●『セリエバ』 『セリエバ』と呼ばれるアザーバイドがいる。 厳密にはそれがそう名乗ったわけではない。この世界の人間がそう称したアザーバイド。名付け親が誰かなど知らない。ただ誰かがそう名づけたアザーバイド。 強大な戦闘力を持つわけでもない。増殖を続けるわけでもない。無敵の結界を張るでもない。ただ貪欲なだけの植物系アザーバイド。 運命を栄養とし、異世界に根を伸ばすだけのアザーバイド。 そして運命を食われた革醒者は、すべからず世界の敵となる。 「Dホール、五時間後に開きます。場所は……!」 「マンションの何処かだと!? もう少し場所を絞れないのか!」 「四時間三十二分後に予知可能です。しかも、予知精度は13%減少します!」 Dホールが開けば、マンションに住む生物がエリューション化する恐れがある。そうなれば被害はこの町だけに留まらない。そしてこのマンションを基点に『セリエバ』はこの世界に根を伸ばし続けるだろう。 神秘を知らぬ人々にこの事態を説明する術はない。異世界から来る存在にあなたの住処が侵略されます、と正直に伝えたところで何人の人間が真剣に受け取るだろうか? 真実を隠したところで、住んでいる家を離れろと言う命令を受け入れられるはずもない。 無情にも時間だけが刻まれていく。 ●『アガペー』 「神の名にもとに」 一台の車がマンションに到着する。その列車を運転するのは修道服を着た女性。 「彼らも世界を救うための犠牲。その人を担うのは我等の役目。 黒スーツを着た男が、車のトランクの中から黒い鎧を取り出し、装着する。そして持ち出す一本の黒いランス。 『アガペー』……そう呼ばれるフリーのリベリスタ。 「Dホール解放から十二秒。それだけ時間でマンション全ての生物が覚醒し、運命を食らい尽くされる」 「ならばその前に、全ての生きている者を殺せばいい。二時間あれば事足りる」 殺戮を喜ぶでもなく、悲しむでもなく。 ただそれを神から与えられた任務と割り切って、彼らは歩を進める。 ●アーク。 「イチキュウサンマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「今から三時間後に、異世界からのDホールが開きます。そこからやってくるのはフェイトを栄養とする植物型アザーバイドです」 和泉の言葉にさわめくリベリスタ。当然だろう。フェイトはエリューション化した彼らの世界での生存権。リベリスタとしての生命でもあり、信念でもあり、そして武器でもある。それを糧にするというのなら、その侵食を許すわけにはいかない。 「そのアザーバイドを倒せばいいのか?」 その言葉に和泉は首を横に振る。苦渋に満ちた顔だ。 「アザーバイドのおおよその出現場所はわかっています。 ……いいえ、おおよその場所しかわかりませんでした」 それは予知の不十分さから来る情報不足。もう少し精密な予知能力があれば、と和泉は自らの能力不足を悔やんだ。 「場所は街中にあるマンションです。このマンションの何処かで、Dホールが開きます」 「このマンションのどこか、って……」 モニターに映し出されたのは十階建てのマンション。部屋数は百を軽く超えるだろうか。そのどこか。そもそも部屋の中とも限らない。三時間で調査をするには、明らかに時間が足りない。 「大量の人を配置するか?」 「ダメです。相手はフェイトを食らうアザーバイドです。下手をすると大量のリベリスタの損失になりかません」 「じゃあどうするんだ? Dホールが開くまで待つのか?」 「……現状の最善手は、再度予知を行なって場所を絞り込むことです。ですがその後で動いたとしてもDホール解放後になり、やはり犠牲者は出るでしょう」 ブリーフィングルームに沈黙が落ちる。冷たい方程式。三時間後の悲劇が、確定している。 「その悲劇を回避するために、フリーのリベリスタチームが動きました」 「……回避する方法があるのか?」 「回避、と言うのは御幣がありますが……あります。 そのマンションにいる生きている人全てをDホールが開くまでに殺すことです。そうすれば、運命を食われたことで発生するノーフェイスおよびE・ビーストの出現は防げます。死体を片付ければ、E・アンデッドの発生も」 「それは……」 未来に生まれるかもしれない世界の敵を。そうなる前に殺しておこう。 リベリスタの心中は様々だ。あるものは義憤を燃やし、あるものは是非もないとばかりに目を伏せる。平和主義では救えない命がある。だが九十九の命を守るため一の命を奪うことが正しいのか? 葛藤をよそに、和泉はリベリスタの目を見る。 「対処は、任せます」 何が最善かなどわかるはずがない。だから和泉はリベリスタに託す。自らが信じる仲間に。 リベリスタはその信頼を受け取り、ブリーフィングルームを出た。 ●フィクサード 「……あーあ、儀式始まっちゃうよ。アークの予知も万能じゃないってことかね?」 「私に聞かないでください、『氷原狼』。それでどうするんですか? 『セリエバ』が召還されると手も足も出ませんよ」 「真正面からは面倒だよなぁ。つーか、『枝』がヤバイ。運命持ちの天敵だ」 「では諦めますか? あの『女神像』は日本にあるものしては十指に入る召還系アーティファクトですが」 「……しゃーない。奥の手っていうか非常手段といきますか。あの娘の連絡先は……」 「私が男女の機微を語るのはおこがましいとは思うのですが、一言いいですか?」 「何さね?」 「困った時だけ女性に頼む男は、最低の部類に入るかと」 「……まー、フィクサード自体が人として最低の部類ですがねぃ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月04日(水)00:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●正義と正義 「ご機嫌麗しゅう。楽しい神罰ごっこを止めに来たぜ」 「あら。あなたたちは箱舟の中で平和主義を謳っていると思ったのですが」 『イケメン覇界闘士』 御厨・夏栖斗(BNE000004)の言葉にサーシャが皮肉下に返す。アルゼスタンは無言でランスを構えた。 アークのリベリスタ達は幻想纏いから武装をダウンロードする。目的は皆同じ。アガペーの殺戮を止めること。 アガペーの二人もそれぞれの武装を構える。その動きに、迷いはない。 殺戮を否定する正義と、大を守るために小を殺す正義。それが火花を散らした。 ●サーシャ・カスポーラ 「貴方たちはそれが正しいとして行う。私たちはそれを正しくないとして止める。戦場はよくある光景です」 主義の違いから生まれる抗争。そんなものはいくらでも見てきたと『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は言う。彼女は後ろに立ち、回復を担う。奏でる旋律がリベリスタの傷を癒していく。 「そうね。でもあなたたちが止める結果がエリューションの大量発生というのはどう思っているのかしら?」 その言葉にサーシャが答えた。セリエバの召還が生む結果は、悲劇の始まりだ。それはお互いわかっている。 「貴方たちは殺すことを正しいというのなら、私は医者として殺さずに貴方たちを止めて、これから起る不幸も止めてみせます」 「医者なら理解できるでしょう? 病巣を転移させない為に切り捨てることの重要さも」 悪しきを切り取り、全体を守る。そうすることで長生きで着るなら、医者は最善手としてそれを行なうだろう。命を守ることが医者の務めで、世界を守ることがリベリスタの務めなのだ。 「はい。ですが絶望するには早すぎます。ペストと違いまだ発症すらしていないだから」 「発症する前に塞ぐ。未来予知はそのためにあるのよ。大を生かすために小を殺す。必要最低限の犠牲で、世界を守ることが私たちの使命」 「大のための小を殺す。理解はしてるけど納得はしない」 言葉に割り込むように夏栖斗がサーシャの前に立ちふさがる。高い防御力を持つサーシャに対し、打撃を直接サーシャの体内に伝える打撃法で夏栖斗は攻める。 「僕の力は何のためにある? 守るためだ。こぼれ落ちる命が仕方ないなんてありえない」 「なら悲劇を生み出さないことも守ることよ。殺戮はよくないと安易なヒロイズムで私たちを止めるつもり?」 サーシャは防御に秀でているが、けして火力がないわけではない。渾身の一撃が夏栖斗を襲う。 「うるせぇ! ヒーローなんて難儀なものは、強欲じゃなきゃやってらんねえんだ! 綺麗事で動いてんじゃねぇ! 全てを守る強欲な信念で動いてんだよ!」 吼える。全てを抱えて進むとヒーローを目指す少年は大声で吼えた。全てを抱える強欲な器を持って、ファイヤーパターンの棍を向ける。 「ヒトを殺してもいいなんて道理はない。それが悪人でも善人でもだ!」 「ええ、真理ね。とても正しいコト。だけどそれで世界が救われる? セリエバによって大量エリューション化される人たちはそれで救われるの?」 「救われる」 自信を持って夏栖斗は答えた。一瞬の躊躇もない。疑う余地もないとばかりにサーシャに答える。 「そこに向かう仲間がいる。僕はそいつを信じる。 だからエリューション化なんて起こらない。殺す必要なんかない!」 サーシャの表情が一瞬揺らいだと思えば、すぐに元の表情に戻る。おのれの行動が神の為のもので、世界を救うと信じる顔に。 「出来ればサーシャ殿には打ちこみたくはないのでござるがな」 『女好き』李 腕鍛(BNE002775)は焔を拳に宿し、サーシャに向かって走る。女好きの腕鍛は、できれば女性は傷つけたくない。 だがそうも言ってられない。独特の動きで踏み込み、地面に足をつけると同時にこぐ時は突き出される。萌える拳がサーシャの肌を焦がした。 「サーシャ殿には聞こえなかったかもしれないでござるが……拙者はノーフェイスを生きた人と同じと扱うでござる。それを殺す拙者は人殺し。割り切ってるでござる」 「ノーフェイスを殺すも一般人を殺すも同じ人殺し。なら今マンションの人を殺すのも、ノーフェイス担ってから殺すも同じじゃないかしら? むしろ今殺しておく方が殺される『人』の数は少なくなるわよ」 サーシャの言葉に、腕鍛は首を振る。 「アガペーのしてる事は未来的に犯罪を起こすかもしれないからと言って、赤子を殺すようなもの」 未来に不幸があるならば、それを変えようとするのが革醒者。それはアークが何度も実践してきたこと。 「それは理不尽ではござらんか」 「でもその理不尽を行なわないと、神の子達が守れない。ならそれを行なうのが、私たちの努めよ」 揺るがないサーシャの口調に、腕鍛は表情を緩ませて、 「にははは、なんて……まぁ、これからアークが奇跡を起こすらしいでござるよ?」 視線を上に向ける。仲間は今、戦っているころだろうか? 彼らの成功を祈りながら、腕鍛は拳を振るう。 「それの邪魔をさせるわけにはいかないんでござる」 「たわ言ね。そういえば足を止めると思ったの?」 サーシャは肩をすくめてリベリスタたちの意見を受け流す。そして攻防が再開された。 互いに妥協はしない。故に激しく、ぶつかり合う。 ●アルゼスタン・フランビット 黒の鎧が闇のオーラを噴出し、歩を進める。 アルゼスタンの足止めのために『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)が立ちふさがる。 「止めます」 短く。それだけ告げてかるたは『Shining Arms of a Dreamland』を構えて突撃する。稲妻を纏った一撃が、アルゼスタンを袈裟懸けに切り裂いた。紫電が黒の鎧に纏わりつく。 「その程度で神の騎士を止められると思うな」 紫電を振り払うようにランスを横なぎに振り、一気に突き出した。大きく風を切る音がかるたの耳に届く。感知して身を捻るも、激痛が走る。物理的なランスの突きと、闇のオーラによる侵食がかるたを苛む。目に見えない『流れ』が、奪われていくのを感じていた。 それでも怖れない。言葉で止まる相手ではないのだ。ならば実力で止めるのみ。問いただしたいことはあるが、それは心に秘めて地面を蹴った。突き、払い、そしてさらに突き。自らを削りながらかるたは攻める。言葉なくとも、その意志は相手に伝わる。黒の鎧に少しずつ蓄積していく稲妻の跡。 アルゼスタンが侵食する闇のオーラなら、かるたは闇を打ち払う荒れ狂う稲光だ。その一撃が、希望の光を繋ぐ。 もちろん、それで止まる黒騎士ではない。アルゼスタンも自らを傷つけながら、リベリスタを傷つけていく。 「正義の名の下、世界の為に手を汚す……? 随分と自己中心的な誇りですわね」 『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)はアルゼスタンの動きを注視しながら、言葉を投げかける。手にした糸よりも鋭く集中し、相手と会話をしながら意識を集中させる。 「奇麗事では世界は救えない。何事も、何かの犠牲あって成り立っているのだ」 「綺麗事で世界は護れない、それは確かにそうかもしれません。 ですが、そのやり方に賛同は出来ない……」 アルゼスタンの答えに、杏子は怒りを露にする。このような輩がリベリスタなど、名乗ることすら許したくない。 「ならばどうする? 黙ってセリエバが召還されるのを待っているか? 運命を食われてノーフェイスになるものたちを、放置しろと言うのか?」 「だから、殺すのですか?」 「そうだ。いまさら問うまでもない。最善の手が討てないのなら、次善の手で妥協するまでだ。 私には守る覚悟がある。アークは箱舟の中でおのれの正義を唱えておけばいい。その覚悟がないのなら、ここより立ち去れ!」 「守る覚悟が聞いて呆れる。守れないから、殺すのでしょう」 杏子は自らの体内でマナを循環させながら、気の糸を放出した。まるで生き物のように糸は動き、鋭く直線的に糸はアルゼスタンの動きを封じた。 「腕を……!」 「……さぁ、蜘蛛の巣で愛らしくもがいて下さいませ」 杏子の糸がアルゼスタンの動きを封じる。わずかな時間だろうが、そのわずかな時間が重要なのだ。その間隙に仲間が攻める。雲耀――1呼吸の八千分の一の間があれば、 「蜂須賀示現流、蜂須賀 冴。参ります」 『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)が大上段に二尺五寸八分の刀を構え、独特の歩法で黒騎士に迫る。振り下ろされる刃はアルゼスタンの鎧を袈裟懸けに薙ぐ。その斬撃が鎧の中まで伝わり苦痛の声を上げる。 「大を生かし、小を殺す事に否やはありません」 「なら何故刀を振るう?」 「救うすべを放棄し一般人を虐殺する等、話にならない。ならば私は奴らをフィクサードと認識しその命脈を断ちます」 振りぬかれた刃を再び構えなおす。その刀は――アルゼスタンの突き出したランスにより、防御に使われることになった。黒槍と白刃。力で押し合いながら、互いの視線が交錯する。 「現実を見るがいい。救う術などない。迷っている時間すら惜しいこの状況で奇麗事を言うか」 「綺麗事を言うな、と。現実を見ろと言いましたね。そう思うなら見るといい。リベリスタの強さを。貴様らの如き偽物とは違うリベリスタの強さを!」 冴は力を込めて少しずつランスを押し返す。武器の重量も純粋な力でも劣っている彼女が押し返せるのは、強固な意思の力ゆえ。けして揺るがぬ信念を心に持っているため。 「神が貴様らの行為を是とするならば、私の行動を否と言うならば、私は神を両断する!」 「思い上がるな、小娘!」 激昂するアルゼスタン。激しい力のぶつかり合いで、互いの距離が離れた。 「私は主の教え、そして今生きる人々を信じています」 オートマチックを構え、『祈りの弾丸』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が弾丸に魔力を込めて撃ち放つ。貫通力を増した弾丸が、アルゼスタンの鎧を貫通する。手甲から流れ出るのは彼の血だろうか。 「あなたたちの主張も頷ける部分はあります。しかし、今の教えと私は『今ある者の未来』の為のもの」 「当然だ。全ては未来を守るために」 首肯するアルゼスタン。未来を守るために、今殺戮を行なう。セリエバと呼ばれるアザーバイドによる被害から未来を守るために。 「私は三高平で良くして頂いた人々や尊敬すべきアークの仲間。今、ここに生きる人々の最も善き道を探るに戦い、祈るのです」 リリは慣れた手つきで弾倉を入れ替える。この引き金を引くのは、未来のため。形こそ違うがこれもまた、祈り。弾丸で示す信仰もある。 強い集中力が相手の動きを先読みさせる。未来予知にも似た感覚。コンマ一秒先の相手の位置をイメージし、そこに弾丸をおくように引き金を引いた。 「神は手を汚せ等と仰っていません。貴方のそれは神罰でも何でもなくただのエゴ。 個人的な殺しに神の名を持ち出す資格などありません。神の名を冒涜する者よ、断罪の時です」 弾丸はアルゼスタンの兜を吹き飛ばす。カァン、と思い金属音が戦場に響いた。 「清廉なシスターよ。それは理想だ。誰かを殺すことで救える命もある。否、守るということは守るべき対象以外を傷つけ、殺すことだ」 「ああそうさ。俺たちのやっていることはそういうことだ。 やっている事は命を奪う事の方が多い。救えることは、ほんのわずかだ」 『red fang』レン・カークランド(BNE002194)は全身のエネルギーを解放し、アガペーの二人に不吉の月を顕現させる。月が告げるは凶運。呪いによってアガペーの動きが鈍くなる。 「また会うことになるとはな、アガペー」 「久しいな。あいも変わらず我らの足を止めるか、少年」 交錯するレンとアルゼスタンの視線。レンは視線に押し負けまいと言葉を返す。 「命を奪う権利は誰にもない。神であろうと許されるわけがない」 「権利で奪うのではない。必要だから殺すのだ。悲劇を最小限に抑えるために」 もうすぐ生まれるノーフェイスを生み出さなせないために。 「ああ、悲劇は最小限にすべきだ。十より一、一よりゼロに。俺は命を粗末にする気はない。救えるものは、救う」 わずかな確率でも、命をできるだけ救うために。 「守りたい世界に、救いたかった人がいなければ、意味がない。一度失った命に意味があるというならば、俺はそのためにこの力を使う」 レンの手に生まれる破滅を呼ぶカード。アルゼスタンに突き刺さる神秘のカードは、大きく黒騎士の体力を奪いとった。 「少しでも救えると判断したものは、必ず救ってみせる」 「その慢心と理想が、悲劇を呼ぶのだと何故わからぬ。方舟の革醒者!」 「スタン、言葉で彼らは退かないわ。これも神の与えた試練」 殺戮を否定する正義と、大を守るために小を殺す正義。 皮肉なことに、その決着は暴力によって決される。 ●アークの正義 「我が闇の前に屈するがいい!」 「ぅあ……!」 アルゼスタンの闇の波動により、杏子が膝を屈する。傷は浅いが、立ち上がるだけの力は残っていなかった。 「貴方達を裁くまで何度でも」 「まだ、俺には立ち止まれない理由がある。ここで倒れるわけにはいかない」 リリとレンもまた、黒騎士の猛攻の前に意識を失う。運命を燃やして意識を繋ぎとめ、銃を握り締めて戦場に足を向ける。 「しつこい……!」 「これで終わりです!」 かるたの稲妻がアルゼスタンの鎧を穿ち、その動きを止める。その意識が落ちるまで、彼は信念を曲げることはなかった。 「貴方の神と私の神は違っていた。 それがこの争いであり、ただ良い未来のためと行動できたかどうかの違いです」 凛子が皆を癒しながら、倒れるアルゼスタンに告げる。そのまま視線をサーシャのほうに向けた。彼女もまだ、戦いをやめない。 「拙者はまだ負けてないでござるよ!」 腕鍛がサーシャの一撃で倒れそうになる。弛緩した体に走る熱い炎。運命に愛された革醒者が燃やす唯一無二の武器。それを燃やして戦場に残る。 「お前らの正義はそれでいい。けどお前らの行動は正義にかこつけただけの殺戮なんだよ!」 夏栖斗が言葉と共にサーシャに言葉をぶつける。言葉は確実にサーシャの耳に響き、打撃は確実に聖女の体内に伝わる。しかし、 「だから? 殺すことで防げる悲劇がある。だから殺すのよ」 心までは響かず、信念までは伝わらない。血を流しながら、その正義は揺るがない。 「確かに果断なる決断が必要とされる事はあります。ですがあなたたちはは救うことを諦め、言い訳をしているに過ぎません」 その横から迫る冴。幼少の頃から繰り返してきた踏み込みと振り下ろし。身体に染み付いた動作と、心に刻んだ信念。 「チェストォ!」 踏み込んだ大地への踏ん張った力が膝、腰、胸、肩、肘、手、そして刀に繋がる。刀と身体が一体となり、そのまま振り下ろされる刀。それがサーシャを裂き、地に伏した。 戦闘不能になった『アガペー』をどう扱うかは、少し対立があったが多数決で拘束することに落ち着いた。 「貴方たちは簡易な道を選び私たちは苦難の道を選んだ。ただ、それだけの事です」 凛子がアガペーたちの傷を癒しながら、二人に言う。負けた以上、彼らも反論することはなかった。愚かな、と態度で語ってはいるが。 セリエバの召還が成功すれば、革醒者でもこのマンションは危険になる。 だが彼らはここを動かず、朗報を待つ。 「あとはユーリ、お前達の仕事だ」 レンは五階で戦う仲間たちのことを思う。『アガペー』によるマンションの殺戮は止めた。あとはセリエバの召還を止めるだけ。 通話状態にしてある幻想纏いから連絡が入る。 その結果は―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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