● 「大ッ嫌い!」 其れは大切なあの人へ向けてしまった言葉。 言葉は、まるで銃弾のようだ。 一度放ってしまえば取り返しのつかないもので、 だからこそいっときの感情に任せて撃ちだしたその言葉は私に大きな後悔を齎した。 大切なあの人――父は、天才ヴァイオリニストだった。 一年中世界を飛び回り、色々な場所で人々の心を魅了する。 私は、そんな父がとても誇らしかったけれど。 同時にその事実は私が本来与えられるべき愛情を喪失していた事も示していて。 だから、きっと―ー寂しかった。 私が十五歳になった時の誕生日。 其の日は、一年中家を留守にしていた父が必ず家に戻ってくる日の筈だった。 でも。 「……すまない、どうしても抜ける事ができないんだ。パパの演奏を楽しみにしてくれてる人が大勢いる。 その代わりと言ってはなんだがパパの友達に貰ったとても大切なヴァイオリンを君に贈るよ。誕生日おめでとう」 時間の限られた国際電話から聞こえてくる大切な、愛しい父の優しい祝福の言葉は。 けれど私には届かなかった。 家に送られてきた純白のヴァイオリンはとても美しかったけれど。 否、だからこそなのかも知れない。 癇癪を起こした私は。 「パパなんて、大ッ嫌い! 死んじゃえばいいのよ!」 其の言葉を放ってしまった。 電話越しの父は、とても悲しげな声で只ひたすら謝っていたのを覚えている。 父が海外で死んだという話を聞いたのはそれから二ヶ月程経ってからの話。 私は結局あの後意固地になって謝る事が出来ず、そうして結局永遠に其の機会を失ってしまった。 残されたものは、父があの時贈ってくれた純白のヴァイオリン―ーホワイトローズ。 ● 「何時か、何時かなんて幻想」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタ達にそう言葉を切り出した。 「伝えなくてはならない事があるのなら」 素直な気持ちで、意固地にならずに伝えなければ。 時に運命は残酷にも其の機会を、永遠に奪ってしまうのだとイヴが言う。 「六月には父の日というものがあるわ、父親に感謝をして祝福する日のことね」 そんな事は当然知っていると言わんばかりにリベリスタ達が頷く。 「父親に感謝の気持ちを伝えたい少女がいるの。名前は音羽(おとは)」 少女――音羽の父はもうこの世には居ない。 ヴァイオリニストだった音羽の父は、海外の公演先で不幸な事故に巻き込まれこの世を去った。 「彼女は父親が誕生日プレゼントに残してくれたヴァイオリンを使って、コンサートホールを貸しきって演奏するつもり」 其れは、天国に居る父親に向けた彼女なりの感謝の気持ち。 でも、とイヴが言葉を続ける。 そう……只、それだけであるならばアークが動く理由は無い。 「問題は彼女が貰ってしまったヴァイオリンなの。名を『ホワイトローズ』という其れはアーティファクトなの」 無名のヴァイオリン職人が人生を賭けて作り上げたそのヴァイオリンは革醒している。 「ホワイトローズには奏者の心に呼応して、エリューションを呼び込む力が備わってしまっている」 気持ちを込めて演奏すればする程、音羽の周囲にはその演奏に惹かれたエリューションが集まってくるのだ。 何の力も持たない只の少女がそんな状況に陥れば、演奏どころの話ではないし。 「何より、何よりも、彼女の想いが――大切な人に向けた感謝の気持ちが無駄になってしまう、だから」 貴方達には彼女が演奏を終えるまでの間、ずっと彼女を守り続けてほしいとイヴが言う。 「お願い。きっとこの演奏が失敗したら彼女は後悔してしまう」 必ず、成功させてあげてとイヴは最後にそう言ってリベリスタ達を送り出したのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月28日(木)23:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 今日は父の日――父親に感謝の気持ちを伝える特別な日。 だから今日はわざわざ此処を貸切ってこっそり一人で演奏するつもりだったけれど。 まさか、あんな事になるなんてね。 「こんにちは」 小さなコンサートホールの、エンストランスとホールを繋ぐ通路で。 飲み物を購入してホールへ戻ろうとした矢先、ふと後ろからかけられた声に音羽は思わず振り向いた。 振り向いた先には、幾人かの男女。 音羽は知る由もない事だが、彼等は皆フォーチュナの依頼によって此の場に集まるべくして集まったリベリスタ達だ。 最初に声をかけた少女――『Manque』スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)が少し緊張気味に音羽に微笑んだ。 「あら? えっと」 「私はスペードです、こちらは……」 「ああいや、そうじゃなくて。今日、貸切なのよ。ちゃんと警備の人にも伝えておいた筈なんだけど」 自己紹介を始めようとしたスペードの言葉を少しバツが悪そうに切りながら、音羽が言う。 彼女の言う『警備の人』とは恐らくは『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)の事だろう。 彼もまた此処に居る者達と同じリベリスタであり、事情を知らない一般人なら兎も角。 仲間がこのコンサートホールの中に入るのを止める理由は無い、むしろ。 「頑張って音羽たんを説得しなさいな!」 と、そう仲間たちに向けて言っていたのだった。 「私は祈。此処貸切だったのね、御免なさい。まさか人が居るとは思わなかったの。貴女は演奏を……?」 そう、気付かなかったふりをして話しかけたのは『紡唄』葛葉 祈(BNE003735)だ。 「そりゃ貸切ってるのは私だからね。演奏はするわよ、余り上手じゃないけどね」 苦笑交じりに、純白のヴァイオリンケースに目をやりながら音羽が答えた。 「それで――」 貴方達はどうして此処に、と共にコンサートホールの中へ入った音羽がリベリスタ達へ問いかけた。 「この場には想い出はあり、懐かしんで足を運んでしまった」 そう、答えを返すのは『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)だ。 拓真は思い出す。父親代わりだった祖父の事を。 そう、あの人も音楽を聴く事は好きだった。 「……亡くした恋人が、好きだったんだ。音楽が」 自分達が此処を訪れた理由を聞きたげな音羽に無愛想に、安羅上・廻斗(BNE003739)が答えた。 嘘なんかでは、ない。 多くは語らず、只それだけを告げた廻斗はそのまま適当な席へと座る。 「今日は、父の日でしょう? 音楽を好きだった亡き父のことを思い出していたら、自然と足が此処へ向いて」 そう、告げるスペードの言葉に。 「そうなんだ。……私もね、大好きだった人はもうこの世には居ないの」 凄い偶然、と。 今日は其の、もう天国にいってしまった父親に向けた演奏なのだと、少しだけ俯いた顔を上げ音羽が言った。 「もしかして。そのヴァイオリンは、貴女のお父様に頂いたものですか?」 「ええ、ホワイトローズって言うのよ。父が唯一私に残してくれた大切な贈り物なの」 『不屈』神谷 要(BNE002861)の問いかけに、静かに頷きながら音羽がヴァイオリンをケースから取り出し抱える。 ホワイトローズ。 其の名に恥じぬ純白の薔薇を彷彿とさせるヴァイオリンを演奏するのは、今日が初めてなのだという。 「ホワイトローズの花言葉には約束を守る、という言葉があるそうです」 「あの時、父は約束を守ってくれなかった」 ホワイトローズを見つめる音羽の瞳は、何処か陰りを帯びた様な、そんな表情。 「どんな約束だったのか、私には分かりませんが」 その時果たせなかった約束を守りに、きっと演奏を聴きに来てくれますよと要が微笑みながら音羽に言い、音羽もまたそんな要の言葉に、有難うと微笑みながら言葉を返したのだった。 と、ふと何かを思いついたかの様に。 「ねぇ。もし良ければ、貴女の演奏に合わせて歌を歌っても良いかしら?」 貴女の演奏が少しでも亡き父親に届く様に。 少しでもお手伝いをさせて欲しいのだと祈が提案した。 「……そうね、偶然なのかな。何だか不思議な気持ち、一人でこっそり演奏するつもりだったのにね」 いいわ、一緒にやりましょうと微笑しながら音羽が祈に言った。 ● 本当、何だか今日は不思議な日。 あの人達、年齢も服装もバラバラで、どういう集まりなのか知らないけれど。 でも、悪い人達じゃないって事だけは話していて判ったから。 この人達になら聴いて貰ってもいいかな、父に向けた大切な演奏を。 「人がいっぱい、何々? もしかして演奏会でもやるの? まこも聴きたい!」 不意に開いたホールの扉から、中へ入ってきたのは『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)だ。 そんな彼女を追いかける様に、今度は『花縡の殉鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)も中へと転がり込んでくる。 「勝手に中に入ったら色々と……もう手遅れか」 真独楽と帳尻を合わせながら、申し訳なさそうに遥紀が音羽に言う。 「いいわよ、もう。今日はほんと色んな人に会う日だって諦めたし。もう少ししたら演奏を始めるから折角だし聞いて行って?」 少し、笑いながらそんな風に音羽が言葉を返す。 「本当?」 「なら折角だし、聞いていこうか」 仲間達が既に上手くやってくれていた様だと、お互いに頷きあいながら真独楽と遥紀が言葉を返す。 「じゃあついでにオレも! オレも音羽たんの演奏聴きたい!」 一白置いて、元気な声と共にホールの中へ飛び込んできたのは竜一だ。 「貴方、ちゃんと貸切なの伝えてって言った筈だけど? っていうかたん付けしないで!?」 音羽が尤もな視線で竜一にそう訴える。 「丁度休憩に入る時間だったんだ。で、暫く暇してたら何だか楽しそうな声が聞こえてくるじゃない?」 其れで気になって覗いちゃったんだよなと言う竜一に。 「まぁ、今更一人増えたくらい……いいか」 貴方も聴いていってくれる? と、そう言う音羽に竜一が笑顔で頷く。 其れから、少しの時間の間リベリスタ達は音羽と交流を深めるべく会話を交わして行く。 コンサートホールに出るというお化けの噂、父について、音楽について。 幸いにも音羽はそうして会話をする事に抵抗は無かった様で、むしろ。 「本当はね、ちょっと心細かったの。ほら、やっぱり聴いてくれる人が居る方が安心するから」 リベリスタ達が話す事情を、其れ以上追求しないのはきっと、音羽が満足していたから。 「それじゃ、そろそろ演奏始めないと。このままじゃ会話してるだけで今日が終わっちゃうし」 楽しい時間は本当に直ぐに過ぎていくのね、とホワイトローズを手に取った音羽が舞台に上がった。 其の隣には、演奏に合わせて歌いたいと言っていた祈が立っている。 パチパチ、パチパチと。 ホールの舞台に立つ音羽に向けて、観客席から拍手が贈られる。 自身に向けて送られた拍手に少し、恥ずかしそうに音羽が観客席に向かってお辞儀をした。 其れから、隣に立つ祈に軽く会釈をした後静かに目を閉じ。 ――かくて、少女の亡き父へ向けた演奏は始まった。 ● 祈の歌と共に、ホワイトローズが音色を奏で始める。 あの時、父に言えなかった言葉――素直な想いを演奏という形で伝える為に。 「きっと、ちゃんとわかってるよ」 音羽に聞こえないような小さな声で、真独楽が静かに呟いた。 パパの事、嫌いなんかじゃなかったって。 音羽本人がそう言った訳ではなくても、リベリスタ達の誰もが彼女の演奏を聴いてそう思った、刹那。 不意に。 観客席の奥の方――誰も座っていない席にぼぅ、と火が灯った。 プラズマ、あるいは人魂と称するのが相応しいだろうか。 大小色も様々、幻想的なそのエリューション・フォースはひとつ、ふたつ、みっつと。 次々と出現し、ホールを照らしながら、まるで引き寄せられる様に舞台へと向かっていく。 「え……な、何!?」 突然ホールに出現し、ゆっくりと自分の方へと向かってくる人魂に驚いた音羽の演奏の手が止まる。 否――其の手が止まるよりも、速く。 「演奏をとめちゃ駄目!」 即座に観客席から飛び出し音羽を庇う様に人魂の前に立ち塞がった真独楽が声を上げる。 其れを皮切りにリベリスタ達が音羽の周囲に立ち、守る様に陣形を組む。 「お化け、出て来ちゃいましたね。でも……其れを成仏させるには、心に響かせる演奏が特に効果的です」 腕前が無くても、大切な人を想う気持ちが音羽にはあるのだからきっと、大丈夫とスペードが言う。 「……古来より想い込めた音は様々な事象を促す。此れも其の一つなのかも知れないよ」 萎縮する音羽を安心させる様に、あえて幻視を解いた遥紀が安心して、と優しく音羽に微笑みかける。 其の様はまるで、特別な日に父へ感謝の想いを伝える少女を護る為に舞い降りた本物の天使の様。 「怖いのならば目を閉じて、自分の演奏に集中して。大丈夫、音羽は私が……いえ、私達が護るから」 「昔、俺は大切な人を見送ってしまった。行かないで、とは言えなかった」 其れは拓真の中に今も在り続ける、心残り。 だからこそ。 「君は俺達が必ず守る。事情も後で話す、だから……今は、信じて演奏を続けて欲しい」 そう言って、前に立ち迫り来る人魂へと拓真はブロードソードを握りしめ、向かっていく。 「今度こそ、大切な人に想いを伝えましょう。その為に貴方は此処へ来たのでしょう?」 仲間たちに十字の加護を与えながら、要がそう音羽に呼びかける。 此処で辞めてしまえば、演奏が止まってしまえば、大切な人に気持ちを伝える機会が失われてしまう。 「警備員は警備するのが仕事さ!」 『雷切(偽)』を構え最前線に立つ竜一。 全身のエネルギーを込めた一撃で迫り来る人魂を一閃、押し戻すとゆっくりと音羽の方へと向き直る。 「君がもし、父の背を追うというのならば!」 一度引き始めた演奏は最後まで演じきって見せろと、君の父はそういうプロだったのだろうと音羽に言葉を投げかける。 「演奏を止めるなよ……最後まで聴かせろ」 あくまで無愛想に、しかし言葉に確かな優しさを込めながら廻斗が言う。 「私、私は……」 音羽の震える手が、再び音を奏で始める。 乱れかけた演奏のリズムが、少しずつ戻り始める。 ● パパはあの日。 自分の演奏を心待ちにしている人たちの為にプロとして、演奏したのだろうか。 決して私情を挟んで演奏を中止したりしない人、そんな父が誇らしかった。 今なら、分かる。 私も、止めちゃ駄目だ――伝えないといけないから。 何よりも、私の演奏を聴いてくれる人達が居るのだから。 「目障りだ!」 体力の減った人魂達を纏めて薙ぎ払うと言わんばかりに。 廻斗の手から放たれた暗黒が視界に映った人魂達を纏めて呑み込んで行く。 が、全ての人魂達を呑み込むには至らず何体かが脇をすり抜ける様に舞台の上の音羽へと襲い掛からんとする。 「音羽さんには」 「まこ達が指一本触れさせない! パパへの想い、絶対届けるんだから!」 が、そうして迫り来る人魂達を自分の身を呈してスペードと真独楽が庇う。 二人の身体に青白い火が燃え移り、身を焦がすも一歩も彼女たちは怯まない。 少し心配そうに二人を見た音羽に、大丈夫だよとスペードが微笑みかけ安心させる。 「此れ以上は抜けさせない、演奏を止めさせはしない」 拓真がまるでブーメランの様に『風絶』を人魂達に向け放つ。 放たれた其れは名の示す通りに風を切りながら人魂達を次々に消滅させていく。 そうして、三体、四体程が消滅した時。 ホワイトローズの音色に導かれる様に、新たな人魂達が観客席に再び出現する。 「どうやら四体程倒す度に増えるらしい」 最初に現れた人魂は十体。 其れを四体程始末する度に最初の数に戻る様に人魂は増え続ける事に気づいた拓真が仲間たちに即座に伝える。 「常時五体以上を相手にし続けるって事だね」 其の身に宿した聖なる光によって、音羽に迫り来る人魂達を焼き払いながら遥紀が言う。 「何体だろうと、最後まで守り切る!」 焼き払われ、体力を消耗した人魂を裂帛の気合と共に竜一が屠る。 しかし、人魂達も只やられているだけではない。 音羽の――ホワイトローズの元へ向かう自分達の邪魔をするリベリスタ達に次々とぶち当たり、其の身を焦がしてゆく。 「行かせません!」 伝えたい言葉はまだあるけれど、此れ以上は演奏の邪魔になるからと。 為すべき事を為すだけと自分に言い聞かせながら要が前線を抜けた人魂から音羽を庇う。 一体一体の力はさほど恐れるものでなくとも、次々に押し寄せる人魂の大群に少しずつリベリスタ達の体力が削られていく。 そんな仲間達を、待機していた祈が清らかな詠唱と共に歌を紡ぎ、癒していく。 「演奏し始めた時から思ってたけど」 凄く貴方の歌を聴いてると安心する、と音羽が演奏は止めずに祈へ賞賛を贈る。 ● 演奏は、続く。 大切な人へ伝える想いを伝えきる――その瞬間まで。 溢れる想いは隣で紡がれる歌とハーモニーを奏でながら響いていく。 増え続ける人魂の動きが目に見えて速く、強いものへと変わっていく。 もしかしたら其れは気のせいかもしれないが、或いは其れだけ音羽の音色にかけられた想いが強いのかも知れない。 強い想いに惹かれた人魂達を、しかし近づかせまいとリベリスタ達もまた渾身の力を振り絞り撃退し続ける。 真独楽が演奏に合わせ舞い踊る様に人魂達を次々に切り裂き。 スペードと廻斗が息を合わせる様に放った闇が、纏めて人魂達を呑み込み消滅させる。 撃ち漏らしたものもまた、竜一や拓真の爆発的な威力を秘めた強烈な一撃によって押し止められる。 其れでも迫り来る人魂達を音羽を庇う様に前に立つ要が庇い。 傷ついた仲間達の身体を遥紀と祈が天使の歌声によって、癒していく。 誰一人として屈せず倒れる事はない。 否、きっと倒れたとしても彼等は立ち上がるのだろう。 此の場に居る誰もが、彼女の父へ向けた演奏を成功させたいと願っていたのだから。 そんな彼等の想いに応える様に、音羽の演奏がより一層強く、フィナーレを迎える。 ● パパ。 私、パパの事大好きだったよ。 此れが私に出来るパパへの感謝の伝え方。 きっと、わかってくれるよね。 演奏を続けていた音羽の手が、静かに止まる。 其れは、父へ伝える想いを込めた演奏を最後までやり切った印。 ホワイトローズの演奏が止まるとほぼ同時に、あんなにも湧き続けていた人魂達の動きが止まり。 まるで成仏するかの様に残っていた全ての人魂が霧散していく。 コンサートホールに、僅かな静寂が訪れ……。 今度はその静寂を押し破る様に、ぽとりと水滴が床に落ちる音が響いた。 「こんなにも、君の演奏は心を震わせる事が出来る。きっと、音は羽となって君の父上に届いただろう、そう思う」 情けないな、と涙を拭きながらそう拓真が呟いた。 「そ、そんな事……あれ、おかしいな。なんで私まで泣いてるんだろ」 ぽたぽたと零れ落ち始めた涙を拭いながら、音羽がリベリスタ達に笑いかける。 「我慢しなくて良いんだ。苦しかったんだね、届かなくて、謝れなくて」 遥紀が優しく音羽の頭を撫でながら言う。 「演奏、とてもお見事でした。少し、お話があるのですが聞いて頂けますか?」 スペード達が、音羽の持つヴァイオリン――ホワイトローズについての事情説明を始める。 先ほどの人魂の様な存在を呼び込んだのが其のヴァイオリンだという事。 音羽にとって、父から貰った大切な物と分かった上で話をしているという事。 「大事なのは、楽器そのものではないはずだ」 「……何時か、此の純白を持ってまた伺うから一時だけ、預からせてくれないか?」 事前にラボで要が聞いた話によれば、あくまで可能性としてではあるが弦交換等で対策が取れるかも知れないらしい。 その後、また少し静寂が訪れて。 ゆっくりと、音羽がホワイトローズをケースに仕舞いリベリスタ達へと手渡した。 「良かったら、代わりにはなりませんが……友達として」 今度はスペードが自分のヴァイオリンを音羽へと贈る。 「宜しければもう一曲、演奏をお願い出来ないでしょうか? 今度は私も歌いますから」 自らもまた、父への感謝の気持ちを伝える為に。 想いは音となり、羽根を得て、遠い遠い場所へ響いていく。 今日は特別な日。 大切な人に、大切な想いを伝える日。 その想いを伝える為に、小さなコンサートホールの演奏は終ることなく続いていくのだ。 きっと、誰もが其の日の事を忘れる事は無いのだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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