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狐憑き。或いは、ほの暗い森の奥……。

●狐
 狐。哺乳類ネコ目イヌ科。肉食に近い雑食。世界中に分布している。
 そんな狐だが、日本では大昔から「人を化かす」なんて言われてきた。
 管狐であったり、稲荷神社であったり、そういう狐に化かされた話は枚挙にいとまが無い。
 だからきっと……。
 ある日突然、身の周りで不思議なことが起こることもあるのだ。
 狐は、どこにだっているのだから。

 喉の奥から絞り出すような甲高い鳴き声が、森に木霊する。木と木の間を抜け、岩に反響し、誰かの耳に届く。聞く人が聞けば、それが狐の鳴き声だと気付いただろう。
 その日、その時、偶然にも男はその鳴き声を聞いてしまった。
 鳴き声のした方向に視線を向けると、木々の隙間から覗く青い炎が見える。狐火というやつだろう。
 火は、ゆらゆらと揺れながら列をなし、真っすぐ、森の奥へと続いていく。
 それを追っていくと、小さな石の鳥居が目に入る。字は掠れて読めないし、鳥居自体も苔蒸して朽ちかけているように見える。
 その向こう見えるのは、参道の脇に並んだ2体の狐の石造。ここがお稲荷様を祭った神社だということが分かる。
 森の奥だ。ここまで、道らしい道はなかった。狐火が灯っていなければ、辿り着くこともできなかっただろう。
 狐の象の脇には、狐面をつけた白装束の男が立っていた。無言で一心不乱に石造を磨いている。よくみると、その男以外にも複数の人間が境内に立っている。
 奇妙なことに、全員が揃いの白装束と狐面を付けていた。そして、どこか呆けているようにも見える。
 その証拠に、男が近づいても気にする様子もない。気付いてさえ、いないのかも知れない。
 うっかり狐火を追ってここまで来たことを、男が後悔した。その時……。
 急に男の視界が真っ黒に染まる。なにか、仮面のようなものを被せられたのだ。慌てて、仮面に手をかえるが、しかし、そこで男の動きはピタリと止まった。
 金縛りにあったかのように、動けない。
 そして、男に意識は急速に遠ざかっていく。視界が序所に狭くなり、頭の回転が遅くなる。
 意識が途切れる前に男が聞いたのは、甲高い狐の鳴き声。
 自分の意識の隙間に、獣が入り込む感覚。
「あぁ……狐に憑かれるとはこういうことか」
 なんて、辛うじて漏らした言葉は誰の耳にも届かない。
 
●狐憑き
「E・フォース(狐)。フェーズ2が2体。元になったのは、忘れ去られた信仰心。もう一度信仰を取り戻すために、人を惑わし、神社を修繕しているみたい」
 左右の人差指で、自分の目をつい、と引きのばし細めながら『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう告げる。恐らく狐の真似をしているのだろうと思われる。
「紅い狐と蒼い狐がいる。神社の境内から出ることは出来ないみたい……。人に取り憑いて姿を隠すことができる。けど、攻撃する時や、取り憑いている人間が気絶した時に姿を現す」
 攻撃をするのなら、その時がいい、とイヴは言う。
「蒼い狐は冷たい青い狐火を、紅い狐は高温の赤い狐火を放つ。それから、狐面を付けた人間を操る能力を持つ」
 操られているだけの一般人だから、気をつけて。
 イヴは、指を2本立てて、前に突き出した。
「敵は2体だけだけど、一般人が多いから……」
 戦闘行為は慎重に。
「狐の化かされないように、気を付けてね」
 イヴはそう言って、集まったリベリスタ達を見渡すのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月30日(土)00:34
こんばんわ、病み月です。
今回は、狐と狐に化かされ、憑かれた人間の話です。
以下情報。


●場所
忘れ去られた稲荷神社の境内。中心に本殿があり、すぐ傍に1本、巨木が生えている。恐らくご神木か何かだと思われる。
 狐面に白装束の操られた人間が、15人ほど境内にいる。

●敵
E・フォース(紅い狐)
フェーズ2
 信仰心が元となって発生したE・フォース。紅い炎を纏っている。狐憑き状態の人間に取り憑いて身を隠すことが可能。
【狐火・赤】→神遠範[業炎][不吉]
 高温の炎を発生させる。
【金縛り】→物近単[呪縛][不運]
 狐面を被せ、身動きを封じる。

E・フォース(蒼い狐)
フェーズ2
 信仰心が元となって発生したE・フォース。蒼い炎を纏っている。狐憑き状態の人間に取り憑いてィを隠すことが可能。
【狐火・青】→神遠範[氷結][重化]
 超低温の炎を発生させる。
【幻覚】→神遠範[混乱][呪い]
 幻覚を見せて、相手を化かす。


●その他
人間×15
白装束に狐面の人間達。狐に操られていて、自我はない。狐憑き状態にある。狐が取り憑き、身を隠すのに使ったり、あるいはこちらの足止め、攻撃してきたりもする。
気絶させることで、取り憑いている狐を外に追い出すことが可能。
普通の人間より力が強く、獣っぽい動きをする。
 

以上になります。
では、よろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
テテロ ミーノ(BNE000011)
ナイトクリーク
花咲 冬芽(BNE000265)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
インヤンマスター
岩境 小烏(BNE002782)
ナイトクリーク
椎名 影時(BNE003088)
ホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)

●狐の社
 木々な間を縫うようにして、辿り着いたのは森の奥の神社。鳥居の向こうに、稲荷神社の証である狐の象が置かれている。
 その先には、朽ちかけた本殿。巨大な御神木。そして、その周りを囲む15人の人影。手には箒、顔には狐面、身に纏うは白い着物。境内の掃除をしているのだろう。
 彼からは生気というものが感じられない。ただ黙々と命令された通りに動いているという印象が強い。それもそのはず、彼らは狐に憑かれ操られているのだ。
 境内に蒼と紅の炎が灯る。ぼんやりと闇に浮かぶシルエットは、4本足にふさふさの尻尾、面長の顔と、鋭い眼差し。炎を纏った2匹の狐であった。
 喉の奥から絞り出したかのような、甲高い鳴き声が闇の中に響く。蒼い狐の纏う炎が火力を増した。
 それは、鳥居を潜って境内にやってきた8人のリベリスタに対する牽制であった。

●狐憑き
「うわ、っとと……!?」
 短い悲鳴を上げたのは、烏面で素顔を隠した『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)だ。境内を潜った瞬間、空から降って湧いた落石に目を見開いて、跳び退った。
 しかし、木々に覆われた神社の境内に、岩など降り注ぐ筈がない。蒼い狐による、幻覚攻撃によるものだ。真っ先に境内に踏みこんだ数人が、その幻覚の餌食になったようだ。
「ミーノはこんかいのいらいのしきかんやくっ!」
 小学生かと見紛う小柄な身体で飛び跳ねながら『おかしけいさぽーとじょし!』テテロ ミーノ(BNE000011)が叫ぶ。指先が淡く光り、幻覚による状態異常を払うためにブレイクフィアーを発動させた。
「お稲荷様に狐憑き。人間と狐さんの関係は、昔から良し悪しですよね」
 そう呟いて『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658)が光の矢を放つ。混乱して視線の定まっていない仲間たちに迫る、狐面の人間達を牽制する。いつの間にか、蒼と紅の狐は姿を消していた。
「信仰心故のエリューション。神社へ何か出来ると良いのですが……まずはこの状況の解決ですね」
 写本を開き、その上に眩い光を集めながら『節制なる癒し手』シエル・ハルモ二ア・若月(BNE000650)が、そう囁いた。まだ自分の出番では無いと判断したのか、テテロ達の後ろに控え、機を窺う。
「狐ねぇ……。縁深い感じダナ、色んな意味で」
 傍らで騒ぐテテロに視線を送りながら『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が、頬を掻く。彼女はテテロの護衛がもっぱらの目的のようだ。ナイフを手に、その傍らに控えている。

 綿谷の放つ光の矢を避け、数人に人間達が境内を駆ける。ひと固まりになって鳥居を潜ったリベリスタ達に対し、人間達は敷地内に散開するよう動く。彼らを操る狐の判断だろうか。比較的頭の回転が速いように思われる。
「人に仇なすだけの神様は討伐されるのが昔っからのセオリーだ、ここは遠慮なくいかせてもらうぜ!」
 先ほどの幻覚を振り払うように、小さく頭を振って『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)が、前に飛び出した。ライフル銃を肩口で構え、境内の外周に沿って移動する。
「こんなに集めて、終日宴かい?」
 草臥とは反対側へ向かって駆けるのは『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)だ。2本のナイフで、仮面の人間の動きを牽制しつつ、回りこむ。距離をとられることを恐れての行動だ。
「祓い給へ 清め給へ 守り給へ 幸え給へ」
 足元から伸びる影を、人型のまま固定し舞うように境内を駆けるのは『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265)である。舞い踊り、気糸を伸ばし、狐面の人間の足を捕らえる。人の中に隠れた狐を追い出すためだ。
「まず一般人な」
 岩境が前へ出る。狐の出現を警戒し、辺りに気を配っている。
「みんなっいっぱんのひとはやっつけたらだめ! なの~っ! ふさつすきるでやさしくこーげきしてねんねしておいてもらうの~っ」
 ある程度、1か所に人が集まったのを見てミーノが腕を振り下ろす。それが合図だったのだろう。人に当てないよう、細心の注意を払いながらシエルが予め用意しておいた閃光を放つ。
「聖なる光…呪縛の力を退け…無辜なる人々に救いを……」
境内に広がった聖なる光が、強く瞬く。闇を照らす炎のようにも見えた。
 間近で光を浴びた数人の動きが止まる。中には火傷を負っているものもいるようだ。
 未だに意識の残る相手に、駆け寄った岩境がスタンガンを押し当てる。バチっと電気の弾ける音がし、倒れていく。倒れた端から、花咲が用意していたワイヤーで拘束し、身動きが取れないようにする。
「これくらいの糸捌きはさくっとできないとねっ♪」
「ごめんなさい……。今しばらくお休みくださいませ」
 倒れた人に駆け寄るシエル。すぐさま、火傷を負った者に対し治療を施していく。
「仮面、取っ払っとくか」
 そう言いながら、狐面に手を伸ばす岩境。狐面の縁に指がかかった。
 しかし……。
「うおっ!?」
 その背に、炎の弾が激突する。炎の弾は円を描くように展開され、狐面の人々からリベリスタを遠ざけていく。炎に包まれた岩境が地面を転がる。
「ことりちゃんっりゅみえーるっ! あそこっ! そのひとからでてきたよっ! いまなのっ!」
 テテロが指さしたのは、本殿の正面と御神木の裏の2か所だった。本殿には紅い狐、御神木側には蒼い狐が姿を現している。
「ごめんね、でもキミのため」
 蒼い狐が先ほどまで潜伏していたであろう人間は、素早く駆け寄った椎名の気糸で縛られ、身動きを封じられる。すぐさま、ナイフの柄でその仮面を打ち砕いた。意識を失ったのか、狐面が倒れる。近くには他に人間がいない。これで、蒼い狐は逃げ場所を失った。
「ことりじゃない、小烏だっ」
 なんて、自身の呼び名を訂正しつつ岩境が地面を蹴って、跳ぶ。彼を止めようと群がる人間達を避け、紅い狐に駆け寄っていく。
「誰にも憑かせねぇ。この面見ろよ、狐の下につく気は毛頭ねぇぞ」
 式符で作った鴉を飛ばし、紅い狐を牽制しながら岩境が本殿に迫る。一方紅い狐は、炎の弾を無数に飛ばし、その進路を塞ぎにかかった。
 狐と烏の攻防戦が展開させる。
次の瞬間、テテロの指示に従ったリュミエールは疾風のごときスピードで境内を駆け抜けていた。境内の木や看板、地面などありとあらゆるものを足場に使用し、紅い狐に迫る。炎を避け、本殿へ。
「興味はあるし、会話が通じつなら話をしてみたいが……無理そうダナ」
 深く地面に沈み込むように伏せ、狐の死角からナイフを一閃させる。岩境に意識を向けていた紅い狐は不意を突かれ、肩口を切り裂かれた。炎が飛び散って、狐が地面を転がっていく。
 しかし、不意にリュミエールの動きが止まった。見ると、その顔にはいつの間にか狐面が被せられていた。金縛りによって、身動きを封じられてしまったようだ。そんな彼女に炎が襲いかかる。
 渦巻く炎を掻きわけて、岩崎がリュミエールの救出に向かった。

 同時刻、蒼い狐は2本のナイフを構える椎名と対峙していた。狐が逃げこむための人間は、花咲が喰いとめているため、人の中に逃げることができないでいる。
 牽制に蒼い炎を放つが、椎名はそれを回避し続ける。業を煮やしたのか、蒼い狐が甲高い鳴き声を上げた。同時に、蒼い炎がゆらゆらと不規則に揺れ広がっていく。始めに受けたものと同じ幻覚攻撃だ。意識が曖昧になり、目の前が闇に覆われていく。
 闇の中で、椎名は足元に迫る冷気の存在を感じていた。きっと、今頃自分は蒼い炎に巻かれているのだろうと判断する。
 体の自由が奪われていくのが分かる。
 その時……。
「黙って化かされるわけにはいきませんよ、今回は!」
 遠くで、綿谷の叫び声。放たれたのは、光の矢だ。椎名に襲い掛かっていた狐の胴を射ぬき、弾き飛ばす。
「シエルさん、今です!」
 綿谷の合図と共に、シエルが走る。行き先は、本殿手前。炎に巻かれたリュミエールと岩境の治療に向かったのだろう。
「もくれんっ! おさえぐみがくせんちゅうっいっしょにおさえやくおねがいしますなのっ!」
 テテロが叫ぶ。
「あいよっ! 全力で押さえる!」
 精密な射撃で、蒼い狐を牽制しつつ草臥は椎名に駆け寄っていく。同じように綿谷も紅い狐目がけ、光の矢を放つ。
 蒼い炎の壁を突破し、草臥は狐に肉薄することに成功。ライフルの底で、狐を押さえにかかった。狐の牙と、銃底がぶつかった。狐が身に纏っている炎が勢いを増す。炎にあぶられながらも、草臥は、引かない。即座に全力防御に切り替え、狐の攻撃に耐える。
 今の内、と言わんばかりにテテロが淡く輝く両手を大きく開いた。
「ぶれいくひゃー」
 混乱状態の椎名と、麻痺状態のリュミエールに身体に光の粒子が降り注いだ。少しずつ、身体の不調が癒されていく。
「強敵なれど光……皆さまと一緒なら頑張れます」
 シエルは、岩境とリュミエールの身体を癒すため、祈りを捧げる。皆の作ってくれた時間を無駄にしないため、全身全霊をもって、癒し手の役目を果たすのだ。
「さぁ、その枯れた信仰に花を咲かせましょう?」
 その間、踊るような動きで境内を駆けるのは花咲であった。狐の元へ向かおうとする人間から順に気絶させ、ワイヤーでその身を拘束して回る。時には気糸を伸ばし、傍まで逃げてきた狐を牽制することも忘れない。ピンクの髪が風に舞い、まるで桜吹雪のようでもある。
 彼女の働きにより、残る狐面は2人となった……。
 箒を振りあげ、襲い掛かる1人を背後から岩境がスタンガンで気絶させる。それをワイヤーで縛ってから、花咲は境内を見渡した。
 倒れているのは無数の人。片っ端からワイヤーで拘束され、身動きを封じられている。何かしらダメージを負っているものに対しては、順次シエルや綿谷が治療を施すであろう。
「わるいきつねさんみんなをあやつったの~おなじきつねとしてゆるせないのっ!」
 頑張ってやっつける、よッ! と、ミーノが宣言する。
 蒼と紅の炎はいつの間にか消え、狐面の人々も地に伏している。境内の左右に分断された蒼い狐と紅い狐は、炎を纏ったまま、じりじりと後ろに下がる。
 境内に、束の間の静寂が訪れた……。

●稲荷神社と信仰心……。
 テテロの視線が、境内を走る。後方からの戦闘指揮が彼女の役割だ。シエルと綿谷は、ワイヤーで縛られ、地面に伏した狐面達に治療を施している。
 紅い狐に対峙するのは、岩境とリュミエール。一方蒼い狐を前後から挟むように立っているのは、草臥と椎名だ。紅い狐と蒼い狐を分断するように、花咲は本殿正面にて最後に一人残った狐面の相手をしている。
 最初に動きがあったのは、狐面の人間であった。地面を蹴って、花咲向かって駆ける。迎え撃つため、気糸を伸ばす花咲だったが、そんな彼女目がけ蒼い炎が襲いかかる。
「つめたッ…・・!?」
 咄嗟に炎を振り払う花咲。そんな彼女の横を、狐面が駆け抜けていった。向かう先は地に伏した他の狐面の所。ワイヤーを解いて、その身を自由にするつもりだろうか。
 しかし、届かない。狐面の足元に、光の矢が突き刺さる。一瞬、その足が止まった。それが致命的な隙となる。背後から駆け寄った花咲が、ワイヤーでその身を拘束し、近くにいたシエルがスタンガンを押し当てる。狐面の身体が大きく跳ね、意識を失った。
「是非もなし……でも、ごめんなさい。後で疾くお怪我を癒しますね」
 ドサ、っと大きな音をたて狐面が地に伏した。
「術式、迷える羊の博愛!」
 即座に綿谷が治療を再開する。
 これで狐面15人、完全制圧完了となった。

「こんな森の奥に祀られていても、きっと通っていた人は多かったんだろうな……」
 眼鏡の奥の瞳を細めて、草臥がそう呟く。その間も、指はライフルの引き金にかかったままで、蒼い狐照準が合っている。時折、狐の動きを制するように銃弾が撃ち出さ、その隙に椎名のナイフが狐を切りつける。
 蒼い狐が、花咲目がけ炎を放ったことがキッカケにこちらの戦場も動き出した。
「狐よ、よく聞いて。失われた信仰、取り戻さんとするのに必死だね。でも、こんなやり方は神にあらず。信仰が欲しいなら僕が信仰を捧げに来るよ」
 椎名のナイフが振るわれ、その度に蒼い炎が散っていく。逃亡も、反撃も、草臥れの射撃により防がれ、蒼い狐は既に満身創痍だった。
 狐が鳴く。境内に、甲高い鳴き声が響き渡った。その身にナイフによる斬撃を受けつつも、狐の身を包む蒼い炎が燃え上がる。炎は一瞬で椎名の身体を包み込み、氷漬けにする。
「こいつ、まだ……!」
 狐を逃がさないよう、草臥が再び狐と距離を詰める。銃弾を放ちながらの接近、狐の動きをその場に縫いとめる。
「ぶれいくひゃー!」
 テテロの声。淡い光に覆われて、椎名の身体を覆う氷が溶けていった。自由の身になった椎名の身体から禍々しいオーラが湧きあがり、伸びる。
「エリューションとして堕ちるより、神として僕の中で生きろ」
 その言葉は狐に届いただろうか……。
 伸びたオーラは、狐の頭部に振り下ろされた。蒼い炎が闇の中に散らばり、そして消えていった……。

「今回はミーノが居るから、更に高みに速く強く圧倒的にしてやる」
 超低姿勢から繰り出される鋭い斬撃が紅い狐に襲い掛かる。リュミエールによる死角からの一撃を、野生の勘で回避した狐だったが、その先には岩境の飛ばした鴉の姿。狐に襲い掛かる。
「さぁさ祟りの時間だ。この無礼な鴉にバチ当ててみな!」
 近距離からの斬撃と、遠距離からの鴉による波状攻撃が、着実に狐にダメージを負わせていく。その度に高温の炎が散って、石畳を溶かしていく。 
 狐の視線がリュミエールとテテロの間を何度も往復する。狐同士、なにか惹かれるものがあるのかもしれない。とはいえ、今は戦闘中。気を抜いている暇などないのだ。狐は纏う炎の勢いを増して、自身を守る壁とする。
「稲荷の使いの相手と参ろう!」
 身体の周りに術式で生み出した刀剣を舞い踊らせ、袖から飛ばした鴉と共に岩境が炎の壁を突き破る。周囲に展開する刀が、炎を掻き散らす。そんな岩境の横を、炎の塊が通過していった。否、それは自身の纏う炎に包まれた紅い狐であった。
 しかし……。
「定期的にお参りくらいはしてやるさ。無論、ミーノと一緒に……」
 キュ、っとゴムが擦れる音。石畳の上で、急転回しつつナイフを振るうリュミエールだ。光の線が宙に描かれる。高速で突き出されるナイフの軌跡だ。多角からの突きが狐の纏う炎を掻き消していく。
 ナイフで刻まれながらも、なんとか地面に降り立った狐は、牽制するように炎を伸ばす。リュミエールが回避のために後ろに下がる。その隙に、狐はその場から逃げ出した。
 目的は、地面に伏したままの狐面達か。
 否、そうではない。狐が向かう先にいたのは、テテロである。キツネのビーストハ―フということで、なにかしら惹かれるものがあるのだろうか。炎を散らし、石畳を焦がしながら狐はテテロに向かって駆け抜ける。
「もとはみんなのしんじるこころからうまれたってイヴちゃんがいってたの」
 向かってくる炎の塊から、逃げようともせずテテロは笑う。
「……だからたぶんきっとほんとはいいきつねさんなのっ」
 そう言って嬉しそう笑うテテロに辿り着くことなく、紅い狐の動きが止まった。力強く地面を蹴っていた脚の動きも鈍くなっている。テテロを守ろうと、狐を追っていたリュミエールもそれにつられて動きを止める。紅い狐は、じっとテテロに視線をやってそれから今度はリュミエールの顔を注視する。
 なにか、思う所があったのだろうか……。
 甲高い鳴き声を上げて、自分の身体を炎で包む。近寄ることをためらうほどの火力の炎が、石畳を焦がし、木の葉を炙る。
 炎に駆け寄った花咲のポケットから大量のカードが零れ渦を巻いた。闇の中、カードが作った竜巻は、炎の壁を打ち消していく。
 炎が完全に消えた後、その場に紅い狐の姿はなかった。あったのは、ただの狐面が1つだけ。一部が焦げ、どこか古びた印象を与えるその狐面は、恐らくこの神社に祀られていたものだろう。
 それだけを残して、狐は消滅したのだった……。

●後の祀り
 狐憑きから解放された人間達は、岩境の魔眼で操って町に返した。
「うどんか蕎麦でも食いに行こうや、奢るぜ?」
 そう言う岩崎を横目に見ながら、シエルは本殿に油揚げを備えていた。その隣では、帽子を目深に被った椎名が、賽銭箱に小銭を投げ入れている。
 一方で、花咲や綿谷、草臥などは疲れたような顔をしつつも神社の境内を箒で掃除していた。荒れた境内をそのままにして帰るのは、気が引けたのだろう。
「縁深い感じだったな……」
 そう呟くリュミエールの隣では、紅い狐が残した狐面を手にしたテテロがじっとそれを眺めていた。口に咥えているチョコレートは友人である草臥に貰ったものだ。狐面を顔の高さに持ち上げる。
「つぎにでてくるときはみんなとなかよくしてねっ」
 そう言って、ピンクの髪に面を乗せ、テテロは笑う。
 紅い狐と蒼い狐。信仰から生まれたE・フォース。
 朽ちかけた神社を再建するために現れ、そして消えていった彼らが求めたものは信仰心。
 そのことを胸に刻み、リベリスタ達は朽ちた神社を後にするのだった。
 いつの間にか朝が訪れていた……。

 
 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした、依頼は成功です。
大勢の一般人と、狐の相手討伐は無事成功です。
わずかばかりの信仰心を取り戻し、狐たちは消えて行きました。
それでは、そろそろ失礼します。
お楽しみいただけたら幸いです。
ではまた、縁がありましたらどこかで……。