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直視と贖罪

●動物の死を見続けた男
 男は犬や猫が好きだった。
 だから、動物達の辛い現状と向き合って、少しでも救ってやりたかった。
 けれどそれでも、男がする事は毎日変わらない。
 男が目にする光景も毎日変わらない。
 男は今日もボタンを押す。
「――――ん?」
 異変に気が付いたのはボタンを押してからだった。
 頭に手をやってみれば柔らかな何かが頭から生えていた。むずむずする尻に手をやると短毛の何かが生えていた。
 鏡を見なくても解る。この感触は、犬の耳と尾だ。
「おい、何の冗談だ。こりゃあ……」
 呟けばそのタイミングで同僚が部屋に入ってきて、見るや同時に吹き出した。
「おまっ、何だその頭!」
「あぁ? ……知らんよ。それよりな、」
「……あ? 何―――ガッ!!」
 男は暗い顔で同僚を捻り上げた。沈んだ瞳には苛立つ感情すら失くしたように見える。
「お前さん――今、何で笑ってられるのかね。俺は、」
 ―――ぐしゃり。
 男は殺す心算など毛頭無かった。しかし、捻る右手に力を込めると、何の造作もなく同僚は死んでしまった。
 一瞬自分の身に絶望がフラッシュバックしたのは、その『右手』が、いつも『ボタン』を押す手だったからか、解らない。だが、同僚の亡骸も同じように恐怖に瞳を見開いていた。
 彼もまた何か“自責する事”でも思い出したのか。解らない。
 だが男は何の感慨も沸かなかった。
 “処分”した彼らの前で笑えたこの同僚も、病気になったから、年老いたからと“処分”させに持ち込む人間と同じに思えてしまった。だから、何の感傷も沸かないのだろう。
 しかし、不意に走り出した先はボタンを押した、ガラスの向こうの檻の中。
 ――待て、待て! 俺にこんな異変が起こったのなら、こいつらにも何か起こってるんじゃないか?
 ――生きててくれ、生きててくれ。まだ生きててくれば!
 男はガス室の扉を開けた。
 温もりを失った犬の姿、猫の姿。そう、此処は“そういう場所”だった。
 人間の都合で捨てられ、持ち込まれた動物達の末路の場所。救える数は増えていても、それでもまだ、零には遠い。
「嗚呼―――」
 男は絶望した。しかしその男の前でぴくりと動く、死んだ犬。猫。手を差し出せば匂いを嗅ぐような仕草をする。
「お前達……」
 あんな目に合ったのに。合わせてしまっているのに。男が俯きかけた時、悲鳴が聞こえた。
 殺してしまった同僚を誰かが見つけたのだろう。その声に興奮したのか、犬達が騒ぎ始めた。それがいつも聞こえる、タスケテという言葉に、男は聞こえた。
 男は走り出した。
 施設の檻という檻を破壊し、死を待つだけの犬や猫達と一緒に、逃げ出した。

●理想と現実
 リベリスタ達を迎えたフォーチュナ、『あにまるまいすたー』ハル・U・柳木(nBNE000230)は珍しく何も言わずモニターを見続けていた。犬のぬいぐるみを撫でながら、振り向かずに口を開く。
「今回の依頼はフィクサードの捕縛、若しくは討伐。及び、犬猫のエリューション・アンデッドの討伐――何と言ったらいいかな」
 ハルは苦々しく頭を掻いた。
 そうしていても仕方ない。託すべき情報を纏める様に息を吐いて、漸くリベリスタ達に向き直る。
「動物愛護センター。収容所。……捨てられた犬猫の行きつく場所。そこの従業員の一人が覚醒してフィクサードになった。そして人を殺した。このフィクサードの捕縛、若しくは討伐が一つ目の目的」
 モニターに映し出されたのは草臥れた中年の姿。その姿はやつれてすら見える。
「そして犬猫のアンデッドが五体だね。こっちの討伐が二つ目の目的。――彼らは男の傍に居て、すぐに襲い掛かって来ることは無い。もし説得するならその間に、もしくは、不意打ちで片を付けるなら出来るかもしれない」
 ハルは肩を竦める。
 でも、もし説得の道を選ぶならそうゆっくりはしていられない。
 時間が経てば動物達のフェーズが進行してしまう。そうなれば個体は強化され、男の制止も効かなくなる。
 男はそもそも彼らがアンデッドだと気付いていない。いや、生きていると思い込みたいだけかもしれない。だがそれでも、人間を襲う動物は“処分”されてしまう世の中だから、例えもしアンデッドだと知ったとしても、男は彼らが人間を襲うのを良しとしないだろう。けれど彼らが人間に牙を剥くのなら、男も共にその道を往く。
 決してやりたくはない、楽しんだ訳ではないにせよ、“処分”のボタンを押し続けた男は、心の中にくすぶり続けた自責の念に心を蝕ばれ、その道を選ぶ確率は高い。だから、フィクサードの方も生死は問わない、と、ハルは言った。
 モニターに映し出されたのは、エリューション・アンデッド。その周囲には沢山の犬や猫も居た。
「……この動物達は?」
 リベリスタの一人が恐る恐るといった風に訪ねる。ハルは肩を竦めた。
「彼らはエリューション化していない、男が施設から連れ出した普通の犬猫達だよ。――男は犬や猫を愛してる。だから、彼らは決して巻き込まない。巻き込ませない」
 それだけは安心して欲しい、と、ハルは言った。
「男はこの子達がいる限り逃げる事はない。決着がついたなら、この子達はアークで一時保護しようと思ってるから、君達はフィクサードとエリューションを頼むね」
 助けられる命は助けたい。
 それは、僕達も変わらず思う所だとハルは苦笑して、リベリスタ達を見送った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月22日(日)22:27
さっくりと終わらせるつもりなら簡単に終わる依頼です。
説得を混ぜるか、切り捨てるか。ご参加をお待ちしております。

●成功条件
 フィクサード『犬飼・健治』の捕縛もしくは討伐。
 E・アンデッド×5の討伐。

●敵情報
 フィクサード『犬飼・健治』
 ビーストハーフ(犬)×ホーリーメイガス
 三十路を過ぎた、いかにもくたびれた中年の風体をした男です。柴犬の耳と尻尾を有します。思考はややネガティブ寄り、既にセンターの同僚を手にかけています。エリューションを庇うような位置取りを行う傾向にあります。
※使用スキル
「神気閃光」「浄化の鎧」「セイクリッドアロー」
EXスキル「罪の右手」物近単:高クリティカル、Mアタック20、反動、必殺
右手で相手を掴む事で自分の中に宿る負の感情を流し込み、その人が抱えている「自責の念」をフラッシュバックさせ心を砕き、更にダメージを与えます。
(※この攻撃に対してフラッシュバックしてしまう何かや反応がある場合は、プレイングにどうぞ)

 E・アンデッド×5:フェーズ1(フェーズ2)
 初めはそこまで脅威ではありません。ですが、時間がある程度経過すると「ブチ犬」と「白黒猫」がフェーズ2へ侵攻し、個体能力が上がります。兆候は無く、唐突に変化します。
 健治に懐いている様子を見せますが、フェーズ2になった時点で凶暴性に歯止めが効き難くなり、一旦攻撃を開始すると回りのエリューションはつられるように後に続きます。
 攻撃対象は敵意若しくは刃を向ける者>人間>その他の順です。

・ガタいの良いブチ犬…体力、攻撃力が高め
・垂れ耳の老犬
・茶色の子犬…体力低め
「咬みつき…物単近・出血」「吼える…神遠範・ショック」
※ブチ犬、フェーズ2追加「毒の牙…物単近・毒・連」

・貫録のある白黒猫…防御、クリティカルが高め
・灰色の子猫…体力低め
「ひっかく…物単近・ブレイク」「甘える…神単遠・混乱」
※白黒猫、フェーズ2追加「魅惑の鳴き声…神全遠・虚弱・隙」

また、フィクサード、エリューション共に非戦スキル「暗視」を所持しています。

●場所
 人里離れた山の中腹です。時間は夕暮れ~夜間、皆様で調節して下さい。ただし、夜間の場合は明かりが必須です。
 道路など人為的なものは全くない、森の中のひらけた場所での戦いとなります。ただし木々により行動が制限される等はありません。多くの犬猫の気配があるので、少し探せば見つかるでしょう。
 山の麓にも住宅等はありませんが、山を降りて暫く行くと、男やエリューション達が居た動物愛護センターがあります。山への捜索は翌日以降にされる様で、警察等が現場に来る事はありません。

●補足
 フィクサードの後ろには多くの犬や猫が居ますが、木々に潜んだり、距離を置いたりするので戦闘に巻き込むことはありません。範囲に入りそうな場合、フィクサードの方も庇うか逃がそうとします。しかし、男や群れから遠く離れる事はないようです。
 依頼が成功した場合、この犬猫達はアークで一時預かり対処をするようなので、特に対策は必要ありません。ですが、遊んだり持ち帰りを検討するのは可能です。(アイテムの発行処理はありません)
 愛護センターに居た犬猫で、多少怯えている子が多いですが、健治がある程度人間に懐かせている為、急に噛みついて来たりする事はありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
雪白 音羽(BNE000194)
覇界闘士
衛守 凪沙(BNE001545)
★MVP
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
スターサジタリー
ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)
デュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
ナイトクリーク
月野木・晴(BNE003873)

●スイッチを押す者
「暗くなる前に終わらせたい、ところですね」
 初夏の夕暮れは非常に緩やかに進む為、時間の感覚を知らず奪うことがままある。だが、確実に時間は過ぎているし、夜闇は差し迫っている。動物愛護センターに視線を向け、『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)は言葉を紡ぐ。
 フィクサード一人とエリューション五体。討伐するだけであれば容易く成し遂げるであろうメンバーだったが、同時に、ただ機械的に討伐するだけでは納得できない者が多かったのも事実である。
 運命に愛されないエリューション、命を弄ぶフィクサード。枚挙に暇がないそんな話を考え、『紺碧』月野木・晴(BNE003873)の気分が優れないのも当然と言えば当然だろう。だが、今回のフィクサードはまた違う意味で、戦いにくい相手なのだ。
(動物を人の都合で殺してしまう事、それは悲しい事です)
『Fuchsschwanz』ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)からすれば、人の都合に終始した生き死にが人間以外に波及することは、見ていて心地良いものではないだろう。だが、それでも健治が人を殺したのは事実であり、そこだけは違えるべきではない事を知っている。
 医師であり、死を最前線で見てきた『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)にとっても似たようなものだ。ただ、彼女は死を見ても怯まなかったし、前を進むことを選択したという、それだけの違いかもしれない。
 ペットのトラブルというのは数あれ、結局は飼い主側の都合に終始する。それらを受け止める側として思い悩む者が居ることは仕方ないことだろうか、と『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)は考える。仕方ない、と思考を切り上げるのは決して彼女の好むところではないのだろうが、助けるという選択肢が遠く感じてしまうのも、しかたのないことなのだろうか。
「すべての人がそんな酷いことをしてるわけじゃねーだろ」
 やるせなくても、仕方なくても、それを世界全てに当てはめていいわけではない。それによって敵意を無闇に発散させるのは間違っている。雪白 音羽(BNE000194)は、当たり前ながらも欠落したその思考をぽつりと口にする。
 当たり前だからこそ、忘れられがちではあるが……それでも、やはり、はっきりと認識しておく必要があるのだ。
 捜索をするう上で、『灼熱ビーチサイドバニーマニア』如月・達哉(BNE001662)は冷静であった。冷静であるがゆえに、フィクサード・犬飼との邂逅、その役割を理解している表情は、鋭い意思を持っているといえるだろう。
 反して、『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の感情は非常にドライだ。それが現実認識を正しくしているという考え方も、ひとつの物の考え方としては真っ当であるといえるだろう。
 リベリスタに理想は語れない。リベリスタは役割を違えることは出来ない。出来るとするならば、その理想をできる限り近付けること。

 森の中を疾走し、時折背後を振り返りながら逃げ続けるのは彼らの標的とするフィクサードである犬飼・健治だ。
 常識を超えた速度で長距離を駆け抜けた彼に、しかし息の乱れは見られない。振り返るのは追いつかれる恐怖よりは、むしろ連れだした動物達への配慮だろうか。
 この時、彼の注意がほんの少しでもエリューション化した者達に向けられたなら、能動的な呼吸をしていないことにも気付けただろうが……難しい相談だと言えるだろう。

「こんばんは! 俺は月野木っていいます」
 逃げて逃げて随分と逃げた。逃げ果せることも出来るだろうと高をくくっていた。だが、どうやら自分を取り巻く環境はそうそう生易しくないのだと、この瞬間に健治は理解した。
 晴の声が軽く、表情は穏やかで、敵意の薄い様子に安堵しかけ、しかし彼の背から伸びた一対の翼に、視線は釘付けになる。
「全ての人間が飼った動物を捨ててるわけじゃあるまい? 拾って大事に育ててる人もいるわけだ、辛いのはわかるがマイナス面しか見なかったら、それは間違いじゃないのか?」
 次いで、異なる色合いの翼を持って音羽が間合いの外から問いかける。
 全てではなく、それはマイナスでしかないのだ、現実はそこまで狭量ではないだろう、と。問いかける声に敵意はない。尤も、責める趣はあるだろうが。
「愛玩動物は人のエゴがなければ生きられない。敢えて言うが……お前はそいつらを救う努力をしたのか?」
 音羽の言葉をよりストレートに、達哉は健治に向けて突きつける。もとより、彼は健治に対しクレバーに説得や改心を促すような言葉をかけるつもりでは無かった。
 だが、現実を見る目は状況に流されていた健治からすれば欠けていたものだし、その後に続いた達哉の言葉がどれほどに突き刺さるかなど語るべくもない。
 現実を並べることが何より挑発になるとわかっているが故に、理想だけを追いかける彼を何よりも軽蔑する。
「そもそも公衆衛生の維持が保健所の仕事だろ。わがまま言ってないでさっさと働け公務員」
「……お前に、何が――!」
「あんたがスイッチを押すのと同じようにあたしは拳で殺してきたよ。だからあんたの気持ち、全部は分かんないけどちょっとくらいなら分かるよ」
 健治の叫びを遮ったのは、凪沙だ。彼の視線を向けるには十分な策を持たない彼女が、しかし健治の視線を己に向けさせようとするのは簡単ではない。
 だが、それでも言葉を向けるに足るタイミングというものがあり、彼女にはそれを理解する程度の経験がある。
「ゾンビみたいになっちゃった子もいるよね?!」
「な、馬、」
 ぐるりと、傍らの動物たちに視線を向けた健治は、絶句する。彼らを助けた時には気付けなかったものの、確実に普通ではない、と彼ですら理解できる。
「おじさんが何故フェイトを得られた、運命に愛されたのか。前向きに考えようよ」
 晴の言葉が、健治へと突き付けられる。
 短時間で受け止めるには余りに密度が濃すぎる言葉の雨は、彼を混乱させるに足るものだったが……果たして、リベリスタ達は「どうしたかった」のか。
 彼を助けたかったのか?
 動物たちを殺さざるをえないとして、彼をも最初から殺すつもりだったのか?
「罪の有無ではなく、この世を崩界から守るためにエリューションである貴方たちを討たせてもらいます。いえ、聞き流してください。真実を知ったところで気休めにすらならないでしょうから」
「殺すしかなくって辛いのはあんただけじゃないって分かってよ! ……あたしはあんたのことだって殺したくなんかないよ!」
 矛盾している。
 事実を突き付けて怒りを買うことも、その意思を汲んで説得しようとすることも、或いは全て諦めて叩き潰すことも、或いは出来た。それも、問題なく。
 ――飽くまで、それは『方向性が定まっていれば』の話だが。

「   」
 声にならない声が、健治の口から漏れた。
 眼の色は絶望。
 動物たちの反応は敵意。
 一息で発動した光がリベリスタ達を飲み込み、蹂躙する。
 ……つまりは、それが回答であり彼らの限界でもあったということだ。

●指を掛けた手の意味
「さぁ駆除の時間よ」
 ぶち犬に突進しつつ、エーデルワイスは速射でエリューション達を纏めて撃ちぬく。だが、反射的に彼女の肩口に食らいついたぶち犬の目は鋭く、確実に相手を打倒せんとする意思が感じられた。
 それとほぼタイミングを同じくして放たれた凛子の聖神の息吹が各々の傷を確実に癒し、不調をも回復させる。感情に任せた能力の発動だったこともあってか、確実性が薄かったのは幸いだったと言えるだろう。

「悪役は俺達がやるよ。抵抗するならそれでもいいよ、本気で俺達と戦ってよ!」
 老犬にブラックジャックを叩き込みながら、晴の言葉はまっすぐだった。曇りがなく濁りがなく、裏がない本心からの言葉は、健治の感情に突き刺さり余りある。
 ゼルマの砲撃が後方からエリューション達を巻き込んで散らし、茶色の子犬はそれだけであっさりと、その生命を散らした。
「その怒りを救うために使えよ。そいつらはもうお前しか頼るべき人間がいないんだぞ?」
「救えたら苦労なんてしなかった! 力があれば、もっと……あれば!」
「自分の理由は認めるが人のそういう理由は認めないは単なる押しつけだろ? 大事に思うけれど自分は動かない、だから他人がやってくれ、やらない奴が悪いとかどんだけ自分勝手だよ」
 気糸を次々と撃ち放ち、しかし健治をその射程から外しつつも達哉は告げる。方法は幾らでもあった。それに手を伸ばす決意をせずに心を腐らせた健治こそどうなのだと、彼は明確に告げている。
 その反論を許さぬように、音羽の言葉が更に続く。
 仕方ないと口にするのはどこまでも簡単だった。救いたいと口にするのは簡単でしか無かった。
 だが、事態を打開するだけの行動力が無かっただけで全てを捨てたこの男に、人を殺める罪を犯したこの男は、その咎を認めた上で道を作るべきだと告げているのだ。
 その事実を受け止められるかと言えば、可能だったのだろう。だが、真にその言葉を受け止めるには彼の心は頑なになりすぎた。間合いに踏み込んだ凪沙が拳を振るい、健治の身をわずかに打ち上げる。
 だが、健治とて受け止めるだけではない。返すように右手を振り下ろし、凪沙の首筋に指をかける。
 ――罪が、フラッシュバックする。
 ボタンを押すようにエリューションを殺した。フェイトが無いことを知っていたから。
 フェイトが無いことを言い訳には出来なかった。誰かに愛されていても殺すしかなかった。
「あたしはどうすればよかったんだよ?!」
 どうすればよかったのか、どうしたかったのか、凪沙には未だに分からない。けれど、罪を引き合いに出されても、辛くても、足は動く。拳は固められる。だから彼女は、戦う事を選択するしかないのだ。
 罪を背負って尚、心を止めない凪沙に心を折られたのは誰あろう健治自身だった。膝をつき、戦意を喪失した彼を凪沙は拳を引いた。
「今のお前は殴る価値もない」
 何体目かのエリューションを貫きながら言い放つ達哉の言葉には、しかし敵意というよりはむしろ、見守ろうとする慈悲さえも感じられたことだろう。

「後悔が動物たちの命の喪失になるならば、なぜ行動しないのです? 世界が変らないなら自分を変えればいい。殺す仕事をやめて生かす仕事をすればいい」
 聖神の息吹を放ちながら、凛子は健治に語りかけることをやめはしない。既に戦意を失った相手でも、言葉を伝えることは出来るはずだと、わかっていればこそ。

 未だ戦場で戦うエリューション達を背後で見守る動物たちの姿には、明確な怯えが感じられた。
 だが、やはり彼らは人に育てられた動物なのだ。健治が膝を屈している状況下において、彼を見捨てることは出来はしないのだ。
 佳恋の刃が、ゼルマの砲撃が、そして晴の大鎌が残されたエリューション達を徐々に押し返し、倒していく様は無常観を顕にするに相応しいといえるだろう。
 少なくとも、異分子と化した者達を排除する人間という構図は、スイッチを押し続けてきた自らとその影を同じくすることは健治にだって理解できる。
 だが、彼らの目には少なくとも光がある。感情を顕にし、可能な限り被害を抑えようとする向きがあるのは理解できた。
 最後の一体を撃ちぬいたゼルマが、ゆっくりと健治の元へと歩み寄る。その表情の硬さから、どれほどの覚悟で赴いたのかが容易に伺えもする。
「同僚を殺してしまった貴方は、理由は違えど間違いを犯してしまったという事を忘れないでください」
「……俺は、どうすればいいんだよ」
「知るか。ヒントは出した。あとは自分で考えろ。何のために頭と手足がついていると思っているんだ」
 茫然自失の体をなした健治に向け、しかし達哉は答えを明確にはしなかった。
 健治が連れだした動物たちをどう扱うか、など語るべくもないとばかりに達哉は彼を突き放す。
「俺たちと来て本当はどうしたほうがいいか落ち着いて考えてみないかね?」
「殺す仕事をやめて生かす仕事をすればいいんです。正しきを行い正しきを嘆いて悪いわけがない」
「一緒に、来てください」
 音羽が、凛子が、そして晴が生き延びた彼に道を示そうと言葉を紡ぐ。
 彼の後ろで呆然と、というよりはそぞろにその位置を動かない動物たちは、リベリスタによって残らず拾い上げられ、或いは誘導されて別働隊に回収された。

 その後、アークに連れてこられた動物たちの多くを達哉を始めとした一部のリベリスタが引き取り手を探し奔走したことは、また別の話である。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 個々人のものの考え方は互いに否定しあえるものではありませんので、ある意味正しい感情の向きなのかもしれません。
 但し、最低限の方針の統一だけは確りすべきかと思います。
 まあ、それが却ってフェーズ移行を待たず戦闘を開始、終了に持ち込めたというのも皮肉な話ですが。

 MVPは、挑発をしつつ(理論武装よりも深い意味で)筋の通っていた如月・達哉さんへ。
 ありがとうございました。又の機会を。