● 弾けて消えそうな意識のその中で、上も下も解らないその中で。 おそらく上である方向に手を伸ばしてみた。 手の形のシルエットのその奥、真っ暗な闇が垣間見え、多分今、顔は満面の笑みを浮かべているのだろう。 不必要な酸素を吸い込んで、吸い込んだものは空の一部であって。 とても、とっても美味しかったのさ。 自分は誰かも解らない。 此処が何処かも解らない。 けれどきっと、此処で生まれてしまったのには意味があるはず。 思い出せるのは、ふわふわで、それでいて、軽くて、軽くて、嗚呼、そうだ。 此処にはそれが沢山居る。 ● 夕刻と呼べる時間には、既に満点の星空が彩る。違う例えで言えば、日が顔を出している時間は短くなった。そんな漆黒に包まれ始めて、そろそろ魑魅魍魎が跋扈し出す時間と言えよう。 子供は皆、家へと帰る。この元剣林のクレイジー・マリアこと、マリア・ベルーシュも例外無く。 帰り道なのだ。この場所を通るのは。 「なんかー……いつもと、違うのよ」 捕まえて羽交い絞めにしていた猫を手荒に持ち上げ、キョロキョロと周囲を見回る。場所は三高平公園、そのほぼ中心。 おかしい、静か過ぎた。 フシャーッと毛を逆立て、牙をむき出した猫を条件反射に投げ捨てる。猫も何かが見えたかな? こんな所に居てたまるか。 そう思ったマリアは真っ白に洗われた自身の翼を広げた。 瞬間、ガサリと。背後の木々の分け目から飛び出す何か。 『オ、なか、スイ、タ』 瞬時に反応したマリアは振り向きながら地を蹴り、石化の陣を組み上げる。 「……?」 それと目があった。目があったからといって、どうと言う事は無いが。 そうか、そうなのか、そういうことなのか。なんだか面白いものが居るのだね。 ……馬鹿は死んでも、治らなかったの。 ● 「という事がつい昨日ありまして、三高平公園は今、閉鎖中です」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は、淡々と述べた。 「居るのよ、良くないものが。それを再起不能までに、ぶっ潰して来いって事よ。楽しい依頼でしょ?」 その横。机にだらしなく胡坐をかいたマリアが続いて述べた。 「えと……そうなんです。確かに夜になるとE・フォースが出現するのを万華鏡が「マリアのが見つけるの早かったもん」 杏里が話しを終える前にマリアの言葉が割って入った。そのままマリアは机の上を素足で立つ。このブリーフィングの主導権は自分だと言わんばかりに楽しそうに。 「アレはフライエンジェを優先的に狙う奴よ。でも、飛んでいれば、嫉妬と勢いで落としに来るでしょうね」 そこまで聞いて、そんなフィクサード居たのよとマリアが報告書をペラペラと捲る。 「かつて居たのよね。ほら、」 抜けた自身の白い羽を、くるくると指で回しながらマリアは妖しく笑う。 「鳥喰い。だっけぇ?」 酷く空と翼に恋焦がれ、ついに叶わずに死んだ男は思念体と成り、此処へと現れた。それは復讐か、それとも一番恋した羽への愛情か。 「お気をつけて、彼の思念は彼を殺したアーク自体に固執しています。何度も繰り返しましたが……フライエンジェさんは危ないので……」 「ま、せいぜい頑張りなさい? マリアは行かないよ、羽が汚れちゃうもの。 アレの羽とか空とかそういうのに対する愛は異常もオカシイも通り越して、文字通り逝っちゃってるわね」 そう言いながらも、杏里の纏めた資料をどさりと机に放ったマリア。 「終わらせてきなさい、白よりも純で、黒よりもしつこい、滅茶苦茶笑える愛の詩をね」 「それでは、お気をつけていってらっしゃいませ。杏里はお帰りをお待ちしております」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月01日(木)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 初めて胎外に出た時は覚えていなくても、きっとそこにある空はいつでも鼻を通って、生を満たしてくれた。見上げずとも、手で仰げばそこにはその感触があって、上の方もきっと同じものがあったはず。触れてみたい、誰も辿り着けぬ航天の極みへと。 此処で難題だ。どうやったら行けるのだろう。 遥か頭上には、断りも無しに飛び交う鳥が居るというのに。翼か、翼が無いからか。そこで気づいた自身の存在。気づけば翼の代わりにあったのは欲しくもない牙。 ならば牙で喰らい尽くせ。いつしか己にも同じ遺伝子が流れ込む、その依存はもはや、ヴァンパイアとフライエンジェの種族さえ超えるのだろう。 ……という感じで始まった男の妄執がついに死を超え、形となって現れた。一概に奇跡レベルの出来事と言えるが、有り得たのだからそれが現実なのだろう。 「はあ」 口からため息が出た。もう二、三回出しても足りないくらいに呆れてしまう。 「まあいい、何度でも倒してやる」 今度こそ、黄泉帰りの奇跡さえ失くす程に、完全に、完璧に。『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)が呟いた。 彼女が足を踏み入れたのは紛れもない、三高平内部の公園。ある程度に広く、ある程度に何もない。もっと具体的に言えば。 「俺の家そこ」 速度に定評のある『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)の愛の巣とか、コーポ等など、あとは木々くらいだろうか。 さておき、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)の力によって、リベリスタ全員に翼が贈られた。背中に触れる、温かい凜子の神秘は対象の回避能力を上げる。戦闘の準備はいたって万全だ。 聞こえる音は、進む足音と木々が擦れる音。けれど彼女――『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は気配を直で感じたのだ。 「隠れていないで、出てきたらどうなのかしら?」 白い翼を見せびらかすように広げ、その深紅に染まった瞳を後方へと。 脅え、戸惑い、毛を逆立てる公園の猫の目の先。地面に置かれたように茂る葉の隙間からまず手が出た。頭が出た。胴が出た。そして足が出た。 「ぐおー!!!?」 その姿、この瞳で覚えている。 『獣の唄』双海 唯々(BNE002186)の耳と尻尾がビンと張り詰めた。思い出すのは生きているコレと対峙した時の記憶。ぶるり、身体が震えた。人の重さと重力の無慈悲さとコンクリの硬さを知ったあの時――。 ぽん。 ふと、『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)の手が唯々の肩へと優しく置かれた。 「馬鹿は死んでも治らないか」 唯々の顔を見ながら、亘は苦笑しながらこう言うのだ。 「その馬鹿に執着している自分もきっと、馬鹿ですよね」 背に持つ蒼に誓って、亘は決心した。今度こそ、今度こそ――二度と無いチャンスを逃さない。 「鳥喰い、今度は貴方が満ちるまでとことん付き合いますよ」 いつしか唯々の耳と尻尾も穏やかなものになっていた。見つめる視線のその先、きっと亘と同じものが見えている。 「うむ。ヤルしかねーですね」 ――んじゃ、準備はイイですかね? 唯々が後ろを振り向けば、そこには信頼せし仲間が居て。 「ええ、彷徨った翼を休ませてやりましょう」 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)の弓がキリキリと震えていた。 ●偽物でも本物 「あぁぁ、鳥喰い、そんな名前もあったかなぁ」 開口一番、鳥喰いだったものはそう漏らす。元人の念とは言え、念である以上死んでいる本人とイコールにするには白黒つけがたい。 とはいえ、エリューションと成りしモノ、このリベリスタの男の殲滅目標内。 「死んで、エリューション化とは随分とこの世界にご執心、だな」 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の目線の先、茂みに浮く鳥喰いのその頭上。 「さあ狩りの時間だ、始めるとしよう……」 ギャァギャァ鳴く、無様な鳥達を櫻霞が紡いだ数の暴力が貫いていく。一体、二体、三体、四体、見える限りの鳥達を線で射抜き、もちろん鳥喰いとて例外では無い。 櫻霞の持つ速度は平均より若干高め、と言っても良いだろう。だがその櫻霞よりも先に動く者たちがこのリベリスタの編成には多く居た。 「妄念すら地べた這いずるとは、元より恋に恋した乙女か?」 土下座したくなる言葉の羅列をひとつ。 鷲祐は待機していたものの、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の氷の雨が降りそそいでいく。更には。 「私の可愛い妹の視界を穢した罪は万死に値するわ」 氷璃の解放された魔力を血と合わせ、ひねり出した鎖が鳥たちを飲み込んでいく。 恐らくこの連携は暗黙の下で行われたのだろう、が。何がどうなったのか、完璧すぎる連携で鳥の手足が出ない。 「来るのね?」 「あぁぁ、イくよ。愛した君へ」 「本当にしつこい男ね。愛しているのは翼だけでしょう?」 「はぁ、そうかもしれない……」 『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)の目が、覚醒したかの様に見開く。 突如、彼に突っ込んできた鳥喰いの牙が、ガチン!!と噛みしめられた。その金属を打ったような音は獲物を取り逃がした滑稽たる音。 寸前で身を捩り、エレオノーラは直撃を避けた。以前会った時と同じ強さと思わないほうが良いと余裕の笑み。だだ、数枚羽が散ったか。 「その執念は見事ね、でも、執着だけ残るなんて惨めだわ」 「おおぉ、この姿そのものが、鳥喰いの生きた結果というモノなのかもしれない」 久々の再開に、食べさせてくれないだなんて、手強い駒鳥だ。そう言いつつ浮気はするものだ。ぐるりと向いたのは七海。 「そちらの羽も興味があるね」 「いや右腕が無いといろいろ大変だから食べないでください……」 以前はその理由で鳥喰い討伐の依頼を避けてしまっていた。懸命な判断だとは思てしまう。 代わりにといってはなんだが、この時のために七海は自身の羽で作った弾を用意していた。これでも代わりに食べていてくれ。 その頃のイーちゃん、もとい、唯々はひとつの事件を起こしていた。 「超邪魔で仕方ねーですよ。なんでいつもそんな数が居るんですか、やられてください」 ぶつぶつ呟きつつ、彼女は面接着と飛行を利用し、電灯や木を足場にしながら華麗なステップを刻む。その手には蜘蛛の手を握りしめ、月夜のダンシングリッパー。 「少しは倒せたみてーですかねってわわ!!?」 ビスハの本能に従って。跳躍して避けた足下を、弾丸のように飛んできた鳥が通過していく。 「あ」 やべ!と思ったが間に合わない。だって行ってしまったもの。 唯々は大して痒くもない後頭部を掻きながら、まあいいか!と自己解決。その足場って? 「俺の家だよ!!!!」 一人だけ背負うべきものが多かった。 ただ今、司馬さんのお家にエリューションが侵入し、軽く柱が持って行かれた気がしなくもない。 ――戻って再び鳥喰い。 「あぁ、駒鳥、こっちにおいで楽しいよ」 「ぜーーーーったいに嫌よ」 やはり鳥喰いはエレオノーラをご所望か。 「そっちがこないなら、こっちからいってもいい」 念と化した鳥喰いに、形というものは存在しない。 先ほどの弾丸のように突っ込んだ鳥と同じく、顎を先端に、槍のように形を変えたその姿で翼を狙う。 「ふふ、食べたいならこっちにおいで。それとも自分では物足りないですか?」 そんなことは無い。鳥喰いから見れば、等しく翼は高級レストランのステーキよりも価値がある。 動いた亘は、凜子を文字通り背で庇った。蒼き翼が、貫かれたその一点だけぽっかりと円ができあがる。 「っ」 食いちぎられた感触は、いつまで経っても慣れはしない。けれど、けれど、そんな痛みだって笑って耐えられる。 逃げないって決めたから。 その上空にあるはずの大空のように、いつまでも、思いが満足するまで。絶対に、絶対にだ。 その激痛に亘の体は地へと着く――かと思われて、その手をユーヌが握りしめ、一対の翼で二人が宙へ舞う。 その頑張りに応えるようにして、回復手はすべてを守るのだろう。凜子が詠唱を始める。 妄執執念怨念。鳥喰い、貴方はどの念の表れか。問いかけも今となっては、遅いかもしれない。 戦いの行方は喜劇か、悲劇か、それももうすぐ見えてくるはず。そのために、惜しまない神秘の力を仲間のために尽くそう。 「背中は私が守ります」 放たれた聖神はリベリスタすべてを飲み込んだ。優しく、優しく。聖母のごとく。 傷を埋める光が消える頃、その後方で氷璃の詠唱が終わり、七海の矢がはなたれ、鷲祐が頭を抱える。 「ツリーハウスに注意? 了解、フレアバースト!」 「インドラの矢で明るくなったりは……しないかな?」 「後で正座な。全員だ」 消防車さん、こっちです。 翼を失くしたのは、亘と杏樹と唯々に、エレオノーラと鷲祐。 杏樹の魔銃が弾丸を吐き終わると同時に、その地へと伸びた鳥喰いの影が、刃となって四人を襲った。 例え、ユーヌに抱えられた亘とて、例外では無い。鳥喰い曰く、己の翼で飛べぬ者は堕ちろとのこと。 伸びる影は、少女の目の前で亘の体を串刺していく。 その影と交差する様、櫻霞の攻撃は始まっていた。 鳥の数が半数以下になった今、敵の闇に紛れ、自身の漆黒を縫うように鳥喰いへと向けていたのだ。 気づいた鳥喰いが後方へと一歩、二歩と下がる。それに続いて影も鳥喰いを逃がすまいと追うのだ。 「精々頑張って避けるんだな」 静かな殺傷は、敵を消して逃がさない。さあ、どこまで逃げれるか見ものか。目を細く笑う櫻霞は鳥喰いへ指を刺し、影にこう、言う。 「蝕め瘴気よ、獲物はアレだ……」 もはや、翼を狩る者が、狩られる者と化した。 その瞬間、鳥喰いは漆黒に絡め捕られ、上空の鳥も、言うまでもない。流れに任せるがまま、鳥達は消えていく。闇の中へと。 残ったのはたったの一体。運よく、攻撃をかわしてきたその一体にも、終わりというものは近い。 その仕上げは七海の弓が担った。呪いの矢を手に込めて、弓に置く。 「せめて……」 漆黒の中、息苦しそうにもがくボロボロの翼へ、安らぎを込めて。ついでに鳥喰いも混ぜて。 「せめて、良き眠りを」 放たれた矢は、鳥の胴を綺麗に射抜いた。そのまま、矢が通り過ぎるまでの刹那の間で、鳥は虚空に消えていった。 ●悲劇であって喜劇 「ついに、てめーだけになったみてーだけど?」 抜け落ちたエレオノーラの羽を唯々は手の中で弄ぶ。 「空もない、何も見えない、完全な無になる覚悟はできたかしら?」 エレオノーラもそうは言いつつも、この戦場で翼が喰われ、所々穴が空いていた。亘ほどでは無いのは彼女の意地だろうか。 そのように、『あの時』対峙したリベリスタは比べものにならないほど進化したと言えよう。 「ぁぁ、ぁぁ、でも、何故か危機感が無いんだ」 「でも、もう息は荒いじゃないですか」 七海は見抜いている。おそらく鳥喰いは誰かが言うように回避と命中は高いが、体力が無いことを。もはや、終わりの時間は迫ってきていることを。 「でもやっぱり、お腹は空いていたんだ、おいしいよおいしいよ羽はね、たぶん」 だらだらと口からは羽がこぼれる。 そう言い残し、再び鳥喰いは牙を向いた。対象は凜子を庇う、亘へと直接。 「大丈夫ですか!? 亘さん」 「これくらい!!」 確かに凜子の回復は確かに脅威だ。 ただ、翼を失くし、強制墜落を余儀なくされる前衛の消耗もかなり激しいものになっていた。鳥喰い一体の攻撃ならば、まだ凜子だけでカバーは可能だ。そこに強制墜落が乗るからこそ、回復が追い付かなくなっている。 凜子の頬から嫌な汗が流れた。 前衛が居るからこそ、後衛が成り立っている現状。もしそれが消えたら、駄々崩れの可能性がある。 「まずいですね……前衛が落ちたら……」 「大丈夫ですよ」 根拠の無い、大丈夫が聞こえた。 凜子は亘のボロボロの翼が一番よく見えている。それを治してやれないのも解っている。 喰われ、引きちぎれ、フェイトが飛んだ。それで尚、どこから立つ力が湧いてくるのか。 「ははは、君の蒼い翼は、とても綺麗だ」 ――まるで、空のようにね。 「それ、褒めているんですよね?」 「あぁ、いや、恋しただけだ。愛は二人でするものって聞いているからね」 飛び出す、唯々。 「その口が――」 ハイアンドロウを繰り出しながら、唯々は傷ついた身体にムチ打った。影に貫かれた場所からは血が止まない、だからといって逃す訳にもいかない。 「二度と何も喰えないように、してやる」 あの日のお礼も兼ねて、最大限の気持ちをぶつけるのだ。思い出せば思い出すほど、コンクリに打った頭がキリキリを痛む気がする。 死にぞこないをぶっ潰すために、唯々の攻撃は一回では終わらなかった。 「また起き上っても、また殺すけどな」 再びのハイアンドロウ。見えるのは真っ黒のピエロのカードだ。 「もうこれ以上あげるものは何もないのよ」 身体も、翼も。 エレオノーラも攻撃を仕掛ける。背中に羽はあるものの、足で地を蹴るを得ないのは鳥喰いのせい。ギリギリで避けても、羽は散っていくのだから。 飛び出した、櫻霞の漆黒。鳥がいなくなった今、その狙いはただ一点。 「くだらない妄執だ」 湧き上がる殺意を込めて、鳥喰いを包み込む。だが、どうにも違和感。手応えが無い訳では無いが、それは。 「ッチ、影人か」 「ぁぁあ、なんか増えたね」 「おおぉ、なんか増えたね」 まるで息ぴったりの二人の鳥喰いが出現。とは言え、見分けるのは一見で解る。 「本体を庇う方が、影人です。先にあちらを倒しましょう」 よく見えた目。凜子が仲間にそう言えば、全員の頭が縦に振られた。 その合図をスタートダッシュに、杏樹の拳が影人の胴へと吸い込まれるように放たれる。続く七海が自身の羽で作った射干玉に呪いを乗せ、打ち込んだ。更には氷璃の鎖が迸る。 呪われ縛られ、打撃を受け、氷の矢をくらい。息荒くしながら消えた影人のその奥。 「見えた。もう、逃げ場は無いわね。さ、憐れむ価値も無い虫けらには空より地の底がお似合いよ」 「あぁ、地の底、はいやだな」 それぞれの武器の切っ先が彼へと向く。けしてリベリスタは待ってくれない。 「は、はぁ……空、が見たい」 でも今日は残念だ。だって空は漆黒に染まっている。 「もう……お腹いっぱいになったでしょう? 満たされたなら……もう眠りなさい」 引きちぎれた翼を持ってして。その姿はもはや傍から見れば片羽の天使同然。そよ風の女神がきっと、眠りに誘うのだろう。 走り出す亘。だが、その体は強制墜落の闇に貫かれる。伸ばした腕さえ、貫かれ、アウラを握る腕の感覚が消えた。 でも、地べたを走る。 凜子の力が無かったのなら、きっと亘は此処で倒れていたのだろう。 「忘れない、君のことを。その愛と想いの強さを!!」 アル・シャンパーニュの攻撃は、今ある職業の技の中でも際立って美しいと言う。 「せめて、生まれ変わったら鳥になるように祈ってるよ」 杏樹の拳が。亘に続いて貫いていく。 「あたし、人に触れられるの嫌いなの。そういえば前はよくもべたべた触ってくれたわね。もう二度と出てこられないようにしてやるわ」 止めはエレオノーラか。幻影の見える剣が容赦なく撃ち落される。 光の粉が舞う。 それはきっと青色に光っていた。 振り落とされた刃と拳が胸を突き、その瞬間に、鳥喰いは無数の羽の形をした光になって、刹那で消えた。 どんな気持ちで消えたのだろうか。 救われた? 救われてない? だが、もはや堕ちた存在に、これ以上の慈悲はいらないだろう。 「空を愛し鳥を憎み、果てに滅びた嘗ての黄泉ヶ辻」 これまで多くのフライエンジェが犠牲となっただろう。その依存以上、もはや存在意義レベルまで達した狂気は正に黄泉ヶ辻らしい。 けれど、やはり。 櫻霞は煙草の煙を上空へと吐く。 「亡者は亡者らしく、あの世に堕ちていろ」 行き着いた先は、解らない。 ● 騒ぎを聞きつけ、野次馬しに来たリベリスタとか、友達の安否を確認しに来たリベリスタとか。 「そういえば、此処、三高平でしたね」 全て終わった後で、凜子が仲間の傷を癒す。 「全員、正座な」 「嫌よ」 「なっ」 神速も遅れを取るほど、早い氷璃の返事。 まだ、一仕事ありそうですが。 「被害? 無いわね」 と、エレオノーラが言い切った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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