● 少女は絶望の淵にいた。 底の浅い男に騙されて、地獄のような苦しみを味わった。 そして、苦しみ抜いた先で、彼女は死に救済を求める。 (後一歩踏み出せば楽になれる……) しかし、その一歩が踏み出せない。 彼女が立つのはビルの屋上。 目の前に広がるのは闇。その中にはちらほらと街の灯かりが浮かぶ。 灯りの下では人々は幸せを満喫しているのだろう。それに気付いた時、彼女の目に涙が浮かぶ。 どうして、自分だけがここまで苦しまなくてはいけないのか。 何故、自分はここで死のうというのに、あの男は明日も生き続けるのか。 「そうよね、あなたは何も悪くない。そんなあなたが死ぬ必要は無いわ」 「え?」 忽然と現れた人影は、少女の心を読んだかのように言葉を紡ぐ。 「本当に悪いのはその男でしょ? 苦しむべきはその男じゃない?」 声の主は全身をフードとマントに包んだ、顔すら見せない怪人物だ。声と紅に彩られた唇だけが、女性であることを教えてくれる。そして、そんな怪しい人物ではあるが、言葉はいずれも少女が欲しがっていたもの。ボロボロになっていた彼女が心を許すのに時間はいらなかった。 「私はあなたの味方。あなたが命を捨てるほどの覚悟を持ち、そして、その男に復讐したいと願うのなら……私はあなたにそのための力をあげることが出来るわ。どうする?」 少女に選択肢など無かった。 元よりここで捨てようと思った命である。だったら、最後に何かを為したい。 そのような思いであるが故、気付けない。目の前の女が告げる言葉はただ甘いだけ。優しさのエッセンスなど、一滴も含まれていないことに。 そんな少女の姿に、フードの女は満足げな微笑みを口元に浮かべる。そこからは小さな牙が覗いている。 「それじゃあ、いらっしゃい。あなたに力をあげる……」 ふらふらと少女は女に近寄る。フードの女はそんな少女を優しく抱き締める。 ぶしゃっ フードの女が少女の細い首筋に噛み付くと、そこから血が溢れ出す。 意識を失いながら、少女はその血が、今まで味わった何よりも温かいと思っていた。 ● 梅雨が本格化し、じめじめしてきた6月のとある日、リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、ノーフェイスの討伐だ」 守生が端末を操作すると、スクリーンに黒いフード姿の人間が姿を見せる。ゆったりした服装でフードを被っているためにはっきりとは言えないが、わずかに露出している口元を見る限り、おそらく女性なのだろう。 「現れたのはフェイズ2、戦士級のノーフェイス。識別名は『ラッヘ・ブルート(復讐の血)』。誰かに恨みを抱いている人間の元に現れて誘惑をする、っていうのが主な行動パターンだ。いわゆる『吸血鬼』みたいなものだと思ってくれ」 「ラッヘ・ブルート」は吸血鬼因子を取り込んだノーフェイスだ。加えて、強力な増殖系エリューション特性を持ち、自分が血を吸って殺した相手をE・アンデッドに変えることが出来る。フェイトを得ているリベリスタ達には意味を為さない能力だ。しかし、この力によって誘惑した人間を5人、部下として従えているようだ。 さらに、守生は端末を操作すると、スクリーンに地図を表示させる。どうやら雑居ビルのようだ。 「このビルの屋上に現れることが判明している。ちょうど、新しい獲物を誘惑しに来た所のようだな。被害者の名前は西村ひばり(にしむら・―)。真面目な優等生だったんだが、悪い男に騙されて、色々利用された挙句、捨てられたらしい。そして、死のうと思っていたところで、ノーフェイスに目をつけられた訳だ。……気に喰わねぇ」 ポツリと感情を覗かせる守生。 彼が語るには、到着するタイミングはちょうどひばりをノーフェイスが誘惑している最中なのだという。下手をすると敵が増える形になる。エリューションの性格上、誘惑に失敗した相手を部下にすることは無い、というのが万華鏡の分析である。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月30日(土)00:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 『アヴァルナ』遠野・結唯(BNE003604)はひばりに対してフィンガーバレットを向ける。 「そこに己はいるのか?」 この世界に思い残す事が無いのなら、なんら問題はないはずだ。 生きる意志が無いのなら、今死んでも変わりは無いはず。 人は遅かれ早かれ死ぬ。事故で、病気で、そして寿命で。 仮に今ここで死んだとしても、それはたまたま寿命でなかっただけの話。 月の光を受けて、結唯の手に握られた得物が凶悪に輝いたように見えた。 ● ひばりはフェンスについていた扉を開け、屋上の広場にいるフードの女性にフラフラと歩み寄る。 人間には本来理性があり、自分に害をなすものを見分けることは出来る。しかし、今の少女は既にボロボロで麻痺し切っていた。誰でも良いからすがる相手が欲しかった。この弱さを詰るものは少なくないだろう。そして、弱さゆえに少女は闇に堕ちようとしていた。 止める者は誰もいない。 そう思われた、まさにその時だった。 「誘惑に乗っちゃダメよ、ひばりさん!」 風を切って1つの影が、フードの女とひばりの間に割って入る。 『出来損ないの魔術師』シザンサス・スノウ・カレード(BNE003812)だ。 そして、フードの女――エリューション、ノーフェイス『ラッヘ・ブルート』――の反応も早かった。何者かと問うこともせず、邪魔者と判断し、牽制がてら血の槍を放つ。 しかし、そこに銀色の光が閃くと、瞬く間に朱い死の使いは地面に叩き落とされる。 「人が弱っているところに付け込んで誘惑するなんて……お前は絶対に討つ。許さない」 『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)はさらに飛んでくる血の槍を掻い潜り、ノーフェイスへの一撃を入れんとする。が、敵もしたもの。ノーフェイスはふわりと宙に浮くと、現れたリベリスタ達から距離を取る。 そして、リベリスタとの間に壁を作るかのように、数名の女性が立つ。いずれも誘惑に屈し、ラッヘ・ブルートの僕と化してしまった女達。吸血鬼因子を宿したエリューション・アンデッドである。 「アンデッド達も、この女の被害者なんだよね……終わらせてあげる」 現れた敵を見て、『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)は悲しげに目を伏せる。しかし、そのまま悲しみに潰されるような弱さは持ち合わせていない。その力をばねにして、この世界を守るという想いがあるだけだ。その想いが手に握られたチェーンソーを起動する。 一方、『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)の機嫌は悪そうだ。 「色々思い出してイライラするわ……」 目の前にいる相手への憐憫も当然ある。だが、それ以上に自分の過去に目の前の状況が重なるのだ。そして、何よりも雅は力無いものを利用したり、虐げる奴らが気に喰わない。 「さ、今の内にこっちに来て」 「え? え?」 突然変わった状況に対して混乱するひばり。 そんな彼女を『Fuchsschwanz』ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)は優しく誘導する。今の所、すぐにどうこうと言うことは無かろうが、彼女をノーフェイスに供させるわけにはいかない。ドーラが愛嬌の笑顔を浮かべると、それに誘われるようにひばりはリベリスタの後ろに立つ。 「あらあら、邪魔しないでもらえるかしら。私は親切で彼女を助けてあげようとしているのに」 ノーフェイスは口元に笑みを浮かべる。しかし、見えないフードの下の瞳がリベリスタ達に対して、獲物を横取りされた怒りの炎に燃えているのは間違いなかった。そして、そんなノーフェイスを黙らせたのは『Gloria』霧島・俊介(BNE000082)の鋭い眼光だった。 「これ以上ヴァンプの品格下げんじゃねぇ!」 俊介の眼光を受けながら殺気を増す無貌の吸血鬼。俊介も同じ吸血鬼因子を持つリベリスタである。それだけに、血に飢えて、弱者を利用する目の前のノーフェイスが許せないのだ。 「吸血鬼らしい吸血鬼ってのは珍しいが、これ以上仲間を増やす前に倒してしまおうか」 雪白・音羽(BNE000194)はマジックガントレットを構えると、エリューション達に向ける。確かにここまで直球に「吸血鬼」をやっている相手も珍しい。そして、物語の中で「吸血鬼」に時間を与えると、その後に待ち受けているのは確実な悲劇だ。ならば、ここで倒してしまうに越したことはない。 自分の周りで始まろうとする世の理からはみ出した者たちの戦い。 その中で、ひばりはようやく言葉を紡ぎだす。 「あ……あなた達は……一体?」 しかし、結唯はその問いに対して、手にしたフィンガーバレットを、アンデッドと化した女性達に向けたまま答えた。 「あなたが生きようが死のうが、私の知った事ではないのだが……今回は助けるらしい」 この少女の生存は依頼されていない。彼女を救わないデメリットはせいぜいが、「敵が1体増える」程度のもの。正直、敵の手に落ちないのであればどうでも良い。 そして、自分に与えられた依頼は。 「今回の依頼はノーフェイスの撃破」 ● 「さて、はじめましょうか」 アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)の号令一下、リベリスタ達の動きが攻撃に向かって特化される。そして、怒涛のような攻撃が始まる。 「とりあえず、憂さを晴らさせてもらうよ!」 剥き出しの殺意がアンデッドを襲う。あまりに強烈な殺意は、意志を失った死体すらもたじろがせた。 「貴方達も可哀想よね、誘惑に乗っちゃってこんな姿になったのだから」 シザンサスは舞うような動きをすると、幻影の刃が生まれ、アンデッドを切り刻む。続けざまに結唯が弾丸を放つと、アンデッドの頭が弾け飛ぶ。 リベリスタ達の攻撃でアンデッド達はみるみる傷ついていく。しかし、相手も人外の力を与えられたエリューション。この程度ではまだ倒れない。 「私は彼女らに道を示してあげているのよ、邪魔しないで!」 ノーフェイスは手から血の槍を放ち、リベリスタ達を貫く。先ほどの牽制とは違い、今度は本気と殺気を込めた攻撃だ。どこから出てきたのかと思わせる程の血液の量だ。『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)に庇われながら、俊介は仲間に対して回復を行う。 「ふぅ、あんま無茶すんなよ」 俊介が詠唱を行うと福音が流れ、リベリスタ達の傷を癒していく。傷そのものが消えたわけではないが、十分だ。癒しが間に合うことを確認したリベリスタ達は、頷くとさらにエリューションに攻撃を叩き込む。ドーラのOerlikon cannonが火を噴き、音羽の放った電撃がアンデッドを灼いていく。相手には歪んだ知性がある。隙を与えるわけにはいかない。 そして、何よりも羽音にとっては、愛する人が後ろに立ってくれているのだ。 「この腕が動く限り、戦うよ」 負けるはずがない。 そんな思いを込めた一撃は、アンデッドを瞬く間に切り伏せた。 ● 1人、2人、3人。 地道に部下が落とされていく様に、無貌の吸血鬼は焦りの表情を浮かべる。 対して、リベリスタの負傷は少ない。怪我が無いわけではないが、エリューション側の攻撃力が、数の低下と共に低下していくのは目に見えたことだ。そこでノーフェイスはその邪悪な知性で、別の攻撃を開始することにした。 「ねぇ、あなた。そのままで良いの? 私はここで死んでしまうかも知れない。そうしたら、あなたの望みは何一つ果たされない」 甘い甘い声。 それはリベリスタに向けられたものではない。 リベリスタの後ろ側で、状況を理解できずに狼狽えるひばりに向けられたものだ。 「でも、今なら間に合う。仮に私が死んだとしても、あなたに力をあげることは十分に出来るわ」 自分の命などどうなっても、あなたを救いたい。 言葉の上でなら、それは聖者の言葉だ。 そして、うわべだけの温かさは、再びひばりの足に力を与え、ノーフェイスの元に歩み寄らせた。 しかし、リベリスタには分かる。 リベリスタの耳には、「お前を部下に変えれば、こいつらを倒せる」と、邪悪な知恵の声が聞こえていた。 「止めときな」 「え?」 ひばりに声を掛けたのは雅だった。あまりの迫力にひばりは思わず、足を止めた。 そこに雅は思いの丈を込めて呼びかける。 「死ぬのを躊躇ったんだろ! 怖いんだろ! 少しでも『生きたい』って思う気持ちがあんならそいつの言う事を聞くんじゃねえ!」 感情が昂ぶっているからだろうか。雅の言葉よりも荒っぽい。人から利用されていた彼女にとって、ひばりの状況は決して他人ごとではない。だから、想いを込める。そこには、本当の熱さがあった。 「で、でも……」 「酷い男に騙されたから死ぬ、だなんて思いつめないで欲しいの。きっとひばりさんの事を大切に思ってくれる人もいるはずよ」 優しく語るシザンサス。 彼女は知っている。最低な男というのはいるものだ。それによって、涙を流す女性がどれほどいることか。だから、彼女の気持ちもよく分かる。だが、世の中にはそんな人間ばかりではない。 「だから、これから先もっと良い人と出会うためにも死んではダメ。ましてや復讐なんて考えちゃダメ。復習は悲しい事しか生まないのだから」 シザンサスの言葉にひばりの心は揺れる。元々、心が不安定な状況だったのだ。こうしてあちこちから言葉を投げかけられたら、混乱もしようというもの。だが、霧香はそれを否定しなかった。 「いきなり現れたあたし達だって、あなたにとってはこいつと大差ないかもしれない。でも、聞いて」 霧香はひばりの手を取ると、真摯な瞳を向ける。 「あたしは、あなたには新しい道を歩いて欲しい。あなたが死んだら、道を踏み外したら、悲しい人も居るんだよ」 その時、アンデッドの1体が霧香とひばりに襲い掛かる。強引にひばりを奪おうとしたのだろう。しかし、霧香は一瞬早くそれを察知し、ひばりを庇う。霧香の背中が赤く染まった。 「きゃ!? そ、そんな……」 霧香は痛みをこらえて、ひばりを抱きしめる。 「どうか絶望に負けないで。世界は、絶望ばかりじゃないんだから」 そこにさらに襲い掛かろうとしたアンデッドが吹き飛ぶ。結唯の放った弾丸が、違う事無くアンデッドの心臓を穿ったのだ。ノーフェイスは失敗に呻きを漏らすが、弾丸を放った――自分を失っている――当の本人は至って平然とした顔をしている。 「どうやらこいつは『常識』から本当に逸脱しているらしい」 淡々とした言葉で語る結唯。 異常者であれば、善悪の秤を持たない。だから、自分の行為に罪の意識を感じることなど無い。今、目の前で行われているように、成功失敗を判断するだけだ。 そのようなことを語るのは、結唯自身が常識からの逸脱を感じるからであろうか。 「今まで騙されていたのも、最初は甘い言葉をかけられて乗ったのが始まりなんじゃないのか?」 ひばりを取り巻く周囲の状況が変わったのを見て、音羽はひばりに声を掛ける。その言葉に押し黙ってしまうひばり。今の彼女には一番辛い、自分の弱さを認めなくてはいけない一言だ。 「繰り返したくない、強くなりたい、なら成長しろ。世の中ってのは、優しくない。そこで自分らしく生きたいなら自分が強くなるしかない」 それは音羽が自分に課して、今まで続けてきたこと。ただ優しい言葉を掛けるだけでは、本当の意味でひばりは救われないと思うから、彼なりの優しさだ。そこまで言って、ノーフェイスに顔を向けると、ギッと睨む。 「凹んでいる奴に仲間よ、なんて付け込んで配下とする。 そら楽だよな、なりそうなやつに声かけるんだから」 ひばりへの言葉は言葉。それはそれとして。 「だが、そういうやり方は、人を騙して配下にするお前は、気に入らねぇな」 音羽の手の中で4つの属性の術式が組み上げられる。 そして、一声放つと魔光と化して、ノーフェイスの体を縛り上げる。 「グ……お前ら、何故邪魔をする……。あと少しで新たな下僕が手に入ったのに……。私が復讐するための力が、手に入ったのに……」 窮地に追い込まれてノーフェイスの本音が漏れる。 今までのような温かさも甘さも無い。 ひたすらに、自分のエゴにまみれた言葉だ。 本性をさらけ出すノーフェイスの哀れな姿に、ドーラはその巨大な火器を構える。 「騙されたり、心が弱くなったりして、負けそうになるのは誰でもあります。ですが、そこを付け込んでまた利用しようというのは間違っている。ラッヘ=ブルートさん、貴方は全力で倒させていただきます」 弾丸が着実にノーフェイスの体を削っていく。その中で必死に自分を縛る術式を破ると、ノーフェイスは羽音に対して牙を剥く。既に部下を失い、反撃の手段を失った彼女にしてみれば、最後の抵抗だ。 首筋から血を流しつつ、羽音は苛立たしげな表情を覗かせる。 「別に、慣れているけど……俊介以外にされるのは、嫌。飲んだ血は、出してもらう」 怒りのままに破壊の刃を振り下ろす羽音。 かつて復讐を望む少女の手に握られていた武器は、復讐の名を冠するノーフェイスの腕を断ち切った。 「クッ、こいつ……」 慌てて落ちた自分の腕を拾おうとするノーフェイス。 しかし、そこにそれ以上の脅威が襲い掛かる。 「てめぇ。俺の逆鱗に触れんじゃねェ……キレた本家の牙は半端無く痛いから覚悟しろよ!!!」 愛するものを傷つけられた怒り……いや、自分以外に愛する者の血を吸われた怒りが、俊介に力を与える。ノーフェイスの中にある羽音の血を吸い尽くさんと牙を立てる。 「放しなさい! 放せ!」 狂ったかのように執拗に襲い掛かる俊介。 必死の思いでノーフェイスはその牙から逃げる。 しかし、その逃げた先には既に先客がいた。 ノーフェイスとて愚かではない。そこには誰もいないことを確認して逃げた。 だが、そこには戦羽織に身を包み、凛然と刀を構える少女がいた。 あらゆる禍を断ち、救うものを救う道を歩む少女の姿があった。 「お前は……絶対に許さない!」 無貌の吸血鬼が最後に耳にしたのは、風の清響。 言葉と共に白刃が閃いた。 ● 「そこに己はいるのか?」 戦いが終わってすぐさま、結唯はひばりに得物を向ける。 それは心を壊した少女の中に動いた好奇心。 仮にいま生きる意志を身に着けたとしても、それはリベリスタの言葉によって与えられたもの。 吹けば消し飛ぶのではないかと思ったのだ。 そして、結唯が望めばひばりは一瞬の苦痛も無く死ねる。 「分からない……」 ひばりが首を振ったのを見て、結唯は引き金を引こうとする。 「でも、今はもう死にたくない」 強い意志のこもった言葉。先ほどまでの彼女とは打って変わって、生きる意志を持った言葉だ。 ひばりの答えを聞いて、結唯は踵を返して去って行く。 それを見て、リベリスタ達はほっと息をつく。 そして、俊介は人懐っこい笑顔でひばりの前に立った。先ほどまでの勢いはどこへやらだ。 「変らなくていいんだよ。でも、戦える力は必要だよな。や、神秘のこういう力じゃなくてだな。嫌なとき嫌って言ったり、自分の意思を表に出して……こういうのなんて言うんだっけ」 ちょっと首を傾げてから、ふさわしい言葉を見つけ出す。 「そうだ、勇気っていうんだぜ? まあ、死ぬ勇気あるなら、違うことに使ってみたらどーかなってな!」 「変わりたい気持ちがあれば、人は、いくらでも変われる。死んで、報いるより……生き抜いて、見返してやろうよ。それに、貴女が死んだら……残された家族は、どうなるの?」 羽音もまた、自分の生き方を変えてきたリベリスタだ。だからこそ、言葉は重い。だから、信じる。自分を支えてくれた人がいるように、目の前の少女にも支えてくれる人が現れてくれると。 「死ぬ勇気があるなら相手を見返す努力をしてみてください。方法はいっぱいあります」 「……出来るのかな。わたしなんかに」 「まだまだ人生は長いわ。これからその不良を見返すくらい良い人と出会って素敵な人生が送れる様に歩んでいって欲しいわ」 ひばりの問いにドーラとシザンサスは微笑みを返した。 2人の温かい微笑みに、ひばりはつられて笑う。 「そんなくだらない男の事はもう忘れちゃえ。後ろを見ないで、前を向いて生きて行こう? 大丈夫。あなたは変われるよ」 霧香はひばりの手を取る。人の温もりを思い出して欲しいから。その温もりが変わる力になってくれると信じて。 「あたしだって、そーいう時期もあった。詳しい説明は省くけどね、良いように使われたワケ。死にたいって思った」 リベリスタ達には重い宿命を背負った戦士が少なくない。雅もそんな1人だ。 「だからま、復讐が駄目だなんて言わないわ。でも、復讐したいなら自分の力で積み上げてやるべきよ、頑張れ」 雅の言葉に、ひばりは1つの疑問が湧く。そして、ついそれを口に出してしまう。 「その復讐……どうなったんですか?」 本来なら無礼なはずの質問。しかし、雅は太陽のように明るい笑顔で答えた。 「あたしの復讐? どーでも良くなったわ。あんなヤツらに構っているのなんて下らねーってね」 重い宿命を背負った戦士も、様々にそれを乗り越えたのだ。 1人の少女に、それが出来ない理由など、ありはしない。 そんな彼らを上る朝日が応援するかのように照らしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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