● 断続的な銃声が響いている。 其処は建設途中で放棄された高層マンションであった。地域の再開発を見越して進められていたその作業は、再開発計画自体の消滅と建設会社の倒産により残り僅かの所で停まっていた。 故に、周囲に背の高い建物はこれしか存在しない。 いや、近くに建築物自体が少ない。だから人目を気にする必要もなく―― 硝子もない一室の窓から炸裂する紅い気糸が閃いたとしても、それを目に留める者など居はしないのだ。 地上でその、灰色の建造物を見上げる男達を別にしては。 「……おう、もう何人殺られたよ? やっぱ雑魚を幾ら繰り出しても駄目だなぁ」 焦茶の髪をモヒカンにし、黒いシューティンググラスを掛けた男がオーバーアクションに己の頭を叩く。 「そう、ですね」 隣に立つ影の応えは、僅かな愛想を見せようとした程度のものだったろう。 地味な色のスーツ。オールバックに撫で付けた髪。雰囲気的には教師のようにも見えるが、であればここまで社交性が低くはあるまい。最もしっくりと来る形容は、まるでどこぞの研究者のような。 やはり、それは革醒者同士としても妙な取り合わせであった。 明らかに毛色が違う、それを肯定するかのようにモヒカンの男が笑ってみせる。 「女一人ブッ殺して胃袋持って来いって話が気に入ったから請けたがよ、こいつぁ予想以上に面白ぇ」 「それは結構です。しかし、出来れば生け捕りで、という話だったと思いますが」 「ダハハハハ、そりゃ俺としてもそっちの方が面白そうだがな」 わざとらしく肩をすくめながら、男は周囲の夥しい重傷者、そして死体袋を眺め渡した。 「出来る相手じゃねェよ、ありゃマジモンだ。俺が出張って漸く殺せる程度だろうな」 「そうですか……」 スーツ姿の男もそれに倣って、しかしやや冷ややかな視線で辺りを眺める。 「だが手前ェらも大概酔狂だな。どうしてあんなモンを捕まえようなんて考えやがる」 「いえ、上司の意向でして」 「六道の嬢ちゃんか? あ、いや、手前ェらはまた指揮系統が違うんだっけか」 「ええ、そちらなら姫とお呼びしています。彼女の場合、ご自身もまたマッドサイエンティストですから、配下の研究員は手足のようなものですが……同じ女性でもこちらは武人ですからね。理解と支援は行うが、原則口は出さないというスタンスは有難いものですよ」 六道の研究員は続ける。 「ただ、その分こちらの理解出来ない所で干渉を受ける事が有るのが困り物ですが。『惚れた』の一言で生け捕りなど指示されては……」 「ンだとォ……?」 みしり、とモヒカンの額に血管が浮かび上がる。 研究員は自分が何か、気に障る事でも言ったのかと蒼褪めていた。背に寒いものが走る。 「馬鹿野郎! 百合なんざ許さねぇ! 俺が得しねぇから許さねぇ! おう雑魚どもを下がらせろや、ちょっと行ってブッ殺してくらぁ! ……手前ェも何ほっとしたような面してやがる、一緒に来るんだよこのウスラハゲが!」 そして、モヒカンと研究員はマンションの入り口へと消えた。 ――くす、と。罵声の主を見下ろしながら、女は微笑う。 「悪くないわ、ええ……悪くない。追い込まれたにしてはとても……」 周囲には死体が転がっている。その千切れた腕を拾い上げ、壁に断面をなすりつけて。 壁面に巨大な蜘蛛の巣を一つ一つ描き上げながら、彼女は笑い続けていた。 ● 「さて……依頼よ」 『硝子の城壁』八重垣・泪(nBNE000221)はいつも通りにそう告げる。 「依頼内容は、六道派フィクサードに対する妨害。アーティファクト入手の阻止って所ね」 その現在の所有者は、この中にも知っている者が居るのではないか。そう言って彼女は端末を操作する。 「八雲・耀。アークが以前交戦し、取り逃したフィクサード。所持アーティファクトは『不滅の太陽(偽)』 知っての通りレプリカモデルで、価値的にも大した事はない。六道の方も自分の手勢を使うのを惜しんでわざわざ裏野部を焚き付けてるくらいだから、ま、そんな物と思ってくれていいわ」 「……だが、欲しいと思うような物ではあるわけだ」 一人のリベリスタが口を開く。泪は薄い笑みを浮かべながらそれに肯いてみせた。 「そう、ね。レプリカって事で、オリジナルよりは解析に適してるんじゃないかしら。またその効果も手っ取り早い戦力増強には使える。劣化コピーの劣化コピーでも量産すれば研究資金の足しにはなるでしょう」 「なるほど、研究資金ね……ま、必要なんだろうな。あそこじゃ特に」 「多少は仕事のモチベーションになってくれたかしら。では、説明に戻りましょう」 続いてモニターに映し出されたのはモヒカン頭の男と、オールバックの男である。 「これが裏野部、及び六道のフィクサード。今回は標的が両者共にフィクサードという事で、どのようにして依頼を達成するかは侵入方法も含めて貴方達に任せるわ。 具体的にはどちらを潰すか。両方の撃破は今回編成された戦力ではまず不可能でしょうから、ね」 「漁夫の利を狙ってみるかね?」 「不可能ではない。けれど戦闘以外の立ち回りが高精度で要求される、と言っておくわ」 「マンションなら遣り過ごすのは容易な筈なんじゃないか?」 「一応、彼等以外にも未だ20名以上の裏野部所属フィクサードが現場に展開している。彼等の士気は大分下がっているけれど、警戒と八雲・耀の逃亡阻止に動いている筈。その目を掻い潜るのは困難でしょう」 厄介な――とリベリスタは呟いていた。 僅かに無言で考える時間を置いた後、リベリスタは別の問いを発する。 「逃亡阻止は分かった。だが、八雲・耀は資料通りなら面接着を使用する筈だ。逃走の可能性は?」 「有り得る。けれど彼女は、文字通り相手を食らう事を目的としたシリアルキラー」 勝ち目が見える内は逃亡を選ぶ事はないだろう、と泪は告げる。 「では、片方と交戦中にもう片方が参戦してくる可能性は?」 「それも有り得る。ただ、八雲・耀が下層階に降りて来る可能性は低いと思うわ」 「そういう性格なら、そもそもこんな状況にはなっていない、か」 それでは、と泪は各種資料の角を揃え、リベリスタ達に差し出す。 「この依頼を、あなた達に託すわね。……無事完遂する事を祈ってる」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:RM | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月06日(金)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「……貴方達」 女は、現れた者達への驚きを隠さなかった。 一瞬呆けたように口を開け、絵筆代わりに使っていた人間の腕を落とし、此方へと向き直る。 これが街中での再会であったならば、戸惑いの時は長かっただろう。しかし辺りには戦場の空気が充ち、その表情は数瞬も続くことはなかった。 まるで惜しむようである。 何故と問うて当然の機会にそれが出来ない事を、惜しむかのようである。 笑みに戻らず、不機嫌そうな無表情を張り付けたフィクサードの心中を読むに、特別な技量は不要だった。 僅かに溜飲を下げる思いで、『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)は固い微笑を唇に浮かべる。 「御機嫌よう、八雲・耀様。地上に居られるとは珍しいですね」 「ええ、以前月明かりの下が良いと勧められたから。……彼は来ていないの?」 「安心しなよ、ちゃんと居るさ。下からちょいと、面倒な奴等が上がって来るからな」 柔らかな白髪をかき上げ、片目を瞑る『不当なる契約者』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)。 それは――と口を開き、八雲は言葉を詰まらせた。表情に笑みが戻る。 「喜ばしいと言って良いのかしら。それとも残念であると言うべきなのか」 「さてね。少なくともあの人は、残念がってたぜ」 「……?」 二度目の困惑。その表情は雄弁に語る。何故、お前達が残念がることがあるのかと。 「聞けば分かるさ。……手っ取り早く行くぜ。俺たちはお前に、共闘を申し出に来たんだ」 「な……がっ!」 「はいはい、ちょっと御免なさいッスよ!」 炸裂し、閃光をぶちまけるフラッシュバン。階段を転げ落ちる二人の裏野部派フィクサードと入れ替わりに、『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)はそれを駆け上る。 「ああ、なんの因果かフィクサード同士の抗争に首を突っ込む羽目に……」 後には『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)が続いていた。働きたくない働きたくないとぼやきつつ。 「そういう仕事なんだから諦めるッス。それにしても随分あっさり侵入出来たッスね」 リトルの言う通り、侵入は拍子抜けするほど楽であった。彼女は、この場に存在する隊長格フィクサード、松山と白河の2名に先んじる事はまず不可能であろうと踏んでいたのだが。 何の問題も無く成功してしまっている。それ自体が悪い事では無論無い。 「考えれば道理ではありますか」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は言っていた。裏野部派フィクサード達による警戒は、その大半が内側に向いている。更に言えば上、特定階層付近に主に視線を向けている。 元々の適性や現在の士気を別としても、外側からの侵入に対しては、ほぼ対処する事など不可能なのだ。 「問題は、この場から無事に脱出できるかどうか、か。……やれやれ、まさに地雷原だな」 『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)は溜息混じりに呟いた。 何も考えずに踏み込むのは容易。だが、出て来る事は出来まい。 そして一つ一つを処理して回るにはどれだけの時と人を費やすものか分かったものではない。 誘爆させるなり、飛び越えるなり。 そう喩えられる作戦が必要であった。此処へ入り、また出て来る為には。 「……気になったのだが、これは矢張り残骸を敵に回収されてもいかぬのかな」 「破壊具合にも拠るとは思うのだがね。依頼としてはそう考えた方が無難だろう」 応えた『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)の声は固い。 かの破界器への興味は未だ尽きぬ。 常であれば無論探求に興じたのであろう。だが、状況はそれを許さない。果たせない。 (……非常に、残念だ) 無念と苛立ちは滲む事こそなかったが、明らかであった。 故に彼等は選択する。自らの手で屠らんがため、次の機会を得るために、敵を助けることを。 「皆、意外にあれよね、ええと……八雲耀だっけ? 拘ってたのね」 ぽつりと告げる『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)。 「そう言うあんたは、特に拘らない口かい?」 「私は別に……名前だって聞いて漸く思い出したくらいだし。方針に反対はしないけどね」 恐らくは独り言だったのだろう。ノアノアに拾われ、ソラは仕方なしというように続けていた。 「何としても三つ巴になるのだけは避けなきゃいけないわ。共闘は無理としても不干渉くらいは。貴女達が口説き落とせるって言うなら、それに期待してる。私は特に言いたい事も無いからパスだけど、ね」 ● 「……って訳さ」 素直に理由を告げるとはいえ、流石にこれまでの経緯をまで述べた訳ではない。 お前の事は仕事外だと言うに留まっているが、ノアノアはそこで一旦言葉を切った。 「先にも言いましたが、階下にいるフィクサード達の目的は、貴女の持つ破界器」 また、これは言うまでもないでしょうが、貴女自身の命も。ロマネはそう告げる。 「六道(かれら)に捕獲されるにせよ、殺されるにせよ、末路はあまり愉快なものではございません。まず間違いなくキマイラの素材として使われるでしょう。 数度見えた事はありますが……美しさも尊厳も無い酷いものです」 如何とロマネは問うた。この場限りでも敵対しなければ双方に益はあると。 自身、この交渉が上手く行くとは思っていない。 だがこれが六道とまともに遣り合う事を厭い、逃げに走ればそれで良い。その程度の考えだ。 だからか。この場に居るもう一人の行動に、彼女もまた驚かされる。 「まー分かる。前の事もあるし信用はねーだろう」 ノアノアは息を止め、一息に己の左薬指を捻じ切る。そして、それを八雲に放り投げていた。 「手付け金代わりだ。そいつをくれてやる」 八雲がそれを眺めていた時間は数秒だったろう。やけに長く感じたものだが。 「どうかしてるわね」 言って、彼女はそれを口に運んだ。 「……おい、ありゃ何の音だ」 モヒカン頭を揺らし、首を鳴らしながら松山が唸る。 聞き覚えのない音だと白河は返した。少なくとも先程までの戦闘音にこれは含まれて居ない。 階段へと至り、麻痺させられたまま転がる二人のフィクサードを見、漸くにして彼等は確信した。 自分達以外の何者かが、このマンション内に既に侵入していることを。 「面白かねぇな。一体何モンだ、俺様のお遊びを邪魔しようって奴ぁ」 「察しはつきそうな物ですがね」 そう呟いて自然に先行する白河。上層に待ち構える数名の姿を認め、嗚呼と溜息を吐く。 「矢張り『アーク』か。しかも私でも知っているような面子が数名混じっている」 「気乗りがしないんなら、そのまま帰宅しちゃえば面倒が無くていいと思いますよ、あたしは」 小路の発言に笑みも返さず、レバーアクションライフルを構える白河。 「いえ、流石に捕獲と回収、両方失敗してはお叱りを受けそうですし……」 そのままひょいと、猛然と突進する松山に道を開ける。 発言の続きは無かった。松山を退かせる事は出来ないと言いたかったのか。 それとも負ける心算が無いと言いたかったのか。恐らくはその両方であろう。 そして、リベリスタ達は戦闘に突入した。 「人の獲物横取りすんじゃないッスよ!」 突き出される槍と、リトルの爪が絡んで火花をたてる。重い一撃を身体を半回転させ衝撃を殺して回避。 ままに懐へ潜り込んだリトルは、相手の身体に死の刻印を刻み込む。 「手前ぇ、今ソレを言いたいのはこっちだろうが!」 松山は吼えた。足が踏み込まれ、突き出された槍が静止。否、凝固する。 ハーケインはそれを見逃さない。特徴的なS字の柄を持つ重い刀身が繰り出され、松山を襲った。 斬撃の軌道上に割り込んだのは白河。自らの身体で黒く染まった剣を止め、反撃に銃の引鉄を引く。 「唯の小遣い稼ぎで私の探求を邪魔立てする気かね?」 無造作にそれを灼き払いながら、ヴォルテッラ。式符に還る目前の影にはそもそも目を向けて居ない。 後方のスーツ姿を見遣り、告げる。 「全く以て、業腹である。去ね」 「いきなり嫌われたものだ」 白河はスーツの埃を払う。 「ですが、そちらこそ……我々の研究を邪魔はしないで頂きたい。 尤も成果物のテストに付き合って頂けると言うのなら、いつでも歓迎致しますがね」 「抜かせ」 ● 辿り着く先は蜘蛛の巣か――ミリィは階段の上を見上げ、口中に呟く。 リベリスタ達は上へ上へと後退を続けていた。予定通りの行動として。 意味する所は明白である。味方にとっては。 敵には恐らく悟られてはいまい。勝てぬと踏んでの逃げ、とまで思ってくれたかは不明だが、積極的に三つ巴の戦局となる事を選んだとのみ考えているに違いない。 無論、あれが共闘に同意したと言われても素直に信じられるものではないが。 (恐れはしません。……手繰り、操り、逆に絡め取ってくれましょう) それがレイザータクトの、私の役割。 「ハッ! いいぜ、逃げな逃げな。それまでに一人二人は潰させて貰うがなぁ!」 「……無駄に強いモヒカンッスね」 追いすがる松山。繰り出される槍を捌きながら、リトルが唸る。 満更ハッタリという事もあるまいと、数度の槍を受けて彼女は断じていた。それはまさに一打必倒に近い威力を誇っている。ソラがほぼ回復専念で応じているものの、長引くほどに危険――と。 思った瞬間衝撃が襲う。 「くっ……!」 後方に退くリトルと入れ替わりに、ハーケインが殿に躍り出る。 「おりょ? 手応えは悪くなかったんだがな。……それにしても上の連中は何してやがる」 槍を引き戻し、小路が繰る真空刃とハーケインの刃を防いで此方も引きながら、松山。 そして、程なくして彼等の頭上は開けていた。 リベリスタ達を追って踊り場を曲がった松山は、シューティンググラスをその場に叩きつける。 「やけに静かだと思ってみりゃあ……お前何だこりゃ」 冗談キツいぜ、と肩を竦めた。その視線の先には屋上で待ち構えていた三名の姿がある。 「お前等それでいいのか、あぁ?」 「……それを言わんでくれるかね。お前達さえ居なければ、考えもしなかっただろう事だ」 口中に生まれた苦虫を噛み潰しながら、ヴォルテッラ。 影二体を引き連れた白河は、興味深げに様子を見、そして一人に視線を合わせる。 「それより私は、どんな言葉を用いたか。そちらの方が知りたいのですがね。ノアノア・アンダーテイカー」 「……僕の名を知ってるのかい。困ったな、無名だぜ僕ぁ」 「個人的興味です。曲者という話でしたから」 なし崩しの会話を打ち切ったのは、槍の石突をコンクリートに叩きつける轟音だった。 「勝手に喋ってんじゃねぇハゲェ! 上等だやってやるよ、手前ェら一人も此処からは逃がさねぇ!」 突進する松山。嘆息を吐きながら併走する白河。 再度の激突はさながら、フィクサード側にとって網に飛び込むかの如き様相を呈し。 しかし油断はならない。階段での後退戦で喪失した体力は、リベリスタ達に弛緩を許さなかった。 ゆらりと糸が舞う。舌打ちする白河の周囲で、2体の影人が紙吹雪と化す。 (……やっぱ、厄介ね) 八雲に共闘とは言いつつ、警戒の目を向けるソラ。所詮一人では耐久力にも限りがある。短時間で敵を殲滅する事を目的としたその命中精度と火力は常軌を逸していた。 無論あちらも視線には気付いているだろう。切り札は恐らく、この戦いでは出さないか。 注視していたロマネは、僅かに眉根を寄せる。 「そう……本気で戦う必要などありませんものね」 リベリスタ側が彼女の始末を狙うのは、この戦いで瀕死となった時のみ。チキンレースを仕掛ける気は無いと言って良かったが、相手がその心算でないとは言いきれない。 どうかしている、とは矢張り事実であった。いずれ自ら殺す事が目的であるとはいえ。 「あれ、ちょっと働きすぎですかね、あたし」 効率化された防御動作を共有。突撃を受け止めるノアノアに力を与える小路。 装甲で槍の一閃を止め――るまでには至らない。浅く貫かれながらもノアノアは微笑う。 「神喰いはもう止めたんだ。もっと美味い魂(もの)を見つけてね」 閃く手刀。生命そのものを吸い上げる、不当なる配当。 傷癒術の符を放つ白河を、ハーケインは松山に接近させぬよう抑えに回る。 「さて、行けそう?」 「何とか。リルが頑張らないと長引きそうッスからね」 負傷を回復させたリトルが戦線復帰。松山の双眸に苦さが浮かび、それはそのまま口から吐き出された。 「嬢ちゃん、大人しく寝てりゃいいのによ!」 「やっぱ狙われてたッスか。でも此処なら……早々思い通りには行かないッス」 接敵し、その進路を阻むヴォルテッラ。ソラへの接触を防ぎ、他も守るにはここが絶好の位置。 「だが高揚はないな。私にとって君達との戦いは何の面白みも無い。疾く、退場したまえ」 そしてするりと、リトルの身体が松山の内懐に飛び込む。 「先程の問い」 自身も違和感を拭いきれないのだろうか。すっかりと無口になった八雲が口を開いた。 「情を期待するのは論外。美学や利で釣るなら貴方達の方が望みがある。私達は概ね、そのようなもの」 「ええ。それを味方に引き込むとは一体どんなトリックで」 八雲はぺろりと、口の中から指を見せた。 「……はは、即した狂気という訳ですか。これはまた分が悪い」 どっ、と肉を断つ重い音色と共に、ハーケインの剣が白河の肩に吸い込まれる。 「優勢です、一気に畳み掛けましょう」 松山の振るう槍をすり抜け、ミリィの放つ真空刃が胴を薙ぐ。 戦いの趨勢は決まりつつあった。怒号と共に松山が膝を突く頃には、白河は既に後退の意思を見せている。 リトルが地上へ向かい、大声で叫ぶ松山撃破の報。そしてヴァルテッラは白河に向き直る。 「さて……この後、どうするつもりかね」 「弁明でも考えるとしましょう。見事ですよ、貴女。確かに下の連中をかき集めれば、まだ多少出来る事はあったでしょうが。これでは無理そうだ」 リトルに忌々しげな目を向ける白河。自身の血に濡れた顔を無理矢理な笑みの形に歪め、彼は姿を消した。 「終わったな。得る物もない勝利だが……」 呟くヴァルテッラ。そう言えばと周囲を見渡し、求めた姿も無い事に気付く。 「何も言わず行っちまったか。ま、やるかどうか訊く手間が省けて良かったのかねぇ」 「いや、良くないッスよ。去り際に言いたい事もあったんスから!」 だがどの道、戦い終わって声を掛け合い、別れる。それは不自然に思えた事は確かだ。 そんな間柄でもあるまい。もし彼女が未だ此処に居たなら、更に食い合う事を望んででしかありえない。 「また逢える事を祈っとるよ。次は、無粋な横槍の無い場所でね」 ヴォルテッラは呟きを零し、そしてリベリスタ達はその場を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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