ジューン・ブライド。
 直訳すれば、六月の花嫁。
 六月に結婚すると生涯幸せな結婚生活を送る事が出来るという言い伝えだ。
 ギリシャの女神が由来の其の伝統に憧れ、結婚式を六月にあげる女性は少なくはないという。
 けれど、知っているだろうか。
 そもそもの由来となった女神の夫はとても浮気性で恋多き者だったという事を。
 
 生憎の土砂降りの中。
 其の男は何かから逃げ続けていた。
「くそっ、何だよ……何なんだよ!」
 逃げ込んだ無人の教会の片隅で縮こまり、震えているのはスーツ姿の男だ。
 其の双眸は迫りくる恐怖に震え、まるで怯える小動物の様。
 土砂降りの雨の中、脇目もふらずに走ってきたせいか。
 お気に入りのスーツは雨や泥に塗れ今や見窄らしい出で立ちになってしまっている。
 男の名は蛭崎(ひるざき)。
 蛭崎は女性を食い物にするアカサギ――所謂、結婚詐欺師だった。
「俺はイイ夢を見させてやったんだぞ? その対価を貰って何が悪いんだよ!
感謝こそされ恨まれたりこんな『化物』に襲われる筋合いなんて無い! 無いはずだ!」
 彼の口から紡がれるのは、我が身可愛さに溢れ返った自己中心的な言葉の数々。
 そう、今回も『何時もの様に』引っ掛けやすい女を選んで――騙して、貢がせて。
 事が明るみになる前にとっとと関係を切って、何もかも終わらせる。
 何度も何度も何度も何度も何度も繰り返してきた……何時もの手口。
 だから、今回も上手く行くと――其の筈だったのに。 

 不意に、教会の扉が耳障りな音を立てながらゆっくりと開かれた。
 真っ暗だった教会の中に僅かに光が差し込み――其れはゆっくりと教会の中へと入ってきた。
 雨に濡れたからではない。
 滑りを帯びた巨大な体躯をゆっくりと動かし這う様に進む其れは、巨大なナメクジ。
 息を殺し、じっとしていればあるいは見つかる事は無かったのかも知れない。
 しかし。
「ひぃっ!?」
 恐怖に耐え切れなくなった彼は、思わず声を上げてしまった。
 其の声に気づいたのか、獲物を捉えた巨大ナメクジは男の方へと迫り。
「く、来るな……化物ッ! だ、誰か助けてくれぇッ!」
 十字架に縋り、惨めな叫びを上げる男の前で大きく口を開き。
 残念な事に其の叫びが彼の――女性の気持ちを弄び続けてきた男の最後の言葉となった。


「女性の気持ちを弄ぶ人って、最低よね」
 ブリーフィングルームにリベリスタ達が集まったのを見るや否や。
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう言い放った。
その表情は、何処か怒りに満ちている様な――そんな雰囲気を漂わせる。
「ジューン・ブライドって知ってる?六月に結婚式を上げると幸せになれるって話」
 イヴの言葉に何人かのリベリスタが頷く。
「それを利用して、結婚詐欺を繰り返す最低な男がいるの。名前は蛭崎」
 結婚詐欺師のその男は巧みな話術で女性に近づき、婚約を結んだあと。
 結婚式を前に多額の金品を騙し取り、女性の前から姿を消す……というのを繰り返していた。
「最低の屑。弁護のしようがない」
 だけど、とイヴが言葉を続ける。
「そんな最低の男でも、エリューションに襲われるのなら話は別。
この男、放っておくと今はもう無人になった教会でエリューションに殺されるの」
 エリューションはフェーズ2のE・フォース。
 男が弄んだ女性の怨念が形となり、生まれた――怨念獣とでも言うべき存在。
「ジューン・ブライドだから、六月に結婚式をあげましょうって。そう言ってたみたい」
 しかし男は結婚詐欺師。
 本気で結婚など考えておらず、女性が其れを理解した時には後の祭り。
 金品を奪われ、気持ちを弄ばれ――女性の心は壊れてしまった。
 否、歪んでしまった。
 そして、其の歪んだ心が分身とでも言うべき怨念獣を生み出した。
「怨念獣は醜悪な――そう、まるで巨大なナメクジともいうべき姿をしているわ」
 怨念獣は巨大な体躯を生かし、至近距離に居る対象を丸呑みにする攻撃を行って来る。
 更に、怨念の塊とでもいうべき狂気の叫びは人の心を歪ませる。

「中には気乗りしない人もいるでしょうけれど」
 きっと、助けてくれると信じていると最後にそう言ってイヴはリベリスタ達を送り出した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ゆうきひろ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月02日(月)21:07
皆様こんにちはゆうきひろです。
六月――ジューン・ブライドにちなんだ依頼です。
といっても幸せな依頼かといわれればそうでも無いどちらかというと外道系。
では、今回の依頼概要を説明致します。

■成功条件
敵E・フォース『怨念獣』の撃破

■怨念獣
巨大ナメクジ型のE・フォース。
結婚詐欺師に弄ばれた女性の怨念が生み出した存在です。
巨大な軟体状の体は衝撃を吸収・緩和する力があります。
そのせいか物・神問わず遠距離攻撃に対する防御耐性が比較的高め。
速度は遅め。床を這って動きます。
以下は攻撃方法。

・丸呑み 物近複数攻撃/鈍化・猛毒・ノックB 
近接複数の対象を丸呑みにし吐き出します。
この攻撃が命中すると一定確率で『鈍化』『猛毒』を付与されます。
また『ノックB』により陣形を乱される事があります。
後、若干気持ち悪い気分になるかもしれませんね。

・狂気の叫び 神遠全体攻撃/混乱・ブレイク
怨念の塊ともいうべき狂気の叫びによって、戦場に居る全ての者の心を狂わせます。
この攻撃が命中すると一定確率で『混乱』『ブレイク』を付与されます。
この攻撃にダメージは存在しません。

■蛭崎
OPの通りの男、結婚詐欺師。
教会の中に隠れています。
どうするかはみなさん次第。

■場所
古びた無人の教会。
電気が無いため視界はあまり良くありません。
特にその他ペナルティが発生する程狭くもなく戦うスペースは十分。

情報は以上となります。
それでは皆様のご参加お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
二階堂 杏子(BNE000447)
デュランダル
四門 零二(BNE001044)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
ダークナイト
ロズベール・エルクロワ(BNE003500)
レイザータクト
ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)
クロスイージス
佐々木・加奈(BNE003907)


 其の日は生憎の大雨――土砂降りだった。
 其れはまるで、傷つき虐げられた者の大粒の涙の様に大地に降り注ぐ。
 
「よくもこう懺悔に相応しい舞台を選んだものだ」
 偶然逃げ込んだにしては、出来過ぎているだろうと『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)。
 其の男――蛭崎(ひるざき)は結婚詐欺師。
 幸せな結婚を演出するエンターテイナーだからこそ、無意識に最期の場所に此処を選んだのかも知れないなとアウラールは思う。
「女性の心を弄び、結婚詐欺を繰り返す愚かしい男。救う価値すら私には見出せませんけれど」
 そう、ふと言葉を漏らしたのは『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)だ。
「正直に言えば――」
 今回に限って、の話ではあるが完全にE・フォース寄りだと杏子に頷く様に佐々木・加奈(BNE003907)が言う。
 加奈自身、ジューン・ブライドには憧れはあるし女性を食い物にする様な最低な男には当然の報いだと思うのだ。
「性の雌雄に関わらず、だ」
 信じた者の心を弄んだ挙句、其れによって私腹を肥やすなど。
 断じて許し難いと『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)もまた強く頷いた。
「――其れでも、助け出すのが仕事ですものね」
 そんな男でさえも見捨てる訳には行かないと複雑な表情になる加奈を見て杏子が言う。
「そうだ。超常の理不尽あらばこれを撃ち、牙なき者はこの身で守るのが我らが使命!」
 更に、杏子に続いてベルカもまたそう強く言葉を紡ぐ。
「本当に、全く助けがいのない男だ」
 皆の言う様に、其れでも助けないとなと『フェイトストラーダ』ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784)が言った。


 古びた教会の中。
 蛭崎は最期の時を間近に控えずぶ濡れになりながら、寒さに耐える子犬の様に隠れ潜み、震えていた。
 不意に。
 教会の扉が重たく軋む様な音を立てながら開かれた。
 扉の向こうから現れたのは、淡い光に身を包んだ『祓魔の御使い』ロズベール・エルクロワ(BNE003500)を始めとしたリベリスタ達。
「て、天使……?」
 自らの理解を超えた醜悪な『怪物』に襲われ、無我夢中で逃げ込み寒さと恐怖に耐える極限状態の中。
 フライエンジェの特徴である白い羽根は、さながら見捨てられた教会に舞い降りた天使の様に蛭崎の目には映ったのかも知れない。
 そんなロズベールの姿を見るやいなや、無様に足を床で滑らせながら其れでも這いつくばる様に蛭崎が自分から駆け寄ってきた。
「た、頼む! 天使様! 俺は何も悪い事はしていない、襲われる筋合いなんてない! だ、だから助けてくれッ!」
「随分と虫がいい話じゃないか」
「何も悪い事はしてないっていうけれど、貴方結婚詐欺師でしょ?」
 目の前に現れたリベリスタ達に縋るように言う蛭崎に、
しかし『闇狩人』四門 零二(BNE001044)と『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)が厳しい言葉をぶつける。
 どうして自分の正体を知っているのか、一瞬唖然とした蛭崎だったが、流石は詐欺師というべきか直ぐに我に返った様に。
「そ、そうだ! でも、だったらちゃんと改める! 懺悔だって幾らでもする! だから頼む……助けてくれ、死にたくない!」
 即座に、やけに慣れた手つきで何度も床に頭を擦り付ける様に土下座し、助けを乞う蛭崎。
「……本当かしら」
「どうだろうな。まぁ、どちらにしてもだ」
 蛭崎の懇願を見た零二や沙希を始めとしたリベリスタ達が顔を見合わせ、静かに頷き合う。
「こんな男でも、世界を構成する一片」
 人間の屑でも其れは助けるに値する理由と、沙希が言う。
「あなたの日頃の罪が、悪魔をよびよせてしまいました。あなたが悔い改めない限り、これからなんどでも現れるでしょう。
懺悔ならききますが、ちゃんとした所で罪を認め、清算してください」
 少しだけ、誇張を加えながらそうロズベールが蛭崎に言う。
「は、はい! 其れで、助けて下さるのなら……」
 蛭崎が顔を上げ、リベリスタ達に期待をする様な瞳で言う。
「それじゃ、居て貰っても邪魔だしな。ちょっと離れてて貰うか」
 神秘を余り見せる事も良くないだろうし、何より襲われてリビングデッド化する等の二次災害が起きてしまってはたまったものではないなと思いながらユイトが言う。
「今回は助けてやるが、貴様が化物に襲われる『筋合い』は大有りだ、この痴れ者が」
 『天罰』あるいは『報い』とでも思えとベルカが言う。
 そうして、蛭崎を戦場と成りうるこの教会の中から避難させ二人が教会の中へと戻って来た、其の直ぐ後の事。
 
 ズルリ、と。
 何かが這いずる様な音が教会の扉の向こう側から響く。
 老朽化した扉を破壊しながらリベリスタ達の目の前に現れたのはナメクジを彷彿とさせる醜悪な外見をした怪物――エリューション。
 其れこそ蛭崎が弄び、捨てられた女性の怨念から産み出された怨念獣とでも呼ぶべき存在。

「なんておぞましい姿……これがひとの怨念なんですね」
 教会に現れた怨念獣を前にしたロズベールが言葉を漏らす。
「騙された女の怨念から生じた歪んだカタチ……悲しいエリューションね」
 少し、憐れむような瞳で沙希が眼前の怨念獣を見据える。
「同情はしますが」
 だからと言ってやはり此処で見逃す訳には行かないと杏子が言う。
「貴方の気持ちは痛い程わかりますが、蛭崎は殺させません」
 しっかりと、傷つけた罪を償わせる為にも殺させる訳には行かないと加奈が言った。
「此処で失敗したら、結局彼女の怨念はヤツを見つけ出し殺すだろう」
 其れでは本末転倒だ、と零二が言う。
「わざわざ助けた奴を殺されるのはごめんだぜ」
「その通りだ。我らは敗北する訳には行かない」
 折角時間を割いてまで蛭崎を一先ず安全な場所へと避難させたと言うのに、殺されては無意味になってしまうとユイトとベルカが頷いた。
「……俺、本当はナメクジってすげー苦手」
 本当ならば、極力戦いたくはない相手だなとアウラールは思う。
 だが、其れ以上に女性が涙を流す姿を此れ以上見たくはないとも思うのだ。
「どうせなら、笑顔にしたいしな。行くぜ皆」
 零二やロズベールと共に、一歩前へ踏み出たアウラールがライフルを手に呟いた。
 其の言葉を皮切りに、リベリスタと怨念獣との戦いの幕が切って落とされた。


 緩慢な動きでゆっくりとリベリスタ達を見据える怨念獣。
 其の動きは遅い、先手を取れると。
「先ずは態勢を崩す!」
 ブロードソードを手に、怨念獣に肉迫した零二が自身に纏った破壊的なオーラを余す事なく叩き付ける。
 雪崩の如く繰り出される連続攻撃が怨念獣のブヨブヨした柔らかな身体を斬り裂いていく。
 其の一撃は怨念獣の巨体を圧倒し揺るがすには至らなかったが、着実にダメージを蓄積させていく。
「あんなのに騙されるとか、男見る目が無いんじゃないか?」
 同じく前衛のアウラールがライフルを構え、ゼロ距離から強力な十字の光を放つ。
 至近距離で炸裂した神秘の十字光に身体を焦がされた怨念獣、しかし怯む気配は一向に無い。
 上手く敵を怒らせ、気を引きつけられればよかったがどうもそう、早々に上手く行くものでも無いようだ。
「動きこそとろいですが、耐久力はありそうですね」
 其の様を見て続く行動の為に、精神を集中させながら杏子が呟いた。
「敵は一体ですが、無傷で倒せる相手ではないと言う事ですね」
 全身に光輝くオーラを纏い、その防御力を高めながら加奈が言う。
「其れだけ彼女達の恨みが強いという事かもね」
 周囲に存在する魔力を自身に集めながら、沙希が呟く。
「この状態では、フラッシュバンは使えんな」
 閃光弾を使えば、怨念獣ごと前衛のリベリスタ達を巻き込んでしまう。
 そう判断したベルカが自身の持つ防御を効率化させるシステムを瞬時に味方に共有し全体の防御力を高めていく。
「寂れていても教会の中、ろうぜきはダメですよ」
 ロズベールが十字架を模した長柄の鉄槌――『conviction』に暗黒の魔力を宿らせ勢い良く振り下ろす。
 ズキリ、と自分自身に少なくはない反動を与えながら放たれた断罪の一撃が怨念獣の身体を激しく切り裂いた。
 其の直後。
「――――!!」
 声とも、音とも形容し難い怨嗟――怨念の塊とも呼ぶべき狂気の叫びが教会中に響き渡る。
 嬉しかった、楽しかった、愛おしかった、そして……。
 叫びを聞いた者全ての心に、怨念獣の憎しみが流れ込み心を狂わせようとする。
 同じ痛みを味わえと、傷ついて、狂ってしまえと。
 咄嗟にリベリスタ達が叫びから逃れようと耳を塞ぎ攻撃に耐える。
 が、全員が全員耐え抜ける筈もなく。
「あ……あああああッ!?」
「ユイトさん!?」
 咄嗟に混乱状態を回復する力を持つ加奈を庇いに入ったユイトをはじめ、錯乱状態に陥った杏子とベルカ、ロズベールが狂った様に声を上げる。
「やってくれたな……!」
 狂気の叫びを耐え切った零二が混乱状態にある仲間達を守るべく、全身のエネルギーを武器に込め怨念獣の巨体を無理やり大きく後退させる。
「いい加減ネチネチ粘着すんのよせよ、辛気臭い! 男なんて他にいくらでもいるだろ」」
 アウラールが邪気を退ける神々しい光を放つ。
 教会を照らす光に、一人また一人と混乱状態にあった仲間達が正気を取り戻していく。
「すみません……。助かりました」
 正気を取り戻した杏子が怨念獣の周囲に蜘蛛の巣を彷彿とさせる気糸の罠を創りだす。
「ほら、もう動けませんわ。蜘蛛の巣へようこそ……♪」
 しっかりと怨念獣の身体を捉えながら、杏子がそう言い放つ。
「どうやら私は攻撃に転じれそうですね」
 幸いにも、アウラールのブレイクフィアーによって仲間達の混乱は解けた。
 更に、現在怨念獣は杏子の放った蜘蛛の巣の罠によって其の動きを封じられている。
 攻撃に転じる機があるとすれば今を置いて他には無いだろう。
 ブロードソードを手に加奈が怨念獣の元まで駆け抜け、更にそのままの勢いで最上段から剣を力強く振り下ろす。
 身動きが取れないまま叩きこまれた一撃に、僅かに怨念獣が怯む。
「知ってる? 或る心の病は百人居たら一人はほぼ発病するんだって」
 文明国を自称する国でも、旧き時代の伝統を守り暮らす国でも予防する方法を幾ら考えても一定なのだと沙希が言う。
「――全く、理不尽の極みよね。でも、神様の描く台本なんてそんなモノ」
 良い事も悪い事も理不尽に唐突に訪れると、そう言いながら放たれたマジックアローが怨念獣の体力を削る。
「奴にはきっちりと罪を償わせる」
「だから、もういいだろ?」
 更に、続いて追い打ちをかけるようにユイトのライフルから放たれた銃弾とベルカの魔弾が次々に命中していく。
 そのどれもが致命傷を与えるものではなかったが、しかし確実にダメージそのものは蓄積されていく。 
「つらかったですよね、苦しかったですよね。こんな物を生みだしてしまったあなたの罪……ロズがひきうけます」
 だから、此れ以上辛い思いをする必要はないとロズベールが怨念獣の身体を切り裂く。
 怨念獣の身体が其の一撃で大きく揺らぐが、直ぐに態勢を立て直しそのまま気糸の罠を引きちぎる。
「流石にやられっ放しとは行かない訳ですね、でも……」
「後、もうひと押しというところね」
 怨念獣は確実に消耗して来ている筈と言う沙希の言葉に杏子を始めとした仲間達が強く頷いた。


「聞こえるか? オレが救いたいのはあんな外道の命などではない」
 目にも留まらぬ連撃で怨念獣を圧倒しながら、零二が言う。
「奴を手にかけ血塗られた運命を背負う必要などない、君は未来にこそ進むべきなのだから……」
 外道の為に、君が堕ちる必要等ないと彼は言う。
「バカな女も悪くないんじゃないか? 騙すより騙される方が幸せだって言うけどさ……本当だと思うよ」
 そう言うのはアウラールだ。
「だって俺は……いや、ここにいる皆もあんな詐欺師は、さっさとくたばればいいって思ってるけど」
 今、どこかで泣いてる君達が早く笑顔になれればいいと心からそう願うと。
 全身の膂力を爆発させながら、ライフルを手に怨念獣に思いをぶつけていく。
「君達が思い悩むほど、きっとまだ世の中は悪くない。もう一度、今度は本当に君達を見てくれる誰かを探して……そして信じてみないか?」
「アウラールさんの言う通り、信じてみて下さい。きっと、素敵な出逢いがまだある筈ですから」
 杏子の組み上げた四色の魔光が立て続けに怨念獣の軟体の身体等物ともせずに撃ち貫いていく。
 狂気の叫びとは異なる叫び声と共に、怨念獣の身体が大きく揺らぐ。
 そうして放たれた属性の異なる四条の光は、一度は解放された怨念獣の動きを再び強く抑制していく。
「貴方の気持ちはよく分かります。本当に」
 ジューン・ブライド。
 女性の憧れを利用し、穢し、弄んだ男。
 やっぱり許せはしないけれど……だからこそ、その為に此れ以上苦しむ人が出ない様にと。
 握りしめたブロードソードに想いを乗せて、大上段から加奈が一気に剣を振り下ろす。
 其の一撃が決定打となり……遂に、怨念獣の巨体が轟音と共に床に倒れ伏し消滅した。


「さて、コレは如何致します?」
 怨念獣の消滅を見届けた後、再び教会の中へ連れてこられた蛭崎を見下ろしながら杏子はそんな事を呟いた。
 エリューションが消滅した以上、彼が襲われて死ぬ事は少なくとも今はないだろう、が。
「い、如何って……お前ら助けてくれたんだろう!? あの化物をぶち殺して俺を助けに来てくれたんだろ!? そうだろ!?」
 そう懇願する様な瞳でリベリスタ達を仰ぐ蛭崎。
「……やはり許せん。死にたいと懇願したくなる程度に痛めつけてやろうか」
 とても反省してる様には見えない、と零二が蛭崎を見下ろしながら言う。
「ひっ!?」
「冗談だ、だが希望を奪われるときの恐怖と絶望……貴様が彼女達に与えた失意と絶望……多少は理解できたか?」
 其の言葉に蛭崎が青ざめた表情に変わる。
「一つ、教えておいてやろう。貴様が心からの謝罪と贖罪をしない限り、今回のような事はまた起こる。これは必然だ」
 二度も偶然が起こるとは思うなよ、と零二が冷たく言い放つ。
「これに懲りたらちゃんとした裁きを受けてください。でないと今度は助けませんよ」
「貴様に一片でも人間らしさが残っているならば、自分で始末をつけるのだな」
「わ、分かった! わかったからそんな、脅すような事言わないでくれ……」
 加奈やベルカの言葉にこくこくと頷きながら蛭崎が言う。
「本当、サムライには程遠い男だな」
 本当に、次があっても助かると思うなよと、余りに情けないその姿を見たユイトが呟いた。
「ちゃんとした所で精算して下さいね? ロズ達は此れ以上は関わりませんから」
 目の前で項垂れる蛭崎が本当に改心するかどうかは、信じる他にないけれど。
 きっと今回の件を経て心を入れ替えてくれるだろうと、溜息混じりにリベリスタ達はその場を後にしたのだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様お疲れ様です。
蛭崎が本当に改心するのかどうかは分かりませんが結構なトラウマになったようですので恐らくは……同じ事は繰り返さない事でしょう。
混乱の早期回復と、麻痺による行動の制限が勝利の決め手となったかと思われます。
それでは皆様本当にお疲れ様でした。